[文書名] 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言
目次
序文・・・5
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言・・・7
目標と適用範囲・・・8
一般方針・・・10
雇用・・・12
訓練・・・15
労働条件・生活条件・・・16
労使関係・・・8
別添I・・・21
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言に関連するILO条約・勧告・実務規定一覧
別添II・・・25
運用のためのツール
序文
この多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(多国籍企業宣言)に規定された原則は、雇用、訓練、労働条件・生活条件、労使関係等の分野に関し、多国籍企業、政府、使用者団体及び労働者団体に対してガイドラインを提供している。この指針は、主として、ILO条約・勧告に盛り込まれている原則に基づくものである。また、1998年の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言とそのフォローアップ」は、すべての人にディーセント・ワークを実現するという目的にとって欠かせない要素であると普遍的に認識されているが、この宣言も多国籍企業宣言を支持している。別添1は、多国籍企業宣言に関連するILO条約・勧告の一覧である。
社会・経済のグローバル化の過程において多国籍企業が顕著な役割を継続して果たしている今日、多国籍企業宣言の諸原則の適用は、対外直接投資及び貿易並びにグローバルサプライチェーンの使用の文脈において重要かつ必要である。関係者は、宣言が掲げる原則を、多国籍企業の活動とガバナンスが社会・労働分野においてもたらすプラスの効果、すべての人にディーセント・ワークを保障するという、持続可能な開発のための2030アジェンダに掲げられた普遍的な目標を促進するためのガイドラインとして使う機会が与えられることになるのである。これらのガイドラインは、多数利害関係者間のパートナーシップや国際協力のパートナーシップなど、企業や政府が単独では対処できない多くの課題に対処するための協調体制を構築する際にも用いることができる。
この文書は、微妙な問題が絡み高度に複雑化した活動分野における社会政策ガイドラインを提供するものである。すべての関係者がこの宣言を遵守すれば、ディーセント・ワーク、包摂的な経済の成長及び持続的な発展をこれまでより容易にする環境づくりに貢献することになるであろう。本多国籍企業宣言の原則をすべての関係者が適用することが奨励される。すべての当事者によるこの原則の利用を促進するため、国際労働事務局理事会は別添2に掲げる運用のためのツールを採用した。
国際労働機関
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言
国際労働機関(ILO)は、独自の三者構成、権限及び社会分野における長い経験により、政府、労使団体及び多国籍企業自体の指針のための原則を発展させる上で必要不可欠な役割を有している。
ILO(国際労働事務局)理事会は、第204回会期(1977年11月)において、多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言を採択し、続く第279回会期(2000年11月)及び第295回会期(2006年3月)においてこれを改訂した。理事会は、第329回会期(2017年3月)において、2008年に国際労働総会(総会)によって採択された公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言、新たな国際労働基準、持続可能な企業の促進に関する総会一般討議の結論(2007年)、グローバル・サプライチェーンにおけるディーセントワークに関する総会一般討議の結論(2016年)に加え、ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合「保護、尊重及び救済」枠組実施のために(2011年)、特に本宣言とのかかわりの深い持続可能な開発のための2030アジェンダにおける目標とターゲット(2015年)、また開発のための資金確保の点におけるアディスアベバ行動目標(2015年)、気候変動に関するパリ協定(2015年)、OECD多国籍企業ガイドライン(2011年改訂)など、2006年以降の進展を考慮し、本宣言の更なる改訂を決議した。よって、理事会は、多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言(以下、多国籍企業宣言という)についての以下の改訂をここに承認し、ILO加盟国政府、関係労使団体及びILOの加盟国において活動している多国籍企業に対し、宣言に示されている諸原則を遵守するよう要請する。
目標と適用範囲
1. 多国籍企業は、ほとんどの国の経済及び国際経済関係において重要な役割を果たしている。この役割に関しては、使用者及び労働者並びにそれらの団体のみならず、政府の関心もますます増大している。このような企業は、国際的な直接投資、貿易やその他の手段を通じて、資本、技術及び労働のより効率的な活用に寄与することにより、その本国及び受入国に多大な利益をもたらすことができる。また、これらの企業は、政府によって設定された持続可能な開発政策の枠内において、経済的・社会的福祉の増進、生活水準の改善及び基本的ニーズの充足、直接及び間接の雇用機会の創出、世界中での結社の自由を含む人権の享有に対して重要な寄与をなしうる。他方、多国籍企業の国家の枠組を超えた活動編成における進展は、経済力の集中の濫用並びに国の政策目標及び労働者の利益との衝突をもたらす可能性がある。加えて、多国籍企業の複雑性並びにその多様な構造、活動及び方針を明確に認識することの困難性は、ときとして、本国、受入国又はその双方に懸念を生じさせる。
2. この「宣言」の目標は、多国籍企業が経済的・社会的進歩及びすべての人へのディーセント・ワークの実現に対してなしうる積極的寄与を奨励し、その各種の活動がもたらす困難を最小にし、かつ解決することである。
3. 上記の目標は、労働行政及び労働監督の分野を含む適切な法及び政策並びに政府及びすべての国における政府と労使団体との間の協力によって採用された方策及び行動によって促進されるであろう。
4. 本宣言における原則は、そのような方策及び行動を取るに際して、また、ILO憲章及び関連する条約・勧告に規定された諸原則に基づくものを含めて、社会進歩及びディーセント・ワークを促進するような社会政策を採用するに際して、政府、使用者団体、労働者団体及び多国籍企業の指針となることを意図している。
5. これらの原則は、多国籍企業と国内企業の間に不平等な取扱いを導入したりまたは維持することを目的とするものではない。これらの原則は、すべての企業にとっての好ましい慣行を反映している。多国籍企業及び国内企業は、それぞれ多国籍企業宣言の原則が関係するときは常に、その一般的行動、特に社会的な慣行について、同一の行動をとることを期待される。
6. その目的に資する上で、多国籍企業宣言は、多国籍企業の厳密な法的定義を必要としていない。本項は、宣言の理解を促進することを意図しているものであって、かかる定義を提供することを意図するものではない。多国籍企業には、その所有形態が完全な国有であれ、国、民間の両方であれ、また完全な民間であれ、本国外において、生産、流通、サービスその他の施設を所有するか、支配している企業が含まれる。多国籍企業は、その規模の大小を問わず、また世界のいかなる場所に本社を有するかを問わない。多国籍企業内の他の構成体との関係におけるそれぞれの構成体の自主性の程度は、当該構成体間の結びつきの性質及び活動分野によって、また、その所有形態、規模並びに当該企業の活動の性質及び立地場所についての広範な多様性に関係して企業ごとに大きく異なっている。この宣言において用いられている「多国籍企業」という語は、別に規定されない限り、この宣言に規定された原則の遵守を促進するために、必要に応じ各種構成体が互いに協力し、援助し合うであろうとの期待の下に、当該構成体間における責任の配分に応じて、各種の構成体(親会社、現地の構成体、その双方又は組織全体)を意味するものとして用いられている。この関係で、多国籍企業はしばしばその生産過程の一部として他の企業と関わり合って事業を行っており、それゆえに本宣言の目的達成にさらに貢献できるものと認識される。
7. この宣言は、政府、使用者団体、労働者団体及び多国籍企業がその自発的意思に基づいて遵守することが勧められる雇用、訓練、労働条件・生活条件及び労使関係の分野における原則を規定する。この原則は、何らかのILO条約の批准から生じる義務に制限を加えたり、それ以外の影響を与えたりするものではない。
一般方針
8. 多国籍企業宣言に関係のあるすべての当事者は、国家の主権を尊重し、国家の法令に従い、地域の慣行を十分考慮し、関係のある国際基準を尊重すべきである。また、これらの当事者は、国内法及び受諾した国際的義務に従いながら、その自由になした約束を尊重すべきである。当事者は、ILO憲章並びに表現及び結社の自由の持続的な進歩に不可欠であると定めるILOの諸原則とともに、国連総会で採択された世界人権宣言(1948)及びこれに対応した国際人権規約(1966)を尊重すべきである。
9. すべての当事者は、1998年に採択された「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言とそのフォローアップ」の実現に貢献すべきである。すべての加盟国は、該当する中核的条約を批准していない場合でも、ILOに加盟しているという事実から、誠意をもって、かつ憲章に従い、これら条約の対象となっている基本的権利に関する原則、すなわち、(a)結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認、(b)あらゆる形態の強制労働の禁止、(c)児童労働の実効的な廃止、(d)雇用及び職業における差別の排除を誠実に遵守し、促進し、実現する義務を負う。1998年宣言で認識された労働における基本的な原則及び権利に関する条約を批准していない国の政府に対しては、その早期の批准が求められる。多国籍企業は、自らの事業を通じ、本宣言の目的達成に大きく貢献することができる。
10. 多国籍企業宣言に定められた原則は、本国及び受入国の政府、労使団体及び多国籍企業自体の行動に委ねられる。したがって、同原則は、異なる主体がそれぞれ特定の役割を演じるべきであるという事実を反映している。この点に関し、本宣言の適用上、
(a)「ビジネスと人権に関する指導原則:国際連合『保護、尊重及び救済』枠組実施のために」(2011年)は、人権に関する国と企業それぞれの義務と責任の概要を定めている。指導原則は、(i)人権と基本的自由を尊重、保護及び実現するという国の既存の義務(「国の人権保護義務」)、(ii)社会において特別な機能を果たす組織として、適用されるすべての法律の遵守と人権尊重を要求される企業の役割(「企業の人権尊重責任」)、並びに、(iii)権利義務の定めに違反があった場合、これに対応する適切かつ実効的な救済措置を設ける必要性
(「救済アクセス」)の認識をその基礎としている。
(b)指導原則はすべての国、並びに、その規模、業種、事業状況、所有形態及び構造に関係なく、多国籍企業その他のすべての企業に適用される。
(c)企業の人権尊重責任は、その事業の場所に関係なく、多国籍企業を含む企業が、(i)自社の活動を通じて悪影響を引き起こし、またこれを助長するのを回避すること、悪影響が起こった場合対処すること、及び、(ii)自社が寄与していなくとも、その事業、商品又はサービスに直接関連する取引関係の人権に対する悪影響の予防または緩和を求めることを要求している。
(d)多国籍企業を含む企業は、少なくとも、国際人権章典、並びに労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言に定める基本的権利に関する原則において表明された人権として理解される、国際的に認められた人権に関連する実際の及び潜在的な悪影響を特定、予防、緩和するとともに、自社がこれにどのように対処するかについて責任を持つため、詳細な調査(デュー・ディリジェンス)を実施すべきである。
(e)多国籍企業を含む企業は、人権リスクを測定するため、自社が自らの活動を通じ、又は、その取引関係の結果として関与する可能性のある、実際の又は潜在的な人権への悪影響を特定、評価すべきである。この過程には、潜在的に影響を受けかねない集団のほか、労働者団体を含め、該当する企業の規模並びにその事業の性質及び内容から見て適切な利害関係者との有意義な協議を含めるべきである。多国籍企業宣言の目的を達成するため、この過程では、結社の自由と団体交渉及び継続的な過程としての労使関係と社会対話が果たす中心的な役割に配慮すべきである。
11. 多国籍企業は、事業活動を行う国において確立した一般政策目標を十分考慮すべきである。その活動は、当該国における国内法令に合致し、当該国の開発の優先度、社会的目標及び国家構造と調和を保つべきである。この趣旨で、多国籍企業、政府、そして適当な場合には、国内の関係のある使用者及び労働者の団体との間で協議がなされるべきである。
12. 受入国政府は、多国籍企業がその国内で行う事業について、本宣言に従い好ましい社会慣行を促進すべきである。本国政府は、当該国の多国籍企業が国外で行う事業に関し、関連国際基準のみならず、受入国における社会及び労働に関する法律、規則並びに慣行を考慮しながら、本宣言に従って好ましい社会慣行を促進すべきである。受入政府及び本国政府は、必要が生じた場合には常に、どちらか一方の発議に基づいて協議するようにすべきである。
雇用
<雇用促進>
13. 政府は、持続可能な経済の成長及び発展を刺激し、生活水準を向上し、雇用についての需要を充たし、かつ、失業及び不完全就業を克服するため、自由に選択された生産的な完全雇用及びディーセント・ワークを促進する積極的な政策を主要目標として宣言し、かつ追及すべきである。
14. このことは、失業及び不完全就業が最も深刻な問題である受入国政府の場合、及び発展途上地域では特に重要である。この点に関連して世界雇用戦略(2003年)、持続可能な企業の促進に関する国際労働総会一般討議の結論(2007年)、グローバル・ジョブズ・パクト(2009年)及び持続可能な開発目標における第8目標に留意すべきである。
15. 上記の13項及び14項は、本国及び受入国において、その中で多国籍企業が雇用に及ぼす影響に対して十分な注意が払われるべき枠組を定めるものである。
16. 多国籍企業は、特に発展途上国において活動する場合には、雇用の確保や企業の長期的発展ばかりでなく、当該政府の雇用政策及び目標をも考慮しながら、雇用機会の増進及び雇用水準の向上に努めるべきである。
17. 多国籍企業は、活動を開始する前に、適当な場合には、その雇用計画について、できる限り国家の社会開発政策との調和を保つために、権限ある機関並びに国内の使用者及び労働者の団体と協議すべきである。こうした協議は、国内企業の場合と同様に、多国籍企業と、労働者団体をも含めた全当事者との間で継続されるべきである。
18. 多国籍企業は、すべてのレベルで受入国の国民の雇用、職業的発展、昇進及び昇格を優先すべきであり、その際、適当な場合には、そこで雇用される労働者の代表又はこれら労働者の団体及び政府機関と協力し合うべきである。
19. 多国籍企業は、発展途上国において投資活動を行う際には、直接的・間接的に雇用を創出するような技術の利用が重要であることを考慮すべきである。生産過程の性質及び当該経済部門に広く見られる諸条件によって許容される程度において、多国籍企業はその技術を受入国のニーズ及び特色に適合させるべきである。またこれら企業は、可能であるならば、受入国における適切な技術の開発に参画すべきである。
20. 拡大する世界経済の中で発展途上国の雇用を促進するために、多国籍企業は、実行可能な場合には、受入地の国内企業と部品及び設備の生産契約を締結すること、その地域の原材料を使用すること及びその地域における原材料加工を段階的に促進することを検討すべきである。このような諸措置は、多国籍企業が、この宣言の原則に包含されている責任を回避するために利用されるべきではない。
21. 政府は、ディーセント・ワークの欠如が非公式経済において最も顕著であることを認識し、公式経済への移行を促進するための統合的政策枠組みを策定、実施すべきである。多国籍企業及びそれ以外の企業も、この目的に貢献すべきである。
<社会保障>
22. 政府は、適用可能な場合には、各国の社会保障制度の基本的な要素として、社会的保護の土台を構築、維持するとともに、ILOの社会保障基準を指針として、できる限り多くの人々により高水準の社会保障を段階的に確保する社会保障の拡充戦略を通じて、社会的保護の土台を実施すべきである。社会的パートナーは、これら政策の促進につき役割を果たすことができる。多国籍企業及びそれ以外の企業は、自社が提供するプログラムを通じ、公的社会保障制度を補完するとともに、その発展のいっそうの促進に役立つこともできる。
<強制労働の撤廃
23. 政府は、強制労働を予防、撤廃し、その被害者を保護し、補償及びリハビリテーション等の適切かつ実効的な救済措置へのアクセスを提供するとともに、強制労働の加害者を処罰するための実効的な措置を講じるべきである。政府は、労使団体との協議の上で、国内政策と行動計画を策定すべきである。これには、権威ある機関により、適当である場合には労使団体その他の関係団体との協議の上で、組織的行動がなされるべきである。
24. 政府は、強制労働を取り締まるため、使用者と企業に対し、その事業または自社が直接に関係する可能性のある商品、サービス若しくは事業において、強制労働のリスクを特定、予防、緩和するとともに、自社がこれにどのように対処するかに責任を持つための指針と支援を提供すべきである。
25. 多国籍企業は国内企業と同様に、その能力の範囲内で、自社の事業における強制労働の禁止と撤廃を確保するための即時かつ効果的な措置をとるべきである。
<児童労働の実効的廃止:就業最低年令と最悪の形態>
26. 政府は、児童労働の実効的廃止を確保するための国内政策を策定し、緊急に対処すべき事項として最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確実にするための即時かつ効果的な措置をとるとともに、年少者が肉体的精神的に完全な発達にいたる年令まで、就業の最低年令を段階的に引き上げるべきである。
27. 多国籍企業は、国内企業と同様に、その事業における児童労働の効果的な廃止を確実にするために、就業の最低年令を尊重すべきであり、また、緊急に対処すべき事項として、その能力の範囲内で、最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃を確保するための即時かつ効果的な措置をとるべきである。
<機会及び待遇における均等>
28. 政府は、人種、皮膚の色、性、宗教、政治的見解、国民的出身又は社会的出身に基づくあらゆる差別を撤廃するために、雇用における機会及び待遇の均等を促進するための政策を遂行すべきである。
29. 政府は、男女労働者の同一価値労働同一賃金を促進すべきである。
30. 多国籍企業は、その活動を通じて、18項において企図された方策、又は、歴史的な差別形態を矯正し、それによって雇用における機会及び待遇の均等を拡大しようとする政府の政策を害することなく、差別禁止原則を指針とすべきである。したがって、多国籍企業は、資格、技能及び経験を、すべてのレベルにおける労働者の採用、配置、訓練及び昇進の基礎とすべきである。
31. 政府は、多国籍企業に対して28項で言及されたいかなる根拠に基づく差別をも要請又は奨励すべきではなく、適当である場合には、政府の側から、雇用におけるこのような差別の回避についての継続的な指導が奨励される。
<雇用の安定>
32. 政府は、様々な産業部門の雇用における多国籍企業の影響を慎重に検討すべきである。すべての国で、多国籍企業はもとより、政府においても、多国籍企業の活動が雇用及び労働市場に及ぼす影響に対処するための適切な方策を講じるべきである。
33. 多国籍企業は、国内企業と同様に、積極的な雇用計画を通じて、各企業が雇用する労働者に対して安定した雇用を与えるよう努めるべきであり、また、雇用安定及び社会保障に関する自由な交渉の結果負担した義務を遵守すべきである。多国籍企業は、その柔軟性に鑑みて、特にその活動の中断が長期的失業を強める可能性が高い国においては、雇用の安定を促進するための主導的役割を果たすよう努めるべきである。
34. 多国籍企業は、雇用に重大な影響を及ぼすような事業活動の変更(合併、業務の譲渡又は生産の移転から生じるものを含む)を検討するに当っては、悪影響を最大限に緩和するために、共同して検討を行いうるよう、適切な政府機関、当該企業が雇用する労働者及びその団体の代表に対して、かかる変更についての合理的な予告を行うべきである。以上のことは、集団的レイオフ又は解雇を伴う構成体の事業閉鎖の場合に特に重要である。
35. 恣意的な解雇手続きは避けるべきである。
36. 政府は、多国籍企業及び国内企業と協力して、雇用関係が終了した労働者に対し何らかの形態の収入を保障する措置を講じるべきである。
訓練
37. 政府は、すべての関係当事者と協力しながら、雇用と密接に関連した職業訓練及び職業指導についての国の政策を発展させるべきである。これは、多国籍企業がその中で訓練方針を遂行すべき枠組である。
38. 多国籍企業は、その活動において、国の開発政策のみならず、その企業自体のニーズに応えるためにも、適当な場合には、受入国において自らが雇用するすべてのレベルの労働者に対して、適切な訓練が与えられることを確保すべきである。このような訓練は、可能な限り、一般的に有益な技能を開発し、キャリアアップの機会と生涯教育を増進するものとすべきである。この責任は、適当な場合には、国の機関、使用者団体及び労働者団体並びに権限のある地域的、全国的又は国際的機関との協力のもとに遂行されるべきである。
39. 発展途上国で活動を行う多国籍企業は、当該国の国内企業とともに、受入国政府によって奨励され労働者団体及び使用者団体によって支持される特別の基金を含む諸計画に参加すべきである。かかる計画は、職業指導を提供するばかりでなく、技能の習得、生涯教育及び技能開発を奨励することをも目的とすべきであり、計画を支持する当事者により共同して管理されるべきである。また、実行可能な場合には、多国籍企業は、国家開発への一助として、政府によって編成された訓練計画を助成するために熟練技能者のサービスを提供すべきである。
40. 多国籍企業は、政府と協力しながら企業の効率的活動と両立する範囲で、例えば労使関係のような適切な分野における現地管理者の経験を拡大する機会を、当該企業全体において提供するようにすべきである。
労働条件・生活条件
<賃金、給付及び労働条件>
41. 多国籍企業がその事業遂行に伴って提供する賃金、給付及び労働条件は、受入国における類似の使用者が提供するものに比較して、労働者にとって不利でないものであるべきである。他に類似の使用者が存在していないところでは、できる限りよい賃金、給付及び労働条件を提供すべきである。その際、(a)当該国における賃金の一般水準、生活費、社会保障給付、他の社会的集団に関連する生活水準を考慮した労働者及びその家族のニーズ、及び(b)当該国の経済開発の要請、生産性のレベル、高いレベルの雇用の獲得保持の要望などを含む経済的要素等が考慮されなければならない。また、使用者が労働者に対して住宅、医療または食糧のような基本生活上の便益を提供する場合には、これらは良好な水準であるべきである。
42. 特に発展途上国において、政府は、低所得層や低開発地域が多国籍企業の活動からできるだけ多くの利益を得ることを確保するべく適切な方策を講じるように努めるべきである。
<安全衛生>
43. 政府は、多国籍企業及び国内企業の双方が、適切な安全衛生水準を提供し、職場における安全衛生を段階的に達成しようとしている企業において安全衛生の予防文化の醸成に貢献することを確保すべきである。これには職場における暴力への取り組みや安全の醸成への配慮も含まれる。職業病の一覧表を含む関連の国際労働基準、並びに労働安全衛生に関する現行のILO出版物リストに掲載されている実務規程及び手引きも考慮に入れるべきである。労働災害または業務上の傷病の被害者に対しては、補償が与えられるべきである。
44. 多国籍企業は、当該国の要求に従い、特別な危害についての知識も含めて企業全体における関連する経験に留意しながら、安全及び衛生について最高の水準を維持すべきである。また、多国籍企業は、当該地域での活動に関係のある安全衛生基準であって、当該企業が他の国においては遵守しているものに関する情報を、労働者代表に対し、また、要請のある場合は、当該企業が活動しているすべての国における権限ある機関及び労使団体に対して提供すべきである。特に、新しい生産品及び工程に関係する特別な危害及びこれに関連する保護措置を関係者に周知すべきである。また、多国籍企業は、類似の国内企業と同様、産業における安全及び衛生上の危害の要因を検討するに際して、また、その検討から得られた改善策を企業全体として適用するに際して主導的役割を果たすことが期待される。
45. 多国籍企業は、安全及び衛生に関する国際基準の準備及び採択に関して、国際機関の活動に協力すべきである。
46. 多国籍企業は、国内慣行に従い、安全及び衛生について権限ある機関、労働者代表及び労働者団体、並びに確立された安全及び衛生に関する組織と十分に協力すべきである。適当な場合には、安全衛生に関する事項は、労働者代表及び労働者団体との協約の中に組み入れられるべきである。
労使関係
47. 多国籍企業は、その事業の遂行を通じて、労使関係の基準を遵守すべきである。
<結社の自由及び団結権>
48. 国内企業に雇用される者と同様、多国籍企業に雇用される労働者は、事前に認可を受けることなく、自ら選択する団体を設立し、及びその団体の規約に従うことのみを条件としてこれに加入する権利をいかなる差別もなしに有すべきである。また、これらの労働者は、雇用に関する反組合的な差別行為に対して十分な保護を受けるべきである。
49. 多国籍企業又はそこで雇用されている労働者を代表する団体は、その設立、任務遂行又は管理に関して、相互が直接に又は代理人もしくは構成員を通じて行う干渉に対して十分な保護を受けるべきである。
50. 地域の事情に鑑みて適当な場合には、多国籍企業は代表的使用者団体を支持すべきである。
51. 多国籍企業に関して、当該企業又はそこで雇用される労働者を代表する団体に対して、自ら選択する国際的な労働者団体及び使用者団体に加入することを認めることが重要であることに鑑み、未だ第87号条約第5条の原則を適用していない国の政府は、それを適用するよう要請される。
52. 受入国政府が外国からの投資を誘引する特別な奨励措置を提供する場合、かかる奨励措置は、労働者の結社の自由又は団結権及び団体交渉権に対する制限を含むべきでない。
53. 企業活動の機能並びに労働者代表及び労働者団体との関係を規律している正常な手続きを阻害しない限りにおいて、多国籍企業及び国内企業の労働者代表は、互いに協議し意見交換するために会合するのを妨げられるべきではない。
54. 政府は、国内の地域的又は全国的関係団体の招へいによって、共通の関心事項を協議するために外国から来る労使団体の代表の入国を、その資格で入国しようとしているという理由だけで制限すべきではない。
<団体交渉>
55. 多国籍企業に雇用される労働者は、国内法令及び慣行に従い、自らの選択により、団体交渉の目的で認定された代表的団体を有する権利を持つべきである。
56. 労働協約により雇用条件を規制する目的をもって行う使用者又は使用者団体と労働者団体との間の自主的交渉のための手続の十分な発達及び利用を奨励かつ促進するため、国内事情に適する措置がとられるべきである。
57. 多国籍企業は、国内企業と同様に、効果的な労働協約の発展を助けるために必要な便宜を労働者代表に提供すべきである。
58. 多国籍企業は、活動している各国において雇用している労働者から正当に授権された代表が、交渉事項に関する決定権限を与えられた経営陣の代表と交渉を行うことを可能にすべきである。
59. 雇用条件についての労働者代表との誠実な交渉において、又は労働者が団結権を行使している間は、多国籍企業は、交渉に不当な影響を与えること、又は団結権の行使を妨げることを目的として関係国から事業活動の単位の全部又は一部を移転する権能を利用すると威嚇すべきではない。また、多国籍企業は、労働者代表との誠実な交渉または労働者の団結権の行使を阻害する目的で、他国における関連企業から労働者を移転すべきではない。
60. 労働協約は、その解釈及び適用をめぐって生じる紛争を解決するための規定、並びに相互に尊重された権利及び責任を確保するための規定を含むべきである。
61. 多国籍企業は、労働者代表に対し、関係する構成体と有意義な交渉をするのに必要な情報を提供すべきであり、また、現地の法律及び慣行に合致する場合には、労働者代表に対し、構成体又は適当な場合には企業全体の業績に関する真実かつ公正な見解をもち得るような情報を提供すべきである。
62. 政府は、法令及び慣行が許す場合には、労働者団体の代表に対し、その要請に応じて、団体交渉過程における客観的な判断基準の設定に資するような、当該企業の活動が属する産業に関する情報を提供すべきである。これに関連して、多国籍企業も国内企業と同様、政府が当該企業の活動に関する関連情報を要求した場合には、これに建設的に応じるべきである。
<協議>
63. 多国籍企業においては、国内企業におけるのと同様に、労使間及びその代表者間での合意によって設けられた制度には、国内の法律及び慣行に従い、双方の関心事項についての定期的な協議が含まれるべきである。当該協議は、団体交渉の代替とされるべきではない。
<救済へのアクセス及び苦情審査>
64. 政府は、ビジネスに関する人権の侵害から保護する責任の一環として、その管轄領域内で人権侵害が起きた場合に、司法、行政、立法その他の適切な方策を通じて被害労働者に効果的な救済が与えられることを確保すべきである。
65. 多国籍企業は、国際的に承認された人権の侵害に対して、救済のための効果的な手段を提供するようビジネスパートナーに働きかけるべきである。
66. 多国籍企業は、国内企業と同様に、その雇用する労働者が有するすべての苦情が次の規定に適合する形で処理される権利を尊重すべきである。すなわち、単独に又は他の労働者と共同して行動する労働者は、苦情を申し立てる理由があると考えるときは、いかなる不利益をも受けることなく苦情を申し立てる権利及び適当な手続きによりこの苦情の審査を受ける権利を有すべきである、という規定である。これは多国籍企業が、結社の自由、団結権及び団体交渉権、差別、児童労働並びに強制労働に関するILO条約の原則に拘束されていない国で活動する場合には特に重要である。
<労働争議の解決>
67. 政府は、労使間の労働争議の予防及び解決を補助するため、国内の事情に沿った適切な任意調停または仲裁手続を確保するべきである。これらの手続は迅速なもの及び費用を無料とすべきである。
68. 多国籍企業は、国内企業と同様に、その雇用する労働者の代表及び団体と共同で、労使間の労働争議の予防及び解決に資するために、国内事情に適し、任意仲裁の規定を含む可能性のある任意調停制度を確立するように努めるべきである。かかる任意調停制度は、労使同数の代表を含むべきである。
別添I
多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言に関連するILO宣言、ILO条約・勧告、行動規範、ガイドラインその他の指針文書の一覧
A. ILO宣言
・労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言とそのフォローアップ
・公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言
B. ILO条約・勧告
強制労働
強制労働条約、1930年(第29号)と1930年の強制労働条約の議定書、2014年、及び、強制労働(間接強制)勧告、1930年(第35号)
強制労働廃止条約、1957年(第105号)
強制労働(補足的措置)勧告、2014年(第203号)
児童労働
就業最低年齢条約、1973年(第138号)と同勧告、1973年(第146号)
最悪の形態の児童労働の禁止条約、1999年(第182号)と同勧告、1999年(第190号)
差別禁止
同一報酬条約、1951年(第100号)と同勧告、1951年(第90号)
差別待遇(雇用・職業)条約、1958年(第111号)と同勧告、1958年(第111号)
結社の自由と団体交渉
結社の自由・団結権保護条約、1948年(第87号)
団結権・団交権条約、1949年(第98号)
団体交渉条約、1981年(第154号)と同勧告、1981年(第163号)
労使関係
労働者代表条約、1971年(第135号)
任意調停及び任意仲裁勧告、1951年(第92号)
企業における協力勧告、1952年(第94号)
企業内コミュニケーション勧告、1967年(第129号)
苦情審査勧告、1967年(第130号)
雇用促進
雇用政策条約、1964年(第122号)と同勧告、1964年(第122号)
雇用促進及び失業保護条約、1988年(第168号)と同勧告、1988年(第176号)
雇用政策(補足規定)勧告、1984年(第169号)
中小企業雇用創出勧告、1998年(第189号)
協同組合の促進勧告、2002年(第193号)
均等待遇
家族的責任を有する労働者条約、1981年(第156号)と同勧告、1981年(第165号)
HIV及びエイズ勧告、2010年(第200号)
雇用安定
雇用の終了条約、1982年(第158号)と同勧告、1982年(第166号)
訓練
人的資源開発条約、1975年(第142号)
人的資源開発勧告、2004年(第195号)
労働条件
労働者債権保護(使用者の支払不能)条約、1992年(第173号)と同勧告、1992年(第180号)
労働者住宅勧告、1961年(第115号)
労働時間短縮勧告、1962年(第116号)
労働安全衛生
作業環境(空気汚染、騒音、振動)条約、1977年(第148号)と同勧告、1977年(第156号)
職業安全健康条約、1981年(第155号)と職業安全健康議定書、2002年、及び、職業安全健康勧告、1981年(第164号)
職業衛生機関条約、1985年(第161号)と同勧告、1985年(第171号)
石綿条約、1986年(第162号)と同勧告、1986年(第172号)
建設業の安全健康条約、1988年(第167号)と同勧告、1988年(第175号)
化学物質条約、1990年(第170号)と同勧告、1990年(第177号)
大規模産業災害防止条約、1993年(第174号)と同勧告、1993年(第181号)
鉱山安全健康条約、1995年(第176号)と同勧告、1995年(第183号)
農業の安全健康条約、2001年(第184号)と同勧告、2001年(第192号)
職業上の安全及び健康促進枠組条約、2006年(第187号)
放射線保護勧告、1960年(第114号)
機械防護勧告、1963年(第118号)
ベンゼン勧告、1971年(第144号)
職業がん勧告、1974年(第147号)
職業病一覧表勧告、2002年(第194号)
社会保障
社会保障(最低基準)条約、1952年(第102号)
業務災害給付条約、1964年[附則Iは1980年に修正(]第121号)
医療・疾病給付条約、1969年(第130号)と同勧告、1969年(第134号)
社会的保護の土台勧告、2012年(第202号)
ガバナンス
労働監督条約、1947年(第81号)
労働監督(農業)条約、1969年(第129号)
三者の間の協議(国際労働基準)条約、1976年(第144号)
先住民・種族民
先住民・種族民条約、1989年(第169号)
特定類型の労働者
農園条約、1958年(第110号)と同勧告、1958年(第110号)
海上労働条約、2006年
C. ILO行動規範、ガイドラインその他の指針文書
ILOは、さらに詳しく特定の問題に取り組む行動規範、ガイドラインその他の指針文書を策定している。これら文書の一覧と本文へのリンクは、ビジネスのためのILOヘルプデスクのウェブサイト(www. ilo. org/business)に記載。
別添II
運用のためのツール
1. 促進
国際労働事務局理事会は「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」(多国籍企業宣言)の促進について全体的な責任を負う。理事会は、ILO全加盟国の政府及び労使団体とともに、宣言を促進するための全般的な戦略とその基礎となる活動の定期的な見直しを行う。
(a)地域別フォローアップ
地域別フォローアップ・メカニズムは、当該地域内のILO加盟国における多
国籍企業宣言の促進と適用に関する地域別報告書が含まれる。地域別報告書は主として、質問表に基づき域内加盟国の政府と労使団体から受領した資料に基づき作成され、ILO地域会議で開催される特別セッションは、地域レベルでの活動の一層の促進について話し合う三者間対話プラットフォームを提供する。地域別報告書は原則的に4年ごとの期間で作成され、各期間の終了時に、理事会に提出される。
(b)国レベルでの促進/政労使三者によって任命された各国担当窓口(ナショナル・フォーカルポイント)による促進
多国籍企業宣言の原則が国レベルにおける包摂的成長とディーセント・ワークに及ぼす影響力と貢献度を高めるために、三者構成機関による確固たる取組表明が必要であることに鑑み、各加盟国の構成員(政労使)に対し、各国の国情に照らして適切かつ有意義である場合に、多国籍企業宣言とその原則の利用を促進するため、三者構成に基づき(条約第144号を指針としつつ)各国担当窓口を任命することを奨励する。
政府は、本宣言の原則に関連した類似の手段や過程が存在する場合、社会的パートナーの参画を促進するよう奨励される。
国レベルで多国籍企業宣言の原則履行を積極的に促進するための各国担当窓口による取り組みには、政府省庁、多国籍企業及び労使団体間における多国籍企業宣言の原則についての意識向上、能力構築イベントの開催、並びに、可能な場合には現地言語でのオンライン情報、対話プラットフォームの開発が挙げられる。資源や能力が限られている各国担当窓口は、その普及と活動を段階的に拡大することも可能である。
各国担当窓口は、各国の事情に照らし、多国籍企業の事業が生み出す機会について議論し、課題を明らかにするため、三者構成員と多国籍企業のための「三者プラス」対話の開催も検討できる。このような対話は、過去の経験や教訓、最良事例を土台として実施することが考えられる。また、多国籍企業宣言第12項に概要を示すとおり、本国と受入国との間の対話も含めることができる。
各国担当窓口は、多国籍企業宣言の原則の促進と、三者構成員にとって透明性、利用可能性及び責任が確保された形での対話促進を図るべきである。各国担当窓口に対しては、相互に意見交換を行い多国籍企業宣言に対する地球規模における認識を高めるため、他国の担当窓口との連絡と協業を行うことも招請する。また、その活動について、国際労働事務局に定期的に情報を提供するよう奨励する。国際労働事務局は、加盟国に対し、各国担当窓口を設置し、多国籍企業宣言に関する履行と対話の促進活動を発展させるための支援を提供する。
(c)国際労働事務局による促進
(i)技術援助
宣言を促進するための全般的な戦略とその基礎となる活動には、国レベルでの政府と労使への援助も含まれる。
(ii)情報と指針企業運営における多国籍企業宣言の原則適用、又は、その根拠となる国際労働基準に盛り込まれた原則に関するさらに詳しい情報と指針は、国際労働基準に関するILOビジネスのためのヘルプデスクを通じて入手可能である。この国際労働事務局による無償かつ守秘のサービスでは、個別の質問に回答するほか、トピックごとの専用ウェブサイトも運用しており、企業、労働組合等が多国籍企業宣言の原則を実務運用する際に役立つ情報、実用的手段、訓練機会及びQ&Aを入手できるようになっている。
www.ilo.org/business及びassistance@ilo.org
2. 企業・労組間対話
この手続は、対話が多国籍企業宣言の核心的要素であることに鑑み、多国籍企業と、関連する労働者の代表(特に労働組合)とが関与する、多国籍企業宣言の原則適用に関する対話を支援する必要性に資するものである。国際労働基準に関する世界的な権威であるILOは、多様な関係当事者による多国籍企業宣言の原則の理解を促進する全般的な戦略の一環として、このような対話を支援促進する唯一の地位を有する。
ある企業と労働組合が、自発的に、国際労働事務局が提供する援助を活用して会合を開き、話し合うことに合意した場合、事務局は、他の権利に影響を及ぼすことなく、相互に利害をもつ問題を議論するための中立的な場を提供する。この目的に資するため、事務局は資格のある調整役の一覧表を作成するとともに、必要な場合には、調整役がその機能を効果的に全うできるよう、支援を提供する。
事務局と参加者は、対話手続における守秘義務を厳守しなければならない。守秘義務に関連する問題については、当事者が事前に合意するものとする。これに関し、事務局はILOの労使グループ事務局と協議の末、対話手続への参加者が考慮すべき守秘義務の基準と慣行を設定する。
対話への参加者は、当該企業と労働組合が決定する。
事務局は、要請の性質に応じて適宜、企業・労組間対話に下記の支援を提供できる。
(a)当事者が有意義な対話を行うための中立的な場の提供
(b)企業・労組間対話において、技術的又は専門的顧問の立場から行う、企業・労組間対話の参考となる情報の提供
(c)対話の促進
企業・労組間対話は当事者の合意に基づくものであり、その内容は拘束力を伴ういかなる手続においても用いられてはならない。
事務局は、対話手続の終了時に、労使グループの事務局に対し、対話が完了した旨の通知を行わなければならない。
この手続は、ビジネスのためのILOヘルプデスク、労使グループの事務局、並びに、ILO加盟国における各国担当窓口又は類似の手段及び過程を通じて促進しなければならない。
3. 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言の適用に関する争いを規定の解釈に基づいて審議するための手続き(解釈手続)
1. ここに記載された一連の手続きは、宣言が対象とする当事者間で、実際の状況において生じた宣言の規定の解釈に関する不一致を解消することが必要となった場合に、その解釈を行うことを目的としている。
2. この手続きは、現行の国内における手続き又はILOの手続きと重複又は背反してはならない。したがってこの手続きは、その案件が次のいずれかに当てはまる場合には適用されることはない。
(a)国内法又は国内慣行に関係する場合
(b)ILO条約・勧告に関係する場合
(c)結社の自由の手続きに当てはまる事項に関係する場合
これはすなわち、国内法又は国内慣行に関する問題は適当な国内機構で検討されるべきであること、ILO条約・勧告に関する問題はILO憲章第19条、第22条、第24条及び第26条に規定された種々の手続き又はILO事務局に政府が要求する非公式の解釈によって検討されるべきであること、並びに結社の自由に関する問題はその分野に適用されるILOの特別の手続きによって検討されるべきであること、をそれぞれ意味している。
3. 宣言の解釈請求がILO事務局によって受領された場合、事務局は請求の受領を通知し、この請求を理事会役員に送付する。なお、解釈請求が下記5(b)又は(c)に従って団体から直接得られた場合、ILO事務局は当該国の政府並びに関係する使用者団体及び労働者団体の中央組織に対し、それを通知する。
4. 理事会役員は、解釈請求がこの手続きに則して受理可能であるか否かについて政労使各グループで協議した上、全員一致でその結論を出さなければならない。もし理事会役員が合意に達しない場合は、解釈請求は委員会の全体会議に決定が委ねられる。
5. 解釈請求は次の場合にILO事務局に送付できる。
(a)原則として加盟国政府から自らの発意で、又は国内の使用者団体もしくは労働者団体の請求に基づいて、請求を行う場合
(b)国内の使用者団体又は労働者団体で、全国レベル又は産業レベルで代表的であるものが、下記6に規定された条件にしたがって請求を行う場合(このような請求は通常その国の中央団体を通して行われる)
(c)国際的な使用者団体又は労働者団体がその代表的な国別加盟団体に代わって請求を行う場合
6. 上記5(b)及び(c)の場合においては、次の(a)、(b)のいずれかが明らかにされた場合に限り、請求を提出することができる。
(a)関係する政府が、ILO事務局に対する請求の提出を断った場合
(b)当該団体が政府に解釈請求を行うように働きかけてから3ヶ月が経過したにもかかわらず、政府が意向を明確にしない場合
7. 請求が受理可能なものである場合、ILO事務局は、理事会役員と協議の上、回答草案を作成する。この場合、関係国の政府、使用者側及び労働者側を含むすべての適当な情報源が活用される。理事会役員は、ILO事務局に対し、情報を提供すべき期間を示すように要求することができる。
8. 受理可能な請求に対する回答草案は、理事会で審議され、承認されなければならない。
9. この回答は、理事会によって承認された後、関係当事者に送付されるとともに、ILO事務局の公報に掲載される。