[文書名] フランス、イタリア、英国、カナダ及び米国訪問等についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)
【岸田総理冒頭発言】
今回の欧州・北米訪問を終えるに当たり、一言所感を申し上げます。日本は、今月1日からG7の議長国となり、また、国連安保理非常任理事国を務めています。各国首脳と意見交換を重ねる中で、国際社会を主導していく責任の重さと日本に対する期待の大きさを改めて強く感じる歴訪となりました。
今回訪問した、G7メンバーであるフランス、イタリア、英国、カナダ及び米国のそれぞれの首脳とは、二国間の懸案・協力について、そして、緊迫している地域の情勢認識について率直な意見交換を行いました。また、私から、G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明し、今年1年を通じたG7の活動の在り方について、じっくり話し合うことができました。その結果、G7が結束して法の支配に基づく国際秩序を守り抜いていくべく連携していくことについて、改めて確認することができました。
広島サミットに向けての腹合わせを行う中で、言うまでもなく最も大きな課題だったのは、開始からまもなく1年を迎えるロシアによるウクライナ侵略です。私からは、ウクライナ侵略は欧州のみの問題ではなく、国際社会全体のルール・原則そのものへの挑戦であることを指摘し、各国首脳との間で、G7広島サミットにおいては、法の支配に基づく国際秩序を堅持していくとの強い意志を示すべきだとの認識で一致し、また、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続・強化していくことを確認しました。
そして、世界のリーダーが広島の地に集まることは、単なるG7サミットにとどまらない意味を持っています。広島と長崎に原爆が投下されてから77年間、核兵器が使用されていない歴史をないがしろにすることは、人類の生存のために決して許されないことです。被爆地広島から、こうしたメッセージを、力強く、歴史の重みをもって世界に発信したいと考えています。
また、国際社会が直面する諸課題に対応するためには、G7として、グローバル・サウスへの関与を一層強化する必要があります。各国首脳との間では、そのために、気候変動、エネルギー、食料、保健、開発等のグローバルな諸課題への積極的な貢献を通じて、グローバル・サウスへの関与の強化を進めるべきとの認識を共有し、G7で連携して対応していくことで一致いたしました。
これらのアジェンダに加え、G7は、様々な下方リスクが指摘される世界経済への対応、地域情勢や経済安全保障等、国際社会の重要課題について取り組んでいく必要があります。各国首脳との議論も踏まえ、引き続きG7としての対応を調整し、主導していきます。
今回訪問した各国首脳との間では、G7広島サミットに向けた議論に加え、二国間関係についても腰を据えて議論を行いました。
とりわけ、昨日のバイデン米国大統領との会談においては、昨年末に策定した新たな国家安全保障戦略等の3文書の内容に関し、反撃能力の保有や防衛費の増額等を含め我が国の安全保障政策を大きく転換する決断を行ったことについて、私から説明し、バイデン大統領から全面的な支持が表明されました。
日米両国が近年で最も厳しく複雑な安全保障環境に直面する中、こうした我が国の取組は、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化にも繋がるものです。バイデン大統領のみならず、昨日意見交換を行ったハリス副大統領やペローシ前下院議長を始めとする超党派の上下両院の議員の皆さん、またジョンズ・ホプキンス大学での聴衆など、幅広い層から高い評価と支持を得たのは、その証左だと受け止めています。
また、バイデン大統領との間では、両国の国家安全保障戦略が軌を一にしていることを確認するとともに、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化していくとの決意を新たにし、日米共同声明を発出いたしました。サプライチェーンの強靭化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携もますます高まっています。今後とも、日本の総理大臣として、日米同盟を強化し、経済・技術まで裾野が広がった日米間の安全保障協力の強化に取り組み、もって我が国国民の安全と繁栄の確保・進展に一層努力してまいります。
ロシアによるウクライナ侵略が我々に示した教訓は、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるということです。私は、ウクライナは明日の東アジアかもしれないとの強い危機感を持って、欧州との間でも、インド太平洋地域等における安全保障協力の強化に取り組んできました。
英国のスナク首相とは、日英安全保障・防衛協力の新たな基盤となる円滑化協定に署名し、フランスのマクロン大統領との間では、インド太平洋協力の推進や、本年前半に2+2の開催を目指すことで一致いたしました。また、スナク首相及びイタリアのメローニ首相との間では、昨年12月、次期戦闘機の共同開発を発表しました。今後とも、これらパートナー国との安全保障協力を深化していきます。
なお、今回、日程の関係でお会いできなかった、ドイツのショルツ首相とは、できるだけ早く意見交換の機会を持ちたいと考えています。
我が国の周りに目を向けると、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化など、情勢は一層厳しさを増しています。各国首脳に対しても、こうした東アジアの安全保障環境や北朝鮮による拉致問題に対する私の強い危機感を改めて伝えました。
アジアで唯一のG7メンバーである日本で開催されるサミットだからこそ、インド太平洋の地域情勢についてもしっかりと議論をする必要があります。今回、カナダのトルドー首相はもとより、各国の首脳からも、インド太平洋についての高い関心が示されました。インド太平洋地域での英国やフランスの艦船の寄港、共同演習の活発化や、カナダやイタリアのインド太平洋戦略等の策定。これらは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けたG7のコミットメントの表れです。G7広島サミットでは、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた一層の協力も確認したいと考えています。
長期化するウクライナ侵略、核・ミサイル能力の強化や急速な軍備増強など、緊迫の度を強める東アジア地域の情勢。さらに、不透明感を増す世界経済の先行き、世界的なエネルギー危機、食糧危機、気候変動や感染症などの地球規模課題。これらはいずれも待ったなしの喫緊の課題です。G7の結束と協調が従来以上に世界の動向を左右するものになっています。2023年、1年間を通じてG7議長国である日本は、単に5月の広島サミットの開催にとどまらない、国際社会を1年間にわたって主導していく重責を負っています。
こうした重責を果たしていく上で、今回の歴訪で各国首脳との間で様々な分野の意見交換を行い、トップ同士の信頼関係を深め、今後に繋がる結果を残すことができたことは、何よりの成果だと感じています。
以上、今回の歴訪を終えるにあたっての所感を申し上げさせていただきました。
【質疑応答】
(NHK 徳丸記者)
先ほど、総理、G7の結束の重要性を強調されましたけれども、一方で世界情勢、国際情勢を見ますと、中国が影響力を増しているという現実があります。G7だけでは国際課題に対応しきれないという状況になっていると。総理自身も仰るように、中国をどうマネージメントしていくのかというのが、大きな課題で一方であると思うのですけれども、対話は常々続けると仰っていますけれども、サミットまでに日中首脳会談を行う考えがあるかをお聞かせください。そして同じ近隣諸国のことで言えば、韓国との関係改善も重要かと思います。その韓国、太平洋戦争中の徴用をめぐる訴訟でですね、日本企業に代わって政府傘下の財団が原告への支払いを行う案を軸に検討していることを明らかにしました。これについてどう受け止めていらっしゃるかということと、今後の対応をお伺いします。
(岸田総理)
まず中国ですが、日中関係はその様々な協力の可能性があるとともに、多くの課題や懸案にも直面しています。しかし同時に、日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄にとって、共に重要な責任を有する大国であると考えています。中国に対しては、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかり重ねていかなければならないと思っています。そしてその上で、共通の課題については協力をする、建設的かつ安定的な関係を構築していく。そのために、双方の努力でこの関係を進めていくこと、これが重要であると思っています。そして、サミットまでに首脳会談の予定があるかという質問ですが、先般、昨年11月行われた日中首脳会談において、首脳レベルを含め、あらゆるレベルで緊密に意思疎通をしていく、このことで一致していますが、今後の日中首脳会談について、現時点で何か具体的なものが決まっているというものはないというのがこの実状です。
そしてもう一方の質問の韓国の方ですが、日韓関係については、同じく11月行われた日韓首脳会談において、私と尹(ユン)大統領は、日韓関係の懸案の早期解決を図ることで一致し、この外交当局間の意思疎通を今継続しているところです。韓国国内の具体的な動きについて、一つ一つコメントすることは控えますが、昨年の日韓首脳会談に基づいて、首脳間の合意があり、そして関係当局、外交当局等が、今努力をしているということです。ぜひこの努力を続けてもらいたいと思っています。1965年、日韓関係は国交正常化を果たしました。以来築いてきた友好関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な形に戻し、更に発展させていくため、韓国政府と引き続き緊密に意思疎通を図っていきたいと考えています。
(エル・ティエンポ・ラティーノ紙 ラファエル・ウジョア記者)
岸田総理は、日本が今年G7の議長国、また国連安全保障理事会の非常任理事国に就任したと仰いました。国際社会が民主主義陣営と権威主義陣営に分かれ、ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、米国内で存在感を増しているヒスパニックの出身である中南米諸国を始め、中間国を同志国側に取り込むことがますます重要になっています。実際、ウクライナも恐らく年内に中南米戦略を発表すると表明したと承知しています。先般の外務大臣による中南米訪問の成果を踏まえ、国際社会のリーダーである日本は、今年、米国とも連携の上、中南米諸国を中心にグローバル・サウスへの働きかけをどのように強化していくお考えでしょうか。
(岸田総理)
まず、中南米諸国は、我が国と長い信頼と友好の歴史を有しています。民主主義や人権といった、この基本的価値を共有する、大変重要なパートナーであると考えています。ウクライナ情勢をめぐる国連関連決議においても、他地域に比べても、多数の中南米諸国がロシアに対する批判の声を上げていると承知しています。
また、中南米諸国は、食料、エネルギー、また鉱物資源の重要な供給源でもあります。ウクライナ情勢を契機として、グローバル・サプライチェーンの脆さが露呈している。こうした現状において、世界からの注目が中南米諸国に集まっていると感じています。
そして御指摘ありました、今般行われました、林外務大臣によるメキシコ、エクアドル、ブラジル、そしてアルゼンチンへの訪問ですが、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた協力を確認いたしました。とりわけ、本年、我が国は、ブラジルとエクアドルと共に安保理非常任理事国を務めており、国連の機能強化に向けて緊密に連携していくことを確認いたしました。また、気候変動対策や中南米地域の安定的発展に向けた協力、あるいは経済関係や交流についても強化していく、こうしたことでも一致しています。
我が国は、米国を始めとする様々な国々と共に、様々な国際課題について、中南米諸国と緊密に連携していきたいと考えています。
(産経新聞 田村記者)
内政についてお聞かせください。総理はバイデン大統領との会談でも、日本の防衛力強化や防衛費の増額の決意を表明されました。一方、23日に召集予定の通常国会に向けては、野党が防衛費の財源確保のための増税については反対し、政府に行財政改革も求めています。政府、与党としてこれにどのように対応していくお考えでしょうか。またですね、国民の中にも防衛増税についてはやはり否定的な意見がありますが、いかに理解を得ていこうという風にお考えか、お聞かせください。
(岸田総理)
まず、5年間で緊急的に防衛力を強化するにあたっては、財源がないからできないといった立場はとらず、必要な防衛力とはまず何なのか、内容について議論をし、そして合わせて予算の規模を考えました。
さらに、5年間かけて強化する防衛力は、その後も維持・強化していかなければなりません。そのためには、裏付けとなる、毎年約4兆円の安定した財源が必要になる。令和9年度以降、安定した財源が確保されなければならない、こうしたことであります。
そして、この安定的な財源として、国民の御負担をできるだけ抑えるべく、必要な財源の約4分の3については、歳出改革等の取組に加えて、特別会計からの一時的な受け入れ、また、コロナ対策予算の不用分の活用、また国有財産の売却など、あらゆる工夫を行うことを確認しました。
そして残りの4分の1について、様々な議論がありましたが、私は、内閣総理大臣として、国民の生命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本的に強化していく、そのための裏付けとなる安定財源は、将来の世代に先送りすることではなく、今を生きる我々が将来世代への責任として対応すべきものであると考えました。
防衛力を抜本的に強化するということは、端的に言うのならば、戦闘機やミサイルを購入するということです。こうした資金をすべて未来の世代に付け回すのか、あるいは自分たちの世代も責任の一端を担うのか、これを考えた次第です。
侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を行った上で、一つの結論をしっかりまとめていくのが責任政党自民党の伝統です。今回もその伝統を背負った決定ができたと思っています。
そして、次は野党との活発な国会論戦を通じて、防衛力強化の内容、予算、財源について国民への説明を徹底していきたいと考えています。
(ザ・ヒル紙 ローラ・ケリー記者)
中国の半導体生産能力を制限するために米国が行ったように、半導体生産に関する米国の輸出規制と同じような輸出規制を貴国政府も行うのでしょうか。
(岸田総理)
はい。半導体についての御質問をいただきました。具体的な対応について今確定的に申し上げることは控えますが、日本は、先ほど説明させていただきました新しい国家安全保障戦略の中でも、経済安全保障という考え方を明記し、そして重視する、こうしたことを明らかにしています。
経済安全保障の考え方に基づいて、重要物資のサプライチェーンの強靱化などを考えていかなければならない。重要物資をいかに確保していくのか、これを考えていかなければならない、こうした考え方をより一層重視していかなければならないと思っています。
そして、御指摘の半導体、言うまでもなく経済あるいは安全保障にも関わる重要物資です。日本として、半導体についても、経済安全保障の考え方に基づいて、米国を始めとする同盟国あるいは同志国と緊密に意思疎通を図りながら、取扱いを考えていかなければならないと考えています。
こうした考え方に基づいて、半導体についても、日本として責任をもって、取扱いを考えていきたいと思っています。