データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] リトアニア公共放送局(LRT)による岸田総理への書面インタビュー

[場所] 
[年月日] 2023年7月11日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

問1.2022年2月24日以降、総理は「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と繰り返し強調されているが、ロシアのウクライナ侵攻により、日本は自国の安全保障をどのように見直したのか。

回答

 ロシアによるウクライナ侵略以前から、インド太平洋地域の安全保障環境は戦後最も厳しく複雑なものとなっている。中国は、東シナ海・南シナ海では力による一方的な現状変更の試みが継続し、中露は日本周辺での軍事活動を活発化させ、両国間の軍事的連携を強化させている。北朝鮮は、前例のない頻度と新たな態様で弾道ミサイルを発射するなど行動をエスカレートさせている。

 このような状況の下で、ロシアは、ウクライナ侵略という国際秩序の根幹を揺るがす暴挙に出た。これは、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこであっても許されないこと、そして、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することが重要であることを改めて明確にした。

 こうした中、我が国は昨年末に新たな国家安全保障戦略を策定した。 同戦略は、我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素の一つとして、まず外交力を掲げている。同時に、外交には、裏付けとなる防衛力が必要。戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、国民の命を守り抜けるのか、との観点から、防衛力の抜本的強化を具体化し、2027年度において、それを補完する取組を合わせ、そのための予算水準が現在のGDPの2パーセントに達するよう、所要の措置を講ずることとした。

 外交力・防衛力を含む総合的な国力を最大限活用していく必要があり、現実的な外交を積極的かつ力強く展開していくとともに、防衛力の抜本的強化のための施策に早急に取り組んでいく決意。

問2.総理は昨年のマドリードNATO首脳会合への初参加に続き、今回のリトアニアでの会議に戻ってこられた。日本にとってビリニュスNATO首脳会合の重要性いかん。また、今回の会議ではどのような問題に取り組むつもりか。

回答

 ロシアによるウクライナ侵略が続くなど、国際社会は引き続き厳しい安全保障環境に直面しており、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分である。日NATOは基本的価値と戦略的利益を共有するパートナーであり、今回の出席は、日NATO間の協力を一層の高みに引き上げるための重要な機会となる。

 今般、日本と価値や原則を共有する重要なパートナーであるリトアニアにおいて、NATO各国及び主要パートナーの首脳が集い、今後の協力等について議論が交わされることを意義深く感じている。今回のNATO首脳会合では、ロシアによるウクライナ侵略をはじめとする現下の国際安全保障環境を踏まえ、日NATO協力を一層具体化し、強化するとともに、この機会を捉えてリトアニアをはじめとする各国首脳とのバイ会談も実施し、インド太平洋情勢等に関して同志国との連携を確認する考え。

問3.NATO東京連絡事務所はいつ開設予定か。一部のNATO諸国が妨害しているとの情報があるがいかん。

回答

 NATOによる日本へのリエゾン・オフィスの設置については、NATOにおいて種々の検討が進められていると承知している。

 我が国としては欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識の下、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するため、日NATO間の協力を更に強化していく考え。

問4.中国がNATOと日本の接近を繰り返し批判していることに対する見解いかん。

回答

 国際秩序が深刻な挑戦を受ける中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するためには、インド太平洋の同盟国、同志国のみならず、欧州の同志国やNATOのような機関との連携も重要。こうした連携は地域の緊張を高めるようなものではなく、国際社会全体の平和と安定に資するものである。

 日本とNATOは、基本的価値と戦略的利益を共有するパートナーであり、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のため、NATO及びその加盟国・パートナー国をはじめとする同志国と協力していく考えである。

問5.日本の安全保障戦略には、2027年までに防衛費をGDPの2パーセントにするとのNATOに近い比率目標が含まれている。この2パーセント目標は現実的なものか。この目標が必要な理由いかん。

回答

 新たな国家安全保障戦略においては、2027年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取組をあわせ、そのための予算水準が現在のGDPの2パーセントに達するよう、所要の措置を講ずることとした。

 こうした防衛力の抜本的強化については、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に対峙していく中で、日本が十分な守りを再構築していくために必要となる防衛力の内容を積み上げ、導き出したもの。

 これは、あくまで国民の命と平和な暮らしを守り抜くために必要となるものであり、我が国の抑止力・対処力を向上させ、武力攻撃そのものの可能性を低下させていく上で必要である。