データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ハーグ核セキュリティ・サミット コミュニケ

[場所] オランダ・ハーグ
[年月日] 2014年3月25日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

 我々首脳は,核セキュリティを強化し,核テロリズムの継続的な脅威を減らし,2010年のワシントン・サミット以降の進展について評価するために,2014年3月24-25日に,ハーグにて一堂に会した。ハーグ・サミットに向けて準備を進める中で,我々は,ワシントン・コミュニケ及びソウル・コミュニケを作業の基礎として活用し,またワシントン行動計画に沿って取り組んだ。

 1. 我々は,核軍縮,核不拡散及び原子力の平和的利用という我々の共通の目標を再確認する。我々はまた,核セキュリティ強化のための措置が,平和的な目的のために原子力を開発し利用するという国家の権利を阻まないことを再確認する。

 2. ハーグ・サミットは,核セキュリティの強化に焦点を当てるとともに,テロリスト,犯罪者,及びその他全ての権限を持たない者が,核兵器に使用され得る核物質や放射性物質発散装置に使用され得るその他の放射性物質を入手することを阻止することに焦点を当てる。この目的を達成することは,今後とも最も重要な課題の一つである。

 3. ハーグ・サミットは,ワシントン・サミットとソウル・サミットに立脚しており,我々は過去のサミットでなされたコミットメントのうちの多くが既に達成されたことに満足して留意する。我々は,目標の達成には引き続き取組が必要とされていることを認識しつつも,核セキュリティの強化において相当な進展が見られたことを歓迎する。

国家の根本的責任

 4. 我々は,核兵器に使われているものを含む全ての核物質及びその他の放射性物質並びに各国家の管理下にある核関連施設のセキュリティを,あらゆる段階において効果的に維持すべき国家の根本的責任を再確認する。悪意ある目的のために使用され得るそのような物質,若しくは関連する機微情報又は技術を非国家主体が入手することを阻止するための適切な措置や,テロ行為や妨害破壊行為を阻止するための適切な措置をとることが,この国家の根本的責任に含まれる。この文脈において,我々は,核セキュリティに関する確固とした国内法制や規制の重要性を強調する。

国際協力

 5. 同時に,我々は,核セキュリティ分野での国際協力を一層強化し調整する必要性を強調する。国際原子力機関(IAEA)やその他の国際機関・イニシアティブを通じて,また二国間協力や地域協力を通じて,更に多くのことを成し遂げることができる。

 6. 国際協力は,強固な核セキュリティ文化を築き維持するための,また核テロリズムやその他の犯罪の脅威に効果的に対抗するための国家の能力を培う。我々は,国家,規制機関,研究・技術支援機関,原子力産業界及びその他の関係者が,それぞれの責任の範囲内で,そのような核セキュリティ文化を醸成し,国家レベル,地域レベル及び国際的レベルで優良事例や教訓を共有することを奨励する。

 7. 我々は,核セキュリティの中核拠点(CoE)や支援センターなどを通じた,教育,意識啓発,及び訓練に関するより一層の国際的・地域的協力を支持する。それゆえ我々は,IAEAやその他の国際機関による,教育及び訓練・支援のための核セキュリティに関するネットワークの拡大を歓迎する。

国際的な核セキュリティ体系の強化

 8. 我々は,法的文書,国際機関・イニシアティブ,及び国際的に承認されたガイダンスや優良事例により構成される国際的な核セキュリティ体系を,更に強化し包括的なものとする必要性を認識する。

法的文書

 9. 我々は,核物質の防護に関する条約(核物質防護条約)及びその2005年の改正を未締結の国にこれらの締結を奨励する。我々は,核物質防護条約の改正に関し,ソウル・サミット以降になされた新たな批准を歓迎する。ソウル・サミットにて想定されたとおり,我々は,この改正の本年後半における発効を目指して引き続き取り組む。我々は,全ての締約国がこの改正の全ての規定を完全に遵守する必要性を強調する。

 10. 我々は,核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約の重要性を強調し,全ての締約国がこの条約の規定を完全に遵守する必要性を強調する。我々は,ソウル・サミット以降になされた新たな批准及び加入を歓迎し,全ての国がこの条約を締結するよう奨励する。

 11. 我々は,核セキュリティに関するモデル法制の策定を目指した努力を歓迎する。これは,国家がそれぞれの法体系及び内部的な法的プロセスに従って包括的な国内法制を開発するための基礎的な構成要素を提供するものである。

国際原子力機関(IAEA)の役割

 12. 我々は,国際的な核セキュリティ体系におけるIAEAの本質的に重要な責任と中心的役割を再確認する。我々は,IAEAの取組の中で核セキュリティの重要性が増大していること,及び国際機関やその他の国際的なイニシアティブとの間での調整を行う上でのIAEAの主導的役割を歓迎する。2013年7月の「核セキュリティに関する国際会議:グローバルな努力の強化」は,政治意識の啓発を強化し,核セキュリティの政策的,技術的及び規制的側面に対処する上でのIAEAの能力を示すものとなった。

 13. 我々は,各国の核セキュリティ向上の取組に対するIAEAの支援を非常に重視している。IAEAの核セキュリティ・シリーズ文書に含まれる核セキュリティに関する指針は,国家レベルでの実効的な核セキュリティ対策の基礎を提供するものである。我々は,全ての国家が適切にこの指針を活用することを奨励する。

 14. 我々は,IAEAが各国家を支援して国内の核セキュリティ向上のためのニーズを包括的な計画にまとめる核セキュリティ統合支援計画(INSSP)を歓迎する。我々は,国家が核セキュリティの向上のために,必要に応じてINSSPを活用することを奨励する。

 15. 我々は,国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)のような仕組みを通じて提供されているIAEAによる確認や助言サービスの利点を強調する。これまでに,40か国で62のIPPASミッションが実施された。これらのサービスの利用はあくまで自発的なものであることを認識しつつ,我々は全ての国家がIPPASミッションを活用し,機微情報の保護を妨げることがない形で教訓を共有することを奨励する。

 16. IAEAの役割は今後とも極めて重要である。それゆえ我々は,IAEAがその権限内での核セキュリティに関する取組を実施する上で必要となる資源や専門性を確保できるよう,IAEA核セキュリティ基金などを通じた,IAEAに対する一層の政治的,技術的及び財政的支援を奨励する。

国際連合の役割

 17. 我々は,国連が核セキュリティの強化,特に核テロリズムを含むテロ対策関連諸条約の批准と効果的な実施の促進の上で果たしてきた重要な貢献を歓迎するとともに,安保理決議第1540号に基づいて設置された委員会によって実施されている取組を歓迎する。我々は,各国が安保理決議第1540号及びそれに続く決議を完全に実施し,定期的にそのような取組に関する報告を継続して行うよう要請する。我々はまた,軍縮・不拡散に対する国連の重要な貢献を認識する。

国際的なイニシアティブの役割

 18. 我々は,「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」や「大量破壊兵器及び関連物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ」が,それぞれの権限と加盟国の範囲内で2010年と2012年の核セキュリティ・サミット以降に果たした貢献を認識する。双方とも,加盟国が拡大し,核セキュリティに関する調整と協力のための貴重な場となっている。

 19. 我々は,地域的なイニシアティブを歓迎するものであり,地域的イニシアティブは,地域内での核セキュリティに関する連携を強化する上で重要な役割を果たすとともに,全体としての核セキュリティ上の目標を支える。我々はこの分野における継続的な進展を歓迎する。

自発的取組

 20. 我々は,国家が機微情報を保護しつつ保有する核物質や核関連施設の実効的なセキュリティ確保を行ったことを示すためにとることを検討できる様々な自発的措置を特定した。この自発的措置には,以下が含まれる。(1)国内法,規制及び機構の在り方に関する情報を公開すること,(2)優良事例を共有すること,(3)IAEAによる確認や助言サービス及びその他の確認を受け入れ,それらの結果をフォローアップすること,(4)関連する既存の報告メカニズムやフォーラムを通じて情報を提供すること,(5)訓練コースを立ち上げ,それへの参加を促し,また国内的な認証スキームを適用することによって,核セキュリティに関わる人材の育成を一層強化すること。我々は,このサミットに参加している国々の多くが既にそのような措置を実施しており,またいくつかの場合には地域的な文脈で実施し,さらにこれらを核セキュリティ強化の取組の例示として使っており,これらをもって核セキュリティ体制が実効的であるとの国内的及び国際的な信頼醸成を行っていることに留意する。

核物質

 21. 我々は,高濃縮ウラン(HEU)及び分離プルトニウムが特別な予防措置を要することを認識し,また適切にこれらの物質のセキュリティを確保し,統合管理し,計量することが非常に重要であることを認識する。過去4年間にわたり,我々は,安全で,セキュリティを確保し,時宜を得た形でこれらの物質の国内での統合管理を行い,また処分のために他国に移転させることについて,相当な進展を遂げた。さらに,かなりの量のHEUが低濃縮化されて低濃縮ウラン(LEU)となり,また分離プルトニウムは混合酸化物(MOX)燃料に転換された。我々は,国家がそれぞれの国内的要請と一致する形で,HEUの保有量を最小化し,また分離プルトニウムの保有量を最小限のレベルに維持することを奨励する。

 22. 我々は,国家が原子炉の燃料を,技術的及び経済的に可能な場合にHEUからLEUに転換することを通じて,HEUの使用を引き続き最小化するよう奨励し,この点に関して,そのような転換を促す技術に関する協力を歓迎する。同様に,我々は,医療用の放射性同位体の確実で信頼性ある供給の必要性を考慮し,HEUを使わずに放射性同位体を生産する技術を活用するための財政的なインセンティブを含む取組を引き続き奨励し,支持する。

放射線源と放射性物質

 23. 放射線源は,世界のあらゆる国で,産業,医療,農業又は研究の分野を問わず利用されている。同時に,高レベル放射線源は,悪意ある行為に使用され得る。我々は,取り分け自国内での登録制度を通じて,これらの放射線源の防護強化に進展をみた。IAEA核セキュリティ・シリーズ文書及び放射線源の安全とセキュリティに関するIAEA行動規範の指針を踏まえて,かなり多くの国々が国内法令及び規制を改正している。我々は,何よりもまずIAEAを通じてこの指針の実践を推進することにコミットしている。我々は,国際的な指針に従って,全ての放射線源のセキュリティを確保することを目指す。

 24. 我々は,使用済み核燃料及び高レベル放射性廃棄物の管理のための適切なセキュリティ計画を策定していない国に対して,これを策定するよう奨励する。

核セキュリティと原子力安全

 25. 我々は,核セキュリティと原子力安全が,人々の健康,社会及び環境を守るという共通の目的を有していることを認識する。我々は,原子力安全と核セキュリティが重複する特定の分野において,整合性があり調整のとれたやり方で双方の対策がとられるよう,立案し対処する必要があることを再確認する。これらの分野においては,核セキュリティをさらに向上させる取組は,原子力安全分野で得られた経験から恩恵を受けることもあり得る。我々は,特に原子力安全と核セキュリティの間の調整に焦点を当てて,核セキュリティ文化を醸成する必要性を強調する。機微情報の保護を妨げることがない形で優良事例を共有することも役立ち得る。継続的に向上を図るとの原則は,原子力安全と核セキュリティの双方に当てはまる。この点に関し,我々は,IAEAの核セキュリティ指針委員会及び安全基準委員会,並びに原子力安全と核セキュリティの重複分野での課題に適切に対処するためのこれら委員会の活動を認める。

 26. 我々は,核セキュリティと原子力安全の双方に対処する形で,緊急事態への準備,対応及び事態の緩和を効果的に行うための能力を維持する必要性を再確認する。

原子力産業

 27. 原子力事業者は,事業者自身が保有している核物質のセキュリティを確保する上で第一義的な責任を負い,そのような者として核セキュリティを維持・強化する上で重要な役割を担っている。事業者のセキュリティ・システムは実効的であるべきであり,また効果的なセキュリティ文化,防護措置及び計量管理を特に重視するものであるべきである。これは,必要に応じた性能検査や自己評価を含む,定期的な所定の検査及び評価により国内的に示される必要がある。我々は,必要に応じて性能基準の規制を活用することに新たな関心が出始めていることに留意する。我々は,核セキュリティの規制及び規制の実効性を向上させることを目的として,機能的に独立しているべき国家の規制機関を含む政府機関と事業者が,より緊密な対話を行うことを支持する。

 28. この点に関し,我々は,ハーグ核セキュリティ・サミットのサイドイベントとして原子力産業サミットが開催されたことを認識する。

情報及びサイバー・セキュリティ

 29. 我々は,コンピューター・システムに蓄積されている情報を含む,核物質と技術に関連した情報セキュリティの重要性が増大していることを認識する。権限を持たない者が悪意ある目的のために核物質を入手し使用するのに必要な情報,技術及び専門知識を得ることを防ぐために,セキュリティの確保は必要不可欠である。これらの分野における一層の産官学連携が望まれる。我々は,機微な専門知識や情報を保護する必要性を強調し,そのような情報がオンライン・メディアや公開のフォーラムに開示されることを防ぐ核セキュリティ文化を促進する。

 30. 重要情報インフラや制御システムへの攻撃を含むサイバー攻撃の脅威の高まりや,それらの核セキュリティへの潜在的な影響に対処するため,我々は,国家及び民間セクターが適切に核関連施設のシステムとネットワークのセキュリティを確保するための効果的なリスク軽減措置をとるよう奨励する。これらのシステムへの不正アクセスは,関連情報の秘匿性,完全性及び利用可能性のみならず,当該施設を安全にかつセキュリティが確保された形で稼働させることを危うくする可能性がある。

核物質輸送

 31. 我々は,国内及び国際輸送における核物質及びその他の放射性物質のセキュリティを一層強化するとの決意を再確認する。我々は,機微情報の保護を妨げることがない形で優良事例や教訓を共有することは,この目標への有益な貢献となり得ることを認める。我々は,国家,関連産業界及び核セキュリティの中核拠点(CoE)が国内的及び国際的なレベルでこれらの取組に関与することを奨励する。

不正取引

 32. 我々は,核物質の移転を規制し核物質の不正移転に対抗するための,実効的な輸出管理の取決めや法執行のメカニズムを含む規制上の管理を外れた核物質の場所を特定し,セキュリティを確保するために,利用可能なあらゆる手段を活用することの死活的重要性を強調する。この文脈において,立法措置は国家による訴追を可能にするために必要である。我々は,核検知,核鑑識,法執行及び税関職員の執行力を強化するための新技術の開発といった関連する分野において,二国間,地域内及び多国間のメカニズムを通じて,各国家の国内法及び手続に従って,情報,優良事例及び専門知識を共有するとのコミットメントを強調する。我々は,国家がIAEA移転事案データベースに参画するよう,また関連情報を時宜にかなった形でIAEAに提供するよう要請する。法執行努力を支援するために,我々は,各国家の国内規制や国際的義務に従って,国際刑事警察機構(INTERPOL)及び世界関税機構(WCO)等を通じて,核物質又はその他の放射性物質の不正取引に関与した個人に関して,国家が情報共有を拡大することを奨励する。

核鑑識

 33. 核鑑識は,核物質及びその他の放射性物質の出所を特定し,また不正取引行為及びその他の悪意ある行為を訴追するための証拠を提供するための,実効的な手段に発展している。我々は,伝統的な鑑識手法の利用を向上させるいくつかの機器が進化し,最近発展していることを歓迎するとともに,核物質及びその他の放射性物質が関わる事案の捜査をするための,革新的な鑑識手法及び手段を更に開発する必要性を強調する。我々は,IAEA及びその他の関連する国際機関における,伝統的な鑑識能力と核鑑識能力を可能な場合に結びつけて強化することを目的とした更なる国際協力,また物質の出所をより良く特定できる国家の核鑑識データベースの構築を目的とした更なる国際協力を奨励する。我々は,2014年7月に予定されている,核鑑識における進展に関する会議をIAEAが主催することを歓迎する。

核セキュリティに関するプロセスの将来

 34. 国際的な核セキュリティ体系を強化するという我々の共通目標を達成するためには,継続的な取組が必要であり,我々は,これが現在進行形のプロセスであることを認識する。

 35. それゆえ,IAEAが調整に主導的役割を果たす形で核セキュリティを取り扱う多様な国際的なフォーラムに,我々の代表者が継続的に参加する。

 36. 米国は,2016年に次回核セキュリティ・サミットを主催する。