データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 福島県訪問等についての会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2023年8月20日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 本日1年10か月ぶりに福島第一原子力発電所、視察させていただきました。日本政府としてALPS(多核種除去設備)処理水の処分に当たっては、安全性の確保をすることを国内外にお約束してきました。先月、原子力規制委員会による使用前検査も終了し、私自身、IAEA(国際原子力機関)のグロッシー事務局長から包括報告書を受け取りましたが、この中で、ALPS処理水の海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響と結論付けられています。今回の訪問では、ALPS処理水の海洋放出設備と汚染された水を浄化する設備であるALPSを見て、また担当者の話を聞いて、ALPS処理水の海洋放出に当たっての安全性の確保の取組状況について直接報告を受けました。ALPS処理水の海洋放出については、長期にわたる取組であるところ、私から、安全性の確保や風評対策に関する取組について、東京電力においても、会長、社長の真摯なリーダーシップの下、会社を挙げて、緊張感を持って万全を尽くすよう求めました。これまでの説明を通じ、国際的にも科学的な知見に基づく冷静な対応が広がっていると認識をしておりますが、引き続き、IAEAの包括報告書の内容も含め、科学的な根拠に基づき、透明性高く、そして丁寧に、国内外に対して情報発信をしていきたいと考えております。冒頭、私からは以上です。

(今日の視察の感想及び海洋放出の時期、並びに全漁連会長との会談と処理水放出に係る関係閣僚会議の開催の予定及び中国などに首脳会談で直接説明する考えがあるかについて)

 先ほども申し上げたように、本日設備を見て、そして現場で関わっておられる担当者の話を直接聞き、そして東京電力の経営トップの覚悟も確認させていただきました。ALPS処理水の海洋放出に当たっての安全性確保の取組が緊張感を持って行われていることについて、直接報告を受けました。海洋放出の時期は安全性の確保や風評対策の取組の状況を政府全体で確認し、判断していくこととしており、今の時点で、具体的に時期についてまだ申し上げることは控えなければならないと思っています。そして、坂本全漁連会長を始めとする漁業者の方々には、早ければ明日にもお目にかかりたいと考えております。ただ現在、西村大臣に具体的な日程の調整を行ってもらっています。ですから、まだ具体的に決まったものではありません。今調整中であります。そして、中国など国際社会への説明ということにつきましては、国際社会に対して、国際会議ですとか、あるいは2国間会談の機会、さらには政府のホームページ、SNSを始めとする様々なツールを使って、積極的にこうしたものを活用しながら、日本の取組、そしてIAEAの包括報告書の結論等を丁寧に説明、そして発信してきております。同時に、科学的根拠に基づかない主張には、日本政府として適切に反論を行ってまいりました。その結果、国際的にも科学的な知見に基づく冷静な対応が広がっていると認識しております。引き続き、私自身を含め、政府を挙げてあらゆる機会を通じて、中国のみならず国際社会の理解促進に向けて、科学的根拠に基づく透明性高い説明と情報発信、これを続けていきたいと考えております。以上です。

(漁業者を含む関係者の理解を得られたか、これまでの説明は十分であったか、放出によって懸念される風評被害への政府としての対応及び第一原発の廃炉について)

 まず、ALPS処理水の海洋放出については、海洋放出に関する基本方針を2021年に決定いたしました。それ以来、政府として様々な説明を続けてきたわけですが、特に先月、IAEAより包括報告書が示されてから、西村経産大臣あるいは渡辺復興大臣を始め、政府を挙げて、地元の漁業者を始めとする皆様に対して、丁寧に説明を重ねてきております。漁業者の皆様からは、風評や生業の継続に関する御懸念や御要望の声を頂いております。ALPS処理水の海洋放出は、長期にわたる取組であり、こうした懸念に継続的に寄り添って対応していくことが必要であると考えております。私自身も、漁業者の皆様に対し、直接政府としての考え、これをお伝えしたいと考えております。そして風評被害への対応ということについては、風評の抑制に向けて、安全性の確保などについて、科学的な根拠に基づいて、透明性をもって国内外にしっかりと情報発信を行っていくことが何よりも重要であると考えており、政府を挙げて風評対策に全力を尽くしてまいります。その上で、風評が発生した場合の備えとして、水産物の販路拡大や一時保管、買い取りを支援するための基金、300億(円)の基金を経産省で措置をしています。それでもなお、風評被害が発生した場合には、東京電力が適切に賠償を行う仕組みもあり、しっかりと対応してまいります。そして、廃炉への取組ですが、今年度後半にも燃料デブリの試験的取り出しの開始が予定されているなど、今後、廃炉作業がより本格化する中で、これを着実に進めていくためには、新しい施設も建設していかなければなりません。そのためにも、ALPS処理水を処分し、タンクを減らすことが必要であると考えています。こうした点からALPS処理水の海洋放出は、廃炉と福島の復興を進めていくために、決して先送りができない課題であると申し上げております。引き続き、安全性の確保と風評対策に万全を期して政府を挙げて取り組んでまいりたいと考えております。以上です。