データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・ベトナム首脳会談等についての会見

[場所] 
[年月日] 2022年5月1日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

(日・ベトナム首脳会談等について)

 昨晩の晩餐(さん)会に続きまして、チン首相と3回目となります首脳会談を行いました。ウクライナ情勢や、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力、また二国間協力など幅広い課題について、じっくりと議論することができました。ウクライナ情勢については、独立、主権や領土の一体性が守られなければならないこと、即時停戦及び人道支援の重要性について一致することができました。また、私の訪問の機会にベトナムとして初めてのウクライナへの人道支援を発表したことを前向きな一歩として評価をいたします。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、インフラ整備やベトナム軍のサイバー分野の能力構築支援、また海上保安能力向上のための協力、これらを一層推進していく、こうしたことでも一致いたしました。二国間関係ではサプライチェーンの多元化、デジタルトランスフォーメーション、技術革新の分野について、日越双方の企業を巻き込み、より強固な経済関係を築いていくことで一致いたしました。また、アジアゼロエミッション共同体構想について議論を行うとともに、地球観測衛星の打上げによる防災能力向上のため、約190億円の円借款、協議をいたします。ベトナムは我が国と戦略的利益を共有する広範な戦略的パートナーです。今回の訪問は、来年の外交関係樹立50周年、また、日・ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力50周年、こうした節目の年に向けて両国関係を一層強化する上で有意義な訪問となったと感じております。

(ロシアとの関係について)

 ロシアとの関係を含め様々な理由からG7と同じ対応をしていない国、これは相当数存在いたします。このような国からできるだけ理解と協力を得るよう努めることが重要です。その中でベトナムは御指摘のようにロシアとの伝統的な関係があり難しい立場があること、これは理解をしています。こうした中で、チン首相との間で独立、主権や領土の一体性を守らなければならないこと、また即時停戦、また人道支援の重要性、こうしたことにおいて一致することができた。また、私の訪問の機会にベトナムとして初めてのウクライナへの人道支援を表明した。これは、前向きな一歩として評価できると受け止めています。いずれにせよ様々な立場の国がいます。こういった国々と、できるだけ意思疎通を図っていく、特にアジア、ASEAN諸国と意思疎通を図っていくことは重要であると思っています。

(中国との関係について)

 まず、中国についてもやり取りを行いました。中国については、私の方から、南シナ海における一方的な現状変更の試み、あるいは経済的な威圧、こうしたものに強く反対する旨を述べて、チン首相とこうした共通の認識の下で、引き続き連携していこうということで一致いたしました。また、TPP(環太平洋パートナーシップ)11の文脈でも、戦略的な観点を踏まえて率直な議論を行い、経済的な威圧や不公正な貿易慣行を許容しないというTPPの精神や原則を守っていくことの重要性、これを伝えました。こういった形で、中国との関係においてもベトナムと連携すべきところは、しっかり連携していこうという確認ができたことは、重要なやり取りだったと思っています。

(今回の会談の成果について)

 ベトナムは、独立当時からロシアと様々な関係があります。防衛装備品の輸入等において深い関係があり、こういった国でありますが、そういったベトナムと率直にウクライナ情勢についても意見交換を行い、少なくとも、国際法に違反する、あるいは力による現状変更の試みを、ヨーロッパのみならず、アジアを含めてあらゆる地域で許してはならないということ、こういったことについて一致をしたことは、大きな一歩であると思っています。是非、こうした国際法違反、力による現状変更に対して毅然(きぜん)と対応することが、国際社会に間違ったメッセージを発することにならないために重要であるという点、これは私の方からも説明させていただきました。引き続き、ベトナムとの意思疎通を図りながら、国際社会の平和と安定のために努力していく、こういった姿勢を大事にし、確認をしていくことは今後の情勢の変化の中においても重要であると認識しています。冒頭申し上げたように、いろんな立場の国があります。いろんな理由でG7と同じ行動はとれないという国はいます。しかし、そういった国の中にあっても、今言った基本的な考え方は一致していく、こういったすり合わせを行っていく、こうした努力を我が国は特にアジアを中心に行っていくことが重要であると認識いたします。

(アジアの国々が少しでもG7に近い立場をとればよいという考えかについて)

 それは大事だと言っているわけです。それでいいと言っているわけじゃなくて、それが大事だということを申し上げています。事実今回、やり取りの中でベトナムは初めてウクライナに人道支援を行うということを、首脳会談の機会に明らかにしたということ、これは一つ、我々のこうした姿勢や思いに共感してくれた部分ではないかというふうに思いますし、今後、国際条理の場でいろいろなやり取りもあるでしょうし、その裏にはウクライナ情勢の変化もあるでしょう。変化の中で、より思いを共有できる国を増やしていくことは大事ではないかと考えます。

(ベトナムのロシアに対する姿勢が、装備品で依存している背景にあるかについて)

 そういうこともあります。それからもう長い歴史、そのつながりがあります。今のベトナムの幹部の方々の中には、旧ソ連留学組もたくさんおられます。そういった関係があることは承知しております。

(日本として装備をベトナムに輸出していくという意欲があるかについて)

 すでに防衛装備品協定はベトナムとの間、我が国は結んでいるわけです。今日も先方からこの協定に基づいて具体化するべく、話合いを進めていこうという前向きな発言はありました。協定は結んでるわけですから、それに基づいて日本として何ができるのか、これを考えていくことは大事なのではないかと思います。ですから、ベトナムとの連携の中で、安全保障分野、これも大切な分野ではないかと認識しています。

(チン首相からウクライナ支援について表明されたことについて、人道支援に向けて日本側から働き掛けがあったのかについて)

 もともとウクライナ情勢については様々なレベルで意思疎通を図ってきました。今回の首脳会談の中でも、我が国の姿勢として、毅然とした対応を間違ったメッセージを与えないためにも重要であるということで、我が国の制裁等の対応について説明を行いました。あわせて、人道支援を行っていることも説明を行いました。こういったやり取りの中で先方から、先ほど言いました主権や領土や独立の一体性は守られるべきであるとか、それから国際法は守らなければいけないとか、そういった思いとともに人道支援について、具体的に我々はこういうことをするという説明があった、こういったやり取りであります。こういったやり取りの中で具体的な動きが示されたということは、一歩前進だと受け止めています。