データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 2024年U20コミュニケ

[場所] 
[年月日] 2024年11月17日
[出典] 東京都庁
[備考] 仮訳
[全文] 

2024年U20コミュニケ

我々U20に結集した都市のリーダーは、

世界情勢が急速に展開しているなか、民主主義、法の支配、安全とウェルビーイングが脅かされており、国際平和と安全保障、持続可能な開発、人権の相互関連性がますます明白になっていることを認識している。

複雑な地球規模の課題が山積するこの時代において、誰一人、そしていかなる場所も取り残さないという原則は、都市の課題の中心であり、あらゆるレベルの機関やステークホルダーにとって不可欠な指針となっていることを想起する。

マルチステークホルダーによる協調的な取組とパートナーシップ、世界・地域双方におけるマルチレベルのガバナンスの枠組みとパートナーシップを可能にすることによってのみ、私たちは誠実さと正義を最優先にして、この先の課題を乗り越えられることを改めて表明する。

民主主義の原則と自由な社会、普遍的人権、社会の進歩、多国間主義と法の支配の尊重に対する共通の信念を再確認する。我々は、機会の提供と繁栄の共有の追求にコミットし、全ての人々の利益のために国際的なルールと規範を強化することを目指す。

地域、そして地球が直面する課題は、国境や管轄の境界を越えて広がっているため、地域的な解決と国境を越えた解決の双方、そしてマルチレベルの連携が必要となる。あわせて、特化型の直接的な資金援助と、世界的な外交フォーラムでの都市の役割が必要である。世界はますます都市化しており、世界人口の56%が都市に住んでいる(この数字は2050年までに70%近くまで上昇すると予想されている)*1*。都市は、経済機会の拡大、成長、持続可能な開発、そしてより野心的で包摂的な気候変動行動の中心にあり、経済力の拠点として機能している。それゆえ我々はG20各国の政府に、都市の要望やニーズを改善されたグローバル・ガバナンスの中心に据えることを求め、それによって持続可能性、公平性、強靭性に関する行動、特に持続可能な開発目標(SDGs)と気候変動に関するパリ協定を達成するための行動を推進する。

世界各地では50を超える紛争が起きている。地域的なものであれ、国内、あるいは国境を越えたものであれ、これら紛争は繁栄を妨げ、インフレを増大させ、社会的脆弱性を強め、人の移動を余儀なくし、食料やエネルギーの安全保障に影響を与えることによって、都市とその住民に直接的な影響を与える。紛争により自治体は資源の流用を余儀なくされ、最終的には地域社会の生活に影響が及ぶ。こうした背景のもと、我々はすべてのG20各国の首脳に、長期的な平和を守り構築する手段として、国際法と多国間システムを守るための断固とした行動をとるよう求める。これには、国際人道法の原則を遵守しつつ、国連憲章に謳われているすべての目的と原則を守ること、それら紛争における国際法や国連憲章に対するいかなる違反も強く非難すること、すべての国連決議の遵守を求めることも含まれる。

不平等の拡大や、社会的排除の悪化、年齢、ジェンダー、人種、宗教、障害、社会経済的状況による差別は、世界的に、特に脆弱な地域において経済や社会的結束に重大な脅威をもたらしている*2*。さらに、気候変動、エネルギー移行、デジタル転換によって生じている社会的不平等の新たな原因を緩和するためには、あらゆる政府レベルによる緊急かつ協調的で包摂的な行動が必要だ。我々は、このような不平等の拡大、社会的排除の深刻化、国内および国境をまたぐ強制的な人の移動の結果、政府と国民との信頼関係が損なわれていることに懸念を抱いている。

1.5℃の温暖化であっても、私たちが直面する気候変動の影響はもはや確定的で不可避だ。2030年までの「行動の10年」においてわずか5年半しか残されていない中で、パリ協定の目標に沿って私たちの総力を挙げた取組を加速することが必要不可欠だ。重要なことに、COP28での画期的な合意(2023年のニューデリー・サミットでG20各国の政府が合意していたように、2030年までに化石燃料から脱却し、世界全体で再生可能エネルギー〔発電〕容量を3倍にし、エネルギー効率改善率を年平均で2倍にする)を受けて、都市と地方自治体は、公正でクリーンなエネルギー移行を加速させる世界的な取組において、引き続き主導的な役割を果たし、各国政府の重要なパートナーであり続けるだろう。

現状レベルの地球温暖化を受け我々はG20各国の政府に対し、基礎的な公共サービスを対象とする継続的な資金供給に加え、都市の気候変動資金の格差を縮小するための複数の明確な資金源を動員する一方で、排出量を削減し、強靭性を高める適応策を実施するよう加速度的に行動することを求める。健全な生物多様性と生態系サービスもまた、気候変動による影響の緩和、強靭性の確立、都市における人々のウェルビーイングの向上に貢献しうる。これら課題すべてに十分な資金供給を保障する世界的なコミットメントが極めて重要だ。

都市は、社会的弱者の状況を改善し地球を守るために、ローカルな規模で世界的な課題に対峙しているため、我々はG20議長国がグローバル・ガバナンスの改革を優先事項としていることを支持する。また、都市が重要な政治的主体であり、サービスを提供する地域住民に最も身近な行政機関であることを認識するように多国間システムの刷新を求める。特に、我々はG20各国の政府に対し、地方・地域政府に関する国連事務総長諮問グループが求めるように、都市のニーズに応えられるようなよりネットワーク化された効率的で包摂的なモデルへと移行するために、あらゆる規模の都市が政府間プロセスに有意義に関与できるようにすること、また、都市に対し国際的な資金へのより良いアクセスを提供することを求める。社会経済的安定と最も脆弱な人々の保護を目的として地域社会が依拠するサービスやインフラを提供するために、都市は新たな国際金融アーキテクチャーの中で、より多くより迅速な資金へのアクセスを必要としている。

リオ宣言とアジェンダ21に導かれ、そして2030アジェンダと「私たちの共通の課題(Our Common Agenda)」を行動を加速させるための枠組みとして、我々は国連未来サミットで「未来のための協定」が採択されたことを称賛する。特に、都市やその他地域政府との関わりがグローバルなガバナンスや協力をどのように強化しうるかについて、国連事務総長に提言を求めたことを歓迎する。

私たちの地域社会、地球、そしてガバナンスモデルの未来にとって重要なこの時に、国、地域、地方自治体の指導者は、多層的な協力、適切なプラットフォームにおける政治対話、並びに平和文化の強化、時宜を得た人道的対応、民主主義と人権の尊重へのコミットメントを通じて、地球規模の課題にともに取り組む重要な役割と機会を有している。

以上を踏まえ、我々U20都市のリーダーは、

・ G20議長国ブラジルが飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスおよび、気候変動に対する世界的な動員を立ち上げたことを、これら地球規模の課題に対し国際的な解決策を生み出すことの重要性を認識する上での力強い一歩として称賛し、

・ G20ブラジルがバイオエコノミー・イニシアティブを立ち上げ、28の作業部会のうち22の部会を分野横断的課題として気候変動の緩和に取り組むよう構成したことを称賛し、

・ 共通の課題に対処するために必要な加速的かつ包摂的な行動の実現は、効果的なマルチレベルの協働を通じてのみ可能であることを認識し、高い野心のためのマルチレベル・パートナーシップ連合(CHAMP)のような都市ネットワークやマルチレベル・パートナーシップによる取組を通じてなど、国や他都市の政府と積極的に協働することを誓い、

・ G20に対し、公共分野の一端を担う地方自治体の際立った役割を認識すること及び、あらゆる規模の都市と効果的に連携し、2024年のG20議長国が表明した以下3つの優先課題に取り組む上で都市が果たす中心的な役割を支援すること(特化型の直接的な資金援助を含む)を求める。

1 社会的包摂と飢餓・貧困との闘い

(1)[不平等]不平等とその多次元的な根本原因の解決に取り組み、人間中心で、権利主導で、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指した、誰一人、いかなる場所も置き去りにしない新たな社会契約を作り上げる。これにはまず、最も貧しく最も脆弱な人々を含む歴史的に社会から疎外されてきたコミュニティの権利、ニーズ、要望を保障し、ジェンダー平等を確保し、市民の意思決定への参加を促進することから始める。

(2)[地方公共サービスの提供]水、公衆衛生、住宅、エネルギー、医療、公共の安全、教育といった効果的な地方公共サービスを保障する。これらは、不平等解決の要としてSDGsの地域の特性やニーズに合わせた展開に資する、不可欠な社会的セーフティネットである。ほとんどの国の憲法において、水、公衆衛生、住宅、エネルギー、医療及び教育が義務付けられているが、移住者や変化する人口動態上の需要に対応する基本的な市民サービス提供への普遍的なアクセスを促進するために、法的枠組みを再考する必要がある。

(3)[飢餓と栄養]すべての人に食料と栄養への平等なアクセスを保障する。その際、超加工食品の規制など栄養価に関する国の最低基準に準拠した地方公共サービスの提供によって飢餓ゼロに貢献するという都市が果たす重要な役割を強調する。また、飢餓がいかに教育・医療・経済的機会への不平等なアクセスを悪化させるかといった、飢餓、貧困、不平等の相互関係を認識する。国連世界食糧計画(国連WFP)が管轄する学校給食連合の目的に沿って、すべての子供が健康的で栄養のある学校給食を取れる機会を保障するため、学校給食プログラムを改善・拡充する等、幼児期における栄養介入を優先する。同時に、高齢化にともなう課題や、高齢者の所得と最低生活費に関する問題にも取り組む。学校給食プログラムが、都市レベルで具体的な目標を達成し、新世代の市民が食との関係を構築するための牽引役であることを認識し、都市の食料システムの社会的、環境的、経済的な効果に直接的に影響を与えていることを認識する。学校給食プログラムは何よりもまず、全ての子供が健康的な食事を取ることを保障できる政策であり、それにより栄養不良に対抗し、健康的な食事を推進する。

(4)[食料システムと食品ロス]飢餓を克服し、排出量及び生物多様性の損失を削減するために不可欠な、持続可能で気候変動に強い食料システムへのアクセスを促進・改善するための確固たる目標を策定する。また、都市内で食料が生産・調達・消費される方法を改善するため、都市のリーダーに対し様々なリソースを通じて支援を提供する。住民の文化、地理、人口動態を反映した上で、地域の生態系と両立するバランスの取れた食生活を実現できるよう、革新的な都市の食料政策を立案するための都市政府の取組を支援する。人、自然、気候、特に脆弱な食料生産者・地域コミュニティのための主要な解決策の一つである食料システムの可能性を引き出すため、企業、あらゆる規模の都市、政府間で一丸となって取り組む。食品ロスを減らし、都市の廃棄物管理を改善することは、メタン排出を最小限に抑え、水質汚染や土壌汚染を抑制し、公衆衛生を向上させ、病気の蔓延を抑え、食料と水の安全保障と経済的機会を提供し、土壌の健康を回復するために重要である。

(5)[医療とケア]医療とケアは、医療的ケアにとどまらず、全住民がアクセス可能な医療制度を支える強力で十分に資金が確保された地方公共サービスのバックボーンによって支えられていることを認識する。テクノロジーへの平等なアクセスを奨励し、能力開発および知識の共有を促進し、メンタルヘルスの重要性を強調し、保健医療において都市の生活環境が果たす役割を組み込むなどで、公共財としての医療という認識を促進する。気候変動と大気汚染の危機に取り組むことは〔健康〕被害を回避するために不可欠である。都市は、住民の強い支持を得られる施策によって都市の大気汚染の削減を主導でき、偽情報との闘いに特化した啓発活動もこれに資する。個人の、そして集団のウェルビーイングに貢献するものとして、また公平なグリーン経済とジェンダー不平等の緩和への移行における重要な要素として、不均衡に女性主導なケア経済の価値を認識する。すべての人に人権を保障し、地域社会に力を与え、人々のケアとウェルビーイング、ジェンダー平等、地球を最優先事項とする平等主導のアジェンダを打ち出す都市をサポートする。

(6)[住宅]生活費の上昇と社会的不平等の拡大を踏まえて、居住への権利のアプローチを追求し、適切で、安全、強靭、持続可能かつ手頃な価格の住宅へのアクセスを確保する。新しい住宅、住宅再生事業、生活公共空間、そして住宅のインフラといった国の住宅に関する政策と事業は、住まいへのアクセスを保障する包摂的で参加型の都市計画プロセスのための十分な資源を持つ地方自治体や地域社会との連携を求めなければならない。空間的な分離を是正するためには、包摂的な開発計画を策定し、経済の中心地に近接した主要幹線に沿って包摂的な住宅をつくり、歴史的に不利な状況に置かれている地域へのインフラ投資と公共サービスへのアクセスを優先させる必要がある。

(7)[人の移動]人の移動――特に都市への、都市内部での、そして都市からの移動――は、紛争、不平等の拡大、そして気候変動などによって引き起こされる現象であることを認識する。同時に、長期的な移住者の統合は、都市の成長、文化的・社会経済的な機会とイノベーション、そして都市におけるグリーンで公正な移行の実施を促進する貴重な力であることを認識する。政府は、都市における移住者の社会的・経済的包摂において役割を果たす重要なツールとして、地方政府のサービス提供への支援にコミットすべきだ。これには、移住者の受入れや労働の指導、住宅・医療へのアクセス、教育と語学研修が含まれる。

(8)[アクセシビリティ]公共財として、すべての障害者のためにアクセシビリティの権利を認識し、積極的に促進する。具体的には、平等な参加を確保しながら、雇用、医療、教育、住宅、デジタルインフラ及びサービスへの包摂的なアクセスを保障し、尊厳、自律性、自立した生活を促進する。

(9)[優れたグリーンで持続可能な仕事]グリーンで持続可能な仕事とスキルのハブとしての都市に投資し、この投資が公正で包摂的な移行に不可欠な要素であることを認識する。都市が地域のグリーンな労働力を形成できるよう、スキルに関する分権化などにより、〔都市の〕グリーン・スキル不足への対処にコミットする。あらゆる労働者、特にエネルギー産業で働く労働者、インフォーマルな労働者、女性、若者、移民、貧困に直面している人々、社会から疎外され、恵まれないコミュニティの人々及び、弱い立場にある人々が、仕事と訓練の機会にアクセスできるよう、社会対話によって都市、組合、雇用主と協働する。DXやAIなどの新技術を含むメガトレンドが仕事の未来に与える影響を緩和するための行動を取りながら、グリーンで公正で包摂的な移行を支援するため、再教育に投資し、地域の労働市場政策を実施し、教育シラバスを調整する。地域のサプライチェーンを支援し、労働基準を改善し、人権を尊重しながら、経済のすべての産業と分野にわたって優れてグリーンで持続可能な仕事の拡大を確保するために、民間部門と協力する。

(10)[社会的保護]経済・エネルギー移行期に労働者やコミュニティを保護し、紛争、拡大する社会的不平等、気候関連災害の影響が増大するなかで強靭性を構築するために不可欠である、世界・国・地域による普遍的な社会的保護策の実施を支援する。これらの施策は、フォーマル及びインフォーマルな労働者双方のニーズに応えるものでなければならない。

(11)[デジタル化]人間中心かつ人権に基づいた、公平で持続可能なデジタルトランスフォーメーションを確保する。アクセスが容易なデジタル公共インフラを育て、インターネット接続、オープンデータ、デジタルリテラシーと能力の開発へのアクセスを確実にすることから始め、同時に、包摂的で、説明責任を持ち、サイバーセキュリティが確保され、透明性のある人口知能(AI)の利用を促進する。その際、AIのリスクと危険性を認識した上で、利点と欠点とのバランスをとり、情報通信技術とその活用の安全性を強化する。

(12)[文化]創造性、伝統、多様性、知識の伝承、持続可能な開発のための次のグローバル・アジェンダにおいて文化目標を設定するといった、文化や文化的要素の担う役割が、新しく、包摂的で、人間中心で、平和的で、気候変動に対して強靭な開発パラダイムの提供に不可欠であることを認識する。

(13)[教育]機会への平等なアクセス、批判的思考及びデジタルリテラシーを促進する手段としてのデジタル化された教育技術の活用などにより、社会的包摂を実現し不平等と闘うために、教育及び教育システムに投資する。職業教育政策と経済政策と若者政策を結びつけることによって、あらゆる規模の都市は、様々なステークホルダーと共に、若者の機会を最大化できるよう支援されなければならない。たとえば、若者に優れてグリーンで持続可能な仕事へのアクセスを確保しつつ、地域の若者気候会議などを通して、気候変動、持続可能な開発、食糧システムの持続可能性、誤った情報、市民参加、平和・コミュニティ構築といった、自身に影響を与える課題への意思決定に若者を巻き込む。

(14)[地域レベルでの市民参画の促進]地域規模で市民の日常生活に影響を与える意思決定に、市民がより大きな発言権を持てるようにするととともに、デジタル化を通じて参画メカニズムを強化する。革新的な政策が世界中に広まるよう、世界の都市間で地域民主主義の優れた事例を〔情報〕交換し学べる空間をつくることで、地域民主主義の実践を促進する。

(15)[イノベーション]持続可能な開発と、繁栄し、住みやすく、強靭な都市〔の実現〕に資する革新的な解決策の出現を促進するような政策環境を整備する。

2 持続可能な開発と公正なエネルギー移行

(1)[1.5℃目標の下での団結]世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から1.5℃以下に抑えるため、世界が緊急かつ決定的な行動をとるよう促す。グローバル・ストックテイクに続き、1.5℃の軌道に乗せるためには、COP30の国が決定する貢献(NDCs)の更新に先立ち、さらに著しく野心的な気候変動目標が必要だ。公正な移行に向けた政策を含む、革新的な政策立案者としての都市の重要な役割を認識し、排出量及び不平等を必要な水準で削減するための都市の参加型かつ包摂的な現場レベルでの気候変動行動を、政策、資金調達、協力によって支援する。

(2)[サーキュラーエコノミー]包摂的で革新的かつ持続可能な経済に向けて、国際機関、国、および地方自治体が協力する必要があることを認識する。そのためには、包摂的かつ戦略的な選択とエネルギーシステムの変換だけではなく、廃棄物ゼロに向けた生産及び消費のあり方の変更も求められる。都市がエネルギーと経済の循環を実現し、その循環から生まれる雇用の創出、強化されたイノベーション、より優れた効率性と成長性などの経済機会を利用するとともに、社会的に公正で生態学的に持続可能な社会をつくるための政策を展開し、住民をこのプロセスにおける積極的なアクターとして認識する。

(3)[〔気候変動〕適応資金]あらゆる国、特にグローバル・サウスにおける都市主導の適応イニシアティブに対して、投資を拡大し、資金の流れを動員する。たとえば、〔気候変動の〕最前線や脆弱なコミュニティにおける、猛暑や砂漠化、干ばつ、水ストレスや水の不平等な配分、乾燥、水害、洪水に対して都市の強靭性を構築するための、良質で持続可能な〔気候変動〕適応インフラプロジェクトへの重点的支援が挙げられる。この点に関し、財源拡大の実現という観点から、我々は先進国に対し、2025年までに〔気候変動〕適応資金の総供給量を2019年比で少なくとも2倍にするという約束を果たすことを求める。

(4)[公正な移行資金]民間投資を刺激するための重要な一歩として、2030年までに都市における緩和と適応のための気候変動プロジェクトのために最低でも年間8,000億ドルに達するよう公共投資を総動員することによって(2021年のデータに基づく)、また、地域政府の資金調達へのアクセスを改善することによって、地域の気候変動行動への投資を促進する。たとえば、譲許的資金の少なくとも40%を、関連する地域または国の財政政策に沿って、低所得者層や貧困地域、労働者、その他脆弱な状況に置かれた人々を優先する、地域の気候変動行動に割り当てる。これにより効果的かつ包摂的な気候変動行動、労働力開発、社会的保護が可能となり、すべての都市住民の生活が向上し、気候変動行動が、意図しない悪影響を緩和し、不正義に対処し、グリーンで公正、包摂的かつ低炭素な移行期にすべての人に利益をもたらすことを確実にする。

(5)[クリーンで強靭なエネルギーシステムとテクノロジー]都市が、排出量を削減しながら、同時に強靭性を強化できるような国の政策と制度を整備する。特に、気候変動の影響に対して強靭かつ、再生可能で信頼でき手頃な価格のエネルギーに誰もが安定してアクセスできるようにする、分散型で、脱炭素化、多様化、民主化されたエネルギーシステムへの移行により、それを実行する。これらの取組には以下が含まれ得る。①都市における分散型再生可能エネルギー生産への投資、②電力販売契約など、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を促すための市場ベースのアプローチへの支援、③エネルギーシステムの確実性を向上し、クリーンで再生可能なエネルギーの導入を促進するため、地域間連係線の整備を推進する、④地域のエネルギースキームの立ち上げ。太陽光や風力など、すでに確立されたクリーン・エネルギー技術の導入を優先的に支援する。そのために、〔技術の〕大規模な展開を阻む固有の障壁を特定し、克服するために都市と協働する。同時に、炭素利益と効率性が実証された場合には、グリーン水素製造などその他の再生可能エネルギー技術の導入と規模拡大を検討する。地域社会、女性、マイノリティ、社会的弱者に悪影響を与えないような、適切で費用のかからない解決策を追求する。

(6)[クリーンな建物と建設]以下の方法によって、都市が建物・建設分野において脱炭素化を加速するのを助ける。①汚染をもたらす化石ガスの使用を廃止するため建物内の冷暖房(給湯を含む)・調理需要を脱炭素化・削減することによって、新しい建物がネット・ゼロ・カーボンで運用できるような枠組みをつくる、②公共施設への改修介入の実施を支援する、③特に民間施設の改修や、あらゆる建設事業におけるクリーンで、資源効率の高い設計、資材、建設方法への移行に関して、民間の関係者に同じ目標に向けて取り組むよう促す、④適切な仕事と労働条件を備えた、多様で持続可能でクリーンな建設労働力に投資する。

(7)[化石燃料の段階的廃止]COP28において合意されたとおり2030年までに世界の再生可能エネルギー容量を3倍、エネルギー効率を2倍にすると同時に、他のゼロ・エミッション技術や低排出技術を加速させること、また、公正な移行の原則に則り、エネルギー移行によって影響を受ける人々への的を絞った支援を行い、あらゆる化石燃料補助金と化石燃料への投資を撤廃することなどによって、化石燃料の段階的廃止に向けた進展を加速する。これにより公正で包摂的なエネルギー移行を実現させ、2030年までに世界の排出量を半分にし、遅くとも2050年までにネットゼロ排出を実現するための取組を、軌道に乗せる。

(8)[グリーン・ブルースペース]都市におけるグリーン・ブルースペースの面積と質を大幅に拡充し、それらスペース同士の生態学的つながりを強化し、市民がそこから得られる利益を最大化できるようアクセスを改善することなどにより、より緑豊かで、より包摂的な公共空間の提供を優先する。具体的な行動として、生物多様性を包摂した都市計画、〔環境〕改善能力の向上、生態系を回復させる取組、意思決定のためのより良い参考となる自然資本や生態系の評価の実施などが挙げられる。

(9)[水]水に関連した気候災害や、安全でアクセスが容易な飲料水の欠如、水質の低下、干ばつ、洪水、水をめぐる紛争といった水の衛生に関する問題によって世界の膨大な人々が受ける影響を緩和するため、都市がすべてのハイリスク・低所得地域に包摂的な早期警戒システムを設置し、堅固な緊急時の対応計画を立てられるよう支援する。また、具体例(透水性土壌や、建物外壁の改修など)を用いて、水管理の改善に焦点を当てた平時の計画策定も推進する。都市と地域の持続可能な水の管理を促進し、すべての住民が安全で安価な飲み水と、適切で公平な公衆衛生や衛生習慣に平等にアクセスできるようにするため、資源の共有や廃棄物の監視といった調整策を講じ、明確なガバナンスメカニズムを確立する。

(10)[都市の再自然化]炭素を吸収・蓄積し、都市のヒートアイランド現象を緩和し、水管理を改善し、あらゆる規模の都市の強靭性と住みやすさを向上させることによる、気候変動に対抗する効果的な手段として、都市を再自然化し、自然を保護し、生物多様性を育み、自然を活用した解決策(NbS)を都市環境に統合するための継続的な取組を加速するため、専用の財政支援を提供する。緑地は、ウォーキングやサイクリングを奨励することで持続可能なライフスタイルを促進する鍵となり、結果として温室効果ガスの排出を削減することにつながる。

(11)[クリーン・モビリティ]クリーンで集団的なモビリティへの世界的な移行を加速し、都市における公共交通機関とアクティブモビリティ(自転車や歩行者など)への投資とアクセスを優先する。電気やゼロ・エミッションの公共・民間交通への移行に向けて取組むと同時に、公衆衛生を改善しながら排出量を削減するための重要な解決策として、自動車と自家用車への依存を減らす。都市の交通システムを脱炭素化する革新的な解決策の出現を促進するような政策環境を整備することにコミットする。

(12)[気候変動に対応した予算編成]気候変動対策のためのマルチレベルのガバナンスと説明責任を強化し、公的資金の流れを国や地方の気候変動目標と一致させる手法として、あらゆるレベルの政府において気候変動に対応した予算編成を支援する。気候変動に対応した予算編成は、既存のガバナンスシステムを基盤として、政策、行動、予算に関する意思決定において気候変動への取組や配慮を主流化することを伴う。具体的には、財政予算プロセスに気候変動目標を組み入れ、政府全体で実施、モニタリング、評価、報告に対する責任を割り当てる。このような政府一丸となったアプローチは範囲や規模に柔軟性があり、G20各国の政府は、気候変動に対応した予算編成の実施にあたり地方自治体を支援し、地方自治体と協力すべきであり、国の行政において気候変動に対応した予算編成が、いかに気候変動行動を主流化するために効果的で普及した仕組みとなりうるかを評価すべきだ。

3 グローバル・ガバナンス制度の改革

(1)[グローバル・ガバナンスの民主化]目的を達成するためにより効率的で、よりネットワーク化され、包摂的で、あらゆるレベル(とりわけ都市レベル)の政府の不可欠な役割を認識し、現行の国際的な意思決定プロセスにおける構造的な不平等に対処することにコミットした、公正な多国間システムに向けて取り組む。既存の制度や機関を民主化し、世界のあらゆる国が公正に代表される場をつくり、包摂性と効率性の双方を促進する手段として、国際的な意思決定機関における開発途上国の発言権を高めることで、多国間主義を強化する。

(2)[多国間主義の再定義]より包摂的でネットワーク化された効果的な多国間システムに向けて前進する手段として、全ての地域を代表するメカニズムを制度化し、国際的な意思決定に資するため、国連の政府間組織やプロセス及び、その他関連する多国間フォーラムやプロセスの両方において都市が果たしうる役割を公式化する。例えば、国連事務総長に対し地方・地域機関とともに取り組むことでどのように2030アジェンダを進展させることができるかについて勧告を出すよう要請する「未来のための協定」を土台としさらに発展させる。そして、国連の主要な意思決定機関において、地方・地域政府の組織化された団体に独立した特別かつ正式な地位を与えるよう呼びかけている地方・地域政府に関する国連事務総長諮問グループの勧告を実施するよう取り組む。

(3)[マルチレベルのガバナンス]マルチレベルの行動を支援し、持続可能な開発戦略、国の都市戦略や長期経済政策及び、気候変動の緩和、適応、公正な移行や強靭化計画に関する計画と意思決定に都市と地方政府をパートナーとして関与させる。持続可能な開発計画・戦略の連携をとるために国・地域の共同戦略策定を促進する「持続可能な開発のための統合された国家資金調達フレームワーク(INFFs)」などの政策・取組を正式に採用する。都市を主要パートナーとして組み込むマルチレベルの公正なエネルギー移行メカニズム(委員会など)を構築し、次期の国が決定する貢献(NDC)が確実に公正なエネルギー移行のニーズに対応し、都市の公正なエネルギー移行のための戦略強化を盛り込むようにする。高い野心のためのマルチレベル・パートナーシップ連合(CHAMP)の宣誓を支持し、COP30に先駆け、国が決定する貢献(NDC)の改定プロセスやその実施計画において、地方政府と協議・連携するために必要な国の関連プロセスを整備し、この10年間に決定的に必要とされる気候変動行動を展開する。これはさまざまなレベルの政府間の連携により可能となり、パリ協定に向けてオントラックの状態を維持する。

(4)[国際金融アーキテクチャーとMDBsの改革]国際金融アーキテクチャーの改革と、国際開発金融機関(MDBs)、地方開発銀行及びその他関連する国際金融機関の主要優先事項が、都市の持続可能な資金におけるギャップに対処し、世界のあらゆる国の都市・地域のニーズにより応えるかたちで、国際的な開発と課題に適切に対応するため、より目的にかなったものとする。MDBs及びその他関連する金融機関は、企業戦略、気候変動戦略、国の戦略、そして都市の気候変動・開発に特化したプログラムを通じて、都市において、都市とともに活動しなければならない。そして、譲許的融資や新設された損失と損害基金などを通して、都市の気候変動と開発資金の直接的・仲介的なフローの規模を拡大しなければならない。

(5)[公正な課税]国際課税協定が地方制度に及ぼしうる影響や、課税制度を通じて質の高い公共サービスや公正な移行に資金を提供する財源確保の可能性を考慮し、より公平で透明性が高く、累進的な国際課税制度を推進する。

(6)[包摂的な投資ファンドと助成金]国の枠組、戦略、可能性の一環として、申請手続の簡素化・整合化などにより、国際的な変革型投資ファンドへの都市のアクセスとその運用を最適化する。ファンドへの直接的なアクセスまたは、地方・国・地域主体、ネットワーク、全国規模の地方自治体の連携組織、そして地方開発銀行による媒介を通じたファンドへのアクセスを促進する。財源分配においてより効果的なマルチレベルのガバナンスを支援するため、地域社会に対する少額助成金など、専用のアクセス手段を整備する。都市を、積極的なオブザーバーとして、また広く認知されたステークホルダーとして投資ファンドのガバナンス構造に組み込み、ファンドの全国的かつ状況に応じた地域化を確実に行う。

(7)[国の政策環境]財政自治と地方の財政的な余力を強化する国の枠組と政策環境を推進し、都市の財政へのアクセスを拡大する。都市が土地のバリュー・キャプチャーを通して自主財源の歳入を確保できるような革新的な方法を促進し、固定資産税の潜在的可能性など未開拓の歳入の流れを最大限に活用しながら、安定的かつ予測可能な政府間の財政移転や〔地域間の財政力の〕格差を是正する国のメカニズムを確保する。市民との信頼関係を再構築するためには、参加型予算編成による市民参加、透明性、健全な財政管理の推進が不可欠である。地方政府の財政の健全性、信用力、地方政府が地方歳入を生み出す能力と、官民のファンドを動員・誘致させる能力を向上することによって、G20各国は都市の投資ギャップに対処することができる。

(8)[地方の行政能力の向上と財政規模拡大]持続可能な開発と公正なエネルギー移行を達成する基礎として、地方政府に財源を供給し、財政における地方分権を推進し、補完性の原則を適用することにより、地方自治を推進する。都市プロジェクトの世界的パイプラインを強化し、高質な公共サービスや持続可能なインフラに係る投資可能な都市プロジェクトへの資金調達を拡大することに重点を置き、都市、全国規模の地方自治体の連携組織、MDBs(国際開発金融機関)、その他金融機関の連携のため、より多様で頻繁に関与の機会を提供する。国は、特にプロジェクトの準備の場や技術支援を通して、都市がしっかりとした事業計画を構築できるよう支援すべきである。国はまた、投資の誘致に貢献するため、地方自治体の境界を超える実行可能な〔広域〕事業を集約する役割を担うべきである。地方のニーズや状況にしっかり対応した国際開発協力の一形態として、地方に権限を持たせた協力を推進する。

(9)[都市保証基金]「緑の都市保証基金(GCGF)」や「持続可能な都市のためのEFSD+保証ファシリティ」のような、世界・地域レベルの都市保証基金または都市保証ファシリティの立上げ・事業化を支援する。これらは、国の債務を財源とした借り入れに対する都市の依存性を低減させ、気候変動投資のリスクを軽減し、貸し手を損失から守る一方で、〔都市に〕財政支援を行い、都市が官民の金融機関から直接または間接的に融資を受けることを可能にするものである。

承認

このコミュニケは以下の都市によって承認された。


U20都市による承認
アーメダバード
アムステルダム
バルセロナ
ブエノスアイレス
ダーバン(エテクウィニ)
ヘルシンキ
イスタンブール
ジャカルタ
ヨハネスブルグ
リスボン
ロンドン
ロサンゼルス
マドリード
ミラノ
モントリオール
ニューヨーク市
大阪市
パリ
リオ・デ・ジャネイロ
ローマ
ロッテルダム
サンパウロ
ソウル
シドニー
東京都
ツワネ

オブザーバー都市による承認
アビジャン
ブランプトン
コペンハーゲン
フリータウン
モンテビデオ
シンガポール
トロント
ゲスト都市による承認
アバエテトゥバ
アンマン
アラカジュ
ケープタウン
コンタジェン
クリチバ
デスペニャデロス
グラスゴー
グアダラハラ
ジョアンペソア
マナウス
メンドーサ
メンジェズ
ムィコラーイウ
ナイロビ
ナンサナ
ネウケン
ニテロイ
オスロ
フェニックス
ポルト・アレグレ
リオブランコ
サルヴァドール
サンタフェ
テレゾーポリス

{*1* 「世界の都市人口予測・2018年改訂版」(現在までの最新版)/国連経済社会局人口部
https://population.un.org/wup/Publications/Files/WUP2018-Report.pdf}
{*2* 「世界の社会状況・2016年版だれ一人取り残さない:包摂的開発の必要性」/国連経済社会局
https://www.unilibrary.org/content/books/9789210577106}