[文書名] APEC首脳会議出席等についての内外記者会見(岸田内閣総理大臣)
【岸田総理冒頭発言】
APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議出席を始め、米国訪問を終えるに当たり、所感を申し上げます。
国際社会が複合的な危機に直面する中、インド太平洋における自由で開かれた国際秩序の維持、世界の持続的発展と繁栄の行方は、世界の成長センターであるAPECエコノミーの協力に大きく左右されます。
今回のAPECでは、議長国の米国が掲げた「全ての人々にとって強靭(きょうじん)で持続可能な未来を創造する」というテーマの下で、私は、国内で重視している政策も念頭に、日本としての考え方を発信し、議論に積極的に貢献いたしました。
第一に、この地域の包摂的で強靭な成長には、公正で透明性のある貿易・投資環境の確保が不可欠であるということを強調いたしました。また、デジタル経済の推進について、G7広島AI(人工知能)プロセスの取組を、G7を超えて幅広く展開していくことに加え、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の重要性についても主張いたしました。
その結果、APEC首脳で合意した「ゴールデンゲート宣言」には、自由で公正なルールに基づく多角的貿易体制の重要性や、WTO(世界貿易機関)改革へのコミット、そして、データ流通促進のための協力について、明記されました。
第二に、この地域の持続可能な成長のため、日本として様々な形で貢献していくという意志を、明確に表明しました。特に、脱炭素化実現に向けて、私は従来から、多様かつ現実的な道筋によるエネルギー移行が重要であると主張してきました。改めてこの点を訴えかけた結果、首脳宣言はこの主張と一致する内容となりました。日本は、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想の下、来月には初のAZEC首脳会合を開催し、カーボンニュートラルの実現に向けた取組を加速化させていきます。
この点、今般開催されたIPEF(インド太平洋経済枠組み)首脳会合において、クリーン経済及び公正な経済に関する協定の交渉の実質妥結が発表できたことは、時宜を得たものであったと受け止めています。
第三に、ロシアによるウクライナ侵略が、この地域の持続可能な発展の基盤を揺るがしているということを主張しました。この点について、首脳宣言とは別に米国から発出された議長声明においても、領土一体性、主権を含む国連憲章の原則に基づいて、ウクライナの公正かつ恒久的な平和を達成する必要性が言及されています。また、会議において、核兵器の使用又はその威嚇は許されないことも改めて強調し、この点についても、議長声明に盛り込まれました。日本は、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を、引き続き継続していきます。
さて、ここ米国西海岸は、スタートアップのメッカでもあります。先ほど、韓国の尹(ユン)大統領と共にスタンフォード大学を訪問し、日韓のスタートアップの方々と車座対話を行い、そして、先端技術をテーマとした討論会を行いました。
半導体、量子、クリーンテックやAIなど、最先端技術に関するイノベーションやサプライチェーンの強靭化は一国では達成できず、同盟国や同志国との連携が不可欠です。今回、グーグルや半導体産業等の米国企業の方々ともお会いし、日本からの投資や、日本の技術力への期待の高さを感じ、日米の技術協力の大きな可能性を見いだすことができました。また、日米に韓国も加えた3か国での先端技術分野における協力により、新しい価値、新しい未来を創造していくことができるという希望を、実感として得ることもできました。昨今の著しい「変化」の流れをつかみ、力にしていく。その決意を、この地で新たにいたしました。
今回の訪問では、米国や中国を始め、合計7か国・地域の首脳と会談を行い、率直に意見を交わしました。
歴史的なキャンプ・デービッドでの日米韓首脳会合以来の再会となったバイデン大統領との会談では、中東、ウクライナ、中国や北朝鮮を含むインド太平洋地域の諸課題もあり、日米の連携がこれまで以上に必要となる中、国際社会の様々な課題について率直に意見交換を行いました。バイデン大統領から、日米同盟の重要性がこれまでになく高まっているとの発言があり、日米間の連携を一層強化していくことを確認いたしました。大変有意義な会談であったと思っています。また、バイデン大統領とは、IPEFの進展や経済版「2+2」の開催の意義を確認し、歓迎しました。
加えて、バイデン大統領からは、来年早期の国賓待遇での米国への公式訪問の招待がありました。
中国の習近平国家主席とは約1年ぶりに会談し、約65分間にわたり、大局的な観点から率直かつ建設的なやり取りを行いました。
日中間には様々な協力の可能性と課題や懸案が存在する中、日中平和友好条約締結45周年の節目に当たり、「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という大きな方向性を習近平主席と確認しました。その上で、引き続き首脳同士での会談・意思疎通、また、その他のあらゆるレベルでの緊密な意思疎通を重ねていくことで一致いたしました。
諸懸案についてもしっかりと提起しました。まず、ALPS(多核種除去設備)処理水の海洋放出については、私から科学的根拠に基づく冷静な対応と、中国による日本産食品輸入規制の即時撤廃を強く求めました。さらに、尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海情勢について、私から深刻な懸念を表明し、中国における邦人拘束事案について、早期解放を求めました。
同時に、日中ハイレベル経済対話や日中輸出管理対話といった二国間協力、グローバルな課題についての協働、国民交流、さらには地域情勢等についても、幅広く議論を行いました。
そのほか、韓国やタイ、オーストラリア等との首脳会談では、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化すべく連携していくことを、改めて確認しました。
国際社会が様々な課題に直面する中、私は本年、分断・対立ではなく協調の国際社会を実現し、「人間の尊厳」を守り強化する必要性を訴え、G7議長国として、国際社会の議論をけん引してきました。今回のAPEC首脳会議、そしてIPEF首脳会合、また、そこに至るまでの過程においても、同盟国・同志国と連携をし、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の構築のため、様々な議論を主導し、一つ一つの課題解決の取組に、真摯に貢献してきました。
来月は、日ASEAN(東南アジア諸国連合)特別首脳会議も開催します。国際情勢が混沌(こんとん)とする難局において、引き続き活発な首脳外交を行い、もって、日本の平和と安全を守り、国際社会を協調に導くため、尽力してまいります。
私からの冒頭発言は以上です。
【質疑応答】
(テレビ朝日 千々岩記者)
よろしくお願いします、テレビ朝日千々岩です。日中首脳会談についてお伺いします。習近平主席は処理水を「核汚染水」と呼んで、懸念を示したということですけども、総理はこの発言をどう聞かれたか、どう思われたか、そしてこうした中国側の主張にどう対応されたかお聞きしたいと思います。一方で、科学に立脚した議論をしていくと、専門家レベルでというお話もありましたけども、これについて具体的な方向性が見えているか、また総理として水産物の輸入規制の撤廃に向けたどのような見通しを持っておられるかについてもお聞きしたいと思います。
(岸田総理)
まず、首脳会談において相手方の発言とか具体的なやり取りについて私からコメントするのは控えなければならないとは思いますが、このALPS処理水についての科学的な分析と事実に基づいての理解は、国際的にも幅広く共有されていると認識しています。そして、昨日、私と習近平国家主席との間では、本件について、建設的な態度をもって協議と対話を通じて問題を解決する方法を見いだしていく、こういったことで一致した次第です。今後、専門家のレベルで科学に立脚した議論を行っていくことになります。
日本産食品輸入規制、これはあらゆる機会を捉えて即時撤廃を強く働きかけてまいります。科学的分析と事実に基づく冷静な判断、建設的な態度、これを促していきたいと思っています。
そして、率直に申し上げて、輸入規制の解除について、今の段階でその具体的な時期を予断をもって申し上げることができないと思っていますが、ただ、政府としては、今申し上げた働きかけ、そして取組を具体的に進めるよう努力しながら、一方で、国内需要の拡大ですとか、輸出先の多様化、また水産関係者への支援など、既に用意した約1,000億の基金を活用して全力で影響緩和に努めていく、これも並行して進めていきたいと考えております。
(サンフランシスコ・スタンダート ハン・リィ記者)
サンフランシスコ・スタンダート記者のハンと申します。私の質問は、今回この街をAPECのホストとしてどのように評価しましたか、良い仕事をしたと思いますか、また一番印象に残ったことをお伺いさせてください。
(岸田総理)
まず、開催都市でありますサンフランシスコ市、そして市民の皆様に対しまして、今回滞在中、大変温かいホスピタリティを頂きましたこと、これを心から感謝申し上げたいと思います。
革新性とそして多様性に富んだサンフランシスコ、これは世界経済のハブの一つとして、特に、アジア太平洋地域と緊密な関係を持っていると承知しています。
その意味で、今回議長である米国が掲げたテーマ、「全ての人々にとって強靭で持続可能な未来を創造」する、こうしたテーマにぴったりの都市であったと感じています。
サンフランシスコの大変開放的な雰囲気の中で、このアジア太平洋地域の発展について有意義な議論ができたと感じておりますし、あわせて、米国や各国首脳との二国間会談を行わさせていただき、大変幅広い課題について議論を深めることができました。今回のサンフランシスコの滞在は有意義な忘れられない滞在になったと感じています。
その中にあって、特に、日本産水産物のPRイベントですとか、また、先ほどスタンフォード大学で、韓国の尹大統領と先端科学技術をテーマに議論させていただきました。こうした行事、イベントが大変印象に残っております。以上です。
(読売新聞 足利記者)
読売新聞の足利と申します、よろしくお願いいたします。定額減税を柱とした政府の経済対策についてお伺いいたします。報道各社の世論調査を見ますと国民の評価は厳しいものがあり、理解が十分に進んでいる状況とは言えません。こうした現状をどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。また、補正予算案の審議が20日から始まる見通しですけれども、国会審議の場でどのような点に力点を置いて説明されるお考えでしょうか。
(岸田総理)
調査の結果ですとか指摘は謙虚に受け止めたいと思います。
そして、今回の経済対策においては、賃上げの原資となる企業の稼ぐ力を強化する「供給力の強化」、これを最も重要な柱としつつ、デフレに後戻りさせないための一時的な措置として、所得税・住民税の定額減税等によって国民の可処分所得、これを下支えする、こうした取組を進めていくことにしています。
本格的な所得向上に向けては、先日15日の日ですが、政労使の意見交換の場において、足下の物価動向を踏まえて、来年の春闘に向けて、今年を上回る水準の賃上げの協力を経済界にお願いしたところです。官民連携しながら、来年に向けて、賃金、そして定額減税を含めた可処分所得が物価を超えて伸びていくよう、取り組んでいきたいと考えています。
このように、デフレ脱却の千載一遇のチャンスをつかみ取って、物価上昇を上回る持続的で構造的な賃上げが行われる経済の実現に向けて政府一丸となって取り組んでいきたいと思いますが、このような政府の取組について、国会審議においても丁寧に説明するとともに、今般の経済対策の裏付けとなる補正予算の成立に全力で取り組んでいきたい、このように思っています。
(ABC7 リンジー・ナカノ記者)
ABC7ニュースのリンジー・ナカノと申します。サンフランシスコ・ベイエリアと日本の関係を強化することが、どのように相互利益につながるか具体的に教えてください。またこの関係を強化するための最善策についてのお考えをお聞かせください。
(岸田総理)
質問ありがとうございます。日本とカリフォルニア州は150年に及ぶ友好関係を有しております。そして、カリフォルニア州は全米最大の日系人コミュニティが存在します。また、自治体間でも様々な友情を育んできました。
そして、日本はカリフォルニアにおいて最大の海外直接投資国です。貿易上の重要なパートナーでもあります。
中でもサンフランシスコのベイエリア、この地域は、革新性と多様性に富む世界経済、さらには文化のハブの1つとして、日本との密接な関係を有しております。日本企業の進出拠点数は約900だと聞いています。
先ほども触れさせていただきました、スタンフォード大学での交流の機会においても、数多くの日本人学生が留学してきている。こうした姿を見させていただきまして、未来を担う世代においても交流が活発に行われている、こういった点も感じています。
このように、サンフランシスコの特にベイエリアについては日本と深いつながりを持っておられます。是非今後とも関係強化に向けて、取組を進めていく、このことは双方の経済社会の活性化にも資するものであると思っています。是非、様々なレベルで、そして重層的に交流を活発化していきたい、このように思っています。