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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 中東訪問等についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2023年7月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【岸田総理冒頭発言】

 中東訪問を終えるに当たり、一言所感を申し上げます。

 今回、湾岸地域の重要なパートナーであるサウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールの3か国を訪問いたしました。湾岸地域の訪問は、2015年に外務大臣としてカタールを訪問して以来であり、総理就任後、初めてとなります。

 この貴重な機会に、サウジアラビアのムハンマド皇太子兼首相、アラブ首長国連邦のムハンマド大統領、カタールのタミーム首長、そして3か国の政府関係者、国民の皆様に心温まる歓待をいただいたことに、深く感謝申し上げます。

 G7広島サミットでは、G7、そして、いわゆるグローバルサウスを含む国際的なパートナーと共に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持することの重要性を確認し、先週は、改めて、EU(欧州連合)やNATO(北大西洋条約機構)及びその加盟国、パートナー国ともこの認識で一致いたしました。そして、今回、湾岸諸国の各国首脳との間でも、この根元的な原則をしっかりと確認し合うことができたと思っています。

 また、日本と中東地域の関係の中核にあるエネルギー分野の課題にどう向き合うか。ロシアのウクライナ侵略により、世界的なエネルギー供給の不安定化が問題となっている今、世界的な視野で議論を深めることができました。

 さらに、今回訪れた3か国とも、石油・ガスの輸出に国家収入の半分以上を依存する経済の現状から脱却し、脱炭素エネルギーの輸出国に転換するとともに、経済・産業の多角化を図りたいという強い意思があります。湾岸諸国と日本がそれぞれの強みを組み合わせて、中東産油国を、脱炭素エネルギーや重要鉱物を輸出するグローバル・グリーンエネルギー・ハブに変えていく、経済成長と脱炭素のジレンマに直面するアジアやアフリカの多くの国々が脱炭素への多様な道筋を選択できるようにしていくことは、世界の平和と繁栄に向けた貢献として大きな意義をもちます。

 さらに、今回、私の政権において初めて、経済ミッションの皆様に同行いただきました。のべ100社以上の日本企業のCEOや幹部の方々、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)等の政府関係機関のトップが、湾岸3か国の首脳や企業幹部と直接対話し、様々な分野で協力するための礎を作る。こうしたトップが関与した官民連携、民間同士のチャネルの強化も、今回の訪問の重要なテーマでありました。

 以上、申し上げたような大きな目的は、訪問した3か国の方々の熱意や協力を得て、おおむね全て達成されましたが、今回の訪問が具体的にどういった成果につながったか、以下、簡潔に4点に絞って申し上げます。

 第1に、エネルギー分野に関連し、今回、グリーン・トランスフォーメーションの推進に向けて協力することで一致いたしました。サウジアラビア、そして本年のCOP28(国連気候変動枠組条約第28回締約国会議)議長国であるUAE(アラブ首長国連邦)に対して、私から、日本が協力して、中東地域を将来のクリーンエネルギーや重要鉱物のグローバルな供給ハブとするビジョンを提示し、賛同を得ました。両国からも、具体的な協力の進め方について、大変積極的な提案をいただいたところです。今後、このビジョンの実現に向けて、水素・アンモニアの製造や、脱炭素技術の実用化と普及に向け、連携を強化していきます。

 さらに、エネルギー源だけでなく、例えばグリーンスチールなどの、製造過程で二酸化炭素を排出しない素材の研究・開発に関する協力も深めていきます。こうした協力も含め、現実的なエネルギー・トランジションに向けて大きな絵を共に描く、グローバル・グリーン・ジャーニー構想について私の方から提案を行って、賛同を得ました。

 UAEとの間では、気候行動に関する日本国及びアラブ首長国連邦首脳共同声明を発出いたしました。脱炭素化等に関する協力を強化し、COP28の成功に向け、国際社会の取組を共に主導していきます。

 湾岸3か国の経済・産業多角化に向けて、日本の力強いコミットメントを示せたことが2つ目の成果です。先端技術、半導体、宇宙、医療、教育、農業、観光といった分野で、計7本の二国間協力に関する文書への署名が行われました。

 協力は政府間にとどまりません。海水淡水化プラントの共同研究に関する、サウジアラビアの電力会社と東レの覚書や、医療ソフトウェアの販売・保守契約に関する、UAEの企業と富士フィルムの覚書など、のべ50本以上の両国企業間の覚書への署名がありました。

 脱炭素など先端分野においては、スタートアップ企業の連携等を通じたイノベーションの加速化も重要です。COP28に向け、UAEに対して、私から、日UAEイノベーション・パートナーシップを提案し、賛同を得ました。また、産業界から大きな期待が寄せられていた日・GCC(湾岸協力理事会)間のFTA(自由貿易協定)については、GCCのブダイウィ事務総長との間で、2024年中に交渉を再開することで見解の一致を見ました。

 これを機に、日本として、湾岸諸国のグリーン・トランスフォーメーションの推進や、産業多角化に向けての改革努力を強力に支援しつつ、日本企業のビジネス機会の拡大や対日投資の呼び込みにつなげていきたいと考えています。

 3つ目は、安全保障分野での関係強化です。アラブ諸国で唯一G20メンバーであるサウジアラビア。また、2022年から安保理非常任理事国を務め、日本と任期を共にしているUAE。そして、昨今の外交努力により国際的な存在感を高めるカタール。政治・経済両面で影響力を増すこれらの湾岸諸国と、外交・防衛分野における対話の機会を増やすとともに、国際場裡(じょうり)におけるより一層の協力を深めていくことで合意いたしました。

 さらに、GCCと外相会合の定例化について一致したことに加え、イスラム協力機構(OIC)のターハ事務総長との会談も行いました。57のイスラム諸国・地域が加盟するOICは、暴力的過激主義をなくすために積極的な役割を果たし、中東地域の安定化に大きな影響力を持っています。これらの地域機構とも、今後も対話を重ねて、緊密に連携してまいります。

 4つ目に、ソフトパワーの交流強化です。私は、人や文化のつながりが国同士のつながりをより強くすることを、これまで、世界各国を訪れる中で目の当たりにしてきました。新型コロナの影響で落ち込んでいる湾岸3か国から日本に来る留学生の大幅増を目指すとともに、文化、スポーツ、教育・学術分野など、いわゆるソフトパワーの分野での交流を更に深めていくことについて、各国首脳と意見が一致いたしました。

 このように、エネルギー、多角的な経済関係、安全保障、そしてソフトパワー交流など、幅広い分野で重層的な協力を進めること。そして、その土台には、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持という共通の目標があること。今回の訪問でこれらを確認できたことは、G7広島サミットの充実した議論を引き継ぎ、広めていく上でも、大変有意義でした。

 秋以降も、G20ニューデリーサミットや国連総会、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合、日・ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議など、国際的なパートナーと対話し、連携を確認する機会が続きます。G7議長国として、G7広島サミットの成果を世界各国に共有し、国際社会を1年間にわたって主導していく。今回の中東訪問で実践したことを、今後の外交機会でもしっかりと継続し、我が国の安全・繁栄と、国際社会の安定と繁栄に着実につなげていきます。

 最後に、日本国内における大雨について申し上げます。

 梅雨前線の影響等により、6月末以降、全国各地で大雨となり、河川の氾濫、土砂災害等が相次いでいます。改めて、お亡くなりになられた方々に心から哀悼の意を表するとともに、全ての被災者の方々にお見舞いを申し上げます。

 大雨への対応については、災害警戒会議を開催して必要な態勢を構築するとともに、適時的確な情報提供や災害応急対応に万全を期すこと等について、必要な指示を随時行っているところです。

 九州北部に続き、秋田県についても、現地に入るなどして被害の状況を確認するよう、谷防災担当大臣に指示しました。

 今後、私自身も被災地の状況をよく踏まえつつ、現状・要望を直接聞く機会を設けたいと考えています。また、被害の状況等を踏まえて、激甚災害の指定、普通交付税の繰上げ交付など、可能な支援を確実に行うことにより、政府を挙げて、被災者の生活再建支援、被災地の復旧支援等にしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

 ありがとうございました。


【質疑応答】

(NHK 相澤記者)

 今回の中東3か国との首脳会談では、今仰られましたように、各国が取り組む産業の多角化や脱炭素の分野での新たな協力などが確認されました。また先日の総理とEU首脳との協議では日本産食品の輸入規制の撤廃が決まるなど、外交成果があった一方で、日本のまわりでは、中国は処理水放出についてまだ厳しい態度をとっていますし、北朝鮮のミサイル発射が続いています。今後、日米韓の首脳会談も予定されていますが、今年後半の外交で総理が最も成果を出したいと考えているものはなんでしょうか。

(岸田総理)

 昨年2月のロシアによるウクライナ侵略以降の外交の大きな方針について自分の思いをまず簡潔に申し上げたいと思います。

 ウクライナ侵略は、ポスト冷戦期を終わらせる歴史の転換点となりました。私は、侵攻の勃発直後に、これまでの対露政策を大きく転換し、G7の一員として厳しい対露制裁に踏み切り、欧州へのLNG(液化天然ガス)の緊急融通なども行いました。これは、ウクライナ問題は欧州にとどまるものではなく、世界全体の国際秩序に対する挑戦であり、今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない、このように考えたからです。日本が立ち上がったことでウクライナ問題はグローバルな問題になった。この旨は、先日のNATO首脳会議でも欧米首脳から重ねて謝意が示されました。3月には、私自身がウクライナを訪問し、5月には広島にゼレンスキー大統領を招くなど、侵略に対して戦うウクライナへの支援を強く打ち出しました。

 次に、今回訪問した中東諸国を含めて、国際社会で存在感を高めるグローバルサウスとの連携を主要課題に据えました。平和に向け真にグローバルな圧力を喚起するために、グローバルサウスあるいは中間国に対する働きかけが重要です。このようにG7首脳に説いて回るとともに、自らもアジア、アフリカなどを回り、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を訴えるとともに、食料やエネルギーなどで彼らの立場に寄り添う形で取組も進めました。さらには、G7サミットを広島で開催し、インド、ブラジルなどの招待国も含め、多くの主要国と平和のメッセージを広島の歴史の重みとともに世界に発信いたしました。グローバルサウスとの連携がG7の共通優先課題となったのは、日本の累次の働きかけが大きく貢献したと自負しているところです。

 一方で、複雑化する東アジアの安全保障環境に関しては、日韓のシャトル外交を尹(ユン)大統領との信頼関係の下、本格的に再開するなど、日韓関係を大きく改善しました。また、中国の習近平国家主席とは、昨年11月にも約3年ぶりの対面会談を行いました。そして、今後更に、建設的で安定的な関係に向けて意見交換の場を作っていきたいと考えています。

 今年、後半の外交も、以上のような基本方針に沿って行うべく努力をしていきたいと思っております。具体的に申し上げるならば、G7議長国としての責務、これは本年後半も続きます。広島サミットの成果を踏まえて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序や国連憲章の諸原則の重要性について世界各国と認識の共有を図りつつ、様々な分野における協力関係を深め、そして国際社会を主導していきたいと思います。9月以降も、ASEAN関連首脳会合やG20ニューデリーサミット、国連総会、APEC首脳会合、日・ASEAN特別首脳会議と様々な外交機会が続きます。先ほど述べたような日本外交の取組を着実に進め、我が国の安全と繁栄、国際社会の安定と繁栄につなげていきます。

 そして、北朝鮮によるミサイルの発射、これは断じて容認することはできません。日米、日米韓で緊密に連携するとともに、国際社会とも協力してしっかりと対応してまいります。

 またALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出については、先般、IAEA(国際原子力機関)包括報告書において、関連する国際安全基準に合致していると結論が示されました。我が国の取組を、高い透明性を持って、国際社会に丁寧に説明していく考えです。そして、中国側に対しては、科学的根拠に基づいた議論を行うよう強く求めてまいります。

 今年後半については、こういった課題についてしっかりと取り組んでいきたい、このように考えております。

(ガルフ・タイムズ紙 ジョエイ・アギラー記者)

 総理閣下、ありがとうございます。地政学的危機や他の要素により引き起こされた混乱の最中で、日本が国際石油市場の安定のために取る戦略の詳細を教えてください。

(岸田総理)

 国際石油市場ですが、ウクライナ侵略の長期化によって、また、石油・ガス開発に対する投資資金の縮小による需要ひっ迫もあり、国際石油市場は先行き不透明となっています。国際石油市場を安定化させ、そして同時に、脱炭素への歩みを着実に進めていくためには、短期、中期、そして中長期の対策を並行して進めていかなければなりません。今回の中東訪問に当たっては、それぞれについて率直で前向きな議論を行い、大きな成果を上げることができたと感じています。

 まず、第1に、ロシアのウクライナ侵略について、法の支配による国際秩序を守り抜き、公正で恒久的な平和を早期に実現することが国際市場安定のために必要です。我が国は、G7議長国として広島サミットで、G7や8つの招待国も含めた結束を広げるべく最大限努力いたしました。今回の中東訪問でも各国首脳に働きかけました。これまでの成果を踏まえ、更に尽力していきたいと思っています。

 そして第2に、産油国、主要消費国、国際エネルギー機関で需給見通しについて率直な意見交換、そして率直で緊密な対話を続けつつ、投資を通じて問題を解決するということ。この、石油・ガス開発に対する過度の投資不足を避けつつ、各国の状況を踏まえた多様な脱炭素の道筋に対して、トランジション・ファイナンスですとか、あるいは、ブレンディッド・ファイナンスなどの形で、投資資金を大量に供給していくこと、これが必要です。

 そして、3点目に新技術を大胆に実装するとともに、カーボンプライシングを通じて需要サイドの変革を図るということ。水素、アンモニア、合成燃料、蓄電システムなど生産から輸送、消費に至る一連のバリューチェーンに先端技術を実装していく必要があります。我が国は、成長志向型カーボンプライシングにより、需要サイドの変革を図りつつ、先端技術の開発と実装のための大胆な支援制度を講ずることとし、そのための法律を成立させたところです。

 こうした考え方に基づいて、日本としても国際石油市場の安定化に向けて貢献していきたいと考えております。

(読売新聞 梅本記者)

 読売新聞の梅本です。内閣改造についてお尋ねいたします。今後外交で成果を上げていくため、また内政においてマイナンバーカードや少子化対策といった国内の問題に対応していくために、内閣改造についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。現在内閣支持率が低下傾向にありますが、仮に体制を刷新する場合、その内閣改造のタイミングや規模、方針についてどうするのか、総理のお考えをお願いいたします。

(岸田総理)

 まず御質問の内閣改造、さらには党役員人事については、今の時点においては何も決めていないというのが結論ではあります。これまでも申し上げてきたところですが、御指摘の点も含めて、内政・外交における先送りできない課題に対して、正面から取り組み答えを出していく、こういった岸田内閣の基本姿勢に照らして、そのために適切な人事の時期や内容について判断をしていくというのが基本的な考え方であります。この考え方をこれからも大事にしていきたいと思いますが、今現在において、現時点においては何も決めてはいない、こうしたことであります。

(アル・アラブ紙 フセイン・エルラシディ記者)

 エネルギー分野以外で、日・カタール関係において最も重要な側面は何でしょうか。

(岸田総理)

 日本とカタールは、長年にわたりLNGを軸に協力関係を築いてきましたが、近年では伝統的なエネルギー分野での協力のみならず、太陽光等の再生可能エネルギーの活用を含め、脱炭素やエネルギー移行に向けた協力、またドーハメトロといったインフラ整備を含めた幅広い関係を構築しています。

 また、カタールは中東やアフリカの平和と安定に積極的に役割を果たしており、両国の間では、外相間戦略対話等の協議・対話の枠組みが重層的に整備されてきています。こうした枠組みを通じて、今回の会談の成果をフォローし、各分野で協力案件を具体化していきたいと考えています。

 そしてこのような観点から、今回の訪問において、タミーム首長との間で、二国間の関係を戦略的パートナーシップに引き上げることで一致したこと、大変喜ばしく思っています。今後はカタールとの間で外交・安全保障、インフラ、投資、文化、更には学術交流など、多岐にわたる協力、これを拡大させていきたいと考えております。以上です。