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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] APEC首脳会議及びG20リオデジャネイロ・サミット出席等についての内外記者会見(石破茂内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2024年11月19日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【石破総理冒頭発言】

 皆様おはようございます。今回のペルー、ブラジル訪問を終えるに当たりまして、所感を申し述べたいと存じます。

 今回、リマで行われましたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議、G20リオデジャネイロ・サミットに出席をいたしました。

 APECにおきましては、「世界の成長センター」として世界経済を牽引(けんいん)するアジア太平洋地域の持続可能な経済成長の在り方について、G20では、地球規模の課題解決に向けた協調と、全てのメンバーが責任を共有するグローバル・ガバナンス構築の必要性について、実りある議論を行うことができました。また、2031年のAPEC議長への立候補を表明をいたしました。

 さらに、この機会に、米国、韓国、中国を始めとする世界各国の首脳との間で率直に議論を行うとともに、個人的な関係を構築をし、深める機会とすることができました。

 以下、今回の成果を三つにまとめて御説明をいたします。

 まず第1に、外交・安全保障面であります。先月末の北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)級弾道ミサイル発射を始め、我が国を取り巻く安全保障環境はますます厳しさを増しております。こうした中、私は、日本を守り抜くという決意の下、同盟国・同志国の首脳と胸襟を開き意見交換を行いました。

 今回、バイデン大統領とは、今後とも、揺るぎない日米同盟を更に発展させていくとともに、幅広い分野でグローバルに戦略的な連携を継続・強化していこうということで一致をいたしました。

 韓国の尹(ユン)大統領とは、来年、国交正常化60周年を迎えるに当たり、首脳会談をなるべく頻繁に行い、日韓関係を大いに飛躍させる年にしよう、ということで一致をいたしました。

 日米韓首脳会合を行いました。日米韓では、北朝鮮への対応を含め安全保障面での協力が具体的に進展をいたしております。ロシア・北朝鮮、露朝の軍事協力も進む中、戦略的な連携を継続強化していくことで一致をいたしました。

 英国のスターマー首相、イタリアのメローニ首相と三者で会談をし、次世代戦闘機の2035年の初号機配備という目標の達成に向け、引き続き緊密に協力していくことで一致をいたしました。来年G7の議長国を務めますカナダのトルドー首相とも会談をいたしました。

 習近平中国国家主席との間では、「戦略的互恵関係」の包括的な推進と、「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性を確認をいたしたところであります。また、中国軍の活動の活発化や、深圳(しんせん)での児童殺傷事件など我が国の懸案についても提起をいたしました。習主席からは、日本人を含む全ての外国人の安全を確保する旨発言がありました。日本産水産物の輸入回復につきましては早期に実現するよう私から求めたところであります。また、日本産牛肉の輸出再開及び精米の輸出拡大に係る当局間協議について早期再開を求めました。

 かみ合った議論ができたものというふうに私は感じております。日中間には様々な意見の相違がございますが、今後とも、習主席と会談を重ねていくことで一致をいたしました。今後、首脳間を含みます、あらゆるレベルで頻繁に意思疎通及び往来を図り、課題と懸案を減らし、協力と連携を増やしていくために中国側と共に取り組んでまいります。

 また、今回、私は、APEC、G20の二つの会議を通じて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性を強調をいたしました。具体的には、ロシアによりますウクライナ侵略を停止させ、一日も早くウクライナの公正かつ永続的な平和を実現すべきであるということ、中東情勢につきましては、事態の早期沈静化に向け、全ての当事者が自制をし国際法を遵守しなければならないということ、これらについて明確に主張いたしたところであります。

 特にG20では、現在の国連安全保障理事会がこうした課題に対応できていない点を指摘をし、その改革の必要性について訴えました。また、国連総会が果たすべき役割を検証すべき旨申し述べたところであります。

 第2に、経済・社会面での協力についてであります。日本経済の成長を確保する観点からは、アジア太平洋地域の成長の糧を積極的に日本に取り込む必要があります。このため、自由で開かれた、公正で透明性のある貿易投資環境を確保し、アジア太平洋地域の持続可能かつ包摂的な経済成長を推進するため、今回、主に二つの点について主張をいたしました。

 まず、第1点は、国際的なルールに基づく経済連携の質的な深化や、WTO(世界貿易機関)を中核とする多角的貿易の維持強化の重要性を訴えました。特に、紛争解決制度改革を始めとしたWTO改革は喫緊の課題であります。

 第2点として、脱炭素化、経済のデジタル化、防災、食料安全保障など各国共通の課題に関し、日本のこれまでの経験や知見を共有しながら、共に解決策を模索し、共に成長していく意図を表明をいたしました。具体的には、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」、この構想や、経済のデジタル化に向けた国際ルール策定の貢献などを紹介をいたしました。

 特に、防災は、私自身が国内でも最優先課題として位置付ける案件であります。質の高いインフラ投資の推進や、多くの災害を経験している我が国の専門的知見の共有などを通じ、各国・地域の脆弱(ぜいじゃく)性の克服に貢献していくことを表明をいたしました。

 また、G20におきましては、ブラジルのルーラ大統領が提唱する「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」に積極的に参加する旨を表明いたしたところであります。G20が国際協調を主導していくべき分野は多く、その役割が一層重要になっております。私は、全てのメンバーが責任を共有するグローバル・ガバナンスを構築していく必要があることを強く訴え、首脳宣言(注)にも責任の共有が盛り込まれたところであります。

 第3に、中南米の日系人との関係であります。私が、ブラジルを最初に訪れましたのは、1988年のことであります。ブラジルへの日本人移民80周年を祝うために訪問された秋篠宮親王殿下に同行させていただいた時のことであります。私は当時まだ当選1回目でございましたが、このブラジルの持つ熱気、そして日系人の方々との強い絆(きずな)に、深い感銘を受けたことを思い出します。

 それから30年余り。こうして再び南米の地に立ち、ペルー、ブラジルのそれぞれの訪問先で日系人の方々とお会いする機会を持つことができたことも、今回の訪問の大きな成果の一つでありました。また、日系人として初めてペルーの大統領を務められましたフジモリ元大統領の墓前にも、哀悼の誠を捧(ささ)げてまいりました。御霊(みたま)の安らかならんことを、改めてお祈りをした次第であります。日系人の方々は、日本と各国との友好関係の大切な架け橋であり、これからも日系社会との連携を強化してまいりたいと存じます。

 今回公式訪問としてお招きをいただきましたペルーにおきましては、ボルアルテ大統領と一致した共同声明、そして、今後10年間を見据えたロードマップは、日本・ペルー関係の進展に向けた指針を示すものとなりました。

 ブラジルのルーラ大統領とは、来年の外交関係樹立130周年の節目に向けて、経済分野を始めとする二国間関係や国際場裡(じょうり)での協力の強化で一致をいたしました。両国の戦略的グローバル・パートナーシップを更に強固にいたしてまいります。

 今からちょうど50年前のことになりますが、当時の田中角栄総理がブラジルを訪問され、セラード共同開発に両国が合意をいたしました。皆様御存じのとおり、四半世紀をかけて不毛な大地を大豆の一大生産拠点に変えたセラード開発は、世界の食料安全保障に貢献をするとともに、今や日本・ブラジル間の良好な二国間関係の象徴であります。こうした友好協力関係を構築していく努力こそが、世界の、そしてひいては我が国の平和と繁栄の基盤となるものと考えております。

 日本の平和を守り、インド太平洋地域の安定を一層確保し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための首脳外交を、引き続き積極的かつ意欲的に展開をいたしてまいりたいと存じます。

 私からの冒頭発言は以上であります。

【質疑応答】

(共同通信 中久木宏司記者)

 共同通信の中久木です、よろしくお願いします。まず外交についてお伺いします。総理、先ほど御発言ありましたけれども、リマで行った日米韓首脳会談で、3か国連携の重要性を確認しました。一方で、米国のトランプ次期大統領は多国間連携に後ろ向きな姿勢を示しています。トランプ氏が就任して以降も、日本政府として日米韓を始め、QUAD(日米豪印)や日米フィリピンといった枠組みを重視していくお考えでしょうか。また、トランプ氏は在日米軍駐留経費の負担増など、日本側に圧力をかけるとの見方もあります。今回の外遊での会談はできませんでしたけども、トランプ氏に対して日本の首相としてどのように対峙(たいじ)していくお考えでしょうか。日本の国益を守るためにトランプ氏に対して厳しく対峙していくという展開もあり得るのでしょうか。よろしくお願いします。

(石破総理)

 私どもといたしましては、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンの実現、法の支配に基づく国際秩序の堅持に向けて、日米韓、日米豪印、日米比といいました同志国間の連携を相乗的に深めていきたいと考えております。こうした観点からも、アメリカの次期政権とも緊密に意思疎通をしてまいりたいと思っております。

 今「対峙」という言葉をお使いになりましたが、トランプ次期大統領との向き合い方につきましては、この「対峙」という考え方を私はとるものではございません。日米両国が共に協力していくことが、日本の国益にもなり、あるいは合衆国の国益にもなり、インド太平洋地域の平和と安定にも貢献するということを、よく説明をし、理解をしてもらう、ということを引き続き努力してまいりたいと考えているところでございます。

 これから合衆国の次期政権がどのような政策を打ち出していくか、よく分析をしながら、共に協力できる関係というものの構築のために更に努力をいたしたいと思っております。

 これは日米安全保障体制というものが、繰り返しになりますが、日本だけの利益とか、合衆国だけの利益とか、そういうものではございません。これは非対称的双務関係というふうに言われておりますが、果たすべき義務というものが当然異なっております。そういう点におきましては、世界の中にある同盟関係の中でもかなりユニークなものである、ということはよく承知をいたしております。しかしそれは、一方的に与られえたり与えたり、というものではございません。それは共に色々な関係を履行しながら、地域の平和と安定に寄与してきたものでございます。ですから、一方的な見方でなくて、それがどのように相乗的に効果をもたらしているものであるかということ、そのことについての理解を深める努力は今後更に一層必要になるものというふうに私は考えているところであります。

(フリーランス レイラ・ステレンバーグ記者)

 ステレンバーグと申します。近年、日本は国際場裡でより積極的になったと言われています。それは防衛政策を再策定し、そして米国、及びブラジルを含むグローバル・サウスの国々との協力を強化する方針であるというふうに言われております。一方で国内政治の困難さ、これは10月の選挙結果を受けたものですが、日本を脆弱化し、外交を困難にする可能性はありますでしょうか。

(石破総理)

 選挙結果というものは御存じのとおりでございます。これを厳粛に受け止めるべきことは当然のことであります。その上で、外交・安全保障につきましては、今後、国会における議論を含みます様々な場において色々な話し合いを深めていくこと、そして政府の外交・安全保障政策に対する理解を求めていくということで、我が国の外交力というものが十分に発揮されますよう努力をしてまいりたいと思っております。

 先ほどの冒頭発言でも申し上げましたが、我が国を取り巻く安全保障環境はかつてないほどに複雑であり厳しいものとなっております。日本を守りそしてまた地域の平和と安定を確保いたしますために、外交力、そして防衛力、この二つをバランスよく強化をしていくことが待ったなしの課題であり、この二つを共に強化するために努力を重ねてまいりたいと思っております。

 そうした中におきまして、現実的な国益を踏まえました外交により、我が国の外交・安全保障の基軸であります日米同盟の更なる強化のみならず、同志国との連携強化に取り組んでまいりたいと思っております。

 今回のAPECあるいはG20でも議論をいたしました、貧困、保健、防災といった国際社会が直面しております様々な課題への対応につきまして、我が国として引き続きリーダーシップを発揮してまいりたいと思っております。その際には、いわゆるグローバル・サウスとの連携・協力というものが極めて重要であります。

 我が国は、APECを通じまして、アジア太平洋地域の持続可能かつ包摂的な経済成長の推進を主導してまいりました。また、G20議長国でありますブラジルが重視をしております飢餓・貧困との闘いや、食糧供給の安定化、気候変動・エネルギー移行、防災等の課題にも、我が国は、長年にわたり取り組んできたところであります。

 このような取組を通じまして、我が国の平和、地域の安定と繁栄を実現するとともに、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、取組を主導してまいりたいと考えております。

(NHK 太田雅英記者)

 NHKの太田です、よろしくお願いします。内政についてお尋ねします。政治とカネの問題を受けて、総理は年内にもですね、政治資金規正法を再改正することも含めて必要な法整備を目指す考えを示しておられます。具体的な内容の検討は党内で進んでいますけれども、総理自身はですね、「政策活動費」の存廃についてはどうお考えでしょうか。政治資金をチェックする第三者機関については、設置する場合はですね、何を重視して権限や機能を決めていくべきでしょうか。公明党内などからはですね、外国人によるパーティー券の購入を規制するよう求める意見が出ていますけれども、どう対応されますでしょうか。また政府内ではですね、経済対策の検討も進んでいます。国民民主党はいわゆる「年収103万円の壁」の見直しにつながる文言を盛り込むことを求めています。総理は野党の意見にも丁寧に耳を傾けて合意形成を図る意向を示してこられましたけれども、年収の壁の扱いについて政府・与党としてどう対応しますか。よろしくお願いします。

(石破総理)

 政治資金規正法につきましては、年内に所要の法的手当てを行うべく、自民党の政治改革本部において具体的な議論を進めている最中でございます。そのような状況の中で、私から結論を先取りするような、そのようなことを申し上げるべきではございません。その上で、あえて申し上げれば、政策活動費の在り方につきましては、廃止を含めました白紙的な議論を行うよう、党に対して指示をいたしているところであります。国民の皆様方の信頼確保に資するように、早急に結論を得てまいりたいと考えております。

 第三者機関についてでありますが、例えて言えば、プライバシーや秘密の保護のために、公開することが困難である、そういう支出があった場合に、その妥当性を中立的な立場から厳格に判断するということが求められると考えております。その第三者機関が果たすべき役割、あるいは持つべき権限について、議論を進めてまいりたいと考えております。

 外国人によります政治資金パーティー券の購入規制につきましては、我が党におきましても、先ほど来申し述べております厳しい安全保障環境を踏まえまして、率先して議論を進めてきた課題であります。規制の実効性を担保するための方策を含め、現在検討が進められているところでございまして、適切に対応していくことが必要だと考えております。

 年収103万円の壁と呼ばれるものでございますが、経済対策・税制改正に係ります国民民主党からの御提言に対しては、「与党として真摯に検討させていただく」というふうにお伝えをしているところでございます。各党の政務調査会長・税制調査会長との間で協議が行われているということは御承知のとおりでございます。その中で、いわゆる「103万円の壁」対策につきましては、それが労働供給にいかなる影響を与えるか、税収にいかなる影響を与えるか、等々様々な指摘がございます。このことにつきましては私もよく認識をいたしております。しかしながら、各党の政務調査会長、あるいは税制調査会長の間で丁寧に協議を進めたいというふうに考えているところでございまして、この点につきましても、私から予断をもってお答えすることは差し控えたいと存じます。

(Valor Economico紙 パウラ・マルティーニ記者)

 総理、私はパウラ・マルティーニといいます。私はValor Economico紙の記者です。総理は、超富裕層全般への課税というブラジルの提案についてですね、この度のG20における提案についてどう思いますか。日本は、ブラジルが主張しているように、巨額の財産に対するグローバル課税を確立することが可能だと思いますか。ありがとうございます。

(石破総理)

 G20の議長国を務められましたブラジルが、格差是正の観点から、累進課税の強化、あるいは今御指摘の超富裕層に対する効果的な課税に係る問題提起をしておられるということはよく承知をいたしております。超富裕層に対しますグローバル課税につきましては、その資産をどのようにして把握をするか、あるいはどのように評価するかという観点を含め、様々な意見があるところでございます。我が国といたしましては、引き続き国際的な議論に参画をしてまいりたいと考えておるところでございます。


(注)「首脳会談」と発言しましたが、正しくは「首脳宣言」です。