データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] NPT運用検討会議の結果の受け止め等についての会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2022年8月27日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

(NPT運用検討会議の結果の受け止めについて)

 この度、ニューヨークで開催されていたNPT(核兵器不拡散条約)運用検討会議が終了し、現地に出張している者を含めた外務省関係者から詳細な報告を受けました。この度のNPT運用検討会議においては、ロシア1か国の反対により成果文書の採択に至ることができませんでした。もとより、ロシアによるウクライナへの侵略は国際秩序の根幹を揺るがすものであり、断じて許されるものではありません。加えて今回、ロシア1か国の反対により、コンセンサスが成立しなかったことは極めて遺憾です。前回2015年の会議で、成果文書を採択できなかったことについて非常に悔しい思いをいたしました。今回会議についても、その取り巻く環境は非常に厳しく、成果文書採択の見通しは決して明るいものではありませんでした。そうした中で、NPTは国際的な核軍縮不拡散体制の礎石であり、またそのようなNPTを維持・強化することが「核兵器のない世界」に向けた唯一の現実的な道であるとの強い信念を持って、私自身、日本の総理大臣として初めて、NPT運用検討会議に出席をし、「ヒロシマ・アクション・プラン」を発表しました。その後も今回の会議が意義ある成果を収めるべく、スラウビネン議長や、各国代表団に働き掛け、また武井外務副大臣を派遣し、最後の最後までコンセンサス文書の採択に向けて、できる限りの努力を続けてきました。しかしながら、先に述べたような結果となり、非常に残念に思っています。他方、今次会議では、最終成果文書案のコンセンサス採択に反対したのはロシアのみでした。これは国際的な核軍縮不拡散体制の礎石であるNPTを維持・強化することが、国際社会全体の利益であるとの認識を多くの国が共有していることの証左であります。そして、こうした認識に基づき、次回運用検討会議の2026年開催や今後の運用検討プロセスの在り方を議論する作業部会の設置が決定をされました。この作業部会の設置は初めてのことであり、これは評価いたします。運用検討プロセスの在り方に関する作業部会は日本とオーストラリアが主導して立ち上げ、私自身も、外務大臣時代に積極的に参加した軍縮・不拡散イニシアティブ、NPDI(軍縮・不拡散イニシアティブ)の提案に基づくものです。日本として、NPTプロセスの維持・強化に向けて、この作業部会を含め、次回会合に向けた議論に積極的に貢献してまいりたいと考えています。また、「ヒロシマ・アクション・プラン」を始め、我が国の主張は多くの国から支持が得られ、今回の会議を通じて多くの国から支持・評価の声が聞かれました。我が国が提出した軍縮不拡散教育共同ステートメントに過去最大となる88か国が賛同し、また核兵器の不使用の継続の重要性や、グローバルな核兵器数の減少傾向の維持の重要性など、我が国の考えや提案が最終文書案の中に多く盛り込まれました。このことは、我が国として大きな成果であり、今後、国際社会が核軍縮に向けた現実的な議論を進めていく上での土台の一つとなるものだと考えています。日本としては引き続き、NPTを維持・強化していくことこそが、核軍縮に向けた唯一の現実的な取組であるとの信念を持って、「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って現実的な取組を進めてまいります。早速、来月にCTBT(包括的核実験禁止条約)フレンズ会合を首脳級で開催するほか、11月には国際賢人会議を開催する予定です。G7広島サミットを見据え、「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の機運を高めていきたいと考えてます。「核兵器のない世界」の実現に向けた国際社会の機運を高めて現実的な取組を一歩ずつ、粘り強く、着実に進めていきたいと考えております。

(ロシアの反対を踏まえた今後の「核兵器のない世界」に向けた取組について)

 従来から申し上げているように、現実を変えるためには、現実、核を持っている国を変えていかなければならないということ、こうした思いは変わりません。ロシアが今回コンセンサス合意に反対したということでありますが、それ以外の核保有国は、今回のコンセンサス合意に反対はしなかったということであります。こうした核兵器国の対応を見ても、このNPTの枠組みの重要性は変わらないということを強く感じています。国際社会の分断は更に深まり、安全保障環境は複雑な状況となっています。もとより、今回の会議を取り巻く環境、大変厳しいものがあり、成果文書の採択の見通し、決して明るいものではありませんでした。そして事実、交渉は容易なものではなかったということでありますが、今次会議の議論を通じて、国際的な核軍縮不拡散体制の礎石であるNPTの維持・強化が国際社会全体の利益であること、このことを多くの国々が強く意識している、このことが確認されたことの意味は決して小さくはないと思っています。今回の会議においてコンセンサスが得られなかったことの責めはロシアに負わされるべきであり、これはNPT体制そのものの問題ではないということ、このことは強く強調しておきたいと思っています。いずれにせよ日本としては、引き続きNPTを維持・強化していくことこそが核軍縮に向けた唯一の現実的な取組であるという信念を持って、「ヒロシマ・アクション・プラン」に沿って、唯一の戦争被爆国として、歴史的な使命感を持って取組を進めていきたいと考えています。

(NPT運用検討会議の結果を踏まえた核兵器禁止条約への対応について)

 現時点では、先ほども申し上げたように、NPT体制の維持・強化こそ現実的な道であるという考え、全く変わっておりません。是非、日本として、今後CTBTフレンズ会合、あるいは国際賢人会議、あるいはG7広島サミット、こうした取組に向けてしっかりとできるように努力を続けていきたい、こうした思いを強く持っております。NPT体制が核軍縮不拡散の取組の礎石であるということ、NPT体制の重要性、今回、残念ながら成果文書には至りませんでしたが、今回の議論を通じて、改めて、このNPT体制の重要性を強く痛感したわけですので、その思いを基礎にしながら、これからも先ほど申し上げました努力を続けていきたいと考えています。

(新型コロナ対策に関する政府の検討状況について)

 まず、全数届出の見直しについては、専門家の意見を踏まえ、ウィズコロナに向けた新たな段階への移行策の一つとして進めるものであり、もとより全国一律で導入することを基本として考えております。ただし移行に当たっては、全数報告の対象外となる若い軽症者の方々が安心して自宅療養できるための検査キットのOTC(医師による処方箋を必要とせずに購入できる医薬品)化、あるいは健康フォローアップセンターの全都道府県での整備、また感染動向を引き続き把握するための定点観測の仕組みの検討と、それが導入されるまでの間、軽症者の方の数を把握するためのHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)のシステム改修など、必要な環境整備に一定の時間が必要ということでありました。こうした整備を進めた上で、ウィズコロナに向けた新たな段階として全国一律のシステムに移行していきたいと考えています。しかし、そういった取組を進める上で、まずは先日、足元の対応ということで、緊急避難的な措置を公表したわけでありますが、自治体の判断により緊急避難措置を行うということについては、全国知事会や医療関係者の強い要望を受けて、その地域の感染状況に応じて、発熱外来や保健所業務が相当に切迫した地域については、自治体の判断によって全国一律でのシステム移行を待つことなく、前倒しで柔軟に対応することを可能としたものであります。こういった措置については、全国知事会から高く評価する旨のコメントが公表されているものと承知しています。それから質問の中にあった、感染者であっても待機している途中で外出を可能とする云々(うんぬん)の対応でありますが、そうしたことも含めて、今後の対応については、引き続き今、議論が行われています。そうした議論を行った末、どういった対応にしていくのか、しっかり議論を行った上で結論を出していきたいと思っています。