[文書名] ASEAN関連首脳会議出席等についての内外記者会見(石破茂内閣総理大臣)
【石破総理冒頭発言】
私は、総理大臣就任後、最初の外国訪問として、ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議に出席をいたしました。インド太平洋の主要国首脳が一堂に会する極めて重要な会議でありますが、この会議におきまして、多くの各国首脳に直接お目にかかり、日本・ASEAN関係の更なる強化について、また、北朝鮮、東シナ海・南シナ海を含む地域情勢・国際情勢につきまして、日本の立場を力強く発信する、貴重な機会になったものと思っております。
ASEAN関連首脳会議では、私から、これまで我が国が半世紀以上にわたって築いてまいりましたASEANとの「心と心」がつながる真の友人としての関係を更に強化していく決意をお伝えをいたしました。また、ASEAN諸国からも、最も信頼できるパートナーである日本との間で、あらゆる分野において協力を進めていくことに、高い期待が示されたということであります。
日本とASEANとの間では世代を超えた人的交流、人と人との交流が進んでおります。また、日本は、デジタル、交通インフラ、電力等の様々な分野でASEAN地域の連結性強化、お互いがつながるという意味でございますが、連結性強化を支援をいたしております。感染症対策、また私が重視をしております防災の分野でも、日本から専門家を派遣し、地域の強靱(きょうじん)性を高めるために取り組んでおるところであります。
これらに加えまして、日本は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)といった新たな分野の協力を今後重点的に進めていくことを表明し、日本とASEANが共に未来を創るパートナーとして協働していくことで一致をいたしました。
日本は地域の平和と安定のためのパートナーでもあります。巡視船艇の供与などを通じました海洋安全保障の強化に加え、サプライチェーンの強靱化を含む経済安全保障、あるいはサイバーセキュリティ分野での協力も強化していくことで一致をいたしました。
安全保障環境が激変する中にあって、今般の会議は、地域・国際情勢について各国と率直に議論をする重要な機会でもありました。
私から、主権及び領土一体性の尊重等の国連憲章の原則がますます重要になっていること、そして力による一方的な現状変更は世界のどこであれ決して認められない、そのことを改めて明確に発信をしたところであります。北朝鮮、東シナ海・南シナ海を含みます地域の情勢につきまして、我が国の立場を各国の首脳に明確に伝達をいたしました。拉致問題の即時解決に向けましても、引き続き各国の理解と協力を要請をいたしました。
脱炭素分野につきましては、先ほど、アジア・ゼロエミッション共同体、AZEC、その構想に関します第2回目の首脳会合を、私が議長を務めて開催をいたしました。このAZECは、経済成長・エネルギー安全保障と両立する形で、多様な道筋の下、ネットゼロに向けた取組をアジアで共に進めていくための重要な枠組みであります。
この度の会合では、個々のプロジェクトの実施に加え、ルールの形成を含みます政策協調へとAZECを新たな段階に進めるため、今後10年のための行動計画に合意をいたしました。
今回実施した二国間の首脳会談につきましても私の所感を申し上げます。
韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領とは、来年の日韓国交正常化60周年を見据えつつ、人的交流の推進、経済面での連携、日米韓での安全保障協力など、幅広い分野で協力を強化していくことで一致をいたしました。北朝鮮への対応につきましても緊密に連携していくことを確認をいたしました。「シャトル外交」も活用しつつ、尹大統領と今後緊密に連携をしていくものであります。
中国の李強(りきょう)国務院総理との会談では、日中両国は、引き続き、「戦略的互恵関係」を包括的に推進をし、「建設的かつ安定的な関係」を構築するという大きな方向性を共有していることで一致をいたしました。私から、領空侵犯を含みます中国の軍事活動、並びに深圳(しんせん)における児童死傷事件などの懸案について日本の立場を明確に申し述べました。同時に、日中両国間には協力の潜在性があることを指摘をし、首脳間を含めまして、重層的に意思疎通を重ねていくことを確認をいたしました。今回の会談を踏まえ、日中両政府の努力を通じて両国の国民が、日中関係発展の果実を得られるようにつなげていきたいと考えております。
ASEANの議長国でありますラオスは、今回私を公式訪問としてお招きをいただきました。ソーンサイ首相とは、来年の外交関係樹立70周年の機会に、両国関係の「包括的・戦略的パートナーシップ」への格上げを目指す方向で一致をいたしました。
オーストラリア、豪州のアルバニージー首相とは、サイバー、経済安全保障を含みます日豪の安全保障協力を一層推進していくとともに、経済面でも脱炭素化、自由で公正な経済秩序の推進で一致をいたしました。
インドのモディ首相とは、「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」を発展させていくことで一致をいたしました。
ベトナムのチン首相とは、今回多くの被害が生じました台風、ベトナムに来襲した台風でありますが、この被害に対します緊急支援を表明いたしますとともに、外交関係樹立50周年を機に合意した幅広い分野での協力強化で一致をいたしました。
私は先日、「すべての人に安心と安全を」届けられる日本を作る、そのように新しく就任した総理大臣として国民の皆様方にお約束したところであります。そのためには、インド太平洋地域の安定を一層確保していく、そのような取組も欠かせません。今回、戦略的に重要でありますASEANとの協力関係を、新しい時代のニーズに沿って強化していく方向性を示すことができたのは極めて有意義なことであったと思っております。また、そのほかの主要国首脳と直接意見交換を行い、関係発展の方向性を確認をいたしました。今後とも積極的な首脳外交により、友好国や同志国を増やし、我が国の平和、地域の安定のために全力を尽くしてまいりたいと思います。
なお先ほど入ってまいりました知らせでございますが、日本原水爆被害者団体協議会に対しまして、ノーベル平和賞が授与されることが決定されたということであります。長年、核兵器の廃絶に向けて取り組んでこられました同団体に、ノーベル平和賞が授与されることは極めて意義深いことだというふうに考えておる次第でございます。私からは冒頭発言以上です。
【質疑応答】
(日本テレビ 平本典昭記者)
総理、日本テレビの平本です。総理大臣としての初めての外交、お疲れ様でございました。まず、初外交どうだったかという感想はいかがでしょうか。あと三つのテーマについて伺えればと思います。
一つ目ですけれども、まず、日ASEAN関連首脳会議に関してです。この地域で覇権的な動きを強める中国に対して日本がどうイニシアティブをとって対抗していくかという点で、どういった成果があったと思われるでしょうか。
二つ目に日中首脳会談についてです。李強首相と会談を行いました。今日本と中国の関係は悪化していると言われています。関係改善に向けた糸口はつかめたとお考えでしょうか。また来月、習近平国家主席との首脳会談を模索しているという話がありますが、そうした中での環境整備は整ったとお考えでしょうか。
三つ目が、「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」について伺います。この一連の会談ではお話をしないということでしたが、マルチ、バイの会談で相手側からこの話が提起されたという場面はあったでしょうか。お願いします。
(石破総理)
お答え申し上げます。日中首脳会談についてでありますが、李強総理とは実際にお目にかかるのは初めてでございました。初対面ということもございますので、お互いこれから先、真摯に誠実に意見交換を交わしていきたいということ、そこにおいては完全な一致をみたと思っております。
冒頭発言でも申し上げましたように、いくつもの懸念材料がございます。そのことに対します我が国の立場も今回明確に申し上げたところであります。一方において、お互いが協力していくべき分野というもの、そこは多くございます。違いは違いとして、明確に認識しつつも、お互いが協力していく分野というものに対して、その努力は続けていきたい、そしてまたその果実というものを日中双方の国民が共有できるように、今後も努力をしていきたいということでございます。これから先、両国関係、今必ずしも順調ではございませんが、この解決に向けての糸口はつかめたか、ということであります。今回、違いは違いとして明確にしつつも、きちんと話し合っていこうということで、これから先そのような対話を続けていくことによって、この問題が解決に向かう、その糸口にはなったというふうに認識をいたしておるところでございます。
習近平主席との会合につきましては具体的に日程等々が挙がったわけではございません。今後そのようなことが実現するためにも努力はしてまいりますが、今回私と習近平主席との会談について具体的な話がなされたというわけではございません。
また、「アジア版NATO」についてのお尋ねでございます。これは国会でもお答えいたしましたし、また党首討論でもお話をしたことでございますが、私はかねてからそのようなことを議員として考えてまいりました。総裁選でも訴えたところであります。ただそれは、私の考えを申し述べたのであって、まだ我が自由民主党の中におきましても、議論がこれから先、具体的になっていくというものでございます。したがいまして、今回の一連の会合、あるいはバイの会談において、「アジア版NATO」についての言及があったものではございません。以上です。
(ラオス国営放送(LNTV) カムディー・ブンチャルン記者)
こんにちは、私はカムディー・ブンチャルンと申します。ラオスの国営テレビから参りました。まず、首相を尊敬申し上げます。今回ラオスがASEANのホスト国として「連結性と強靭性の強化」をテーマとし、地域統合と持続可能性の促進という目標を掲げているのに対し、日本はどのように貢献していくか、考えを教えてください。
(石破総理)
ありがとうございました。今回、お国におきまして、ソーンサイ首相が大変な御努力いただきまして、一連の会合が成功裏に終わったということに心から感謝を申し上げます。
これから先、来年がラオスとの間で国交70周年ということになるわけでございますが、これを一つの節目として、日本とラオスとの関係を「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げするということを目指していこうということで一致をみたところでございます。
我が国といたしまして、ラオスとの間で、政治・安全保障分野での対話、あるいは協力を一層強化をしてまいります。ラオスにおきまして、自律的でそして質の高い経済発展、あるいは財政の安定化に我が国も寄与してまいりたいと思っております。
人材育成等のソフト面での協力も進めてまいりますし、あるいはハード面で申し上げれば、ビエンチャン国際空港のターミナルの拡張などを通じまして、利便性が向上する、あるいはこの地域のいろいろな連絡が容易になっていくという連結性の強化などにも努めてまいりたいというふうに考えておるところでございます。
今申し述べましたように、ラオスの財政の安定化、あるいは戦争においてまだ取り残されている不発弾、そういうものの除去に日本国は努めてまいります。
あるいは先般も台風によって多くの被害が生じたところでございますが、防災などの強化について私どもとしてできる協力をいたしてまいりたいと思っております。
要すればラオスの経済あるいは社会が強くなっていくように、安定していくように、そういうような、強くなり、安定する、そのための支援というものを私どもは今後重点的に行ってまいりたいと考えているところでございます。
(時事通信 島矢貴典記者)
時事通信の島矢です。よろしくお願いします。帰国後、選挙戦が本格スタートします。自民党は10日に公約、マニフェストを発表しました。その中で、何を重点的に訴え、どのような姿勢で選挙戦に臨みますか。
政権公約では政策活動費について「将来的な廃止も念頭にした透明性の確保」となっています。野党側からは、政策活動費について総裁選の時に「廃止」を訴えた人が多かったため、後退しているのではないかと批判が出ています。この公約で、政治とカネの問題で失った自民党の信頼を回復できるとお考えでしょうか。
また、選挙戦で政策活動費を使うことに「適切ではない」と批判が出ていますが、使う考えに変わりはないでしょうか。
(石破総理)
解散当日の会見でも申し上げましたが、今回の解散は「日本創生解散」というふうに私は考えておるところでございます。今までの町おこしというものの延長ではなく、日本そのものの在り方を、もう一回新しくしていきたいというふうに考えております。
それは災害に対する強靱性ということもそうであります。この厳しい安全保障環境から我が国の平和と独立を守り抜くということもそうであります。大勢の方が不安に感じておられる、社会保障の持続可能性ということもそうであります。
そして、物価上昇を上回る賃金上昇を必ず実現し、デフレ(注)からの脱却というものを確かなものにしたいと思っております。
今までいろんな課題がございました。そういうものに、正面から立ち向かい、逃げることなくそういう課題に向けて取り組んでいきたい、そういう意味で「日本創生解散」というふうに申し上げているところでございます。今後、私自身も先頭に立って、一体それは何を意味するものであるか、ということを国民の皆様方に御理解いただけるように、最大限、誠心誠意努めてまいる所存でございます。
政策活動費につきましてのお尋ねでございます。私どもといたしまして、先の通常国会におきまして政治資金規正法が改正され、そこにおいて附則がございます。そこには、政策活動費の使途を10年後に明らかにする、政策活動費を監査する独立性の担保された機関を設置する、というふうに書いてございますけれども、その具体的な在り方について、我が党として今後検討を行うということにしているというわけでございます。
私ども自由民主党として、選挙以外の時であっても、常に常に国民の皆様方の御支持を賜るように努力していかなければなりません。組織を整え、様々な調査を行い、政策を立案しているものでございますが、政策活動費はこのような目的のために活用されているものでございます。国民の皆様方が、この政策活動費どう使われているの、ということに対していろんな思い、あえて申し上げれば疑念の思いを持っておられるということをよく承知をいたしております。このことを我々は本当に真剣に受け止めていかなければなりません。
この政策活動費は、党首討論でも申し上げましたが、合法なものでございます。しかしながら、その使い道、使い方というのは、当然抑制的なものでなければなりません。国民の方々が、いろいろな複雑な思い、疑念、そういうものをもたれることがないように、我が党としてこの政策活動費の使い方につきましては、抑制的に、真摯に、厳しい思いをもってこれから先望んでまいりたいと考えておる次第でございます。
(ラオス国営通信社(KPL) セントーン・パサワット編集長)
首相こんにちは、私はKPL、ラオス国営通信から参りました。まず質問をさせていただきます。ラオスがASEANのホスト国として「連結性と強靭性の強化」をテーマにし、地域統合と持続可能性の促進という目標を挙げているのに対し、日本はどのように貢献をしていくお考えでしょうか。
(石破総理)
我が国といたしまして、今御指摘のように、強靱性、連結性ということを中心にこれから先、国作りをやっていきたい、日本もそれに対して支援してもらいたい、というようなお話だったというふうに承知いたしております。
これは連続性、連結性という意味では、ハードにおきましては国際空港のターミナルの改修、あるいは具体的な案件はこれからまた協議をいたしてまいりますが、道路でありますとか、橋でありますとか、この地域におけるいろいろなアクセスが容易になるようにということではないかと思っております。そういうことに対しまして我が国として、今後よく協議の上、支援をいたしてまいりたいと思います。
また財政の安定性というものも、きちんと念頭に置きながら、これは支援をしてまいりたいと考えております。人的な交流につきましてもこれから先、拡大いたしてまいる所存でございます。あるいは、いろいろな分野において、この内陸国でありますこのラオスが、地域においていろんなアクセスが可能となるように、そして水力を始めといたします、多くの潜在的な可能性、これを最大限に引き出して、お国がこれから先、発展していかれるように、我が国として支援を執り行ってまいりたいと思っております。
今回ソーンサイ首相を始め、おっしゃいました、地域統合、そしてまた持続可能性の促進ということであります。そのことをよく念頭に置きながら、今回短い滞在ではございましたけれども、お国の真摯な思い、そしてまた発展の可能性というものをよくよく認識をいたしました。来年の70周年に向けまして協力を更に緊密にいたしてまいりたい、かように考えておる次第でございます。
(注)「インフレ」と発言しましたが、正しくは「デフレ」です。