[文書名] 2020年U20コミュニケ
2020年U20コミュニケ(仮訳)
2020年10月2日
我々、本コミュニケの署名者である都市の首長は、世界と我々の共通の未来が相互に結びついていることを強く認識しながら、U20(Urban 20/アーバン20)としてここに集結し、G20首脳に対して、公平で、カーボンニュートラルで、包摂的で、そして健全な社会の実現のため、このパートナーシップに積極的に関与することを要望する。U20議長都市リヤドのもと、U20参加都市は、U20ブエノスアイレスと東京で築いた強固な基盤に基づき、サウジアラビアG20における優先課題と関連し、エビデンスに基づいたタスクフォース及び新型コロナウイルス感染症スペシャルワーキンググループの貢献によるこのコミュニケを発出する。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行と、それに伴う社会経済危機は、この呼びかけを更に喫緊のものとしている。なぜならG20の活力の核心である都市及び都市圏は、この危機の中心地であるからだ。
コミュニティの希望の第一の擁護者である都市の首長は、人類の文化的・民族的多様性を認識しつつ、全てのG20参加国における、科学的知見に裏打ちされ、技術・デジタル革新の包括的な成果に基づく、新型コロナウイルス感染症からの復興のための行動計画を実行する最前線にいる。
復興は、従来どおりの状況に戻るものであってはならない。むしろ、団結を強め、公衆衛生への再投資を図り、気候危機のような将来的な脅威を軽減することによって、投資は我々の都市とコミュニティの幸福と強靭性を高めるものでなければならない。気候変動への対処と生物多様性の保全は、新しい技術やグリーンジョブの創出を通じ、経済復興の促進及び公平性の増進を後押しすることができる。これらの取組によって、人々と事業者に、より幅広い利益をもたらすこともできるだろう。
今こそ、主要な国際協定の枠組みの下での繁栄と幸福を支持し、多国間のソリューションの考案と、包括的で持続可能で強靭かつスマートな都市化を促進するための将来を見越した政策立案の強化を行い、市民の権利と地方民主主義の礎を守るべき時である。
気候変動に関するパリ協定、持続可能な開発のための2030アジェンダ、アディスアベバ行動目標、ポスト2020世界生物多様性枠組、ニュー・アーバン・アジェンダ及び仙台防災枠組等の国際的課題は、自発的自治体レビュー等の手法及び過程により実行する必要がある。
我々は、G20政府首脳に、全てのレベルの政府、市民社会、民間部門、研究機関、シンクタンクや学術界との協調のもと、より良い復興を行うことと、我々と共に以下に取り組むことを求める。
A. 新型コロナウイルス感染症からの、環境に配慮した公平な復興への投資を通じた地方との協働
B. 国と地方との協働により私たちの地球を守る
C. 循環型・カーボンニュートラルな経済への移行を加速させ、発展の新フロンティアを切り開く
D. より公平で包摂的な未来の実現のための人々のエンパワーメント
A. 新型コロナウイルス感染症からの、環境に配慮した公平な復興への投資を通じた地方との協働
各国政府が、世界的な対応策をとり、物理的・社会的インフラへの投資を促すなど、復興の原動力である都市に対し直接的に投資することは極めて重要である。
我々はG20に対し、以下のことを実現するため、地方自治体と協働することを呼び掛ける。
1.実質ゼロカーボンで、気候変動に強靭で包摂的な社会の発展を支援するため、景気刺激策としての緑の奨励資金、企業支援、その他の復興資金を策定・設置する。金融支援は、パリ協定の目標と合致し、科学に基づく排出削減目標と移行計画に沿う必要がある。
2.都市が直面している既存の障害を乗り越える必要があるとの認識の下、都市の資金調達の需要が国際金融機関(IFIs)の融資に十分に反映されることを確保することによって、国内外の資本市場へのアクセスを可能とし、地方経済と世界経済を活性化する。
3.環境に配慮した金融商品の役割を強化すると同時に、民間部門の投資とパートナーシップを活用できるように都市に対する規制枠組みを改善し、都市の信用力の向上、短期融資リスクの低減およびプロジェクト準備のための能力構築を支援する。
4.世界経済におけるインフォーマルな経済セクターの役割を認識しながら、都市の社会インフラ、特に持続可能性に関連した優先課題と共に健康、教育及び公共交通システムに投資する。
5.迅速にグリーンジョブを創出するため、「すぐに取り掛かることができる」カーボンニュートラルプロジェクトに投資する。より健康でカーボンニュートラルな暮らしを支援するための訓練とスキルアップを通じた、労働者層の公平な参加と保護の基準のレベルを高める。
6.新型コロナウイルス感染症からの復興の過程とその後において、デジタル権などの人権を尊重しつつ、すべてのコミュニティでアクセスが可能となるよう、通信ネットワークの接続性や遠隔学習、テレワーク及びその他のあらゆる普遍的公共サービスを可能にするテクノロジー・イノベーションの公平な提供を確保する。
7.いかなる種類の差別もなく、すべての人々が利用できるグローバルな公共財として新型コロナウイルス感染症のワクチンへのアクセスを保証すべく、最大限の協力をする。
8.地方自治体と協働し、世界保健機関(WHO)を含む多国間機関と連携して、健康危機への迅速な対応力を向上させ、復興策を改善し、各都市のニーズに沿った形で将来のショックに対応する。
B. 国と地方との協働により私たちの地球を守る
世界的な生態系の悪化から、自然と調和し、共存することが現在及び将来の世代の繁栄のために不可欠であるとの意識のもと、自然への投資は、G20内の都市と国全体にとって共通の優先事項である。
我々はG20首脳に対し、以下のことを実現するため、我々と協働することを呼び掛ける。
9.2030年までに必要とされる、世界全体での温室効果ガス(GHG)排出量50%削減の実現に向けて排出量を大幅に削減し、遅くとも2050年までにカーボンニュートラルを達成することにより、気候非常事態にただちに対応する。これは、パリ協定の目的に沿ったもので、IPCC1.5度特別報告書を考慮したものであり、「衡平の原則」に完全に従い、同時に「共通だが差異のある責任の原則」及び「各国の能力の原則」を認識して、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏2度高い水準を十分に下回るものに抑え、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏1.5度高い水準までのものに制限する努力を追求する。
10.人間の幸福、強靭で豊かな暮らしへ寄与する自然の生態系の経済価値評価を認識し、ポスト2020生物多様性枠組(GBF)に都市を含める。
11.バイオテクノロジーの可能性とリスクを評価すると同時に、グリーンインフラとブルーインフラの提供を可能とするよう国際金融機関(IFIs)や民間部門と共に自然を基盤とした解決策に投資を行い、身体的および精神的幸福を増進し、都市の自然と緑地へのアクセスを確保するための最低基準とガイドラインを設定する。
12.地方自治体と相補的に協働し、生物多様性、気候変動、持続可能性の、地域での目標達成における、都市のより強い役割と積極的な参加を主流化する。
13.COP15(生物多様性)*1*とCOP26(気候変動)*2*に先立って、生物多様性国家戦略(NBSAPs)、パリ協定の「自国が決定する貢献」(NDCs)、および2030アジェンダ自発的国家レビュー(VNRs)における意見の収束を強化するための国および各地域の取り組みを調整する。
C. 循環型・カーボンニュートラルな経済への移行を加速させ、発展の新フロンティアを切り開く
新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、資源の効率的利用の新時代の到来を告げる世界的な循環型・カーボンニュートラル経済への決定的な移行に向けた機会を作り出している。
我々はG20に対し、以下のことを実現するため、我々と協働することを呼び掛ける。
14. 4R、すなわち削減 (reduce)、再利用 (reuse)、リサイクル (recycle)および転換(recover)の導入の加速を目的とした、循環経済に係る規制を推進する。このために、それが可能な法的環境の整備、基準の統一、リスクの共同負担や経済的支援等の手段、インセンティブの創設を行う。
15. 建設・建築分野(建設資材を含む)における、地方自治体の資金供給力及び循環経済イニシアティブを導入するための能力を高める。この際、すぐに利用可能な改修技術と、新産業の発展、研究、能力開発および資源利用に関するモニタリングの推進に焦点をあてる。
16. カーボンニュートラルで質の高いモビリティシステムに向けて、国家予算を調整、投資、再配分することにより、特に疎外化された脆弱なコミュニティにおいて、持続可能で手頃な価格かつゼロエミッションの大量輸送の支援策や、電気自動車とそれに関連する電化インフラの調達に向けた促進策を行う。
17. 再生可能エネルギーへの投資を大幅に増加することにより、クリーンで効率的なエネルギーミックスへの移行を加速する。これにより、より健康的でカーボンニュートラルな都市を支える。
18. 廃棄物処理は滅多に採算が取れないことや、循環経済への移行は遅れているものの、特に急速な都市化が進む地域において重要であることを認識しながら、誰もが公衆衛生と廃棄物処理にアクセスできることを普遍的な権利として認め、同時に、「廃棄物ゼロ社会」を促進する。
D. より公平で包摂的な未来の実現のための人々へのエンパワーメント
新型コロナウイルス感染症からの公正な世界的復興は、都市部のすべての市民・住民・移民、そして特に脆弱な人々を対象としながら、安全と健康、ならびにSDGsの実現や、住民全員の基本的ニーズを満たすコミュニティ創設を確保するものである。
我々はG20に対し、以下のことを実現するため、我々と協働することを呼び掛ける。
19. G20原則を準備することで、公共部門及び民間部門による、都市における手頃な価格で利用しやすく質が高い住宅の供給に関する、重大で持続的な世界的課題に対応する。また、こうした住宅の供給にあたっては、環境に配慮した公共交通へのアクセスや、健康的かつ安全な公共空間の整備も一体として捉えるほか、革新的な金融メカニズムの促進に加え、持続可能な不動産市場に対する規制を展開する。
20. 全ての人々の食料の安全保障を、都市と農村の連携を強化し、食料の消費・生産システムの強靭性と持続性につながる形での物理的および社会的インフラへの投資によって保障する。同時に、居住と地域計画に関するG20の原則を修正し、農業開発と自然生息地保護のバランスをとる。これは、農村における能力構築の強化、食料生産者の権利の保護、及び食料と健康に関する危機下における、世界の食料供給と価格の動向を確実に監視するための都市レベルのデータの作成によって行う。
21. Youth 20の優先目標に合致する形で、ソフト・デジタルスキルの開発、起業促進プログラムの拡大、中小零細企業(MSMEs)への促進策などに注目しながら若年層、特に若い女性の雇用機会に投資する。これは、都市がイノベーションの触媒であることや、これらの取組における観光や文化等の分野の役割を認識したうえで行う。
22. 未来の働き方に備えるため、次のような取組を行う。効果的な質の高い教育を誰もが受けられることを保障すること。高等教育や国際・生涯学習における協力を支援すること。クリエイティブ産業に対する投資の拡大と調整のため、国連が2021年を「持続可能な開発のための創造的な経済の国際年」に指定したことによって提供される機会を評価する。
23. 都市文化や社会構造の強化を確かなものとする。すなわち、文化が地域のアイデンティティの中核的要素となり、平和と人権を導くことを推進することや、世界の文化・自然遺産の保全のため、地方自治体に権限を付与する。
24. ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの定量・定性的データを収集、分析、発信する。これにあたり、Women 20の優先目標に沿って、指導的地位への登用、ジェンダー平等を志向する予算策定、資本へのアクセス、全ての金融・社会分野にわたる意思決定にジェンダーの視点を取り入れること等、社会的、政治的、経済的機会への平等なアクセスを支援する。
25. 不平等と暴力に苛まれている女性・女児の保護を優先化する。このために、シェルター、公共交通、カウンセリング、医療・法的支援等の支援サービスへのアクセスを促進する。
26. 都市における社会的セーフティネットを拡大し、第一線でサービスを提供している低所得の医療・介護従事者に対する社会的保護を強化する。また、新型コロナウイルス感染症からの復興及び、復興後に再建された世界が、人を重視し、平等な経済的機会や市民としての機会、意思決定に関与する機会が全ての人々、特に脆弱な人々に対して、いかなる差別をも伴わない形で与えられることを保障する。
27. 人種的公平性と正義を、平等な経済的機会と同時に推し進める。これにより、異なる民族間の格差、とりわけ、新型コロナウイルス感染症が増幅した人種的不平等に照らし、これを根絶するための政策を促進する。その際、健康、雇用、住居を含む幅広い分野での少数民族のための成果改善を目指す。
我々、世界の都市の首長は、G20の成果に貢献することを希求し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が引き起こした世界的な健康及び経済危機に、適時に対処している議長国サウジアラビアの下での、G20リーダーシップに謝意を表明する。リヤドU20と、署名するU20参加都市は、G20がU20の政策提言に配慮することを期待する。我々は、より公平で、持続可能で、包摂的かつ全ての人に開かれた未来を作り出すため、各国政府、国際社会、民間部門とのパートナーシップの強化に努める。
U20都市都市による承認による承認
アダ・クラウ バルセロナ市長
ミヒャエル・ミュラー ベルリン市長
オラシオ・ロドリゲス・ラレッタ ブエノスアイレス市長
トーマス・ンコリシ・カウンダ ダーバン市長
シルベスター・ターナー ヒューストン市長
エクレム・イマモール イスタンブール市長
トゥンチ・ソイエル イズミール市長
アニス・バスウェダン ジジャカルタ特別市知事
ジェフリーリー・マクーボ ヨハネスブルグ市長
サディク・カーン ロンドン市長
エリック・ガルセッティ ロサンゼルス市長
ホセ・ルイス・マルティネス・アルメイダ マドリード市長
クラウディア・シェインバウム・パルド メキシコシティ市長
ジュゼッペ・サラ ミラノ市長
ヴァレリー・プラント モントリオール市長
松井 一郎 大阪市長
アンヌ・イダルゴ パリ市長
マルセロ・クリヴェラ リオデジャネイロ市長
ファハド・アル・ラシード リヤド市
ヴィルジニア・ラッジ ローマ市長
ブルーノ・コヴァス サンパウロ市長
ソ・ジョンヒョプ ソウル市長権限代理
ジャンヌ・バルスジアン ストラスブール市長
小池 百合子東京都知事
ムホ・ナワ ツワネ市首席行政官
オブザーバー都市による承認都市
ファラー・アルアーバビ アブダビ市
ユセフ・シャワーベー アンマン市長
フェンケ・ハルセマ アムステルダム市長
スティーブ・ベンジャミン コロンビア市長
ファハド・アルジュバイル ダンマーム市
ダウード・アルハジリ ドバイ市
ルーク・ブロニン ハートフォード市長
ヤン・ヴァパーヴオリ ヘルシンキ市長
フェルナンド・メディーナ リスボン市長
アブドゥルラーマン・アダス メッカ市
フランシス・スアレズ マイアミ市長
アハメッド・アブターレブ ロッテルダム市長
ジョニー・アラヤ・モンジュ サンホセ市長
ナスリー・ホアン・アスフラ・ザブラー テグシガルパ市長
{*1* 生物多様性条約第15回締約国会議}
{*2* 国連気候変動枠組条約第26回締約国会議}