データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献

[場所] 
[年月日] 1996年5月7日
[出典] 外務省(序文及び要約),本文(国際協力機構(JICA))
[備考] DAC(開発援助委員会)第34回上級会合で採択
[全文]

序文及び要約

開発の意義

20世紀も終わりに近づいたこの時期に、過去50年間に開発協力について得られた教訓を踏まえて、21世紀の初めに向けた開発戦略を策定することが求められている。本報告書は、この問題について経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)に参加している開発担当閣僚、援助機関の長およびその他の開発協力関係当局が全体としてどのように考えているかを述べたものである*1*。

西暦2000年には、世界人口の5分の4は途上国で暮らしていることになるであろうが、その生活条件は槻ね改善しているものと考えられる。しかし、絶対的貧困の中で絶望を感じている人々も、依然として増え続けていると思われる。今なお、10億人以上の人々が絶対的貧困の中で苦しんでいるが、こうした問題に取り組むことは、我々先進国に暮らす者達にとって重要な人道的責務である。途上国の繁栄を促進することは、先進国自身の利益でもある。あらゆる国の人々と連帯し、より多くの利益や価値を共有することによって、国境を越えた様々な問題、即ち、環境悪化や移民、さらには麻薬や伝染病などの問題を解決することができる。世界に貧困や窮状があるために皆の安全が脅かされている。開発は、無視し得ない問題なのである。

マーシャル・プランの援助から、現在構築中の開発パートナーシップのネットワークまで、過去50年間の実績を振返れば、国や社会の自助努力が成功の大きな要素であったことは明らかである。しかし同時に、緑の革命、出生率の低下、基礎的なインフラストラクチャーの改善、流行病の抑制および貧困の劇的な減少といった成果をあげていく上で、多くの場合、開発援助が極めて重要な補完的役割を果たしたことも明らかである。援助は、適切な状況の下で適切に実施されれば、効果を発揮するのである。

国連、国際金融機関、OECDおよびその他の世界的・地域的な機関における協力によって、このような開発努力は非常に充実したものとなり、また、開発問題に関する国際社会の取り組み(マルティラテラリズム)も前進をとげてきた。このような取り組みには、すべての国が死活的な利害関係を有している。

我々は、すべての当事者が責任を分かち合った場合にのみ、開発援助は効果を発揮することを経験から学んだ。その成果は、成長と繁栄を実現し、工業化を達成した国々で見ることができる。これらの国々は、もはや援助に頼ることなく、自立して世界経済に参加している。他方、内乱や悪政によって何十年にもわたって開発が遅れている国々もある。また、我々は、成功には時間がかかること、諸外国および当事国の持続的な努力が必要であることも経験から学んだ。

将来に向けて、このような努力が必要であることは歴然としている。そのための重要な手段として、国際社会は、政府開発援助の量を維持・拡大して、貧困層の貧窮化の進行を阻止し、人間開発に関する現実的な目標に向けて前進する必要がある。国際的な開発努力が重大な局面にある今、加盟国は自国の国内問題を優先して開発努力をないがしろにするべきではない。開発協力ヘの今日の投資は、将来、非常に大きな利益となって還元されるだろう。

適切、効率的、計画的で持続可能な多数国間開発協力を行うため、資金的な手当が必要である。国連と多数国間開発銀行が危機に陥ることなく重要な役割を果たしていくためには、各加盟国が延滞金を支払うとともに、実行可能な資金手当てのシステムを整備するという現在の合意を完全に履行することが不可欠である。

また、公共資金について責任を有する者は、その有効な利用にも責任を有している。我々は、公共資金の支出によってどのような成果を挙げようとしているのか、また、それをどのような方法によって達成しようとしているのかを明確にする義務がある。

国際会議で議論され合意された多くの目標を考慮に入れた上で、いくつかの指標を選択し、それに基づいて我々の開発努力の成果を評価できるようにすべきである。我々は、開発のための世界的なパートナーシップを通じて、次のような野心的ではあるが実現可能な目標を達成するよう提案する。

経済的福祉

・ 2015年までに極端な貧困の下で生活している人々の割合を半分に削減すること。

社会的開発

・ 2015年までにすべての国において初等教育を普及させること。

・ 2005年までに初等・中等教育における男女格差を解消し、それによって、男女平等と女性の地位の強化(エンパワメント)に向けて大きな前進を図ること。

・ 2015年までに乳児と5歳未満の幼児の死亡率を3分の1に削減し、妊産婦の死亡率を4分の1に削減すること。

・ 2015年を最終目標として可能な限り早期に、適当な年齢に達したすべての人が基礎保健システムを通じて性と生殖に関する医療保健サービス(リプロダクティブ・ヘルス・サービス)を享受できるようにすること。

環境の持続可能性と再生

・ 2015年までに、現在の環境資源の減少傾向を地球全体及び国毎で増加傾向に逆転させること。そのため、すべて国が2005年までに持続可能な開発のための国家戦略を実施すること。

上述の目標は、世界全体の数値として表わされているが、これらの目標は各国の事情や国別開発戦略に基づく個別的アプローチによって、各国毎に追求されるべきものである。これらの測定可能な目標を達成するためには、より安定し、安全で、参加型の公正な社会の発展という質的要因が不可欠である。これには、効果的かつ民主的で責任ある統治のための能力育成、人権の保障、および法の支配の尊重が含まれる。我々は、開発の様々な側面のうち、このように数量化が難しい側面においても、引き続きその進展のために努力していく。

これらの目標の達成には、効果的な国際的支援が真に重要な役割を果たす。これは、援助さえあれば目標が達成できるということではない。これまでと同様、開発に最も大きく貢献するのは途土国自身の人々と政府である。しかし、そのような努力の素地があるところでは、先進国の強力な支援が必要であり、そのような支援を行う価値がある。我々は次のような方法によって支援に全力を尽くす所存である。

・ 第一に、開発のパートナーとの間でお互いの努力を約束し、適切な資源によってこの約束の履行を促進すること。

・ 第二に、各国が策定する国別開発戦略を支援するため、援助協調を強化すること。

・ 第三に、援助政策と途上国の開発に影響を及ぼすその他の政策との整合性の確保に十分に努めること。

上述のような考え方は、1995年にDACが採択した「新たな世界状況における開発パートナーシップ」という政策声明の中で提示された*2*。 本報告書は、この声明を踏まえて、開発のためのパートナーシップという考え方を実現するための新しい方法を具体的かつ実行可能な形で提案するものである。

本報告書は、開発協力の効果を高めるために現在行われている広汎な努力に貢献することを目指している。たとえば、OECD内部、世界銀行および国際通貨基金(IMF)の暫定委員会および開発委員会、地域開発銀行、G-7並びに国連諸機関において活発な議論や意思決定が行われている。開発協力に対するこのような関心の高まりを受けて、我々は、開発が無視し得ない問題であるという確信を一段と強めている。

相互依存が深まる中、貧困国および貧困層が自立できるか否かは、21世紀の世界のあり方に多大な影響を与える問題である。我々は本報告書の提案を行うに当たり、国際協力は開発を支援する上で効果的であり得ること、また、そのために必要となる努力に十分に値するだけの成果をもたらすことを確信している。地球という惑星とそこに住む人々の将来の安定と持続可能性がかかっている以上、我々はこのような努力を怠ることはできない。


I. 前進へのビジョン

A. 世界的な転換期における新たな課題と機会

21世紀においては、地球規模の問題に対応するためには、国際社会のすべての構成員の積極的参加が不可欠となろう。新しい世紀に向けた共通のビジョンは、世界人口の80%を占める途上国の問題を含んだものでなければならない。途上国の将来はこれまで以上に先進国の将来と密接に結びついたものとなろう。平和と安定の維持、世界経済の拡大、貧困との闘い、人々の選択の幅と成功の機会の拡大、人権の尊重および環境と人口の持続可能な均衡を達成する上で途上国が果たす役割はこれまで以上に重要なものとなろう。

新たな機会および課題として次の諸点が明確になりつつある。

・ 世界の一体化に助けられて一部の途上国は世界で最も高い経済成長率を達成している。21世紀の前半には、現在途上国とされている国の経済規模は、世界全体の経済規模の半分を占めることになるであろう。

・ 世界人口は1990年の50億人から2015年には約75億人まで増加する見込みであるが、増加分のほぼすべてが途上国の人口増加によるものとなろう。この25年間の増加人数は、1950年の時点での世界の総人口にほぼ匹敵するものである。

・ 経済の相互依存関係が強まるにつれ、国際競争と活発な民間部門の活動によって、先進国と途上国の政策は類似したものになってきている。

・ 他方で、国内および各国間の格差の拡大も顕著となっている。貧困の集中が依然として深刻であるものの、一部の途上国は相当な高成長率と目覚ましい貧困削減を実現している。他の国々、特にサハラ以南のアフリカ諸国は世界経済からますます取り残され、すでに悲惨な生活水準がさらに悪化し続けている。

・ 水質、土壌および空気の汚染、生物多様性の減少、魚類の減少、現行の生産・消費様式および世界的な気候の変化を考えると、地球上の天然資源という基盤が人口の増加と都市化を支える能力を引き続き維持できるかどうかは疑問である。

・ 人類の安全と幸福のために、また、現在形成されつつある複雑で相互依存的な国際システムを機能させるために、環境的側面からだけでなく、社会的、文化的および政治的側面からも開発努力を持続可能なものにすることが不可欠であることが明らかである。

21世紀にかけて現れつつあるこれらの新たな課題と機会に国際社会が対応する上で役に立つ開発協力戦略が切実に求められている。我々が選択を迫られているのは単なる援助計画の妥当性や効果にはとどまらない。開発に対する国際的支援に関する決定は、我々の社会の将来の全体像をも左右する。人々が安全で生産的な生活ができる安定した世界秩序を創造するために開発は何ができるだろうか。将来の紛争や混乱、貧困や環境破壊を避けるために開発はどのような貢献ができるだろうか。開発協力は変わりつつある世界情勢にどのように適応していくのだろうか。

B. 守るべき利益

DAC加盟国は毎年約600億ドルを政府開発援助のために支出している。それは次の三つの動機に基づくものである。

第一の動機は、基本的に人道的なものである。開発への支援は、今なお世界人口の5分のlを苦しめている極端な貧困と非人間的な状況に対する思いやりの心からくる対応である。極端な貧困状態にある人々はほとんどの場合、安全な水および十分な保健衛生設備を利用することができない。栄養不足のため、多くの人々は生産的な生活を営むことができない状態にある。大多数は基本的な読み書き、計算をすることができない*3*。彼らがこのようなひどい状態に置かれているのはまったく不必要なことであり、この状態が続くことは許容し難い。開発支援の人道的な必要性は自明である。

第二の理由は、援助国側の自己利益である。開発は貧しい国の人々だけでなく、援助を供与する先進国の人々にも利益をもたらす。途上国の繁栄が先進国の製品やサービスの市場拡大につながることは実証済みである。生活安全度の改善は、移民の増加圧力とそれに伴う社会的および環境的な緊張を緩和する。政治的な安定と社会の一体感の向上は、他の国々に必然的に影響を及ぼす戦争、テロおよび犯罪の危険性を軽減する。

開発に対する国際的支持の第三の理由は、すべての人々の間の連帯意識である。開発協力は全世界の人々が協力して共通の問題に取り組み、共通の願望を追求する一つの方法である。持続的な開発によって、国境を越えた地球規模の問題に対処するために必要な利益と価値をより広く共有することができる。地球規模の問題には、環境の保護、人口増加の抑制、核拡散の防止、麻薬の統制、伝染病の撲滅などがある。

変化しつつある世界の中では、「東」と「西」だけでなく「北」と「南」という旧来の区別も不鮮明になりつつある。問題を「国内」と「国際」に分けることももはや不可能となっている。すべての国は、成長する世界経済システムに参加して恩恵を受ける機会を有するとともに、社会の崩壊と孤立化の危険性を抱えているのである。1995年のDACの開発パートナーシップに関する政策声明で強調されているように、安全に関する基本的な考え方が問い直されており、人類全体にとって必要なことや関心のあることおよび環境の質が、これまで以上に重視されるようになっている。世界に存在する貧困と苦難は、あらゆる人々の安全をこれまで以上に脅かすようになっている。

C.実績と教訓

過去数十年間の開発の進展は、人類の歴史に例を見ないほど目覚ましいものであった。大規模な開発援助が始まった1950年代初めには、先進国以外の人々は、それまで通り辛うじて生存しているという状態であった。世界や国家の問題に関する知識はほとんどなく、またそれに対する発言権も全くなく、報われることの少ない短い一生を精一杯働いて過ごす以外、ほとんど希望のない生活であった。その後、多くの国において、人間の福祉に関する様々な指標が劇的に改善された。

・ 途上国の平均寿命は20年以上伸びた(41才から62才へ)。

・ 安全な水の利用可能な人口の比率が倍増した(35%から70%へ)。

・ 成人識字率が半数弱から3分の2近くまで上昇した。

・ 食糧の生産と消費の伸びは人口増加率を約20%上回るものであった。

これらの目覚ましい成果はすべての国で同じ様に達成されたわけではない。一部の国では貧困はますます深刻化しており、多くの国の貧困層は上述のような好ましい世界的傾向の恩恵に浴していない。今なお毎年数百万人の人々が予防と治療が可能な病気によって死亡している。1.3億人の子供達が小学校の就学年令にありながら学校へ通っていない。途上国の子供達の3分のl以上が栄養失調で、10人にl人は5才未満で死亡している。人間の尊厳の尊重、特に、男女平等は多くの人々にとって依然として実現されない夢となっている。

これからの道のりは、これまでの道のりほど長くはないが、目的地はまだまだ遠い。過去数十年間見てきた目覚ましい進歩によって、我々は貧困は克服可能で開発の達成も可能であるという自信を深めた。しかし、進歩というものは必然的なものではないことは歴史が物語っている。自己満足に浸っている余裕はない。サハラ以南アフリカで進行中の経済的、社会的および政治的な改善を促進し、同地域の更なる孤立化を防ぐために、国際社会は特別な関心を払う必要がある。

人々と組織、機関が持続的な自助努力を行った途上国だけが成功を成し遂げたことは明らかである。同時に、国際協力もこの50年間の開発の成果に大きく貢献しており、その役割が拡大していることも実証されている。

本考察では、開発協力が最も大きな変化をもたらした分野について検討した。これは二つのレベルで検証することができる。第一に、地球的なレベルにおいては、次に述べるように、過去半世紀の間に人々の生活条件のいくつかの基本的な側面が大きく変化している。第二に、個々の国の実績からも多くの教訓が得られる。そこでは成功や失敗をもたらす複雑な要因が極めて異なった結果を生み出している。

地球的なレベルでは、次のような例が挙げられる。

・ 乳幼児の死亡率の目覚ましい低下は、世界保健機関と国連児童基金が主導し、多くの援助国の支援を受けて実施された子供の生存率改善のための大規模な国際的運動によって支えられてきた。

・ 「国連国際飲料水供給・衛生の10年」であった1980年代に14億人近い人々が安全な水を利用できるようになった。これは効果的な援助に支えられて途上国の努力が実を結んだ例である。

・ 国際開発機関の後援によって、天然痘(現在は撲滅されている)、小児麻痺(ほとんどの国で撲滅されている)、ジフテリアおよびはしかを防ぐための研究・教育・予防摂取プログラムが実施され、乳児の下痢、河川盲目症およびギニア虫病に対する簡単で効果的な処置法が導入された。これらの努力が成功し、その成果として数百万人の人命が救われ、数十億ドルの経済効果が生まれた。

・ 「緑の革命」は、カロリー消費量の20%の増加(およびそれに伴う栄養失調の減少)に大きく貢献したが、農業調査、新品種の開発、普及事業、灌漑および生産・販売への支援に関する国際的な協力と、健全な農業その他の経済政策を促進するための開発協力が「緑の革命」の重要な原動力となった。

・ 開発協力は家族計画とそれに関連した教育に貢献し、その結果、多くの途上国で出生率が大幅に低下し、家族の規模は望ましいものとなった。途上国における避妊具の使用率は、1960年には全夫婦の10%であったが、1990年代には50%まで増加した。

・ エネルギ一、輸送および通信インフラストラクチャーを普及改善し、これらのシステムの管理能力を強化するため、開発援助資金が多くのプロジェクトに投入された。このような投資と体制の整備は、より多くの人と国を現代の経済の中に組み込む上で重要な役割を果たした。

・ 持続可能な開発にとって重要ではあるが数量化の困難な様々の側面に関しても、開発協力は、大きく貢献している。その中には、経済・社会政策の運営能力の改善を始めとして、責任に関する意識の増大、法の支配および人権、国民の参加の拡大と社会資本の蓄積並びに環境保全への関心の高まり等が含まれる。開発のこれらの側面は従来の課題より複雑であるが、今日の国際協力の基本となっている。

国のレベルでは、開発協力は開発の成果に影響を与える多くの要因の中の一つであることが一段と鮮明である。本考察の過程で、DAC加盟国は60か国以上の事例と多くの地域別または一般的な教訓を提供した。近年、我々は援助の効果を検証するため、各国の経験を総合的に調査している。学問的な見地からも、援助の量および種類と各国の総合的な経済的社会的発展との統計的な相関関係を探る試みがなされている。これまで懐疑的な分析が注目を集めてきたが、新しい研究の中にはより明白な相関関係を指摘しているものもある*4*。

開発の成功や失敗の原因として、一つの要因を特定することは通常は不可能である。援助が最大の効果を発揮するのは、他の諸要因に対する触媒や促進要因として作用する場合である。同時に、このような方法によって、非常に異なった状況に直面していた多くの国が援助の力を借りて多方面にわたって開発を成功させた事実もある。個々の援助評価と本考察における我々独自の再検証によって、このような援助が多くの国において、また地球的な視点から見ても、着実に経済的・社会的発展に貢献し、そのような貢献が増大していることが明らかとなっている。

開発と開発協力は人間の経験そのものの反映である。それは決して単純で整然とした進歩の物語ではない。後退もあれば、資源の浪費もあり、援助計画が稚拙だったり、運営方法の失敗から非建設的な結果に終わったものさえある。一部の国は過度に援助に依存するようになってしまった。我々は成功と失敗の双方から最大の効果を生む方法を学んできた。特に、開発戦略を成功させるにはいくつかの重要な条件を満たすことが必要であることを学んだ。必要なのは健全で安定した政策基盤、社会開発の重視、現地の人々、特に女性の参加の拡大、最も広い意味での良い統治、環境面で持続可能な政策と慣行および紛争を回避・解決し和解を推進するより良い手段である。

これらの基本的な教訓から導かれた我々の総合的な結論は、開発協力はしばしば決定的な重要性を持つものの、それは途上国の人々、組織や機関および政府の努力を補完するものに過ぎないということである。

D.ビジョンを明確にするための目標

1995年のハリファックスにおけるG7首脳会議で、すべての人々の生活の質の向上が持続可能な開発の目標として合意されたが、我々はこれに同意する。生活の質の向上とは、人々が自らの将来を決める能力を高めることを意味している。このような大きなビジョンを追求するには、すでにこれまでの議論で指摘されたものを含め、多くの未完の事業に焦点を絞る必要がある。すなわち、極端な貧困の克服、食糧安全保障の確保、市場経済の効果と政府の効率の改善、地域協力の推進、すべての人々、特に、女性の参加の拡大、最貧困層と最貧困国の自立のための能力開発による依存の縮小などである。これら一連の難事業は明確な体系をもつ必要がある。

我々は、いくつかの特定の目標を設定することによって、すべての人々の生活の質の向上というビジョンを明確に提示することができ、そのビジョンに向けての進展を測定するための道しるべを得ることができると考える。

開発に関する重要な問題をテーマとする最近の一連の国連会議で多くの目標が策定された。それらのテーマは、教育(ジャムチェン、1990年)、子供(ニユー・ヨーク、1990年)、環境(リオ・デ・ジャネイロ、1992年)、人権(ウィーン、1993年)、人口(カイロ、1994年)、社会開発(コペンハーゲン、1995年)および女性(北京、1995年)である*5*。これらの会議では、特定の分野における開発の進展を測定するためのいくつかの目標が設定された。それらは途上国の活発な参加を得て国際社会が到達した幅広い合意を反映している。

これらの合意の中から、一貫性のあるーまとまりの目標を選定することによって、進歩の測定に役立つ指標を得ることができる。経済的福祉、社会開発および環境面の持続可能性について我々はいくつかの指標を提案している。これらの指標の選定は、個々の指標の重要性と、それがより広義の開発の目標を代表し得るかどうかという判断に基づいている。我々が一部の限られた数の目標を選んだことは、国際会議などで国際社会が認めたその他の目標に対する取り組みを後退させることを意味するものではない。

これらの目標は、単に開発協力だけでなく、開発プロセス全体で実現を目指すものである。これらの目標は、我々援助国が効果的な開発協力を促進する上で有効と思われる進歩の判定基準を提案したものに過ぎない。その達成には、開発のパートナーである途上国が独自の国家目標と独自の戦略を通じて、目標に同意し、目標の実現に努力することが必要である。目標の実現は、真のパートナーシップ精神に基づく対話と合意を通じた共同作業によってのみ可能となるのである。

成功の鍵は、包括的なアプローチが広く受け入れられるかどうかにかかっている。このアプローチとは、途上国と先進国、さらには国際機関におけるあらゆるレベルの政府、民間および非政府機関(NGO)および組織の資源、エネルギーおよびコミットメントを必要とするものである。また、同様に国や社会によって異なる事情を考慮し、開発プロセスの主体が現地にあること(オーナーシップ)を尊重する個別的アプローチも必要である。我々は従来の考え方や方法を改めて、これまでよりはるかに協調的な努力を行うことが必要となろう。

1. 経済的福祉:極端な貧困状態におかれた人々の比率を2015年までに少なくとも半減させる。1995年の社会開発サミットにおけるコペンハーゲン宣言と行動計画は、「人類の倫理的、社会的、政治的および経済的な責務として」積極的な各国の政策と国際協力を通じて世界の貧困を撲滅するという目標を提唱している。世界銀行は、l人当たり370ドルの年間所得、すなわち、ほぼl日1ドルを極端な貧困の基準としてきた。この基準によると、途上国の人口の30%に当たる13億人が極端な貧困状態にあり、その数は増加傾向にある。

この目標は、社会開発サミットで提示された世界の貧困を撲滅するという目標にははるかにおよばない。しかし、この目標は、社会開発サミットの目標に近づくために、具体的で達成可能な中期的指針となるものである。この程度の貧困の軽減は、個々の国で達成されてきた実績がある。我々の提案は、これらの個々の成功を一般化することである。極端な貧困を半分に減らすことができたとしても、依然として世界人口の膨大な割合を占める人々にとっては悲劇が存在する。しかし、50%の削減が成功すれば、貧困軽減の努力を続ける必要性と能力の両方が実証されることになろう。

明らかに、この目標の達成は、一部の国では他の国よりはるかに困難である。しかし、世界平均でこの目標を達成するだけでは不十分である。それぞれの国毎に目標を追求し、すべての国において大幅な進歩が目指されなければならない。この目標はl人当たりの経済成長率の大幅な上昇を必要とする。しかし、成長率は国によって大きな格差が予想されるため、我々は、世界全体の成長率に関する目標は国別戦略の策定には適切でも有用でもないと判断した。

2. 社会開発:初等教育、男女平等、基礎保健医療および家族計画の分野において次のような大幅な進展が必要である。

a) 2015年までにすべての国で初等教育を普及させる。この目標は1990年のジャムチェンでの万人のための教育世界会議に基づくもので、1995年のコペンハーゲンでの社会開発サミットおよび1995年の北京での世界女性会議で2015年までの目標として承認された。基本的な識字および計算能力の修得は、貧困を削減し、経済的・政治的・文化的な社会生活に人々が参加するための最も重要な条件であることが繰り返し指摘されている。

b) 2005年までに初等・中等教育における男女格差を解消することによって、男女平等および女性の地位の向上(エンパワメント)に向けた進歩を示す。社会開発サミットに加えて1994年のカイロでの国際人口開発会議および世界女性会議でも、初等・中等教育における男女格差を2005年までに解消することが提言された。女子教育への投資は、開発の最も重要な要素の一つであり、他のすべての進歩のための手段にも良い影響をもたらすことが繰り返し強調されてきた。教育における男女平等の達成は、公正と効率を促進する手段となろう。

c) 2015年までに各途上国の乳児および5才未満の幼児の死亡率を1990年の水準の3分の1に低下させる。同じ期間中に妊産婦死亡率を4分の1にさせる。国際人口開発会議において、2015年までに乳児死亡率を出生1000人当たり35未満まで、5才未満幼児の死亡率を出生1000人当たり45未満まで低下させる目標が設定された。上述の目標はこれらの目標に沿ったものである。子供の死亡率は、社会で最も弱い者が保健と栄養をどれくらい利用できるかの尺度であり、その社会全般の保健状況を示す重要な指標である。

妊産婦死亡率は、国ごとの格差も大きいが、途上国と先進国の格差が最も顕著に現れている分野である。国際人口開発会議では、各途上国の妊産婦死亡率を2000年までに1990年の水準の半分とし、2015年までにそれを更に半減させるという目標が採択された。これらの目標は世界女性会議でも承認された。1995年の世界開発報告では、1980年代の途上国全体の妊産婦死亡率は出生1O万人当たり約350であったと推定されている。

d) 2015年までのできるだけ早い時期に、適切な年令のすべての個人が、基礎保健システムを通じて性と生殖に関する保健医療サービスを受けられるようにする。国際人口開発会議で合意されたこの目標は、世界人口を安定させ、性と生殖に関する健康並びに妊産婦および子供の健康の改善、開発の持続可能性の確保にとって鍵となるものである。

3. 環境の持続可能性と再生:2005年までにすべての国が持続可能な開発のための最新の国家戦略を策定する。それによって、2015年までに、森林、漁業、淡水、気候、土壌、生物多様性、オゾン層、有害物質の蓄積およびその他の主な指標に表れる現在の環境資源の減少傾向が、世界的な基準および国別基準の双方に照らして効果的に改善されるようにする。この目標は、1992年のリオ・デ・ジャネイロでの国連環境開発会議での提案に基づくものである。その意図は、環境に関する国際諸条約で設定された世界的な目標基準を補完することである。国連環境開発会議で要請された持続可能な開発のための国家戦略は、「将来の世代のために資源基盤と環境を保護しつつ、社会的に責任のある経済開発を実行する」ことを目指す参加重視の戦略である。

この目標は、すべての国が2015年までに環境課題に取り組み、環境問題に対処する能力を備えることを意味している。国連環境開発会議では、本報告書に示されたすべての目標に向けた進展を含め、経済・社会開発の進展は、天然資源基盤の維持と環境破壊の抑制に大きく依存していることが強調された。また、国連環境開発会議やその他の国際会議では、これらの目標は、途上国自身が率先して行動を起こし、それに利害関係のあるすべての関係者が参加して初めて達成できるという考えが強調された。

持続可能な開発には、さらにいくつかの重要な要素を考慮する必要があるが、そのすべてがここで指摘した目標に適している訳ではない。たとえば、コペンハーゲン宣言には、安定・安全・公正で、すべての人権の推進と保護を基本とする社会を形成することによって社会の統合を促進するという目標が含まれている。同様に、1995年のDACの開発パートナーシップに関する政策声明は、民主主義に則った統治の信頼性、人権の保護および法の支配を総合的な開発戦略の主たる要素として指摘した。開発資源を民主的な統治のために投資することは、一段と責任が明確で、透明性の高い、参加型の社会の形成に貢献し、開発の進展を助けることになろう。こうした開発の質的側面は、それ自体は数値指標の対象とはならないが、ここで提案されたより計測可能な目標を達成する上で不可欠な要素であることを重ねて強調したい。このため、我々はパートナーとの対話において、また、我々の政策および援助計画において、引き続きこれらの問題に取り組んでいく。


II. 将来の課題に対する新たな戦略

A. 変貌する開発協力

昨年我々は開発協力におけるパートナーの役割に関する我々の見解を明らかにした。主な経済面、社会的面、環境面および政治面の要素を網羅した包括的な戦略に基づく持続可能な開発は、途上国が主体となるものでなければならない。外部のパートナーの役割は、途上国が「個々の国の条件と決意に応じて、持続可能な開発に必要な諸条件を整える」ための能力の強化を支援することである*6*。

途上国の主イ本性(オーナーシップ)とパートナーシップに対する我々の考え方を実現するためには、これらの価値を損なわない手段と方法を用いて開発協力を実施していかなければならない。パートナーの役割を明確にしたパートナーシップ・モデルの採用は、我々が開発協力の枠組みについて提案していることの中で最も前向きの変化である。パートナーシップの下では、開発協力は途上国やその国民に代わって行動するのではなく、彼らと共に行動することを目指す。それは、彼ら自身の行動能力を高めるための共同作業とみなすべきものである。この枠組みにおいては親と子のような関係は存在しない。真のパートナーシップにおいては、途上国の当事者が主導的な役割を積極的に果たし、外部のパートナーは彼らが自らの開発に一層大きな責任を負えるよう手助けをする。

パートナーシップは次第に複雑化している。初期の援助活動はほとんど常に中央政府との共同作業であった。今日では、より多くのパートナーと共同作業を行うことによって、効率を高め、多極化・分権化した政治制度に対応し、活力のある民間部門、現地の主体性および市民社会の参加の重要性に配慮している。

開発と開発協力に対する我々の理解は根本的に変化した。社会がどのように運営され、国際システムがどのように機能するかということをより十分に考慮に入れるようになった。現在我々は、これまでより人間中心的で、参加型の持続可能な開発プロセスに向けて次のような一段と幅広い目的を掲げている。

・ 広範な基礎を有する経済成長を達成しながら貧困を軽減する。

・ それぞれの国において国内の課題に対処するための人や組織の能力を強化して、社会の崩壊や「破綻した国家」という悲劇の拡大を回避できるようにする。

・ 地球規模の問題の取り組みや解決に貢献する途上国の能力を改善する。

・ 途上国と市場経済への移行段階の国が世界経済の貿易・投資のパートナーとして成長できるように、組織改革を推進し、環境を整備する。

我々は開発協力がこれらの目的達成のために、極めて重要な貢献ができると確信している。同時に、開発協力だけの力で達成できることについて、我々の期待はそれ程大きなものではない。我々が直面している多様で複雑な課題の多くは新たなものであるが、我々はパートナーシップというアプローチがそれらに対処する方法であると確信している。良い統治、民間部門の育成、環境問題への対処能力および男女平等といった課題が現在のように注目されるようになったのは近年のことであり、これらの問題への取り組みについては、開発協力はまだ経験が浅い。

このような社会的変革という広い視点で開発をとらえると、開発協力とその他の政策は、調和して実施されなければならないということが明白となる。我々の最も重要な関心事である平和、経済成長、社会正義、環境保全および民主主義は、援助プログラムの枠を大きく越えるものである。開発協力に向けられる資源と開発機関の専門的知識は、開発の目的を重視した一貫性のある政策の枠組みに統合する必要がある。我々自身の政府部内においても、開発は援助機関にとって重要なだけでなく、外務、財務、貿易、環境、農業および国防の各省庁にとっても重要なものである。より広い視点では、先進国の国民は、自国の政策が開発を促進するか、挫折させるかについて大きな利害関係を有している。

B. 効果的なパートナーシップに向けての協約の強化

本報告書において、我々は各途上国とその国民が自らの開発に対して最終的な責任を負うことを繰り返し強調してきた。すなわち、開発協力は、途上国を出発点として、現地個有の事情を反映するメカニズムを通して組織されなければならない。一部の途上国には、必要な能力を養成するための特別な支援が必要となろう。同様に地域レベルにおける開発協力や特定部門に関する開発協力も重要である。しかし、これらの手法は、持続可能な開発の実現のための圏内の能力を強化する努力を補完し、改善するものでなければならない。

基本原則としては、途上国自身の開発戦略と目標は、現地の各当局が市民社会および外部のパートナーと共通の事業のための共通の目標やそれぞれの役割分担について率直かつ協力的に話し合うことによって策定されるべきものである。各援助国のプログラムや活動は、そのような途上国自身の戦略の枠組みの中で、現地の固い決意、参加、能力開発および主体性を尊重し、これらを支援しながら実践されなければならない。

パートナーシップには多様な要素が含まれることになるが、共通の目標に向けて個々のパートナーが担当する活動分野として、次の諸点が挙げられる。

共同で責任を負う分野

・ 開発のための十分な資源を創出する条件を整える。

・ 武力紛争の危険性を最小限にする政策を追求する。

・ 国内で、また、国際的に腐敗や不法な慣行を防止する活動を強める。

・ 市民社会全体から開発への効果的な貢献を受け入れる。

・ 急成長している途上国や地域開発メカニズムの支援を要請する。

途上国の責任分野

・ 適切なマクロ経済政策を維持する。

・ 男女平等を含む社会開発および参加の拡大という基本目標を目指す。

・ 信頼できる政府と法の支配を促進する。

・ 人々および機構の能力を強化する。

・ 新規事業や圏内貯蓄の投資への活用を容易にする環境をつくる。

・ 効率的な税制や生産的な公共支出を含む健全な財政運営を行う。

・ 近隣諸国と安定的で協力的な関係を維持する。

外部のパートナーの責任分野

・ 優先的な需要を満たし、合意された開発目標の達成に向けた追加的資源の活用を促進するために、信頼性のある適切な支援を行う。

・ 途上国に十分な機会を与えるような国際的な貿易・投資制度の整備に努める。

・ 国際的に合意された効果的な援助のための指針を遵守し、継続的な改善に向けてモニターを続ける。

・ 途上国の能力の強化と参加の拡大を支援し、援助への依存を避ける。

・ 情報、技術およびノウハウの利用を支援する。

・ 人権や武力紛争の危険に影響を与える政策のー貫性など、援助以外の側面においても終始一貫した政策を支持する。

・ 途上国自身の戦略を支援するため、外部のパートナーの間の国際援助システムのより良い調整に努める。

C. 援助の改善に向けて

本報告書の最後の部分では、より効果的な開発協力の実現のためのいくつかの具体的方法を提案する。以下は我々の全体としての経験を踏まえた提案である。これらは我々の長所を伸ばし、短所を矯正することを目指している。しかし、援助国主導の計画が現地に根付いた例は稀であり、効果的な仕組みにおいては常に途上国とその国民が中心でなければならないというのが開発協力における一つの大きな教訓である。したがって、ここで提示された考え方については、特に、パートナーである途上国と議論を重ねる必要があり、実際の活動で試した上で取捨選択して適用する必要があると思われる。

途上国自身の戦略への支援

過去の援助活動で最も頻繁に見られた欠点の一つは、援助プロジェクトの過度の分散である。多くの援助国は主な援助供与先との共同作業において、案件毎の対応を越えて、策定された国別戦略に依拠するようになってきている。これらの国は、最も援助依存度の高い国となりがちである。これらの国では、多くの援助国が活動している。各援助国の戦略はそれぞれの国家の優先課題に対応するものであるが、援助国の戦略の数と多様性が途上国側の機関に与える負担と、その主体性や参加をいかに促進または阻害するかが問題となっている。

DAC加盟国は、国際機関や他の援助国と協力して、途上国パートナーが独自の開発戦略を強化することを助け、援助国側からの支援の調整を促す意向である。現地主体の戦略を強化する一つの方法は、途上国の予算による公共支出を必要とする分野に資金を提供するというものである。この手法は、途上国の政策の有効性と信頼性を確保することを目的として、いくつかの試験的な案件で試みられている。

適切な資源の提供

開発資金は次第に多様化している。1980年代半ばには、公的開発資金が途上国への資金の流れの主流であった。1990年代半ばには、民間資金の流れが公的資金の流れをはるかに超えている。途上国においては、高い圏内貯蓄率、現地の効率的な金融制度、そして健全な経済政策が根本的に重要であることが経験によって実証されている。急成長を遂げている途上国では、いずれも国内貯蓄が成長の主な原動力となっており、多くの場合、国外からの民間投資がそれを支えている。開発協力は、より多くの途上国が資本と技術を求めて競争できるように、これらの基礎的条件に取り組む必要がある。

開発に関する我々の理想は、自立を促進することによってそれぞれの国と国民がだんだんと援助を必要としなくなることである。しかし、多くの貧困国は依然として、援助以外の方法では、すべての人々の利益となるような成果を示すために必要な資源を利用することができない状態にある。民間資金は、一部の国と一部の部門に集中しており、最貧国に属する小国は、依然としてこの有望な開発資金をほとんど誘致できない。さらに、民間資金は通常、保健や教育などの最優先分野に直接投入されることはない。途上国が国内資源を創出・活用し、民間投資を誘致する能力を持つまでの間は、引き続き譲許的資金に頼らざるを得ない。重い債務負担を抱える貧困国の多くは、維持不可能な債務負担を軽減するために国際的協調行動に頼ることになるだろう。

1995年の開発パートナーシップに関する政策声明の中で、我々は自助努力を進める国と人々を支援するために相当の開発協力のための資源を調達する決意であることを再確認した。OECD閣僚理事会は、この声明を支持するとともに、「途上国の自助努力を支援するため、できる限り多くの公的資金を動員し、民間資金の流れを促進する」との決意を表明した。

DACに加盟する21か国の中で、1970年に政府開発援助の適切な水準として国連によって設定され、広く受け入れられている国民総生産(GNP)の0.7%という量的目標を満たしている国は、わずか4か国だけである*7*。DAC全体では、政府開発援助への支出はGNPのわずか0.3%にとどまっている。さらに、近年は、人道援助や債務救済により多くの政府開発援助の資金が支出されているため、援助予算は一段と逼迫している。とりわけ、こうした予算の逼迫によって、国連システムや多数国間開発銀行がかつてないほどの財源不足に陥っている。これらの国際機関は依然として開発促進のための世界的な活動の中心的存在である。このため、その財政困難が懸念材料となっている。

最近では1992年にリオ・デ・ジャネイロで開かれた国連環境開発会議の行動計画の中で、先進国は「GNPの0.7%を政府開発援助に振り向けるという国連の目標を達成する」という決意を再確認し、「その早期達成を目指して未達成の度合いに応じて援助プログラムを拡大する・・」ことに合意した。この目標に同意していない他の先進国も国連環境開発会議で「政府開発援助の水準を引き上げることに最大の努力を行う」ことに合意した。

本報告書で我々は開発の進歩、すなわち投入量ではなく成果を示す指標に焦点を当てている。しかし、前述のように、政府開発援助は他の開発資源を補完する必要不可欠の投資である。貧困国の一層の貧窮化を回避し、人間開発の現実的な目標に向けて前進しようとする限り、明らかに政府開発援助を維持・拡大することが必要である。同時に、途上国との協約を強化しようとしても、減少する資源と後退する決意の下では、その努力は信頼性を欠くものとなることも明らかである。したがって、一部の加盟国における国内問題への没頭と財政の圧力によって、重要な時期にさしかかっている国際開発協力活動が深刻な危機にあるという懸念を改めて指摘する必要がある。

国際的な場と現地における協調の推進

我々はパートナーである途上国の戦略にそって援助活動のより良い調整を行う決意である。援助国間の一般的または分野別調整は、対象国によってまちまちである。それぞれの国の事情を考えると、特定のモデルを推薦することはできない。しかし、効果が実証された方法は強く薦める価値があると思われる。たとえば、開発協力の調整役は、可能な限り途上国が務めるべきである。しかし、現地の関心と能力が低い場合には、援助国が援助調整のために定期的な場を設け、現地代表を参加させるようにすべきである。個々の課題や部門毎に、(援助国か国際機関かを問わず)援助側の調整役を決めることも可能であり、途上国パートナーはそのプロセスの重要な一部として位置づけるられべきである。現場における援助調整は、DACの援助審査だけでなく国際的な援助国会合(CG)や円卓会議(RT)によって点検することができる。効果的な調整を促進し、援助調整を主導するための現地の能力を強化することがその目的である。

モニタリングと評価

受益者の反応を十分に把握しながら、援助調整とその実施が計画どおり改善されているかどうかを絶えず点検する必要がある。DACは独自の援助プログラムを持たないが、すでに基準を提供し、調整を行う機関として、このような役割の一部を果たしている。現在行われている多くの評価活動(多数国間開発銀行によるものを含む)やDACによる二国間プログラムの厳密な審査、さらに現在試行段階にある被援助国別の新しい援助審査を基に、将来はより多くの役割を果たすことができる。苦労して学んだ多くの具体的な教訓は、DACの「効果的援助の原則」およびその他の政策指針や、次第に増加している結果重視の計画、評価およびフォロー・アップの作業に反映されている。効果的援助の指針は、現場で絶えず周知徹底し、試行し、その結果を新しいプログラムに反映させる必要がある。これらの教訓が将来の開発協力活動に活かされるかどうかを我々は引き続き監視していかねばならない。

協力の裾野の拡大

援助は稀少な資源であり、本報告書を通じて強調してきたように、優先順位の高い需要に対応し、他の開発投資を促進することを目指さなければならない。最近10年間の進歩の中で最も心強い兆候の一つは、援助の必要性がなくなったり、少なくなったりした国が多くあり、一部には自ら援助国となった国もあることである。

DACは現在、援助受け取り国・地域リストを定期的に見直し、このリストから卒業すべき国・地域を識別するシステムを整えた。加盟国はすでに援助額の大半(約63%)を低所得国および後発開発途上国に投入しており、途上国の進歩に応じてこのような援助の集中を続ける決意である。途上国が持続的成長と開発に向けて進むのに合わせて、各国の開発戦略を助ける援助資金が引き続き投入され、援助からの段階的卒業に向けた意識的な過程が明らかにされるよう、協調的な努力を行う必要がある。

最近開発に成功した国、機関および個人がその経験と洞察を他と分かち合えば、極めて大きな効果をあげることができるだろう。彼らの経験はまた、開発の恩恵が国際的に共有される具体例でもある。自らの開発の経験によって国際協力の裾野を広げることができる国や機関、人々の参加を促し、強化する必要がある。そのような努力は、DACにおける我々の共同作業の一部となっている。

D. 政策の結集

本報告書では、開発援助をはるかに越えて進展する先進国と途上国の関係について述べてきた。多くの分野で、先進国の政策が開発努力を補完する場合もあれば阻害する場合もある。先進国の財政赤字の動向によって、途上国がどのような条件によってどれだけの資金を調達できるかが左右される。輸入品に対する環境面、衛生面およびその他の規制は非関税障壁となることもある。武器輸出の増加は、開発の優先分野に当てるべき乏しい資源を枯渇させる可能性がある。他方、先進国の政策次第では、貿易や投資を促進し、技術の普及を円滑にし、他の多くの側面でも開発の目標に向かつて前進することができる。

今日では、開発政策の一貫性に伴う問題と機会について、従来以上に厳密に検証し、追跡することが必要となっている。我々は開発に関連するすべての先進国の政策が開発の目的と一致し、このような目的を損なわないものであることを確保しなければならない。我々はOECD加盟国と途上国の関係を検討する広範囲の共同作業についても他の関係者と協力する。これは1994年に完了したこのテーマに関する有望な研究に基づいて、現在OECD内部で進められているものである*8*。我々は、政策の対立を避ける以上のことができると確信している。我々は、開発協力およびその他の面での先進国と途上国との関係がお互いを強化するものとなるよう努力する。

21世紀は一層の協力と希望と機会の世紀となる可能性がある。本論の目的は来る世紀に、この地球上に生きるすべての人々の安全と福祉にとって開発がいかに重要であるかを示すことであった。開発協力は、他の形の国際協力と並んで、努力に見合うだけの価値ある成果をもたらすと我々は確信している。


{*1* 本報告書は1996年5月6日〜7日に開かれたDACの第34回上級会合で採択された。

{*2* 本件政策声明の内容は本報告書に付録として添付されている。同声明については、1995年のDAC報告書「開発協力:DAC加盟国の努力と政策」(OECD 1996)で分析・検討されている。

{*3* 世界の統治に関する委員会の報告書「地球規模で見た我々の近隣」(Oxford University Press, 1995, p.139)は、現状を次のように描写している。「絶対的貧困で真に窮迫状態にある人々の数は、1993年の世界銀行の推計によると13億人で、依然として増加傾向にあると思われる。世界人口の5分のlは、生活水準が1980年代に低下した主にアフリカやラテン・アメリカの国々で生活している。総合的な貧困度を示すいくつかの指標(安全な水の利用が不可能な人口が15億人、衛生設備の利用が不可能な人口が{20億人、農村地域の女性の半分を含む10億人が文盲)は、四半世紀前と比べて少しも改善されていない。人類の20%に相当するこれらの人々とこれに近い危険な状態にある数百万人の状況の改善は、最優先事項とすべきである。」

{*4* 「援助の有効性:海外援助庁の援助の主な供与先における海外援助の有効性に関する研究」(Mosley and Hudson, ODA, 1996)および「調整後の民間投資の回復と持続可能な成長:海外開発庁のための研究」ESCOR, No.RS914 (Fitzgerald and Mavrotas, Queen Elizabeth House, Oxford, February 1996)参照。

{*5* さらに、定住と食糧安全保障という重要な課題に関する会議が1996年に予定されている。

{*6* 付属資料「新たな世界状況における開発パートナーシップ」参照。

{*7* 4か国とはノールウェー、デンマーク、スウェーデンおよびオランダである。DAC加盟国のODA実績に関する分析と詳細については1995年のDAC報告書「開発協力:DAC加盟国の努力と政策」第IV章参照。

{*8* 1994年の研究は15の「主な」途上国との関係に焦点を絞ったものである。「リンケージ:OECDと主な途上経済」(OECD, 1995)。1996年1月に、OECD理事会はより広範な研究の開始を許可した。その完成は1997年5月の予定で、標題は「2020年までのグローバル化とリンケージ:OECD諸国の課題と機会」の予定である。



付属資料

新たな世界的状況の中での開発パートナーシップ

OECD開発援助委員会(DAC)加盟国は、1995年5月3日から4日にかけて開発協力関係閣僚および援助機関の長のレベルの会合を開いた。

加盟国は、開発協力活動に関する共通の方針および21世紀に向けた持続可能な経済社会開発の主な課題への取り組みに合意した。

加盟国はまた、一部の加盟国が国内問題に没頭していることおよび財政上の圧力によって重要な時期にさしかかっている国際開発協力活動が深刻な危機にさらされていることに深い懸念を表明した。

過去30年間に、世界で最も高い経済成長率を達成してきたのは、アジアおよびラテン・アメリカを中心とする途上国であった。かつて貧しかった多くの国々が、拡大する貿易・資本・技術の流入に支えられて、急速に生活水準を向上させている。開発協力は、そうした成功の基礎を築く一助となってきたが、今後もその役割を果たし続けなければならない。

しかし、いまだ多くの国や人々がこのような進歩を享受ができず、むしろ後退さえしている。同時に、アフリカ諸国を含む多くの国が抜本的な政治経済改革を進めている。その狙いは、国民の機会を拡大し、高度に競争的で相互依存的な世界にうまく参加していくことである。

開発および深化した相互依存には、真剣な国内的努力と高い信頼性および強力な市民社会が必要である。開放的で参加型の政治経済制度がますます重要な要素となっている。一方、安全という基本的概念は、人類の需要や懸念、環境の質を一段と重視する方向で再定義されつつある。

より広範で持続可能な発展ができるかどうかは、良い統治を達成し、貧困を削減し、環境を保護する優れた能力を獲得できるか否かにかかっている。内乱、テロリズム、人口と移民の圧力、伝染病、環境の悪化および国際的犯罪と腐敗は、途上国の努力を妨げ、我々すべてに影響を与える。

このような新しい状況の下で、高成長を達成している途上国パートナーはその地域および世界全体の一層の繁栄と安全に貢献する。このため我々は、次のような戦略的方針を採択し、これらが自国国内で、また、国際社会全体で積極的に支持されるように提唱する。

1. 開発協力は投資である。

開発に対する支援は、経済的・社会的福祉の大幅な改善に貢献してきた。20億人以上の人々の所得、平均余命、教育および基礎的サービスの利用可能性が向上してきた。開発協力はまた、新たな経済パートナーの出現をもたらした。これらの国は次第に大きな役割を演じるようになっており、新しい貿易、投資、雇用の機会をもたらすと共に、我々の国内における調整の必要性ももたらしている。1990年以来、OECD諸国の輸出先としての途上国の市場は50%も拡大している。

我々は開発協力を将来への重要な投資と考える。

2. 貧困の根絶は中心的な課題である。

開発支援は、人間の尊厳と他者の福利に関する我々の永続的な関心を反映している。多くの途上国で好ましい傾向が見られるものの、今なお10億人以上の人々が極端な貧困の下での生活を余儀なくされている。しかし、これまでに得られた教訓を踏まえて、今後、貧困が大幅に削減される見込みは十分にある。

我々は、最も貧しい人々の機会の拡大と生活の改善に資するような戦略や計画に重点をおいた支援を行う。

3. 成功のための戦略は今や明らかである。

経験が示すとおり、持続可能な開発と効果的な協力を達成するためには、いくつかの鍵となる条件を満たすことが必要である。

・ 民間部門の活性化を図り、適切な財政基盤を築くために、経済を安定的に成長させる健全な政策の枠組み

・ 教育、基礎保健医療および人口に関する活動を中心とする社会開発への投資

・ すべての人々、特に、女性による政治経済活動への参加の拡大および社会的不平等の縮小

・ 良い統治と行政、民主主義に基づく統治の信頼性、人権の保護および法の支配

・ 環境保全のための慣行

・ 潜在的な紛争の原因に対する抜本的取り組み、軍事支出の抑制および長期的な和解と開発に照準を合わせた復興と平和構築への努力

我々は、パートナー諸国が、それぞれの国の実情と決意に応じて、持続可能な開発のための困難な諸条件を満たす能力を強化するための協力に重点を置く。

4. 開発援助は他の資源を補完する上で不可欠である。

途上国の開発に最終的な責任を負うのは途上国自身である。途上国の所得、貯蓄および税収は、その国の経済的・社会的発展のための最も重要な投資資源である。開発を成功させるには、当事国の人々が開発政策や計画の「主体」となる必要がある。

開発途上地域に対する民間投資の流れは、最も活発な国や分野に集中しており、民間贈与は主に緊急人道支援に向けられている。特により貧しい途上国にとって、政府開発援助は、依然として、多くの主要な投資分野で極めて重要な役割を果たしている。

我々は、途上国とその人々の自助努力を支援するため、引き続き相当な開発協力のための資源を確保する決意である。

5. 他の政策も開発の目的と一貫性がなければならない。

途上国との貿易、投資およびその他の関係の拡大、さらに国際経済システム(特に世界貿易機関)における途上国の役割の増大に伴って、途上国に対するOECD諸国の利害関係も大きくなっている。他の政策が開発の目的を損なわないようにすることが極めて重要である。

我々は、開発パートナー諸国との関係において、自国が一貫性のある開放的な経済政策をとるよう、他の政策担当者と協力する。

6. 我々の協力は効果的かつ効率的でなければならない。

二国間および多数国間開発援助は共に、最大の効率性と効果を持って実施されなければならない。これまでの開発協力の実績と教訓は、現在の途上国の努力を改善する最善の方法を明確に示している。

効果的援助のために合意された原則と好ましい慣行は厳密に実施されなければならない。開発援助活動のすべての段階において、批判的評価を実施することによって、最善かつ最も費用対効果の優れた援助の方法を追求しなければならない。成果を示す指標に基づいて国民に対して充分な説明を行うことが不可欠である。

我々は、援助協調、援助効果の評価、援助審査および好ましい慣行の実施に関する活動を強化する。

7. 開発援助委員会(DAC)はこれらの優先事項を推し進める。

持続可能な開発のために協力は、OECDの基本的関心事項の一つである。効果的な開発協力は、多数国間システムの強化に役立ち、雇用創出を伴う成長と国際的規模の社会的団結を促進する。OECD加盟国は、こうした努力のために、毎年世界全体の90%に当たる500億ドル以上の政府開発援助を含め、相当量の資源を提供している。

我々は、ここで示したこれからの10年間の方針を実施に移し、開発協力による貢献を加盟国の他の優先政策事項と統合し、次の世紀を見据えた開発戦略の準備を支援するため、DACにおいて協力する決意であることを改めて確認する。