データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 平和と健康のための基本方針

[場所] 外務省
[年月日] 2015年9月11日
[出典] 外務省
[備考] 健康・医療戦略推進本部決定
[全文] 

 我が国は現在の国際社会が抱える課題を踏まえ,2015年2月,「開発協力大綱」を決定した。同大綱は「非軍事的協力による平和と繁栄への貢献」,「人間の安全保障の推進」及び「自助努力支援と日本の経験と知見を踏まえた対話・協働による自立的発展に向けた協力」を基本方針とし,保健分野に係る協力を重点課題の中に位置付けている。また,国際的にも「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」において,保健は主要な目標の一つと位置付けられ,「全ての人があらゆる年齢において健康であること」を目指すとしている。

 保健は,世界の人々にとって生活の基盤を形作るものであるとともに,社会経済上の格差を和らげる機能も果たし,人間開発・社会開発に不可欠な分野の一つである。また,エボラ出血熱の感染拡大に見られたように,グローバル化の進展に伴い,国境を越える感染症の脅威が一層高まる中,脅威に対応し得る国際社会,国家,地域社会という様々なレベルでのヘルス・ガバナンスの構築や国内・地域の保健システムの整備が求められており,それらの構築は我が国を含む世界の安全と平和を守る体制の構築にもつながる。さらに,健康な労働者の確保,衛生的な生活環境の整備は,民間セクターが活動を展開する基盤となることから,貿易・投資を促進することにもつながる。

 我が国は,優れた医療技術とコミュニティ・レベルを含めた官民が連携した保健医療システムを有するとともに,経済情勢変化,少子化・高齢化,震災復興などへの対応を通じて培ってきた豊富な経験を有しており,また,これまで2000年,2008年のG7/G8サミットなどを通じて,世界エイズ・マラリア・結核対策基金(グローバルファンド)の設立を含む感染症対策の充実やグローバルな保健人材・財政・情報の整備が世界の重要な課題であることを示し,リーダーシップを発揮してきた。そして,2013年には「国際保健外交戦略」を発表した。保健課題及び保健を扱う主体がますます多様化する国際社会において,これら日本の知見の還元を通じて,国際保健の分野において日本が主導的な役割を果たすことが一層期待されており,その期待に応えることは,我が国自身の利益でもある。

 さらに,健康長寿社会の実現に向けて,2014年,「健康・医療戦略推進法」が成立し,政府に健康・医療戦略推進本部が設置されるとともに,「健康・医療戦略」が策定されたところである。「健康・医療戦略」では,健康・医療に関する国際展開の促進が柱の一つとして掲げられており,新興国・途上国等に対して,各国の実情を十分に踏まえつつ,具体的な医薬品,医療機器等及び医療技術並びに医療サービスを提供したり,医療・介護システムの構築に協力したりすることで,医療・介護分野において相互互恵的な関係を構築することとされた。

 これらを受けて,我が国の経験と知見を総動員して,世界の保健課題の取組に一層貢献すべく,「平和と健康のための基本方針」を健康・医療戦略推進本部の下で,ここに定める。

1 政策目標

 全ての人々の健康が保障され,感染症などの公衆衛生危機・災害などの外的要因にも強い社会の構築を実現するために,感染症の予防・対策強化はもとより,保健システム全体の強化を図る。究極的には,全ての人が生涯を通じて必要な時に基礎的な保健サービスを負担可能な費用で受けられる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の実現を目指す。また,我が国の経験,知見及び技術力や我が国の人材の派遣等を通じ,世界各国の様々な保健課題の取組に貢献することを目標とする。

2 基本方針

 (1)人間の安全保障の考えに基づいた保健協力の推進:

  ア 強靱な保健システムの構築と健康安全保障の確立:

   グローバル化が進展する今日,感染症などの保健課題は,容易に国境を越えて国際社会全体に深刻な影響を与える。エボラ出血熱の感染拡大は,公衆衛生危機に迅速かつ効果的に対応するグローバルヘルス・ガバナンスを強化する必要性を示した。また,大規模自然災害等は開発途上国のみならずその周辺国に大きな影響を与え,多くの人々の健康に被害や,深刻な影響をもたらす。特に,ある国・地域・コミュニティにおける脆弱な保健システムの負の影響が,他の地域・国々にまで及び人々の安全を脅かし得る。平常時の強靱な保健システムの構築は,危機の発生を抑制するとともに発生後も被害を最小化し,個人・地域・国家そして世界の健康上の安全保障,ひいては人間の安全保障の実現につながる。このため我が国は,国際社会と一体となって,感染症対策などと併せ,公衆衛生危機に対応するグローバルなヘルス・ガバナンス強化への貢献,途上国の持続可能かつ強靱な保健システムの構築支援に焦点を当て,また国内においては危機発生時に適時に人的貢献を行う体制を構築することに焦点を当てる。

  イ 保健分野への支援を通じた質の高い成長と貧困撲滅への貢献

   一人ひとりの幸福と尊厳を追求する人間の安全保障の理念を具現化する上で,保健は不可欠な分野である。人々の健康は,一人ひとりの持てる能力の追求を可能とし,社会に活力を与え,質の高い成長とそれを通じた貧困撲滅にも貢献する。全ての人が生涯を通じて,必要な時に基礎的保健サービスを,負担可能な費用で利用できることが重要である。このため,我が国は,UHCが国際社会で主流化するよう引き続き取り組むとともに,UHCを実現するために必要な支援を行うことに焦点を当てる。また,同時に,個別課題解決への対応はUHC実現に必要不可欠な要素であり,これらへの対応にも取り組む。さらに,栄養改善や水・衛生分野など直接疾病予防につながる支援にも焦点を当てるとともに,包括的に相手国の貧困撲滅と人々の健康改善を加速するためにも教育,農業,道路や電気などのインフラ整備との相乗効果を念頭に置く。

  ウ 「誰一人取り残さない」UHCの実現

   今日,依然として脆弱国が存在し,また,一定の経済成長を遂げている国の中にも脆弱な状況に置かれた人々がいる。こうした人々を取り残したままでは,我が国の開発協力の根本にある指導理念である人間の安全保障は具現化できない。「人間一人ひとり」,特に脆弱な立場に置かれやすい貧困層,子ども,女性,障害者,高齢者,難民・国内避難民,少数民族・先住民族などの誰も取り残さないUHCが重要である。特に女性を対象とする保健分野支援は引き続き重視する。また,我が国は,低所得国のみならず中所得国における貧困層や一国内に存在する保健格差にも着目するとともに,人口構成や疾病構造の変化に伴う課題も念頭に協力を行う。さらに,健康の社会的決定要因に着目し,脆弱な立場に置かれた人々の保健改善に資する包摂的できめ細かい支援を実施することも重要である。

 (2)日本の経験・技術・知見等を活用した協力

  これまで様々な保健課題に対応してきた日本は,その過程で人材の育成,知見の蓄積,技術の開発,制度の改善を行ってきた。また,世界に先駆けて超高齢社会を迎える日本は,健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を伸ばすための課題解決先進国でもある。これらの経験を世界の保健課題の解決に活用するために,民間を含む様々な主体からの提案を受け入れ,大学・研究機関などと連携して学術研究の知見を活用する。また,病院建設や医薬品・医療機器の供与などのハード面の協力と合わせて,その運営管理,人づくり,制度づくりなどのソフト面の協力を含めた総合的な協力を展開する。さらに日本の技術や知見を活かし,国際保健分野での課題をイノベーションにより解決する方策も促進する。

 (3)地域別重点方針

  開発協力大綱の地域別重点方針を踏まえた協力を行う。また地域統合の動き,地域レベルの取組,地域横断的な連結性強化の取組が重要な意義を有することも踏まえる。特に以下の地域については個別の方針にも留意する。

  ア 東南アジアでは,高齢化等人口動態の変化や保健ニーズの多様化に留意しつつ,感染症のみならず非感染性疾患への対応を強化しメコン諸国を始めとする各国におけるUHCの達成に向けて,保健サービス水準向上(地方部におけるアクセス改善を含む),疾病予防及び栄養改善に向けた保健協力に取り組む。

  イ 南アジアでは,引き続き,母子保健分野等の保健サービスの水準及びアクセス向上や栄養改善に取り組むとともに,疾病構造の転換を踏まえ非感染性疾患と感染症疾患の双方を念頭に置いた保健協力に取り組む。

  ウ 東アジア・中央アジア・コーカサスでは,域内の格差にも留意し,母子保健,非感染性疾患対策など,国ごとの保健分野における課題に対する支援を行う。

  エ アフリカでは,アフリカ開発会議(TICAD)プロセスで掲げているUHCの推進を念頭に置き,栄養改善や母子保健分野に焦点を当て,基礎的保健サービスの利用改善を図る。また,引き続き重要な課題である感染症対策も視野に入れ,西アフリカ地域におけるエボラ出血熱流行の経験も踏まえ,現在生じている感染症と闘いつつ,今後起こり得る感染症及び公衆衛生危機を未然に防ぐ強靱な保健システムの構築を支援していく。

  オ 中東では,政治・治安情勢の不安定を背景として発生している難民や国内避難民,また脆弱な立場に置かれた貧困層等の保健サービスのアクセス向上を図る。さらに,比較的所得水準の高い国については,日本の優れた医療技術の展開支援にも努める。

  カ 中南米では,国内格差が依然として存在することに留意しつつ,貧困層における保健サービスへのアクセス向上を念頭に協力を実施する。また,比較的所得水準の高い国については,日本の優れた医療技術の展開支援にも努める。

  キ 大洋州,カリブ諸国などの小島嶼国では,小島嶼国ならではの脆弱性克服という観点に留意する。また,大洋州では大きな問題となっている非感染性疾患対策にも配慮する。

3 支援を実施する上での原則と体制

 本政策の実施に当たっては,開発協力大綱の実施上の原則と実施体制を踏まえる。また,「保健関連ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた日本の取組の評価報告書」の提言を踏まえ,実施地域や分野の選択と集中,ドナー間協調を行い,より効果的な保健サービス支援の拡大を行うとともに,これまで支援してきたアジアなどの諸国とも協力しながら,より保健水準の低いアフリカなどの諸国や紛争や災害により脆弱な状況に置かれた国へ協力の幅を一層広げる。

 (1)保健を扱う主体との連携の強化

  保健課題及び開発主体や資金の多様化を踏まえ,国際機関,地域機関,市民社会,民間団体・企業等と効果的な連携を行う。特に以下の連携に留意する。

  ア 政府・政府関係機関間の連携

   様々な国際的保健課題に我が国の経験・技術・知見等を最大限に活かし,貢献していく上では,関係府省及び実施機関間の連携強化及び分野横断的な取組の促進が不可欠であり,この観点から,内閣総理大臣を本部長とする健康・医療戦略推進本部において決定される本政策に基づき,政府・政府関係機関が一体となって,一貫した国際保健協力を実施する。そのため,健康・医療戦略推進本部の下の医療国際展開タスクフォースは,政府・政府関係機関全体としての情報共有と調整を行う。

  イ 官民の連携

   保健分野の協力は民間部門の持つ優れた経験,技術及び知見が世界の保健課題の解決に役立つようにしつつ,経済活動を拡大するための触媒としての機能を果たすよう努める。日本の企業,医療機関,地方自治体,大学・研究機関と連携し,保健人材育成,保健法・制度構築,保健投資促進のための環境整備などの取組を計画策定から事業実施まで一貫して進める。

  ウ 市民社会との連携

   保健分野での協力,特にコミュニティ・レベルでの協力をハード面のみならずソフト面でもきめ細かく実施していくため,現場の多様な考えや要望を詳細に把握するとともに,地域住民・組織と密接に協働し,コミュニティ・レベルの保健システム強化が不可欠であり,この観点から,地域社会に密着した支援の経験・技術・知見を持ち,活動基盤・実績を有する国内外のNGO・市民社会組織(CSO)と連携する。また,事業立案する際には既に当該地で活動するNGOなどとの連携も視野に入れる。

  エ 国際機関,地域機関との連携

   独自の専門性,中立性及びネットワークを有する国際機関・地域機関との協力並びにそれら機関を通じた保健分野への支援を継続するとともに,二国間協力との組合せを通じた支援の相乗効果を図る。また,国際機関を始めとする国際社会と連携して,UHCの推進等の我が国が重視する保健政策の推進を図る。

  オ 他ドナー・新興国・途上国政府との連携

   外交的観点も踏まえ,日本は引き続き他ドナー・新興国との国際保健協力における協調を推進する。また,国際保健政策の実施において,日本の長年の協力により相手国に蓄積された経験・技術・知見,人的資源,ネットワークを有効に活用する。さらに,新興国などとの連携による三角協力は有効であり,今後も継続する。また,国際保健パートナーシップ・プラス(IHP+)など,国際保健分野における連携の枠組みを活用し効果的な協力を行う。

  カ 国内の国際保健協力人材・知的基盤の強化

   産官学が一体となり,政府・政府関係機関に加えて,コンサルタント,研究者,大学や学生,民間企業,NGO・CSOなどにおける国際保健の専門性を有する国際人材の育成を促進し,それら人材が国内外において活躍できる機会の拡大,制度及び体制の整備をする。特に,機動性の確保,専門性の深化,知の蓄積,調査・研究能力の向上,人材育成及び緊急人道支援体制の整備に取り組む。

 (2)効果的・効率的な開発協力推進

  保健に携わる様々な主体と連携しつつ,日本の有する資源を結集して,保健協力の政策立案,実施及び評価のサイクルに一貫して取り組む戦略性を確保する。

  ア 政策・事業立案:

   案件形成に当たっては,相手国の主体性を尊重しつつ,政策協議等も活用した相手国との対話を通じて,我が国からも積極的に提案を行い,対話と協働により相手国に合ったものを共に創り上げることを目指す。その際,保健分野での協力は,女性への配慮等,セクター横断的・広域的な取組が求められることから,相手国における幅広い関係者と協働し,また自助努力を尊重して立案することを心がける。また,案件の目標や方針の策定は,国別援助方針,本政策,相手国の保健政策や保健状況,国際ガイドライン,科学的根拠を踏まえて策定する。

  イ 実施:

   開発途上国が抱える保健課題は多様であり,また,各国の経済状況や前提となる保健システムの状況も様々である。同時に,問題の解決を持続可能とするために,開発効果向上の原則に基づき相手国の自助努力を支援し,自立的発展に向けた協力を行うことも重要である。このため,技術協力,有償資金協力,無償資金協力を相手国の経済や保健システム等の状況に合わせて有機的に組み合わせ,迅速かつ柔軟に運用する。その際,我が国の開発協力とそれ以外の他ドナーや民間の資金・協力との連携の可能性にも留意する。また,このような取組を可能にするため,短・中・長期にわたる協力の方向性につき,国内外の関係者との間で予測可能性の向上に努める。こうした協力により,資金面での貢献に加え,各国の保健システムのガバナンス(財源,人材などのリソースの確保・配分・評価等の在り方に関する意思決定・合意の仕組み)強化等を通じた各国の保健財政資金の効率的・効果的な運用に貢献することを目指す。

  ウ 評価・モニタリング

   PDCAサイクルを十分に意識して,政策レベル(当該国の保健分野に対する支援)及び事業レベルでの評価を適時に行う。政策レベルの評価は,事業実施や今後の国際保健政策決定過程にフィードバックし,協力事業の効果・効率の向上に活用する。また,事業実施中も適切に設定された指標のモニタリングやレビューをオペレーショナル・リサーチなどの手法を用いつつ行い,案件の改善につなげる。事業レベルの評価指標は「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」の指標及び世界保健機関(WHO) Global Reference List of 100 Core Health Indicatorsを踏まえ作成し,その成果の検証にあたっては,インパクト評価なども活用することに留意する。

  エ 国民及び国際社会に対する情報発信:

   我が国の国際保健協力の実施状況や評価については,迅速かつ透明であることが必要である。国民に対して,国際保健政策の意義,説明責任の観点からも,成果,国際的評価などにつき十分な情報提供を行うことに加え,国際社会に対し,日本の国際保健協力とその成果に対する認識を高めることも重要であり,こうした観点から積極的な情報発信に努める。

4 支援のための施策

 (1)公衆衛生危機・災害等の外的要因に対しても強靱な健康安全保障体制を構築する

  公衆衛生危機,災害等が発生した際には,健康被害を最小限に留め,他の通常保健サービスを継続させ,経済社会的影響を最小限に留めて早期回復・復興に寄与することが重要である。近年のエボラ出血熱は,グローバルヘルス・ガバナンスが十分に機能せず,また当該国の保健システムが脆弱であったことにより感染が拡大した。この教訓を踏まえ,当該国政府・関係する国際機関・ドナー・民間企業・NGO等の連携を促進し,各々がその専門性を最大限に活かして公衆衛生危機に対応できるようグローバルなヘルス・ガバナンスの強化が必要であるとの認識に立ち,日本は,国連,WHO,G7等での世界的議論に国内の専門家等の意見を踏まえ参画し,グローバルなヘルス・ガバナンスの再構築に向け主導的役割を果たす。また,緊急時の支援資金メカニズムに積極的に協力する。特に,我が国が強みを有する防災や災害医療の観点からの支援を主導する。さらに,各国レベルでは,国際機関との連携等の下,感染症の予防を強化するとともに,長期的視野に立って,強靱な保健システム構築を支援する。具体的には,保健システム設計や国・地域及びコミュニティ・レベルでの保健人材の育成に関する協力,WHO国際保健規則(IHR)履行強化支援等の貢献を行う。加えて,女性にも配慮し,保健システムの回復等の復興支援にも努める。また,緊急時においては,国際緊急援助隊の派遣を含む人的支援,物資支援,資金支援などを組み合わせ,他のドナー国,関係国際機関及びNGOと協調しつつ,効果的,効率的な支援を実施する。さらに,その際,感染国・感染地域へ迅速な人的支援ができるよう日本国内の人材を派遣する仕組みを整備する。

  これには,以下のような取組が含まれる。

1 国際機関等への協力の強化による感染国及び感染地域での感染の拡大防止

○ WHO,世界銀行(WB)等のグローバルヘルス・ガバナンスの議論への貢献

○ IHR,国際感染症危機管理における人材育成(GOARN)の基盤強化への支援

○ WHOの緊急対応基金等への拠出の検討

○ WBによるパンデミック発生時の機動的資金提供メカニズムの構築に係る拠出の検討

○ 国際通貨基金(IMF)による大規模災害抑止・救済基金への拠出の検討

○ 国連開発計画(UNDP),国際連合児童基金(UNICEF),国連人口基金(UNFPA)などの実施機関との協力及び政策対話

2 国際機関等との協力強化を通じた感染症対策

○ グローバルファンドによる三大感染症対策の強化(注:2014年のエボラ出血熱による死者約1万人に及んだが,三大感染症による死者は約360万人(2013年WHO))

○ Gaviワクチンアライアンスによる予防接種活動等の強化

○ グローバル技術振興基金(GHIT)による新薬開発等に関する活動の強化

3 途上国における保健システムの強化による感染症対策の強化

○ アフリカ及びアジアにおける,無償資金協力,有償資金協力,技術協力の有機的な連携を通じたODAを活用した保健システム強化・UHCの推進

○ グローバルファンドを通じた保健システム支援の強化(グローバルファンド等の垂直アプローチに比重の置かれたプログラムで育成された人材のより広範な活用)

○ 途上国におけるIHR徹底に向けた検査能力・サーベイランス能力・検疫能力等の強化(これまで日本が支援してきた研究所・拠点機関の能力強化及びネットワーク化を含む)

○ 世界健康安全保障アジェンダ(GHSA)を通じたIHR履行支援強化

○ 「より良い復興(Build Back Better)」の考えに基づくセクター横断的な復興支

4 感染国・感染地域への迅速な人的支援のための整備

○ 感染国等に対する効果的な支援の検討

○ 国際緊急援助隊・感染症対策チーム派遣の仕組みの新設,派遣に必要な資機材の確保及び管理・維持

 ・感染症危機管理専門家養成プログラム等による人材育成の推進

 ・国際緊急援助隊・人材登録システムの構築

 ・国際的に求められる感染症の国内人材(感染症専門医を含む)の把握及びその人材の質的及び量的充実の方策(国際保健人材の育成・登録を含む)の検討

○ WHO等国際機関との連携

 ・国際機関(WHO等),CDC等を通じた感染症情報等の収集の強化

 ・国立感染症研究所における情報収集・分析能力,検査能力の強化

 ・国際的に脅威となる感染症についての判断能力の向上

○ 派遣人材等に係る感染時における対応の仕組み構築の検討(現地での対応及び日本への搬送等)

 (2)生涯を通じた基礎的保健サービスの継ぎ目のない利用を確立し,UHCを達成する

全ての人が生涯を通じて基礎的保健サービスを必要な時に負担可能な費用で受けることができるUHCの実現を目指す。提供されるべきサービスには,栄養改善,母子保健,性と生殖の健康,エイズ・マラリア・結核・ポリオなどの感染症対策,非感染性疾患対策,高齢者の医療介護,口腔衛生などあらゆる基礎的保健サービスを含む。これらの基礎的保健サービス供給のために,「リーダーシップとガバナンス」,「保健情報」,「保健人材」,「医薬品や医療機器」のそれぞれの保健システムの要素を強化し,基礎的な保健サービスの内容の拡大,サービス対象者の拡大,サービス利用時の費用負担の軽減の三点を達成する。また,これら基礎的保健サービスを負担可能な費用で受けるためには,持続的かつ衡平な「保健財政」の構築が不可欠である。さらにはこうした仕組みの構築に当たっては,生活習慣の変化,人口高齢化に対応して増大するニーズ(認知症,メンタルヘルス,非感染性疾患等)に対応したサービス供給体制(地域包括ケアシステムなど)も見据える必要がある。これらの支援では,国民皆保険制度,データヘルスなど日本の経験・技術・知見の共有を積極的に行うとともに,UHC実施に向けた手法については,これまでの研究成果(日・世銀UHC共同研究,2016年G7伊勢志摩サミットに向けたグローバルヘルス・ワーキンググループ(GHWG)の研究結果等)も踏まえる。さらに,これまでの日本の国際保健政策において得られた経験と知見を整理し,その対外発信に努めるとともに国際保健政策の理念・潮流の形成過程に反映されるよう努める。また,国際会議(G7伊勢志摩サミット,G7神戸保健大臣会合,TICADなど)の機会も,UHC推進,保健課題解決に向けた議論を主導するために活用する。

 これには,以下のような取組が含まれる。

1 UHCの実現に向けた途上国の保健システム強化支援

○ 各国の保健政策策定・履行支援

○ 地域包括ケア・地域医療ビジョンの普及支援

○ 保健所制度の構築支援

○ 戸籍・住民登録の整備・人口動態調査などを通じた基礎保健情報整備支援

○ ICTを活用した保健情報の収集と活用の支援

○ 保健分野の行政官の能力強化・医療者の技術向上支援

○ ボランティア保健ワーカーの育成支援

○ 基礎的保健サービスの概念研究と国際展開

○ 医療施設整備・医療機器・医薬品供与等の基礎インフラ支援

○ 予防・診断・治療・リハビリのための医薬品及び医療機器の供与

○ 病院へのアクセス改善等,保健事情の改善にも資する経済インフラ支援

○ 医療・介護等に係る財政の仕組みに関する研修

○ UHCを達成する保健財政制度の研究促進

○ UHCの項目達成を条件とした政策借款の強化・展開

○ ローン・コンバージョン等の官民連携を活用した疾病対策支援

○ グローバルファンド,Gaviワクチンアライアンス等によるUHCの推進に資する取組への貢献

2 保健課題への対応

○ Global Financing Facilityと協働して母子保健の一層の充実

○ 母子健康手帳の普及等の母子継続ケアの展開

○ 疾病負担を低減させるための予防的介入(禁煙など)

○ 疾病の早期発見・早期治療に資する健診事業の推進

○ 啓蒙活動を含むNCDsの予防対策・加療支援

○ 認知症,精神保健分野への支援

○ 栄養改善事業支援プラットフォームの設立を始めとした官民連携を通じた栄養改善支援

○ MDGsの達成度を勘案した,乳幼児・妊産婦死亡率削減,エイズ・マラリア・結核対策などの支援

○ 基礎的保健サービス・パッケージの開発支援

○ ポリオ根絶のための支援

3 国際機関・NGO等の高い専門性を活かした協力強化

○ UNFPA,国際家族計画連盟(IPPF)によるリプロダクティブヘルス,人口開発分野での協力,特に女性に配慮した活動への協力

○ UNDP,UNICEF,WB等によるUHCに資する活動支援強化

○ グローバルファンド,Gaviワクチンアライアンスによる感染症予防への協力

○ 日本NGO連携無償資金協力,草の根技術協力等による日本NGOの保健・衛生分野の事業支援

○ 草の根・人間の安全保障無償資金協力による現地NGO等を通じた保健・衛生分野の支援

4 UHCの推進に向けた国際的議論への貢献

○ 国連総会,G7伊勢志摩サミット,G7神戸保健大臣会合,TICAD等の国際会議を活用したUHCの普及促進,国際アジェンダ化

○ 我が国の国際保健分野における事業紹介とそれの評価の公表を通じたモデルケースの提供

○ 国際機関との共同研究等を通じたUHCを実践するためのツールの研究・開発

  (3)保健システム強化と健康安全保障体制構築のために,日本の保健人材,知見,医薬品,医療機器及び医療技術並びに医療サービスを活用する

  様々な保健課題への対応を通じ,我が国において育成されてきた人材や知見を活用し,相手国の保健システムを強化する。また,各国中央政府や地方のあらゆるレベルで保健政策の立案及び執行ができる人材が機能することが必要であるため,途上国の要請を踏まえつつ,国内外の人材育成,能力強化及び我が国の派遣体制の整備を行い,国際保健協力及び健康安全保障体制構築に貢献する。

  また,日本の医薬品,医療機器及び医療技術並びに医療サービスの積極的な活用及び日本の医療機関・企業等の持続的な事業展開に向けた取組を支援することを通じて,新興国・途上国等の健康・医療水準の向上に貢献していく。また日本の研究開発力を活かしたイノベーションを通じて,開発途上国向けの医薬品供給を官民連携で推進する。そのために,日本の治験や薬事承認などの薬事規制制度や基準への理解向上と国際調和に向け他国と共同作業を行い,国レベルでの信頼関係強化を図る。また,国際共同臨床研究及び治験参加機関の体制支援並び国際的ネットワークの構築への協力を行う。それを使って,例えば,医薬品,医療機器,医療技術の有効性と安全性の評価ガイドラインのための研究を進め,国際規格・基準の策定を提案し,国際調和を推進する。さらに,アジア全体の産学官創薬プラットフォームの発展を支援する。また,遠隔医療など情報通信技術の積極的な活用を推進する。こうした取組により,健康長寿社会の形成に資する新たな産業活動(注)を創出し,またその産業の海外展開が促進し,途上国・新興国における医療の質の向上にも寄与するとともに,我が国の経済の成長や医療福祉先進国としての発展にもつながり得る。(注:神奈川県が取り組んでいる「健康・未病産業や最先端医療関連産業」の育成と国際的な情報発信等)

  これには,以下のような取組が含まれる。

○ 日本式医療拠点の構築を通じた現地医療水準向上への貢献

○ 人材育成や制度整備等を通じた医薬品・医療機器・サービス等の海外展開支援

○ GHITを通じ,我が国の民間企業,大学,研究機関が持つ知見を活かし,顧みられない熱帯病(NTDs)等の感染症に対する新薬開発・供給支援の強化

○ 日本製の医薬品・医療機器及び医療技術並びに医療サービスの技術研修や流通支援

○ 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)等を通じた途上国研究機関と日本の研究機関との共同研究を通じたイノベーションの推進

○ 医薬品・医療機器のWHO認定取得の側面支援

○ ICTを活用した健康情報の登録,電子カルテの使用やe-Health充実に向けた支援等を通じた効果的な予防・健康管理,遠隔医療による均一な医療サービスの提供支援