データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平和と成長のための学びの戦略 学び合いを通じた質の高い教育の実現

[場所] 外務省
[年月日] 2015年9月
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

 教育は,すべての人が等しく享受すべき基本的な権利であり,必要な技能の習得を通じて一人ひとりが自らの才能と能力を開花させ,運命を切り開いていくことを可能にすると同時に,それぞれの国の持続可能な開発の実現に重要な役割を果たす。また教育は,他者や異文化に対する理解と信頼を育み,平和を支える礎ともなる。本年,国連創設70周年,戦後70周年を迎えるが,日本はその60年以上にわたり,政府開発援助(ODA)を通じた国際貢献を行ってきた。我が国は従来から,人間の安全保障を実現するために不可欠な分野として,教育分野の支援を重視し,今日に至るまで自らの近代化や戦後の高度経済成長,各種課題の克服の経験を活かして教育協力を実施してきた。また,本年2月,我が国は現在の国際社会が抱える課題を踏まえ,「開発協力大綱」*1*を決定し,国際社会の平和と安定及び繁栄により一層積極的に貢献することを目的として開発協力を推進していくことを,表明した。

 「万人のための教育(EFA)」目標及び「ミレニアム開発目標(MDGs)」の達成期限を迎え,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択を迎える本年は,開発協力の歴史の転換点といえる。2030年までの国際的な開発目標である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には,同アジェンダがユニバーサルな目標であるとともに,人間中心のものであることが明記された。我が国は,新たな開発協力大綱の下で,人間の安全保障の考え方に立って,「質の高い成長」とそれを通じた貧困削減等に重点的に取り組むこととしている。教育分野においても,こうした開発を取り巻く新たな環境の変化と新たな開発課題に対応するための政策がより一層求められている。

 これらの認識に基づき,我が国として,教育分野でより一層国際社会に貢献し,積極的平和主義の立場から,国際社会の平和と安定及び繁栄の確保に一層積極的に貢献すべく,開発協力大綱に基づき,「平和と成長のための学びの戦略」を定める。

1. 我が国の教育協力の役割

(1)教育分野における国際的な目標及び課題と我が国の貢献

すべての人に教育を

 国際社会は2000年から2001年にかけて,すべての人に基礎教育を提供する「万人のための教育(EFA)」目標と「ミレニアム開発目標(MDGs)」という2つの重要な開発目標群を設定し,2015年の目標達成を目指して取り組んできた。国連教育科学文化機関(UNESCO)の「EFAグローバル・モニタリング・レポート2015」*2*によると,2000年当時と比べ,学校に通うことのできない子ども及び青年の数は半数に減り,ダカール行動枠組*3*の策定以降,学校に行けるようになった子どもの数が推定4,300万人増加した。また,男女格差の解消に関してもめざましい進展があり,初等教育就学率においては男女格差の解消という目標がほぼ達成されている。しかしながら,世界には学校に通うことのできない子どもが依然約5,800万人,基礎的な読み書きのできない成人が約7億8,100万人存在する。また,教育における格差は拡大しており,最も貧しい子どもたちは,最も豊かな子どもたちに比べ,初等教育を修了できない確率が5倍以上であり,低中所得国においては6人に1人,およそ1億人の子どもが初等教育を修了できない状況にある。2015年現在,すべての測定可能なEFA目標を達成できている国はわずか3分の1に留まっている。

 このような状況の改善に向け,我が国は,国際目標であるEFAとMDGsの達成に取り組んできた。これまでの成果と反省を踏まえ,今後,教育分野での2030年までの新たな目標達成に向けて教育協力をより一層強化していくことは我が国の責務である。

包括的視点に立った教育協力

 EFAの進展に伴い,より多くの子どもが小学校に通い,進級していくにつれ,中等教育以降における教育のニーズが拡大している。しかし,2013年時点で,およそ2. 25億人の若者(開発途上国の若者の約20%)が,学校に通わず,職業訓練も受けず,就業もしていない状況にあり,成人教育や若者に対する教育と職業訓練の機会の提供が緊急の課題となっている。*4*さらに,グローバル化する知識基盤社会において,それぞれの国の経済発展を先導していく人材を育成するためには,高等教育機関や学生に対する支援も不可欠である。このように途上国は多様なニーズを抱えており,国際社会はこうした教育セクターの様々な課題に包括的に取り組んでいくことが求められている。我が国は,2030年の国際目標の達成を見据えて,教育セクター全体を包括的に視野に入れたうえで,途上国のニーズに応じた支援を行う必要がある。すなわち,基礎教育に加え,中等教育,高等教育,職業技術教育・訓練,成人教育,産業科学技術人材育成,留学生受入れなど,国づくりや経済発展を支える人材育成も含め包括的な開発協力を行う必要がある。

持続可能な開発のための2030アジェンダにおける教育の位置づけ

 持続可能な開発目標(SDGs)*5*において,教育は17の目標のうちの一つと位置づけられ,「すべての人々への,包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する(Ensure inclusive and equitable quality education and promote lifelong learning opportunities for all)」を目指すとしている。その中で,無償の初等・中等教育の普及,男女の平等な教育機会の確保,質の高い技術教育・職業訓練及び大学を含む高等教育への平等なアクセス,障害者や少数民族,子どもを含む脆弱な人々への配慮,読み書き能力及び基本的計算能力の向上,持続可能な開発のための教育,学習環境の改善,奨学金の普及,教員の質の向上等が取り組むべき課題として挙げられている。我が国としても,これらの重点分野を踏まえ,また教育は分野横断的な課題であることを念頭に置き,支援を実施していくことが重要である。

(2)これからの国際教育協力の在り方

 新興国の台頭,国際的・地域的ガバナンスの形成等が進み,国際教育協力の潮流は,これまでの「援助」という「垂直的」なものから,より「水平的」な「協力・協働」に移行してきている。また,教育協力への参加者も,これまでの政府機関を中心としたアクターから,民間企業やNGO,研究機関等,多様化してきている。また,教育協力に求められる内容に関しても,学校教育という枠を超え,就学前教育,職業技術教育・訓練,防災・環境教育,保健・衛生教育といった多様なニーズに応えることが求められるようになり,教育の質の向上と,より分野横断的な取組が必要となってきている。さらに,高等教育においては,グローバル化と技術革新の急速な進展による国際的な経済活動の拡大や,サービス・人の国際的な移動の増加を受けて,開発途上国と先進国双方の発展の基盤となる高度人材育成が必要となってきている。開発協力大綱においてもうたわれているとおり,新興国・開発途上国を始めとする国際社会との協力関係を深化させ,その活力を取り込んでいくことが,我が国自身の持続的な繁栄にとっても鍵となる。新興国を筆頭に,多くの国で開発の進展が見られる一方で国内格差,持続可能性の問題,「中所得国の罠」などの課題や,気候・自然条件などに起因する脆弱性に関わる課題に直面する国も少なくない。こうした多様化する開発課題に対応できる人材を育成するためには,教育そのものが社会の持続可能性,強靱性向上に貢献するという認識のもと,以下に記述するような多面的,重層的なアプローチが必要である。

2. ビジョンと基本原則

 教育分野における協力を行うにあたっては,以下のビジョン及び基本原則に基づき実施する。

ビジョン

学び合いを通じた質の高い教育の実現:「みんなで支えるみんなの学び(Learning for All, All for Learning)」

・ 人間の安全保障の理念に基づき,「万人のための質の高い教育」を実現し,持続可能な開発を推進する。

・ 教育協力を通じ,国づくりと成長の礎である人材育成を推進する。

   ↓

 国際的・地域的な枠組を通じて「学びの改善」の実現,必要な制度の構築を目指し,もって国際社会の成長・革新,さらには地域と国際社会の平和と安定に積極的に貢献する。

基本原則

(1)包摂的かつ公正な質の高い学びに向けての教育協力

人間一人ひとりに着目し,保護と能力強化を行う人間の安全保障の考え方の下,カントリーオーナーシップと自助努力を尊重し,現場レベルでの対話と協働を重視した日本らしい支援により,質の高い学びの提供に取り組む。また,教育協力を通じ,特に脆弱な立場に置かれやすい女性,紛争影響国や貧困地域の子ども,障害者を含め,様々な要因により質の高い教育を受ける機会から疎外されている人々に対応した協力を行う。

(2)産業・科学技術人材育成と持続可能な社会経済開発のための教育協力

教育は,国際社会の成長・イノベーション(革新),さらには地域と国際社会の平和と安定に積極的に貢献するという認識のもと,理数科教育,工学教育支援,防災・環境教育協力を含め,我が国が長年の国際協力の中で蓄積した知見や技術を活用し,社会経済開発の基盤となる雇用・産業振興に繋がる教育協力を行う。

(3)国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大

 幅広いネットワークの構築や,市民社会との連携を含め,多様なアクターによる協力の促進とパートナーの多角化を促進することにより,国際的・地域的な枠組みを通じて「学びの改善」の実現と,必要な制度の構築を目指す。また,持続可能な開発の実現に向けて,グローバル・パートナーシップの枠組みの下での協力を行う。

{図は省略}

3. 円滑な支援の実施に向けた重点的な取組

我が国は,円滑な教育分野における協力の実施に向け,特に以下の取組を重視する。

(1)包摂的かつ公正な質の高い学びに向けての教育協力

 (ア)人間の安全保障と自助努力の後押しを重視した日本らしい支援

  我が国の開発協力の在り方は,相手国の自助努力を後押しし,将来における自立的発展を目指すものであり,その姿勢を引き続き維持する。この観点から,日本の経験と知見を活用しつつ,相手国の開発政策や教育制度を十分踏まえた上で,現場レベルでの対話と協働を一層深化させ,開発途上国の自立的発展に向けた,主体的,協働的な取組を重視した協力を行う。また,人間の安全保障の考え方に基づき,人間一人ひとりが自らの資質を開花させ,自らの運命を切り開いていく上で必要な技能,スキルの習得の支援を行う。

 (イ)教育の質確保(学びの改善)に向けた支援

  MDGsの取組により,初等教育へのアクセスは飛躍的に向上した一方で,教育の質の確保が課題になっている。我が国においては,自国の教育システムの特徴を活かし,理数科教育,学校運営改善(School Based Management)など,我が国の強みを活かした教育の質の改善支援に取り組んできた。基礎教育分野の支援では,2011年より,行政・学校・コミュニティが一体となって包括的な学習環境改善支援を行う支援モデル「みんなの学校(School for All)」の下,多様な開発パートナーとも連携して,包括的な学習環境の改善を行ってきた。本政策では,「学びの改善」を通じ,これまでの取組を更に発展させ,学び合いを通じた質の高い教育の実現「みんなで支えるみんなの学び(Learning for All, All for Learning)」を目指す。具体的には,学校教育に加え,ノンフォーマル教育や生涯学習等も視野に入れた「質の高い教育」「安全な学習環境」「学校運営改善」「地域に開かれた学校」「インクルーシブ教育」の5つの項目を重視し,各国のニーズに応じて適切な支援を実施する。教育の質を持続的に確保するため,教員同士の学び合いを促進する「授業研究」を通じた教員研修等,教員の育成にも積極的に取り組む。

  また,学びの改善に向けた国際的な取組である,世界銀行のSABER(教育のベンチマークに係る取組),経済協力開発機構(OECD)のPISA for Development(開発のための国際学習達成度調査)や,地域的な取組である東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)による地域的学力調査等の国際教育調査への協力を行うことで,国際的な教育の質確保に向けた取組への支援を行う。

 (ウ)女子教育支援(教育におけるジェンダー格差の是正)

教育  は,持続可能な開発のための触媒であり,これまで機会に恵まれなかった女性が質の高い教育を受けられるようになれば,女性自身,家族,コミュニティの生活の質を高めることができ,社会の機能も強化することが可能になる。例えば,読み書き能力を向上させることは,公衆衛生やHIV/AIDS等の感染症の正しい知識,予防に関する正しい知識へのアクセスを向上させ,また,適切な家族計画の策定の足がかりともなり,持続可能な社会を構築する上で,極めて重要である。また,女性への職業訓練を通じた就業・起業支援を行うことにより,家の外で働くことが困難であった女性の社会進出を促すなど,女性の経済的エンパワーメントの促進にも繋がる。開発途上国における排泄環境の未整備も,女性・女児の教育機会を阻み,また女性が性暴力や誘拐の危険に晒される要因のひとつであり,学校や公共施設における女子トイレの整備等を含めた教育環境の改善も,喫緊の課題である。我が国が2013年から提唱してきた「すべての女性が輝く社会」の実現に向け,すべての教育段階における女子の就学・修了率の向上と就業への連結,公衆衛生・母子保健等の教育に重点的に取り組む。また,我が国は2015年,日米両国で,世界における女子教育を推進するため協力していくことを発表した。このような取組を含め,引き続き女性・女児のエンパワーメントとジェンダー平等に配慮した教育協力を実施していく。

 (エ)紛争影響国や貧困国・地域の子ども,障害者など,様々な要因により質の高い教育へのアクセスから疎外されている人々に対応した支援

  世界には,学校に通うことのできない子どもや基礎的な読み書きのできない成人が依然として多数残されており,最も脆弱で不利な立場に置かれた人を含むすべての人に質の高い教育へのアクセスを確保することは,喫緊の課題である。我が国は,持続可能な開発のための2030アジェンダを踏まえ,「誰一人取り残されない」支援を念頭に,フォーマル教育のみならず,ノンフォーマル教育にも焦点を当て,特に脆弱な立場に置かれやすい子ども,障害者,女性,難民・国内避難民,少数民族・先住民などにも焦点をあて,識字能力や生きていく上で必要な技能,スキルの習得を支援する。

  また,我が国は,2014年に障害者権利条約を批准しており,これを踏まえ,障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し,障害者の固有の尊厳の尊重を促進するためのすべての人に開かれた教育支援の取組を一層強化する。

  紛争地域及び紛争影響国での教育支援については,国際機関やNGOと連携し,早期から教育支援を実施することで,子どもの精神的ケアを行うことも含め,いち早く社会機能の回復を進める等,緊急対応段階及び復旧段階における教育分野での支援を行う。また,社会復帰や生計の向上につながる職業訓練や,防災教育,地雷回避教育など,復興に必要な支援を行う。

(2)産業・科学技術人材育成と持続可能な社会経済開発のための教育協力

 (ア)雇用確保・産業振興,生計向上に繋がる教育支援

  社会,経済の健全かつ持続的発展には,個々人の生計向上や雇用の確保に繋がるスキルの獲得が不可欠である。そのため,初・中・高等教育支援の連続性を確保し,就労・起業に繋がる教育・職業訓練支援を重視し,日本企業を含む産業界との連携強化や汎用性のあるスキル(例:職業倫理,チームワーク)習得支援を含む包括的な職業訓練支援を行う。また,社会的弱者の生計向上を目指した職業訓練支援も重視する。

 (イ)高度人材育成支援

  日々刻々と変化するグローバル社会に適応する力を備え,新たな産業を創出する創造性豊かな人材など,実践的な人材を育成するため,行政,経済,法律,国際開発分野など国づくりのための人材・行政官の育成や,科学技術振興のプラットフォームづくりのための人材育成を重視する。また,外国人留学生受入れを促進するとともに,日本企業でのインターンと修士課程留学を組み合わせた人材育成「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(African Business Education Initiative for Youth):ABEイニシアティブ」を始めとする長期研修制度や技能実習制度との連携を強化することで,我が国が強みを持つ質の高い教育を提供すると共に,国際的に活躍する高度専門人材の双方向交流を拡大させる。

 (ウ)理数科教育,工学教育を中心とした支援

  産業発展に必要な科学的知識,技術を持つ人材の育成を推進するため,我が国が比較優位を有する理数科教育,工学教育支援を行う。特に,科学技術外交との連携,工学系拠点大学における教育・研究能力の向上,我が国の大学・高等専門学校のノウハウとネットワークを活用した支援や,教育の質保証制度の構築・普及を通じ,協力相手国における質の高い教育の提供に取り組む。また,そのために必要な教員養成を重視する。

 (エ)防災・環境教育支援を含む,持続可能な開発のための教育(ESD)推進支援

  教育は,社会経済開発の基盤づくりの礎であるだけでなく,社会の強靭性を高める役割がある。貧困,紛争,気候変動,自然災害,環境問題等様々な地球規模の課題が深刻化する中,これらの課題をしっかりと認識し,行動に移していける人材を将来世代への責任として育てていかなければならない。そのために,持続可能な開発のための教育(ESD)の推進は重要であり,教育の質の改善にも大きく貢献するものである。我が国は,「国連ESDの10年(UNDESD)」の提唱国であり,UNDESDの最終年である2014年11月に,愛知県名古屋市及び岡山市で,「ESDに関するユネスコ世界会議」を開催した。本会議の成果を受け,UNDESDの後継プログラムとして位置付けられた「グローバル・アクション・プログラム(GAP)」の具体的な実施に向けて,UNESCOへの信託基金の拠出等,UNESCOや世界各国と協力しつつ,引き続きESDを推進していく。

  また,防災先進国として,我が国の知見と技術を世界に共有しながら,国際社会と共に,災害に対し持続可能で強靱な社会を構築するため,「仙台防災協力イニシアティブ」に基づき,防災政策立案及び緊急災害支援のための人材育成・訓練・技術移転や,防災における女性のリーダーシップ推進のための研修等を含め,法整備及び制度の構築支援,防災に関するシステム整備のための技術協力・人材育成等を行う。

(3)国際的・地域的な教育協力ネットワークの構築と拡大

上記(1)(2)を実現するため,以下の取組を重視する。

 (ア)幅広いネットワーク構築

  地域内及び地域間の協力を促進する南南協力や,これに先進国も加わった三角協力は,知見を共有しながら国境を越える課題に取り組む効果的なアプローチである。南南協力,三角協力を含め,幅広いネットワークの構築を通じた国際的及び地域的な学び合いを推進し,理数科教育,授業研究,学校運営改善,障害児教育等を通じ,地域共通課題への対応力強化,教育分野の連携を促進する。

  特に,アジア地域においては,ASEAN+3高等教育の流動性・質保証に関するワーキング・グループ,SEAMEO-RIHED(東南アジア教育大臣機構高等教育開発センター)のAIMSプログラム(ASEAN International Mobility for Students Programme)や,アセアン工学系高等教育ネットワークプロジェクト(AUN/SEED-Net)を基盤としたアジア地域の頭脳循環プラットフォーム作り,アジア太平洋大学交流機構(UMAP)を活用した学生交流等を通じ,アジアにおける地域的な高等教育協力に貢献する。また,これまでUNESCOを通じて行ってきたアジア・太平洋地域における識字率向上のための支援や教員の質向上のための支援等の実績を踏まえ,引き続き,アジア・太平洋地域において教育分野での協力を行う。更に,国際社会において,これまでの我が国の教育協力の成果を,受益国と連携して発信していくとともに,我が国の取組が国際的な教育協力の理念,潮流の形成過程において十分に反映されるよう,国連,UNESCOをはじめとした国連専門機関,教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)を含む国際パートナーシップ,その他の国際的枠組みにおける効果的な資金動員と実施に係る議論に積極的に参加,貢献していく。

 (イ)国際機関との連携強化

  持続可能な開発のための2030アジェンダの達成に向けて,多様な開発パートナーが連携・協調して支援を行う重要性が一層高まっている。GPE,国連児童基金(UNICEF),UNESCOをはじめ,教育分野において中心的な役割を果たしている国際機関や地域的な機関と連携強化し,国際機関を通じた援助が二国間援助と相互補完的になるよう国際機関との効果的な連携に取り組む。また,現場での知見を活かした貢献を推進する。さらに,二国間支援によって確立された手法やアプローチを国際機関との連携により全国展開させるなど,現場における取組を政策に反映し,より大きな成果を目指して取り組む。

 (ウ)多様なアクターによる協力の促進とパートナーの多角化

開発途上国の複雑化する教育課題に効果的に対処するためには,関係する府省庁,政府関係機関間及び官民の連携を強化し,オール・ジャパン体制で我が国の知見を結集して取り組むことが不可欠である。また,官民連携を強化するためには,政府が関係者間を繋ぐコーディネーター機能を果たし,開発の現場におけるニーズの変化,多様化に対して,効果的な政策や,より幅広いアンテナを持ち得る民間企業,NGOや大学等の研究機関の知見を連動させていくことが重要である。多様なアクターによる協力の促進とパートナーの多角化を推進するため,教育協力に関する官民協働のプラットフォームを構築し,より層の厚い協力案件の形成を図る。多様なパートナーとのネットワークの構築,強化のために,意見交換の場を設ける。また,市民社会,民間企業や地域社会,地方大学との連携を強化し,地方からの発信や地方創生の推進,更には,青少年の多文化交流等を通じた日本のイメージ向上及び知日派形成に取り組む。

 (エ)他の開発セクターとの相互連携強化

教育は他の開発分野とも密接に関わる分野であり,他のセクターにおける我が国や他ドナーの取組を把握し,セクター連携を強化することが重要である。例えば,感染症支援等を含め,保健分野においても,教育分野との連携への関心が高まってきている。そのため,教育を開発協力全体の中に位置づけ,保健,防災,環境,科学技術,雇用・産業振興,インフラ分野など,他の開発セクターとの連携を強化し,より効果的な支援の実施に取り組む。

 (オ)政策-実施-成果の連結強化

円滑な支援の実施,特に,政策-実施-成果の連結を強化するため,以下の視点を重視する。

・ 各国のニーズや開発のレベルに応じ,効果的な協力の実施のため,適切なスキーム(有償資金協力・無償資金協力・技術協力)の戦略的実施と,柔軟かつ有機的な運用を検討し,また,教育セクターへの借款の活用等,援助リソースの拡大に取り組む。

・ 現場知見や実践経験を活かした政策形成を重視し,政策立案及び効果的な実施への同知見の活用を促進する。

・ 国際教育協力連絡協議会や教育協力に関する官民協働のプラットフォームの構築など,多様なプレーヤーが積極的に参画する仕組みの抜本的強化を目指す。

4. モニタリング・評価・情報提供と発信

(1) モニタリング・評価

 本政策のモニタリング及び評価に関しては,多様な資金を効果的に活用し,以下の3つのレベルにおいて,その進捗と成果をモニタリングしていく。モニタリング・評価にあたっては,成果を重視したアプローチを強化する。

プロジェクトレベル

・ 二国間支援で実施する案件については,各プロジェクトの計画時点で事前に設定した指標に基づき,モニタリング及び評価を行う。

・ 国際機関経由で実施する案件については進捗または最終レポートに基づいて,成果を確認する。

国レベル

・ 国別援助方針において,教育を重点分野としている国において,当該国の教育セクター計画の下で,当該国政府及びドナーが共同でモニタリング及び評価を行っている場合には,このプロセスに積極的に参加し,教育セクタープログラムの進捗及び達成状況を確認する。

グローバルレベル

・ DAC統計を用いて教育セクター全体及び地域毎の成果をモニタリングする。

(2) 本政策の実施状況の点検・評価

・ 「国際教育協力連絡協議会」等において,関係者により,定期的に本政策の点検を行う。

・ 適切なタイミングで本政策の第三者評価を実施し,今後の教育政策決定過程及び協力事業の効果・効率の向上に活用する。

(3) 情報提供と発信

国民に対して教育協力の意義についての説明責任を果たし,国際社会に対する透明性を確保する観点からも,本政策の成果,国際的評価等につき,十分な情報提供と発信を行う。


{*1*開発協力大綱(平成27年2月閣議決定): http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000067688.pdf

*2*国連教育科学文化機関(UNESCO)「EFAグローバル・モニタリング・レポート2015」: http://unesdoc.unesco.org/images/0023/002322/232205e.pdf

*3*The Dakar Framework for Action(全文): http://www.unesco.org/education/wef/en-conf/dakframeng.shtm 2000年にセネガルのダカールで開かれた「世界教育フォーラム」で採択された行動枠組み。「万人のための教育(EFA)」の達成に向けて以下の6つの目標を定めた。(1)就学前教育・教育の拡大改善,(2)2015年までに全ての子供達が無償で質の高い義務教育へのアクセスを持ち,修了可能にすること,(3)全ての青年・成人の学習ニーズが満たされるようにすること,(4)2015年までに成人(特に女性の)識字率の50%改善を達成し,全ての成人の基礎・継続教育への公正なアクセスを達成すること,(5)2005年までに初等・中等教育における男女格差を解消し,2015年までに教育の場における男女平等を達成すること,(6)読み書き・計算能力,基本となる生活技能など教育の全ての面における質の改善と卓越性の確保。

*4* UN Youth, Youth and Education: http://www.un.org/esa/socdev/documents/youth/fact-sheets/youth-education.pdf

*5*持続可能な開発目標(SDGs)オープン・ワーキング・グループ報告書(A/68/970): https://sustainabledevelopment.un.org/content/documents/1579SDGs%20Proposal.pdf}