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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸田内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2022年6月15日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【岸田総理冒頭発言】

 本日、通常国会が閉会いたしました。本予算、補正予算、61本の内閣提出法案、7本の条約※の全てを会期内に成立させることができました。26年ぶりのことです。円滑な国会運営に御協力いただきました与野党の皆様に、感謝を申し上げます。

 新型コロナへの対応、ロシアによるウクライナ侵略、世界的なエネルギー・食料市場の高騰、何十年に一度の歴史を画するような危機的事態が次々と、しかも、同時に起こる中、内閣総理大臣として、国民の命、暮らし、雇用、経済を守るため、日々、決断と実行の連続でした。国民の皆さんの御理解と御協力に御礼を申し上げます。

 冒頭に、新型コロナ対応とウクライナ侵略についてどのような考え方で対応しているか、そのポイントを申し上げます。

 まず、新型コロナ対応です。

 我が国は、欧米諸国に比べ、感染を極めて低いレベルに抑え込んでいます。各国首脳との会談でも、我が国の取組とその成果に高い評価が示されています。感染拡大を防ぐための国民の皆さんの御協力、また、地方自治体、医療・福祉・子育て等の現場の皆様の献身的な御尽力に、心より感謝を申し上げます。

 政府としては、昨年11月にコロナ対応の「全体像」を示し、その下で、病床の確保、ワクチン接種の推進などに取り組んできました。3回目のワクチン接種率は既に60パーセントを超えました。高齢者に絞れば、90パーセントの方に接種いただいています。これは、G7でもトップクラスの水準です。

 こうした取組の結果として、緊急事態宣言を回避しながら、感染拡大防止と経済活動の維持を両立させることができました。しかしながら、世界では新たな変異の報告もあるなど、まだまだ気を緩めることはできません。「平時への移行の道を慎重に歩んでいく」という基本方針を堅持しつつ、一日も早く皆さんが日常を取り戻せるように努力を続けてまいります。

 次に、ウクライナ侵略への対応です。

 世界の平和秩序を踏みにじるロシアによる侵略は、決して許してはならない。国際法のルールを破る行為には、高い代償が伴うことを示す。こうした思いで、これまでの対ロシア政策を大きく転換し、G7を始めとする国際社会と協力し、厳しい対ロシア制裁を科すとともに、ウクライナ等への支援に全力を挙げています。

 アジアにおける唯一のG7メンバー国として、今、正に日本の外交力が問われています。3月のインド、カンボジア訪問、0泊3日でのG7ブリュッセル会合、ゴールデンウイークのアジア・欧州歴訪、先月の東京での日米首脳会談、日米豪印のクアッド首脳会合、先週末のシャングリラ・ダイアローグ、そして、再来週予定しているG7エルマウサミットに、さらに、日本の総理大臣として初めて、NATO(北大西洋条約機構)首脳会議に出席いたします。欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的な現状変更は、世界のどこであれ認められないということを訴えていきます。

 アジアの立場とG7の立場が協調されたものとなるよう働き掛ける。また、防衛力の抜本的強化を含め、日米同盟を新たな高みに引き上げながら、「自由で開かれたインド太平洋」を、志を同じくする国々と作っていく。さらに、核軍縮・不拡散や気候変動などのグローバルな問題に対し、日本ならではの貢献をしていく。地域の平和と安定を守るため、中国に主張すべきは主張し、責任ある行動を求めていく。同時に、諸懸案を含め対話を重ね、共通の課題については協力していく。私が掲げる「新時代リアリズム外交」です。引き続き長年培ってきた各国首脳との信頼関係をいかして、日本の平和、そして、国際社会の平和を守るため、全力で取り組んでまいります。

 この国会では、様々な重要法案が成立しました。経済安全保障を推進するための新たな法律、厳しさを増す国際情勢の中、待ったなしで取り組まなければならない課題です。年内に策定する新たな国家安全保障戦略等の議論の中で、更なる取組の具体化を進めていきます。

 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)改正法では、緊急時に迅速な薬事承認を行うための手続を創設しました。これにより、新たな変異種が登場したり、別の感染症が拡大した場合に、迅速にワクチンや薬の承認を行えるようになりました。

 また、こども政策の司令塔となるこども家庭庁設置法が本日成立しました。昨年の出生数は過去最少の81万人となり、少子化対策は喫緊の課題です。子供や子育て世代の視点に立った政策を強力に推進し、「こどもまんなか社会」を実現しなければ、日本の未来を描くことはできません。不妊治療の保険適用が4月から始まりました。さらに、私の判断で出産育児一時金を大幅に増額いたします。皆さんが安心して妊娠、出産できる環境づくりを進めてまいります。来年4月のこども家庭庁発足を待つことなく、直ちに設立準備室を立ち上げ、300人体制でこども政策の充実に向けて取り組みます。

 次に、今後の取組です。

 エネルギー・食料価格高騰による物価上昇・家計負担増大への支援、新しい資本主義の実行、新型コロナを乗り越え、平時に近い経済社会を取り戻すための取組、この3点を説明いたします。

 第1に、エネルギー・食料価格高騰の問題です。

 我が国の消費者物価上昇は、ほとんどがエネルギーと食料品価格の上昇です。我が国だけではありません。ガソリン代、電気料金支払額の増大、各種食料品の値上げ、ロシアによるウクライナ侵略が世界各国で国民の懐を直撃しています。正に、ロシアによる価格高騰、有事の価格高騰です。

 ガソリン、軽油価格の高騰については激変緩和措置を講じています。これにより、例えばガソリンについては、制度がなければ、1リットル当たり210円であるところ、170円程度の水準に抑えています。その結果、ウクライナ侵略後のガソリン価格の値上がり幅で見ると、日本は欧米各国に比べ、半分程度の水準にとどまっています。

 電気料金については、ロシアからのパイプライン供給への依存度の高い欧州の消費者は、3割から5割の値上げに直面しています。我が国は、LNG(液化天然ガス)輸入の3分の2以上を比較的低い価格で長期安定契約しています。さらに、家庭向け電気料金については、料金の上限を設けたり、燃料価格が上昇しても、直ちに値上がりしないようにするなど、激変緩和効果を持った料金制度としています。その結果、家庭用電気料金の上昇幅を欧州の3分の2程度に抑えています。

 ウクライナ危機の影響は価格だけにとどまりません。ピーク時の電力需給にも大きな影響を与えます。電気料金の上昇を抑制し、同時に、電力需給の安定を確保する対策が必要です。供給面では、再生可能エネルギーの徹底的な拡大と、安全を確認し、地元の理解を得た原発の再稼働を進めていきます。他方、スピーディーに大きな効果を持つには、需要面の対策、省エネと節電の徹底です。そのための措置を早急に公表できるように準備を進めます。

 そして、食品については、ウクライナ情勢で輸入小麦の国際価格が2割から3割上昇していますが、政府の国内製粉会社への売渡価格は、9月までの間、据え置くこととしています。10月以降も輸入価格が突出して急騰している状態であれば、必要な抑制措置を講じ、パンや麺類などの価格高騰を抑制します。

 また、飼料の高騰による畜産物の生産コストの上昇を緩和するため、官と民による基金から生産者に補填金を交付し、肉やソーセージ等の価格上昇を抑制します。さらに、秋に向けて肥料の原料価格高騰が、多くの農産物価格の更なる上昇に影響を与えるおそれがあります。ここにも手を打ち、国民の皆様が毎日購入する様々な農産物について生産コストを最大1割程度引き下げ、価格上昇を抑制します。

 同時に、11月にまとめた79兆円規模の経済対策、過去最大規模の当初予算の迅速な執行、4月にまとめた13兆円規模の総合緊急対策、そして補正予算と、切れ目のない対策を講じてきました。これらの対策を有効に活用し、万全の対応をしていきます。

 5月末から、低所得の子育て世帯に5万円の給付を順次実施しています。基礎年金受給者の方々や生活困窮世帯には、この春に10万円の給付金を先んじて行いました。今回の物価高による影響を受けやすい事業者の方に対する支援も強化しています。物価高による影響は地域によって異なります。今回の対策により、地方創生臨時交付金を1兆円確保しました。この交付金を活用し、例えば私が訪問した山梨県では、生活困窮者への給付金をプッシュ型で行うとの話がありました。また、別の地域では、自治体が運営する水道料金を引き下げ、水道光熱費全体として負担抑制に取り組もうとしています。国として、こうした取組を後押ししていきます。また、こども食堂や孤独・孤立などの問題に取り組むNPO(特定非営利活動法人)といった多様な主体にも協力を求め、コロナ禍や物価高に苦しむ方をきめ細かくサポートしていきます。

 岸田政権としては、物価・景気両面について、今申し上げた電気代負担軽減策や食料価格高騰対策などの様々な対策に加え、最大限の警戒感を持って対応してまいります。このため、政府に「物価・賃金・生活総合対策本部」を立ち上げます。私が先頭に立って事業規模13兆円の総合緊急対策に続く切れ目のない対応として、補正予算で確保した5.5兆円の予備費の機動的な活用を始め、物価・景気両面の状況に応じた迅速かつ総合的な対策に取り組みます。断固として国民生活を守り抜く決意です。

 持続的な賃上げも重要です。今年の春闘では、賃上げ率は現時点で2.09パーセントという水準となり、ここ数年の賃上げ率低下が一気に反転上昇することとなりました。最低賃金も早急に1,000円まで引き上げる方針であり、そのための環境整備に努めます。そして、継続的な賃上げを可能とするような持続的で包摂的な経済成長を実現するため、新しい資本主義を実現させていきます。

 第2に、その新しい資本主義の実行についてです。様々な社会課題を成長のエンジンに変え、持続可能で力強い成長を実現する。それが新しい資本主義です。それを実現するためには、企業に眠る320兆円の現預金、個人の保有する1,100兆円近い現預金を、しっかりと分配、そして投資に回していくことが必要です。

 新たな官民連携によって、人への投資、科学技術・イノベーションへの投資、スタートアップへの投資、グリーントランスフォーメーション・デジタルトランスフォーメーションへの投資の4本柱を進めるとともに、社会的起業への支援など、民が積極的に社会課題解決に役割を果たしてもらう経済社会を作っていきます。人への投資については、引き続き賃金の引上げに政策を総動員し、分配を強化するとともに、3年間で4,000億円の施策パッケージを含め、教育訓練投資を充実するよう進めてまいります。また、NISA(少額投資非課税制度)・iDeCo(個人型確定拠出年金)改革等の資産所得倍増については、本年末に総合的な「資産所得倍増プラン」を策定します。

 量子、AI(人工知能)、バイオ、医療分野について、国家戦略、国家目標を定め、官民が連携して科学技術投資の抜本的拡充を行います。本年を「スタートアップ創出元年」として、年末までに5か年計画をまとめ、イノベーションの鍵となるスタートアップを5年で10倍増とします。今後10年間で150兆円のグリーントランスフォーメーション投資を実現するため、夏以降にGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議を設置し、規制と支援を一体的に行うことで、投資を促進する方策などを具体化していきます。デジタルインフラ整備、デジタル規制改革4万件など、我が国のデジタル化の着実な実行を進めていきます。これら新しい資本主義の実現のための行動計画について、秋以降、新しい資本主義実現会議の下で進捗を管理してまいります。

 最後に、新型コロナを乗り越え、平時に近い経済社会を取り戻すという観点から、2点、申し上げます。

 1点目に、観光の国内需要の創出です。新型コロナの影響が長引く中、4月から順次地域ブロックを対象とした観光需要喚起策を実施してきました。新規感染者数は全国的に減少傾向にありますが、地域によって感染状況に差があり、依然として警戒局面にあります。水際対策において6月1日から入国者数の拡大、10日から観光目的の入国再開を行ったところであり、これらの影響を含め、6月中の感染状況を見極める必要があります。その上で、感染状況の改善が確認できれば、7月前半より地域観光をより一層強力に支援するため、地域観光事業支援について、全国を対象とした観光需要喚起策を実施いたします。

 2点目に、感染症危機への備えを強化します。本日の有識者会議の報告を受け止め、昨年の総裁選でお約束したとおり、国・地方が医療資源の確保等についてより強い権限を持てるよう法改正を行います。

 医療体制については、11月の「全体像」で導入した医療機関とあらかじめ協定を締結する仕組みなどについて、法的根拠を与えることで更に強化いたします。地域の拠点病院に協定締結義務を課すなど、平時から必要な医療提供体制を確保し、有事にこれが確実に回ることを担保します。保健所や検査の体制、ワクチン、医療物資の確保なども強化します。

 そして、こうした枠組みを迅速かつ強力に実行するため、司令塔機能を強化いたします。まず、内閣官房に新たに内閣感染症危機管理庁を設置し、企画立案・総合調整の機能を強化、そして、一体化いたします。厚労省における平時からの感染症対応能力も強化いたします。各局にまたがる感染症対応・危機管理課室を統合して、感染症対策部を新設いたします。あわせて、生活衛生関係の組織を見直し、医療行政への重点化を図ります。

 さらに、科学的知見の基盤となる専門家組織も一元化します。国立感染症研究所と国際医療研究センターを統合し、厚労省の下にいわゆる「日本版CDC」を創設します。平時から、感染症対策部と「日本版CDC」、そして、関係自治体が一体的な連携関係を築きます。

 このように、平時における機能強化を図った上で、有事においては、厚労省の感染症対策部を始めとして、物資調達や広報等に当たる各省庁の職員を内閣感染症危機管理庁の指揮下に置き、総理大臣のリーダーシップの下、一元的に感染症対策を行ってまいります。こうした方向性に基づいて、最終調整を進め、明後日のコロナ対策本部において正式に決定したいと考えております。

 私は、危機に直面する中で、国民の命、暮らし、雇用・経済を守ると同時に、この国の未来を切り拓(ひら)いてまいります。それが総理に就任したときからの一貫した私の思いであり、国民の皆さんとの約束だと思っています。この約束を果たすために、これからも内閣総理大臣としての使命を果たしてまいります。

【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様より御質問を頂きます。

 指名を受けられました方は、お近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。

 それでは、まず、幹事社から御質問を頂きます。

 それでは、朝日新聞、池尻さん。

(記者)

 朝日新聞の池尻です。よろしくお願いします。

 新たな司令塔である内閣感染症危機管理庁についてお聞きします。設置へのスケジュール感や、トップが誰かなどの組織体制など、検討している範囲で教えてください。

 また、有識者会議の議論が僅か1か月しかなかったのですが、こうした新組織の必要性や実効性はきちんと精査できたのでしょうか。総理のお考えを教えてください。

(岸田総理)

 司令塔機能の強化について御質問いただきましたが、まず有識者会議、僅か1か月の議論だったという御指摘がありましたが、感染症対策の司令塔機能の強化は、私自身、昨年から再三申し上げてきたところであり、昨年来、様々な思いをめぐらせてきました。その中で有識者会議の皆様方には5回にわたって濃密な議論を精力的に行っていただいた。そして、本日報告書を頂いた。その中で、次の感染症危機に備えて一元的に感染対策を指揮する司令塔機能の整備が必要であるという報告を頂いた。こういった次第です。

 報告書の中にありますように、感染症危機管理は平時から有事に備えておく、これが大変重要であると指摘されています。内閣官房に内閣感染症危機管理庁を設ける。そして、平時から万全の体制を整えて、いつ緊急事態が生じても対応できる、こうしたことにしていく。そして、平時において厚生労働省の中にも感染症対策部を設置していく。そして、専門家の組織である2つの組織を一元化して「日本版CDC」を新設しておく。こうした体制を作っておき、そして、有事になった場合には、内閣感染症危機管理庁の下に感染症対策部を始めとする物資調達、あるいは広報に関わる各省の職員を一元化して指揮下に置く体制を作っていく。こうした有事と平時、それぞれめり張りを利かせた体制を作ることを考えた、こういったことです。是非こうした体制を平時からしっかり用意しておくことによって、次の感染症拡大を始めとする更なる危機に対して迅速に、機動的に対応できるように体制を作っていきたいと思っております。

 以上です。

(内閣広報官)

 続きまして、幹事社のジャパンタイムズ、高原さん。

(記者)

 ジャパンタイムズの高原と申します。

 通常国会が閉会し、各党選挙モードになりますが、総理はこれを何選挙と名付けますでしょうか。また、勝敗ラインをどのように考えていらっしゃいますか、お聞かせください。

(岸田総理)

 おっしゃるように、国会が閉幕しますと参議院選挙のモードが一気に高まることになるのではないかと考えています。今回の選挙、何選挙かと、ネーミングにつきまして急に御質問いただきまして、まだ整理はしておりませんが、少なくとも言えることは、今、コロナとの闘い、また、ロシアによるウクライナ侵略による国際的な平和秩序が揺るがされている。そして、それによって世界的な物価高騰が起きている。こうした世界的な歴史を画するような大きな課題を前にして、我が国においては、国民の皆さんの声を聴き、御判断いただく、こういった選挙が行われるわけですから、是非こうした歴史を画する課題に日本がどう挑戦するのか、これを国民の皆さんに御判断いただく、こうした選挙であると思います。ネーミングということについてはちょっといま一度考えてみたいと思います。

 それから、御質問、もう一つは勝敗ラインということですが、勝敗ラインにつきましては、従来から、非改選の議員も含めて与党で過半数であるということを申し上げています。もちろん今回の選挙において、与党として、自民党として公認させていただいている候補はそれぞれ私たちが自信と誇りを持って公認させていただいている候補者でありますので、それぞれ皆、勝利に向けて努力していきたいと思います。全体の数字としては与党で過半数。しかし、どの選挙区も、是非国民の皆さんに御支持いただけるよう全力で取り組んでいきたい、このように思っています。

(内閣広報官)

 それでは、ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けいたします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。

 それでは、NHK、長谷川さん。

(記者)

 NHK、長谷川です。よろしくお願いします。

 今後の予算編成の在り方についてお伺いします。総理は防衛費を相当増額するとおっしゃられまして、それから、新しい資本主義の実現に向けて人への投資など幅広い分野で投資を拡充する方針を示されています。一方で、現在の財政健全化目標は維持するとのことですけれども、防衛費の増額や各種の投資に当たっての財源はどのように確保するお考えでしょうか。例えば国債で賄うのか、あるいは何らかの増税も視野に入れているのか、お伺いします。

(岸田総理)

 御指摘いただいたように、今、様々な政策課題があります。そして、それぞれに予算が必要になる、こうしたことなのだと思いますが、予算、更には財源の在り方については、政策課題によって様々なのだと思います。例えば、新しい資本主義を進めるに当たって様々な投資を実現するということを考えても、基本的には、多くの民間の投資をしっかりと集める、その呼び水となる財政出動を国が行う、こういった形で全体を賄うということになるのだと思いますし、御指摘の防衛費については、今この厳しい安全保障環境の中で、現実、国民の命や暮らしを守るためには何が必要なのか。これをまず議論し、そして、それを維持するためにはどれだけの予算が必要なのか。そして、予算の規模によって財源の在り方、これは変わってくるわけですから、それを考えていく。こういった道筋を申し上げておりますし、それ以外にも、こども政策の予算については、必要な政策をしっかり吟味した上で、国だけではなく社会全体でこの政策をどう支えていくのか。裏づけとなる予算は、そういったことで考えるなど、政策課題によって予算がどれだけ要るか、その財源はどうするか、皆変わってくると思います。

 よって、それぞれの政策の特徴に合わせて、予算の規模、財源を考えていくということであります。是非その様々な政策の組合せの中で、しっかり日本の財政全体も念頭に置きながら、予算についても考えていきたいと思っております。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、次の方、毎日新聞、高橋さん。

(記者)

 毎日新聞の高橋です。

 参院選の争点についてお伺いします。先ほど総理から少しお話はありましたけれども、総理はかねてから憲法改正に意欲を示されておりますが、この参院選でも改正の是非について争点として問うお考えはありますでしょうか。また、その場合は、自民党は4項目の条文イメージを示しておりますけれども、首相が優先すべき改正内容はどのようなものと考えておられますでしょうか。

(岸田総理)

 憲法改正について御質問いただきました。まず、自民党は、ここのところ毎回、国政選挙においては憲法改正を公約の重点項目の一つに掲げ、柱の一つにしっかりと掲げて選挙を戦ってきました。今回の選挙においても、選挙公約の重点項目の一つとして憲法改正をしっかりと掲げて選挙を行っていく、こうしたことを考えております。

 そして、おっしゃるように、自民党は憲法改正に当たって4項目のたたき台素案というものを示し、憲法の議論をしっかりリードしていこうということで取組を進めてきたわけですが、この4項目は、自衛隊の明記の問題、緊急事態対応の問題、教育の充実の問題、あるいは参議院の合区の問題、すなわち投票の平等、重みの問題ですが、この4項目、これはどれも現代的な課題であり、国民生活を考えても、どれもしっかりと進めていかなければならない課題だと思っています。よって、別にどれを優先するということは考えておりませんが、こうした自民党の考え方をできるだけ多くの国民の皆さんに御理解いただけるよう、選挙等を通じてもしっかり丁寧に説明し、そして結論を出すべくこの歩みを進めていきたいと思っています。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、次の方、中国新聞、樋口さん。

(記者)

 中国新聞の樋口と申します。

 核兵器のない世界について伺います。総理はかねて核兵器廃絶というのを被爆地広島選出の総理として掲げておられます。先の安全保障会議でもその重要性を訴えておられましたけれども、先ほど「新時代リアリズム外交」とおっしゃいましたけれども、正に現実的な取組ということで、8月にNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議が開かれますけれども、外相時代からNPTの必要性というものを訴えておられますが、この会議、総理は出席の方向で調整に入ったというふうに承知をしていますけれども、具体的にこの会議でどのように核軍縮を進めていかれるお考えかというのをまず伺います。

 あわせて、今月、核兵器廃絶をめぐっては、核兵器禁止条約の第1回締約国会議がオーストリアのウィーンで開かれます。こちらには政府としては参加をしないということなのですけれども、なぜこの会議に参加しないのか、この考えを改めてお聞かせください。

(岸田総理)

 まず、1点目のNPT運用検討会議ですが、このNPT運用検討会議は、核兵器国と非核兵器国双方が参加する国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石であると思っています。核兵器のない世界に向けた道のり、昨今のウクライナ情勢、あるいは北朝鮮の情勢等を見ても、大変道のりは厳しいものを感じていますが、是非この8月のNPT運用検討会議、前回の運用検討会議は私自身、外務大臣として迎えましたが、その際に、成果文書をまとめることができないなど、大変残念な結果に終わりました。今回は是非意義ある成果が収められるように、政府としても全力で取り組んでいきたいと思っています。

 出席について調整に入ったというふうに御指摘がありましたが、今現在、まだ具体的にはNPT運用検討会議、誰が出席するのか、これは政府としてはまだ決定はしていない、公表はしていない、こういった状況です。ただ、成功に向けてどうあるべきなのか、これは真剣に考えていきたいと思っています。

 2点目の核兵器禁止条約に日本が参加しないということについてですが、これは従来から申し上げておりますように、核兵器禁止条約、これは核兵器のない世界を目指す上で出口に当たる大変重要な条約であると認識していますが、今現在、核兵器国は一国もまだこの条約に参加していないという状況でありますので、日本としては、まずは唯一の同盟国でありますアメリカとの信頼関係の下に、現実的な核軍縮・不拡散の取組を進めるところから始めていくべきだと考えています。より現実的な取組として、CTBT(包括的核実験禁止条約)ですとか、あるいはFMCT(核兵器用核分裂性物質生産禁止条約)ですとか、更には核兵器国の透明性の向上ですとか、こういった取組を進めていくのが現実的な前進につながると信じて取組を進めていきたいと存じます。将来は、核兵器禁止条約に核兵器国を結びつけることができるような世界を実現したいと思っています。ただ、そのためには、今は、今申し上げました現実的な取組からスタートすることが「新時代リアリズム外交」として適切であると判断し、今年の核兵器禁止条約については出席を考えていない、こうしたことであります。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、ロイター、杉山さん。

(記者)

 ロイター通信の杉山です。よろしくお願いします。

 金融政策に関する質問です。為替の円安が急速に進み、企業の事業計画策定が難しくなったり、物価上昇で家計の消費が冷やされたり、経済への悪影響に対する懸念が強まってきました。

 日銀が為替をターゲットに金融政策を運営しているというわけではないと思うのですけれども、景気にダメージを与えているという観点から、円安の起点となっている現行の緩和的な金融政策を、早ければ今週、決定会合があるわけですけれども、そこで修正する必要があるのかどうなのかといった辺りのお考えをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。

(岸田総理)

 まず、今の物価高騰、国民の皆さんの生活あるいは事業者の活動に大きな影響を与えている、政府として、この事態をしっかりと重く受け止めて対策を講じていかなければいけない、これは間違いなく強く思うところです。

 そして、その中で、円安が進んでいる、そして御質問は日銀の金融政策、これについて転換する必要があるのではないか、こういった質問でありますが、金融政策については確かに為替にも影響を与えるわけでありますが、金融政策は一方で金利を通じて中小企業、零細企業の経営上の負担にも大きな影響を与える、こうしたことであります。よって、為替も一つ大変大きな問題ではありますが、日銀としては、今言った様々な影響を総合的に判断して金融政策を決めていく、こうしたことなのだと理解をしています。

 よって、具体的な金融政策は日銀が判断するものではありますが、政府としては、今は引き続き物価安定目標を持続的・安定的に維持するために努力を続けてもらうことを期待しているということであります。

 その一方で、政府としては、先ほども少し紹介させていただきましたが、物価対策はしっかりと行わなければいけない。あわせて賃上げと、そして投資、これを進めることによって、今の物価高騰に対してしっかり結果を出していきたいということを考え、先ほど紹介させていただきました本部を政府にもしっかり立ち上げて、そうした政策を進めていきたい、このように思っています。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、テレビ東京、篠原さん。

(記者)

 テレビ東京、篠原です。

 総理の冒頭の御発言の中で、今、日本の外交力が問われているというお話がありました。中国は先日のアジア安全保障会議で、他国が台湾問題に介入することを許さない姿勢を繰り返し発信しましたけれども、台湾有事となれば日本への影響も計り知れないと見られています。岸田総理の台湾問題に対する現在の認識とともに、日本としてはこうした中国の姿勢にどう対応するお考えかをお聞かせください。

(岸田総理)

 まず、我が国の台湾に関する基本的な立場、これはもう一貫しています。1972年の日中共同声明を踏まえ、非政府間の実務関係として維持していくこと、また、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定が重要であり、台湾をめぐる問題が対話により平和的に解決されることを期待する、これが我が国の基本的な立場であり、これはもう一貫していると思っています。

 そして、台湾海峡の平和と安定の重要性については、引き続き中国にも直接伝えるとともに、こうした各国とも共通する部分のある立場だと思いますが、こうしたことを明確に発信していくことも重要だと思います。同盟国、同志国と緊密に連携しながら、両岸関係について注視していきたいと思います。

 以上です。

(内閣広報官)

 次の方、それでは、時事通信の石垣さん。

(記者)

 時事通信の石垣と申します。

 今日は別に聞きたいことがあったのですけれども、吉川赳(たける)議員のことについてお伺いしたいと思います。今日、辞職勧告決議案が出まして、ですけれども、本人はまだ説明もせず、辞職はせずという状況が続いております。吉川議員は岸田総理の派閥に属しておられたということもありまして、その派閥のトップとして今回のことをどういうふうに捉えているか、あるいはどう身を処すべきか、お考えをお聞かせください。

(岸田総理)

 まず、報道された内容が事実であるとすれば、これは極めて遺憾なことであると思っています。そして、政党を問わず、国会議員たるもの、国民への説明責任をないがしろにするなどということは絶対にあってはならないと思います。御案内のとおり、本人は離党しているわけでありますが、離党したからといってこうした責任は消えるものではないと考えます。一刻も早く国民への説明責任を果たすべきだと考えます。そして、説明責任を果たせないなら、これはもう議員としての進退に直結する問題になると考えます。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、大変恐縮ですが、あと2問とさせていただきます。

 では、七尾さん。

(記者)

 ニコニコ動画の七尾です。連日お疲れさまです。よろしくお願いします。

 WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が、動物由来のウイルス感染症でありますサル痘のことにつきまして、世界的な流行は異常であり、懸念されるものとして、23日に緊急事態宣言の是非を判断、名前の変更も検討するとしています。

 日本でサル痘の感染が確認された場合の水際対応や、既存の天然痘ワクチンの接種の可否につきましてどうお考えか。また、サル痘を含めた未知のウイルスの出現を踏まえまして、日本版ロックダウンについて検討する必要があるとお考えか、是非お願いします。

(岸田総理)

 まず、サル痘については、日本では、今現在、感染者は確認されていないという状況にあります。しかし、まだ確認されていない段階だからこそ、サーベイランスの強化に努めているところであり、水際対策についても、出入国者に対して注意喚起あるいは情報提供を行っている、こうした現状にあります。

 そして、サル痘については、天然痘のワクチンが、これは有効であるとされています。天然痘ワクチンが発症予防あるいは重症化予防に効果がある。こうした報告がされています。そして、我が国では、相当量の天然痘の国産ワクチンを備蓄しています。万一の感染拡大時にも対応するために、十分な量の生産、備蓄を行っているというのが我が国の状況であります。

 そうした状況の中で、御指摘のWHOの検討状況を含め、科学的知見あるいは諸外国の感染動向をしっかり注視していき、その状況を見ながら、必要であれば対応を行っていく、こうしたことであります。

 そして、御質問はロックダウンについて考えているかということですが、ロックダウン、これはサル痘というのではなく、一般論として申し上げるならば、諸外国で行っているような高い罰金を科すといった厳しいロックダウンは我が国ではなじまないと考えます。

 是非、本日の有識者会議の報告等も踏まえて、将来の感染危機に対して医療体制の整備あるいは司令塔機能の強化、こうしたものを進めることによって、あらゆる感染症にしっかり対応できる体制を作っていく、こうしたことを我が国としては考えていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 では、産経新聞、田村さん。

(記者)

 産経新聞の田村です。よろしくお願いします。

 日韓関係についてお伺いします。総理、先ほど出席表明されたNATO首脳会議、韓国の尹(ユン)大統領も出席される予定ですが、首脳会談を行う考えはおありでしょうか。

 韓国側は、いわゆる徴用工訴訟であるとか慰安婦問題に加え、最近は政権交代の後も竹島周辺のEEZ(排他的経済水域)内で無許可の海洋調査などを行っています。そういう中で、首脳会談を行う環境は整っているというふうに総理はお考えなのかお聞かせください。

(岸田総理)

 まず、結論から言うと、御指摘の首脳会談については何も決まっていないというのが現在の状況です。東アジアの厳しい安全保障環境を考えれば、日米韓あるいは日韓、戦略的な連携をしていく、これは大変重要なことだと思っています。ですから、非常に厳しい状況にある日韓関係をこのまま放置していくことはできないと考えています。

 1965年の日韓の国交正常化以来築いてきた日韓の友好、協力関係の基盤に基づいて日韓関係を発展させていく必要があると思っています。しかし、そのためには、旧朝鮮半島出身労働者問題を始めとする日韓間の懸案の解決、これが急務であると考えます。国と国との約束を守る、これは国家間の関係の基本であるということ、これは再三申し上げているとおりであります。

 冒頭申し上げたように、まだ首脳会談については何も決まっておりませんが、日韓関係を健全な関係に戻すべく、日本の一貫した立場に基づいて意思疎通を図っていくことは重要であると思っています。今現在、決まっているのはそこまでであります。

(内閣広報官)

 それでは、以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。

 恐縮ですが、現在挙手いただいている方につきましては、後ほど1問、担当宛てにメールにてお送りください。後日、書面にて回答させていただきます。

 御協力ありがとうございました。

 ※「5本の条約」と発言しましたが、正しくは「7本の条約」です。