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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] OECD多国籍企業行動方針 世界における責任ある企業行動のための勧告 2011年

[場所] 
[年月日] 2011年5月25日
[出典] 経済産業省
[備考] OECD(経済協力開発機構)閣僚理事会 2011年5月25日,日本語仮訳版
[全文] 

はじめに

 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development: OECD)は多国籍企業行動指針("The OECD Guidelines for Multinational Enterprises"。以下,「行動指針」。)を1976年に採択しました。

 この行動指針は,多国籍企業が世界経済の発展に重要な役割を果たすことを認識し,行動指針参加国政府が各企業に対し自主的に実施することを期待する,責任ある行動に関する「勧告(Recommendation)」です。

 具体的には,行動指針は,一般方針,情報開示,人権,雇用及び労使関係,環境,贈賄・贈賄要求・金品の強要の防止,消費者利益,科学及び技術,競争,納税等の幅広い分野における責任ある企業行動についてとりまとめています。

 この冊子は,2011年に行動指針が改訂されたことを機会に,日本政府連絡窓口(外務省,厚生労働省,経済産業省で構成。)の活動の一環として,広く行動指針について知っていただくために作成しました。この冊子が,各企業の行動規範の実施に際し活用されることを願っています。

外務省

OECD東京センター


「OECD多国籍企業行動指針」は,「OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言」の一部をなす。この冊子は,2011年5月25日の2011年OECD閣僚理事会で「OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言」に参加する42か国政府により採択された,「OECD多国籍企業行動指針」及び関連する理事会決定を掲載した。


目次

OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言・・・5

第1部

OECD多国籍企業行動指針

序文・・・8

I. 定義と原則・・・11

II. 一般方針・・・13

III. 情報開示・・・20

IV. 人権・・・24

V. 雇用及び労使関係・・・28

VI. 環境・・・34

VII. 贈賄,贈賄要求,金品の強要の防止・・・38

VIII. 消費者利益・・・42

IX. 科学及び技術・・・46

X. 競争・・・48

XI. 納税・・・51

第2部

OECD多国籍企業行動指針の実施手続

OECD多国籍企業行動指針に関する理事会決定・・・55

I. 各国連絡窓口・・・55

II. 投資委員会・・・56

III. 決定の見直し・・・56

手続手引・・・57

I. 各国連絡窓口・・・57

II. 投資委員会・・・59

OECD多国籍企業行動指針の実施手続に関する注釈・・・61

I. 各国連絡窓口手続手引注釈・・・62

II. 投資委員会手続手引注釈・・・69



OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言【仮訳】

2011年5月25日

参加政府*1*は

以下を考慮し,

-  国際投資は世界経済にとって非常に重要であり,諸国の開発に著しく寄与していること,

- 多国籍企業は,このような投資の過程で重要な役割を果たしていること,

- 国際協力は外国投資環境を改善でき,多国籍企業が,経済面,社会面及び環境面の発展に対し行い得る積極的な貢献及びその活動がもたらすであろう困難を最小化し解決す

ることを奨励すること,

- 国際協力の利益は,相互に関連する文書の均衡の取れた枠組を通じ,国際投資及び多国

籍企業に関連する課題に対処することにより高められること,

以下を宣言する。

I. 多国籍企業行動指針

参加政府は,自国内で及び自国から活動する多国籍企業に対し,序文に規定された考慮及び理解がその不可分の一部であることに留意しつつ,この文書の附属書1*2*に規定する,行動指針を遵守するよう共同で勧告する。

II. 内国民待遇

1. 参加政府は,公の秩序の維持の必要性に従い,重大な安全保障上の利益の保護,国際の平和及び安全に関連するコミットメントの履行,自国で活動し,直接的又は間接的に他の参加政府国民により所有又は支配される企業(以下,「外国支配企業」という。)に,自国の法律,規則及び行政上の慣行の下での処遇について,国際法に従い,国内企業に与えられる類似の状況に比べ,不利でない待遇を提供すべきである。

2. 参加政府は,参加政府以外の諸国に関し,「内国民待遇」の適用を考慮する。

3. 参加政府は,その領土細分に「内国民待遇」の適用を確保するため努力する。

4. この宣言は,外国投資への参入又は外国企業の設立条件を参加政府が規制するための権利を扱わない。

III. 相反する要求

参加政府は,多国籍企業に関する相反する要求の賦課を回避し又は最小化する観点から協力し,この文書の附属書2*3*に規定する一般的考慮や実際的方策を考慮する。

IV. 国際投資の促進要因及び抑制要因

1. 参加政府は,国際直接投資分野での協力を強化する必要を認識する。

2. 参加政府はしたがって,国際直接投資に公的な促進要因及び抑制要因を与える,この分野に特定の法律,規則及び行政慣行(以下,「措置」という。)により影響を受ける参加政府の利益に相当の考慮を払う必要を認識する。

3. 参加政府は,そのような措置に可能な限り透明性を持たせるために努力することにより,その重要性及び目的が解明でき,それらに関する情報が容易に入手できるようにする。

V. 協議手続

参加政府は,関連する理事会決定に従い,上記事項について互いに協議する用意がある。

VI. 再検討

参加政府は,国際投資及び多国籍企業に関連する事項について参加政府間の国際経済協力の実効性を向上させる観点から,上記の事項を定期的に再検討する。


第1部

OECD多国籍企業行動指針【仮訳】

本文と注釈

 事務局注記:注釈は,OECD多国籍企業行動指針本文及びOECD多国籍企業行動指針に関する理事会決定についての情報と説明を提供するため,OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言に参加するOECD非加盟8か国を含む投資委員会拡大会合により準備された。注釈は,OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言又はOECD多国籍企業行動指針に関する理事会決定の一部ではない。


序文

1. OECD多国籍企業行動指針(「行動指針」)は,多国籍企業に対して政府が行う勧告である。行動指針は,これらの企業の活動と政府の政策との間の調和の確保,企業と企業が活動する社会との間の相互信頼の基礎の強化,外国投資環境の改善の支援,及び多国籍企業による持続可能な開発への貢献の強化を目的としている。行動指針はOECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言の一部である。この宣言は,行動指針の他に,内国民待遇,企業に関する相反する要求,国際投資促進要因及び抑制要因に関する内容をその構成要素とする。行動指針は,適用可能な法律及び国際的に認められた基準と合致した,責任ある企業行動のための自発的な原則及び基準を提供する。しかし,行動指針を遵守する諸国は,OECD多国籍企業行動指針に関するOECD理事会の決定に従い,行動指針を実施するための拘束力あるコミットメントを行う。さらに,行動指針により規定される事項は,国内法及び国際的な約束の対象にもなり得る。

2. 国際的ビジネスは大きな構造変化を経験し,行動指針それ自体もこれらの変化を反映して進化してきた。サービス産業及び知識集約産業の隆盛,並びにインターネット経済の拡大とともに,サービス企業及び技術系企業は国際市場で益々重要な役割を担っている。依然として大企業が国際投資の主要な割合を占めており,大規模な国際的合併が行われる傾向がある。同時に,中小企業による外国投資も増加しており,これらの企業は今や国際的な場で重要な役割を果たしている。多国籍企業は,国内企業と同様に,より広範な事業上の体制や組織形態を擁するまでに進化した。戦略的提携と供給者や契約者とのより密接な関係は,企業の境界を不明瞭なものとする傾向にある。

3. 多国籍企業の構造の急速な進化は,外国直接投資が急速に成長した開発途上諸国でのこれらの企業の活動にも反映されている。開発途上国において,多国籍企業は,第一次産品生産や採掘産業を超えて,製造業,組立業,国内市場開発及びサービス業へと多様化した。もう一つの重要な進展として,開発途上国を拠点とする多国籍企業が主要な国際投資家として台頭している。

4. 多国籍企業の活動は,国際貿易及び投資を通じ,世界の諸国及び地域との関係を強化し,深化させた。多国籍企業の活動は,企業の本国及び受入国に大きな利益をもたらす。これらの利益は,消費者が購入を望む製品及びサービスを多国籍企業が競争的価格で提供し,資本の供給者に対して公正な収益を提供するときに生じる。多国籍企業の貿易及び投資活動は,資本,技術,人的資源及び天然資源の効率的利用に貢献する。これらは世界の諸地域間の技術移転と地域の諸条件を反映した技術の発展を容易にする。企業は,また,正規の訓練及び職業活動を通じた学習によって,受入国における人的資本の開発及び雇用機会の創出を促進する。

5. 経済の変化の性質,範囲及び速度は,企業とその利害関係者に新たな戦略的課題をもたらした。多国籍企業は,経済面,環境面及び社会面での目標の間の整合性確保を追求する持続可能な開発のために,最良の施策を実施する機会を有している。持続可能な開発を促進する多国籍企業の能力は,開放的で,競争的で,適切な規制の下にある市場の中で貿易及び投資が行われるときに大きく強化される。

6. 多くの多国籍企業は,企業行動の高い基準を尊重することは成長を強化させ得ることを示してきた。今日の競争の勢いは激しいものであり,多国籍企業は多様な法律面,社会面及び規則面に関する状況に直面している。このような中で,不当競争利益を得ようと試み,適切な原則と行動の基準とを無視しようとの誘惑に駆られる企業もあり得る。少数の企業によるこのような行動によって,多数の評判に疑問が投げ掛けられ,世間の懸念が惹起され得る。

7. 多くの企業は,市民社会の良き一員としての企業のあり方,良き慣行,良き労使行動についてのコミットメントを補強する内部プログラム,指針及び経営管理制度を発展させることによって,世間からのこれらの懸念にこたえてきた。幾つかの企業は,コンサルティング,監査及び認証サービスを利用し,これらの分野の専門知識の蓄積に寄与してきた。企業はまた,責任ある企業行動を構成するものに関する社会的対話も促進してきたし,責任ある企業行動の指針の開発のため,多種のマルチ・ステークホルダー・イニシアティブを含め,利害関係者とともに働いてきた。行動指針は,参加政府が共有する企業行動に対する期待を明確化し,企業及び他の利害関係者にとっての一つの参考を提供する。したがって,行動指針は,責任ある企業行動を定め,実施するための民間の努力を補完し強化する。

8. 政府は相互に,また他の行動主体とともに,企業行動に関する国際的な法的枠組及び政策的枠組の強化のため協力を行っている。この過程の開始は,20世紀初めの国際労働機関による作業に遡ることができる。国際連合による1948年の世界人権宣言の採択は,もう一つの記念すべき出来事だった。これは,責任ある企業行動の多くの分野に関連する基準の継続的な進展-今日も続く過程-へと進んだ。OECDは,環境,腐敗防止,消費者利益,企業統治及び租税等の分野を扱う基準の開発を通じ,この過程に重要な方法で貢献している。

9. 行動指針に参加する政府の共通の目標は,経済面,環境面及び社会面の発展に対し多国籍企業が行い得る積極的な貢献を奨励すること,並びに多国籍企業の多様な活動がもたらすであろう困難を最小にすることにある。この目標に向けて作業する中で,政府は,同一目標に向けそれぞれ独自の方法で作業を行っている多くの企業,労働組合その他の非政府組織との協力関係を見出す。政府は,安定的なマクロ経済政策,企業に対する無差別待遇,適切な規制と慎重な監視,公平な裁判及び法執行制度,効率的で誠実な行政を含む,効果的な国内政策の枠組を提供することによって,支援を行い得る。また政府は,持続可能な開発を支援する適切な基準及び政策を維持・促進することにより,そして,公共部門活動が効率的かつ効果的であることを確保するための継続的改革を取り進めることにより,支援を行い得る。行動指針に参加する各国政府は,全ての国民の福祉及び生活水準の向上を目指した国内及び国際政策の継続的改善をコミットしている。


I. 定義と原則

1. 行動指針は,多国籍企業に対して政府が共同して行う勧告である。行動指針は,適用可能な法律及び国際的に認められた基準に合致する良き慣行の原則及び基準を提供する。企業による行動指針の遵守は任意のものであり,法的に強制し得るものではない。しかしながら,行動指針に規定される幾つかの事項は,国内法又は国際的な約束によっても規制され得る。

2. 国内法の遵守は,企業の第一の義務である。行動指針は,国内法及び規則を代替するものではなく,これらに優先すると考えられるべきものでもない。行動指針は,多くの場合法律を上回っているが,それによって企業は相反する要求に直面する状況に置かれるべきではなく,それを意図してもいない。しかし,国内法と規則が行動指針の原則及び基準と相反する場合には,国内法の侵害とならない最大限の範囲で,企業はそうした原則及び基準を尊ぶ方策を追求すべきである。

3. 多国籍企業の活動は全世界に及んでおり,したがって,この分野における国際協力は全ての国に及ぶべきである。行動指針に参加する政府は,その領土内で活動する企業に対し,各受入国の特有の状況を考慮しつつ,活動する全ての場所で行動指針を遵守するよう奨励する。

4. 多国籍企業を厳密に定義することは,行動指針の目的上,必要とはされていない。こうした多国籍企業は経済の全ての分野で活動している。これらの企業は,通常,二以上の国において設立される会社又はその他の事業体から成り,様々な方法で活動を調整できるように結び付いている。これらの事業体の一又は二以上のものは,他の事業体の活動に対して重要な影響力を行使し得るが,企業内における事業体の自治の程度は,多国籍企業毎に大きく異なり得る。その所有形態は,民有,国有又はその混合たり得る。行動指針は,多国籍企業内の全ての事業体(親会社及び/又は現地の事業体)を対象とする。事業体間の実際の責任配分に応じて,異なる事業体は,行動指針の遵守を容易にするため,相互に協力し合い,また支援し合うことを期待される。

5. 行動指針は,多国籍企業と国内企業との間に異なった取扱いを導入することを目的とするものではない。行動指針は,全ての企業にとっての良き慣行を示している。したがって,多国籍企業及び国内企業は,行動指針が双方に当てはまる場合は常に,その活動につき同一の期待に服する。

6. 政府は,行動指針の可能な限り広範な遵守が奨励されることを望んでいる。行動指針参加政府は,中小企業が大企業と同一の能力を有していないかもしれないと認識しているが,中小企業が最大限可能な限り,行動指針の勧告を遵守するよう奨励する。

7. 行動指針参加政府は,保護主義的な目的のために,また多国籍企業が投資を行う国の比較優位に対して疑問を差し挟むような方法で,行動指針を使用してはならない。

8. 政府は,国際法に従いつつ,自国の管轄内において多国籍企業が活動するための条件を定める権利を有する。様々な国に所在する多国籍企業の事業体は,これらの所在地国で適用される法律に従う。多国籍企業が,行動指針参加国又は第三国による相反する要求を受ける場合には,関係政府は生じ得る問題の解決に向け誠実に協力するよう奨励される。

9. 行動指針に参加する政府は,企業を公平に,かつ,国際法及び自国が受諾した契約上の義務に従って取り扱う責任を果すという了解の下に,行動指針を制定した。

10. 企業と受入国政府との間で生じる法的問題の解決を容易にするための手段として,仲裁を含む適当な国際紛争解決制度の利用が奨励される。

11. 行動指針に参加する政府は,行動指針を実施し,その利用を奨励する。政府は,行動指針の普及を促進し,行動指針に関連する全ての事項を議論するためのフォーラムとして活動する各国連絡窓口を設立する。また,行動指針に参加する政府は,変化する世界における行動指針の解釈に関する問題に対応するため,適切な再検討と協議に参加する。


II. 一般方針

 企業は,その活動を行う国で確立されている政策を十分に考慮に入れるとともに,その他の利害関係者の見解を考慮すべきである。この点に関し,

A. 企業は次の行動をとるべきである。

1. 持続可能な開発を達成することを目的として,経済面,環境面及び社会面の発展に貢献する。

2. 企業の活動によって影響を受ける人々の国際的に認められた人権を尊重する。

3. 健全な商慣行の必要性に則しつつ,現地実業界を含めた現地社会との密接な協力及び国内外の市場における当該企業の活動の発展を通じ,現地の能力開発を奨励する。

4. 人的資本の形成を,特に雇用機会の創出と従業員のための訓練機会の増進によって,奨励する。

5. 人権,環境,健康,安全,労働,租税,金銭的インセンティブ又はその他の事項に関する法令又は規制の枠組において意図されていない免除の要求又は受諾を慎む。

6. 企業グループ全体を通じて,良きコーポレート・ガバナンス原則を支持し,また維持し,良き企業統治の慣行を発展させ,適用する。

7. 企業とその活動が行われる社会との間の信用及び相互信頼関係を育成する効果的な自主規制の慣行及び経営制度を発展させ,適用する。

8. 訓練プログラムを含む適切な普及方法を通じ,会社の方針が多国籍企業に雇用された労働者に認識され遵守されることを促進する。

9. 法律,行動指針又は企業の方針に違反する慣行について,経営陣又は適当な場合には所管官庁に善意の通報を行った労働者に対して,差別的又は懲戒的な行動をとることは慎む。

10. 第11段落及び第12段落で記述されているように,実際の及び潜在的な悪影響を特定し,防止し,緩和するため,例えば企業のリスク管理システムに統合することにより,リスクに基づいたデュー・ディリジェンスを実施し,これらの悪影響にどのように対処したか説明する。デュー・ディリジェンスの性質と範囲は,個々の状況における事情に依る。

11. 自企業の活動を通じ,行動指針に規定されている事柄に対して,悪影響を引き起こす又は一因となることを回避し,そのような悪影響が生じた場合には対処する。

12. 悪影響の一因となっていなくても,取引関係によって,そうした悪影響が自らの事業,製品又はサービスに直接的に結び付いている場合には,悪影響の防止又は緩和を求める。これは,悪影響を引き起こした事業体から,取引関係を持つ企業に責任を転嫁することを意図していない。

13. 行動指針が対象とする分野で生じた悪影響に対処するのに加え,実行可能な場合には,サプライヤー及び下請業者を含む取引先に対し,多国籍企業行動指針と適合する責任ある企業行動の原則を適用するよう奨励する。

14. 地域社会に重大な影響を及ぼし得る事業又は他の活動のための計画及び意思決定において,関連する利害関係者の見解が考慮される有意義な機会を提供するため,そうした利害関係者に関与する。

15. 現地の政治活動へのいかなる不適当な関与も差し控える。

B. 企業は,次の行動が奨励される。

1. 適切な状況下においては,オンライン上の表現・集会及び結社の自由の尊重を通じてインターネットの自由を促進するため,適当な場における協調的な努力を支援する。

2. 適当な場合には,責任あるサプライチェーン管理に関する私的又はマルチ・ステークホルダーによるイニシアティブ及び社会的対話に関与し,又はそれを支援しつつ,これらのイニシアティブが開発途上国の社会的及び経済的効果と既存の国際的に認められた基準を然るべく考慮することを確保する。


一般方針に関する注釈

1. 行動指針の一般方針に関する章は,企業に対する具体的な勧告を含む最初の章である。以降の各章で具体的な勧告を行うためには,方向付けを行うとともに,共通の基礎原則を確立することが重要だからである。

2. 企業は,政策及び法律の発展及び実施について,政府と協力するよう奨励される。現地社会及び実業界を含む,社会における他の利害関係者の意見の考慮は,この過程を豊かにできる。また,政府は企業との関係においては透明性を保つべきで,同様の事項について産業界と協議すべきと認識されている。企業は,企業に影響を及ぼす任意的な政策手法及び規制的な政策手法(行動指針は一つの構成要素)のどちらに関しても,その立案と利用について,政府のパートナーと見なされるべきである。

3. 多国籍企業の活動と持続可能な開発の間に矛盾があるべきではなく,行動指針はこの点の補完の促進を意図している。まさしく,経済面,社会面,環境面での進展の結び付きは,持続可能な開発目標を推進するための主要な手段である*4*。

4. 第IV章は,第A. 2段落の一般的な人権に関する勧告を詳細に規定する。

5. 行動指針はまた,多国籍企業は,現地社会での活動の結果として現地の能力開発を行えると認め,その貢献を奨励する。同様に,人的資本の形成に関する勧告は,多国籍企業がその従業員に提供できる個人の人材開発への貢献に関する明白で前向きな認識であり,雇用慣行のみならず,訓練及び従業員の他の開発をも包含している。人的資本の形成には,雇用慣行のみならず,昇進慣行,生涯学習及び他の実地訓練(OJT)における非差別の概念も組み込まれている。

6. 行動指針は,法令又は規制の枠組の変化を求める企業の権利を侵害するものではないが,一般に,企業がとりわけ,人権,環境,健康,安全,労働,租税及び金銭的インセンティブに関連する法令又は規制の枠組において意図されていない免除を確保しようと努力することを避けるよう勧告する。本文第A. 5段落の「又は受諾」との用語は,これらの免除を与える国家の役割にも注目する。この種の条項は伝統的に政府向けだが,多国籍企業にも直接的に関連している。しかしながら重要なことは,正当な公共政策上の理由により,法律や他の政策からの免除がこれらの法律と整合的である場合もあることである。環境及び競争政策に関する章はこれらの例を示している。

7. 行動指針は,OECDコーポレート・ガバナンス原則から導かれる,良き企業統治の慣行を企業が適用するよう勧告する。この原則は,株主の公正な扱いを含む,株主の権利の行使の促進及び保護を求める。企業は,法律又は相互合意によって確立された利害関係者の権利を認識すべきであり,富,雇用及び財政的に健全な企業の持続可能性の創出に向けて利害関係者との積極的な協力を奨励すべきである。

8. コーポレート・ガバナンス原則は,親会社の経営陣に対し,利害関係者の利益を考慮しつつ,企業の戦略的指針,経営の効果的な監視を確保するよう求めるとともに,企業及び株主に対する説明責任を負うよう求める。これらの責任を負う際,経営陣は,企業の会計及び財政報告システムの統合を確保する必要があり,これには独立した監査,適切な統制システム,特に,リスク管理,財政及び事業の統制,法律及び関連基準の遵守が含まれる。

9. 子会社の経営陣は,法人格が付与された管轄権内の法律の下での義務を負い得るが,コーポレート・ガバナンス原則は,企業グループ全体に及ぶ。コンプライアンス(法令遵守)と統制システムは,可能な場合にはこれらの子会社にも及ぶべきである。さらに,経営陣によるガバナンスの監視には,グループ全体の管理説明責任についての明確な一線を確保するための内部構造の継続的な見直しを含む。

10. 国有の多国籍企業は,民間企業と同一の勧告の対象となるが,国が最終所有者の場合は,国民の監視はしばしば強まる。国有企業のコーポレート・ガバナンスに関するOECDガイドラインは有用な,これらの企業のために特別に作成された指針であり,ガバナンスを大いに改善し得る勧告である。

11. 法や制度上の規制枠組を改善する第一義的な責任は政府にあるが,企業が優れたコーポレート・ガバナンスを実施するための強力なビジネス例がある。

12. 増大する政府によらない自主規制制度のネットワークや活動は,企業行動及びビジネスと社会の関係という諸側面に取り組んでいる。この点で,金融部門で興味深い進展がある。企業は自らの活動が,社会及び環境にしばしば影響を及ぼすと認識している。目標の達成に敏感な企業による自主規制の慣行や管理システムの設立は,その実例であり,これによって持続可能な開発に貢献している。結果的に,そのような慣行の発展は,企業と企業が活動を行う社会との建設的な関係を更に進展させることができる。

13. 効果的な自主規制の慣行に続く当然のこととして,企業は企業の方針についての従業員の認識を高めるよう期待される。時宜を得た救済措置を欠いたり,雇用上不利な措置がとられるとの合理的な危険に直面したりする場合には,法に反する慣行を所管官庁に通報する被雇用者の保護を含め,真正の「告発」行為を守るための保護措置も奨励される。贈賄防止及び環境に関する取組に特に関連するが,このような保護は行動指針の他の勧告にも関連する。

14. 行動指針の適用上,デュー・ディリジェンスとは,プロセスであると理解され,企業の意思決定及びリスク管理システムに欠くことのできない部分として,それを通じて企業が実際の及び潜在的な悪影響を特定し,防止し,緩和し,どのように対処したかについて説明することを可能とする。デュー・ディリジェンスを,単に企業自身に対する重大なリスクの特定と管理に留まらず,行動指針の対象となっている事項への悪影響のリスクも含むと捉える場合には,デュー・ディリジェンスをより広範な企業のリスク管理システムの中に含めることができる。潜在的影響は防止及び緩和を通じて対処される一方,実際の影響は救済を通じて対処される。行動指針は,第A.11段落及び第A.12.段落で,企業が引き起こした又は一因となった,あるいは,取引関係を通じて直接その事業,製品又はサービスに結び付いた悪影響に関係する規定を置いている。デュー・ディリジェンスは,企業によるそのような悪影響のリスク回避に役立つ。この勧告の適用上,悪影響の「一因となる」とは,重大な要因と解釈されるべきである。すなわち,他の事業体が悪影響を引き起こすことをもたらし,促進し又は誘発する行為であり,深刻でない又は軽微な要因は含まない。「取引関係」とは,取引先,サプライチェーンの事業体,並びに事業活動,製品又はサービスに直接結び付いている他の民間又は国の事業体との関係を含む。第A.10段落の勧告は,悪影響に関連している行動指針の規定事項に適用される。科学技術,競争及び納税の章には適用されない。

15. とられるべき具体的措置等,特定の状況に相応しいデュー・ディリジェンスの性質及び範囲は,企業の規模,事業の内容,行動指針の具体的勧告,並びに悪影響の深刻さ等の要因により影響を受ける。人権デュー・ディリジェンスに関する具体的勧告は,第IV章で規定される。

16. 企業が多数のサプライヤーを有する場合は,悪影響が最も重大な一般領域を特定し,リスク評価に基づき,デュー・ディリジェンスのためにサプライヤーの優先順位付けを行うよう奨励される。

17. 行動指針の対象となっている事項に関する悪影響を自らの活動を通じて引き起こす又は一因となることを避けることには,サプライチェーンにおける自らの活動を含む。サプライチェーンにおける関係は,例えば,フランチャイズ,ライセンス供与又は下請契約等を含む様々な形を取る。サプライチェーンにおける事業体は,しばしば自身が多国籍企業であり,この事実から,宣言参加国で活動する又はそれらの諸国から展開する事業体は,行動指針の対象となる。

18. サプライチェーンの関連において,企業が悪影響を引き起こすリスクを特定した場合には,その影響を停止又は防止するための必要な措置をとるべきである。

19. 企業が悪影響の一因となるリスクを特定した場合には,最大限可能な範囲で,その要因を停止又は防止するための必要な措置をとり,残りの悪影響を緩和するために企業の影響力を行使すべきである。影響力は,害を引き起こしている事業体の不正な慣行を改変させる能力を企業が有するときに存在するとみなされる。

20. 第A.12段落の期待にこたえることは,企業が単独あるいは他の事業体と共同で,適当な場合には,悪影響を防止又は緩和するため,悪影響を引き起こしている事業体に影響力を行使することを含み得る。

21. 行動指針は,企業がそのサプライヤーの行動を改変させる能力には現実的な限界があると認識する。それらは,製品の特性,サプライヤーの数,サプライチェーンの構造と複雑性,サプライヤー又はサプライチェーンの他の事業体との相対関係における企業の市場での位置と関係している。しかし,企業は,マネジメント契約,潜在的サプライヤー向けの資格要件,議決権信託,ライセンス又はフランチャイズ契約等の約定を通じても,サプライヤーに影響を与えられる。特定されたリスクへの適切な対応を決定するにあたっての関連する他の要素には,悪影響の深刻さ及び蓋然性,並びに企業にとっての当該サプライヤーの重要性が含まれる。

22. 取引関係における適切な対応には,リスク緩和努力を行いつつサプライヤーとの関係を継続すること,継続的なリスク緩和を追求しつつ関係を一時的に停止すること,又は最後の手段として,リスク緩和の試みが失敗するか,リスク緩和は現実的でないと判断するか,あるいは悪影響の深刻さにより,サプライヤーとの関係を解消することが含まれ得る。企業は,関係解消の決定に関連する潜在的な社会的・経済的な悪影響についても考慮すべきである。

23. 企業はまた,他の利害関係者と協力しつつ,従業員訓練及び他の形態の能力構築を通じ,サプライヤー及びサプライチェーンにおける他の事業体のパフォーマンス改善と,彼らのビジネス慣行に行動指針と整合的な責任ある企業行動の原則を統合させることを支援するために,彼らと連携し得る。サプライヤーが複数の顧客を持ち,異なる買い手によって課される,相反する要求に潜在的にさらされる場合は,企業は,競争制限的懸念に対して妥当な考慮を払いつつ,サプライチェーン政策とリスク管理戦略を調和するため,サプライヤーを共有する他の企業とともに,情報共有を含め,産業全体としての協同努力に参加するよう奨励される。

24. 企業はまた,OECD多国籍企業行動指針に関するOECD理事会決定及び附属された手続手引に従って実施される,プロアクティブ・アジェンダの一環として取り組まれる,責任あるサプライチェーン管理に関する私的又はマルチ・ステークホルダーによるイニシアティブ並びに社会対話に参加するよう奨励される。

25. 利害関係者の関与は,例えば,会合,聴聞会,協議手続等を通じた,関連する利害関係者との双方向的な関与プロセスを伴う。効果的な利害関係者の関与というものは,双方向のコミュニケーションを特徴とし,双方の参加者の誠実さに依存する。この関与は,例えば土地及び水の集約的な利用等,地域社会に重大な影響を及ぼし得る計画又は他の活動に関する立案及び意思決定の際,特に有用である。

26. 第B.1.段落は,重要な新たな課題の出現を認識する。本規定は,新たな基準を創設するものでもなく,新たな基準の策定を推定するものでもない。本規定は,企業は影響を受ける利害を有しており,関連する課題の議論に他の利害関係者とともに参加することは,その課題を理解し,積極的な貢献を行うための,企業及び他者の能力の向上に役立ち得るとの認識である。本規定は,課題は様々な側面を持ち得ると認識し,適切な場を通じての協力が追求されるべきと強調する。本規定は,世界貿易機関(WTO)の電子商取引の分野で政府がとる立場を予断するものではない*5*。本規定は,インターネットの使用に関連し考慮され得る他の重要な公共政策上の利益を無視することを意図したものではない。最後に,本規定は,行動指針全般と同様,行動指針の定義と原則の章の第2段落及び第8段落にあるように,企業に対し相反する要求を生じさせることを意図していない。

27. 最後に,自主規制及び行動指針を含む他の類似のイニシアティブは,競争を不法に制限すべきではなく,政府による効果的な法律及び規則を代替するものと考えられるべきでもない。多国籍企業は,規範及び自主規制的慣行を打ち立てる際には,潜在的に貿易又は投資を歪めるような影響を避けるべきと理解されている。


III. 情報開示

1. 企業は,その活動,組織,財務状況,業績,所有権及び企業統治に関する全ての重要な事項について,時宜を得た正確な情報の開示を確保すべきである。この情報は,企業全体について,及び,然るべき場合には事業系統毎又は地域毎に開示されるべきである。企業の情報開示に関する方針は,費用,事業上の秘密及びその他の競争上の関心事項を然るべく考慮しつつ,企業の性質,規模及び所在地に適合するよう策定されるべきである。

2. 企業の情報開示方針は,以下の事項に限られないが,以下に関する重要な情報について含むべきである。

a)企業の財務実績及び業績。b)企業の目的。

c)主要な株式保有と議決権。(企業グループの構造,グループ内関係及び管理体制の充実のための仕組みを含む。)

d)取締役会のメンバー及び主要役員の報酬に関する方針並びに取締役会のメンバーに関する情報。(資格,選任プロセス,他の企業の取締役との兼職状況及び各メンバーに独立性があると取締役会が考えているかどうかを含む。)

e)関係当事者との取引。

f)予見可能なリスク要因。

g)労働者その他の利害関係者に関する問題。

h)企業統治の構造と方針,特に,コーポレート・ガバナンスに関する規範又は方針及びその実施プロセスの内容。

3. 企業は,以下の事項を含む追加的情報を公表することを奨励される。a)公の開示を目的とした企業価値又は事業行動に関する声明。(企業活動との関連性に応じ,行動指針に規定される事項に関連する企業の方針に関する情報を含む。)

b)企業が賛成する方針及びその他の行動規範,これらの採択日並びにこれらの声明が適用される国及び事業体。

c)これらの声明及び行動規範に関連する成果。d)内部監査,リスク管理及び法令遵守に関する情報。

e)労働者及びその他の利害関係者との関係に関する情報。

4. 企業は,会計,財務及び非財務事項の情報開示(もしあれば,環境・社会報告を含む。)のための高品質の基準を適用すべきである。情報の集積及び公表に関する基準又は方針は,報告されるべきである。年次監査は,財務諸表が全ての重要な点において企業の財政状況及び業績を適正に表している旨の外部的かつ客観的な保証を取締役会及び株主に提供するため,独立し,能力を有し,かつ資格のある監査人により行われるべきである。


情報開示に関する注釈

1. この章の目的は,多国籍企業の活動に関する理解の向上の奨励である。企業に関する明解かつ完全な情報は,株主及び金融業界から,労働者,地域社会,特別利益団体,政府,並びに社会全体の他の構成員といった多様な利用者にとって重要である。企業,並びに企業の社会及び環境との相互作用に関する公衆の理解向上のために,企業は自らの活動に透明性を有し,公衆の情報に関する洗練された要請に対応すべきである。

2. この章で強調される情報は,二つの分野の情報開示に対処する。情報開示勧告に関する最初の分野は,OECDコーポレート・ガバナンス原則でまとめられた情報開示事項と一致する。それらに関連する注釈は,求められる情報開示に関する更なる指針を与え,行動指針の勧告はこれらとの関係で解釈されるべきである。情報開示勧告に関する最初の分野は,企業が従うことを奨励される情報開示勧告に関する第二の分野により補完される。情報開示勧告は,主に株式公開企業に焦点を当てている。企業の特質,規模及び所在地の観点から適用可能と認める範囲で,例えば個人所有企業又は国有企業等の非公開企業のコーポレート・ガバナンスの向上のためにも,それらは有用な手段であるべきである。

3. 情報開示勧告は,企業に不当な経営上又は費用上の負担をかけることを意図しない。また,情報を開示することが投資決定に関する情報を与えられ,投資家の誤解を回避するために必要な場合を除き,企業は競争力を危険にさらし得る情報を開示することも期待されていない。どの情報が最低限開示されるべきかを決定するために,行動指針は重要性の概念を利用する。重要な情報とは,省略又は虚偽記載が情報の利用者によってなされる経済的意思決定に影響を与え得る情報と定義できる。

4. 行動指針は,会計,財務及び非財務の開示に関する高品質の基準に従い,情報が準備及び開示されるべきと一般的に指摘する。信頼性及び比較可能性を高めた報告と,企業業績に対する高い洞察を提供することは,投資家が企業を監視する能力を大幅に高める。行動指針によって勧告される毎年の独立監査は,企業による向上した統制及びコンプライアンスに貢献すべきである。

5. 情報開示は二つの分野で取り組まれている。最初の分野の情報開示の勧告は,企業の財務状況,業績,所有権,並びに統治を含む,企業に関する全ての重要な事項について,時宜を得た,かつ正確な情報開示を求める。また,企業は,報酬計画の費用と利益及びストック・オプション制度等の奨励制度が業績に与える寄与度を投資家が適切に評価できるよう,経営陣及び主要役員の報酬(個人別又は総計)についても,十分な情報を開示することが期待される。関連する当事者との取引及び重要な予見可能なリスク要因は,労働者及び他の利害関係者に関する重要事項と同様,開示されるべき追加的な関連情報である。

6. 行動指針は,例えば,社会,環境及びリスクに関する報告等,報告基準がいまだ作成中22

である情報開示又は意思疎通の実務に関する第二の分野も奨励する。これは,温室効果ガスの排出の場合に特に顕著で,直接的及び間接的,また現在及び未来にわたり,企業及び生産による排出を対象とする監視範囲が拡大している。生物多様性は,もう一つの例である。多くの企業は,財務業績よりも広範な一連の事項に関する情報を提供し,社会的に受入れられる慣行でのコミットメントを表明できる方法で,そのような情報を開示することを考慮する。ある場合には,この第二の種類の情報開示-又は公衆及び企業の活動により直接影響を受ける他の団体との連絡-は,企業の財務説明の対象となる範囲を超える事業体に関係し得る。例えば,それは,他の下請契約者及びサプライヤー又は合弁企業先の活動に関する情報も含み得る。これは,環境に有害な活動の取引先への移転を監視するために特に適切である。

7. 多くの企業は,自らが企業行動に関する法律及び基準を遵守するのを助けるとともに,事業の透明性を高めるために設計された手段を採用している。企業活動の自主的行動規範を発出する企業の数は増大しており,そのような規範は,環境,人権,労働基準,消費者保護又は納税等の分野における倫理的価値のコミットメントの表明である。特別の経営制度が,企業のこれらのコミットメント-これらには情報システム,作業手順,研修要件を含む-に関する支援を目的に開発され又は開発中であり,発展し続けている。持続可能な開発結果に,どのように企業活動が影響を与えるか伝達する企業の能力を高める報告基準の開発について,企業は非政府組織及び政府間機関と協力している(例えば,グローバル・レポーティング・イニシアティブ)。

8. 企業は,公表された情報を容易かつ経済的に利用できるように提供し,この目的実現のための情報技術の利用について考慮することを奨励される。本国市場で利用者が入手できる情報は,他の全ての関心を持つ利用者も入手可能であるべきである。企業は印刷媒体で入手ができない地域(企業活動により直接影響を受けるより貧しい地域等)において情報を利用することができるよう,特別措置を講じ得る。


IV. 人権

 国家は,人権を保護する義務を負う。企業は,国際的に認められた人権,活動を行う国の国際的人権義務,並びに関連する国内法及び規則の枠内において,次の行動をとるべきである。

1. 人権を尊重する。これは,企業は他者の人権侵害を避けるべきであり,企業が関与した人権への悪影響に対処すべきという意味である。

2. 企業自身の活動の文脈において,人権への悪影響を引き起こす又は一因となることを避けるとともに,そのような影響が生じた場合には対処する。

3. 企業が人権への悪影響の一因となっていなくとも,取引関係により,企業の事業活動,製品又はサービスに直接結び付いている場合には,人権への悪影響を防止し又は緩和する方法を模索する。

4. 人権を尊重するための政策的なコミットメントを行う。

5. 企業の規模,事業の性質及び活動の文脈,並びに人権への悪影響のリスクの重大性に応じて適切に人権デュー・ディリジェンスを実施する。

6. 企業が人権への悪影響を引き起こした又は一因となったと特定した際は,企業はそれらの悪影響からの救済において,正当な手続を提供するかそれを通じた協力を行う。


人権に関する注釈

1. この章は,企業による人権尊重に関する具体的な勧告のための枠組を定める柱書きで始まる。これは,ビジネスと人権の「保護,尊重及び救済」のための国連のフレームワークに基づき策定され,その実施のための指導原則に沿っている。

2. 柱書きと第1段落は,国家は人権を保護する義務を負い,企業は,その規模,産業部門,事業の文脈,所有者及び構造にかかわらず,どこで活動していても,人権を尊重すべきであると認識する。人権の尊重は,企業に期待される行動の世界標準であり,人権保護の義務を果たす国家の能力及び/又は意思とは独立して存在し,それらの義務を軽減しない。

3. 国家が,関連する国内法の施行若しくは国際的人権義務を実施しない,又はそのような法律あるいは国際義務に反した行動を取り得るという事実も,企業は人権を尊重するものであるとの期待を軽減しない。国内法及び規則が国際的に認められた人権と抵触する国では,企業は,定義と原則の章の第2段落に従い,国内法の侵害とならない最大限の範囲で,それらを尊ぶ方策を求めるべきである。

4. 国又は企業の事業の個別の文脈にかかわらず全ての場合において,最低限,世界人権宣言及びそれが成文化された主要文書(市民的及び政治的権利に関する国際規約,経済的,社会的及び文化的権利に関する国際規約)で構成される国際人権章典で表明された国際的に認められた人権,並びに,1998年に国際労働機関が定めた労働における基本的原則及び権利に関する宣言に規定された基本的権利に関する原則が参照されるべきである。

5. 企業は事実上,国際的に認められた人権の領域全体に影響を持つことができる。実際,特定の産業又は文脈においては,ある人権は他のそれよりも大きなリスクに直面しているかもしれず,それ故に,高い注目を集める焦点となる。しかし,状況は変わり得るため,全ての権利は定期的な再検討の対象となるべきである。状況に応じ,企業は追加的な基準の検討を必要とし得る。例えば,特別の注意を必要とする特定の集団又は人口に属する個人の人権へ悪影響を及ぼし得る場合には,企業はそれらの個人の人権を尊重すべきである。この関係で,国連文書は,先住民,国民的又は民族的,宗教的及び言語的少数派に属する人々,女性,児童,障害者,移住労働者及びその家族に関する権利を更に詳細に記述している。さらに,企業は,武力紛争の状況において,そうした困難な環境で事業をしているときに,悪影響を引き起こす又は一因となるリスクの回避に役立てることができる,国際人道法の基準を尊重すべきである。

6. 第1段落において,実際の及び潜在的な人権への悪影響への対処は,その特定,可能な場合には,潜在的な人権への影響の防止及び緩和,実際の影響の救済,及び人権への悪影響にどのように対処したかについての説明のための適切な措置をとることにより構成されるとする。「侵害」という用語は,企業が個人の人権に与え得る悪影響を意味する。

7. 第2段落は,企業は自身の活動を通じて,人権への悪影響を引き起こす又は一因となることを避けるとともに,そのような影響が生じた場合には対処するよう勧告する。「活動」には,作為及び不作為の両方を含み得る。企業が人権への悪影響を引き起こす又は引き起こし得る場合には,企業はその影響を停止し又は防止するための必要な措置をとるべきである。企業がそのような影響の一因となる又は一因となり得る場合には,企業はその要因を停止し又は防止するための必要な措置をとり,最大限可能な範囲で,残存するあらゆる悪影響を緩和するために影響力を行使すべきである。影響力は,人権への悪影響を引き起こしている事業体の慣行を改変させる能力を企業が有する場合に存在するとみなされる。

8. 第3段落は,企業は人権への悪影響の一因となっていないが,それにもかかわらず,他の事業体との取引関係により,その悪影響がその企業の事業活動,製品又はサービスに直接結び付くという,更に複雑な状況に対処する。第3段落は,ある事業体が引き起こした人権への悪影響の責任を,取引関係を持つ企業へと転嫁することを意図していない。第3段落の期待に沿うことは,企業が単独又は他の事業体と協力して,適当な場合には,悪影響を防止又は緩和するため,人権への悪影響を引き起こしている事業体にその影響力を行使することを含み得る。「取引関係」は,取引相手,企業のサプライチェーンにある事業体,並びに企業の事業活動,製品又はサービスに直接結び付く他の民間又は国の事業体といった関係を含む。そのような状況で適切な行動を決定する要素の中には,企業が当該事業体に及ぼす影響力,その関係が企業にとって如何に重要か,影響の深刻度,並びにその事業体との関係を終了させること自体が人権への悪影響を持ち得るかどうかがある。

9. 第4段落では,企業は以下のような政策声明により,人権を尊重するとのコミットメントを表明するよう勧告する。(i)企業の最も高いレベルで承認されている,(ii)関係する内部及び/又は外部の専門的助言を受けている,(iii)企業による,社員,取引先,及びその事業活動,製品又はサービスに直接結び付く他者に対する人権への期待として規定している,(iv)公表され,全ての社員,取引先及び他の関係者に内部的及び外部的に伝達されている,(v)企業全体に浸透させるために必要となる事業方針及び手続に反映されている。

10. 第5段落は,企業が人権デュー・ディリジェンスを実施するよう勧告する。このプロセスは,人権への実際の及び潜在的な影響の評価,調査結果のとりまとめ及びそれへの働きかけ,対応についての追跡調査,並びにどのように影響が対処されたかについての伝達を必要とする。人権デュー・ディリジェンスは,企業自身が単に重要なリスクを特定し管理することを超え,権利保持者に対するリスクを組み込むことを前提とするならば,企業のより広範なリスク管理システムに含めることができる。企業の事業及び事業の文脈の進展につれ,時間とともに人権リスクも変わり得るとの認識から,それは継続的な課題である。サプライチェーンとの関係を含む,デュー・ディリジェンスに関する補足的な指針及びサプライチェーンで生じるリスクへの適切な対応は,一般方針の章の第A. 10段落から第A. 12段落,並びにその注釈で規定される。

11. 企業が人権デュー・ディリジェンスのプロセス又は他の手段を通じ,悪影響を引き起こした又は一因となったことを特定した場合,行動指針は,可能な救済のためのプロセスを企業が整えるよう勧告する。司法的又は国による非司法的な仕組みとの協力が必要となる状況もある。他方,企業活動により潜在的に影響を受けた者のための運用レベルでの苦情処理の仕組みは,正当性,利用の容易性,予測可能性,衡平性,行動指針との適合性,透明性という中核基準を満たすとともに,合意に基づく解決を求めての対話と関与を基礎とする場合には,そのようなプロセスを提供する効果的手段となり得る。そのような仕組みは,企業が単独又は他の利害関係者と協調して管理でき,継続的学習の源泉となり得る。運用レベルでの苦情処理の仕組みは,労働関連争議に対処するにあたり,労働組合の役割を損なうために利用したり,行動指針に基づく各国連絡窓口を含む,司法的又は非司法的苦情処理の仕組みの利用を排除したりすべきでない。


V. 雇用及び労使関係

 企業は,適用可能な法律,規則並びに一般的な労使関係及び雇用慣行,並びに適用可能な国際的労働基準の枠内において,次の行動をとるべきである。

1. a)多国籍企業によって雇用される労働者が,労働組合及び自らの選択による代表組織を設立し又はそれに参加する権利を尊重する。

b)多国籍企業によって雇用される労働者が,労働組合及び団体交渉の目的のために認められている自ら選択する代表組織を有する権利を尊重し,また,雇用に関する諸条件に関する協約を締結することを目的として,個別的に又は使用者の団体を通じ,当該代表と建設的な交渉を行う。

c)児童労働の実効的な廃止に貢献するとともに,緊急の事項として,最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃の確保のため,即時かつ実効的な措置をとる。

d)あらゆる形態の強制労働の撤廃に貢献するとともに,事業活動において強制労働が存在しないことを確保するために適当な措置をとる。

e)事業活動全体を通じ,雇用における機会及び待遇の均等原則に則るとともに,労働者をその特質に従って選別的に取り扱うことが特に雇用機会の一層の均等化を推進しようとする政府の確立した政策を更に促進することとなる場合又は職業に固有の要件に関連している場合を除き,人種,皮膚の色,性,宗教,政治的見解,出身国,社会的出自又はその他の状況等に基づき,労働者を雇用又は職業において差別しない。

2. a)労働者の代表に対し,有効な労働協約の作成を助けるために必要となるような便宜を提供する。

b)労働者の代表に対し,雇用条件に関する有意義な交渉のために必要な情報を提供する。

c)労働者及びその代表に対し,これらの者が当該事業体の,又は適当な場合には企業全体の業績に関して真正かつ公正な見解を持ち得るような情報を提供する。

3. 労使の相互の関心事項について,使用者と労働者及びその代表との間の協議及び協力を促進する。

4. a)受入国の類似の使用者が遵守している雇用及び労使関係の基準よりも低くない基準を遵守する。

b)多国籍企業が発展途上国で事業活動を行う際,比較可能な使用者が存在していないような場合は,政府の政策の枠内で,できる限りよい賃金,給付及び労働条件を提供する。これらは当該企業の経済的地位に関係することであるが,少なくとも,労働者及びその家族の基本的ニーズを充足するのに十分なものであるべきである。

c)事業活動において,職業上の健康及び安全を確保するため,適切な措置を実施する。

5. 事業活動において,最大限実行可能な限度において,現地の労働者を雇用し,技術水準の向上を目的として,労働者の代表及び適当な場合には関係の政府当局と協力しつつ,訓練を提供する。

6. 雇用に重大な影響を及ぼすような事業活動の変更,特に,集団的なレイオフ又は解雇を伴う事業体の閉鎖を検討するにあたっては,当該企業が雇用する労働者及びその団体の代表,及び適当な場合には,関係の政府当局に対し,かかる変更に関する合理的な予告を行い,また最大限実行可能な限度において,悪影響を緩和するため労働者の代表及び所管の政府当局と協力する。各事例の具体的な状況を考慮しつつ,経営者側が最終的な決定を下す前にそのような予告を行うことが望まれる。そのような決定の効果を緩和する上で意義のある協力を提供するために,その他の手段も採用することができる。

7. 雇用条件に関して労働者の代表との誠実な交渉を行うにあたり,又は労働者が団結権を行使している間は,交渉に不当な影響を与え又は団結権の行使を妨げるために,事業活動の単位の全部又は一部を当該国から移転するとの威嚇は行わず,また,他国内にある企業の事業体からの労働者移転は行わない。

8. 当該企業が雇用する労働者の正当な代表者が,交渉事項につき決定する権限を有する経営者側の代表と,団体交渉又は労使関係の問題についての交渉を行い,労使相互の関心事項について協議することを可能にする。


雇用及び労使関係に関する注釈

1. この章は,特定の国の管轄権内で事業を行っていても,多国籍企業は,国内的及び国際的水準の雇用及び労使関係の規則の対象となり得るとの事実を認めることを意味する,「適用可能な」法律及び規則への言及を含む柱書きで始まる。「一般的な労使関係」及び「雇用慣行」は,国家毎の状況の差異-例えば,各国の法律及び規則下で労働者に提供される交渉の選択肢の差異-を踏まえた多様な解釈を許容できる十分な広義さを有している。

2. 国際労働機関(ILO)は,国際労働基準の設定・対処や,1998年の労働における基本的原則及び権利に関する宣言で認められている労働の基本的権利を促進するための,権限ある機関である。行動指針は,拘束力を有しない文書として,多国籍企業に共通するこれらの基準及び原則の遵守を促進するための役割を有している。行動指針のこの章の条項は,1998年のILO宣言の関連条項,及び,直近の改訂が2006年に行われた1977年のILOの多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(ILO多国籍企業宣言)の関連条項を反映している。ILO多国籍企業宣言が,雇用,訓練,労働条件,並びに労使関係の分野に関する原則を規定するのに対し,OECD行動指針は企業行動の全ての重要な面を規定する。OECD行動指針及びILO多国籍企業宣言は,いずれも企業に求める行動に言及しつつ,並列的で互いに抵触しないよう意図されている。ILO多国籍企業宣言は,したがって,行動指針をより綿密に理解するのに役立つ。しかし,ILO多国籍企業宣言に基づくフォローアップ手続の責任と行動指針のそれとは,制度的に別個のものである。

3. 第V章で使用されている用語は,ILO多国籍企業宣言で使用されている用語と一致する。「多国籍企業によって雇用される労働者」及び「当該企業が雇用する労働者」という用語の使用は,ILO多国籍企業宣言におけるそれと同様の意味を持つよう意図されている。これらの用語は,「多国籍企業と雇用関係にある」労働者を指す。第V章の下での責任範囲を理解したいと望む企業は,行動指針の文脈における雇用関係の存在を決定するためには,2006年のILO勧告第198号の第13段落(a)及び(b)で示されている限定的な一連の指標が有用なガイダンスを提供することに気付くだろう。それに加え,勤務形態は時とともに変化・発展してきており,偽装された雇用慣行を支持,奨励,参加することのないよう,労働者との関係を構築することが企業に期待されていると認識されている。偽装された雇用関係は,使用者が,当該個人の本当の法的地位を隠すことにより,従業員以外の者として当該個人を扱う場合に生じる。

4. これらの勧告は,実際の民事上及び商業上の関係に干渉するものではなく,むしろ行動指針の文脈において,雇用関係にある個人がそれらの勧告によって保護されることを確保することを目指している。雇用関係が欠如している場合であってもなお,企業は,一般方針について記述した第II章の第A. 10段落から第A. 13段落にあるリスクに基づくデュー・ディリジェンス及びサプライチェーン勧告に従って行動することが期待されていると認識されている。

5. この章の第1段落は,ILOの1998年宣言に含まれている労働における4つの基本原則と権利の全て,すなわち,結社の自由及び団体交渉権,児童労働の実効的な廃止,あらゆる形態の強制労働の撤廃,及び雇用及び職業における差別の排除,を反映している。これらの原則と権利は,基本的と認められたILO条約において,特定の権利及び義務の形で策定されている。

6. 第1c)段落は,ILOの1998年宣言及び最悪の形態の児童労働に関するILO第182号条約が意味するところの児童労働の実効的な廃止に,多国籍企業が寄与するよう勧告する。児童労働に関する旧来のILO文書は,雇用の最低年齢に関する第138号条約及び第146号勧告(双方とも1973年に採択)である。その労務管理慣行や,良質で高賃金の雇用の創出,経済成長への寄与を通じ,多国籍企業は一般的な貧困や,特に児童労働を引き起こす根源に対処するための支援において積極的役割を果たせる。児童労働の問題に対する恒久的解決策の探求に寄与する多国籍企業の役割を認識し奨励することは重要である。この観点から,受入国に住む児童の教育水準の向上は,特に注目に値する。

7. 第1d)段落は,1998年ILO宣言に由来するその他の原則である,あらゆる形態の強制労働の撤廃への企業の貢献を勧告する。この労働に関する中核的な権利への言及は,1930年のILO第29号条約及び1957年の第105号条約に基づく。第29号条約は「能フ限リ最短キ期間内ニ一切ノ形式ニ於ケル強制労働ノ使用ヲ廃止スル」よう政府に求めており,第105号条約は,政府に,「すべての種類の強制労働を禁止し,かつ」,列挙された目的(例えば政治的圧政又は労働規律の手段として)のために,「これを利用しない」ことを求め,「[その]即時の,かつ,完全な廃止を確保するために効果的な措置を執る」よう求めている。同時に,ILOは,刑務所労働という,囚人が民間の個人,企業又は団体に外注雇用される(又は自由に利用される)場合にはとりわけ困難になる問題を取り扱うにあたっての権限ある機関と理解されている。

8. 第1e)段落における雇用及び職業に関する非差別の原則への言及は,そうした原則が採用,配属,解任,給与及び各種給付,昇進,異動又は転勤,期間満了,訓練,並びに退職といった諸条件に適用されることを示している。1958年のILO第111号条約,2000年の母性保護に関する第183号条約,1983年の雇用(障害者)に関する第159号条約,1980年の高齢労働者に関する第162号勧告及び2010年のHIV及びエイズと労働に関する第200号勧告から得られる許容できない差別理由の一覧は,これらの理由に基づくいかなる差別,除外,選好も条約,勧告及び規範に違反するとみなす。行動指針に照らし「その他の状況」という用語は,労働組合活動,並びに,年齢,障害,妊娠,婚姻の有無,性的指向又はHIVの状況等の個人の特質を意味する。第1e)段落の条項に従い,企業は,選抜,報酬,昇進における均等な基準とそれらの均等な適用,結婚,妊娠又は育児を理由とする差別又は解雇の防止に特に重点を置いた男女の均等な機会の促進を期待される。

9. この章の第2c)段落では,企業により労働者及びその代表に提供された情報は,業績についての「真正かつ公正な見解」であることが期待される。それは,以下の事項に関連する:企業の構造,その経済的及び財務的状況及び見通し,雇用動向,並びに事業運営において予定されている重要な変更。事業の秘密に関する考慮とは,ある点に関する情報は提供され得ないか,予防措置なしには提供され得ないことを意味し得る。

10. 労働者参加の協議の形態に関する第V章の第3段落の言及は,企業における使用者と労働者との間の協議及び協力に関する1952年のILO第94号勧告から取られている。それは,ILOの多国籍企業宣言に含まれる条項にも一致する。そのような協議取決めは,労働条件に関わる労働者の交渉権の代替とすべきではない。労働に関する協定についての協議取決めに関する勧告は,第8段落の一部でもある。

11. 第4段落では,雇用及び労使関係の基準には,報酬及び労働時間に関する協定を含むと理解される。職業上の健康及び安全への言及は,雇用の一連の経過に起因し,関連し又は生じる事故及び健康への被害の危険を最小限にするために広まっている規則基準及び産業の基準に,多国籍企業が従うよう期待されていることを意味する。例え企業が事業を行う諸国において既存の規則により公式に要求されていなくても,事業の全ての部分における職業上の健康及び安全に関する実績レベルの向上に取り組むよう,企業は奨励される。企業は,健康又は安全に差し迫った深刻な危険が存在すると信じる合理的な理由がある場合においては,労働現場から離れる労働者の能力に配慮するようにも奨励される。それらの重要性及び関連する勧告の相補性を反映し,健康及び安全への懸念は,行動指針の他の場所,とりわけ消費者利益及び環境の章に反映されている。2002年のILO第194号勧告は,職業病の指標となる一覧表及び行動指針の本件勧告の実施において企業によって考慮され得る慣例規範及び指針を提供している。

12. この章の第5段落の勧告は,現地の労働力を,管理者を含め,適切な割合まで雇用するとともに,それらの者に訓練を提供するよう多国籍企業に奨励する。訓練及び技能水準に関するこの段落の用語は,人的資本形成を奨励する一般方針の章の第A. 4段落の文章を補完する。現地の労働者に関する言及は,一般方針の章の第A. 3段落の,現地の能力開発を奨励する文章を補完する。2004年のILOの人的資源開発に関する第195号勧告に従い,企業は,女性及び,若者,非熟練者,障害者,移民,高齢労働者及び先住民等の他の社会的弱者の集団への均等な訓練機会を確保しつつ,実施可能な最大限まで,訓練及び生涯学習に投資するようにも奨励される。

13. 第6段落は,企業が,労働者の代表及び関係の政府当局に,労働者の生活に重大な影響を及ぼすような事業活動の変更,特に集団的レイオフ又は解雇を含む事業体の閉鎖にあたっては,合理的な予告を行うよう勧告する。その中に述べられているように,この条項の目的は,そのような変更の影響を緩和するための協力の機会の提供である。有意義な協力の機会を確保するためにとられる方策は,全ての参加国において同一ということはないが,この原則は参加国の労使関係法及び慣行に幅広く反映されている重要なものである。この段落はまた,具体的な状況に照らし,経営者側が最終決定を下す前にそのような予告を行うことは適切であり得ると指摘する。実際,最終決定前の予告は,多くの参加国における労使関係法及び慣行の特徴である。しかし,そのような決定の効果を緩和する意義ある協力のための機会確保だけが唯一の手段ではなく,他の参加国の法律及び慣行では,そうした決定が実施される前に協議を行う間,一定の期間を設けなければならないと定める等の,他の手段を設けている。


VI. 環境

 企業は,その事業活動を行う国の法律,規則及び行政上の慣行の枠内で,また関連する国際的な合意,原則,目的及び基準を考慮し,環境,公衆の健康及び安全を保護する必要性,及び,持続可能な開発というより広範な目標に貢献する方法で一般的に活動を実施する必要性に十分な考慮を払うべきである。特に企業は,次の行動をとるべきである。

1. 以下の活動を含め,当該企業に適した環境管理制度を設立し,維持する。

a)企業活動の環境,健康及び安全への影響に関する適切で時宜を得た情報の収集と評価。

b)計測可能な目的の確立,また適当な場合には,これらの目的が引き続き妥当であるかについての定期的見直しを含め,環境面での成果及び資源の利用,改善のための目標の確立。適当な場合には,目標は関連する国の政策及び国際的な環境に関するコミットメントと一致しなければならない。

c)環境,健康及び安全に関する目的又は目標への進展についての定期的な監視及び確認。

2. 費用,事業上の秘密及び知的所有権保護に関する関心を考慮しつつ,次の行動をとる。

a)企業活動の環境,健康及び安全への潜在的な影響に関する適切,計測可能,検証可能で(該当する場合には)かつ時宜を得た情報を社会及び労働者に提供する。この情報には,環境面での成果改善の進展についての報告を含み得る。

b)企業の環境,健康及び安全に関する方針及びその実施によって直接に影響を受ける集団と,適切かつ時宜を得た連絡及び協議を行う。

3. 意思決定に際しては,企業の工程,製品及びサービスによって,そのライフサイクルの全ての段階で生じる環境,健康及び安全に対する予見可能な影響を避け,又は避けられない場合には緩和する観点から,評価し,考慮する。提案された諸活動が環境,健康及び安全に対して重大な影響を与える可能性があり,かつ,これらの諸活動が所管官庁の決定に服する場合には,適切な環境影響評価を準備する。

4. 危険性に関する科学的及び技術的理解に則しつつ,環境に対し重大な損害を与えるおそれがある場合には,人の健康及び安全も考慮に入れ,十分な科学的確実性を欠いていることを理由として,かかる損害を予防し最小限にするための費用効率の高い措置を先送りしてはならない。

5. 事故及び非常事態を含め,事業活動から生じる環境又は健康への重大な損害の防止,緩和及び管理のための非常事態対策計画を維持し,また所管官庁へ即時通報を行うための仕組みを維持する。

6. 企業及び適当な場合にはそのサプライチェーンのレベルにおいて,次のような活動を奨励することにより,企業の環境面での成果の改善を継続的に追求する。

a)環境面での成果に関して当該企業内で最も成果が上がっている部門における基準を反映した技術及び手続の企業の全ての部門での採用。

b)環境に対して過度の影響を及ぼさず,意図されたとおり使用されれば安全で,温室効果ガス排出を削減し,エネルギー及び天然資源の消費において効率的で,再利用及び再資源化が可能であり,又は安全に廃棄することが可能な製品及びサービスの開発・提供。

c)その製品に関する正確な情報(例えば,温室効果ガスの排出,生物多様性,資源効率,又は他の環境事項)の提供を含む,企業の製品及びサービスの使用の環境上への意味についての消費者の高水準の認識の増進。

d)例えば,排出削減,効率的な資源利用及び再資源化,毒物利用の代替又は削減,あるいは,生物多様性戦略のための戦略の策定等,長期にわたる企業の環境面での成果改善方法の調査及び評価。

7. 有害物質の取扱い及び環境事故の防止を含め,環境,健康及び安全に関する事項につき,また,例えば環境影響評価手続,広報活動及び環境技術等,より一般的な環境管理分野につき,労働者に対して適切な教育と訓練を提供する。

8. 例えば環境についての意識の向上及び環境保護を強化するための連携又はイニシアティブを通じて,環境上有意義で経済的に効率的な公共政策の発展に貢献する。


環境に関する注釈

1. 環境の章の本文は,環境と開発に関するリオ宣言,アジェンダ21(リオ宣言の一部)に含まれる原則及び目的を広範に反映する。また,環境に関する,情報へのアクセス,意思決定における市民参加,司法へのアクセスに関する(オーフス)条約も考慮に入れ,環境管理制度に関するISO規格等の文書に含まれている規格も反映する。

2. 健全な環境管理制度は持続可能な開発の重要な一部であるとともに,企業の責任及び事業の機会の両方であると次第にみなされている。多国籍企業は,両方の観点から果たすべき役割を持っている。企業の管理者は,したがって,企業戦略の中で環境問題に適切な注意を払うべきである。環境面での成果の改善は,系統的な方策や制度の継続的な向上のためのコミットメントを求める。環境管理制度は,企業が環境に与える影響の制御及び環境的考慮の企業活動への統合のために必要な内部的枠組を提供する。そのような制度を整えるには,利害関係者,労働者及び地域社会は,環境を企業活動による影響から保護するための企業による積極的な活動を確実にするのを助けるべきである。

3. 環境面での成果の向上に加え,環境管理制度の策定は,事業及び保険経費の減少,エネルギー及び資源の保存の改善,遵守及び責任に関する費用の減少,資本及び技能を利用する機会の向上,顧客の満足の向上,並びに地域社会と公衆との関係の向上等を通じ,企業に経済的利益を与えられる。

4. 行動指針の文脈で,「健全な環境管理」は,汚染防止及び資源管理要素の両方を含む,長期的な企業活動による直接的及び間接的な環境双方への影響の統制を目的とする活動を具体化する最も広義の意味で解釈されなければならない。

5. 多くの企業では,企業活動を管理するための内部統制制度が必要とされる。この制度の環境に関する部分に,環境面での成果の向上のための目標及びこれらの目標達成に向けた定期的な監視等の要素を含み得る。

6. 企業活動,下請契約者及びそのサプライヤーとの関係,並びに関係する環境影響に関する情報は,公衆との信頼を構築するための重要手段である。この手段は,共通の利益である環境問題に関する長期間の信頼及び理解の雰囲気が促進されるように,情報が透明性のある方法で提供され,従業員,顧客,サプライヤー,契約者,現地社会等の利害関係者,並びに社会全般との活発な協議が奨励されるとき,最も効果的である。地域,国内又は国際的文脈において欠乏した又は危険にさらされている環境資源が危機的状況にある場合,報告及び連絡は特に適切であり,グローバル・リポーティング・イニシアティブ等による報告基準は,有用な参照文書を提供する。

7. 製品に関する正確な情報を提供する際,企業は自発的な表示又は認証計画等の幾つかの選択肢を持つ。これらの手段を使う際,企業は開発途上国及び既存の国際的に認められた基準に自らが与える社会的及び経済的影響に然るべく考慮を払うべきである。

8. 通常の企業活動には,企業活動に関連する環境に関する潜在的な影響の事前評価が含められる。企業はしばしば,法律で求められていなくても,適切な環境影響評価を実施する。企業により行われる環境評価には,企業活動,下請契約者及びサプライヤーの活動による潜在的影響に関する広範で前向きな見解,関連する影響への取組,並びに悪影響を回避し是正するための代替策及び緩和措置の見分を含み得る。行動指針はまた,多国籍企業は製品のライフサイクルの他の部分にも一定の責任を持つと認識する。

9. 環境と開発に関するリオ宣言の第15原則に掲げられた「予防的な方策」を含む,幾つかの文書が既に行動指針参加国により採択された。明示的に企業に向けられた文書はないが,企業による貢献はそれら全てに潜在する。

10. 行動指針の基礎的前提は,企業は可及的速やかにかつ先行的な方法で,例えば,企業活動に起因する深刻又は不可逆的な環境上の被害を避けるために行動すべきである。しかし,行動指針が企業に向けられている事実は,この勧告で表明するための完全に十分な既存の文書は存在しないことを意味する。

11. 行動指針は,いかなる既存の文書を再解釈したり,新しいコミットメント又は政府側の先例を作ったりすることも意図しない。-行動指針は,どのように予防的な方法を企業の水準で実施すべきかについて勧告することを意図するのみである。この工程は初期段階にあり,実施される特定の状況に基づき,適用にはある程度の柔軟性が必要と認識される。政府はこの分野で基礎的枠組を決定し,前進するのに最も適切な方法で定期的に利害関係者と協議する責任を持つ。

12. 行動指針は,事業を行う国の既存の慣行で公式に要請されていなくても,企業の事業活動の全ての部分の環境面での成果の水準を高めるため行動するよう奨励する。この点で,企業は自らが開発途上国に与える社会的及び経済的影響に然るべく考慮を払うべきである。

13. 例えば,多国籍企業はしばしば,仮に適用された場合には,全般的な環境面での成果の向上を助けられる既存の及び革新的な技術又は作業手順を入手利用できる。多国籍企業は頻繁に自らの関係分野における指導者とみなされるため,他の企業への潜在的「実演効果」を見落とすべきではない。多国籍企業が利用可能かつ革新的な技術及び慣行から利益を得,事業を行う諸国の環境を確保することは,より一般的に国際投資活動のための支援を構築する重要な方法である。

14. 企業は,環境問題に関する雇用者の訓練及び教育に重要な役割を持つ。企業は可能な限り広範な方法で,特に人の健康及び安全に直接関連する分野で,この責任を果たすよう奨励される。


VII. 贈賄,贈賄要求,金品の強要の防止

 企業は,商取引又は他の不当な利益を取得し,又は維持するために,直接又は間接に,賄賂又はその他の不当な利益の申し出,約束,供与又は要求を行うべきではない。また,企業は,贈賄要求及び金品の強要を拒否すべきである。企業は特に次の行動をとるべきである。

1. 公務員又は取引先従業員に対し,不当な金銭上又は他の利益を供与・申し出若しくは約束をしない。同様に,企業は,公務員又は取引先従業員から不当な金銭又は他の利益を収受し,又はその約束若しくは同意をしてはならない。企業は,代理人,代理店及びその他の仲介人,コンサルタント,代表者,流通業者,共同事業体,契約者,製造業者及び合弁事業者等の第三者を,公務員又はその取引先従業員,又はこれらの者の親類若しくは共同事業者に対する不当な金銭上又は他の利益を経由させる手段として利用してはならない。

2. 贈賄の防止及び発見を図るため,適正な内部統制,倫理基準並びに法令遵守計画又はその方策を構築し採用する。これらは,個々の企業をとりまく事情,特に企業が直面する贈賄のリスク(活動地域及び産業部門に起因するもの等)を分析した結果に基づいて開発されるべきである。これらの内部統制,倫理基準,並びに法令遵守計画又はその方策は,贈賄又は贈賄を隠蔽する目的に利用されないことを確保するため,公平で正確な帳簿,記録,会計を維持するために設計された合理的な内部統制システムを初めとする財務及び会計手続を含むものとすべきである。企業の内部統制,倫理基準並びに法令遵守計画又はその方策の継続的な実効性を確保し,また,企業が贈賄,贈賄要求,金品の強要に加担するリスクを軽減するため,個々の企業を取り巻く事情及び贈賄のリスクは,必要に応じて定期的に再評価されなければならない。

3. 少額の円滑化のための支払は,それが行われた国において違法とされているのが一般的であることから,内部統制,倫理基準並びに法令遵守計画又はその方策を通じてその使用を禁止又は抑制する。少額の円滑化のための支払いが行われた場合には,帳簿又は財務記録で正確に記録する。

4. 企業が直面する特定の贈賄リスクを考慮し,雇用について適正に文書化されたデュー・ディリジェンスが行われていること,代理人に対する適切かつ定期的な監督が行われていること及び代理人への報酬は適切で,かつ,正当な役務に対するもののみであることを確保する。公共機関及び国有企業との取引に関与する代理人又は代理店がいる場合には,適用される情報公開基準に従って,その代理人等の名簿を保存し,関係当局が利用可能なものにすべきである。

5. 贈賄,贈賄要求及び金品の強要の防止における活動の透明性を高める。その措置としては,贈賄,贈賄要求及び金品の強要に反対する旨の公のコミットメントを行うこと及びこれらのコミットメントを尊重するために企業が採用した経営理念及び内部統制,倫理基準,並びに法令遵守計画又はその措置を開示すること等が挙げられる。また,企業は,公開性を高め,社会との対話を促進することによって,贈賄,贈賄要求及び金品の強要の防止についての認識と協力を向上させるべきである。

6. 贈賄,贈賄要求及び金品の強要に反対する会社の方針及び内部統制システム,倫理基準,並びに法令遵守計画又はその措置について,その方針,計画及びその措置の適切な周知並びに研修プログラム及び懲戒手続を通じ,従業員の認識と遵守を増進する。

7. 公職候補者,政党又はその他の政治団体に対して,違法な献金を行わない。政治献金は,公の情報公開基準に完全に従ったものでなければならず,また,経営上層部に対して報告されねばならない。


贈賄,贈賄要求,金品の強要の防止に関する注釈

1. 贈賄及び腐敗行為は,民主的機関及び企業統治を害している。それらは,投資を抑制するとともに,国際的な競争状況を歪める。特に,腐敗慣行を通じた資金の移転は,より高水準の経済的,社会的及び環境的福祉の達成のための市民の努力を損なうとともに,貧困削減のための努力を妨げる。企業はこれらの慣行を防止するための重要な役割を持つ。

2. 公的及び私的分野双方における適切性,統合性及び透明性が,贈賄,贈賄要求,金品の強要の防止のための主要概念である。産業界,非政府組織,政府及び政府間組織は全て,贈賄防止措置への公的支援を強化し,透明性,腐敗及び贈賄問題への公衆の意識啓発を高めるため協力している。適切なコーポレート・ガバナンス慣行の採用は,企業内での倫理文化育成に重要な要素である。

3. OECD国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(贈賄防止条約)は,1999年2月15日に発効した。贈賄防止条約は,2009年に国際商取引における外国公務員の更なる贈賄防止に関する勧告(2009年の贈賄防止勧告),2009年の国際商取引における外国公務員に対する更なる贈賄の防止のための税に関する勧告,及び2006年の贈賄及び公的に支援された輸出信用に関する勧告は,腐敗取引の提供側を対象とするOECDの中核文書である。それらは,各国が自国企業の行為及び自身の管轄権内での出来事に責任を持つことによる,外国公務員への贈賄「提供」を根絶することを目的とする*6*。贈賄防止条約の諸国による実施のための厳格で体系立てられた監視計画が,これらの文書の完全な実施を促進するため設立されている。

4. 2009年の贈賄防止勧告は,特に政府が自国企業に対し,2009年の贈賄防止勧告の附属書IIに含まれている,内部統制,倫理及び遵守に関するグッド・プラクティス・ガイダンスを考慮しつつ,外国贈賄の防止及び発見のための適当な内部統制,倫理及び遵守計画又は手段を開発及び採択するよう勧告する。このガイダンスは,企業,会社組織,並びに専門職協会に対してのものであり,外国贈賄の防止及び発見のための内部統制,倫理及び遵守計画又は手段の実効性を確保するためのグッド・プラクティスを強調する。

5. 民間部門及び市民社会の取組もまた,企業が実効的な贈賄防止政策を策定し実施することを助ける。

6. 国連腐敗防止条約(UNCAC)は2005年12月14日に発効し,腐敗防止のための幅広い範囲の標準,手段及び規則を規定した。UNCACの下で,締約国は,外国公務員及び国際機関公務員と同様,自国の公務員が贈賄を受け取るとともに,自国企業が国内の公務員から贈賄されることを防止するよう,また私企業から私企業への贈賄を禁止することを検討するよう求められる。UNCAC及び贈賄防止条約は,相互に支持し補完し合う。

7. 贈賄の要求側に対処するため,良き統治慣行は企業が賄賂を払うよう求められることを防ぐ重要な要素である。企業は,贈賄要求及び金品の強要を拒む共同活動イニシアティブを支援できる。本国及び受入国の双方は,企業が贈賄要求及び金品の強要に立ち向かうために支援すべきである。2009年の贈賄防止勧告の附属書Iにある同条約の特別条項に関するグッド・プラクティス・ガイダンスは,贈賄防止条約は,外国公務員が賄賂を強要した場合,それに防御又は例外を提供しない方法で履行すべきと規定している。さらに,UNCACは,国内公務員による贈賄要求を犯罪とするよう求める。


VIII. 消費者利益

 企業は,消費者との関係において,公正な事業,販売及び宣伝慣行に従って行動すべきであり,また,提供する物品及びサービスの品質及び信頼性を確保するためあらゆる合理的な措置を実施すべきである。特に企業は次の行動をとるべきである。

1. 提供する物品及びサービスが,健康についての警告並びに安全情報に関するものを含め,消費者の健康及び安全のために合意された又は法的に要求される全ての基準に適合することを確保する。

2製品及びサービスについての価格,適当な場合にはその内容,安全な使用,環境特性,維持,保管を含む,消費者が知識を得た上で決定を行うことを可能とするに十分な,正確,検証可能かつ明確な情報を提供する。実現可能な場合には,消費者の製品を比較する能力を促進する方法でこの情報は提供されるべきである。

3. 不必要な費用や負担を伴わない,公正で,使い易く,時宜に適った効果的な裁判外の紛争解決及び被害回復の機会を提供する。

4. 不正な,誤解を招くような,詐欺的な,あるいは不当な説明表示及び省略その他の慣行は行わない。

5. 特に消費者の以下の能力,i)複雑な物品,サービス及び市場に関する知識を得た上での決定の実施,ii)消費者の決定が経済面,環境面及び社会面に与える影響のより良い理解,iii)持続可能な消費の支援を向上させる目的で,商取引活動に関連する分野での消費者教育を促進するための努力を支援する。

6. 消費者のプライバシーを尊重し,個人データを収集し,保有し,処理し,又は提供するにあたっては,安全を確保するため,合理的な措置をとる。

7. (誤解を招くような広告又は商業的詐欺を含む)不正な慣行の防止及び対決のため,並びに,物品及びサービスの消費,使用又は廃棄から生じる公衆の健康と安全又は環境に対する重大な脅威の減少又は防止のため,全面的に当局と協力する。

8. 上記の原則を適用する際,i)被害を受けやすい及び不利な消費者のニーズ,ii)電子商取引が消費者にもたらし得る特別の課題を考慮する。


消費者利益に関する注釈

1. OECD多国籍企業行動指針の消費者利益の章は,OECD消費者政策委員会及び金融市場委員会の他,国際商業会議所,国際標準化機構,国連(1999年に拡大された,国連消費者政策に関する指針等)を含む,他の国際機関の作業により策定された。

2. この章は,消費者の満足及び関連する利益は,成功する企業の事業の基盤であると認識する。また,物品及びサービスの消費者市場は,時とともに大きな変化を経験しているとも認識する。規則改革,より開かれた世界市場,新技術の開発及び消費者サービスの成長は,変化の主要な媒体であり続け,消費者により開かれた競争から生じるより広い選択及び他の利益を提供している。同時に,変化の速度及び多くの市場の増大する複雑性は,消費者が物品及びサービスを比較し入手利用するのをより困難にしている。さらに,消費者の人口動態もまた,時とともに変化している。子供は,数が増え続ける高齢者と同様,市場において次第に重要な推進力となっている。消費者は全般的により良く教育されているが,今日のより複雑で,情報集約的な市場で必要とされる計算及び識字能力を多くの人々はいまだ欠いている。さらに,多くの消費者は次第に,経済,社会及び環境問題の広い領域に関する企業の立場や活動を知ることに興味を持っており,物品及びサービスを選択する際に考慮に入れている。

3. 柱書きは,企業に公正な商取引,マーケティング及び広告慣行を適用し,提供する製品の品質及び信頼性を確保するよう求める。これらの原則は,述べられているとおり,物品及びサービスの両方に適用される。

4. 第1段落は,企業が要求される健康及び安全基準を遵守し,消費者に自社製品に関する十分な健康及び安全に関する情報を提供する重要性を強調する。

5. 第2段落は,情報開示にかかわる。第2段落は,消費者が知識を得た上での決定を行うために十分な情報を提供するよう企業に求める。これは,関わりがある場合には,製品に関連した企業の財政上のリスクに関わる情報を含み得る。さらに,消費者が物品又はサービスの直接的な比較(例えば,単価)を行うことを可能にする方法での情報提供を企業が法的に求められる場合もある。直接の法律がない場合は,消費者に対応する際,物品及びサービスの比較を促進し,製品の全体費用は何になるかを消費者が容易に決定することを可能にする方法で,企業は情報を提示するよう奨励される。何が「十分」とみなされるかは,時とともに変わり得ると認識されるべきで,企業はそれらの変化に良く反応しなければならない。企業が行う製品及び環境に関する主張は,適切な証拠及び,適用可能な場合には,適切な試験に基づくべきである。消費者の環境問題及び持続可能な消費に関する興味の高まりに鑑みれば,適切な場合には,製品の環境特質に関する情報が提供されるべきである。これには,エネルギー効率及び製品の再生可能性の程度,食糧製品の場合には,農業慣行に関する情報が含まれ得る。

6. 消費者が購買決定を行う際,企業の行動は益々考慮されている。企業はしたがって,社会上及び環境上の懸念を事業活動に組み込むためにとっている自発的行動に関する情報を入手可能にするとともに,別の方法で持続可能な消費を支援するよう奨励される。情報開示に関する行動指針の第III章は,この点に関連する。企業は,企業の社会的,倫理的及び環境的政策に関する情報,並びに企業が賛成する他の行動規範を含む,企業行動の理念又は規則に関する声明を公衆に伝えるよう奨励される。企業は,その情報を消費者が魅力を感じる平易な言葉及び形式で入手可能にするよう奨励される。この分野で報告をするとともに,消費者を標的とする企業数が増大することは,歓迎され得る。

7. 第3段落は,2007年の「消費者の紛争解決及び救済に関するOECD理事会勧告」で使われている用語を反映している。この勧告は,産業がこの点に関してとれる一連の行動を含む,消費者の訴えに対処するための効果的方策を開発するための枠組を設立する。消費者紛争を解決するために多くの企業が設立したその仕組みは,消費者の自信及び消費者の満足の増進に役立っていると指摘される。これらの仕組みは,全ての関係当事者にとって高額で,困難で時間がかかり得る司法行為よりも,申立て者にとってより実際的な解決策を提供できる。これらの非司法的仕組みは効果的になり得るが,消費者に認識してもらう必要があり,特に訴えが国境を越える又は複数の側面を持つ取引の場合には,どのように訴えを起こすかに関する指導から利益を受け得る。

8. 第4段落は,不正な,誤解を招くような,詐欺的な及び他の不当な商業慣行にかかわる。そのような慣行は,市場を歪め,消費者及び責任ある企業の双方を犠牲にするため,避けるべきである。

9. 第5段落は,多くの市場及び製品で複雑さを増しつつ,より重要になっている消費者教育にかかわる。政府,消費者団体及び多くの企業は,それは共同責任であり,この点で重要な役割を果たせると認識している。金融及び他の分野における評価をするのが複雑な製品について消費者が経験している困難は,消費者の意思決定を向上させることを目的とする教育の促進のため,利害関係者が共に働く重要さを強調している。

10. 第6段落は,個人情報にかかわる。企業による個人データの収集及び利用は増加しており,インターネット及び技術の進歩により拍車がかかっている。このような状況は,セキュリティ侵害を含む,消費者のプライバシー侵害に対する個人データ保護の重要性を強調するものである。

11. 第7段落は,企業が当局とともに,詐欺的なマーケティング慣行をより効果的に阻み防止することを助ける重要性を強調する。協力はまた,公の健康及び安全,並びに環境への脅威の緩和又は防止も求めている。この脅威には,物品の廃棄,消費及び使用と関連しているものも含む。これは,製品のライフサイクル全体の考慮の重要性の認識を反映する。

12. 第8段落は,企業が製品及びサービスを市場に出す際,被害を受けやすい及び不利な消費者を考慮に入れるよう求めている。不利な又は被害を受けやすい消費者は,個人的特質又は状況(例えば,年齢,精神的又は身体的能力,教育,収入,言語又は遠隔地)のために,今日の情報集約的な,世界化した市場で活動するのに特別な困難さに遭遇している特定の消費者又は消費者の部類を意味する。この段落は,国際的市場で稼働的かつ他の形態であるEコマースの増大する重要性も強調する。そのような商業がもたらす利益は,重要で増大している。政府は,消費者が,より伝統的な形態の商業で可能な保護の水準に比べ,Eコマースの場合において劣らない,透明性を持ちかつ効果的な保護を得られることを確保するための方途の研究にかなりの時間を費やしている。


IX. 科学及び技術

 企業は次の行動をとるべきである。

1. その活動が,事業活動を行う国の科学及び技術に関する政策及び計画に合致することを確保するよう努力し,また適当な場合には,地域及び全国の技術革新能力の発展に貢献する。

2. 知的所有権の保護に適切に配慮しつつ,実行可能な限り,事業活動の過程において技術及びノウ・ハウの移転及び急速な普及を可能にする慣行を採用する。

3. 適当な場合には,商業上の必要性を考慮に入れ,現地市場のニーズに対応するために受入国において科学及び技術開発作業を実行し,科学及び技術能力を有する現地の人材を雇用し,また,これらの人材の訓練を奨励する。

4. 知的所有権の使用許諾を与える場合,又はその他の方法により技術移転を行う場合には,合理的な期間と条件において,かつ,受入国の長期的な持続可能な開発の見通しに貢献する方法で,これを実施する。

5. 商業上の目的から妥当な場合には,現地の大学,公共研究機関との関係を発展させ,現地の産業又は産業団体との共同研究計画に参加する。


科学及び技術に関する注釈

1. 国境が持つ意味が薄れ,知識を基礎とし国際化した経済においては,小規模で国内指向の企業でさえ,技術及びノウ・ハウにアクセスし利用する能力は企業業績向上のため重大である。そのようなアクセスは,持続可能な開発の文脈で,生産性向上及び雇用創出を含む技術発展の経済全般の影響の実現にとっても重要である。多国籍企業は,国境を越える技術移転の主要な導管である。多国籍企業は,国内企業及び機関による新技術を創出し普及し使用可能にすることで受入国国内の技術革新能力に貢献する。多国籍企業の研究開発活動は,国内のイノベーション・システムと上手く結びつく場合は,受入国の経済的及び社会的発展の向上を助けられる。同様に,受入国での活発なイノベーション・システムの発展は,多国籍企業の商業上の機会を拡大する。

2. この章はしたがって,経済的実現可能性,競争力の懸念及び他の考慮の限度内で,多国籍企業による研究開発活動の成果を企業が活動する国で普及し,それによる受入国の技術革新能力への貢献を奨励することを目的とする。この観点から,技術の普及促進には,新技術,プロセスの革新のライセンス化,科学技術人員の雇用及び訓練,研究開発協力事業の発展に組込まれている製品の商業化を含められる。多国籍企業は,技術を販売又はライセンス化する場合,交渉された条件が合理的であるばかりでなく,本国及び受入国の長期的な開発,環境及び他の影響を考慮したいかもしれない。多国籍企業は活動の中で,自らの国際的な子会社及び下請契約者の技術革新能力を構築し促進することができる。その上,多国籍企業は,物理的にも組織的にも現地の科学技術基盤の重要性を喚起することができる。この観点から,多国籍企業は活発なイノベーション・システムの発展をもたらす受入国政府による政策枠組の形成に有益に貢献できる。


X. 競争

 企業は,次の行動をとるべきである。

1. その活動が反競争効果を持ち得る全ての管轄区域の競争法を考慮しつつ,全ての適用可能な競争法及び規則に従った方法で活動を実施する。

2. 次のような競争者間の反競争的協定の締結あるいはその実行を控える。

a)価格の固定。

b)入札における不正(入札談合)。

c)生産制限又は生産割当ての設定。d)顧客,供給者,地域又は取引分野の割当てによる市場の共有又は分割。

3. 調査当局間の効果的かつ効率的な協力を促進するため,特に,適用可能な法律と適切な保障措置に従い,情報要求に実行可能な限り迅速かつ完全な回答を提供するとともに,適切な場合にはウェーバー等の利用可能な手段の使用を検討することによって,調査を行う競争当局と協力する。

4. 適用可能な全ての競争法及び規則を遵守することの重要性について,定期的に従業員の理解を促進し,特に競争に関する事項に関し,企業の上級管理職を訓練する。


競争に関する注釈

1. これらの勧告は,国内及び国際市場の双方において行われる効率的な事業活動に対する競争法及び規則の重要性を強調するとともに,国内企業及び多国籍企業がそれらの法律及び規則を遵守することの重要性を再確認するものである。勧告はまた,全ての企業が,競争法の範囲,問題解消措置及び制裁,並びに競争当局間の協力の発展について意識することを確実なものとするよう努めている。「競争」法という用語は,「反トラスト」法及び「独占禁止」法の両方の法律を含み,a)反競争的な合意,b)市場支配力又は支配的地位の濫用,c)効率性を伴わない市場支配力又は支配的地位の獲得,又はd)企業の合併又は買収による,競争の実質的な減殺又は効果的な競争の顕著な阻害等の様々な行為を禁止する法律に言及する際に用いられる。

2. 一般的に,競争法及び競争政策は,a)ハードコア・カルテル,b)他の反競争的な合意,c)支配的地位又は市場支配力を利用し又は拡大する反競争的な行為,及び,d)反競争的な合併及び買収を禁止する。効果的なハードコア・カルテル対策に関する1998年のOECD理事会勧告(C(98)35/final)の下では,第a)段落で言及されている反競争的な合意はハードコア・カルテルを構成するが,同勧告は,各国の法律における例外を認める適用除外や規定の差異,他の場合であれば禁止され得る行為に対する許可の差異といった,参加国の法律の差異を組み込んでいる。これらの行動指針における勧告は,企業がそのような法的に適用され得る適用除外又は規定を利用することを差し控えるべきと提案しているのではない。他の種類の合意及び単独行為の効果が曖昧なものであるとともに,どのような行為を反競争的なものと考えるべきかについて完全に意見が一致しているわけではないため,第b)段落及び第c)段落は,より概括的なものとなっている。

3. 競争政策の目標は,商品及びサービスの性質,品質及び価格が競争的な市場の力によって決定されるという市場環境を推進することにより,全体的な厚生及び経済成長に貢献することである。そのような競争的環境は,消費者及び管轄域内の経済全体に利益をもたらすことに加え,消費者の需要に効果的にこたえる企業に恩恵を与えるものである。政府が,効率性を減少させ,又は市場の競争を減少させる法律や政策を検討する場合には,企業は情報及び助言を提供することによってこの過程に貢献することができる。

4. 企業は,競争法が制定され続けていること,及び競争法においては,海外で起こる反競争的行為が国内の消費者に対して悪影響を有する場合には,それらの行為を禁止することが急速に一般的になっていることを意識すべきである。その上,国境を越えた取引及び投資は,ある管轄区域で行われた反競争的行為が他の管轄区域に対して悪影響を与える可能性を高める。したがって,企業は,事業を行う国の法律及び自らの行為の影響が知覚され得る全ての国の法律の双方を考慮に入れるべきである。

5. 最後に,企業は,競争当局が反競争的行為に対して審査を行い取り締まるに際して,よ49

り密にかつ深く協力していることを認識すべきである。一般的には,国際貿易に影響のある反競争的慣行に係る参加国の間の協力に関する理事会勧告であるC(93)130/final,合併審査に関する理事会勧告であるC(2005)34を参照されたい。様々な管轄区域の競争当局が同じ行為を審査する場合は,当局間の協力を企業が手助けすることで,政府及び企業の費用削減が可能となる一方,整合性のある健全な意思決定及び競争上の救済措置が促進される。


XI. 納税

1. 企業が所定の時期に納税義務を履行することにより受入国の公共財政に貢献することは重要である。特に企業は,その事業活動を行う国の租税に関する法律及び規則の文言及び精神の双方に従わねばならない。法の精神に従うとは,立法趣旨を理解しこれに従うことを意味する。企業は,かかる解釈に従って,法的に要求された金額以上の支払いを求められない。税コンプライアンスは,事業活動に関連して賦課される租税の正確な決定を目的として法定の又は関連する情報をタイムリーに関係当局に提出すること,及び企業グループ内の価格設定の慣行を独立企業原則(arm’slengthprinciple)に合致させること等の措置を含む。

2. 企業は,税ガバナンス及び税コンプライアンスを,自らの監督及びより広いリスク管理体系の重要要素として扱うべきである。特に,企業の取締役会は,租税に関連する財務リスク,規制リスク及びレピュテーションリスクが,十分に特定及び評価されるよう,リスク管理戦略を採用すべきである。


納税に関する注釈

1. 租税分野での企業の社会的貢献(コーポレート・シチズンシップ)とは,企業が事業を行う全ての国で租税法及び規則の文言及び精神の両方に従い,当局と協力し,利用可能な法律に要求された又は関連する情報を作成すべきことを意味する。企業は,法令の文言及び関連する当時の立法背景に照らして立法趣旨を見出し,及び当該立法趣旨に従って租税規則を解釈する合理的な措置をとるならば,法律及び規則の精神を遵守したことになる。取引は,特別な法律が存在しない限り,その経済的結果と一致しない税効果を持つ方法で構築されるべきでない。特別な法律が存在する場合,企業は,立法趣旨に反しない租税の結果を与える方法により取引は構築されていると合理的に信じるべきである。

2. 税コンプライアンスには,税務当局との協力,及び租税法の効果的で公平な適用を確保するために税務当局が必要とする情報の提供も含んでいる。そのような協力は,租税条約又は租税情報交換協定の条項に基づく,権限ある当局からなされた情報提供要請への,タイムリーかつ完全な方法での対応を含むべきである。しかし,情報提供のコミットメントに制限がない訳でない。特に,行動指針は,提供されるべき情報と,適用される租税法の執行への関連性との間に,関連があるとみている。すなわち,適用される租税法に従う企業の負担と,租税法の執行を確保するために完全でタイムリーかつ正確な情報を税務当局が持つ必要性の間の均衡の必要性を認識している。

3. 協力,透明性及び税コンプライアンスのための企業のコミットメントは,リスク管理体系,構造及び政策に反映されるべきである。企業が会社等の形態である場合は,取締役会が多くの点での税リスクを監督する立場にある。例えば,取締役会は,適切な税ポリシー原則を事前に設けるべきであるとともに,税リスクについてのマネジメントの行動が,取締役会の見解と一致するよう,内部の税コントロールシステムを確立すべきである。取締役会は,全ての潜在的かつ重要な税リスクについて了知すべきであり,マネジメントは,内部の税コントロール機能の実施と,取締役会への報告について責任を割り当てられるべきである。租税を含む包括的なリスクマネジメント戦略により,企業は社会的責任をまっとうできるばかりでなく,効果的に税リスクを管理することができ,企業の主要な財務リスク,規制リスク及びリピュテーションリスクの回避にも資する。

4. ある国の多国籍企業グループ構成員は,他の国の同一の多国籍企業グループ構成員と広範な経済関係を持ち得る。そのような関係は,それぞれの構成員の納税義務に影響を及ぼし得る。したがって,税務当局が,それらの関係を評価し,その国内の多国籍企業グループの構成員の納税義務を決定するには,国外からの情報が必要となるかもしれない。提供されるべき情報は,あくまでも多国籍企業グループ構成員の正確な納税義務を決定する目的で,グループの経済関係の評価に関連し,又は法令により要求されるものに限定される。多国籍企業は,かかる情報提供には協力しなければならない。

5. 移転価格は,企業の社会的貢献(コーポレート・シチズンシップ)及び企業への課税において特に重要な問題である。国際貿易及びクロスボーダーの直接投資(及び,多国籍企業がそのような貿易と投資において果たす重要な役割)の劇的増加は,移転価格が多国籍企業グループ構成員の納税義務の重要な決定要因であることを意味している。と言うのも,移転価格は,多国籍企業が事業活動を行う国々の間での課税ベースの配分に重大な影響を及ぼすからである。OECDモデル租税条約と,先進国と途上国間の国連モデル条約の両方に含まれている独立企業原則は,関連者間の利益の調整のために国際的に受け入れられた基準である。独立企業原則の適用は,利益又は損失の不適切な移転を防ぎ,二重課税のリスクを最小化する。その適切な適用にあたっては,多国籍企業が税務当局と協力し,企業とその関連者間で行われた国際取引のために採用された移転価格算定方法の選定に関する法令で求められた,及びこれに関連する全ての情報の提供が求められる。移転価格が適切に移転価格の独立企業間基準(又は原則)を反映しているかどうかの決定は,多国籍企業及び税務当局の双方にとってしばしば困難であり,その適用は厳密な科学ではないと認識されている。

6. OECD租税委員会は,移転価格が独立企業原則を反映することを確保するための勧告の作成作業を継続的に行っている。その作業により,特殊関連企業間の移転価格の算定に関するOECD理事会勧告(多国籍企業グループ構成員は通常,特殊関連企業の定義内に入る)に従って,多国籍企業と税務当局のためのOECD移転価格算定に関する指針(OECD移転価格ガイドライン)が1995年に公表された。OECD移転価格ガイドライン及びその理事会勧告は,移転価格に対処する税務当局及び納税者の経験や国際経済の変化を反映するために,継続的に改定されている。租税条約に基づき,恒久的施設の所在地国の課税権の決定の目的で当該恒久的施設へ帰属する利得の算定に独立企業原則を適用することは,2008年に採択されたOECD理事会勧告の主題だった。

7. OECD移転価格ガイドラインは,特殊関連企業間の移転価格を算定するための独立企業原則の適用に焦点を当てている。OECD移転価格ガイドラインは,移転価格事例の相互に満足できる解決を示し,それにより,税務当局間及び税務当局と多国籍企業間の紛争を最小化し,コストのかかる訴訟を避けることにより,税務当局(OECD加盟国及び非加盟国の両方)及び多国籍企業を支援することを目的とする。多国籍企業は,移転価格の算定に独立企業原則を反映させることを確実なものとするため,OECD移転価格ガイドラインにおける指針(その改定及び補足も含む)に従うことが奨励される*7*。



第2部

OECD多国籍企業行動指針のための実施手続【仮訳】


OECD多国籍企業行動指針に関する理事会決定【仮訳】

 理事会は,1960年12月14日の経済協力開発機構条約を考慮し,

 多国籍企業行動指針(以下「行動指針」)の参加国政府(以下「参加国」)が,参加国領域内外で事業活動を行う多国籍企業に対して行動指針の遵守を共同して勧奨する「OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言」(以下「宣言」)を考慮し,

 多国籍企業の活動は全世界に及び,それ故に宣言に関連する諸問題についての国際協力は全ての国に及ぶべきことを認め,

 投資委員会の付託事項[C(84)171(final),C/M(95)21により更新],特に宣言に関する同委員会の任務に関する付託事項を考慮し,

 1976年宣言の第一次再検討に関する報告[C(79)102(final)],同宣言の第二次再検討に関する報告[C/MIN(84)5(final)],同宣言の1991年における再検討に関する報告[DAFFE/IME(91)23],及び行動指針の2000年における行動指針の再検討に関する報告を考慮し,

 1984年6月の第二次改訂理事会決定[C(84)90]及び1991年6月の同決定改訂[C/MIN(91)7/ANN1],及び2000年6月27日の再度の改訂[C(2000)96/final]を考慮し,

 この行動指針が対象とする事項に関する協議の手続を強化すること,及び行動指針の実効性を促進することが望ましいことを考慮し,

 投資委員会の提案に基づき,次のとおり決定する。

I. 各国連絡窓口

1. 参加国は,この決定に附属する手続手引を考慮しつつ,普及活動を行い,照会を処理し,行動指針の実施に関連して生じた問題である個別事項の解決に寄与することにより,行動指針を更に効果的にするため,各国連絡窓口を設立する。産業界,労働者団体,他の非政府組織及びその他の利害関係者はこのような手段が利用可能であることを知らされる。

2. 必要が生じた場合には,異なる国の各国連絡窓口は,行動指針に関連する事項であって,自らの活動に関連する事項につき協力する。一般的手続として,他国の各国連絡窓口と連絡を行う前に自国内での討議が開始されるべきである。

3. 各国連絡窓口は,経験を共有し,投資委員会に報告を行うために,定期的に会合する。4. 参加国は,内部の予算の優先順位及び慣行を考慮に入れつつ,各国連絡窓口が自らの責任を効果的に果たせるようにするため,人的及び財政的資源を各国連絡窓口が利用できるようにする。

II. 投資委員会

1. 投資委員会(以下「委員会」)は,定期的に又は参加国の要請により,行動指針が規定する事項及び行動指針の適用を通じて得られた経験について意見交換を行う。

2. 委員会は,定期的に,OECDの経済産業諮問委員会(BIAC)及び労働組合諮問委員会(TUAC)(これらを「諮問団体」という),OECDウォッチ,並びに他の国際的パートナーに対し,行動指針が規定する事項についての意見を表明するよう要請する。更にそれらの団体の要請により,これらの事項について意見交換を行うことができる。

3. 委員会は,行動指針に沿った責任ある企業行動を世界的に促進し,公平な競争の場を創設するため,行動指針が規定する事項に関し,非参加国と関与する。委員会はまた,行動指針及びその原則及び基準の促進に特別の利益を持つ非参加国と協力するよう努力する。

4. 委員会は,行動指針の解釈を明確化する任務を負う。明確化の要請を行った個別事例にかかわる当事者は,口頭又は書面で意見を表明する機会を与えられる。委員会は個々の企業の行動に関しては結論を下さない。

5. 委員会は,行動指針の実効性の強化及び各国連絡窓口の機能的同等性の促進を目的として,各国連絡窓口の活動に関する意見交換を行う。

6. 行動指針を効果的に機能させることを目的とした任務を遂行するにあたり,委員会は,この決定に附属する手続手引を然るべく考慮する。

7. 委員会は,行動指針が規定する事項について,理事会に定期的に報告を行う。この報告において,委員会は,各国連絡窓口からの報告,また,適当な場合には,諮問団体,OECDウォッチ,他の国際的パートナー及び非参加国から表明された意見を考慮に入れる。

8. 委員会は,各国連絡窓口と協力し,行動指針に含まれる原則及び基準の企業による効果的な遵守を促進するプロアクティブ・アジェンダを追求する。特に,持続可能な開発の達成を視野に入れた経済面,環境面及び社会面の発展に対し,行動指針の文脈で多国籍企業が行い得る積極的な貢献を奨励し,企業が特定の製品,地域,分野又は産業に関連する悪影響のリスクについて特定及び対応することを支援するため,諮問団体,OECDウォッチ,他の国際的パートナー及びその他の利害関係者と協調する機会を求める。

III. 決定の見直し

 この決定は,定期的に再検討される。委員会は,かかる目的のために提案を行う。


手続手引【仮訳】

I. 各国連絡窓口

 各国連絡窓口(NCP)の役割は,行動指針の実効性を促進することにある。各国連絡窓口は,存在の明確性,利用の容易性,透明性,説明責任性といった、各国連絡窓口の機能的同等性という目的を促進するための中核的基準に従って活動を行う。

A. 制度的取決め

 機能的同等性及び行動指針の実効性強化という目的に従い,参加国は,自国の各国連絡窓口を組織し,産業界,労働者団体,他の非政府団体,及びその他関心を有する者を含む社会的パートナーの積極的支援を求めるにあたっての柔軟性を有している。

 したがって,

1. 各国連絡窓口は,参加政府に対する説明責任性を適切なレベルで維持しつつ,各国連絡窓口が公平に運営されることを可能にし,かつ,行動指針で規定される幅広い分野の事項に対処するための効果的な基礎を提供するよう,構成及び組織される。

2. 各国連絡窓口は,この目的に見合う様々な組織形態を取ることができる。各国連絡窓口は,一又はそれ以上の省庁の上級代表で構成できる他,政府上級職員又は政府上級職員が長たる政府機関,省庁間グループ,又は独立専門家を含むグループとして構成できる。産業界,労働者団体及びその他の非政府団体の代表もまたそれらに含まれ得る。

3. 各国連絡窓口は,行動指針が効果的に機能することに貢献し得る,産業界,労働者団体及びその他の利害関係者の代表との関係を発展させ,維持する。

B. 情報及び普及

1. 各国連絡窓口は,オンライン情報によるものを含む適切な方法により,かつ母国語で,行動指針を公表し,入手可能とする。適当な場合には,将来の(対内及び対外)投資家に対し,行動指針を周知すべきである。

2. 各国連絡窓口は,適当な場合には,産業界,労働者団体その他の非政府団体及び利害関係を有する一般人の協力も得つつ,行動指針及びその実施手続についての認識を高める。

3. 各国連絡窓口は,次の者からの行動指針に関する照会に回答する。

a)他国の連絡窓口。

b)産業界,労働者団体,その他の非政府団体及び一般人。

c)非参加国政府。

C. 個別事例における実施

 各国連絡窓口は,公平で,予見可能で,衡平でかつ行動指針の原則と基準に適合する方法で,個別の事例における行動指針の実施に関連して生ずる問題の解決に貢献する。各国連絡窓口は,討議する場を提供し,産業界,労働者団体,他の非政府団体及びその他の利害関係当事者がその問題を効率的にかつ時宜を得た方法により,適用可能な法律に従って処理することを支援する。かかる支援を提供するにあたり,各国連絡窓口は次の行動をとる。

1. 提起された問題が更なる検討に値するか否かについての初期評価を行い,当事者に回答する。

2. 提起された問題が更なる検討に値する場合には,当事者による問題解決を支援するためにあっせんを提供する。この目的のため,各国連絡窓口はこれらの関係者と協議し,妥当な場合には,次の行動をとる。

a)関係当局及び/又は産業界,労働者団体,その他の非政府団体の代表及び関係専門家に助言を求める。

b)他の関係国の各国連絡窓口と協議する。

c)個別の状況における行動指針の解釈に疑いを有する場合には,投資委員会の意見を求め

る。

d)仲介又は調停等,当事者による問題の処理を支援するための合意に基づく非敵対的手段の利用を提案し,又,関係当事者間の合意がある場合にはそれを援助する。

3. 手続の終了の際には,関係当事者との協議の後,慎重な取扱いを要する企業及び他の利害関係者の情報の保護の必要を考慮しつつ,以下を発出することにより,公的に入手可能な手続結果を作成する。

a)各国連絡窓口が,当該問題は更なる検討に値しないと決定する場合は,声明。その声明は,最低限,提起された問題及び各国連絡窓口の決定に至った理由を記述すべきである。

b)提起された問題について当事者間で合意に至った場合は,報告。その報告は,最低限,提起された問題,各国連絡窓口が当事者支援のためにとった手続,いつ合意に至ったかを記述すべきである。合意内容に関する情報は,当事者が合意した場合に限り合意した範囲内で含まれる。

c)合意に至らなかった場合又は当事者の一方が手続に参加しようとしない場合は,声明。58

この声明は,最低限,提起された問題,当該問題が更なる検討に値すると各国連絡窓口が決定した理由,各国連絡窓口が当事者支援のためにとった手続を記述すべきである。各国連絡窓口は,適当な場合には,声明中において行動指針の実施に関する勧告を発出する。適当な場合には,合意に達することができなかった理由も声明に含め得る。

 各国連絡窓口は,時宜を得た方法で,委員会に対し個別事例の手続の結果を通知する。

4. 提起された問題の解決を容易にするために,慎重な取扱いを要する企業及びその他の情報,並びに個別事例に関与する他の利害関係者の利益を保護するための適切な措置をとる。2. に規定する手続の進行中は,手続の秘密性は維持される。手続の終了時点で,提起された問題の解決について関係当事者が合意に至っていない場合,これらの問題について関係当事者は自由に意見交換し,議論できる。ただし,手続の過程において他の関係当事者から提供された情報及び見解は,その開示について他の関係当事者が合意した場合又は秘密性の維持が国内法の規定に相反する場合を除き,その秘密性を維持される。

5. 問題が非参加国において発生する場合には,当該問題の理解を進めるための措置を講じるとともに,上記のうち関連性がありかつ実行可能な手続に従う。

D. 報告

1. 各国連絡窓口は,委員会に毎年報告を行う。

2. 報告には,個別事例における実施についての活動を含む,各国連絡窓口の活動の特徴と結果についての情報を含めるべきである。


II. 投資委員会

1. 委員会は,個別の状況における行動指針の解釈に疑義が生じた場合を含む,各国連絡窓口の活動実施についての支援要請を検討する。

2. 委員会は,行動指針の実効性を高め,各国連絡窓口の機能的同等性を促進するため,次のことを行う。

a)各国連絡窓口からの報告を検討する。b)ある国の各国連絡窓口が個別事例の取扱いについて責任を果たしているかどうかに関す

る参加国,諮問団体又はOECDウォッチからの実証的な付託を検討する。

c)ある国の各国連絡窓口が個別の事例において行動指針を正しく解釈したかどうかに関する参加国,諮問団体又はOECDウォッチからの実証的な付託が行われた場合に,明確化された解釈の発出を検討する。

d)各国連絡窓口の機能及び行動指針の効果的な実施の改善のため,必要に応じ勧告を行う。

e)国際的パートナーと協力する。

f)行動指針に規定されている事項及びその実施に関心を持つ非参加国に関与する。

3. 委員会は,行動指針に規定されているあらゆる事項について専門家からの助言を求め,それを検討し得る。委員会は,この目的のための適切な手続について決定を行う。

4. 委員会は,効率的にかつ時宜を得た方法でその任務を遂行する。

5. その任務を遂行するため,委員会はOECD事務局の支援を受け,事務局は投資委員会の全般的な指導の下,OECDの作業計画と予算の範囲内において,次のことを行う。

a)行動指針の普及及び実施に関して照会を行う各国連絡窓口のための情報中枢となる。

b)各国連絡窓口の普及活動及び個別事例における行動指針の実施に関する最近の傾向及び新たな実践に関し,関連情報を収集及び公表する。事務局は,個別事例及びそれらの個別事例に関する定期的分析の実施に関する最新のデータベースの設立及び維持を支援するための統一された報告様式を開発する。

c)自発的な相互評価を含むピア・ラーニング活動を,特に新規参加国の各国連絡窓口のための行動指針の普及,仲介及び調停の促進等の行動指針の実施手続における能力構築及び訓練とともに促進する。

d)適当な場合には,各国連絡窓口間の協力を促進する。

e)関連する国際的なフォーラム及び会合の場で行動指針を促進し,非参加国における行動指針の啓発に関する各国連絡窓口及び委員会の努力を支援する。


OECD多国籍企業行動指針の実施手続に関する注釈

1. 理事会決定は,行動指針本文に含まれている勧告の更なる実施のための参加国のコミットメントを表す。各国連絡窓口及び投資委員会の両方の手続手引は,理事会決定に附属している。

2. 理事会決定は,下記に要約されたとおり,各国連絡窓口に関する行動指針の参加国の主要責任を規定する。

・ (決定に附属する手続手引を考慮しつつ)各国連絡窓口を設立するとともに,行動指針に関連する便宜が利用可能であることを利害関係者へ周知する。

・ 必要な人的及び財政的資源を利用可能にする。

・ 必要に応じ,他国の各国連絡窓口との相互協力を可能にする。

・ 各国連絡窓口が,定期的に会合するとともに,投資委員会へ報告することを可能にする。

3. 理事会決定は,以下を含む行動指針に関する投資委員会の責任も規定する。

・ 行動指針に関連する事項に関する意見交換の準備。

・ 必要に応じ,解釈の発出。

・ 各国連絡窓口の活動に関する意見交換の開催。

・ 行動指針に関するOECD理事会への報告。

4. 投資委員会は,行動指針の機能を監督する責任を持つOECDの機関である。この責任は,行動指針のみならず,OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言の全ての要素(内国民待遇文書,国際投資促進要因及び抑制要因文書,相反する要求)にも適用される。委員会は,宣言に含まれる各要素が尊重され理解されるとともに,全てが互いに補完し合い,調和した形で実施されることを確保するよう求める。

5. OECD未加盟諸国に対する,責任ある企業行動の関連性の増大を反映し,理事会決定は,行動指針で規定される事項に関する非参加国との関与と協力について規定する。この規定は,行動指針に含まれている基準及び原則,並びにその実施手続の理解の促進のため,委員会が行動指針に関心を持つ非参加諸国との特別会合の開催を可能にする。委員会はまた,関連するOECD手続に従い,会合及び企業責任に関するラウンドテーブルに招くことを含め,責任ある企業行動に関する特別の活動又はプロジェクトにおいて非参加諸国と提携し得る。

6. プロアクティブ・アジェンダの追求の際は,委員会は各国連絡窓口と協力し,諮問団体,OECDウォッチ及び他の国際的パートナーと協力するための機会を求める。この点に関する各国連絡窓口のための更なる手引は,第18段落で提供される。


I. 各国連絡窓口手続手引注釈

7. 各国連絡窓口は,行動指針の注目度及び実効性を高める重要な役割を持つ。日々の活動で行動指針を遵守する責任があるのは企業だが,政府は実施手続の実効性の向上に貢献できる。このため,政府は,各国連絡窓口の行動及び活動のためのより良い指針を,定期的会合及び委員会の監督等を通じて保証することについて合意している。

8. 理事会決定の手続手引の機能の大部分は新しいものではないが,これまでの長年にわたる経験及び勧告を反映する。行動指針の実施制度に期待される機能を明らかにすることで,透明性が更に高まる。全ての機能は各国連絡窓口に関連する手続手引の4部分,つまり,制度的取決め,情報及び普及,個別事例における実施及び報告に概説されている。

9. 「機能的同等性」の概念促進のための中核基準とともに,各国連絡窓口の基礎目的を規定する導入段落が,これらの4部分に先行する。政府は各国連絡窓口の組織方法に柔軟性を与えられているので,各国連絡窓口は,存在の明確性,利用の容易性,透明性及び説明責任性を有する方法で機能すべきである。これらの基準は各国連絡窓口を活動の遂行に導くとともに,各国連絡窓口の行動に関する議論を行う委員会も支援する。

各国連絡窓口の活動の機能的同等性のための中核基準

 存在の明確性。理事会決定に従い,参加国政府は各国連絡窓口の指定に合意するとともに,産業界,労働者団体及び非政府団体を含むその他の利害関係者に,行動指針実施に関する各国連絡窓口に関連する便宜が利用可能であることを通知する。政府は,各国連絡窓口に関する情報を公表するとともに,行動指針に関するセミナー及び会合の主催を含み得る,行動指針の促進における積極的役割を担うよう期待される。これらの行事は,毎回全ての団体とともに行うことは必ずしも必要でないが,産業,労働,非政府団体及び他の関心を持つ団体との協力により手配され得る。

 利用の容易性。各国連絡窓口が容易に利用できることは,実効的に機能するために重要である。これには,産業,労働,非政府団体,その他公衆の構成員による利用容易性の促進を含む。電子通信もこの点を支援できる。各国連絡窓口は,全ての正当な情報提供の要請にこたえ,効率的で時宜を得た方法で,関係者から提起された個別事項への対処も引き受ける。

 透明性。透明性は,各国連絡窓口の説明責任及び一般公衆の信頼獲得への貢献の観点から重要な基準である。したがって,一般原則として,各国連絡窓口の活動は透明性を持つ。しかし,各国連絡窓口が行動指針の個別事例の実施においてあっせんを提供する際は,手続の秘密性を確立するため適当な措置をとることは実効性の利益にかなう。活動結果は,秘密性の保持が行動指針の効果的な実施の最善の利益になる場合を除き,透明性が保たれる。

 説明責任。行動指針の注目度を高める観点からの更なる積極的な役割-及び企業と企業が活動する社会の間の困難な問題を取扱う助けとなる潜在力-は,同時に,各国連絡窓口の活動を公衆の眼前にさらすことになる。国内的には,議会がその役割を果たし得る。年次報告及び各国連絡窓口の定期会合は,経験を共有する機会を提供するとともに,各国連絡窓口に関する「グッド・プラクティス(優れた例)」を奨励する。委員会では,経験を交換し,各国連絡窓口の活動の実効性を評価するための意見交換も行う。

制度的取決め

10. 各国連絡窓口による主導的取組は,社会のパートナー及び他の利害関係者からの信頼を維持するとともに,行動指針への公衆の注目度を促進するものであるべきである。

11. 政府が自らの各国連絡窓口のために選んだ構成の如何に関わらず,政府は,各国連絡窓口の任務を支援するための様々な利害関係者からなる諮問又は監督組織も設立できる。

12. 各国連絡窓口は,その構成に関わらず,産業界,労働者団体,他の非政府組織及びその他の利害関係者の代表との関係を発展維持させることを期待される。

情報及び普及

13. 情報及び普及に関する各国連絡窓口の機能は,行動指針の注目度を高めるために根本的に重要である。

14. 各国連絡窓口は,行動指針を十分に周知するとともに,オンライン及び他の適当な手段で入手可能にすることを要請され,これには自国語への翻訳が含まれる。英語及びフランス語版はOECDから入手可能となる予定であり,行動指針ウェブサイトへのウェブサイトのリンクが奨励される。適当な場合には,各国連絡窓口は,将来の対内・対外投資家に対しても,行動指針についての情報を提供する。

15. 各国連絡窓口は,個別事例を提起し又はそれに対応する場合に当事者が従うべき手続に関する情報を提供すべきである。それには,個別事例を提起するのに必要な情報,守秘義務を含む個別事例に参加するための当事者の必要要件,及び,各国連絡窓口が準拠する処理工程及び目安となる処理期間等についての助言を含むべきである。

16. 行動指針に関する啓発努力として,適当な場合には,各国連絡窓口は産業界,労働者団体,他の非政府機関及びその他の利害関係者を含む様々な団体及び個人と協力する。そのような団体は,行動指針の促進に強い利害関係を有しており,その組織的ネットワークは,その目的に使われれば行動指針の促進の機会を提供することになるので,この点において各国連絡窓口の啓発努力を大いに強化する。

17. 各国連絡窓口に期待される他の基本的活動として,合理的な照会への対応がある。この点においては,i)(理事会決定の条項を反映し)他の各国連絡窓口,ii)産業界,労働者団体,その他の非政府団体及び一般人,iii)非参加国政府の3つのグループに留意することが指摘されている。

プロアクティブ・アジェンダ

18. 投資委員会のプロアクティブ・アジェンダに沿って,各国連絡窓口は,次の事項のために社会的パートナー及び他の利害関係者との間に,会合を含む定期的な接触を保つべきである。

a)責任ある企業行動についての新たな進展及び新興の慣行を考慮する。b)経済面,社会面及び環境面での進展に企業が果たせる積極的な貢献を支援する。

c)適当な場合には,特定の製品,地域,分野又は産業に関連する悪影響のリスクを特定及び対応するための共同のイニシアティブに参加する。

ピア・ラーニング

19. 行動指針の実効性を高めるための委員会の作業への貢献に加え,各国連絡窓口は,共同のピア・ラーニング活動に関与する。特に,各国連絡窓口は,水平的でテーマ的なピア・レビュー及び自発的なピア評価に関与するよう奨励される。そのようなピア・ラーニングは,OECDでの会合又は各国連絡窓口間の直接の協力を通じて実行される。

個別事例における実施

20. 個別事例で行動指針の実施に関連する問題が生じた場合,各国連絡窓口はそれらの解決の支援を期待される。手続手引のこの節は,各国連絡窓口に個別事例をどのように扱うかに関する手引を提供する。

21. 個別事例手続の実効性は,手続に関わる全ての当事者の誠実な行動に依拠する。この文脈での誠実な行動とは,時宜を得た方法で対応し,適当な場合には秘密性を維持し,処理工程を不正確に伝えることや,手続に関わる当事者への脅迫又は報復を慎み,行動指針に従い,提起された問題の解決を見つける観点から,処理工程に誠実に関与することを意味する。

個別事例のための手引原則

22. 各国連絡窓口の活動の機能的同等性のための中核基準に従い,各国連絡窓口は個別事例に次の方法で対処すべきである。

 公平。各国連絡窓口は,個別事例の解決において公平性を確保すべきである。

 予見可能。各国連絡窓口は,あっせんの提供,目安となる処理期間を含む個別事例処理工程の段階,並びに当事者間で達した合意の実施の監視によって果たし得る潜在的役割を含む,個別事例の解決における自らの役割に関する明解で公表された情報の提供により,予見可能性を確保すべきである。

 衡平。各国連絡窓口は,例えば処理工程に関連する情報源への合理的なアクセス等,当事者が適正で衡平な条件で処理工程に関与できることを確保すべきである。

 行動指針との適合性。各国連絡窓口は,行動指針に含まれている原則及び基準に従って機能すべきである。

個別事例における各国連絡窓口間の協調

23. 一般的に,問題は,問題が生じた国の各国連絡窓口で処理される。参加国間において,問題は最初に国内レベルで議論され,適当な場合には二国間レベルで継続される。受入国の各国連絡窓口は,当事者による問題解決の努力を支援するための取組において,本国の各国連絡窓口と協議すべきである。本国の各国連絡窓口は,受入国の各国連絡窓口からの要請を受けた際は,適切な支援を,時宜を得た方法で提供する努力を行うべきである。

24. 複数の参加国で起こる企業の行動,又は異なる参加国を基盤とする協同事業体,合弁企業又は他の類似の形態等で組織される企業グループの活動に関する問題提起の場合は,関係する各国連絡窓口は,どの各国連絡窓口が当事者を支援する主導権を取るか合意するための観点から協議すべきである。各国連絡窓口は,そのような合意に至るために投資委員会議長からの助言を求めることができる。主導権を取る各国連絡窓口は,他の各国連絡窓口と協議しなければならず,他の各国連絡窓口は,主導権を取る各国連絡窓口から要請された場合には適切な支援を提供すべきである。当事者が合意に至ることに失敗した場合には,主導権を取る各国連絡窓口は,他の各国連絡窓口と協議し,最終決定を行うべきである。

初期評価

25. 提起された問題が更なる検討に値するかの初期評価を行う際は,各国連絡窓口は,問題が真正で行動指針の実施に関連しているか決定する必要がある。この文脈で,各国連絡窓口は,次のことを考慮に入れる。

・ 問題に関する当事者及びその利益。

・ 問題が実体的で実証的か。

・ 企業の活動と提起された個別事例との間に結び付きがあると思われるか。

・ 裁判所の判決を含む,適用可能な法律及び手続との関連性。

・ 他の国内的又は国際的手続で同様の問題がどのように過去及び現在取り扱われているか。

・ 個別問題の検討が行動指針の目的及び実効性に貢献し得るか。

26. 並行して行われている同様の問題に対処する他の国内的又は国際的手続が,個別事例手続に及ぼす影響を評価する際,並行手続が実施された,進行中又は当事者に手段として与えられているという理由のみにより,各国連絡窓口はその問題が更なる検討に値しないと決定すべきでない。各国連絡窓口は,あっせんの提供が提起された問題の解決に積極的に貢献し得るか,それらの他の手続において当事者の一方に深刻な不利益を生じさせないか,法廷の立場の軽視を引き起こさないかを評価すべきである。そのような評価を行う際は,各国連絡窓口は,他の各国連絡窓口の慣行を考慮し得,適切な場合には,並行手続が行われている又は行われ得る機関と協議し得る。これらの事項の考慮にあたり,当事者もまた,並行手続の関連情報の提供により,各国連絡窓口を支援すべきである。

27. 初期評価後,各国連絡窓口は当事者に回答する。問題が更なる検討に値しないと各国連絡窓口が決定する場合には,その理由を当事者に連絡する。

当事者への支援の提供

28. 提起された問題が更なる検討に値する場合には,各国連絡窓口は関係当事者と更に問題について議論し,問題の解決に非公式に貢献するための努力としてあっせんを提供する。適当な場合には,各国連絡窓口は,第C-2a)段落から第C-2d)段落で規定された手続に従う。これには,関係当局の他,産業界,労働団体,その他の非政府団体,並びに専門家の代表からの助言を求めることを含み得る。他国の連絡窓口との協議,又は行動指針の解釈に関連する問題についての手引を求めることも,問題解決を助け得る。

29. あっせんを可能にするための取組の一環として,問題となっている事項に関連がある場合には,各国連絡窓口は,仲介又は調停等,合意に基づき敵対的でない手続を提供,又は利用を促進することにより,問題となっている事項への対処を支援する。仲介又は調停の手続に関する一般的に受け入れられた慣例と同様に,これらの手続は当事者の合意と,手続に誠実に参加するとの当事者のコミットメントにのみ基づいて利用される。

30. あっせんを提供する際は,各国連絡窓口は,関係当事者の身元の情報の開示が一又はそれ以上の当事者に不利益を与え得ると信じる強い理由がある場合,それを保護するための措置を講じ得る。これは,提起された問題に関係する企業によって一又はそれ以上の当事者が特定されることを避ける必要があり得る状況を含み得る。

手続の終了

31. 各国連絡窓口は,手続手引の第C-3段落及び第C-4段落に従い,常に個別事例の結果を公的に入手可能にするよう期待される。

32. 各国連絡窓口が,その初期評価の実施後,その提起された個別事例は更なる検討に値しないと決定する場合には,各国連絡窓口は,関係当事者と協議した後,慎重な取扱いを要する企業及び他の情報の秘密性の維持の必要を考慮しつつ,声明を公的に入手可能にする。各国連絡窓口が,初期評価の結果に基づき,その決定の声明で当事者を公表することが不公平になり得ると信じる場合には,当事者の身元を隠した声明を作成し得る。

33. 各国連絡窓口による,提起された問題が更なる検討に値し,当事者へあっせんを提供するとの決定も,公的に入手可能にし得る。

34. 提起された問題についての合意に関係当事者が至った場合には,当事者は,どのように及びどの程度まで合意の内容を公的に入手可能にするか合意の中で言及すべきである。各国連絡窓口は,当事者と協議し,手続の結果についての報告を公的に入手可能にする。当事者は,各国連絡窓口に合意実施の経過観察に関する支援を求めることにも合意し得,各国連絡窓口は当事者及び各国連絡窓口の間で合意された条件によりそれを行い得る。

35. 提起された問題についての合意に関係当事者が失敗した場合,又は各国連絡窓口が個別事例に関する一又はそれ以上の当事者が誠実に関与又は参加しようとしないとの判断を下した場合には,各国連絡窓口は声明を発出し,行動指針の実施に関し,適当な場合には勧告する。この手続により,各国連絡窓口は,具体的な勧告が必要ないと認められる場合でも,声明を発出することが明確にされる。その声明では,関係当事者,含まれる問題,問題が各国連絡窓口に提起された日付,各国連絡窓口による勧告がある場合にはその勧告,及びそれを含めることが適当と各国連絡窓口が考える,手続が合意に至らなかった理由についての見解を特定すべきである。

36. 各国連絡窓口は,声明案に対し意見を述べる機会を当事者に提供すべきである。しかし,声明はあくまで各国連絡窓口の声明であり,当事者からの意見に対応して声明案を変更するかの決定は各国連絡窓口の裁量内にある。各国連絡窓口が当事者に勧告を行う場合には,それらの勧告への当事者の対処についての経過観察を各国連絡窓口が行うことは,個別の状況下で適切であり得る。その勧告の経過を観察することが適当と各国連絡窓口が考える場合には,各国連絡窓口の声明でそれを実施する期間に言及すべきである。

37. 各国連絡窓口により公的に入手可能とされた手続結果の声明及び報告は,政府のプログラム及び政策の管理に関連し得る。政策の一貫性を促進するため,各国連絡窓口は,特定の政府機関の政策及びプログラムに声明及び報告が関連すると承知した場合には,それらの政府機関に当該声明及び報告を通知するよう奨励される。この規定は,行動指針の自発的性質を変更しない。

透明性と秘密性

38. 透明性は,一般人に対処する各国連絡窓口の行動のための一般原則と認識される(上記の「中核基準」の第9段落参照)。しかし,手続手引の第C-4段落は,秘密性が重要な特定の状況はあると認識する。各国連絡窓口は,慎重な取扱いを要する企業情報の保護のため適切な措置をとる。同様に,手続に関与する個人の身元といったその他の情報は,行動指針の効果的な実施のため,秘密性を保持すべきである。この手続には,当事者から提出された事実及び議論を含むと理解される。しかし,行動指針の手続の信頼構築と効果的実施の促進のため,透明性と秘密性の間の均衡は重要である。したがって,第C-4段落において,実施に伴う手続は通常秘密性を維持されると大枠では定義付けされているが,結果については通常透明性が維持される。

非参加国で提起される問題

39. 「定義と原則」の章の第2段落で言及されたとおり,企業はどこで活動していても,受入国特有の状況を考慮に入れ,行動指針を遵守するよう奨励される。

・ 非参加国で行動指針関連の問題が提起された場合,本国の各国連絡窓口は関係する問題の理解の進展のための措置を講じる。全ての関連情報の入手手段を確保することや全ての当事者の招集は常に実際的であるというわけではないかもしれないが,各国連絡窓口は,調査を続け,その他の実情調査活動に関与する立場にあり続け得る。そのような措置の例には,本国の経営陣,適当な場合には,非参加国にある大使館及び政府職員との接触を含み得る。

・ 受入国政府の法律,規則,規定及び政策との抵触は,参加国における場合に比べ,個別事例における行動指針の効果的な実施をより困難にし得る。一般方針の章の注釈において言及されたとおり,行動指針は多くの場合法律を上回っているが,それによって企業は相反する要求に直面する状況に置かれるべきではなく,それを意図してもいない。

・ 関係当事者は,非参加国での行動指針の実施における内在的な限界につき助言を受けなければならない。

・ 非参加国における行動指針に関連する問題は,非参加国で提起される問題に対処するための専門的知識構築の観点から,各国連絡窓口会合でも議論され得る。

目安となる処理期間

40. 個別事例手続は,次の三つの異なる段階で構成される。

1. 初期評価及び当事者を支援するためのあっせんの提供に関する決定:各国連絡窓口は,十分な知識を得ての決定に必要な情報収集のため追加的な時間が必要になるかもしれないが,3か月以内に初期評価を終了するよう努めなければならない。

2. 提起された問題解決のための当事者の努力の支援:各国連絡窓口があっせんの提供を決定した場合には,時宜を得た方法での問題解決促進のために努力すべきである。仲介及び調停を含むあっせんを通じた進展は,究極的には当事者次第であると認識し,各国連絡窓口は,当事者との協議の後,提起された問題を解決するために,当事者間で行う議論のための合理的な期間を設定すべきである。当事者がこの期間内での合意に失敗した場合には,各国連絡窓口は,当事者への支援を継続する価値について当事者と協議すべきである。各国連絡窓口が手続の継続が生産的である可能性はありそうにないとの結論に達した場合には,各国連絡窓口は手続を終了し,声明の準備に進むべきである。

3. 手続の終了:各国連絡窓口は,手続の終了後3か月以内に,声明又は報告を発出すべきである。

41. 一般的原則として,各国連絡窓口は,個別事例の受領から12か月以内に手続を終了するよう努力すべきである。この期間は,例えば問題が非参加国で起きた場合等,状況からみて正当化されるならば,延長される必要があり得るものと認識されている。

投資委員会への報告

42. 報告は,行動指針の実効性を増進する知識基盤及び中核能力の構築も支援し得る各国連絡窓口の重要な責任である。この観点から,OECD行動指針の年次報告に含めるため,初期評価の処理過程にある事例,あっせんの提供を申し出た及び議論が継続中の事例,並びに初期評価の後,あっせんの提供の申し出を行わないと決定した事例を含む,当事者により開始された全ての個別事例に関する情報を,各国連絡窓口は投資委員会に報告する。個別事例に関する実施活動を報告する際は,各国連絡窓口は,第C-4段落で規定された透明性と秘密性に関する考慮に従う。

II. 投資委員会手続手引注釈

43. 理事会決定の手続手引は,委員会がその責任を遂行する際の,以下を含む追加的な指針を提供する。

・ 効率的で時宜を得た方法での責務の遂行。

・ 各国連絡窓口からの支援要請の考慮。

・ 各国連絡窓口の活動に関する意見交換の実施。

・ 国際的パートナー及び専門家からの助言を求める可能性の提供。

44. 行動指針の非拘束的な性質により,委員会が司法的又は準司法的機関として行動することは排除される。各国連絡窓口による結論又は声明は(行動指針の解釈を除き)委員会の付託により尋問されるべきでない。委員会は個々の企業の行為に関する結論に達してはならないとの条項は,理事会決定そのものにおいて維持されている。

45. 委員会は,特定の状況における行動指針の解釈に関して疑義がある場合を含む,各国連絡窓口からの支援要請を考慮する。この段落は,こうした状況で行動指針の解釈に関し疑義があり,委員会の手引を求めるよう各国連絡窓口が要請された場合の,各国連絡窓口に関連する理事会決定の手続手引の第C-2c)段落を反映している。

46. 各国連絡窓口の活動を議論する際,行動指針の効果的実施に関するものを含む各国連絡窓口の機能向上のため,必要に応じ,委員会は勧告を行い得る。

47. 各国連絡窓口は個別事例における行動指針の実施における手続上の責任を果たしていないとの参加国,諮問団体又はOECDウォッチによる実証的な付託も,委員会により考慮される。これは,自らの活動に関する各国連絡窓口の報告に関する手続手引部分の規定を補完する。

48. 多国間レベルでの行動指針の意味の明確化は,行動指針の意味が国により異ならないことを確保するため,引き続き委員会の主要な責務である。各国連絡窓口の行動指針の解釈が委員会の解釈に従っているか否かに関する,参加国,諮問団体又はOECDウォッチによる実証的な付託も考慮される。

49. 行動指針で規定されている事項に関する非参加国との関与のため,委員会は,その会合,企業責任に関する年次ラウンドテーブル,及び責任ある企業行動に関する特定のプロジェクトに関連する会合に,関心を持つ非参加国を招待し得る。

50. 最後に,委員会は,より広範な問題(児童労働,人権等)又は個別問題に関する対処と報告並びに手続の実効性の向上のため,専門家を要請し得る。この目的のため,委員会は,OECD内部からの助言,国際機関,諮問団体,非政府機関,学者及びその他を要請し得る。これは,個別問題解決のための小委員会とならないと理解される。





{*1* 2011年5月25日時点での「OECD国際投資及び多国籍企業に関する宣言」の参加政府は,全てのOECD加盟国に加え,アルゼンチン,ブラジル,エジプト,ラトビア,リトアニア,モロッコ,ペルー及びルーマニアである。欧州共同体は,その権限の範囲内の内国民待遇に関する部分について提携するよう招請されている。}

{*2* 多国籍企業行動指針の本文は,この出版物の第1部に掲載されている。}

{*3* 多国籍企業に課される,相反する要求に関する一般的考慮及び実際的方策の文章は,OECDウェブサイト www.oecd.org/daf/investment で入手可能。}

{*4* 持続可能な開発の定義として最も広範に受け入れられているものの一つは,1987年の環境と開発に関す る世界委員会(ブルントラント委員会)の「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発」である。}

{*5 この関連で幾つかの国は,2005年の情報社会のためのチュニス・アジェンダを参照した。}

{*6* 贈賄防止条約の適用上,「贈賄」は「・・・国際商取引において商取引又は不当な利益を取得し又は維持するために,外国公務員に対し,当該外国公務員が公務の遂行に関して行動し又は行動を差し控えることを目的として,当該外国公務員又は第三者のために金銭上又はその他の不当な利益を直接に又は仲介者を通じて申し出,約束し又は供与する(こと)」と定義される。同条約の注釈(第9段落)は,「少額の「円滑化のための」支払いは,第一段落の意味において,「商取引又はそのほかの不当な利益を得る又は維持するためになされた支払いを含まない」と明確化し,したがって,違反ともならない。そのような支払いは,幾つかの国々においては,許可又は認可等,公務員がその機能を果たすよう誘発するためになされ,それらは関係他国においては一般的に違法である。他の諸国は,良き統治の計画のための手段を支援することで,これらの腐食性の現象に対処できるし,すべきである。}

{*7* OECD非加盟国のブラジルは,OECD移転価格ガイドラインを国内で適用せず,したがって,当該ガイドラインにおける指針は,多国籍企業がブラジルでの事業活動に起因する課税所得を決定する目的,及びブラジルの法律で規定された租税債務には適用されない。もう一つのOECD非加盟国であるアルゼンチンは,OECD移転価格ガイドラインは,国内において強制的なものではないと指摘する。}