[文書名] ASEAN関連首脳会議及びG20ニューデリー・サミット出席等についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)
【岸田総理冒頭発言】
インドネシア及びインド訪問を終えるに当たり、一言所感を申し上げます。
まず始めに、この度日本を襲った台風13号に関し、お亡くなりになられた方に心より哀悼の意を表するとともに、被災された全ての方々にお見舞いを申し上げます。
政府として、災害警戒会議を開催して必要な態勢を構築し、これまでに、被災自治体への自衛隊の災害派遣やTEC-FORCE(緊急災害対策隊)の派遣等を行っているところです。引き続き、被災地のニーズをしっかり踏まえつつ、緊張感をもって、災害への対応を進めてまいります。
今回、都合5日間にわたり、ジャカルタで行われたASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議、そして、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)ニューデリー・サミットに出席いたしました。それぞれの会合の議長として格別のリーダーシップを発揮された、インドネシアのジョコ大統領、インドのモディ首相、そして両国政府関係者の皆様に、敬意と感謝を申し上げます。
本年、日本は、G7議長国として、広島サミットの成果を土台に、国際的な議論を主導し、分断・対立ではなく協調の国際社会を実現して、世界の平和と安定につなげるという、重要な責務を負っています。広島サミットでは、招待国も交え、主権、領土一体性の尊重といった国連憲章の原則や、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性につき認識を共有するとともに、国際社会の諸課題に対して、G7を超えたパートナーと協力して取り組んでいくことを確認いたしました。そのためには、グローバル・サウスの国々が抱える課題や脆弱性(ぜいじゃくせい)について理解し、協力する姿勢を示すことから始めなければなりません。何よりも、その使命を果たすことを目的に、今回の2つの会合に臨みました。
まず、ASEANとの間では、今回、50年にわたる強固な日ASEAN関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げしました。また、ASEANが目指す「ASEANインド太平洋アウトルック(AOIP)」の主流化への支持を表明し、AOIPと、日本が掲げるFOIP(自由で開かれたインド太平洋)とが、互いに相乗効果をもたらすような協力を推進していくこと、これを確認いたしました。
さらに、私は、ジャカルタにおいて、ASEANが重視する連結性強化を後押しする、「包括的連結性イニシアティブ」を新たに発表しました。これを通じ、日本とASEANが共有する開放性や透明性といった本質的な原則を体現する具体的な協力を、両者が手を取り合って、一層力強く推進していきます。
G20サミットにおいては、食料安全保障や開発、保健、デジタルといった、国際社会が直面する喫緊の課題について、世界の主要エコノミーの首脳間で議論を交わし、私から、日本の立場や取組について発信いたしました。
今回、議長国インドのリーダーシップの下、G20ニューデリー首脳宣言に合意できたことは、大きな意義あることだと感じています。日本としては、G7広島サミットの成果をつなげていくことを意識して交渉に当たってきました。例えば、広島サミットで確認された、各国の事情に応じた多様な道筋によるネットゼロの達成、持続可能で強靱(きょうじん)な農業・食料システムの構築、感染症危機対応医薬品などのデリバリーの強化といった点を、しっかりとG20にも引き継ぐことができたと評価しています。G7、G20で得られた成果を、今後も各国首脳と共に、フォローアップしてまいります。
ロシアのウクライナ侵略については、日本として、今回の一連の会合を通じて、ロシアが一刻も早く部隊を撤退させ、ウクライナにおける公正かつ恒久的な平和を実現することが重要であることを主張するとともに、ロシアの核による威嚇は断じて受け入れられず、ましてやその使用はあってはならない旨、強調いたしました。また、紛争下で脆弱な立場に置かれた人々に対する国際社会からの支援も重要であるということを指摘いたしました。今回発出したG20首脳宣言において、ウクライナにおける公正かつ恒久的な平和や、領土一体性や主権を含む国連憲章の原則の堅持について、全てのG20メンバーの間で一致することができたことは、大きな成果であったと考えています。
今回の訪問では、その他の課題について日本の立場を主張し、幅広く理解を得ることにも腐心しました。
ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出については、今回の一連の会合や二国間会談の場において、ASEAN及びG20諸国等に対し、日本の対応を改めてしっかりと説明いたしました。これまでも多くの国から、処理水放出のプロセスが安全で透明性の高いものである、との評価をいただいているところですが、こうした理解が一層広まったものと感じております。
中国の李強国務院総理には、私からALPS処理水についての我が国の立場を、改めて明確に述べました。日本としては、引き続きIAEA(国際原子力機関)とも緊密に連携し、科学的根拠に基づき、高い透明性を持って、国際社会に丁寧に説明を行い、理解を深めていきます。加えて、中国の水産物輸入停止措置については、二国間、多国間の機会を捉え、また、WTO(世界貿易機関)・RCEP(地域的な包括的経済連携)などの通商枠組みの場を活用し、引き続き即時撤回を求めていきます。
なお、日中関係全般については、日本として主張すべきは主張し、中国に対し責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかり重ね、共通の課題については協力する、建設的かつ安定的な関係の構築を双方の努力で進めていくというのが、私の一貫した方針です。今回もそうした考えに基づき、李強総理と話しをいたしました。
そのほか、EAS(東アジア首脳会議)や二国間会談の場では、厳しさを増す地域の安全保障環境についても、各国首脳と意見を交わしました。その中で、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みへの反対や、北朝鮮の核・ミサイル活動への強い非難、拉致問題の即時解決に向けた協力等について、突っ込んだ議論を行いました。
今回、各国首脳との間で一層深めることができた信頼を礎に、今後も首脳外交に更に腰を据えて取り組んでまいります。12月には、友好協力50周年を記念する日ASEAN特別首脳会議を、東京で主催する予定です。特別首脳会議では、日ASEAN協力の新たなビジョンを発表いたします。ASEANとの過去50年間にわたる協力の積み重ねも踏まえつつ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に向けた取組強化を、世界に強く発信したいと考えています。
そして、諸般の事情が許せば、今月19日からニューヨークを訪問し、国連総会ハイレベルウィークに出席する予定です。国際社会が複合的な危機に直面する中、分断・対立ではなく、協調に向けた日本ならではの対応や考え方を示す機会にしたいと思っています。
ありがとうございました。
【質疑応答】
(TBS 川西記者)
TBS川西と申します。総理、よろしくお願いします。外交全般について伺います。総理、冒頭の発言で、G20サミットのところの、首脳宣言ですね、大きな意義があったというふうにおっしゃいました。この首脳宣言ですけれども、ロシアによるウクライナ侵攻について、直接的な非難の言葉がなかったことについて、ウクライナなどからは不満の声も上がっておりますが、改めてこの点も含めて、どういう風にお考えでしょうか。また、東京電力・福島第一原発の処理水放出方針、これ、今回ずっと外遊中説明されたということで、手応えも感じられたということでしたけれども、特に中国の李強首相と立ち話等をされて、日中関係の改善の兆しは見えたのか、今度11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)で習近平国家主席との会談等模索するのか、その辺も含めての手応えを伺いたいと思います。
(岸田総理)
3つ、質問の中に要素があったと思います。今回の成果ということ、それからALPS処理水についてということ、それから3点、日中外交についてということ、3点御質問頂いたと思いますが、まず1点目、今回のG20サミットにおいては、先ほども申し上げましたが、G7の成果をG20につなげる、こうしたことを意識して会議に臨みました。食料安全保障ですとか、環境、保健、こうした課題について、今回の首脳宣言にG7の成果を踏まえた内容を盛り込んだほか、領土一体性、あるいは主権、こうしたものを含む国連憲章の原則の堅持、また、武力による威嚇・行使の不容認など、こうしたことで全ての、この、G20メンバーの間で一致することができた。これは大きな意義があったことだと思いますし、これらは正に、広島で重要性を確認した点でもありました。
広島サミットの大きなテーマは、分断・対立ではなく協調の国際社会を実現するということでありました。今申し上げた点は、正に広島サミットの成果をG20につなげられたという点であり、意義があったと思っています。
非難の言葉が弱いとか、様々な指摘があるというお話がありましたが、昨年のバリ首脳宣言と比べましても、昨年の、成果もしっかりと想起しつつ、新たな、表現で、様々、新たな要素も盛り込むことができています。領土取得を追求するための武力による威嚇や行使を慎むですとか、ウクライナにおける包括的、公正かつ恒久的な平和ですとか、国連憲章の原則の堅持、こういったことの確認、これらは、昨年の首脳宣言には含まれていない。そしてこれらが、ロシアが参加する形で改めて確認された、一致できた、このことは、意義があったと考えています。
そして、2点目のALPS処理水についてですが、今回のASEAN関連首脳会議、そしてG20ニューデリー・サミット、さらには一連の二国間会談の場において、ALPS処理水に係る我が国の考え方、これを丁寧に説明してきた結果、各国における理解、着実に広がってきていると認識しています。今回も日本の取組について、米国、豪州に加えて、インドネシア、マレーシア、太平洋諸島フォーラムの議長のクック諸島、さらにはオランダ、またトルコを始めとする多くの国々から理解や支持が示された、こうしたことでありました。
今後も引き続き、IAEA報告書の結論も踏まえ、海洋放出について、モニタリングのデータなど、科学的根拠に基づいて、高い透明性を持ち、丁寧に説明をしていきたいと思っています。
そして、3点目の日中関係全般についてですが、対話を重視しながら建設的かつ安定的な関係の構築を双方の努力で進めていく、これが私の一貫した方針です。
その観点から、今回初めて李強総理とお会いをして、私の考えをしっかりとお伝えできたことは、重要なことであったと考えています。引き続き中国との間においては、ハイレベルも含めてあらゆるレベルで意思疎通を図っていきたいと考えています。以上です。
(ヒンドゥスタン・タイムズ紙 レザウル・ラスカー記者)
総理、ありがとうございます。ヒンドゥスタン・タイムズ紙のレザウル・ラスカーです。G20は、ウクライナ危機等の地政学的な問題を巡ってこれまでにないほど分断しているとお考えでしょうか。また、国連が機能不全に陥っていると見られているため、G20はこれらの問題に取り組むためにより多くのことを期待されるのでしょうか。
(岸田総理)
はい、まず現在、国際社会は複合的な危機に直面しており、国際経済協力のプレミア・フォーラムであるG20における協力、これはますます重要になっていると感じています。
ロシアによるウクライナ侵略は、G20における協力の基盤を揺るがしかねないものであり、また、侵略による食料・エネルギー価格の高騰が続くなど、世界経済に大きな影響を与えています。
こうした観点から、今回のG20サミットにおいては、日本を含む多くのG20メンバーから、国連憲章の原則を遵守し、ウクライナの公正かつ、そして永続的な平和を実現することの重要性が強調された他、深刻化する世界経済への影響についてG20として対応していく、こうしたことも確認されました。
また、食料安全保障、環境、開発、保健、デジタル、こうした国際社会の諸課題について議論が行われ、こうした課題についても、G20で対応していくことの重要性、これも確認されました。
そして、今回、議長国インドのリーダーシップの下、G20ニューデリー首脳宣言に合意することができたこと、これは大きな意義あることであったと思っています。G20というのは国連の機能を代替するものではありませんが、しかし、大きな役割を担っているものとして、日本としても、引き続きG20の枠組も活用しながら、国際社会の諸課題に取り組んでいきたいと考えています。以上です。
(時事通信 大町記者)
時事通信社の大町と申します。内政についてお伺いします。総理は、13日にですね、帰国後の13日に自民党役員人事・内閣改造を行う考えを与党幹部に伝えられました。この時期に人事に踏み切る狙いについてお伺いしたいと思います。あと、人事については大幅に行うお考えでしょうか。麻生副総裁、茂木幹事長、あるいは松野官房長官など、政権の骨格については維持するお考えでしょうか。併せてお伺いします。月内に経済対策を取りまとめられる意向を示されていますけれども、関連して、補正予算の編成を指示するお考えはございますでしょうか。また、秋に臨時国会を召集するのか、あるいは衆院解散に年内に踏み切る意向がありますでしょうか。お伺いします。
(岸田総理)
まずあの、今の時期に、今のタイミングで人事を行う意味について御質問がありましたが、御案内のとおり、自民党の役員の任期、これ約1年と定められています。ですから、従来からこのタイミングで人事を行うということは当然想定をし、申し上げてきたところであります。そしてその中で、具体的な日にち等について、考えを申し上げたということであります。11日朝帰国後、関係者の方々と調整を進めて、早ければ13日に党役員人事、閣僚人事を行うことを考えております。人事の具体的な内容については、11日あるいは12日に本格的に調整をしたいと思っておりますので、今の時点では具体的な内容について申し上げることは控えます。
そして、いくつか御質問いただきましたが、経済対策ということについては、物価高から国民生活を守り、そして賃上げと、投資の拡大の流れをより力強いものにする、こうした経済対策にしたいと考えております。そのために必要な予算にしっかりと裏打ちされた思い切った内容の経済対策を実行したいと考えています。これを大至急行わなければならないということで、新しい体制が発足したならば、発足直後からスタートダッシュしていきたいと考えており、その陣頭指揮を執る決意であります。
そして、臨時国会等の政治スケジュールということについては、新たな体制で思い切った経済対策を作り、これを早急に実行していくこと、これを最優先にして日程について検討したいと思っています。現時点ではそれ以上のことを申し上げることはありません。以上です。
(ザ・ヒンドゥ紙 アナント・クリシュナン記者)
ありがとうございます。ザ・ヒンドゥ紙のアナント・クリシュナンです。私の質問は、日本のインド太平洋政策・戦略についてですが、特に、南アジア・インド洋地域における軍事的要素についてお聞かせいただけますか。また、アンダマン島についてもお伺いします。アンダマン島での軍事演習や共同警備、又は日本船の給油の可能性について、日本はインドとより緊密に協力する方向で動いているのでしょうか。
(岸田総理)
はい、まず我が国が推進している「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」は、インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序、これを維持・強化することによって、地域全体、さらには世界の安定と繁栄、そして平和を確保していく、こういったビジョンです。よって、これは、包摂的で開かれたコンセプトであり、特定の国を念頭に置いたものではありません。我が国は、これまでも、またこれからも、こうした考え方に賛同する国、地域、どの国あるいは地域でも、こうした考え方に賛同する国や地域であれば協力をしていく考えです。
今年3月、正にここニューデリーにおいて、私はFOIPの新プラン、これを発表いたしました。その中で、海や空の安全保障、さらには安全利用の取組、これをFOIPの協力の柱の1つとしました。そしてその具体策として、海洋法執行能力の強化、あるいは海洋安全保障の取組の強化、こうしたことを打ち出しました。
特に、インドは、このFOIP実現において必要不可欠なパートナーであると思っています。自衛隊とインド軍の間においては、本年すでに陸海空全ての軍種で、軍種間で、共同訓練、これを実施し、協力関係を着実に進めています。例えば、本年は昨年に引き続き、海上自衛隊とインド海軍による共同演習、7月に実施しています。また、日米印豪、この4か国の共同訓練、共同演習「マラバール」この共同演習も継続して実施をしています。
こうした取組を続け、今後も、インド太平洋地域が、力や威圧によって物事が決まるということとは無縁で、やはり自由と法の支配を重んじる場となるように、インドと防衛協力あるいは交流、これを引き続き活発に進めていきたいと考えています。以上です。