[文書名] SDGs実施指針改定版
1 序文
(1)2030アジェンダの意義
地球規模で人やモノ、資本が移動するグローバル経済の下では、一国の経済危機が瞬時に他国に連鎖するのと同様、気候変動、自然災害、感染症といった地球規模の課題もグローバルに連鎖して発生し、経済成長や、貧困・格差・保健等の社会問題にも波及して深刻な影響を及ぼす時代になってきている。このような状況を踏まえ、2015年9月に国連で採択された持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下「2030アジェンダ」)、及びその中に持続可能な開発目標(以下「SDGs」)として掲げられている17のゴール(目標)と169のターゲット、及び232の指標は、世界全体の経済、社会及び環境の三側面を、不可分のものとして調和させ、誰一人取り残すことなく、貧困・格差の撲滅等、持続可能な世界を実現するための統合的取組であり、先進国と開発途上国が共に取り組むべき国際社会全体の普遍的な目標である。
したがって、日本を含む各国は、それぞれの国において2030アジェンダを実現することに尽力すると同時に、自らの地域、そして世界レベルでSDGsの達成のために協力することが求められる。我々は、これまでと異なる決意を持って、国内における経済、社会、環境の分野での課題や、これらの分野を横断する課題に関して、共通の問題を抱える世界の国々と協力しながらSDGs達成に向けた取り組みを強化しつつ、国際協調主義の下、国際協力への取り組みも一層加速していく必要がある。
(2)SDGs実施指針改定の意義
2016年12月のSDGs推進本部(以下「推進本部」)会合にて決定されたSDGs実施指針(以下「実施指針」)は、日本が2030アジェンダを実施し、2030年までに日本の国内外においてSDGsを達成するための中長期的な国家戦略として位置づけられている。
2015年のSDGs採択から4年、2016年の実施指針決定から3年が経過し、SDGsを巡る状況が大きく変化し、国際社会が新たな課題や一段と深刻化した課題に直面する中、気候変動や貧困・格差の拡大による社会の分断・不安定化などの地球規模課題に対して、システムレベルのアプローチやインパクトの大きい取組を通じて、経済や社会の変革(トランスフォーメーション)を加速し、解決に向けて成果を出していくことがより一層必要となっている。
こうした中、様々な課題に対して、経済・社会・環境の三側面から統合的に取り組み、持続可能な世界の実現を目指すSDGsの役割はこれまで以上に重要になっており、2019年9月に開催されたSDGサミットにおいて安倍総理は「次のSDGサミットまでに、国内外における取組を更に加速させる」との決意を表明している。また、SDGsの推進の観点からは、同じ2015年に採択された仙台防災枠組2015-2030と国連気候変動枠組条約締約国会議によるパリ協定、さらには生物多様性条約による生物多様性戦略計画・愛知目標等への貢献も進めることが重要である。SDGsに係るこれらの国内外における最新の動向を踏まえ日本の取組の方向性を示すため、また、現行の実施指針において、最初の見直しを2019年までを目処に実施することとされていることも踏まえ、今般、時代に即した形で実施指針を改定することとした。
改定された実施指針に基づき、推進本部の下、関係府省庁が一体となって、あらゆる分野のステークホルダーとの協同的なパートナーシップによって、達成年限である2030年を意識しながら、今後4年間でより一層本格的な行動を加速・拡大し、国内外においてSDGs実現に取り組んでいく。
2 現状の分析
(1)これまでの取組
2015年の2030アジェンダの採択を受け、政府は、2016年5月に推進本部(本部長:総理、副本部長:官房長官・外務大臣、構成員:全閣僚)を設置し、2016年12月に実施指針を策定、2017年12月以降はSDGs達成のための政府の主要な取組をまとめた「SDGsアクションプラン」(以下「アクションプラン」)を定期的に策定してきた。「誰一人取り残さない」社会を実現するため、我が国が国際社会において主導してきた「人間の安全保障」の理念に基づき、アクションプランにおいては「SDGsと連動するSociety5.0の推進」、「SDGsを原動力とした地方創生」、「SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント」を三本柱とする日本の「SDGsモデル」を掲げ、国を挙げて、SDGsの実現に取り組んできた。加えて、各ステークホルダーと連携したプラットフォームの設立や、「SDGs未来都市」の選定により、日本全国における多様なSDGs実現のための取組の推進を図ってきた。
SDGsを推進するためには、本指針のもと、政府が率先してリーダーシップをとり、各ステークホルダーの取組と連携・協力しながら、SDGsを自分事として捉える国民・市民一人ひとりの取組とつながり、相乗効果を生み出すことが不可欠である。こうした観点から、国内においてSDGsを浸透させるため、SDGsの広報・啓発を重視してきている。具体的には、「ジャパンSDGsアワード」(2017年12月~)や「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」の選定(2018年6月~)、「JapanSDGsActionPlatform」の設置(2018年6月~)を通じ、SDGsの具体的な活動の「見える化」及び後押しに努めてきた。次世代・教育分野についても、小学校は2020年度から、中学校は2021年度から全面実施される新しい学習指導要領にも掲げられているとおり、一人一人の児童生徒が、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが、これからの学校には求められている。また、2018年12月に「次世代のSDGs推進プラットフォーム」を立ち上げ、次世代によるSDGsの主体的な推進の加速化や次世代のSDGs推進に関する日本のSDGsモデルの発信に努めている。
また、国際協力では、質の高いインフラ、防災・減災、海洋プラスチックごみ、気候変動、女性、保健、教育等のSDGs主要分野において、開発途上国の様々な課題解決を支援することを通じて、開発途上国におけるSDGs推進にも貢献してきている。国際場裡においても、国連やG7・G20など、様々な機会に日本のSDGs推進に係る取組を世界に発信し、SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会に積極的に発信してきた。
(2)現状の評価
2015年のSDGs採択以来、世界規模で、政府、ビジネス、ファイナンス、市民社会、消費者、地域の住民やNPO等の「新しい公共」、労働組合、次世代、教育機関、研究機関、地方自治体、議会といった様々なステークホルダーが行動を起こし、SDGs達成に向けた多大な努力が行われ、取組が進展している。その一方で、いくつかの課題への対応に遅れが見られており、日本としても国全体で危機感を共有し、更なる取組を進めることが必要である。2019年9月に開催されたSDGサミットにおいても、国連から、「取組は進展したが、達成状況に偏りや遅れがあり、あるべき姿からは程遠く、今取組を拡大・加速しなければならず、2030年までをSDGs達成に向けた「行動の10年」とする必要がある」との危機感が表明された。
同サミットの成果文書「SDGサミット政治宣言」においても、「極度の貧困、子どもの死亡率、電気・水へのアクセス等で進展が見られる一方、飢餓、ジェンダー、格差、生物多様性、環境破壊、海洋プラスチックごみ、気候変動、災害リスクへの対応に遅れが見られる」との現状分析がなされている。
日本国内においても、SDGsの認知度は年々向上し、今や国民の約4人に1人が認知している。日本が先進的な取組を行っていると評価されている分野もある一方、更に取組を強化すべき分野について指摘する調査もある。
例えば、ドイツのベルテルスマン財団と持続可能な開発方法ネットワーク(SDSN)が共同で発表した2019年の報告書においては、日本は、SDG4(教育)及びSDG9(イノベーション)については達成度合いが高いと評価される一方、SDG5(ジェンダー)、SDG12(生産・消費)、SDG13(気候変動)、SDG17(実施手段)については低いと評価されている。更にゴールをより細かく見ると、SDG1(貧困)、SDG10(不平等)等においても課題があるとされている。また、OECDが発表した2019年の報告書においては、OECD平均と比較して、SDG3(保健)、SDG6(水)、SDG8(成長・雇用)、SDG9(イノベーション)、SDG14(海洋資源)の取組は進展している一方、SDG5(ジェンダー)、SDG10(不平等)、SDG11(都市)の取組には課題があると評価されている。
2019年8月、政府はSDGsのグローバル指標に関する日本の達成状況のデータを公表した。現時点で公開しているのは、グローバル指標の全指標から定義や算出方法が国際的に定まっていない指標等を除いた分の6割強に当たる125指標である(2019年12月現在)。政府は引き続き「公的統計の整備に関する基本的な計画」に従い、SDGsのグローバル指標の対応拡大に取り組んでいく。
さらに、今後、政府として、グローバル指標等のデータに基づき、SDGsの各目標の進捗状況について、把握、評価し、政策に反映する仕組みづくりに取り組んでいく。
上記のとおり、まだまだ課題も数多く存在する一方で、日本国内や国際協力の文脈において、頻発する自然災害や様々な社会課題に向き合い、人と人とのつながりや助け合いで取り組もうとする動きが広がっていることは、持続可能な社会に向けた希望を感じさせる。
3 ビジョンと優先課題
(1)ビジョン
2030アジェンダは、取り組むべき課題として以下のように記している。
「我々は、2030年までに以下のことを行うことを決意する。あらゆる貧困と飢餓に終止符を打つこと。国内的・国際的な不平等と戦うこと。平和で、公正かつ包摂的な社会をうち立てること。人権を保護しジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメントを進めること。地球と天然資源の永続的な保護を確保すること。そしてまた、我々は、持続可能で、包摂的で持続的な経済成長、共有された繁栄及び働きがいのある人間らしい仕事(ディーセント・ワーク)のための条件を、(中略)作り出すことを決意する。」
我が国は、このような持続可能な経済・社会づくりに向けた先駆者、いわば課題解決先進国として、SDGsの実施に向けた模範を国際社会に示すような実績を積み重ねてきている。
日本の持続可能性は世界の持続可能性と密接不可分であることを前提として、引き続き、世界のロールモデルとなり、世界に日本の「SDGsモデル」を発信しつつ、国内実施、国際協力の両面において、世界を、誰一人取り残されることのない持続可能なものに変革し、2030年までに、国内外においてSDGsを達成することを目指す。
すべての人々が恐怖や欠乏から解放され、尊厳を持って生きる自由を確保し、レジリエンス、多様性と寛容性を備え、環境に配慮し、豊かで活力があり、格差が固定化しない、誰一人取り残さない2030年の社会を目指す。
SDGsを達成するための取組を実施するに際しては、SDGsが経済、社会、環境の三側面を含むものであること、及びこれらの相互関連性を意識することが重要である。また、17のゴールと169のターゲットは不可分で統合されたものであるという認識をここに改めて確認する。
2030年までにSDGsを達成し、経済発展と社会的課題の解決を目指すため、官民が共有する国家戦略であるSociety5.0を引き続き推進していく。とりわけ、気候変動という喫緊の課題に対して、パリ協定における2℃目標及び1.5℃努力目標を踏まえて、生物多様性・生態系の保全にも緊急性をもって取組を強化していく。
(2)優先課題とSDGsアクションプラン
上記ビジョンの達成及び日本の「SDGsモデル」の確立に向けた取組の柱として次の8分野の優先課題を掲げることとする。SDGsの17のゴールと169のターゲットの中には、世界全体における達成に向け、日本として国際協力面で取り組むべき課題も多く含まれている。SDGsのゴールとターゲットのうち、日本として特に注力すべきものを示すべく、日本の文脈に即して再構成したものであり、すべての優先課題について国内実施と国際協力の両面が含まれる。
また、これらの優先課題はそれぞれ、2030アジェンダに掲げられている5つのP(People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ))に対応する分類となっている。SDGsにおけるすべてのゴールとターゲットが不可分であり統合された形で取り組むことが求められているのと同様、これらの8つの優先課題も密接に関わる不可分の課題であり、どれ一つが欠けてもビジョンは達成されないという認識の下、その全てに統合的な形で取り組む。
(People 人間)
1 あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現
2 健康・長寿の達成
(Prosperity 繁栄)
3 成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
4 持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
(Planet 地球)
5 省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会
6 生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
(Peace 平和)
7 平和と安全・安心社会の実現
(Partnership パートナーシップ)
8 SDGs実施推進の体制と手段
それぞれの優先課題に関して推進される具体的な施策等は、別途推進本部にて策定されるアクションプランに記載される。アクションプランは、本指針に基づき、「優先課題8分野」において2030年までに目標を達成するために、政府が行う具体的な施策やその予算額を整理し、各事業の実施によるSDGsへの貢献を「見える化」することを目的として、SDGs推進円卓会議を始めとするステークホルダーの意見を踏まえつつ推進本部が策定するものである。当面は、現行のアクションプランに基づき、「ビジネスとイノベーション~SDGsと連動する「Society5.0」の推進~」、「SDGsを原動力とした地方創生」、「SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント」を三本柱とする日本の「SDGsモデル」を推進していく。
また、ジェンダー平等についても、これらすべての課題への取組において主流化する必要のある分野横断的課題として取組を推進していく。
4 実施のための主要原則
これらの優先課題に取り組むに当たっては、以下の原則を重視することとする。これらの原則は、2030アジェンダに示されているか、その理念から当然に導き出されるものである。これらはSDGsの実施に取り組むに当たって、優先課題や分野を問わず適用されるべき原則である。8つの優先課題及びその下に位置づけられる施策において、これらの主要原則が実現されているかどうかを点検するとともに、新たな施策や施策の修正の必要性を検討するに当たっても、これらの主要原則を考慮する。
(1)普遍性
2030アジェンダの実施においては、国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む。国内における取組も国際目標達成に向けた努力としての側面があることや、逆に国際協力にも我が国自身の繁栄の基盤を支える意義があることを意識し、また、個別のテーマにおいても国内実施と国際協力を連携して取り組むことが有意義であることを認識しつつ取組を進めていく必要がある。
(2)包摂性
「誰一人取り残さない」とのキーワードは、2030アジェンダの根底に流れる基本的理念を示しており、2030アジェンダは、女性、子供、若者、障害者、HIV/エイズと共に生きる人々、高齢者、先住民、難民、国内避難民、移民などへの取組を求めている。我が国は、国内実施、国際協力のあらゆる課題への取組において、これらの脆弱な立場におかれた人々にこそ最初に手が届くように焦点を当てる。また、人間の安全保障については、SDGsの実施における指導理念として、国際協力の推進に当たっても、同理念に基づき、持続可能な開発と平和の持続が表裏一体であることを踏まえ、一人ひとりの保護と能力強化を貫徹するために切れ目のない支援を行う「人道と開発と平和の連携」の考え方を重視する。
さらに、国際社会における普遍的価値としての人権の尊重と、ジェンダー平等の実現及びジェンダーの視点の主流化は、分野横断的な価値としてSDGsの全てのゴールの実現に不可欠なものであり、あらゆる取組において常にそれらの視点を確保し施策に反映することが必要である。また国連安保理が国連加盟国に対し求めている、平和と安全保障に関する全ての活動と意思決定における女性の参画、紛争下の性的及びジェンダーに基づく暴力からの女性・女児の保護や人道支援、復興におけるジェンダーの主流化を重視した女性・平和・安全保障(WPS)(国連安保理決議第1325号)及び関連決議の実施のための取組を着実に進める。さらに、ジェンダー平等の実現及びジェンダーの視点の主流化のためには、ジェンダー統計の充実が極めて重要であり、SDGsの実施において可能な限り男女別データを把握するよう努める。
(3)参画型
脆弱な立場におかれた人々を含む一人ひとりが、施策の対象として取り残されないことを確保するのみならず、自らが当事者として主体的に参加し、持続可能な社会の実現に貢献できるよう障壁を取り除き、あらゆるステークホルダーや当事者の参画を重視し、当事者の視点を施策に反映するための手段を講じ、全員参加型で取り組む。
(4)統合性
SDGsのゴールとターゲットは統合され不可分のものであり、統合的解決が必要であることが2030アジェンダにおいて強調されている。経済・社会・環境の三分野の全てにおける関連課題との相互関連性・相乗効果を重視しつつ、統合的解決の視点を持って取り組む。このため、施策の実施においては、当該施策に直接関連する優先課題以外のいずれの課題との統合的実施が重要であるかを念頭に置きつつ、異なる優先課題を有機的に連動させて実施していく。
(5)透明性と説明責任
全員参加型の取組であることを確保する上でも、透明性と説明責任は重要である。政府の取組の実施の状況についても高い透明性を確保して定期的に評価、公表し、説明責任を果たす。また、新たな施策の立案や施策の修正に当たっては公表された評価の結果を踏まえて行う。
5 今後の推進体制
上記の現状評価を踏まえ、「人間の安全保障」の理念に基づく現在の取組の継続性を重視しつつ、さらに取組を強化する必要がある。SDGsが採択されてからの最初の段階は終了し、今後は、バックキャスティングの考え方も適切に踏まえながら、持続可能な形で目標達成へ向けた実効的かつ具体的な行動を加速化し、取組に広がりを持たせる必要がある。
(1)SDGsの主流化
2030アジェンダにおいては、「各々の政府は、これら高い目標を掲げるグローバルなターゲットを具体的な国家計画プロセスや政策、戦略に反映していくことが想定されている」と記されている。これを踏まえ、政府及び各ステークホルダーは、各種計画や戦略、方針、個別の施策の策定や改訂、実施に当たってSDGs達成に向けた貢献という観点を取り入れ、その要素を最大限反映する。
政府は、それらの取組を推進していくため、引き続き必要に応じ関連する制度改革や、適切な財源確保、広報・啓発活動の強化に努める。
(2)政府の体制
SDGs実施の分野横断的・省庁横断的性格に鑑み、内閣総理大臣を本部長、官房長官及び外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とする推進本部が引き続きSDGsの主流化及び推進の司令塔の役割を果たす。
さらに、SDGs推進関連施策の大半が分野横断的課題であることから、政府内のみならず、政府と民間との連携においてもリーダーシップを発揮できるよう、SDGs推進の司令塔としての推進本部の機能を強化し、SDGs実施体制の更なる整備に努めていく。
推進本部は、SDGs推進本部幹事会(以下「幹事会」)、SDGs推進円卓会議(以下「円卓会議」)等の関連会合をより一層積極的に活用しつつ、特に下記の事項に重点的に取り組む。
・実施指針の取組状況の確認(モニタリング)、見直し(中長期的な観点からのフォローアップとレビュー)
・実施指針に基づくアクションプランの策定、見直し、実効性の評価
・SDGグローバル指標に関するデータの収集と分析、進捗状況の把握と、それに基づいたSDGs達成度の評価
・国連を始めとする国際会議における、日本の取組の発信及び国際社会の議論への日本の立場の反映、国際的な課題設定やその解決におけるリーダーシップの発揮
・民間と連携して、SDGsに関する国際的なイニシアティブや国際基準などのルールメーキングに対して戦略的に対応
・JICA等を通じた政府開発援助(ODA)の実施を通じて、開発途上国を含む国内外のSDGsの推進にも貢献
・SDGs達成に向けた取組に関する国内における広報・啓発活動
・円卓会議やステークホルダー会議等の関連会合を通じた、可能な限り幅広いステークホルダーとの意見交換や協働・連携の推進
特に、円卓会議は、各セクターでSDGsに取り組む組織やネットワークの代表的な存在が構成員として参加しており、セクターや地域、ジェンダー、世代等の枠を超えてSDGs関連政策の企画立案・実施に対するマルチステークホルダーによる参画の場として極めて重要な役割を果たしており、今後とも積極的かつ柔軟に運用していく。また、各地域における行動の具体化に重要な役割を果たす、地方自治体や新しい公共の代表者を加えるなど、円卓会議の体制をより充実させることや、多様なステークホルダーの声を正確かつタイムリーに反映させるため、円卓会議の構成をより柔軟に見直すことが可能となるよう検討する。
これまでの4年間の進捗により、SDGsは極めて多様な分野で広がりをもって推進されてきている現状があることから、実質的な課題解決に資するよう幹事会や円卓会議の開催頻度を上げる。また、これらを補完するものとして、分野横断的な課題の解決のため、円卓会議課題別分科会や関連ステークホルダー会議の開催等、体制強化を検討する。
2019年9月6日に円卓会議有志が発起人となり開催した「SDGs実施指針改定に向けたステークホルダー会議」は、広く国民の知見をSDGsの目標達成へ向けて集める観点から極めて有意義であった。当該会議の成果に基づき、本実施指針改定に向けた提言がなされたことを踏まえ、類似のステークホルダー会議が東京のみならず地方においても開催され、また多様な課題に関して議論が行わされ、その知見が集積するような方策を検討していく。
(3)主なステークホルダーの役割
2030アジェンダには、以下のように記されている。
「今日2030年への道を歩き出すのはこの『われら人民』である。我々の旅路は、政府、国会、国連システム、国際機関、地方政府、先住民、市民社会、ビジネス・民間セクター、科学者・学会、そしてすべての人々を取り込んでいくものである。」
上記のとおり、日本においても2030アジェンダの実施、モニタリング、フォローアップ・レビューに当たっては、省庁間や国と自治体の壁を越え、公共セクターと民間セクターの垣根も越えた形で、広範なステークホルダーとの連携を推進していくことが必要である。また、特定の社会課題への対応に当たっては、包摂性・参画型の原則を踏まえ、当事者団体の意見を十分に踏まえる必要がある。
ア ビジネス
それぞれの企業が経営戦略の中にSDGsを据え、個々の事業戦略に落とし込むことで、持続的な企業成長を図っていくことが重要である。また、官民が連携し、企業が本業を含めた多様な取組を通じてSDGs達成に貢献する機運を、国内外で醸成することが重要である。
また、ジェンダー平等及び女性のエンパワーメントのために、包摂的かつ公正な労働市場を促進する。
地球規模課題や社会課題に企業活動が与える影響に対する消費者の関心の向上や、ESG投資の活発化により、大企業を中心に経営層へのSDGsの浸透は一定程度進んできたが、企業数でみると99.7%を占める中小企業への更なる浸透が課題となっている。中小企業は、地域社会と経済を支える存在であり、SDGsへの取組を後押しすることが重要である。
ビジネスと人権、責任あるサプライ・チェーン、企業の社会的責任に関する取組は、国際社会からの各企業の信頼を高め、グローバルな投資家の高評価を得る上で重要であるとともに、生産と消費の中核を担う民間セクターが、SDGsが目指す持続可能な社会・経済・環境づくりに貢献する上で不可欠である。政府は、行動計画の策定を始めとして関係省庁が連携し、国連「ビジネスと人権」指導原則を踏まえて、適切な対応及び企業のSDGsに資する取組の促進を行う。
イ ファイナンス
SDGs達成に必要な資金を確保するためファイナンスの裾野を継続的に拡大していく観点から、SDGs達成に向けた取組を様々な手法で経済活動の中に組み込んでいくことが重要である。公的資金(財政資金等)と民間資金(投融資等)の両者の有効な活用・動員、資金量の拡大・質の充実を考える必要がある。
SDGs達成のために、持続可能な社会の創り手として社会課題の解決を進める市民社会団体・民間非営利団体等への資金的な支援も不可欠である。
SDGsは、すなわち経済、社会及び環境という持続可能な開発の三側面を調和させるものであることから、環境・社会・ガバナンスの要素を考慮するESG金融やインパクトファイナンス、ソーシャルファイナンス、SDGsファイナンス等と呼ばれる経済的リターンのみならず社会貢献債としてのJICA債の発行など社会的リターンを考慮するファイナンスの拡大の加速化が、SDGs達成に向けた民間資金動員の上で重要である。今後、ESG金融の拡大に向けた支援やこれらファイナンスを実用化するに際しては、それらの仕組みの情報開示に努め、有効性を検証していく必要がある。
また、気候変動対策、脱炭素化等を進めるためのファイナンスは重要である。近年、G20の要請を受けて設置された気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が2017年に公表した「TCFD提言」を踏まえた企業の気候関連情報の開示への関心が国際的に高まってきており、今後、TCFDの考え方に基づく企業の積極的な情報開示や、投資家等による開示情報の適切な活用を進めていく必要がある。
ウ 市民社会
市民社会は、「誰一人取り残されない」社会を実現するため、現場で厳しい状況に直面している人々や最も取り残されている人々、取り残されがちな人々の声を拾い上げ、政府・地方自治体へとそれらの声を届け、知見を共有する存在であり、SDGs関連施策の企画立案プロセスにおいてこうした人々の声が反映されるよう、橋渡しをすることが期待されている。同時に、国際社会及び国内におけるネットワークを活かし、国内外に対する問題提起や発信、政策提言、SDGs推進を加速化・拡大するためのアクションを推進していく旗振り役となること等の役割も期待されている。
エ 消費者
生産と消費は密接不可分であり、持続可能な生産と消費を共に推進していく必要があるとの認識の下で、消費活動において大きな役割を担う消費者や市民の主体的取組を推進していく。
特に、SDG12(生産・消費)の観点からは、消費者が、環境に対する負荷が低く循環型経済への移行に資するなど、持続可能な消費活動を行うことで、持続可能な生産消費形態を確保できるように、健全な市場の実現に加え、経済・社会の仕組み作りと啓発を促進する。
オ 新しい公共
現在、「新しい公共」すなわち、従来の行政機関ではなく、地域の住民やNPO等が、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護など身近な課題を解決するために活躍している。
協同組合をはじめ、地域の住民が共助の精神で参加する公共的な活動を担う民間主体が、各地域に山積する課題の解決に向けて、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生し、SDGsへ貢献していくことが期待されている。
カ 労働組合
労働組合は、社会対話の担い手として、集団的労使関係を通じた適正な労働条件の確保をはじめ、労働者の権利確立・人権・環境・安全・平和などを求める国内外の取組を通じ、ディーセント・ワークの実現や持続可能な経済社会の構築に重要な貢献を果たすことが期待されている。
また、適正な職場環境・労働条件の確保を通じて、SDG8(成長・雇用)のみならず、SDG1(貧困)、SDG5(ジェンダー)、SDG10(不平等)、SDG12(生産・消費)、SDG16(平和と公正)等の複数のゴール達成への貢献が期待されている。
キ 次世代
次世代の若者たちは、2030年やその後の社会、そしてポストSDGsの議論の中核を担う存在である。2018年12月に立ち上げられた「次世代のSDGs推進プラットフォーム」も活用しながら、2020年の段階から、いかにSDGsを推進し、自分たちが主役となる時代をどのような社会に変革していくかを考え、持続可能な社会の創り手として、多様な人々と協働しながら行動し、国内外に対して提言・発信していくことが期待されている。
こうした観点から、特定のゴールに限定せずに幅広い分野における貢献が期待されているが、様々な背景を持つ次世代層がSDG4(教育)を始めとする各ゴールの達成に貢献できるようにするために、教育にかかる政策・制度の充実も重要である。
ク 教育機関
学校、地域社会、家庭、その他あらゆる教育・学習機会をとらえ、「持続可能な社会の創り手」を育成するという観点から、教育は、SDG4の達成において重要な役割を果たすとともに、持続可能な社会の創り手として求められる「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」を育むことにより、地域や世界の諸課題を自分ごととして考え課題解決を図る人材の育成に寄与し、SDGsの17全てのゴールの達成の基盤を作るという極めて重要な役割を担っている。
SDGsの全てのゴールの達成に貢献する枠組みである「持続可能な開発のための教育:SDGsの達成に向けて(ESDfor2030)」がユネスコ及び国連において採択されたことを支持し、国内外の活動の充実に貢献する。国内においては、「持続可能な社会の創り手」の育成を目指した学習指導要領改訂も受け、ESDの推進拠点であるユネスコスクール・ネットワークの活性化を図るとともに、社会教育関連機関も含め、SDGsに資するように多様な文化とつながりながら学習できる環境づくりを促進する。
ケ 研究機関
研究機関による学術研究や科学技術イノベーションは、それ自体がSDGs達成の手段として大きな役割を果たしうることはもちろんのこと、地球観測などの現状把握のためのツールや目標設定の根拠としての活用や、ターゲット相互の関係分析、達成度評価、そしてポストSDGsの議論においても、国内外において貢献することが期待されている。また、研究機関は、これらの科学的根拠に基づき、今後の科学技術イノベーションの飛躍的変革につなげることが期待されている。
なお、イノベーションと変革は目標達成の鍵ではあるが、技術的なものだけを偏重するのではなく、社会的なものを含むより広範な概念として扱うべきとの点に留意する必要がある。
市民や企業、政府等と科学者との間でのビジョンや情報を共有することは、科学技術イノベーションがSDGs達成の手段として大きな役割を果たしうることを認識し、種々の課題や緊急性に対する認識を高めるためにも必要である。また、フューチャー・アース等国際的取組の下、科学者コミュニティがその他の広範なステークホルダーと連携・協働していくことも重要である。
コ 地方自治体
国内において「誰一人取り残されない」社会を実現するためには、広く日本全国にSDGsを浸透させる必要がある。そのためには、地方自治体及びその地域で活動するステークホルダーによる積極的な取組が不可欠であり、一層の浸透・主流化を図ることが期待される。
現在、日本国内の地域においては、人口減少、地域経済の縮小等の課題を抱えており、地方自治体におけるSDGs達成へ向けた取組は、まさにこうした地域課題の解決に資するものであり、SDGsを原動力とした地方創生を推進することが期待されている。
地方自治体は、SDGs達成へ向けた取組をさらに加速化させるとともに、各地域の優良事例を国内外に一層積極的に発信、共有していくことが期待されている。具体的には、「SDGs日本モデル」宣言や「SDGs全国フォーラム」等のように、全国の地方自治体が自発的にSDGsを原動力とした地方創生を主導する旨の宣言等を行うとともに、国際的・全国的なイベントを開催する等により、海外や、全国又は地域ブロック、若しくは共通の地域課題解決を目指す地方自治体間等での連携がなされ、相互の取組の共有等により、より一層、SDGs達成へ向けた取組が行われることが期待される。また、今後は、より多くの地方自治体において、更なるSDGsの浸透を目指し、多様なステークホルダーに対してアプローチすることが期待されている。
地方自治体においては、体制づくりとして、部局を横断する推進組織の設置、執行体制の整備を推進すること、各種計画への反映として、様々な計画にSDGsの要素を反映すること、進捗を管理するガバナンス手法を確立すること、情報発信と成果の共有として、SDGsの取組を的確に測定すること、さらに、国内外を問わないステークホルダーとの連携を推進すること、ローカル指標の設定等を行うことが期待されている。また、地域レベルの官、民、マルチステークホルダー連携の枠組の構築等を通じて、官民連携による地域課題の解決を一層推進させることが期待されている。さらに、「地方創生SDGs金融」を通じた自律的好循環を形成するために、地域事業者等を対象にした登録・認証制度の構築等を目指すことが期待されている。
地方自治体においては、各地域のエネルギー、自然資源や都市基盤、産業集積等に加えて、文化、風土、組織・コミュニティなど様々な地域資源を活用し、持続可能な社会を形成する
「地域循環共生圏」の創造に取り組む等、自治体における多様で独自のSDGsの実施を推進することが期待されている。
サ 議会
2030アジェンダにおいても、効果的な実施と説明責任の観点から国会議員が不可欠な役割を果たすとの認識が示されているとおり、国会及び地方議会は、国内において「誰一人取り残さない」社会を実現するため、広く日本全国から国民一人一人の声を拾い上げ、国や地方自治体の政策に反映させることが期待されている。さらに、行政機関、市民社会、国際機関等と連携し、国や地域が直面する社会課題を解決するための具体的な政策オプションを提案することが期待されている。
(4)広報・啓発
SDGsの認知度は年々向上しており、特に10代・20代では認知度が大きく向上している。他方、SDGsを認知していない層、認知はしているが具体的な行動に結びついていない層が半数以上を占めるとの調査結果もあり、広報・啓発活動の更なる強化を通じた認知度の向上と行動の促進、拡大、加速化につなげていくことが重要である。
こうした点を踏まえ、引き続きSDGsの実施に国民的な運動として取り組むべく、推進本部の下、あらゆるステークホルダーと連携して、SDGsの国内的な認知度向上や啓発、普及のための広報・啓発活動を積極的に検討し、実施していく。また、様々な国際会議等の機会を活用し、国際機関をはじめ様々なステークホルダーと連携して、我が国の取組を国際的に発信するための広報活動にも努める。
今後、2020年には、SDGsの達成に向けた法の支配の推進をテーマとする第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)や持続可能性の取組をレガシーとする東京オリンピック・パラリンピック競技大会、日本が重視する保健分野で東京栄養サミット2020、水分野で第4回アジア太平洋水サミットが、2025年には日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催されるなど、世界の注目が日本に集まる機会がある。これらの行事やそれ以外のあらゆる機会を捉え、SDGsの理念や日本の取組を世界に発信する絶好の機会を活用し、国内のステークホルダー及び国際機関との協力の下、日本の「SDGsモデル」の発信と日本全国でのSDGsの主流化に努めていく。これらの機会にかかる準備、運営、調達等についても、SDGsに基づき、環境、人権等に関わるデュー・ディリジェンスを確実に実行する必要がある。
SDGsの裾野を拡大するため、例えば文化や芸術といった新たな分野との連携も必要である。また、一般市民にも分かりやすく親しみをもってSDGsを知ってもらうため、SNSの一層の活用や様々なメディアとの連携強化に加え、SDGsを感覚的により分かりやすい言葉にすること等の試みが必要である。また、教員の多忙化に配慮しつつ、CSRに関心のある企業や団体と学校の教育的ニーズをつなぐなど、学校・地域・家庭の連携を強化し「社会に開かれた教育課程」の実現を支えていくことも極めて重要である。
また、関係府省庁、地方自治体、企業等のSDGs関連情報が集約されるプラットフォームとして、外務省ホームページ上に開設されている“JapanSDGsActionPlatform”が更に活用されるよう内容を拡充する。政府関係の情報にアクセスしやすくなるように、本プラットフォームの情報ハブとしての機能を強化する。
6 フォローアップ・レビュー
我が国におけるSDGsの推進状況を的確に把握し、着実に推進していくため、推進本部、幹事会、円卓会議において、実施指針及びアクションプランに基づく取組の進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて見直しを行う。その際、ステークホルダー会議等、可能な限り多くのステークホルダーの声を反映させる機会を設けるよう新たな仕組みを可能な限り早く確立する。
SDGsの達成度を的確に把握するため、データに基づくグローバル指標を活用し、進捗結果を国内外に適切な形で公表する。また、海外および国内の研究機関等による評価、グローバル指標の検討・見直し状況、ローカル指標の検討状況等に留意し、進捗評価体制の充実と透明性の向上を図る。その際、グローバルな問題の地域への影響、またローカルな取組のグローバル展開の双方向について考慮する。各ステークホルダーの評価などを踏まえ、政府としても2030年の目標達成に向けてSDGsの進捗状況に関する評価を行い、進捗が遅れている課題を洗い出し、政策の見直しやステークホルダーの更なる参画促進を行うなど、2030年における国内外のSDGs達成を目指し取組を加速化する。
国連持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム(HLPF)を通じた2030アジェンダのグローバルなフォローアップ・レビューに積極的に参加・貢献する。HLPFにおける自発的国家レビュー(VNR)については、今後も適切なタイミングで定期的にレビューを実施する。地方自治体と連携し、ローカルレベルにおける自発的レビュー(VLR)の積極的な実施も後押しする。さらに、国連STIフォーラムとの連携や国連が実施しているSTIforSDGsロードマップ策定への貢献も行う。
実施指針の見直しについては、国連のSDGサミットのサイクルに合わせ、引き続き少なくとも4年ごとに実施することとする。その際、本実施指針の改定と同様に、広範なステークホルダーの参画の下に見直しを行うこととする。
(了)