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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 岸田内閣総理大臣記者会見

[場所] 
[年月日] 2022年10月28日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【岸田総理冒頭発言】

 本日は、経済対策についてお話をいたします。

 3月、4月、7月、そして9月の対策に引き続き、先ほど大型の総合経済対策を閣議決定いたしました。今回の対策は「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」です。

 物価対策と景気対策を一体として行い、国民の暮らし、雇用、事業を守るとともに、未来に向けて経済を強くしていきます。

 今回の対策は、財政支出39兆円、事業規模で約72兆円、これによりGDP(国内総生産)を4.6パーセント押し上げます。また、電気代の2割引下げやガソリン価格の抑制などにより、来年にかけて消費者物価を1.2パーセント以上引き下げていきます。

 物価対策として重点を置いたのは、エネルギー価格対策です。もろもろの物価高騰の一番の原因となっているガソリン、灯油、電力、ガスに集中的な激変緩和措置を講じることで、欧米のように10パーセントものインフレ状態にならないよう皆さんの生活を守ります。

 まず、物価高から生活を守ります。家庭の電気代について、1月から来年度初頭に想定される平均的な料金引上げ額約2割分を国において負担いたします。事業者に対しては、再エネ賦課金に見合う額を国において負担する措置を講じます。ガス料金についても同等の措置を行います。また、現在、1リットル当たり30円引きとなっているガソリン価格の引下げを来年も継続いたします。これらにより、総額6兆円、平均的な一家庭で来年前半に総額4万5,000円の支援となります。

 危機的な少子化の流れの中で、子育て世帯を応援するため、妊娠時から出産・子育てまで、一貫した伴走型相談支援と、10万円相当の経済的支援を組み合わせたパッケージを創設します。来年4月から出産育児一時金の大幅な増額を行います。こども食堂やこどもの居場所づくりなど、経済的な困難に直面する子育て世帯への支援も強化します。

 園児バス置き去り事故を受け、痛ましい事故が二度と起こらないよう、来年の夏に向け、安全装置を義務化し、国が標準的な装置を全額負担する支援制度を設けます。

 コロナ禍で縮んだ旅行、宿泊、エンタメ等の消費を取り戻します。全国旅行支援は、4人家族で1泊当たり4.4万円の割引となり、イベント割で映画館、テーマパークは2割引きとなります。(新型)コロナ(ウイルス)の影響を大きく受けた演劇、コンサートの開催費用を支援します。観光資源を高品質化し、観光収入が上がるよう、客室改装などソフト・ハード両面で強力に支援をいたします。こうした稼ぐ力を強化することで、地方も元気になります。

 そして、物価高から中小企業を守ります。下請いじめを撲滅し、適正な価格転嫁を実現してまいります。(新型)コロナ(ウイルス)で傷んだ中小企業に新たな100パーセント保証の借換制度を用意するとともに、新規輸出に挑戦する中小企業1万者を支援いたします。

 以上の物価高への総合的対応とともに、最優先すべきは、物価上昇に合わせた賃上げです。来年春闘が成長と分配の好循環に入れるかどうかの天王山です。構造的賃上げの実現に向けた第一歩として、物価上昇に負けない賃上げが行われるよう、経団連、連合を巻き込んだガイドラインづくりなど、労使の機運醸成に全力を挙げてまいります。

 政府も賃上げ実施企業に対する補助金や、公共調達の優遇を行うとともに、物価上昇をしっかり組み込む形で最低賃金を引き上げてまいります。

 さらに、持続的な賃上げに向けて、賃上げ、労働移動、人への投資の一体改革を進めていきます。このため、新しい資本主義の第1の柱である人への投資を抜本強化し、5年1兆円の大型のパッケージにより、正規化、転職、リスキリング、すなわち、成長分野に移動するための学び直しを支援いたします。

 同時に、NISA(少額投資非課税制度)、iDeCo(個人型確定拠出年金)を拡充し、資産運用収入の倍増を目指します。

 物価高を抑えながら、円安のメリットも上手にいかしていきます。ウィズコロナの時代に合わせた、質の高いインバウンド需要5兆円を早期に達成します。半導体、蓄電池など、攻めの国内投資を拡大して、最先端製造立国日本を取り戻します。

 農産物についても、年間2兆円を目指し、農産物の輸出促進を図ります。

 攻めの国内投資の代表例として半導体があります。国内投資の好機と捉えて、サプライチェーンを強靱(きょうじん)化します。熊本のTSMC(台湾積体電路製造)誘致は10年で4兆円、7,000人の雇用増の地元経済効果があるとされます。月給も5万円の上昇になります。さらに、日米共同による次世代半導体開発など、1.3兆円を措置して、半導体の国内投資を全国展開します。

 地域と経済を抜本的に強くするために、重点4分野、スタートアップ、イノベーション、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、グリーン・トランスフォーメーション(GX)に総額6兆円と前例のない支援措置を講じます。

 来年に向けて世界経済が大きく減速する中で、日本の金融環境、ドル建てコストの割安感を逆手にとって、成長のチャンスとしていきます。スタートアップ5か年計画をスタートし、1兆円を投入して、人材育成、資金供給の強化を行います。

 特に、次世代分野での攻めの大型民間投資を呼び起こします。今回措置する中で、先端半導体、電池、ロボットなど、民間投資を誘発する次世代分野に約3兆円を投じます。この支援によって、9兆円以上の生産誘発効果、2兆円以上の輸出増効果、約49万人の雇用者増をもたらす次世代大型投資を誘導します。

 地域に関連産業、人材育成などを一体化した産業プラットフォームをつくってまいります。

 以上、政府・与党で本日決定した総合経済対策のポイントを説明しました。

 今回の取りまとめに当たっては、政治主導の大局観を発揮することを重視しました。与党の政策審議プロセスを例年より早く動かし、電気料金の激変緩和措置の大枠は与党党首で決め、詳細を役所に詰めさせました。野党の提案についても、参考とすべきものは、直接お伺いする機会をつくりました。

 核兵器の威嚇が行われるなど、ウクライナ情勢は緊迫の度を加えています。世界は、歴史上初めて、真のエネルギー危機に直面している、こう見る専門家もいます。現時点で見通し難い世界規模の経済下振れリスクに備え、トップダウンで万全の対応を図ることといたしました。

 今後は、この経済対策をできるだけ早くお手元にお届けするよう、補正予算の編成を急ぎます。また、御用意した政策を国民の皆さんに徹底的に御活用いただけるよう、発信と広報に全力を挙げてまいります。

 国民の皆さんの御理解と御協力を心からお願い申し上げます。


【質疑応答】

(内閣広報官)

 それでは、これから皆様より御質問いただきます。

 指名を受けられました方は、お近くのスタンドマイクにお進みいただきまして、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。

 本日はこの後、総理の外交日程がございますので、6時50分前には会見を終了する必要がございます。御協力をお願いいたします。

 それでは、まず、幹事社から御質問いただきます。

 産経新聞、田村さん、どうぞ。

(記者)

 幹事社、産経新聞の田村です。よろしくお願いします。

 総合経済対策についてお伺いします。今回、一般会計歳出が29兆円、事業規模72兆円と大型の対策になりました。与野党には現金給付等を求める声もあったわけですが、総理が今回重視された点について教えてください。

 また、電気料金の負担軽減策は、来年1月から一般家庭の電気料金を2割抑制するということですが、燃料価格の高騰などが今後続く場合には、期限が来ても継続するのか、対策をやめる出口戦略についてどのようにお考えなのか教えてください。

(岸田総理)

 まず、今回の総合経済対策で重点を置いた点ですが、フリップに出ておりますように、物価対策、特にエネルギー価格対策でありました。給付金のような間接的な形ではなく、物価上昇の主要因であるエネルギー価格について、その上昇分を直接的に目に見える形で抑制することといたしました。エネルギー価格全体で総額6兆円、1家族当たり4.5万円の支援を行います。こうした効果的な激変緩和措置を講ずることで、物価高から国民の皆さんの生活を守りたいと思います。

 そして、御質問の中で現金給付を求める声もありますがという御指摘がありましたが、現金給付については、本年6月に低所得の子育て世帯に対して、児童1人当たり5万円の給付をしております。そして、9月には住民税非課税世帯にプッシュ型で5万円を給付することを決定し、現在この準備を進めており、11月には7割の自治体でこの支給が始められる、こうした見込みになっています。こうした現金給付をこれまで行ってきた、それも念頭に置きながら、今回、特にエネルギー価格対策に力を置いた、こうしたことであります。

 そして、質問の中で対策の出口の話がありました。エネルギー対策の出口については、与党党首会談の確認事項や、今回の総合経済対策において、こうした対策が脱炭素の流れに逆行しないように激変緩和措置を縮小し、並行して、省エネ、再エネ、原子力の推進等と併せて、電力の構造改革をセットで進め、GXを加速する。この対策を進めることはもちろん大事ですが、GXという大きな流れに逆行するようなことにならないように対策をしっかり進めていかなければならない、こうした方向性が示されています。今、現時点で来年の9月以降のことについては何も決まっておりませんが、やはりその時点でのエネルギー価格の動向等を踏まえながら、予断を持たず判断をしていく、こうしたことになると考えています。

(内閣広報官)

 それでは続きまして、幹事社のフジテレビ、瀬島さん、どうぞ。

(記者)

 フジテレビの瀬島です。よろしくお願いします。

 防衛力強化についてお伺いします。総理が表明された防衛力の抜本強化、防衛費の相当な増額に関し、政府の有識者会議では安定財源の確保を求める声が出ています。与党幹部からは、法人税などの増税を選択肢とする声も上がっていますが、総理はどのようにお考えでしょうか。

 また、防衛費増額増税などで国民の理解を得るには、政治への信頼が必要となりますが、旧統一教会の問題などを受けて、各社の世論調査では内閣支持率が過去最低となっています。総理は、かねてから信頼と共感ということを訴えてこられましたが、今後、いかに国民の信頼を回復していくのか、具体的なお考えがあれば教えてください。

(岸田総理)

 まず、今現在、与党間の協議、また、有識者会議における議論が進められています。様々な意見を頂いております。そして、財源につきましては、具体的な内容がしっかり決まった上で考えていかなければならないと思っています。なぜならば、防衛力強化といっても、中身は様々です。どれだけ恒久的に維持しなければならない政策なのか、あるいは一定期間契約を結んで充実させなければいけないものなのかなど、内容によってそれにふさわしい財源というものを考えていかなければならないということであります。よって、今はこうした国民の命や暮らしを守るために何が必要なのか、防衛力強化の内容を積み上げ、そして、それに応じて予算の額を明らかにし、そして、財源を考えていく、この3つを一体的に検討していく、こうした作業を進めているわけです。よって、先ほど申し上げたように、内容によって適切な財源を判断しなければいけないわけですから、具体的な財源についてもその一体的な議論の結果として明らかにしていかなければならない、このように考えております。

 そして、御質問の中で国民の信頼が大事であるという御指摘がありました。私は、昨年の総裁選挙に、信なくば立たず、こういうことを申し上げて立候補いたしました。従来から政治への信頼こそ全ての基盤であると思っております。そして、国民の皆さんの信頼を回復するための近道というものはないと思っています。本日発表しました経済対策もそうですが、国民の皆さんの声を受け止めながら、一つ一つ結果を積み上げていくしかないと考えています。これまで以上に、この国の未来について、全力を尽くし、一つ一つ結果を出し、その結果として国民の皆さんの信頼を回復する、こうしたことを積み重ねていきたいと考えています。

(内閣広報官)

 ここからは幹事社以外の方から御質問をお受けいたします。御質問を希望される方は挙手をお願いいたします。こちらで指名いたしますので、マイクにお進みください。

 それでは、毎日の高橋さん。

(記者)

 毎日新聞の高橋です。

 0歳から2歳児のいる家庭にクーポンを支給する事業が二次補正予算案に計上されることになりました。この事業については、23年度以降も継続的な事業とする方向のようですけれども、恒久財源についての整理がまだついていないようで、見切り発車ではないかという指摘もあります。財源の手当てについては、どのように考えておられるのでしょうか。また、少子化に歯止めがかかっておらず、今年出生数が初めて80万人を切る可能性も指摘されています。今回の措置は、岸田政権として少子化対策の切り札となるとお考えでしょうか、お聞かせください。

(岸田総理)

 まず、少子化は、我が国の経済・社会の根幹を揺るがしかねない喫緊の課題です。これまでも自公政権の下で少子化対策の大幅な拡充を図ってきましたが、今、改めて強い危機感を持って子育て支援策を前に進めていきたいと考えています。

 そして、御指摘の事業については、妊娠時から出産・子育てまで、身近な伴走型相談支援と経済的な支援を併せたパッケージであり、支援が手薄な0歳から2歳の低年齢期に焦点を合わせた政策であり、これは大変意義の大きな政策であるとは考えております。ただ、今回の対策では、これ以外にもこども食堂やこどもの居場所づくりですとか、園児バスの安全装置の義務化など、緊急性の高い対策を盛り込んでおります。来年4月からは出産育児一時金の大幅増額も行います。そして、来年春(注1)には、こども家庭庁がスタートいたします。こども政策を体系的に取りまとめ、政策の充実に取り組んでいきたいと考えています。

 そして、御質問で財源について御指摘がありました。伴走型支援パッケージの財源についてですが、これはまずは補正予算で、この支援のパッケージを早急に対象者に届けることができるように取り組んでいきたいと思います。その上で、継続的な実施に向けては、令和5年度予算編成過程で検討し、こうした対策を支えるべく、財源を考えていきたいと思っています。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、次、外国プレスの方、レイノルズさん。

(記者)

 ブルームバーグニュースのレイノルズです。

 日銀政策についてですけれども、先日の毎日新聞の世論調査で、円安につながる日銀政策を見直すべきだという人は55パーセントに上りました。物価高が続く中で、今の金融緩和をこのまま続けて、国民の理解を得られると思いますか。

(岸田総理)

 金融政策については、日銀として、安定した物価上昇、継続的で安定的な物価上昇を実現するために政策を行っているということですが、この金融政策というのは、為替だけではなく、物価ですとか、景気ですとか、あるいは国民の金利負担ですとか、そういったものを、総合的に加味をして、検討し、判断していくべきものであると思います。

 こうした日銀が金融政策を判断するということでありますが、政府としては、いずれにせよ、投機的な、急激な為替変動、これは誰にとっても好ましくないという判断の下で、日銀と連携、意思疎通を図りながら、為替の状況についてはしっかりと注視をしていく。そして、過度の変動については、適切に対応していく、こうしたことを考えていかなければいけませんし、あわせて、政府自体、こうした為替の状況を前にして、経済の強さ、強靱化、こうしたものを図っていかなければならないということで、様々な政策を今回の総合経済対策の中でも用意をしています。

 中小企業等に対して、輸出を志向する企業に向けてしっかり支援をしていくとか、あるいは価格転嫁を円滑に行っていくとか、インバウンドを盛り上げるために政策を用意するとか、こうした為替の変動の中にあっても日本の経済が強いものでなければならない、そういったことから政策を用意しています。

 日銀の金融政策と併せて、先ほど申し上げました政府として為替に対してどう考えるのか、あるいは政府としてこうした状況に対して適切な政策を重層的に用意する、こうしたことをもって現状の経済あるいは金融、為替の状況にしっかりと向き合っていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、次の方、テレビ朝日の山本さん。

(記者)

 テレビ朝日の山本です。よろしくお願いします。

 今回、一般会計と特別会計を合わせて29.6兆円の大規模な対策となったわけですけれども、額については、当初の財務省の想定から自民党の要求で一夜にしておよそ4兆円が積み上がりました。党内からは積み上げではなくて規模ありきで財政の悪化を懸念する声も出ています。総理としてはこの財政規律の観点で今回の対策についてどのようにお考えでしょうか。よろしくお願いします。

(岸田総理)

 従来から経済対策においては、内容も規模も大事だということを申し上げてきました。そして、内容については、先ほど御説明をさせていただきましたエネルギー価格対策を中心に様々な政策を用意いたしました。そして、規模につきましても、昨年の経済対策は32兆円ほどであったと記憶していますが、我が国の置かれている状況、昨年は新型コロナ(ウイルス)対策、給付金等が対策の半分以上を占めていた、こういった状況です。そして、今年はウィズコロナということで、経済を再び動かしていく方向に様々な政策が進んでいく、こうした状況です。こうした違いが去年と今年はある。一方で、物価高騰の状況は、去年と比べて今年は大変厳しい状況にあります。また、来年の前半にかけて、中国、米国あるいは欧州の景気減速の懸念もある、こういった状況です。こうした状況の変化に対応して中身も考えなければいけませんが、その額、規模についても慎重に考えなければならない。

 昨年の景気対策を議論していたときは、たしかGDPギャップとの兼ね合いで金額を議論したと思いますが、その後、経済対策が施行される段階で経済が下振れして、GDPギャップが5兆円以上大きくなってしまった、こういった経験があります。今年も先ほど言いましたように去年とは事情が違うものの、様々な下振れリスクにも備えなければならない、こうした議論を行いました。今年のGDPギャップは確か15兆円という数字が上がっています。それに対して財務省等も一応対策の予算を積み上げたわけですが、やはり去年、経済対策をつくる段階から施行する段階で2割以上下振れをしたという経験があります。今年はどうなるか、これはなかなか予断を持って申し上げることは難しいですが、少なくとも去年の下振れリスクに対応できるだけの金額はしっかり用意しておかなければ、この不透明な状況においてしっかりと政策を進めることはできない、国民の安心につなげることはできない、こういったことから、こうした下振れリスクに備える意味からも金額をバランスしなければいけない、こういった議論を行いました。

 先ほど言いましたように、内容だけではなく規模においても国民の安心を確保するためにどれだけの規模を用意しなければならないのか、こうした議論が行われた。今回の額についてはその結果であったと思います。よって、この経済対策の効果、国民の皆さんに安心してもらうために内容をまた今後も丁寧に説明するとともに、規模についても政治がどのように考えたのか、こうしたことについて丁寧に説明をし、これから不透明な時代にしっかり対応できる経済対策であるということを説明して、国民の皆さんの安心につなげていきたいと考えております。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、TBSの室井さん。

(記者)

 TBSテレビの室井です。

 DXに関連して、マイナンバーカードについてお伺いします。今週の予算委員会で、総理は24年秋の健康保険証廃止後にマイナンバーカードを持たない人にも資格証明書ではない制度をつくると表明されました。この新たな制度というのは何を指すのでしょうか。カードを残せばいいのではないかと野党から指摘があったと思うのですけれども、カードを何らかの形で作らない人、作れない人、取り残される人をつくらないために今後どのような対策を採るかお伺いします。

(岸田総理)

 マイナンバーカードと健康保険証の一体化については、そのメリットを早期に発現するために令和6年秋に保険証の廃止を目指すとしており、保険証の廃止後はマイナンバーカードで保険診療を受けていただく、これが基本です。一方、これは保険料を納めている方については、保険診療を受けられるようにする、これは必要なことです。こうしたことから、紛失等の何らかの事情により手元にマイナンバーカードがない方が保険診療を受けられる制度を用意する必要があると考えています。様々な例外的なケースや資格を確認する方法等の更に細部への対応を充実させるための方策について、広く国民の皆さんの声を踏まえた丁寧な検討を行うために、関係府省による検討会を設置し、そして、令和6年(注2)に向けて円滑に移行できるよう、環境整備を行ってまいりたいと思っています。

 健康保険証を残したらいいではないかという声があるという御指摘もありましたが、マイナンバーカードで医療機関を受診することによって、健康・医療に関する多くのデータに基づいたより良い医療を受けていただくことができるなどのメリットがあるほか、現行の保険証には顔写真がなく、なりすましによる受診が考えられるなど課題もあります。こういったことを考慮して、保険証を廃止していくという方針を明らかにした次第であります。

(内閣広報官)

 それでは、その次に江川さん。

(記者)

 フリーランスの江川紹子と申します。よろしくお願いします。

 カルト問題について伺います。(旧)統一教会に関する省庁連絡会議ができて相談窓口の設置が行われたりしましたが、議事要旨を見る限り、現行制度を活用する確認が行われているという程度のように見えます。オウムのときも同様の連絡会議ができて、その過程で専門家の研究会が設置されて報告書を出しています。そこで、カルトの問題は宗教の問題ではなく人権問題であるという認識の下、様々な提言が行われました。しかし、これは活用されることなく、そのままお蔵入りになってしまいました。オウム、(旧)統一教会と、この国では二度もカルトをめぐって国内、国際的にも衝撃を与える事件が起きています。また、二世の人たちの苦悩というのは正に人権問題であります。

 カルトはこの2団体だけではありません。役所の連絡会議だけではなくて、民間の専門家などを入れた検討委員会をつくって抜本的かつ長期的なカルト対策というのに取り組むおつもりはないでしょうかという質問です。よろしくお願いします。

(岸田総理)

 旧統一教会の問題については、政府としては、1つは宗教法人法に基づいて手続を進めていくことによって実態を把握し、この実情を明らかにしていく、こうした取組を進める。そして、もう一つが、省庁として合同の相談窓口をつくりましたが、この窓口機能をより充実し、そして、その受けた相談を適切に法律の専門家を始め、心理の専門家などそれぞれの分野の専門家につなげていく、この窓口機能を充実することによって、今被害に遭われている、今困っている方、これを現実にいかに救っていくのか、こうした方策を考えなければいけない。

 そして、将来に向けてこうした事態が再発しない、あるいは被害が拡大しないために、消費者契約法を始めとする様々な法律を改正して、その仕組みを、制度を考えていかなければならない。こうした法改正をすることによって、将来に備えることを考えなければいけない。このように実態把握と現状の救済と、そして将来に向けて再発防止と、この3つを並行して行っていかなければならないと思っています。

 そして、宗教法人法の手続として、まずは文部科学省において報告徴収、質問権の行使に向けて取組、手続を始めているわけですが、その中にあって様々な関係者の声を聴かなければならない。それはそのとおりだと思います。まずもって担当部局であります文化庁の宗務課の体制についても思い切って拡充をし、従来、宗務課の人員8名でありましたものを来月には38名に拡充をいたします。そして、法律や会計の専門家の協力を得つつ、他省庁が把握している情報の提供を受けるとともに、被害者の方や旧統一教会問題をよく知る弁護士による団体などからも情報提供を得て、必要な協力を得ていく、こうした取組を進めていきたいと思います。

 そして、政府としては、所管庁たる文部科学省において、宗教法人法に基づいて具体的な証拠や資料などを行う客観的な事実が得られるよう、報告徴収、質問権の行使、これを適切に行使していくことを考えております。

 御質問の中はカルト集団に対してという対応の議論がありましたが、今、様々な議論があることは承知しております。ただ、政府としての対応は、先ほど言いました3点、これはどれも重要な取組であり、同時並行的にこの3つを進めていく、こうした方針でこの問題に取り組んでいきたいと考えております。

 以上です。

(内閣広報官)

 それでは、次の方、テレビ東京の篠原さん。

(岸田総理)

 すみません。ちょっと今、メモが入りまして、さっきマイナンバーカード、令和6年秋に廃止を目指すということを申し上げました。1回目は6年秋とちゃんと正しく言ったのですが、2回目、6年秋と言うべきところを4年秋と言ってしまったようであります。6年秋が正しい年月であります。訂正をいたします。よろしくお願いします。すみません。

(内閣広報官)

 それでは、篠原さん、どうぞ。

(記者)

 テレビ東京、篠原と申します。

 中国についてお伺いします。異例の3期目に突入した中国の習近平国家主席をどう評価し、今後どのように付き合っていくお考えでしょうか。また、現段階における習首席との日中首脳会談実現の見通し、これはいかがでしょうか。

(岸田総理)

 まず、現時点で、日中首脳会談については具体的な日程は何も決まっておりません。

 そして、先般、中国共産党の党大会などを経て、習近平氏を党総書記とする新しい指導部が選出されました。基本的に、他国の政党の活動についてコメントすることは控えなければなりませんが、本年は日中国交正常化50周年という大きな節目の年です。そして、両国間には、現在でも様々な可能性がある一方で、様々な課題とか懸案も多くあります。

 そういった中でありますので、やはり主張すべきものは主張し、そして、責任ある行動を求めていく、こうした姿勢は大事だと思います。しかし、あわせて、この諸懸案も含めて、対話はしっかり積み重ねたいと思います。共通の課題については協力をする、こうしたことも考えていくべきだと思います。

 こうした取組を通じて、建設的かつ安定的な日中関係を双方の努力で構築していきたいと思います。そして、その際に、首脳レベルのみならず、各分野、各層、議員外交もあれば、市民外交もあれば、文化やスポーツ、様々な分野の外交というものがあります。こうした重層的なやり取り、これを行っていくことが重要であると思います。こうした基本的な考えに立って、御指摘の日中首脳会談、具体的な対話についても考えていきたいと思っています。

(内閣広報官)

 それでは、大変恐縮ですが、この後の総理の外交日程の関係で、あと2問とさせていただきます。質問は簡潔に1問でお願いいたします。

 それでは、犬飼さん。

(記者)

 フリーの犬飼です。よろしくお願いします。

 質問は1点だけです。実質的増税であるインボイスの導入根拠を改めてお答えください。ただし、これまで総理が国会で繰り返し説明されてきた、複数税率下での適切な課税に必要という主張、これ、その唯一の具体例である税率8パーセントと10パーセントの商品をまとめて10パーセントで控除した事例の数を、政府は集計すらしておらず、導入根拠として全く成立していないということが、今年2月の段階で国会で明らかになっています。ですので、これ以外で、もしインボイスのまともな導入根拠が存在するのであれば、ぜひ御説明ください。

 以上です。

(岸田総理)

 質問の途中のこういう指摘がありましたという部分については、ちょっと私、今、手元で承知しておりませんので、理由については、これは何といっても、この複数税率の中で、適正な課税を確保するために必要である、これが基本であり、これは何よりも重要な理由であると思っています。ですから、その理由に向けて、政府は国民の皆さんに説明し、そして、様々な不安に応えていかなければならない。これが政府の基本的な姿勢であると思っています。

 これまでも様々な説明、あるいは支援を行ってきましたが、正に今日説明している総合経済対策の中においても、持続化補助金について、このインボイス発行事業者が転換した場合に、補助金上限額の一定引上げですとか、あるいはIT導入補助金について、インボイス対応のための会計ソフトを購入できるよう、補助対象の拡大など、様々な対策を用意したということであります。引き続き説明、努力を続けると同時に、関係者の皆さんの不安に応えていくために、具体的な支援策をこれからも用意しながら、政府として万全の対応をとっていきたいと考えています。

 それ以外にも、中小・小規模事業者の皆さんの懸念に対しまして、様々な対策を用意していることを説明しながら、国民の皆さんの理解を得ていきたいと思っています。

(記者)

 説明できないということは確認いたしました。ありがとうございました。

(内閣広報官)

 それでは、最後の質問の方、では、日経の秋山さん、お願いします。

(記者)

 日経新聞の秋山です。

 エネルギーについて質問します。総合経済対策では電気料金、ガス料金の負担軽減は盛り込まれましたが、エネルギーの構造改革という意味では、原子力の活用が焦点になります。総理は既に原子力を活用する考えを示されていますが、首都圏に電力を供給する柏崎刈羽原発を含めて、国として地元の理解などをどのように得て原子力発電所の再稼働を進めていくのか、お考えをお願いします。

(岸田総理)

 原子力発電所については、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合のみ、その判断を尊重して、国が前面に立ち、地元の理解を得ながら再稼働を進める、これが政府の方針であります。そして、その再稼働が円滑に進むように、産業界に対して事業者間の連携による安全審査への的確な対応を働きかける。そして、それとともに、国が前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得られるよう、粘り強く取り組んでいく、こうした方針であります。

 いずれにせよ、こうした再稼働を始めとする原子力の議論に正面から向き合うために、GX実行会議において専門家の皆さんに議論をお願いしています。この議論、年末に向けて続けることによって、今、GX改革の重要性が指摘される中にあって、ウクライナ情勢によってエネルギーの安定供給の重要性が指摘されている、この2つの両立のために、我が国のエネルギー政策をどう進めていくのか、こうした大きな議論をGX実行会議においてもしっかり詰めていただき、その議論を踏まえて、政府として対応していきたいと考えております。

(内閣広報官)

 予定の時間を過ぎましたので、以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。

 御協力ありがとうございました。


 (注1)質疑応答では「来年夏」と発言しましたが、正しくは「来年春」です。

 (注2)質疑応答では「令和4年」と発言しましたが、正しくは「令和6年」です。質疑応答中に訂正を行いました。