データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 茨城県訪問についての会見(石破茂内閣総理大臣)

[場所] 
[年月日] 2025年5月18日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

(本日、国立研究開発法人産業技術総合研究所G-QuAT(量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター)の落成式に出席し、量子コンピュータの視察や車座に参加したところ、視察の所感と、今後の政策にどう反映していくのか、また、量子コンピュータをめぐる開発競争が激化する中、この研究施設をどのような拠点としていきたい考えか)

 すみません、お答えが長くなりますが御容赦ください。量子というのは、とにかく驚くべき計算能力を持つ「量子コンピュータ」、あるいは完全に通信を秘匿できる「量子通信」、こういうことを可能にする次の世代の重要技術であります。我が国の新しい産業の柱として期待されますし、また、経済安全保障上も重要な技術であるという認識を持っております。このG-QuATに設置をする3種類の量子コンピュータについて、本日、経産大臣とともに説明を受けました。量子コンピュータがどのような未来を切り開くか、あるいはこれを産業化に向けてどう取り組むか等々、日本の量子分野の技術力の高さ、G-QuATに対する国内外の高い期待を実感したところであります。これまで、量子コンピュータは、ハードウェアを中心とした基礎的な研究開発段階にありましたが、実用化の目途が立ちつつあるというところでございますので、研究開発から一歩踏み出して、量子技術の産業化を始動するべく、今月末、量子戦略を抜本的に強化をいたしてまいります。今年は、量子力学が生まれてから100年、こういう節目になります。そういうことでございますので、今年を「量子産業化元年」と位置づけました上で、ハードウェア、OS、アプリケーションそれぞれで、スタートアップへの支援や大学と連携した量子人材育成プログラムの開発や実施を進めてまいります。G-QuATを核として、地方から世界に通じる次世代産業を生み出していく、「地方創生2.0」の柱であります「地方イノベーション創生構想」のモデルケースとして、各地で活躍する中小企業が強みを持つ部素材、新しいソフトウェアなどの分野を中心に、量子技術の産業化を強力に進めてまいりたいと思いますし、このつくばは、この産総研のみならずいろんな研究の拠点でもございます。このつくばから新しい日本、新しい世界を創るということも重要と考えております。量子コンピュータは国際競争が激化をしておりますので、今後3年間で更なる機能強化を進めてまいりますが、第一に、スタートアップ、中小企業の入居者数を5倍以上にしたいと。独自では投資困難なスーパーコンピュータや共同研究設備を拡充し、開発を加速してまいりたいと思っております。第二に、このG-QuATを核として、量子コンピュータ利用企業とスタートアップをマッチングするなど、ビジネス機会の創出を支援いたします。第三に、同志国との国際連携を強化をいたすために、現在の10か国・19件の連携協定に加えまして、年末までに、新たに5か国との連携協定の締結を目指してまいります。7件の連携協定を結びます最大の連携相手国、アメリカでございますが、アメリカともG-QuATの設備を活用しながら、コンピュータシステム開発やサプライチェーン強化など、具体的な連携を進めてまいります。世界市場獲得に向けました国際ルール形成の組織も強化すべく、今月末には、量子技術の国際標準化に向けた会議を日本で初めて開催をいたします。我が国の高い技術力をいかした国際ルールづくりを加速し、量子コンピュータの性能評価の指標など、標準化に向けた議論を主導してまいりたいと思っております。今日も経産大臣とともに、いろんなお話を聞かせていただきましたが、とにかく量子コンピュータというのはものすごく計算速度が速いということであります。その理論はなんだかすごく難しいのですが、とにかく計算速度が速いということ。これはAI(人工知能)とはまた別のものございますが、AIとどうやってコラボレーションしていくか、そして、速い計算速度を使って何を実現するか。例えば、新しい薬を作るということには膨大な計算が必要でありますが、そこに量子コンピュータのいろいろな活用の分野が広がるということでしょう。あるいは、今日のお天気がこうだったので明日はこうなるだろう、ではなくて、色々なデータを分析をしながら、そういうような気象の予測、あるいは創薬、医療の開発、渋滞の解消。膨大なデータを高速の計算を可能にすることにより、より良い未来をつくっていく、未来社会をつくっていく、そういうようなお話もずいぶん聞いたところでございます。これからこれを実装するに向けて、我が国として、また政府として、これに最大限の力を注ぎ、我が国がこれから先、世界をリードする、そのために大きな役割を果たすものと考えておりまして、政府としても、最大限の支援を行ってまいりたいと、このように考えておる次第でございます。よろしくお願いいたします。