[文書名] G7エルマウ・サミット出席についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)
【岸田総理冒頭発言】
始めに、ドイツの皆さんの心温まる歓迎に心から感謝を申し上げます。そして、今回のエルマウ・サミットの議長を務めたショルツ首相のリーダーシップに敬意を表します。
今回のサミットは、ロシアがウクライナ侵略を開始して4か月、今なおキーウにミサイルが撃ち込まれ、そして、ロシアによる暴挙によって国際的にエネルギーや食料の価格が高騰するという、危機的状況の中で開催されました。
私は、自由、民主主義、人権、法の支配、人類にとってかけがえのない普遍的価値を守り抜くため、また、ロシアの暴挙によってもたらされた世界的なエネルギーや食料の価格高騰に対応するため、アジアにおける唯一のG7国である日本の総理大臣として、議論に参加・貢献することで、G7として結束した、力強いメッセージを発信することができました。
世界の平和秩序を踏みにじるロシアによるウクライナ侵略を、一日も早く終わらせるため、G7として、ロシアに対し更なる追加的制裁措置を採ること、そして、最前線で戦うウクライナを引き続き強力に支援していくことで一致いたしました。
私からは、G7との協調の中で、ロシアへの新たな追加制裁として次の4本柱からなる措置、すなわち、 第1に信託や会計等のロシア向けの一部サービスの提供禁止、 第2に金の輸入禁止、第3にロシアの個人・団体への資産凍結措置の更なる拡大、第4に軍事関連団体への輸出禁止措置の更なる拡大、これらを行うことを表明いたしました。
また、ウクライナ及び周辺国の人道・復旧支援として新たに1億ドルの支援を行うことを表明いたしました。
さらに、ウクライナ侵略が長期化する中、国際社会が結束して対応するため、各国に丁寧に働き掛けていくことが重要です。アジア唯一のG7メンバーとして、私自ら、これまでに、インドや、東南アジア諸国の首脳との間で対話を重ね、国際社会の原則を守ることの重要性で一致してきました。これからも、8月のTICAD(アフリカ開発会議)の機会を捉えた働き掛けなど、我が国にしかできない取組を全力で進めていきます。
ゼレンスキー大統領を含む各国首脳からは、追加制裁措置、ウクライナ支援、アジア各国への働き掛けなど、日本の対応について、心から感謝する旨の発言が寄せられました。
今回のエルマウ・サミットでは、エネルギー、食料を始めとする世界的な物価高騰も大きなテーマでした。G7として、その原因は、ロシアのウクライナ侵略にあるとの認識で一致いたしました。
私は、日本の総理大臣として、強い決意で、有事の価格高騰から、国民の暮らしを守ってまいります。その思いで、私から、G7はウクライナをロシアの侵略から守るための「支援や制裁での結束」のみならず、各国の国民生活を物価高騰から守るための「結束」も強めていかなければならないことを申し上げ、G7として確認することができました。
今回の物価高は単なる経済の問題ではなく、世界の平和秩序の枠組みに突きつけられた挑戦です。各国が経済状況に応じた機動的な対策を採りながら、平和を守る対応を続け、国際社会と連携して、この困難を乗り越えていく決意を共有しました。
G7では、高騰する世界の石油市場・食料市場とウクライナ支援、食料支援の双方をにらんだ活発な議論が行われました。
石油市場については、市場の安定を確保しつつ、ロシアから一定の上限価格以上の石油は買わない、買わせない、いわゆるプライスキャップを今後検討していくこととなりました。ロシアの石油販売による収入を減らす一方で、高騰している国際石油市場の下押し圧力となる効果を持つ取組です。エネルギーの安定供給を確保するとの我が国の国益を守りつつ、プライスキャップについて各国と緊密に連携してまいります。
また、ウクライナからの穀物などの輸出再開に向け、各国が様々な対策を実行しつつあることが表明されました。ロシアのウクライナ侵略に伴う食料価格の国際的高騰に対応するため、G7として国際社会と共に結束して対応していくことで一致し、我が国も秋の収穫期が迫っているウクライナにおける穀物の貯蔵能力の拡大支援を行います。また、食料価格の高騰に苦しむ国々に対し、G7として、実質的な支援を提供していくことで一致し、我が国として、アフリカ・中東向けの食料支援を新たに実施いたします。
こうした国際社会の動きは、例えば、小麦の先物価格がウクライナ侵略後のピーク時より2割以上下落するなど、国際商品市場に好影響をもたらしつつあります。
G7が結束して物価高に対応する中で、私から、日本では、ガソリンや電気料金などのエネルギーと、小麦や乳製品などを始めとした食品に対し、きめ細かな物価高対策を行っていることを説明いたしました。
すなわち、1兆円の地方創生臨時交付金により、生活困窮者への給付金、中小企業への原材料費支援、運輸・観光事業者への助成金など、地域の実情に応じた支援を実行します。地域における効果的な対応については、他の地域にも横展開し、必要になれば、地方創生臨時交付金を更に増額します。
エネルギーについては、ガソリンについて、リッター40円程度の引下げ効果のある激変緩和措置を継続します。
電力については、まずは供給力の確保が重要です。ここ数日、東京電力エリアにおいて、需給ひっ迫注意報が出ましたが、政府として、今後、2つの火力発電所の再稼働を確保するなど、この夏の供給力の確保に万全を期してまいります。熱中症も懸念されるこの夏は、無理な節電をせず、クーラーを上手に使って乗り越えていただきたいと思います。
こうした供給力確保に向けた努力を継続しつつ、電力需給ひっ迫と電気料金高騰の両方に効果のある新たな枠組みを構築し、電気代負担を軽減していきます。
食料品については、小麦、飼料の価格抑制策に加え、農産品全般の生産コスト1割削減を目指して、肥料のコスト増の7割を補填する、新たな支援金の仕組みを創設し、実施いたします。
こうした品目ごと、業種ごと、地域ごとのきめ細かな取組とともに、重要なのが賃上げです。春闘で2.09パーセントと過去20年間で2番目に高い賃上げ、夏のボーナスも平均で6万円増加する見込みです。新しい資本主義の一丁目一番地である人への投資の下、継続的な賃上げに向けて更に努力いたします。
引き続き、物価・賃金・生活総合対策本部を中心に緊張感を持って対応し、5.5兆円の予備費の機動的な活用など、物価・景気の状況に応じた迅速かつ総合的な対策に取り組んでまいります。
国際社会における民主主義、法の支配といった普遍的価値を守り抜く戦いを勝ち抜くとともに、その戦いがもたらす負担から断固として国民生活を守り抜く決意です。国民の皆様の御協力をお願い申し上げます。
新しい資本主義についても、私から説明いたしました。権威主義的体制からの挑戦に対峙(たいじ)しつつ、持続可能な経済成長を実現していくためには、格差の拡大や気候変動問題などの課題を、経済成長のエンジンに転換していくことにより、資本主義をバージョンアップしていく必要があることを訴えました。
また、権威主義的体制や国家資本主義の拡大に対抗するため、新しい資本主義はもちろんのこと、「人が中心の資本主義」や「課題に立ち向かう資本主義」といった分かりやすい旗印を掲げ、国際社会における潮流を作っていくことの重要性を指摘いたしました。こうした私の考えに対し、各国首脳から支持と共感を頂きました。世界経済を主導するG7で協力して、共に経済政策の国際的潮流を作るべく、広島サミットに向け議論を深めていきます。
新しい資本主義の実現に向け、試金石となる分野こそ、気候変動・エネルギーです。私が掲げるアジア・ゼロエミッション共同体構想の下、各国のエネルギー事情を直視しつつ、持続的な経済成長を実現しながら、アジアの脱炭素化・強靱(きょうじん)化に取り組んでいくことを伝えました。
世界の関心がウクライナ情勢に集中する中、私から、「現在のウクライナは将来のアジアかもしれない」との強い危機感の下、インド太平洋情勢についてもしっかり議論するべき旨を強調し、G7として、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」を維持・強化することの重要性について一致いたしました。
中国による尖閣(せんかく)諸島周辺の我が国領海への侵入が継続していることや、東シナ海において、一方的なガス田開発が行われていることを含め、東シナ海、そして南シナ海における深刻な状況を説明し、こうした力による一方的な現状変更の試みは認められないとの原則を改めて確認しました。また、G7として、台湾海峡の平和及び安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促すことで一致いたしました。
引き続き、日本の平和、アジアの平和、そして国際社会の平和に向けて、毅然(きぜん)と対応してまいります。
北朝鮮による核・ミサイル活動については、G7として、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全、検証可能、かつ不可逆的な廃棄の実現を追求していくことの重要性を確認しました。
拉致問題についても、私から、即時解決に向けた理解と協力を呼び掛け、G7首脳の賛同を得ました。
ロシアによる核兵器使用の脅かしに直面する中、国際的な核軍縮・不拡散体制の礎石としてのNPT(核兵器不拡散条約)の維持・強化の重要性が、一層高まっています。私自らも出席する予定の8月のNPT運用検討会議において意義ある成果を収めるべく、G7で連携して取り組んでいくことを確認しました。
その上で、今回、G7の首脳級としては初めて「核兵器のない世界」という究極の目的に向けたコミットメントを確認することができました。来年の広島サミットに向け、「核兵器のない世界」を目指した、現実的な取組について、議論を深めてまいります。
このほか、安保理を含む国連全体の改革・機能強化に向けた我が国の取組、国際保健分野での貢献、さらに本年12月3日に第6回国際女性会議、WAW!を日本で開催することなどについても、説明し、御理解頂きました。
また、G7サミットの合間を縫って、米国、ドイツ、フランス、カナダ、英国、インドネシア、セネガル、南アフリカ、アルゼンチンの各国首脳に加え、EU(欧州連合)のミシェル議長、フォン・デア・ライエン委員長ともバイ会談を行い、緊密な連携を確認いたしました。
ジョンソン首相とのバイ会談では、就任以来、私が、各国首脳に対し、度々訴えてきた福島産食品などの輸入規制の撤廃について、英国は日本産食品の輸入規制を明日撤廃するとの素晴らしい知らせを頂きました。引き続き、他国にも、粘り強く働き掛けを行い、東北の復興を後押ししてまいります。
こうしたエルマウ・サミットの成果を踏まえつつ、来年、5月19日から21日にG7広島サミットを開催いたします。
先般広島を訪問したミシェル議長からは、ウクライナ危機の中、広島を訪問し、強い感銘を受けた、との話を伺いました。ポスト冷戦の30年が終わり、新しい時代が幕を開けようとする中、G7首脳が、広島の地から、核兵器の惨禍を二度と起こさない、武力侵略は断固として拒否する、との力強いコミットメントを世界に示したいと思います。また、普遍的価値と国際ルールに基づく、新たな時代の秩序作りをG7が主導していく意思を歴史の重みをもって示す。そうしたサミットにしたいと考えています。
この後は、マドリードに赴き、日本の総理としては初めてNATO(北大西洋条約機構)首脳会合に出席いたします。欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であり、力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許さないとの認識を確認し、NATOとの連携を強化する機会にしたいと思っています。そして、欧州とインド太平洋を結ぶ「自由と民主主義のための連帯パートナーシップ」を築いていきます。
理想の旗を高く掲げつつ、普遍的価値を大事にしながら、徹底的な現実主義を貫く。こうした新時代リアリズム外交を、私自身が先頭に立って展開し、来年のG7議長国として、世界の平和と安定のための新たな秩序を作り上げるため、全力で取り組んでまいります。
【質疑応答】
(時事通信 石垣記者)
日中関係についてお伺いしたいと思います。今回のG7サミットで総理は、中国の東アジアの行動について厳しい言葉で危機感を訴えました。一方で総理は「中国と対話を重ね、建設的で安定的な関係を目指す」とも語っております。対話の姿勢というのはなかなか外からは見えてこないと思います。総理は先日、習近平国家主席と首脳会談するかについて「具体的に考えていきたい」と仰いましたけれども、検討状況はいかがでしょうか。例えば9月の国交正常化50周年という節目を踏まえて首脳会談を目指す用意はございますか。
(岸田総理)
中国について御質問いただきましたが、まずロシアによるウクライナ侵略によって、多くの無辜(むこ)の市民の尊い命が失われている。また、世界中がエネルギーや食料の価格高騰という危機に直面している。こうしたことから得られる教訓は、東アジアで同じことを起こしてはならないということであると思っています。
このため、アジアにおける一方的な現状変更の試みについて、G7として一致して対応することの重要性を説明し、賛同を得られたところです。
他方で、日中の建設的かつ安定的な関係は、両国のみならず地域及び国際社会のために極めて重要であると考えています。
今般のG7サミットにおいても、中国との関係についての議論が随分と行われました。先ほど発出された共同声明にもあるとおり、G7として、主張すべきことは毅然と主張しつつ、同時に、共通のグローバルな課題について中国と協力することの重要性についてもG7で一致したところです。
習近平国家主席との会談について、現時点で決まっていることは何もありませんが、様々なレベルでの対話は重要だと思っています。主張すべきは主張しつつ、具体的なこうした会談についても考えていきたいと思っています。
(ブルームバーグ通信 レイノルズ記者)
ブルームバーグ通信のイザベル・レイノルズです。エネルギー事情に関する質問です。御存知のとおり、ドイツはエネルギー不足に備えるため、いくつかの石炭火力発電所の再稼働を決定しました。また、日本はいくつかの火力発電所の再稼働を決定しましたが、今後日本も石炭火力発電所を再稼働する可能性はあるでしょうか。また、その場合、日本や世界が掲げる社会の脱炭素化という目標にどのような影響があるとお考えでしょうか。
(岸田総理)
まず電力については、供給力の確保がまずは重要であり、政府としては、既に2つの火力発電所の再稼働を確保するなど、供給力の確保に万全を期しているところですが、その御指摘の既存の石炭火力発電の活用も含め、引き続き、安定供給の確保に万全を尽くしていきたいと考えています。
他方、中長期的には、2030年度の46パーセント削減、2050年のカーボンニュートラル達成という目標は変わりません。この目標を達成するため、2030年に向けて、非効率な石炭火力発電のフェーズアウト、これは着実に進めていきます。そしてそれとともに、2050年に向けては、水素、アンモニア、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)等を活用して、脱炭素型の火力発電に置き換える取組、これを推進していきたいと考えています。
(産経新聞 田村記者)
内政についてお伺いします。G7では世界的な物価高騰やエネルギーというのがテーマになりましたけれども、日本でも参院選では物価高対策というのが争点になっています。ただ、政府が打ち出した「節電ポイント」については、猛暑というのがあって、野党などからも批判が出ていると思います。冒頭発言でも言及されましたけれども、電気代の負担軽減を含めて、具体的にどのような対策をお考えでしょうか。また、電力需給が今、日本でもひっ迫しているわけですが、原発の早期の再稼働に向けて審査の迅速化など、政府として何らかの対応を考えておられるのか、それについて教えてください。
(岸田総理)
まず、物価高騰対策については、先ほども冒頭発言の中で申し上げましたが、電力ということを考えましても、御指摘の新たな枠組みに加えて、供給力の確保、さらには個人の電力料金については上限制度が用意されるなど、様々な、電力価格に対しても対策を用意しています。併せて、先ほど申し上げました様々な物価高騰対策を用意することで、万全な対策を進めていきたいと思っています。
その上で原子力について御質問いただきましたが、原子力発電所については、政府の方針として新規制基準に基づいて安全が確保されること、これが大前提であり、そしてその上で地元の理解を得られた原子力発電所の再稼働を進めていく。こうした形で供給力の確保に向けて最大限原子力を活用していく、これが基本的な方針です。その際に、原子力規制委員会において、過去の審査における主要論点の公表などによる事業者の予見性の向上、あるいは審査官の機動的配置など、審査の迅速化の取組、これは着実に実施していく方針です。原子力については今言った方針に基づいて最大限の活用を行い、供給力の確保に資する取組を進めていく、こうした方針で臨んでいきたいと思っています。