データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 経済対策についての会見(岸田内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2023年9月25日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

 先ほど、自民党、公明党、両政調会長に対しまして、明日の閣議で、来月中をめどに経済対策を取りまとめる指示をすることを伝えました。与党においても十分な検討を進めて、そして政府に対して提言を頂く、これをお願いした次第であります。今回の経済対策については、2つ大きな目的があります。ここにありますが、第1が向こう側ですが、物価高に苦しむ国民に対して、成長の成果について適切に還元を行うということであります。これについては、コロナ禍で苦しかった3年間を乗り越えて、経済状況は改善しつつあります。3.58パーセントの賃上げ、名目100兆円の設備投資、また、50兆円もの需給ギャップの解消も進みつつあります。税収も増加しています。他方、コロナ禍を乗り越えた国民の皆様は、今度は物価高に苦しんでいます。今こそ、この成長の成果である税収増等を国民に適切に還元するべく、経済対策を実施したいと考えています。

 そして、第2は、こちら側ですが、日本経済が、長年続いてきたコストカット型の経済から30年ぶりに歴史的転換を図る、この歴史的転換を着実に図れるよう、強力に政策的に後押しをしていく、これが、2つ目の目的であります。人への投資、賃金、さらには未来への投資である設備投資や研究開発投資まで、コストカットの対象として削ってきたことで、消費と投資の停滞を招いた、この状況を「冷温経済」と呼んだ専門家もおられましたが、我々はようやくこの「冷温経済」を脱し、活発な設備投資、あるいは賃上げ、そして人への投資による経済の好循環を実現し、経済の熱量を感じられる「適温経済」の新たなステージに移れるチャンスを、今、迎えています。このチャンスを逃すわけにはいきません。岸田政権では今後、3年間を変革期間として、三位一体の労働市場改革や、持続的賃上げを伴う消費の活発化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、またGX(グリーン・トランスフォーメーション)など、未来への投資促進やスタートアップ育成を始めとする、企業の新陳代謝による経済の供給力の強化・高度化などに集中的に取り組んでいくこととしています。その際に大切なのは、スタートダッシュです。足元を見ると、国民の皆様は物価高に苦しんでおり、個人消費や設備投資も力強さに欠ける不安定な状況にあります。各種の給付措置に加え、税制や社会保障負担の軽減などあらゆる手法を動員することで、熱量あふれる新たな経済ステージへ移行することへの方向感、これを明確かつ確実にし、「冷温経済」へ決して後戻りすることがないよう、経済対策を実行していきたいと考えています。

 そして、今申し上げたこの2つの目的を着実に実行できるように、今回の経済対策では、ここにあります5つの柱、これを重視していきたいと思います。第1に、足元の急激な物価高から、国民生活を守るための対策、第2として、地方、中堅・中小企業を含めた持続的な賃上げ、所得向上と地方の成長の実現、そして3つ目として、成長力の強化・高度化に資する国内投資の促進、そして4つ目として、人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革の起動と推進、そして5つ目として、国土強靱(きょうじん)化、防災・減災など、国民の安心・安全の確保、この5つを柱として経済対策を考えていきたいと思っています。今後、政府・与党の密接な連携の下、精力的に取りまとめを進めてまいります。そしてこれを取りまとめた後、速やかに補正予算の編成に入りたいと考えています。

 なお、従来より経済対策はスピードが大事であると申し上げてきました、このため、対策の取りまとめを待つことなく、既にガソリン補助金等を開始しているところですが、若い世代の所得向上や人手不足への対応の観点から、「年収の壁」支援強化パッケージについても、週内に決定し、時給1,000円超えの最低賃金が動き出す、来月から実施してまいります。「130万円の壁」については、被用者保険の適用拡大を推進するとともに、次期年金制度改革を社会保障審議会で検討中ですが、まずは「106万円の壁」を乗り越えるための支援策を強力に講じてまいります。具体的には、事業主が労働者に「106万円の壁」を超えることに伴い、手取り収入が減少しないよう支給する社会保険適用促進手当、これを創設いたします。こうした手当の創設や、賃上げで労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対し、労働者1人当たり最大50万円を支給する助成金の新メニュー、これを創設いたします。こうした支援によって、社会保険料を国が実質的に軽減し、「壁」を越えても、給与収入の増加に応じて手取り収入が増加するようにしてまいります。政府としては「106万円の壁」を乗り越える方、全てを支援してまいります。このため、現在の賃金水準や就業時間から推計して、既に目の前に「就労の壁」を感じておられると想定される方々はもとより、今後、「壁」に近づく可能性がある全ての方が「壁」を乗り越えられるよう機動的に支援できる仕組みを整え、そのための予算上の措置を講じてまいります。

 そして、この経済対策の重要な部分となる成長力の強化についてですが、成長力強化に向けて賃上げ税制の減税制度の強化、また、戦略分野の国内投資促進や、特許などの所得に対する減税制度の創設、また、ストックオプションの減税措置の充実の検討など、持続的賃上げや国内投資促進に向けた重点項目につきまして、明後日27日に新しい資本主義実現会議で議論を行います。

 さらには本日、認知症の治療薬として、レカネマブが薬事承認されました。アルツハイマー病の原因物質に働きかける画期的な新薬であり、認知症の治療は新たな時代を迎えたと考えています。同じ27日に、認知症と向き合う高齢社会実現会議を立ち上げ、認知症施策の総合的な推進に向けて検討を深めてまいります。また、6月に策定した、こども未来戦略方針に基づく、こども・子育て支援についても、スピード感ある実行を行っていくため、できるところから取組を実施してまいりたいと考えています。こども未来戦略会議を来月初めには開催いたします。

 このように経済対策の策定、これを最優先にしながら、変化を力にする日本に向けて、先送りできない課題に一つ一つ取り組んでまいります。私からは以上です。

(補正予算案提出時期と10月に解散に踏み切る可能性について)

 本日説明した柱立てに基づいて、この10月をめどに、政府・与党と緊密に連携しながら、経済対策を取りまとめることとしています。そして、その後速やかに、補正予算の編成に入ることとしたいと思っています。御質問は解散についてということでありますが、経済対策を始め、先送りできない課題、これに一意専心取り組んでいく、これはもう従来から申し上げております。現在、それ以外のことは考えてはおりません。

(円安の是正の必要性について)

 円安、為替相場については、ファンダメンタルズ、これを反映して、そして安定的に推移することが重要であるということ、それから過度な変動、これは望ましくないということ、これは従来から申し上げてきたとおりであります。政府としては、為替相場については、引き続き高い緊張感を持って注視していきたいと考えてはおりますが、基本的な考え方は今申し上げたとおりであります。

(経済対策の柱立てに半導体の生産支援は含まれているか及び単身者や自営業者による保険料支払の不公平感の課題について)

 まず1点目の質問については、経済対策は、そもそもこれから取りまとめるわけですから、個別具体的に、これが対象になります、なりません、これを今の段階で申し上げることは控えなければならないとは思いますが、半導体を始めとした戦略分野について、国内投資を促進し、成長力を強化していく、これは重要な考え方であると思っています。地方を含めた、こうした成長分野への投資、これは雇用の創出ですとか、あるいは持続的な賃上げ、さらには所得向上に向けて、大変重要な取組であると考えています。そういう考えに基づいて経済対策を取りまとめていきたい、このように思っています。

 それから、今おっしゃった、要するに「就労の壁」についてですが、これは1つ、経済対策の中で重要な考え方として紹介させていただきました。ですから、この対策の対象になる方以外についても、どのような経済対策を用意するか、これは、正にこれから与党とも議論をしながら、来月中に取りまとめるということであります。今、御説明した「就労の壁」の点については、政府として重視していきたいということを申し上げました。それに加えてどんな対策が必要なのか、与党ともしっかり連携していきたい、このように思っています。

(防衛増税の実施時期と今後の方向性について)

 防衛力強化に伴う、いわゆる税制措置ですが、これは従来から考え方を申し上げてきたとおりです。防衛力抜本的強化のための税制措置の実施時期については、昨年末決定した閣議決定の枠組み、また本年の骨太方針、これに基づいて、行財政改革を含めた財源調達の見通し、そして景気や賃金の動向及びこれらに対する政府の対応、これを踏まえて判断していく、この方針は変わっておりません。引き続き政府・与党、緊密に連携し、柔軟に判断していきたいと考えています。以上です。