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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版

[場所] 
[年月日] 2023年12月19日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

持続可能な開発目標(SDGs)実施指針改定版


平成28年12月22日
SDGs推進本部決定
令和元年12月20日
一部改定
令和5年12月19日
一部改定


1 改定の趣旨

 2015年9月の国連総会で満場一致で採択された持続可能な開発のための

 2030アジェンダ(以下、「2030アジェンダ」という。)は地球規模の行動のアジェンダであるとされており、その中で、持続可能な開発目標(以下、「SDGs」という。)は「先進国、開発途上国も同様に含む世界全体の普遍的な目標とターゲット」と明記されている。

 SDGs採択を受け、その後8年間にわたり、国内外の多様なステークホルダーによって様々な取組やルール形成の努力が続けられてきた。その過程で、人々の意識や生活様式から産業構造や金融の流れに至るまで、我が国を含む国際社会全体の経済・社会活動のあり方は急速かつ大きく変容しようとしている。

 一方で、気候変動や感染症をはじめとする地球規模課題の深刻化に加え、国際社会全体がSDGs採択当時には想定されていなかった複合的危機に直面する中、2030年までのSDGs達成に向けた進捗は大きな困難に直面している。さらに、ロシアによるウクライナ侵略やイスラエル・パレスチナ情勢の緊迫化等、SDGs推進に必要な平和で安定した国際環境それ自体が危機にさらされる状況も生じている。

 かかる状況は、我が国を含む国際社会全体として、我が国が提唱する「人間の安全保障」の理念の下、平和の持続と持続可能な開発を一体的に推進していくこと、また、複合的危機に対する国際社会全体の強靭性を強化していくことの重要性を改めて強く示すものである。さらに、将来にわたってかかる取組を継続的に促進し、国際社会全体で持続可能性を確保していく観点からは、国家に加え、多様なステークホルダー、とりわけ若い世代の参画を確保していくこともこれまで以上に重要となってきている。

 同時に、国際社会において、2030年までにSDGs達成を目指すという大きな方向性に揺らぎはない。本年9月のSDGサミットでも、国際社会全体としてのSDGs達成に向けた取組の加速化への強いコミットメントを改めて確認した。その中で、岸田総理は、「人間の尊厳」の重要性を強調しつつ、我が国として国際社会のSDGs達成に向けた取組を力強く牽引していく決意を明確に示した。

 以上の状況の下、我が国として、人口減少や少子高齢化が加速する中、多様性と包摂性のある社会を築き、また、イノベーションを活かした社会課題の解決を通じて我が国自身の持続可能な発展と繁栄及び国際競争力の強化を実現していくため、引き続き強い決意をもって、SDGs達成に向けた取組を強化し、加速するとともに、国際社会のSDGs達成に向けた努力に対して最も効果的な形で更に貢献していく必要がある。以上を踏まえ、SDGs実施指針の改定を行う。

2 現在の状況

(1)SDGsの浸透

 SDGs採択後8年間でSDGsに対する国民の認知度は約9割に達し、我が国のSDGs達成に向けた取組も大きく進展した。現在、持続可能性の理念は、我が国がより良い持続可能な発展と繁栄を実現していく上での確固たる原動力となりつつある。

 第一に、国家レベルの様々な分野の戦略や政策において、持続可能な経済・社会の実現は、その中核的理念として広く位置づけられている。我が国が推進している「新しい資本主義」は、社会課題の解決に向けた取組それ自体を成長のエンジンに変え、裾野の広い成長と適切な分配が相互に好循環をもたらす「成長と分配の好循環」により、「誰一人取り残さない」持続可能な経済・社会システムを作り上げることを目指すものであり、まさにSDGs達成につながる取組である。

 第二に、地方レベルにおけるSDGsの幅広い浸透と推進は、我が国における大きな特色である。SDGsは地方創生等の旗印として広く位置づけられており、SDGs未来都市や地方創生SDGs官民連携プラットフォーム、地方創生SDGs金融等の様々な制度的枠組の下、各地域において、それぞれの特性に応じた様々な取組が急速に進展している。SDGs達成に向けた取組を自ら推進する自治体の数も全体の7割に達している。

 第三に、ビジネスにおいても、金融市場を含め、持続可能な経済・社会のあり方に対する関心の大きな高まりとも相まって、SDGsを経営に統合する企業が着実に増加している。各経済団体においても、個々の事業を通じてSDGsを実現していく方向性がますます明確化され、GX・DX等を通じて社会課題の解決に貢献する動きも広がっている。

 第四に、早い段階からSDGs推進に取り組んできた市民社会を含む民間においても、SDGs達成に向けた事業の実施や様々な提言等の取組が非営利組織を含む広範なステークホルダーの間で大きく広がっている。

 第五に、我が国の国際協力においても、持続可能性は根幹的理念の一つとして位置づけられている。我が国は、これまでも「人間の安全保障」の理念に基づく様々な具体的支援を通じて、特に開発途上国のSDGs推進に大きく貢献してきた。2023年6月に閣議決定された開発協力大綱においても、「SDGs達成に向けた取組を加速すること等により、国際協力を牽引し」ていく旨明記されている。

(2)直面する課題

 一方で、様々な課題も指摘されている。例えば、経済協力開発機構(OECD)に

 よる2022年版報告書では、我が国はOECD諸国の平均との比較において目標8(経済成長と雇用)、目標9(インフラ、産業化、イノベーション)等で進展がある一方で、目標5(ジェンダー)、目標10(不平等)等で課題がある旨指摘されている。

 また、2022年に2回開催された「SDGs実施指針改定に関するパートナーシップ会議」を経てSDGs推進円卓会議の民間構成員が作成した政府への提言では、我が国におけるSDGs達成に向けた取組において、企業や環境分野の取組に重点が置かれる一方で、貧困、ジェンダー、人権等の社会的側面に課題がある旨指摘されている。同提言では、平等な社会参加の機会の保障や属性別のデータ収集と公表に向けた取組の必要性も指摘されている。

 さらに、国連地域開発センター(UNCRD)による「2030年までの道筋:地方自治体SDGs達成度評価2023」では、自治体ごとの差異を指摘しつつ、全体として、目標8と目標9では高い水準にある一方で、目標2(飢餓)と目標5では課題がある旨指摘されている。

 なお、2030アジェンダにおいて、SDGsの17の目標は「相互に関連しており、統合された解決が必要」であり、こうした特徴が2030アジェンダの「目的が実現されることを確保する上で極めて重要」である旨明記されている。

 かかる観点から、我が国は従来から、1普遍性(国内実施と国際協力の有機的連携)、2包摂性(「誰一人取り残さない」)、3参画型(ステークホルダー等の参画)、4統合性(有機的連動と統合的解決)、5透明性と説明責任(定期的な評価・公表)を、SDGsの実施における主要原則としてきている。

 上述の諸課題は、かかる主要原則のうち、特に2包摂性及び4統合性について課題を抱えていることを示している。

(3)国際社会における状況

 SDGs採択以降、国際社会においても、各国及び各ステークホルダーの理念や

 戦略的方向性、具体的状況等に基づいて、様々な努力が続けられてきた。欧州を中心に経済・社会・環境分野を横断するルールの形成を主導する動きも加速している。その過程で、個々の企業行動や投資行動だけでなく国際社会全体の産業構造や金融のあり方にもダイナミックな変容が生じるようになっている。

 一方で、国際社会は、気候変動や感染症をはじめとする地球規模課題の深刻化に加え、自由で開かれた国際秩序及び多国間主義に対する重大な挑戦にさらされており、エネルギー危機・食料危機、世界的なインフレ、開発途上国の債務危機・人道危機とも相まって、SDGs採択当時には想定されていなかった複合的危機に直面している。また、生成AIをはじめとするテクノロジーの急激な進化は、SDGs達成の切り札となり得る一方で、用い方によってはこれを大きく遅らせるリスクも内包している。かかる状況はSDGsの全ての目標の進捗に大きな影響を与えている。国連事務総長は、2023年9月のSDGサミットにおいて、SDGsのターゲットのうち、進捗が順調なものは約15%に過ぎず、半分近くは不十分、約30%は停滞・後退しており、2030年までのSDGs達成に向けた国際社会の歩みが危機的状況にある旨強調した。同サミットにおいて発表された「持続可能な開発に関する

 グローバル報告書(GSDR2023)」においても同様の厳しい認識が示された。かかる状況は、新型コロナウイルス感染症の拡大以降、経済成長の減速や国内

 外の経済格差の拡大に直面する多くの開発途上国においてより深刻である。また、高所得国と低所得国との間でSDGs達成に向けた進捗度合の格差が拡大傾向にあることも広く指摘されており、広範な課題への対応に必要な資金の問題や開発途上国の債務危機にも国際社会全体として対処していく必要性も生じている。

 2030アジェンダは、「各国の現実、能力及び発展段階の違いを考慮に入れ、かつ各国の政策及び優先度を尊重」すべきとした上で、SDGsが「世界全体の普遍的な目標とターゲット」であり、「地球規模レベルでの集中的な取組」が必要である旨強調している。各国がそれぞれの事情に応じて異なる課題への対応を迫られる中、全体として持続可能な世界を実現するためには、先進国・開発途上国を問わず各国がそれぞれ抱える課題を統合的に解決し、国際社会が全体として包括的にSDGsを達成するための変革を推進していくとの取組がこれまで以上に求められている。

3 実施に当たっての指針

(1)重点事項

 我が国は、引き続き2030年までの国内外におけるSDGs達成を目指し、これまでの実施指針で示された「5つのP *1*」や「8つの優先課題 *2*」等の根幹的な考え方を引き継ぎつつ、また、各目標間の相互連関に留意しながら、特に以下の重点事項について具体的取組を強化・加速していく。

① 持続可能な経済・社会システムの構築

 2030アジェンダは、各国が具体的状況に応じてそれぞれターゲットを定めるよ

 う推奨する等各国の自主性を強調しつつ、SDGsの「ターゲットを具体的な国家計画プロセスや政策、戦略に反映していく」よう求めている。

 我が国は、「新しい資本主義」を掲げており、科学技術イノベーションも活用しつつ、様々な経済的・社会的課題や地球規模課題の解決に向けた取組を通じて、持続的な成長と安心・幸せを実感できる経済・社会構造の構築を実現していく。また、全ての人々のディーセント・ワークを促進する。

 「人への投資」やGX・DXの推進を通じた新たな産業構造への転換等において、公正な移行の観点も踏まえつつ、広範なステークホルダーとの対話と連携を進めながら、官民連携投資の拡大と経済・社会改革を進めていく。その中で、インパクト投資やESG投資等の促進を含め、社会課題等の解決を通じて事業性を高める企業や社会起業家、公共的な活動を担う様々な民間主体の活動等への支援を強化していく。

 また、地方においては、地方創生SDGsやSDGs未来都市、広域連携SDGsモデル事業、地域包括ケアシステム等を通じて持続的成長への取組をより強力に後押ししていく。また、デジタル田園都市国家構想も踏まえ、インフラやサービスの水準の維持・向上を通じて、国土の均衡ある発展に取り組む。

② 「誰一人取り残さない」包摂社会の実現

 持続可能な経済・社会システムの構築の観点からも、脆弱な立場にある人々を

 含む「誰一人取り残さない」包摂社会の実現は急務である。さらに、経済・社会システムの変容の過程において新たに取り残される可能性のある人々に対する適切な対応も必要である。

 こども大綱に基づくこども施策の抜本的強化、質の高い公教育の再生、女性登用の加速化を含む女性の活躍と経済成長の好循環の実現、包摂的な共生・共助社会づくり、孤独・孤立対策推進法に基づく国・地方の孤独・孤立対策の強化等の取組を通じて、貧困や格差の拡大・固定化による社会の分断を回避し、持続可能な経済・社会の実現につなげていく。また、「ビジネスと人権」に関する行動計画を着実に実施していくとともに、サプライチェーンを含む企業の活動における人権尊重の取組を促進する。加えて、「障害者基本計画」や「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」に則った取組を推進する。

 さらに、持続可能な経済・社会システムの構築に向けた取組を将来にわたって継続的に加速していくとの観点からも、若い世代の意味ある参画の拡大に取り組むとともに、教育の場を通じて持続可能な経済・社会システムのあり方を学ぶ機会の拡大に取り組んでいく。

 かかる取組を進めるに当たっては、これまでの実施指針で強調されてきたとおり、人権の尊重とジェンダー平等は全ての目標において横断的に実現されるべきことに十分留意する。また、引き続き、国内の全てのステークホルダーとの連携・協働を強化していく(各ステークホルダーに期待される役割は別紙のとおり。)。

③ 地球規模の主要課題への取組強化

 気候変動、生物多様性の損失及び汚染という三つの世界的危機を克服するため、ネット・ゼロ、循環型及び気候変動に強靱かつネイチャーポジティブな経済・社会システムへの転換を加速する。その鍵は、統合的アプローチと経済・社会課題の同時解決であり、地域資源の持続的活用によって課題解決を継続し、地域同士が支え合う地域循環共生圏の実現に取り組む。

 気候変動分野では、国際社会の一致した取組の強化が必要であり、1.5度目標と整合的な2030年度目標達成に向けた取組の継続、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想等を通じて、アジア地域の脱炭素化を主導する。また、緑の気候基金(GCF)への拠出等を通じて、開発途上国の脱炭素化及び気候変動に脆弱な国の強靭性強化に資する取組を支援する。我が国として、脱炭素の取組と同時に、強靭なエネルギー需給構造への転換を含めたエネルギー安全保障を強化する。環境と調和のとれた食料システムの確立を図りつつ、食料安全保障を強化する。

 気候変動に伴って世界中で多発する自然災害への対処のため、防災・減災分野における我が国の知見の共有を図るとともに、被災地のビルド・バック・ベター(より良い復興)等、「仙台防災枠組2015-2030」の推進を国内外で加速する。

 2030年までに生物多様性の損失を食い止め、反転させるため、「昆明・モントリオール生物多様性枠組」を着実に実施し、G7ネイチャーポジティブ経済アライアンスの取組を推進する。その際、気候変動や生物多様性の損失、世界の森林減少等、各課題の間のトレード・オフを回避し、統合的解決を図る観点から、個々の具体的取組において相乗効果(シナジー)の最大化を図っていく。また、持続可能な開発に関するグローバル報告書(GSDR2023)や気候変動とSDGsのシナジーに関する専門家グループによる報告書等の科学的知見を活用する。

 また、グリーン・ファイナンスの拡大、トランジション・ファイナンスに対する国際的理解の醸成に向けた取組の強化を図るとともに、公的資金と民間資金を組み合わせた金融手法の開発・確立を促進する。

 国際保健分野では、「グローバルヘルス戦略」の下での取組を推進する。国内外で将来の健康危機に対する予防・備え・対応(PPR)への取組を発展・強化するとともに、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の達成に向けた取組を強化し、「グローバルヘルス・アーキテクチャー」の発展・強化に貢献する。また、国際保健分野への民間資金の動員を促進するため、グローバルヘルスのためのインパクト投資イニシアティブ(トリプルI)を推進する。

 以上の取組を推進するに当たっては、気候変動や生物多様性が健康に関わり合うという「プラネタリーヘルス」の考え方も踏まえ、個々の地球規模課題の間の相互連関に十分に留意する。

④ 国際社会との連携・協働

 国際社会における持続可能性の確保と全ての国の持続的発展の達成は表裏一体である。先進国・開発途上国を問わず各国がそれぞれの事情に応じて異なる課題に直面する中、国際社会全体として持続可能性を確保していくためには、各国の間において共感に基づく協働と連帯を広げていく必要がある。かかる観点から、我が国として、自らの取組の特徴や強みを明確化しながら、国際社会における持続可能性の包括的達成に向けた貢献を強化していく。

 その際、国際社会で加速している関連のルールや基準の形成の動きについて、国際標準化を含め、官民連携の下、主導的に参画していく。環境や国際保健等の分野における新たな法的文書の作成といった国際的なルール形成においても貢献していく。また、AIを含む新しい国際的なガバナンス体制づくりへの貢献に取り組む。かかる観点から、国連をはじめとする国際機関との連携や国際機関における邦人職員の増強を含め、ルール形成において重要な役割を担う国際的な組織における我が国のプレゼンスの強化に取り組む。

 複合的危機の時代においては、様々な主体間の「共創」による課題解決が求められる。開発途上国への開発協力は、我が国を含む国際社会の持続可能性の達成への貢献の主要な手段であり、開発協力大綱に基づき、多国間及び二国間の開発協力を有機的に連携させながら、効果的・戦略的・適切に実施する。また、企業、国際機関、市民社会等の多様なアクターとの連携や新たな資金の動員に向けた取組をより一層推進する。引き続き、GNI比0.7%とのODAの国際的目標を念頭に置くとともに、我が国の極めて厳しい財政状況も十分踏まえつつ、様々な形でODAを拡充し、実施基盤強化のための必要な努力を行う。

 複合的危機に対する国際社会全体の強靭性の強化の観点から、GX・DX、サプライチェーンの確保や「質の高いインフラ」の整備を推進し、あらゆる分野で「質の高い成長」の達成を目指していく。特に、前述の「仙台防災枠組2015-2030」も踏まえた防災・減災分野における協力や、母子保健や感染症への対応等を含む公衆衛生水準・医療水準の向上に向けた人材育成等の我が国の知見・技術を活かした取組を推進する。また、「人への投資」の一環として、質の高い教育、女性・こども・若者の能力強化や紛争・災害下の教育機会の確保の観点も踏まえ、引き続き教育分野における取組を強力に推進する。さらに、「女性・平和・安全保障(WPS)に関する行動計画」を踏まえ、WPSアジェンダの推進に向けた取組を強化する。また、より脆弱性の高い国や取り残されがちなコミュニティへの支援及び貧困削減、基礎的社会サービスの強化、緊急人道支援等にも重点的に取り組む。

⑤ 平和の持続と持続可能な開発の一体的推進

 平和で安定した国際環境の実現は、国際社会の持続可能性の確保に向けた取組

 を進める上で不可欠の前提である。さらに、国際社会の持続可能性と平和で安定した国際環境の確保を同時に実現していく観点から、「人道・開発・平和の連携(HDPネクサス)」のアプローチはますます重要となっている。

 国際社会全体が国連憲章に明記されている「人間の尊厳」という原点に改めて立ち返り、国際社会の分断と対立を乗り越え、平和で安定した国際環境の下、全体として持続可能性を実現していくために、我が国は、上述の様々な取組を含め、引き続き貢献していく。多発する人道危機に際しては、人道原則に基づく支援を行うとともに、国際人道法の遵守を国際社会に強く訴えていく。

 また、我が国が提唱してきた「人間の安全保障」の理念は、①個人の保護、②個

 人の能力強化、③様々な主体間の連帯の三つを柱とするものであり、国際社会においてHDPネクサスを確保していく上で鍵となる考え方である。我が国は、引き続き、「人間の安全保障」の理念の下、HDPネクサスに留意しつつ、「人間の尊厳」を中心に置いた開発協力を推進し、国際社会の平和と繁栄の確保にも積極的に貢献していく。

(2)実施に当たっての取組

 以上の重点事項を着実に実施していくため、以下の取組を進めていく。

① 実施体制の強化・ステークホルダー間の連携

 内閣総理大臣を本部長、官房長官及び外務大臣を副本部長、全閣僚を構成員とするSDGs推進本部が引き続き司令塔の役割を果たす。SDGs推進本部は、SDGs推進本部幹事会、SDGs推進円卓会議等をより一層積極的に活用し、取組を更に加速していく。また、地方レベルでもSDGs未来都市の推進等を通じて、地方自治体と一体となって取組を推進する。

 実施指針の実施に当たっては、政府が率先してリーダーシップをとり、多様なセクターの主体的参画を促し、連携・協力しながら、個別の取組を全体につなげることで変革を加速し、全体としてSDGs達成への道筋を切り開いていく。かかる観点から、SDGs推進本部は、各府省庁の参加を得ながら、ステークホルダー間の連携・協働のハブとしての役割をより一層効果的に果たしつつ、実施体制の不断の見直しを図っていく。

 また、SDGs推進本部において、実施指針に基づく取組の進捗状況を定期的に確認し、基本的に4年ごとに又は必要に応じて実施指針の見直しを行う。

 以上の取組を進めるに当たり、引き続き「公的統計の整備に関する基本的な計画」に従い、SDGグローバル指標への対応の拡大に取り組むとともに、同指標等のデータに基づく進捗状況の把握・評価、政策への反映に取り組む。また、中長期的な同指標のあり方に関する国際的な議論に積極的に関与する。

② 自発的国家レビュー(VNR)と国際社会における取組の主導

 2025年を目途に自発的国家レビュー(VNR)を実施する。その際、我が国が推進するSDGsのあり方について国際的に発信し、国際社会全体の持続可能性の確保に向けた取組を主導する。また、我が国のSDGsの進捗状況についてレビューしつつ、特に各目標に共通する横串の諸課題について、SDGsは全体として一体で不可分という観点から、必要に応じて、分野別のレビューを行う。

 その際、科学的エビデンスに基づくSDGsの進捗管理及び達成に向けた取組を進めていくこと、かかる取組を国際社会全体のSDGs達成に向けた取組に有機的に統合すること及び国際社会において主導権を発揮していくことを十分に踏まえる。以上の取組を通じて、2030年以降も見据えた国際的な議論も主導していく。

 また、地方自治体との連携を強化し、自発的ローカルレビュー(VLR)の積極的な実施を後押しする。

③ 広報・啓発

 前述のとおり、SDGsに対する国民の認知度は国際社会との比較においても大

 幅に向上しており、これまでの広報・啓発は大きな効果を挙げてきた。一方で、グリーンウォッシュ等実態が伴わない取組に対する懸念やSDGsに対する理解度の不足も指摘されている。

 持続可能な経済・社会システムの構築の推進等の観点から、個々人の意識と取組に加え、地方自治体やビジネス、メディア、非営利組織を含む民間等の取組がますます重要になっていることも踏まえ、引き続き広報・啓発のあり方について不断の見直しと選択的な強化を進めていく。

 また、国際社会全体でのSDGs達成に向けた我が国の貢献への期待が高まっていることも踏まえ、戦略的観点から、国際協力についての理解の深化にも引き続き取り組む。今後は、国内での広報・啓発に加え、3(1)の重点事項に資する観点から、2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)等の機会も利用しつつ、国際社会に対する発信も強化していく。

 なお、ジャパンSDGsアワードについては、創設時の政策的意義を果たしたと考えられることから、今後のあり方については別途検討する。



別紙

各ステークホルダーに期待される役割

(1)ビジネス

 企業が経営戦略の中にSDGsを据え、個々の事業戦略に落とし込むことで、持

 続的な企業成長を図っていくことが重要であり、特に「Society5.0」の実現を目指すことが期待されている。具体的には、革新的なデジタル技術やビッグデータを活用することによって、一人ひとりの異なるニーズに応えるとともに社会システム全体の最適化を目指すことで、社会課題を解決し、「誰一人取り残さない」SDGs達成に貢献することが重要である。全企業の99.7%を占める中小企業は地域と経済を支える存在であり、SDGsの中小企業への更なる浸透とその取組を後押しすることが重要である。また、様々なステークホルダーと連携し、多様な価値を協創することで、SDGs達成に向けた機運を国内外で醸成することが求められる。

 気候変動をはじめとする地球環境問題、ディーセント・ワークの実現、「ビジネスと人権」、責任あるサプライチェーン、企業の社会的責任に関する取組は、SDGsが目指す持続可能な経済・社会・環境づくりに貢献する上で不可欠であり、各企業が国際社会からの信頼を高め、グローバルな投資家からの高評価を得る上で重要である。

(2)ファイナンス

 SDGsを社会の変革につなげるためには、これを可能にする資金の流れが不可欠である。こうしたファイナンスの裾野を量的・質的に拡充していく観点から、公的資金(財政資金等)と民間資金(投融資等)の有効な活用等によりSDGs達成に向けた取組を多様な手法で金融面から支援していくことが重要である。

 民間資金については、特に気候変動対応や国際保健分野においてその重要性が強く指摘されており、インパクト投資やESG投資等、国内外の社会的・環境的課題の解決に向けた資金の流れを強化していく。気候変動対応については、2023年5月のG7広島サミットにおいてもその重要性が確認されたトランジション・ファイナンスを後押ししていくとともに、国際保健分野を含む持続可能な資金調達に向けたインパクト投資を推進する。

 特にSDGs達成に向けてビジネスセクターが果たす役割は大きく、投資家等が企業との建設的な対話を通じて中長期的な企業価値の向上を促す観点から、企業のサステナビリティ開示の充実等を図ることが重要である。

 また、SDGs推進に係る地域での創意工夫を更に浸透させ、地域産業や企業の生産性向上、地域経済の持続的な成長を図るため、地域における様々な課題解決に資する金融機関による多様なサービス提供を促す。さらに、SDGs達成に向けた金融面での取組が家計の安定的な資産形成につながるよう、金融事業者による適切な商品提供と金融経済教育の推進が重要である。

(3)市民社会

 市民社会は、「誰一人取り残さない」社会を実現するため、それぞれの生活の場で厳しい状況に直面している人々、最も取り残されている人々、取り残されがちな人々等の声を拾い上げ、政府・地方自治体や企業等の事業者へとそれらの声を届け、知見を共有し、課題解決に向けて政策立案・実施を支援する存在であり、SDGs関連施策の立案プロセスにおいてこうした人々の声が反映されるよう橋渡しをすることが期待されている。

 同時に、国際社会及び国内におけるネットワークを活かし、国内外に対する問題提起や発信、政策提言、SDGs推進を加速化・拡大するためのアクションを推進していく役割も期待されている。

 国内のみならず、国際協力の実施においても、NGOをはじめとする市民社会は、現地のニーズに寄り添った迅速な協力を通じて、世界各地の人道支援等の開発協力における存在感を拡大している。

 市民社会には、国内外・各地域の人々の参画を促し、各々の主体との連帯によって、一人ひとりの行動変容と変革の旗振り役となることが期待されている。

(4)消費者

 生産と消費は密接不可分であり、持続可能な生産と消費を共に推進していく必要があるとの認識の下、エシカル消費や食品ロス削減の普及啓発の促進等により、消費活動において大きな役割を担う消費者や市民の主体的取組を推進していくことが重要である。

 特に、目標12(持続可能な消費と生産)の観点からは、消費者が、環境に対する負荷が低い商品の購入やサービスの利用を通じて、循環経済への移行に資する等、持続可能な消費活動を行うことで、持続可能な生産と消費の形態を確保できるように、健全な市場の実現に加え、経済・社会の仕組みづくりと啓発を促進していくことも重要である。

(5)公共的な活動を担う民間主体

 地域の住民やNPO、公益法人等は、教育や子育て、まちづくり、防犯・防災、医療・福祉、消費者保護等身近な課題を解決するために活躍するとともに、新しい価値を社会に提案し続けており、引き続きその活躍の拡大が期待されている。

 協同組合をはじめ、地域の住民が共助の精神によって参加する公共的な活動を担う民間主体が、各地域に山積する課題の解決に向けて、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生し、SDGsへ貢献していくことが期待されている。

(6)労働組合

 労働組合は、社会対話の担い手として、集団的労使関係(建設的労使関係)を通じた適正な労働条件の確保をはじめ、労働者の権利確立、人権、環境、安全、平和等を求める国内外の取組を通じて、使用者とともに、ディーセント・ワークの実現、「ビジネスと人権」の視点に立ったサプライチェーン全体における人権尊重、持続可能な経済・社会の構築に重要な貢献を果たすことが期待されている。

 労働組合は、企業活動における特別なステークホルダーであり、SDGs達成に向けて、使用者側への働きかけや他のステークホルダーとの連携等に引き続き積極的に取り組むことが期待されている。

 目標8(経済成長と雇用)にとどまらず、労働組合は適正な職場環境・労働条件の確保に向けた取組を通じて、目標1(貧困)、目標5(ジェンダー)、目標10(不平等)、目標13(気候変動)、目標16(平和)等の複数の目標の達成への貢献が期待されている。

(7)ジェンダー

 2030アジェンダでは、「ジェンダー平等の実現と女性・女児のエンパワーメントは、すべての目標とターゲットの進展において死活的に重要」であり、ジェンダーの視点を「主流化していくことは不可欠」である旨明記されており、女性・女児は、多様なステークホルダーと連携しつつ、SDGsの推進に貢献していくことが強く期待されている。

 また、人権の保護、ジェンダー平等の実現、女性・女児のエンパワーメントを含め、SDGsの全ての目標の達成に向けた取組において、多様なステークホルダーがジェンダーの視点を共有することが重要である。

(8)ユース

 ユースは、2030アジェンダやその後の社会のあり方に関する議論の中核を担う存在である。ユースは、「持続可能な社会の創り手」として、どのようにSDGsを推進し社会を変革していくかを考え、多様な人々と協働しながら行動し、国内外に対して提言・発信していくことが期待されている。このような観点から、2018年12月に「次世代のSDGs推進プラットフォーム」が立ち上げられるとともに、若い世代の声をより積極的に取り入れていくため、2021年からユースの代表が円卓会議に参加している。

 このように、特定の目標に限定せずに幅広い分野におけるユースの貢献が期待されているが、様々な背景を持つユースが目標4(教育)をはじめとする各目標の達成に貢献できるようにするためにも、教育に関する政策や制度の充実も重要である。

(9)教育機関

 学校、地域社会、家庭その他あらゆる教育・学習機会を捉え、「持続可能な社会の創り手」を育成するという観点から、教育機関は、目標4の達成において重要な役割を果たしている。また、「持続可能な社会の創り手」に求められる「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」を育むことにより、自他の人権を理解・尊重し、地域や世界の諸課題を自分事として考え、課題解決を図る人材の育成に寄与するとともに、SDGsの全ての目標の達成の基盤を作るという極めて重要な役割を担っている。

 持続可能な開発のための教育(ESD)がSDGsの全ての目標の達成に貢献することを示した「持続可能な開発のための教育:SDGsの達成に向けて(ESDfor2030)」が国連教育科学文化機関(UNESCO)及び国連において採択されたことを支持し、教育機関が国内外の活動の充実に貢献することが期待されている。国内においては、学習指導要領の改訂も受け、全ての学校においてSDGs学習を推進し、ESDの推進拠点であるユネスコスクールの活動を促進するとともに、社会教育関連機関も含め、SDGsに資するように多様な文化とつながりを持ちながら学習できる環境づくりを促進することが重要である。

(10)研究機関

 研究機関による学術研究や科学技術イノベーションは、それ自体がSDGs達成の手段として大きな役割を果たしうることはもちろんのこと、地球観測等の現状把握のためのツールや目標設定の根拠としての活用や、ターゲット相互の関係分析、達成度評価、そして2030年以降の議論においても、国内外において貢献することが期待されている。

 また、研究機関は、科学的根拠に基づき、今後の科学技術イノベーションの飛躍的変革を実現することが期待されている。なお、イノベーションと変革はSDGs達成の鍵ではあるが、技術的な側面のみを偏重するのではなく、社会的側面を含むより広範な概念として扱うべき点に留意する必要がある。

 市民社会や企業、政府等と科学者との間でビジョンや情報を共有することは、科学技術イノベーションがSDGs達成の手段として大きな役割を果たしうることを認識し、種々の課題や緊急性に対する認識を高めるためにも必要である。また、フューチャー・アース等の国際的取組の下、科学者コミュニティがその他の広範なステークホルダーと連携・協働していくことや研究機関と政策立案者が更に連携していくことも重要である。

(11)地方自治体

 国内において「誰一人取り残さない」社会を実現するためには、日本全国にSDGsを広く浸透させる必要がある。そのためには、地方自治体及びその地域で活動するステークホルダーによる積極的な取組が不可欠であり、より一層の浸透・主流化を図ることが期待されている。

 現在、国内の地域においては、人口減少や地域経済の縮小等の課題があり、地方自治体におけるSDGs達成へ向けた取組は、かかる地域課題の解決に資するものであり、地方自治体にはSDGsを原動力とした地方創生を推進することが期待されている。

 地方自治体は、SDGs達成に向けた取組を更に加速化させるとともに、各地域の優良事例を国内外により一層積極的に発信・共有していくことが期待されている。具体的には、「SDGs日本モデル」宣言や「SDGs全国フォーラム」等のように全国の地方自治体が自発的にSDGsを原動力とした地方創生を主導する旨の宣言等を行うこと、国際的・全国的なイベントの開催等により海外、全国若しくは地域ブロック又は共通の地域課題解決を目指す地方自治体間等での連携がなされ、相互の取組の共有等により、より一層SDGs達成へ向けた取組が行われることが期待されている。

 また、今後は、より多くの地方自治体が更なるSDGsの浸透を目指し、多様なステークホルダーに対してアプローチすることが期待されている。地方自治体には、部局を横断する推進組織を設置すること、執行体制の整備を推進すること、様々な計画にSDGsの要素を反映すること、進捗を管理するガバナンス手法を確立すること、情報発信と成果の共有としてSDGs達成に向けた取組を的確に測定すること、国内外を問わないステークホルダーとの連携を推進すること及びローカル指標の設定等を行うことが期待されている。また、地域レベルの官と民とマルチステークホルダーの連携の枠組みの構築等を通じて、官民連携による地域課題の解決をより一層推進することが期待されている。

 さらに、地方創生SDGs金融を通じた自律的好循環を形成するために、地域事業者等を対象にした登録・認証制度の構築等を目指すことが期待されている。また、地方自治体は、地域の主体性を基本として、地域資源を持続的に活用して経済・社会・環境を統合的に向上させていく事業を生み出し続けることで、地域課題を解決し続ける自立した地域をつくるとともに、それぞれの地域の個性を活かして地域同士が支え合うネットワークを形成する自立・分散型社会の実現を目指す「地域循環共生圏」の創造に取り組む等、多様で独自のSDGsの実施を推進することが期待されている。

(12)議会

 2030アジェンダにおいても、効果的な実施と説明責任の観点から国会議員が不可欠な役割を果たすとの認識が示されているとおり、国会及び地方議会は、国内において「誰一人取り残さない」社会を実現するため、広く日本全国から国民一人ひとりの声を拾い上げ、国や地方自治体の政策に反映させることが期待されている。さらに、行政機関、市民社会、国際機関等と連携し、国や地域が直面する経済・社会課題を解決するための具体的な政策オプションを提案することが期待されている。


{*1* 2030アジェンダに掲げられている、People(人間)、Planet(地球)、Prosperity(繁栄)、Peace(平和)、Partnership(パートナーシップ)}

{*2* 1あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現、2健康・長寿の達成、3成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション、4持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備、5省・再生可能エネルギー、防災・気候変動対策、循環型社会、6生物多様性、森林、海洋等の環境の保全、7平和と安全・安心社会の実現、8SDGs実施推進の体制と手段}