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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル報告書 『強靭な人々、強靭な地球:選択に値する未来』概観

[場所] 
[年月日] 2012年3月1日
[出典] 国際連合広報センター(URL:http://www.unic.or.jp/files/a_66_700.pdf)
[備考] 
[全文]

強靭な人々、強靭な地球

選択に値する未来

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル

概観


目次

パネルの構想・・・1

報告書の各部の要旨・・・9

パネルの勧告・・・12

行動への呼びかけ・・・25

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルの設立経緯とメンバー・・・26

パネルに関する更なる情報・・・28

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルの報告書『強靭な人々、強靭な地球:選択に値する未来』は、全部で以下の6つの部からなる。すなわち、第1部パネルの構想、第2部持続可能な開発に向けての進展、第3部持続可能な選択をする能力と地位を人々に与える、第4部持続可能な経済にむけて、第5部制度の強化、第6部結論:行動への呼びかけ、である。この概観は、パネルの報告書の第1部を収録したものである。各部の要旨および行動への呼びかけは、同報告書の要約から抜粋したものである。パネルの勧告については、報告書の付属文書1の全文が収録されている。

但書:パネルの委員は、この報告書を承認し、全体としてその知見に同意し、報告書のメッセージは非常に大事であると、考える。勧告および見解は、パネルの委員のコンセンサスを表しているものの、報告書のすべての見解が委員一人一人の見解を反映するものではない。パネルの委員は、いくつかの問題については、当然のことながら異なる考えを有する。もし各委員がこの報告書を個別に執筆したとすれば、同じ問題について異なる文言を用いたかもしれない。本報告書が、グローバルな持続可能な開発を促進するために、広範な一般的討議を活発化し、また共通の取組みを強化することを、パネルの委員は期待する。

出典明記の場合に限り、複製を許可します。


パネルの構想

1. 今日我々の住む地球そして我々の世界は、歴史的にみて最もよい時代と最悪の時代を経験しているところである。世界は、これまでにない繁栄を経験しているが、同時に、この地球はこれまでにないストレスに苦しんでいる。世界の富裕層と貧困層の格差は拡大しており、10億人以上が貧困状態に置かれている。多くの国では抗議の波が興っているが、これは、より豊かな、正義にかなった、そして持続可能な世界を求める普遍的願望を反映するものである。

2. 個人、企業そして諸政府は、毎日何百万もの選択をしている。我々の共有の未来は、これらすべての選択にかかっている。世界が様々な折り重なる課題に直面する今、持続可能な開発という企ての諸原則を積極的に取り込むための行動を取ることが、かつてないほどに緊急を要する。人々、市場および政府が持続可能性な選択をすることができるように、今まさに真のグローバルな行動を取る時機である。

3. 持続可能性を実現するために、開発の経済的、社会的および環境的側面を統合する必要性があることは、すでに25年前に明確にされていた。今、これを実現させなければならない。変化をもたらす機会は無数にある。我々は、歴史という非人間的な定めを受け入れるだけのが無力な犠牲者ではない。そして、嬉しいことに、我々は自らの将来を選択できるのである。

4. 我々が直面する課題はとてつもなく大きい。しかし、古い問題を新しい新鮮な目で見たときに現れる新しい可能性も大きい。これらの可能性の中には、地球を崖っぷちから引き戻すことのできる技術もあれば、画期的な製品やサービスが生み出す新しい市場、新しい成長そして新しい雇用もあり、さらには、貧困の罠から人々を現実に引き上げることを可能にする新しいタイプの公的および民間の融資が含まれる。

5. 持続可能な開発とは、基本的に、人々が自らの将来に影響を与え、自らの権利を請求し、そして自らの懸念を声に出す機会が、その人々に与えられるかいなかの問題である。民主的統治および人権の全面的な尊重が、持続可能な選択を行う能力と地位を人々に与えるための必要条件である。世界の人々は、心に深く抱かれる社会正義の普遍的原理に背くような、継続的な環境破壊や根強い不平等にただ耐え忍ぶことはしない。すべての者の持続可能な未来を擁護するとして人々の信任を得た政府や企業が、その信任に背くことを、人々はもはや認めない。より一般的にいえば、世界中の国際的統治、国や地域の統治は、市民社会および民間部門と同様に、持続可能な開発を中心に据えた未来を築くための必要条件を全面的に受け入れなければならないのである。同時に、持続可能な政策の概念化、策定および執行において、地域コミュニティが積極的かつ継続的に参加するよう、促されなければならない。このためには、社会、政治および経済に若者を参加させることが重要である。

6. よって、地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルの長期的構想は、気候変動と闘い、またその他数々の地球の限界(planetary boundaries)を尊重しつつ、貧困撲滅、格差是正、および包括的成長を実現し、生産、消費をより持続可能なものとすることである。これは、ブルントラント報告書として知られている、歴史的試金石である1987年の環境および開発の世界委員会の報告書「我ら共有の未来」(United Nations document A/42/427)を再確認するものである。

7. それでは、世界の人々とこの地球を変えるために我々が本当にできることは何だろうか。我々は、課題の様々な側面を把握しなければならない。我々は、その問題の根底に、持続不能なライフスタイル、生産、消費の様式、そして人口増加が含まれることを認識しなければならない。2040年までに、世界の人口は70億から約90億まで増加し、中流階級の消費者数が今後20年間で30億人増えることから、資源への需要が飛躍的に上昇する。2030年までに、世界は少なくとも現在より50%以上の食料、45%以上のエネルギー、そして30%以上の水が必要となる。これは、まさに環境的限界によって、供給に対する新しい制限が加えられる時期でもある。人間および地球の健康のすべての側面に影響を与える気候変動も少なからず供給の制限に寄与するだろう。

8. 今日のグローバルな開発モデルは、持続可能ではない。エコシステムと人間共同体の両方に不可逆的な損傷のリスクを伴うほどに環境の限界値が侵害されている今、我々はもはや、自分たちの集団的な行動が(後戻りが不可能になる)分岐点を超えることはない、と考えることはできない。同時に、このような限界値を理由に、自国の人々を貧困から救出することを試みる開発途上国に対して、恣意的な成長の制限を押し付けてはならない。確かに、持続可能な開発が抱えるジレンマの解決に我々が失敗すれば、人類という大家族のうちの30億人の人々を地域ぐるみの貧困に苦しむまま生涯を送らせるリスクを伴うことになる。この結果のいずれも我々は是認することはできず、新しく進む道を探さなければならないのである。

9. 25年前、ブルントラント報告書は、持続可能な開発という概念を国際社会に紹介した。それは、経済成長、社会的平等および環境の持続可能性を共存させる新しいパラダイムであった。同報告書は、この三本の柱を内包する統合的政策の枠組があれば、持続可能な開発は達成できると主張した。ブルントラント報告書は当時正しかった。そして、今でも正しくあり続ける。問題は、25年経った今でも、持続可能な開発という概念が、日常的な、地に足のついた、実践される現実ではなく、一般的に合意された概念にとどまっていることである。パネルは、何故そうなのか、そしてこれを変えるにはどうしたらよいのかについて、自問した。

10. パネルは二つの答えがありうると結論づけた。いずれも正しく、相互に関連したものである。持続可能な開発は、疑いなく政治的意思の欠落に悩まされてきた。持続可能な開発という原則に異議を唱えることは難しい。しかし、我々の政策、政治および制度が不相応に目先のことを優先する今、そのような開発を実施するインセンティブがほとんどない。つまり、持続可能な政策がもたらす利益は長期的であり、しばしば世代間的であるのに対して、政治的課題はしばしば即時の対応を要求する。

11. なぜ持続可能な開発が実施されないのか、という問いには、別の解答もある。その解答こそ、パネルが真に熱意をもって主張するものである。それは、持続可能な開発という概念が、国家的および国際的な経済政策の議論の主流にいまだ編入されていないというものである。ほとんどの経済的意思決定者は、マクロ経済の管理およびその他の経済政策に対する自己の中核的責務のなかで、持続可能な開発は無関係である、といまだに考えている。しかし、環境および社会の諸問題を経済的決定に統合することは、成功にとって必要不可欠である。

12. 経済学者、社会活動家および環境科学者は、これまであまりにも長い間、互いにすれ違いの議論をつづけてきた。それは、まるでまったく異なる言語、あるいは少なくとも異なる方言で話しているようであった。専門分野を統合し、対立する陣営を超越する持続可能な開発のための共通言語を開発する時期が来たのである。これはつまり、持続可能な開発というパラダイムを経済学の主流に取り込むということである。このことによって、政治家および政策決定者が持続可能な開発を無視することが困難になるだろう。

13. よって、国際社会は持続可能な開発を目指す「新政治経済学」を必要とする、とパネルは主張する。これは例えば次のことを意味する。すなわち、環境科学と政策のインターフェイスを根本的に改善すること;気候変動のような特定の環境分野においては「市場の失敗」が存在することを認め、行動を取った場合と取らなかった場合の経済的、社会的および環境的なコストを明確にしつつ規制を行う必要があること、そして経済学者が「環境の外的要因」の価格付けと呼ぶようなものが必要であることを認めること;これらの問題に対応してさらなる繁栄を生むようなイノベーション、新技術、国際協力および投資の重要性を認めること;女性を就業から閉め出すなどの持続的な社会的排除の経済的コストを定量化する方法について合意すること;食料の安全保障の危機にきちんと対応するには、民間市場だけでは必要な規模を確保できない可能性があることを認識すること;そして、国際機構、国家政府および民間企業に対し、合意した持続可能性対策に関わるパフォーマンスを毎年報告することを求めること、である。我々はまた、これが政治そのものにとって中核的な課題であることを認めなければならない。諸機関にパフォーマンスを要求するばかりでなく、政治プロセスにも持続可能な開発のパラダイムを同様に取り込むことができなければ、進展はないのである。

14. 持続可能な開発および貧困の撲滅のために必要な投資、革新、技術発展および雇用の創出は、公共部門の範囲を超える規模に及ぶ。よってパネルは、包括的かつ持続可能な成長を創出し、狭い意味での富を超える新たな価値を作り出すために、経済の力を利用することに賛成である。市場および企業家精神は、意思決定および経済的変化の大きな原動力となる。そしてパネルは、諸政府および国際機構に対して次の課題をつきつける。それは、共通の問題を解決し、共通の利益を促進するために、もっと協力して働くことである。意思のあるアクターが手を結び、前向きな連合をつくり、率先して持続可能な開発を進めるときに、量的な変化が可能となる。

15. パネルは、持続可能な開発の政治経済学に新たなアプローチを導入することによって、持続可能な開発のパラダイムをグローバル経済の議論の周縁から主流に運び込むことができると主張する。ここで、行動のコストと行動しない場合のコストの両者が、共に明確となる。そのとき初めて政治プロセスは、持続可能な未来を実現するための行動に必要な議論と政治的意思の双方を、召還することができるだろう。

16. パネルは、持続可能な開発が直面する課題にまったく新しくそして運用可能な方法で立ち向かうことができるように、持続可能な開発の政治経済学がこの新しいアプローチを取ることを呼びかける。持続可能な開発が正しいことは自明である。我々の課題は、それが同時に合理的なものであること、そして行動を起こさない方が、行動を起こすことよりも遥かにコストが高いことを証明することである。

17. パネルの報告書は、持続可能な地球、公正な社会、そして成長する経済を目指す我々のビジョンを実現するために、次の一連の具体的な勧告を行う。

 a. 食料、水およびエネルギーをそれぞれ別の「枠」に入れて扱うのではなく、これらをつなぐ新たな関係性を認めることが不可欠である。グローバルな食料安全保障の危機に取り組むには、この三つを別々のものとして扱わずに全面的に統合することが必要である。生産を倍増しつつ、持続可能性の原則に基づく第二の緑の革命―「永続緑化革命」―を目指す時機が来た。

 b. 科学と政策の接点を強化するための大きなグローバルな科学的イニシアチブの立ち上げを含む、大胆でグローバルな努力を進める時機が到来した。我々は、科学を通して、科学者が「地球の限界」(planetary boundaries)、「環境の限界値」(environmental thresholds)、「(限界を超える)分岐点」(tipping points)と呼ぶものが何であるのかを定義しなければならない。海洋環境や「ブルー・エコノミー」が直面する課題に優先的に取り組むべきである。

 c. 今日売買されているほとんどのモノやサービスは、生産と消費の過程で発生する環境や社会へのコストを完全には負担していない。我々は将来的に、きちんと科学に基づいて、このコストを数量化する方法について合意に達しなければならない。環境の外的要因のコストを見積もることは、グリーン成長、グリーン・ジョブ(環境関連職種)に新たな機会をもたらすことになる。

d. 社会的排除および広がる社会的格差の問題に対処するためにも、同様に、これらを測り、そのコストを見積もり、これらに対して責任を取ることが必要である。次の取るべき一歩は、すべての者にとってよりよい結果を実現するために、これらの重要な問題を我々がどのように扱うべきか探究することである。

e. 公平性が最重要視される必要がある。開発途上国が持続可能な開発に移行するためには、財政的および技術的サポートに加えて、時間が必要である。我々は、社会の中の全ての人々―特に女性、若者、失業者そして最弱者―の能力と地位を強化しなければならない。人口全体の力を有意義に活用するためには、若者を社会、政治、労働市場、そしてビジネスの開発に参加させる必要がある。

f. 持続可能な開発に真剣に移行するためには、ジェンダーの平等を無視できない。人類の集合的な知恵と能力の半分を構成するこの人的資源を、未来の世代のためにも我々は育成し、発展させなければならない。女性の経済的能力を全面的に解き放つことで、次のグローバルな成長の波が訪れる可能性がある。

g. 測定できないものは管理できない、と多くの人は主張する。国際社会は、国内総生産(GDP)の枠を超えて発展を測定し、新しい持続可能開発指数または一揃いの指標を開発すべきである。

h. 持続可能な開発を賄うためには、官民の両方において、膨大な新資金源が必要である。より多くの公的資金を動員するとともに、グローバルな資本と国家資本の両者を活用してインセンティブを開拓することで、グローバルな民間資本を引き入れる必要である。低所得国が持続可能な開発を行うためには、政府開発援助も引き続き重要となる。

i. 諸政府はすべてのレベルにおいて、蛸壺的思考法を脱却して統合的な思考法と政策決定へと移行しなければならない。持続可能な開発を議題や予算の中で最優先とみなし、革新的な国際協力のモデルを検討しなければならない。市町村は、現場での持続可能な開発を実際に推進する上で主要な役割を果たしうる。

j. 国際機構は、決定的な役割を担う。既存の制度をよりダイナミックに用いることと、持続可能な開発を扱うグローバルな理事会の創設と持続可能な開発目標の採択を検討することによって、持続可能な開発のための国際統治が強化されなければならない。

k. 政府や国際機構は、適応および災害リスク軽減のためにより多くの資源を配分し、開発の予算と戦略に強靭な対応のための計画(resilience

planning)を組み込むべきである。

l. 政府、市場、そして人々は、短期的な取引目標や短期的な政治サイクルの先を見据えなければならない。短期主義的な意思決定を助長するような現在のインセンティブは変更されるべきである。持続可能性を追求する選択は、通常の事業と比べて前払いの経費が高いことが多い。貧しい消費者と低所得の国々の両者にとって、より入手可能、購入可能、かつ魅力的なものにならなければならない。

18. このパネルは、我々人類の機知と意思をもってすれば、未来のために積極的な選択をすることが可能である、と信じる。よってこのパネルは、希望の立場に立つ。人類の歴史上の偉業のすべては、現実となる前にまず構想で始まった。強靭な人々と強靭な地球の両方を創り出すグローバルな持続可能性の構想は、この種のものにほかならない。

19. 2030年には、この報告書が出版される2012年に生まれた子どもが18歳になる。我々はその間に、すべての子どもに与えるべき未来、つまり、持続可能で、公正で、強靭な未来を与えるに十分なことができるだろうか?この報告書は、その子どもに答えを与えるための一つの取り組みである。


報告書の各部の要旨

持続可能な開発に向けた進展

持続可能な開発は、一つの到着点ではなく、適応、学習そして行動というダイナミックなプロセスである。それは、とくに経済、社会そして自然環境の相互の関係性について知り、理解し、その関係性に基づいて行動することである。世界はまだこの道を歩み始めていない。進展は見られるものの、それは早さも深さも不十分であり、より広範囲な行動の緊急性が増している。同時に、我々は、現代の生産と消費の様式、資源不足、技術革新、人口動態の変化、グローバル経済の変化、グリーン成長、格差の拡大、政治力学の変化、都市化の影響など、ますます強大な変化の力に直面している。

持続可能な選択ができるように、人々の能力と地位を強化する

社会での影響力が強ければ強いほど、地球への潜在的な影響は大きく、また持続可能に行動する責任は大きくなる。グローバリゼーションによって天然資源への重圧が増すなかで、個人の選択が地球規模の影響を持つ可能性がある今日において、このことはいっそう真実と言える。しかしあまりに多くの人々にとって問題なのは、持続可能でない選択をしているということではなく、そもそも選択肢を与えられていない、ということである。真の選択が可能であるためには、人権、基本的なニーズ、人間の安全保障、人間として立ち直る力、が確保されなければならない。行動のための優先分野は次のものを含む。

・開発の基本原則、すなわち貧困を撲滅し、人権と人間の安全保障を促進し、ジェンダーの平等を前進させる、という国際社会のコミットメントを果たすこと

・中等および職業指導教育を含む、持続可能な開発のための教育を前進させることと、社会の全員が今日の課題の解決に力を尽くして機会を確実に利用できるよう、技術を育てること

・環境にやさしい持続可能な成長を促す雇用の機会を、とくに女性や若者のために創出すること

・消費者が、個人あるいは集団として、持続可能な選択ができるように、また責任ある行動を身につけられるようにすること

・資源を管理し、21世紀の緑の革命、すなわち、農業、大洋と沿岸の環境システム、エネルギーと技術、国際協力を可能とすること

・堅固なセーフティーネットの構築、災害リスクの軽減、適応のための計画を通じて強靭さを構築すること

持続可能な経済に向けた動き

持続可能性の達成は、グローバルな経済変革を必要とする。枝葉末節の微調整では不十分である。現存のグローバルな経済統治体制について様々な疑問を浮上させた現在のグローバルな経済危機は、多大な改革の機会となっている。金融システムのみならず実際の経済においても、決然とグリーン成長路線に転換するチャンスである。次を含む主要な分野において政策活動が求められる。

・モノとサービスの規制と価格設定に社会的コストと環境的コストを組み込み、また市場の失敗に対応すること

・投資と金融取引において、長期的な持続可能性が次第に高く評価されるようにインセンティブを設定するためのロードマップを策定すること

・公的資金および民間資金、また大規模な新資金を動員するためのパートナーシップを含め、持続可能な開発のための財源を増加すること

・持続可能な開発指数または一揃いの指標をつくることで、持続可能な開発の進捗状況の評価を拡大すること

組織のガバナンスを強化する

持続可能な開発を達成するためには、地方、国家、地域そしてグローバルなレベルで、効果的な制度の枠組と意思決定プロセスを構築する必要がある。我々は次のものを克服しなければならない:単一の問題を「枠」に入れることで創られた分散型の制度という悪しき遺産;リーダーシップと政治的な場の不足;新しい課題と危機に対応できるだけの柔軟性の欠如;課題も好機も予測できず、計画的に対応できないことによる度重なる失敗。これらすべてが、政策決定と現場での実現の両者を損なうものになっている。持続可能な開発のための、国家とグローバルなレベルにおけるよりよいガバナンス、一貫性、そして説明責任を構築するにあたり、行動を要する優先分野は次を含む。

・地方、国家、国際レベルの一貫性を改善すること

・一揃いの持続可能な開発目標を創ること

・現在は取り扱い機関が分散している情報や評価を取りまとめ、それを統合的な方法で分析する仕方で、グローバルな持続可能な開発の見通しについて報告書を定期的に作成すること

・グローバルな持続可能な開発評議会の設立の検討を含め、国際的な機関の枠組の再活性化と改革に改めて力を注ぐこと


パネルの勧告

パネルは、地球の持続可能性、公正な社会、成長し続ける経済に向けたビジョンを推進するために56の提言を行う。

持続可能な選択ができるように、人々の能力と地位を強化するための提言

1. 諸政府と国際的ドナーは、持続可能な開発を達成するための優先課題である、貧困撲滅と不平等削減を目指すミレニアム開発目標を達成するために、より一層取り組むべきである。

2. 諸政府は、1948年の世界人権宣言と1966年の市民的及び政治的権利に関する国際規約において確認されている、政治への直接参加または自由に選出された代表を通じての参加の権利を含む人権を尊重し、保護し、また法律に定めるべきである。

3. 諸政府は、差別的な法や形式的障壁の廃止、制度の改革、障壁となる非公式または文化的な慣行に対処するための革新的な対策の案出と適用を含め、ジェンダーの平等と女性の権利を促進するための実行的措置を加速すべきである。とくに次の事項が強調されるべきである。

 a. 女性が、平等な財産権および相続権を有し、また価値連鎖全般において信用取引、金融サービス、その他の付帯サービスを受けることで生産資源に全面的かつ平等にアクセスし、それを管理できることを保証すること

 b. 参加型、対応型、平等かつ包括的な政治的意思決定の過程において、女性の平等な権利と機会を保証すること

 c. 良質かつ低価格の家族計画手段、さらには性と生殖に関する他の権利と医療サービスを万人に保証すること

4. 諸政府は、教育のためのグローバル基金の設立を検討すべきである。その基金は、現在の、教育のための世界銀行グローバル・パートナーシップを展開すものとし、政府と非政府機関と民間部門から支援を誘致するように考案され、また、ミレニアム開発目標の目標2を実現できるよう、2015年までに初等学校教育の不足をなくす責務を果たすべきである。

5. 諸政府は、2015年までに、普遍的な初等教育を掲げるミレニアム開発目標の目標2を達成するためにより一層取り組み、持続可能な成長と雇用に必要な技術と知識を強調しつつ、遅くとも2030年までに良質な初等後教育と中等教育への普遍的アクセスを提供するという目標を設定すべきである。

6. 諸政府、民間部門、市民社会と関連の国際開発パートナーは、持続可能な開発に必要不可欠な部門での技術不足を補うために、生涯学習の一環として、職業訓練、再訓練、専門技術の向上を提供できるよう、協働すべきである。この取り組みにおいて、女性、若者、弱者が優先されるべきである。

7. 諸政府は、民間部門において新しい雇用を産み出す条件を整えつつ、予算および持続可能な開発戦略の優先分野として、「環境関連職種」(グリーン・ジョブ)と良質な職業政策を採用し、促進すべきである。

8. 諸政府と実業界はパートナーシップを構築し、若い企業家のためのスタートアップサービスを提供すべきである。

9. 雇用主、政府、労働組合は、職場での平等を促進するために包括的なアプローチを取るべきである。そのアプローチには次のものが含まれる:非差別の原則;指導的な役割に女性を昇進させる措置;ジェンダーに配慮した職場生活と健康政策;女性と少数者を対象とした教育、訓練と専門技術の向上;進捗状況を評価し、それを公的に報告することに力を注ぐ。

10. 政府と実業界は、女性に制限を課す特異な問題に端的に対応する経済政策を採用することで女性の経済活動への完全参加が可能になれば、そこには経済的利益が伴うことを理解すべきである。とくに次の経済政策である。

 a. 土地や資源への女性農業従事者のアクセスを可能にすること

 b. 資本や金融サービスへの女性のアクセスを改善すること

 c. 商業取引および技術支援のプログラムやマイクロファイナンスを通じて市場へのアクセスを改善すること

 d. 官民両部門において女性指導者の育成を支援すること

11. 諸政府と他の公的機関は、生産と消費の影響を十分に反映する品質表示システムとその他のメカニズムを開発するためのオープンで明白かつバランスのとれた、また科学的根拠に基づくプロセスを促進すべきであり、また、商業取引への障壁を生み出すことなく、とくに人や自然システムに対して影響が大きい分野において消費者が情報に基づく選択ができるように、品質表示と企業報告と企業の姿勢表明が正確かつ経済的に、信頼性の高い方法でなさられるように、民間部門と協働すべきである。

12. 諸政府は、民間部門と共に、最良の技術に基づき、また商業の障壁を生み出すことなく、持続可能な製品の基準を設定し、さらに価格の設定によって購買意欲を刺激または抑制することで、持続可能な選択が消費者にとってより入手しやすく、低価格で、より魅力的であるように努力すべきである。。{前1文字ママ}

13. 諸政府も非政府組織も、持続可能な開発と持続可能な消費の概念の普及を促進すべきであり、またこれを初等、中等教育のカリキュラムに組み込むべきである。

14. パネルは、持続可能な開発への転換に取り組む諸政府に対して情報を提供するために、2012年に開かれる国際連合持続可能な開発会議(リオ+20)において、全ての利害関係者の間で、持続可能な開発の倫理的な側面に関する討議が、関連する経験や地球憲章などの文書に基づいて行われることを歓迎する。

15. 諸政府および国際機構は、生物多様性のこれ以上の喪失、表土の流出、水の枯渇と汚染を回避し、資源の利用を大幅に削減しつつ、生産性を少なくとも倍増することを目指す21世紀の新しい緑の革命―「永続緑化革命」―に取り組むべきである。これは、最先端の研究成果が実験室から現場に素早く移すことができるように、農業研究と開発への投資の拡大を含む。FAOが世界の食料不足を削減するという特異な使命を担うことから、諸政府は同機関に対して、主要なパートナーおよび利害関係者と協働してこの新しい緑の革命を開始し、調整する任務を与えるべきである。

16. 諸政府は、責任ある農業投資(RAI)を促進する取り組みの継続を含み、持続可能かつ責任ある土地と水投資の取引のためのグローバルな原則の合意に向けて、取り組むべきである。その際に、環境の持続可能性を確保しつつ、(土地と水など)基本的な資源に依存する貧困層の人々の権利や生活の保護にとくに注意を払う必要がある。

17. 諸政府は、飲料、衛生、農業、工業、エネルギーを含む、水の多面的な役割に十分に留意しながら、統合的な水資源管理計画を確立し、拡大すべきである。

18. 諸政府は、下記の要素を取り入れ、主要な海洋生態系における地域別の大洋ならびに沿岸管理の仕組の設立に注力すべきである。

 a. 関連する利害関係者を参加させる大洋ならびに沿岸管理における協力の強化

 b. 地域別のの具体的なニーズと生態系と利用者に配慮し、堅実な財源メカニズムによって支えられた、海洋地域国家による大洋と沿岸部の管理

 c. 開発途上国、とくに小島嶼開発途上国と他の沿岸諸国における海洋管理専門家、政策決定者、科学者の能力の構築

 d. 監視システムの強化

19. 地域の漁業管理組織が活動している場所では、同組織は地域の組織的な大洋管理と調和し、それを支援する形で政策と実践を行うべきである。地域の漁業管理組織、諸政府、そして海洋管理者は、経済および環境により多くの利益をもたらすために、生態系を重視する漁業管理アプローチに重点をおくべきである。

20. 諸政府は2030年までに低価格の持続可能エネルギーを誰もが利用できるように、適切な利害関係者と協調して取り組むべきであり、またエネルギー効率と、グローバルなエネルギー使用における再生可能エネルギーの比率を倍の早さで改善するように努力すべきである。諸政府と国際機構は研究と開発と投資を奨励することにより、省エネルギー技術と再生可能エネルギーを促進すべきである。

21. 諸政府は2025年までに、偏在的な電気通信設備とブロードバンドネットワークを含む技術へのアクセスを、とくに遠隔地の人々に対して提供できるよう、適切な利害関係者と協働すべきである。

22. 諸政府、国際金融機関、主要な企業は、開発途上国の技術能力を強化し、またグローバルな気候変動に対応しつつグリーン経済を発展させる役割を果たしうる「気候にやさしい技術」を最大限に活用して、革新と技術を志向する持続可能な開発を進めるための国際協力を大々的に行うよう奨励されるべきである。カンクンとダーバンでの、気候変動に関する国際連合枠組条約の下で達した合意は、この方向性に向けた確実な一歩である。

23. 諸国家は、国家の適切な努力と適切な能力と資金と技術の提供によって、すべての市民が基本的なセーフティネットにアクセスできることを保証すべきである。

24. 諸政府は、転換期の経済的社会的影響を管理し、また強靭性を強化する政策を展開し、実行すべきである。とくに、適切な場合には、的を絞った社会保護プログラムや政策を実行し、増加する環境ストレスや起こりうる衝撃に対して、人道面で対応する能力を高めるべきである。

25. 諸政府と国際機構は、アフリカ、小島嶼開発途上国、後発開発途上国および内陸開発途上国の特異なニーズを優先させ、人々のニーズに十分に着目した形で、社会や自然のシステムへの悪影響を防止するための地域別の脆弱性評価とそれに対応する適切な予防戦略を立てる努力を加速すべきである。

26. 諸政府と国際機構は、適応と災害リスク削減に配分される資源を増加し、開発予算と戦略に強靭性を確立する計画を組み込むべきである。

持続可能な経済のための提言

27. 諸政府は、家庭、ビジネス、公的部門での消費および投資の決定を導くために、持続可能性を価値として付与する価格指標を確立すべきである。政府は具体的に次のことを行うことができる。

 a. 2020年までに、課税、規制あるいは排出量取引制度などのメカニズムによって、炭素排出量の価格設定を含む、天然資源と外部要因の価値づけ手段を確立すること

 b. 政策の展開が、女性、若者、貧困者の経済への完全参加と貢献によってもたらされる積極的な利益を反映することを保証すると同時に、経済的、環境的、社会的なコストを考慮すること

 c. 持続可能な実践を長期的に奨励し、持続不可能な行動を阻害するように、国家の財政制度と信用制度を改革すること

 d. 水の使用、農業、漁業、森林システムなどの分野において、生態系サービスに対して支払われるよう、国家的および国際的な仕組を展開し、拡大すること

 e. 家庭、ビジネス、公的部門の消費と投資の決定を歪め、結果として持続可能性の価値を損なう価格指標に対処すること。諸政府はすべての補助金を透明に開示する方向に進み、天然自然、環境資源、社会資源にとって最も有害な補助金を特定し、廃止すべきである。

f. 2020年までに、化石燃料への補助金を段階的に廃止し、他の容認できないまたは商業取引を歪曲する補助金を削減すること。補助金の削減を行う際、関連する製品やサービスが必要不可欠な場合には、貧困者を保護し、影響を被る集団への移行期の影響を緩和されなければならない。

28. 政府、大学などその他の公的機関、国際機構は、[備品]調達について持続可能な開発に基づく基準を策定すべきであり、今後10年の間にコスト効率の良い持続可能な調達に移行すべきである。また2015年からは、進捗状況について公の年次報告書を刊行すべきである。

29. 諸政府は、持続可能なグローバル経済への移行を支援するために、生産および資源採収の基準を設定すべきである。政府はさらに、国際的な合意や条約から派生する任意の持続可能性原則を、実業界も大規模に適用し取り込むよう奨励すべきである。

30. 政府は、金融取引を含め、企業が行う投資や取引に長期的な持続可能な開発基準が取り込まれるよう促進し、奨励すべきである。ビジネス集団は持続可能な開発に関する報告の枠組を確立するために政府や国際機関と協働すべきであり、また時価総額1億ドル以上の企業には報告を義務づけることを検討すべきである。

31. 企業は、グローバル・コンパクトに示されるような、人権、労働、環境の持続可能性、また腐敗との闘いに関する普遍的原理に沿うように事業を行うべきである。

32. 持続可能な開発への移行を可能にする私的また公的資本の大規模な財源の重要性に鑑み、次の団体に対して、持続可能な開発の基準を適用するための諸対策を検討することを求める。

 a. 政府系投資ファンド、国家的および国際的な公的年金基金、その他の主要な金融機関の幹部は、投資の決定を行う際に対策を検討する

 b. 諸政府と株式市場の監査人は、基準の適用を促進するための規則の採択あるいは見直しを行う

 c. 証券取引所は、会社の分析やコンプライアンス報告において基準の適用を促進する

 d. 諸政府は、組織の幹部に基準への注意を喚起することで(信認義務)、インセンティブをつくり、基準を適用しやすい環境を整える

 e. 諸政府と信用格付機関は、各リスク評価に基準を組み込む

33. 諸政府、国際機関そして国際開発銀行は、持続可能な開発を促進し、社会および環境分野において自らの政策の結果を十分に評価し監視するための取り組みを強化すべきである。多国籍または地域的な開発銀行や輸出信用機関は、各国の信用リスクを検討する際に、持続可能な開発基準を適用すべきである。

34. 諸政府と実業界は、持続可能な開発投資の履行のために、地域コミュニティとの間で戦略的パートナーシップを構築すべきである。

35. 諸政府、国際金融機関と主要な企業は、投資家の不安を減らす政策や目標の採用、研究開発を支援する官民のネットワークの促進、リスク保証プランの策定、危険投下資本の準備、元手資金の調達等を含めて、持続可能な技術、革新、インフラストラクチャーへの投資を増やすインセンティブが生じるよう、協働すべきである。

36. 諸政府は、民間部門からの大規模なな追加的資金調達を実現するための枠組を作り出すために、たとえば、インフラストラクチャー、リスク分配、実現性ギャップ基金の準備、先行購入契約などを実施するために、公共投資資金を利用すべきである。

37. 諸政府は、とくにリスク分配メカニズムをより多く利用することや、長期的な規制と政策環境の確実性を強化することで、投資家による将来の予測を方向付け、持続可能な開発への投資を促進すべきである。対策としては、再生可能エネルギーや省エネ、ゴミ削減、水の保存の目標設定、京都議定書のクリーン開発メカニズムによる炭素市場へのアクセス、または公的資金調達の可能性の維持などが考えられる。

38. 諸政府と金融部門は、中小企業にインセンティブを与え、また、新しい持続可能な経済に参加できるように能力を構築して資本へのアクセスを強化するために、中小企業と革新的なパートナーシップを発展させるべきである。

39. 持続可能な開発の進捗状況を評価するために、2014年までに持続可能な開発指数や一揃いの指標が策定されるべきである。このために事務総長は、関連のある利害関係者を含む技能タスクフォースを任命するべきである。

組織のガバナンスを強化するための提言

40. 持続可能な開発への基礎として、諸政府は法の支配、良い統治体制、市民の公的情報へのアクセス権、意思決定への市民参加、そして司法への平等のアクセスを保証すべきである。

41. 諸政府は、地域、国家また国際レベルでの意思決定過程への若者の参加と影響を可能にすべきである。さらに、協議の過程や対話に、インターネット上のフォーラムや世論形成のブログなど、非従来型のネットワークや若者のコミュニティからの声を取り入れるよう、促されるべきである。

42. 政府は、持続可能な開発の問題に対して、政府一体のアプローチをとるべきであり、国家元首または政府首脳のリーダーシップの下で、部門を超えて全ての関連省庁を参加させるべきである。

43. 政府や議会は、戦略、法律制定、またとくに予算決定に持続可能な開発という視点を取り込むべきである。この目的のために、政府と議会は、貧困撲滅、雇用創出、格差是正、持続不可能な消費と生産の様式、エネルギー、気候変動、生物多様性、グリーン成長など、諸々の問題の経済的、社会的そして環境的な側面を考慮すべきである。政府と議会は予算管理の際に持続可能性に関わる具体的な検討事項を盛り込み、関連活動について公的な報告を行い、予算が市民にアクセス可能なものであるよう努めるべきである。

44. 持続可能な開発の問題に対して、適切な情報に基づく政治的意思決定を促進するために、政策決定と科学の接点を強化するために対策を講じるべきである。科学コミュニティの代表が、持続可能な開発の問題に対応する国家や地方の関連機関にメンバーまたは助言者として含まれることも検討に値する。

45. パネルは、持続可能な開発に対して人類普遍の願望があると考える。同時に、パネルは国家の状況の多様性と、社会的、経済的、環境上の課題の多様性も理解する。パネルは、持続可能な開発に関連して「公正」という重要な問題の概念と適用について吟味するプロセスを求める。そしてその吟味の結果をリオ+20のプロセスとその後続活動に取り入れたいと考える。

46. 二国間ドナー、国際機関、開発銀行は包括的な方法で持続可能な開発を促進する取り組みを強化すべきであり、また持続可能な開発の政策の影響について、定期的に監視し報告すべきである。

47. 持続可能な開発に関する国際的な政策は分散しており、一つの柱である環境の部門がとりわけ弱いので、UNEPが強化されるべきである。

48. 諸政府は、持続可能な開発の三つの側面すべてとその相互関係を網羅する一連の普遍的な基本目標の設定に乗り出すことに合意すべきである。目標は、2015年以降の枠組を可能としながら、個別また集団の行動を活性化させると同時に、ミレニアム開発目標に沿うべきである。国際連合の加盟国による採択の前に、目標を細かく策定しまた精緻化するために、専門的な機構が事務総長によって設立されるべきである。

49. パネルは、事務総長による「全ての人のための持続可能なエネルギー」イニシアチブを是認する。このイニシアチブは遅延なく履行されるべきである。

50. 事務総長は、現在は各機関に分散する情報と評価を取りまとめ、それを統一的に分析する、グローバルな持続可能な開発見通しに関する報告書を定期的に作成するために、関連する国際連合機関、国際金融機関、民間部門、他の関連する利害関係者を含む関連の国際機関の責任者との合同の取り組みを主導すべきである。

51. 諸政府と科学コミュニティは、政策と科学の接点を強化するために、大規模なグローバル科学イニシアチブの開始を含む実践的な策を講じるべきである。ここには、持続可能な開発の文脈における「地球の限界」(planetary boundaries)、「(限界を超える)分岐点」(tipping points)、「環境の限界値」(environmental thresholds)等の概念をめぐる科学の成果に関する定期的な評価と要約を含めるべきである。これは不平等などの社会経済的な要因に関するデータや知識を改善するために、経済的社会的観点を含む、持続可能な開発の課題について行われている他の科学的研究を補完するものになるであろう。さらに、事務総長は、事務総長や国連の他の機関に助言を行う主席学術顧問の任命、あるいは多様な知識と経験を備えた科学諮問委員会の設立を検討すべきである。

52. 諸政府は、持続可能な開発の三つの側面をよりよく統合し、新たな問題に対応し、また持続可能性の進捗状況を検討するグローバルな持続可能開発評議会の創設を検討すべきであり、その評議会は1年を通じて定期的に会合を開催すべきである。この組織は総会の補助機関として持続可能な開発委員会に代わるものとなる。地理的にも政治的にも多様なメンバーによって構成されるべきであり、国連機関や国際金融機関を含む関連の国際機関、さらには市民社会、民間部門、科学者らの民間人の参加が求められる。

53. この評議会は、諸国家に対して、建設的な精神で自らの政策を説明し、経験と教訓を共有し、約束を実現すること促すピアレビュー機関になることが期待される。

54. 諸政府はまた、リオ+20の2012年から2015年の期間を用いて、2015年以降の開発枠組と制度改革に試験済みの解決策を取り入れるために、現存の機関をより積極的に活用して計画的な見直しや試行を実施すべきである。

55. 事務総長は、国際連合システムの持続可能な開発のための戦略の時速な展開を促すべきである。そのことによって一貫性に貢献し、国際連合機関間の責任をより明確にし、重複を減らし、実行についての責任を強化することになる。この戦略は、すべての関連する国際連合諸機関と運営委員会によって精査されるべきであり、その際に、すべての委員会とプロセスに参加する国家間が統一的な見解を形成するよう努力すべきである。

56. 事務総長は、指導者たちが総会の新しい会期開催に集う際に、持続可能な開発について、定期的なハイレベルの意見交換会を開催し、世界の会合の場としての国連を最大限に活用すべきである。この会合は、国家や政府の首脳、国際機関の指導者、市民社会や民間部門の代表を一同に集め、課題を設定し、新たな問題に対応するために用いられるべきである。


行動への呼びかけ

今や、積極的なフォローアップが必要不可欠である。パネルは、事務総長が自らの権限の範囲内にある提言を実行に移し、すべての提言を国際連合全体に提示することを期待する。パネルはまた事務総長と国際連合が、諸政府のすべてのレベル、国際機構、市民社会、科学コミュニティ、そして民間部門を含む広範な国際社会において、その他の利害関係者にこの提言を奨めるために、国連の招集力を活用することを期待する。


地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルの設立経緯とメンバー

国連事務総長潘基文は、2010年8月に地球の持続可能性に関するハイレベル・パネルを設立した。事務総長は、専門家の資格で行動するパネルのメンバーに対して、目標達成のためのメカニズムと併せて、持続可能な成長と繁栄のための新しいビジョンを熟考し策定することを求めた。

ハイレベル・パネルは、この問題に多大な貢献をした以下の個人によって構成された。

パネル共同議長

・タルヤ・ハロネン(フィンランド大統領)

・ジェイコブ・ズマ(南アフリカ大統領)

メンバー(アルファベット順)

・アブダッラー・ビン・ザイード・アール・ナヒヤーン(アラブ首長国連邦外務大臣)

・アミナ・アッ=ズバイル(ナイジェリア元大統領上級特別補佐官、ミレニアム開発目標担当顧問)

・アリ・ババチャン(トルコ副首相)・ジェームス・ローレンス・バルシリー(カナダ国際ガバナンス・イノベーション・センター会長、リサーチ・イン・モーション社元CEO)

・アレクサンドル・ベドリツキー(ロシア連邦大統領顧問、気候変動問題担当特使)

・グロ・ハーレム・ブルントラント(ノルウェー元首相、世界保健機関元事務局長、環境と開発の世界委員会議長)

・ミシュリーヌ・カルミ=レ(スイス元大統領、元外務大臣)

・フーリャ・カラビアス・リジョ(メキシコ元環境大臣)

・グニッラ・カールソン(スウェーデン国際開発協力大臣)

・ルイサ・ディアス・ディオゴ(モザンビーク国会議員、元首相)

・ハン・スンス(グローバル・グリーン成長研究所理事長、韓国元首相)

・鳩山由紀夫(衆議院議員、元総理大臣)

・コニー・ヘデゴー(気候行動担当欧州委員、元環境大臣、元気候エネルギー大臣)

・クリスティーナ・ナルボナ・ルイス(国会議員、OECD元常駐代表、スペイン元環境大臣)

・ジャイラム・ラメシュ(インド農村開発大臣)

・スーザン・E・ライス(米国連常駐代表、米国大統領閣僚)

・ケヴィン・ラッド(オーストラリア外務大臣、元首相)・フローンデル・スチュアート(バルバドス首相)

・イザベラ・モニカ・ヴィエイラ・テイシェイラ(ブラジル環境大臣)

・鄭国光(中国気象局長)

(職権による参加)

ヤノシュ・パストール(地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル事務局長)


パネルの活動について、さらに詳しい情報は下記をご参照ください。

パネルの報告書全文『強靭な人々、強靭な地球:選択に価する未来』とパネルの活動

に関する情報は、www.un.org/gspより入手できます。

地球の持続可能性に関するハイレベル・パネル事務局RoomA-300,United Nations Headquarters, New York,NY10017、または、メイルでgsp-secretariate★un.orgまでお問い合わせください。{★は半角の@}