データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日印共同記者発表

[場所] 
[年月日] 2025年8月29日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文] 

【石破総理冒頭発言】

 皆さん、こんばんは。ナマスカール。モディ首相を始め、御一行の皆様方の訪日を心から歓迎を申し上げます。

 ちょうど6年前の8月に、私は、ヒンドゥー教の最大の聖地であり、仏教の聖地でもあるガンジス河畔のバラナシを訪問いたしました。バラナシではインドの悠久の歴史を感じたものでありますが、思い返しますと、両国は6世紀の仏教伝来に始まり、海を越えたつながりをもち、文化的にも精神的にも互いに影響を与え合う間柄にあったとこのように考えております。

 日本とインドがお互いに良い影響を与えるこの関係性は、今日も全く変わっておりません。今やインドは、世界一の人口を擁し、経済成長は著しく、イノベーションで世界に変革をもたらす存在であります。日本にも、世界の成長を牽引(けんいん)する高度な技術力があります。これから日本とインドとの関係を考えるときに、それぞれの強みをいかし合い、お互いが抱える課題解決を助け合い、あるいは今は誰も解を持っていないような次世代の抱える課題に日本とインドが知恵を出し合い解決策を共に創る、共創する、そういった相互補完的な関係を築いていくことこそが、両国の利益にかなうと思っております。

 また、基本的価値を共にする日本とインドは、インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持し、強化する責任を共に有しております。国際情勢がますます不透明さを増す今こそ、地域の平和と安定のため、日本とインドは力を合わせていかねばなりません。

 2014年9月にモディ首相が首相として初めて来日をされ、日印両国の関係を特別戦略的グローバル・パートナーシップに引き上げることで合意して以来、過去10年の間、幅広い分野で大きな進展を遂げました。本日の会談では、こうした積み重ねに基づいて、これからの10年の日本とインドはどのようにして関係を進展させていくべきかについて、モディ首相と意見を交わしました。

 第一に、安全保障協力であります。インド太平洋の平和と安定を確かなものとするため、両国は防衛当局間の協力を深めてまいりました。私自身、2003年、22年前になりますが、防衛庁長官としては初めてとなるインド訪問をいたしましたが、当時と比べましても日本・インドの安全保障協力は格段に深化しております。インド海軍への艦艇搭載用複合アンテナ「ユニコーン」の移転実現に向けた調整も進展しております。こうした協力を更に後押しするため、本日、新たな時代の日印安全保障協力宣言を採択をいたしました。

 経済安全保障も両国に共通する課題であります。重要物資のサプライチェーン強靱(きょうじん)化を始めとする連携を強化するため、日印で経済安全保障イニシアティブを立ち上げます。

 第二に、投資・イノベーション協力の促進であります。インドの広大な市場は潜在力にあふれ、その活力を取り込むことは日本経済の成長にもつながるものであり、日本の投資と技術移転が進むことにより、モディ首相が掲げておられるメイク・イン・インディア、メイク・フォー・ワールドも進むでありましょう。日本からインドへの民間投資を後押しするため、10兆円投資目標を設定することといたしました。ビジネス環境整備にも引き続き取り組んでいくことで一致をいたしました。

 宇宙、IT、AI(人工知能)といった新興技術分野を始め、インドのスタートアップの躍進は目覚ましく、経済成長とイノベーションをもたらしております。日印が結び付くことで、更なる価値がもたらされることは間違いなく、半導体やAIなどを中心に協力の裾野を広げるため、日印デジタル・パートナーシップ2.0及び日印AI協力イニシアティブを立ち上げます。また、日本のスタートアップ企業のインドでのビジネス展開支援や宇宙協力を推進してまいります。

 日印の旗艦事業である高速鉄道事業につきましては、その実現に向け、引き続き協力していくことで一致をいたしました。防災、デジタル、そして次世代エネルギーといった分野においても協力を発展させていくことを目標に、新たに次世代モビリティ・パートナーシップを立ち上げます。

 第三に、日印関係の緊密さに比べて、日印の人的往来・交流にはまだまだ成長の余地があります。インドの理工系人材の優秀さは有名でありますが、日本に来ておる留学生は2,000人を下回ります。高度人材を始めとするインド人材の力は、日本経済の成長、地方の創生に不可欠であります。インドにあるスズキやトヨタのものづくり学校では、日々、多くのインド人職人が育成されており、インドの発展を支えています。日本からインド、インドから日本の双方向で相互補完的な人材の育成と還流を一層進めるためのアクション・プランを作成し、日印双方の課題解決と成長につなげてまいります。

 2027年は日印国交樹立75周年でありまして、この特別な年に向け、この秋にジャパン・マンスを開催いたします。モディ首相の御提案に応えるものであり、官民で日印関係の更なる強化に取り組んでまいります。

 本日、今後10年に向けた日印共同ビジョンを採択をいたしました。これを指針に、モディ首相と共に、日本とインドの特別戦略的グローバル・パートナーシップを一層強化し、菩提樹(ぼだいじゅ)のように大きく育ててまいりたいと存じます。これからワーキング・ディナー、明日は宮城県まで御一緒いたします。それらの機会を通じて様々なテーマで更に議論を深めたいと存じております。ダンニャワード、ありがとうございました。