[文書名] 岸田内閣総理大臣記者会見
【岸田総理冒頭発言】
先週の所信表明演説では「経済、経済、経済」と強調し、この政権は何よりも物価高対策、そして経済対策を重視しているとの決意を申し上げました。その決意を「デフレ完全脱却のための総合経済対策」として、政府・与党で本日決定いたしました。
まず、今回の経済対策の考え方です。
バブル崩壊後の30年間、我が国はデフレに悩まされてきました。日本企業、特に大企業は、短期的な業績改善を優先して値下げをし、そして利益を確保するためにコストカットを進めてきました。あえて単純化すれば、賃金・投資を抑え、下請企業に負担を寄せてきました。
総理に就任した際、私が「新しい資本主義」を掲げたのは、この縮小均衡のコストカット型経済の悪循環を一掃しなければ、日本経済が再び成長することはできないと考えたからです。
この2年間、経済界に賃上げや設備投資、研究開発投資を強力に働きかけてきました。また、価格転嫁の推進など下請企業の取引改善に全力で取り組んできました。この結果、30年ぶりとなる春闘における大幅な水準の賃上げ、過去最大の民間投資、30年ぶりの株価水準、50兆円のデフレギャップ解消が実現し、今年4-6月期のGDP(国内総生産)は名目・実質とも過去最高となりました。
しかしながら、まだまだ道半ばです。
賃金が上がり、家計の購買力が上がることで消費が増え、その結果、物の値段が適度に上がる、それが企業の売上げ、業績につながり、新たな投資を呼び込み、企業が次の成長段階に入る。その結果、また賃金が上がる。そうした好循環はまだ完成していません。
鍵を握るのは、賃上げと投資です。
足元における最大の課題は、賃上げが物価上昇に追いついていないということです。この背景には、余裕のある一部の大企業は賃上げができても、多くの中小・零細企業では、まだまだ賃上げをする余裕がないという事情があります。デフレから完全に脱却し、賃上げや投資が伸びる、拡大好循環を実現するためには一定の経過期間が必要です。
そこで、今回の経済対策では、2段階の施策を用意いたしました。
第1段階の施策は、年内から年明けに直ちに取り組む、緊急的な生活支援対策です。具体的には、生活に苦しんでいる世帯に対し、既に取り組んでいる1世帯3万円に加え、1世帯7万円をできる限り迅速に追加支給することで、1世帯当たり10万円の給付を行います。このことにより生活を支えてまいります。
第2段階の施策は、来春から来夏にかけて取り組む、本格的な所得向上対策です。まず、来年の春闘に向けて、経済界に対して、私が先頭に立って、今年を上回る水準の賃上げを働きかけます。同時に、労働者の7割は中小企業で働いています。このため、年末の税制改正で、赤字法人が多い中小企業や医療法人なども活用できるよう、賃上げ税制を拡充するとともに、価格転嫁対策の強化など取引適正化をより一層進めるなどにより、中小企業の賃上げを全力で応援します。
このように、政府として全力で賃上げを進める環境を整備する予定ですが、それでもなお、来年に国民の賃金が物価を超えて伸びていく状況となるのは確実ではありません。しかし、今回のチャンスを逃せば、デフレ脱却が難しくなります。確実に可処分所得を伸ばし、消費拡大につなげ、好循環を実現する。
そのため、私は、来年の6月のボーナスのタイミングで、本人・扶養家族を問わず、1人当たり計4万円、約9,000万人を対象に、総計3兆円半ばの規模で所得税・住民税の定額減税を行いたいと考えています。本人・扶養家族を問わず、お一人ずつ減税を行うことで、過去に例のない子育て支援型の減税ともなります。例えば子供二人の子育て世帯では16万円の減税となります。
このように、来年夏の段階で、賃上げと所得減税を合わせることで、国民所得の伸びが物価上昇を上回る、そういった状態を確実につくりたいと思っています。そうすれば、デフレ脱却が見えてきます。
さて、「減税ではなく、給付金を支給すれば、もっと早い時期にお渡しできるのではないか」という意見があることは承知しています。先ほど申し上げたように、給付金は第1段階の緊急的な生活支援を行うものです。その上で、今回の所得減税は、第2段階の本格的な所得向上、そして好循環実現のために行うものです。幅広い国民の所得を下支えする観点からは、来年夏のボーナスの時点で、賃上げと所得減税の双方の効果が給与明細に目に見えて反映される、そうした環境をつくり出すことが必要だと考えています。
また、「防衛費や少子化のために、今後、国民負担の増加が避けられないのであれば、減税をすべきではない」という御指摘もあります。しかし、政策には順番というものがあり、そして、順番が何よりも重要です。
防衛費については、GDP比2パーセントに強化された防衛力を(令和)9年度以降維持するため、その9年度に向けて財源を確保することとしております。そのためにも、まずは国民の暮らしを守るため、デフレ脱却を確実にし、成長経済を実現するための取組を先行させることが重要であり、今回の減税と同時に防衛の税制措置を実施することは考えておりません。
少子化については、デジタル化(注1)の推進による効率化を含めた社会保障改革を進めることで、実質的な国民負担の増加にならないよう検討してまいります。時期についても、複数年にわたって社会保障改革を進める中で対応することとしており、今回の所得税減税と矛盾するものではありません。
言うまでもなく、強い経済は全ての政策の基盤です。
所信表明演説で「経済、経済、経済」と申し上げたのも、経済活性化なくして強い安全保障も持続可能な社会保障も実現できない、そうした確信に基づいたものです。現下の最優先は、デフレから脱却し、経済を成長経路に乗せるということです。まず経済活性化、その順番を御理解いただきたいと思います。
今正に、デフレ脱却ができるかどうかの瀬戸際だからこそ、あらゆる政策を総動員し、国民の可処分所得を拡大する。所得減税は、そのために行うものであることを改めて強調したいと思います。
国民の可処分所得を後押ししながら、我が国の「稼ぐ力」を強くしていくために全力を挙げます。しっかりと投資を後押しし、過去最大の投資が行われつつある現在の流れを更に強めてまいります。これによって賃上げの流れを確実なものとして、成長と賃金の好循環を回します。
賃上げ促進税制、最も重要な「人への投資」の拡大を図ります。これまで赤字で税制を使えなかった中小企業にも使いやすい形に強化してまいります。
投資減税と戦略投資支援。熊本県では、既に半導体の大型投資によって良質な雇用が生まれ、賃上げが広がっています。半導体、蓄電池、電気自動車などの戦略分野で過去に例のない税制や補助制度を講じ、全国で次々と大型投資を呼び込んでまいります。
中小企業の省エネ・省力化投資。小売、飲食、宿泊業からものづくりまで、人手不足に対応するメニューをカタログから選択し、現場の企業に使いやすい形で支援いたします。
物流・交通のデジタル化。デジタル情報配信道等を整備し、自動運転トラックを活用した物流の実証を行います。2024年問題に直面する物流投資も後押ししてまいります。
暮らしのGX(グリーン・トランスフォーメーション)。御家庭も投資の担い手です。ヒートポンプ設置、断熱窓への改築、電気自動車の購入補助など、光熱費を削減し、快適な暮らしを応援します。
「年収の壁」についても、長年、106万円、130万円の「壁」の存在が指摘されてきましたが、今般、就労時間を気にすることなく働く環境を整えることで、希望する所得を得られ、「壁」を実質的に無くしていくよう、具体的な支援を用意し、既に実行しております。
このように、予算、税、制度・規制改革などあらゆる手法を盛り込みました。特に規制・制度改革については、36項目、2013年以降に取りまとめられた経済対策では最多となります。あらゆる手法を総動員して「稼ぐ力」を強化してまいります。
今回の経済対策の規模は全体で17兆円前半程度を見込んでいます。私にとって、飽くまで最優先しているのは、デフレからの脱却を行い、経済を成長経路に乗せるということにあります。経済が成長してこそ税収も増え、そして財政健全化にもつながっていきます。国民の皆様には、まず経済活性化、その順番を御理解いただきたいと思います。そうした考えの下、一時的な所得減税を含む経済対策を策定しました。
その一方で、大規模な補正予算を講じてきたコロナ禍への対応が一段落した以上、歳出構造を平時に戻していく方針は堅持していきます。今回の経済対策策定に当たっても、合わせて5兆円となる予備費を半減し、財源として活用いたします。年末までの予算編成過程で更なる歳出構造の平時化を検討してまいります。
本日決定した経済対策については、その裏付けとなる補正予算を編成し、臨時国会に提出して、早期に成立させていきます。長く続いたデフレからの完全脱却は、「明日は今日より良くなる日本」を実現していくための最大の課題です。政府、経済界、労働界を始め、国民全体でこれに取り組むことが必要です。政府は先頭に立って全力を尽くします。国民の皆様の御協力を引き続きお願い申し上げます。
【質疑応答】
(内閣広報官)
それでは、これから皆様より御質問を頂きます。質問をされる方は、挙手の上、指名を受けてからお近くのスタンドマイクにお進みいただき、社名とお名前を明らかにしていただいた上で、1人1問、御質問をお願いいたします。
それでは、まず、幹事社から御質問いただきます。
北海道新聞、藤本さん。
(記者)
北海道新聞の藤本です。よろしくお願いいたします。
経済対策で発表された減税について質問します。総理は、税収増の還元策として、所得税・住民税の減税実施を表明しました。ただ、実施は来年6月の予定で、国会審議でも「物価高にあえぐ国民への支援としては遅い。より早い支援につながる給付金支給にすべきだ」との声が相次ぎました。なぜ給付では駄目なのか。なぜ減税にこだわるのか。先ほど総理も御説明されましたが、低所得世帯以外の世帯でも、今、生活に困窮している方々は多くいるはずです。こうした状況だと、総理の御説明というものが多くの国民の腑(ふ)に落ちていないのではないかというふうに感じております。より分かりやすいメッセージで、改めてその理由をお聞きしたいと思います。
また、支持率低下が続く中で、近年の政権ではなかった所得減税を打ち出すことで、年末あるいは来年の通常国会で減税の是非を問う解散に踏み切るのではないかとの臆測もありますが、そうしたお考えがおありなのかについても、併せてお聞きします。
(岸田総理)
まず、所得減税のタイミングについては、今も申し上げましたが、今年7月に公表された内閣府の年央試算においても、来年度中には名目賃金の伸びが消費者物価に追いつくという試算が示されています。また、民間のエコノミストの意見をいろいろとお伺いする中で、実質賃金がプラスに転じるタイミング、2024年度あるいは2025年度と指摘されるエコノミストの方が多いと認識しています。
こういったことを考えますと、やはり来年度、これは賃金が物価に追いつく上で、デフレ脱却ができるかどうかということにおいて、これは正念場であると認識しています。ここに的を絞って、デフレに後戻りさせないための一時的な措置として、所得税・住民税の定額減税を行うことを考えました。
来年度の賃上げが大変重要であるという中において、減税のスタートの時期については、賃上げとの相乗効果を発揮できるタイミングを考えるべきだということで、来年、ボーナス月である6月であれば、賃上げと定額減税、双方の効果を給与明細において目に見える形で実感することができる、幅広い国民が所得の下支えを実感することができる、このように考えました。
そして、御指摘のように、低所得者層の方々に対しては給付で対応するということで、重点支援交付金を約1.6兆円追加する、さらには額だけではなく、よりきめ細かい支援を用意するということで、推奨事業メニュー0.5兆円で地域の実情に応じて生活者、事業者に対してきめ細かい支援を用意する、こういった工夫も行った。こういったことであります。これらは年内の実施開始を目指して努力するということです。そして、それ以外にも、エネルギーの激変緩和措置など、国民生活と幅広い関わりのあるエネルギー分野における激変緩和措置は来年春まで延長する。こういった対策も引き続き続けてまいります。
解散についても御指摘がありましたが、解散については、従来から申し上げておりますように、今は先送りできない課題、これに一意専心取り組んでいく、それ以外のことは考えていない。経済について、今、御説明させていただいた思いで、全力で取り組んでいきたい。このように思っております。
(内閣広報官)
それでは、次、千葉さん。
(記者)
産経新聞の千葉と申します。よろしくお願いいたします。
総理、憲法改正についてお伺いしたいと思います。総理は、今国会でも、自民党総裁任期中の改憲を目指すということを改めて表明されました。具体論で言えば、これまでの衆議院憲法審査会の議論では、いわゆる緊急事態条項に関して与野党で原案をまとめられるかということが一つの焦点に絞られているかと思われます。総理は、国会で、自民党内での議論を加速させるということも表明されましたけれども、党の総裁として、憲法の具体的な改正の条文化にどのように指導力を発揮していくお考えか、お聞かせください。
(岸田総理)
先の通常国会において、衆議院の憲法審査会において、御指摘の緊急事態条項の論点の整理を取りまとめた。こういったことが行われたと認識しており、こうした活発な議論については歓迎したいと思いますし、関係者の努力に敬意を表したいと思います。ただ、これ以上具体的なことを申し上げるのは、私は行政府の長でありますので、立法府、国会の議論の進め方について何か細かく申し上げる、これは当然控えなければならない立場にあるとは思っています。ただ、憲法改正、これは最終的には国民の皆様の御判断が必要である、こうした議論でありますので、国会における発議に向けて手続をするためにも、より積極的な議論が行われることは期待したいと思っています。そして、あわせて自民党総裁としては、党内の議論を加速させるために、メンバー、陣容の拡充など、議論に向けての覚悟、強い思いを形で示しながら議論を進めていく、こういったことを総裁としては取り組んでいきたいと考えています。
以上です。
(内閣広報官)
篠原さん。
(記者)
テレビ東京、篠原です。よろしくお願いします。
総理に直接申し上げるのは大変失礼かもしれませんけれども、インターネットなどでは総理のことを「増税メガネ」などと呼ばれていて、総理自身に増税のイメージがついています。このことについて、総理は率直にどのように感じていますか。また、この「増税メガネ」という言葉に代表されるように、総理についた増税のイメージを総理自身が気にされて、それを払拭しようとして、今回、減税に踏み込んだのではないかという見方も出ているのですが、この点についてはいかがでしょうか。
(岸田総理)
まず、御指摘のように「増税メガネ」など様々な呼ばれ方をされているということは、私も承知しております。ただ、どんなふうに呼ばれてもこれは構わないと思っております。どんな呼ばれ方をしようとしても、やるべきだと信じることをやるということなのだと思います。経済対策も、また防衛力の強化も、こども・子育て政策も、またエネルギー政策も、国民の皆様のため、我が国の経済のためにやるべきと信じているものについて、これからもやっていくということに尽きるのだと思っています。政策の順番とかやり方等には工夫をしながら、やるべきだと自分が信じることについて決断し、そして実行していく。こうした姿勢はこれからも大事にしていきたいと思っています。
(内閣広報官)
それでは、次の方、東京新聞の大杉さん。
(記者)
東京新聞の大杉です。
防衛増税の関連をまた伺いたいのですけれども、総理、今、冒頭にも政策の順番が大事だというふうにおっしゃったのですけれども、防衛増税を昨年決めた上で、今年また減税を打ち出すというところが、やはりちょっと理解が得られていないような気がするのですけれども、実施は来年しないというのは法律自体が成立していない、関連法が成立していないので、それはそうかなと思うのですけれども、その打ち出し方として、果たして国民に理解が得られるような順番だったのかどうかというところをどう考えていらっしゃるかということと、一方で、信じることを今やるというふうにおっしゃいましたけれども、であれば、その防衛増税の関連法について、来年の通常国会、臨時国会、来年中に提出するようなお考えがあるのかどうかというところも併せて伺えますか。
(岸田総理)
まず、今の経済対策、そして防衛力強化、これはそれぞれ、我が国にとって先送りできない、大変重要な課題だと思います。防衛力強化の議論、御指摘のように去年から行ったわけでありますが、その中で経済というのは絶えず変化しています。2年間新しい資本主義という形で官民を挙げて賃上げ、そして投資に取り組んできた、明るい兆しがようやく見えてきた、このタイミングを逃すことはできないということで、この経済のチャンスをしっかり物にしなければいけないということで、経済対策、今、申し上げています。
そして、両者の関係から申し上げますと、防衛力強化に向けての税制措置ですが、その税制措置の中身、所得税については現状の家庭の負担を増やすことがない、こういった対応をするということを申し上げています。要は、所得税について今回減税することと防衛力強化の税制措置、これは矛盾するものではないと思っています。
防衛力強化に向けての税制措置は、法人税が大きなものとしてありますが、法人税についても94パーセントの法人は対象外にするなど、配慮をするなど、中身においても経済との関係が矛盾しないように議論を積み上げたわけでありますし、そして、実施時期についても、昨年末の閣議決定において、令和9年度に向けて複数年かけて税を準備していく、9年(度)以降は財源をしっかり維持していくわけですが、それに向けて、9年(度)に向けて財源を積み上げていく、こういったことを確認しています。その際に、賃上げやあるいは経済に十分配慮した上でタイミングを考える、これも閣議決定しております。
ですから、先ほど申し上げたように、今は経済対策に専念する。防衛力強化に向けての税制措置については少なくとも来年、(令和)6年度にスタートする環境にはないと考えている。こういったことを私は申し上げてきたわけであります。
このように、経済対策、そして防衛力強化、共に大事な課題であります。そして、動いている経済において、経済はまず今のタイミングが大事だ、これをしっかりと進めて、デフレ脱却することが防衛力をしっかり支える上においても大事だ、こういった判断で、今、申し上げているような順番で経済政策を進めていく、こういったことを考えております。
(内閣広報官)
それでは、次に、信濃毎日の加賀さん。
(記者)
信濃毎日新聞の加賀です。よろしくお願いします。
少子化対策に関連して伺います。6月に決定したこども未来戦略方針では、学校給食費の無償化に向けて、まずは自治体の取組の実態や成果、課題の調査などを速やかに行い、1年以内に結果を公表するとしています。子育て支援をめぐっては、給食だけでなく、子供の医療費の助成でも自治体の財政力によって差が生じているのが現状です。子供がどこに住んでも同じ支援を受けられるよう、政府として支援の充実を図る考えがあるかどうか伺います。
(岸田総理)
御指摘の学校給食費ですが、無償化に向けては、今、調査を進めている、論点整理をこれから行う、こういった取組を進めるわけですが、学校給食費については、国はこれまで、生活保護による給食扶助あるいは就学援助等を通じて自治体が行う支援を下支えしてきた、こうした取組を進めてきました。そして、今、現下の物価高騰に対して、政府において重点支援地方交付金の奨励メニューを活用し、ほとんどの自治体において値上げが抑制されている、保護者負担の軽減を行っている、こうした状況にあると承知しています。そして、今回の経済対策においても、重点支援地方交付金、この推奨事業メニュー分0.5兆円を追加して、更にこれを活用して負担軽減に努めてもらいたい、こういったことを申し上げています。
御質問の趣旨は地域における格差についてどう対応するかということでありますが、今、申し上げた形で国として、地方の学校給食費抑制の取組を下支えする、応援していく、こういった体制でできるだけ幅広い地域において負担軽減の動きが徹底していく、こういった努力を続けていきたい、このように思っております。
(内閣広報官)
それでは、NHK、清水さん。
(記者)
NHKの清水です。お願いします。
財政の考え方をお聞きします。税収が増える中、今回、給付と減税という還元策が盛り込まれました。政府は財政健全化目標の達成時期を2025年度としていますが、これを堅持する考えでしょうか。それとも、経済状況に応じて柔軟に対応することもあり得るのでしょうか。
また、先ほど総理、冒頭に言及がありましたけれども、将来の国の財政という面で、今回の対策がどのような効果を持つことを期待しているでしょうか。お願いします。
(岸田総理)
まず、結論から申し上げるならば、プライマリーバランスを2025年度に黒字化していく、こういったこれまでの財政健全化目標、この変更は考えておりません。
今回の経済対策において、財政的に一時的なマイナスが生じたとしても、我が国の経済が長年苦しめられてきたデフレからの完全脱却、これをもし成し遂げることができたならば、これは中長期的に財政にとってもプラスになると考えています。ストックとしての債務残高が実質的に軽減される、こういったこともありますし、その税収の増加分、これは財政健全化に寄与する、こういったことでプライマリーバランスも改善につながる、こうしたことであると考えています。
私自身、従来から経済あっての財政だと申し上げてきました。経済を建て直し、そして、今言ったような形で財政健全化に向けても取り組んでいく、こういった姿勢はこれからも徹底していきたいと考えております。
(内閣広報官)
では、ジャパンタイムズのニニヴァッジさん。
(記者)
ジャパンタイムズのニニヴァッジと申します。よろしくお願いいたします。
インバウンド戦略について伺います。先月10月は、コロナ禍後の観光目的の個人旅行による入国を再開してから1年がたちました。訪日旅行者がコロナ前の水準に回復し、旅行者消費額並びに宿泊者数も高いレベルに達している一方、足元でオーバーツーリズムのような課題も山積しております。政府は2025年までに外国人旅行者数3,200万人超えの目標を打ち出していますが、更に長期的な目標を設定するおつもりはあるのかお聞かせください。また、観光業界においても人手不足が深刻さを増す中、人手の確保にどのように取り組んでいくのか、併せて伺います。
(岸田総理)
昨年10月、水際対策緩和をいたしました。その後、観光需要、急速に回復しています。足元では外国人旅行者の旅行消費額5兆円目標、これも前倒しすることができる、こういったことも視野に入ってきている、こういった状況です。これらの対策に引き続き、様々な対策、これからも進めることによって、観光ビジョンに基づいて2030年、訪日客6,000万人、消費額15兆円、こうした数字も目指していきたいと思います。観光地、観光産業の高付加価値化と住民の皆様の生活との調和、これが持続可能な観光地域づくりを実現する上で重要だと思っています。
御指摘のように観光客が集中する一部の地域、あるいは時間帯によっては、過度の混雑ですとか、マナー違反ですとか、旅行者の満足度低下、こういった懸念が指摘されています。いわゆるオーバーツーリズムの問題が指摘されています。これに対して政府としては、オーバーツーリズムの未然防止、抑制に向けた対策パッケージを先月取りまとめました。今回の経済対策の中においても、オーバーツーリズムの未然防止・抑制、高付加価値なコンテンツの創設、また観光の人材不足対策など、訪日外国人旅行者の受入れ環境整備、こういった対策を進めることによって、持続可能な観光を実現していくことは重要だと思います。先ほど申し上げました目標に向けて、一方でこうしたオーバーツーリズムに対してもしっかり目配りをしていく、この両方を追求していきたいと思っています。
(内閣広報官)
では、朝日の村松さん。
(記者)
朝日新聞の村松です。よろしくお願いします。
減税について伺います。先ほど増税イメージを払拭するための減税なのではないかという質問がありましたが、そうした見方を強めているのは、やはり減税に唐突感を抱く人が少なからずいるからだというふうに思っておりますが、首相がこの減税をやろうと決めたのはいつなのか、減税を打ち出すまでの経緯を少し丁寧に説明していただけますでしょうか。
また、2年分の増収部分を国民に還元するということですが、この2年というのがどういう合理的な根拠があるのか。政権発足2年を迎えた岸田政権の実績という意味での増収という意味なのかどうか、この2年についての合理的な説明をお願いできますでしょうか。
(岸田総理)
まず、減税について考えた経緯について御質問がありましたが、これは経済対策そのものを考える中で、今の経済の状況をどう判断するか、そこから議論を始めたわけです。そして、幸いこの2年間の新しい資本主義等の取組によって明るい兆しが見えてきた。しかし、最大の課題はこれを持続できるかどうか、これがデフレ脱却のポイントだ、こういった実情をしっかり把握しながら問題点を整理していった、こういったことでありました。
そして、これを、先ほど申し上げたように「稼ぐ力」をつけることによって持続させていくよう努力したいと思いますが、今現在、世界的なエネルギー危機を始め、外生的な要因も多分にあって、大変な物価高騰に見舞われている。物価に賃金が今現在は追いついていないわけです。賃金はまだ伸ばそうといているわけですが、可処分所得、余裕がないと消費が萎縮してしまうことになるわけですから、来年、賃金はもちろん上げるわけですが、そこに可処分所得を支援することによって、消費等も萎縮することなく、賃金と、そして投資の好循環、成長と分配の好循環、これをしっかり回すところに持っていけるかどうか。こういったことを考えますときに、可処分所得の下支え、この方法を考えなければいけない、こういったことになった。そして、可処分所得の下支えの方法として、給付もある、減税もある、そして、緊急に必要とされている方もある、そして一方で、こども・子育てで苦労されている家庭もある、そういった中で、給付のタイミングと、そして増税のタイミング、これをどう組み合わせるのか、こういった議論を行い、結果として、減税としてもいろいろな税はあるわけですが、所得税を来年のボーナスの時期に減税するというタイミングに行き着いた、こういったことでありました。
2年間の意味ということですが、おっしゃるように政権を担って2年間、新しい資本主義という形で民間の方々にも協力していただきながら経済政策を進めてきた、こういった2年間でありましたが、その2年間はコロナ禍において、国民の皆様に御苦労いただいた、こういった時期でもあります。こういった時期、様々な経済活動の結果として、税金、特に所得税・住民税、3兆円余りの増収が示されている。その税の増収を可処分所得の下支えに使う。そして、やはり分かりやすい形が適切である。同じ所得税・住民税で直接国民の皆様にお返しする、こういった方法を採るべきではないか。
2年間と、そして税の種類の判断、こういった関係も考えながら結論に行き着いたということであります。様々な検討・議論を積み重ねた結果、先ほど紹介させていただいた今回の経済対策に行き着いた。これが経緯であったと振り返っています。
(記者)
いつぐらいに。
(岸田総理)
これは、経済対策を今日発表したわけですが、今日、用意するまでの間というか、政府として与党にしっかりと基本的な方向性を示した時期がありましたが、それまでに、今、申し上げた作業を積み重ねてきた、そういったことであります。
(内閣広報官)
それでは、大変恐縮ですが、この後、総理の用務が入っておりますので、あと2問とさせていただきます。
では、フリーランスの横田さん。
(記者)
フリーランスの横田です。よろしくお願いいたします。
インボイス制導入についてお聞きします。先般、50万を超える反対署名が提出されたことは総理も認識していると存じます。今後、立場が弱く、所得が低いフリーランスや零細企業にしわ寄せが来るのは間違いありません。3年の控除を設けていますが、逆に支払ができずに廃業を選択する期間が3年伸びたようにも見えます。
総理は、将来的に消費減税を全く今から否定するものではないと答弁なさっていますけれども、そもそも論の複数税率の見直しを行う気はありますか。また、複数税率の是非を国民に問う予定はありますでしょうか。お答えください。
(岸田総理)
まず、消費税減税は、今、考えてはおりません。その上で、軽減税率制度ですが、これはそもそも消費税を引き上げたときに、低所得者への配慮として導入された制度です。日々の生活において幅広く消費者が消費したり、活用したりする商品について、消費税負担を直接軽減することによって消費税の逆進性を緩和する、こういった効果を期待して導入された制度ですので、軽減税率制度を廃止する、要は、複数税率を見直す、こういったことについては考えておりません。
そして、インボイス制度、こうした軽減税率制度をしっかりと維持するために大切な制度であると考えています。御指摘のように不安の声が中小・小規模事業者の中にある、これは十分承知しております。ただ、インボイス導入を決めてから、長年にわたってこの問題について説明すると同時に、様々な支援策を用意してきました。引き続き、今、実施がスタートしたわけですから、実施状況をフォローアップしながら、不安解消に向けてきめ細かく対応していく、柔軟に対応していく、こういった姿勢は大事だと思います。是非引き続き、このインボイス制度に対する理解、国民の皆様の理解について努力を続けていきたいと私は思っています。
(内閣広報官)
AP、山口さん。
(記者)
AP通信の山口です。よろしくお願いします。
ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出に関してお尋ねいたします。本日、3回目の放出が始まり、8月24日の開始以来2か月以上がたちました。IAEA(国際原子力機関)などによって、今までのところは問題なく進行しているということですが、中国は、日本の水産物の禁輸措置をまだ続けております。この状態がいつまで続くのか。今後、日本は、中国に対してどのように対応していかれるのでしょうか。例えばWTO(世界貿易機関)への提訴なども視野に入ってくるのかどうか、今後の日中関係も含めて教えてください。よろしくお願いします。
(岸田総理)
まず、ALPS処理水については、これまで科学的根拠に基づいて、透明性をもって説明する、こういった姿勢を日本としては貫いてきました。こういった国際社会に対する説明、働きかけによって、国際社会の多くの国々においては、日本の考え方、科学的根拠から御理解いただいてきていると思っておりますが、ただ、御指摘のように、一部の国においては、科学的根拠に基づかず、日本産品の輸入規制(注2)を行う、こういった国々があります。
こうした国に対しては、引き続きその国に対して、二国間関係においても丁寧に説明を行い、そして、こうした規制について撤廃を要求していかなければならないと思いますが、あわせて、WTOを始め、様々な国際会議の場において、日本として日本の考え方を示していく、こうした取組も重要であると思っています。
WTOへの提訴というお話がありましたが、具体的に最もスピード感のある対応は何なのか、これはよく吟味しなければならないと思います。ただ、国際場裏の場をしっかりと使って日本の考え方を示し、理解を広げていく。こういった方策も重要だということは間違いないと思います。
いずれにせよ、中国との関係においては、この問題も含めて、引き続き様々な対話を続けることによって、建設的かつ安定的な関係を維持していかなければならないと思っています。隣国であり、日本にとって最大の貿易相手国は中国であるわけでありますし、隣国であるが故に様々な課題がありますが、是非、主張すべきことは主張し、中国に大国としての責任をしっかりと果たしてもらうべく働きかけを行っていく。対話を行って、気候変動などの協力すべきことは協力していく。こういったことで、建設的かつ安定的な関係を双方の努力で進めていくという方針、これはこれからも変わらないと思っています。
今後、外交日程において、APEC(アジア太平洋経済協力)を始め、様々な日程の中で対話、会談、今の時点では何も決まってはおりませんが、今申し上げたような姿勢を堅持しながら、ハイレベルの対話も含めて意思疎通を緊密に図っていく、こういった姿勢は日本も大事にしていきたいと考えております。
(内閣広報官)
以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。
大変恐縮ですが、現在、挙手いただいている方につきましては、本日中に1問、担当宛てにメールでお送りください。後日、書面にて回答させていただきます。
御協力ありがとうございました。
(岸田総理)
ありがとうございました。
(注1)冒頭発言では「デフレ化」と発言しましたが、正しくは「デジタル化」です。
(注2)質疑応答では「日本産品の輸出規制」と発言しましたが、正しくは「日本産品の輸入規制」です。