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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第3回ASEAN地域フォーラム(ARF)議長声明

[場所] ジャカルタ
[年月日] 1996年7月23日
[出典] 外交青書40号,291−297頁.
[備考] 仮訳
[全文]

1.第3回ASEAN地域フォーラムは、1996年7月23日ジャカルタにおいて開催された。会合は、インドネシア共和国アリ・アラタス外務大臣の議長の下に行われた。

2.すべてのARF参加国が会合に参加した。ASEAN事務局長も出席した。

3.閣僚は、1995年7月にブルネイにて開催された第2回ARF閣僚会合において、ARF議長に対し将来の参加問題につき検討すること及びARF・SOMを通じて第3回ARFにおいて検討するために、一連の新規参加基準を作成することを要請する旨決定したことを想起した。

4.会合は、ARF新規参加国問題に関する各国の意見を聴取するために議長が行ったARF参加国代表との一連の協議につき、感謝の意をもって留意した。これらにより得られた提案及び意見に基づき、議長はARFへの参加基準に関するペーパーを準備した。

5.この点については、閣僚は、ARF・SOMより提言されたARF参加基準に関する議長ペーパーに示された指針原則及び基準について検討し、以下について合意した。

指針原則{前4文字下線}

 i)如何なる新規参加国も、ARFの基本的目的に賛同し、その達成を助けるために協力しなければならない。ARFコンセプトペーパー(1995年8月1日の議長声明に添付)において述べられた通り、ARFの主要課題は、現在アジア太平洋地域により享受されている前例のない平和と繁栄の期間を維持し拡大することである。すべての参加国は、アジア太平洋地域の安全保障上の関心事項に焦点をあてた議題を発展させるべく作業すべきである。

 ii)ARFは、ARFが平和構築及び平和創造に関する努力を集中させる地域の平和と安全に直接関係しうる参加国のみを認めるべきである。アジア太平洋地域は、理論的には(2つのアメリカ大陸を含む)世界の大部分を占めうるが、ARFが焦点を当てる特定の地域、又は、「地理的範囲」を明確に示すことが賢明である。ARF参加国の間で、この「地理的範囲」は、東アジア(北東アジア及び東南アジア)及びオセアニア全域に及ぶという暗黙の了解がすでに存在することは明らかである。即ち、ARFの主要活動の地理的範囲を拡大することは賢明でない。(例えば、捜索・救難に関する協力等、ARFの活動には、単に東アジアだけではなく、より広範囲のアジア太平洋地域に及ぶものもある。)

 iii)ARFは、注意深くかつ慎重に拡大すべきである。ARFプロセスはわずか3年が経過したばかりであり、参加国を急激に拡大するよりも前に、ARFプロセスを固めることが望ましい。それぞれの新規参加国は、その参加がARFの主要目標の達成に必要であるとの堅固な理解に基づいて認められなければならない。

 iv)参加に関するすべての問題は、すべてのARF参加国間の協議により決定されるべきである。1995年8月1日の議長声明に述べられているように、「ARFが成功するためには、全ての参加国による、活発、十分かつ平等な参加と協力が必要である。他方でASEANは主要な推進力になる義務を負う。」議長声明のその次の段階では、「ARFのプロセスは全ての参加国にとり快適なペースで進められる。」と記述されている。これらの記述は、ARF参加に関して、ARFは、全ての参加国の意見及びASEAN諸国の特別な必要性と関心の両方を考慮に入れなければならないことを示している。従って、すべてのASEAN加盟国は自動的にARF参加国となる。(注:ASEANの創設者は、1967年にASEANは将来的にはすべての東南アジア諸国を含む10ケ国の共同体になることに合意した。)

基準{前2文字下線}

 これらの原則に留意しつつ、ARF参加国は、新規参加国にとっての基準を以下のとおりとすることに合意した。

 i)コミットメント

   すべての新規参加国(主権国家)は、ARFの基本的目的に賛同し、その達成を助けるために協力しなければならない。新規参加が認められる前に、すべての新規参加国は、これまでARFによってなされた決定及び声明に従い、これを完全に尊重することに同意すべきである。すべてのASEAN諸国は、ARFに自動的に参加する。

 ii)関連性

   新規参加国は、ARFの主たる活動の範囲(即ち、北東及び東南アジア並びにオセアニア)の平和と安全保障に影響を与えることが実証されてはじめて参加を認められる。

iii)漸進的拡大

   ARFの効率性を確保するために、参加国の数を運営可能なレベルに抑えるための努力がなされなければならない。

 iv)協議

   すべての参加申請は、ARF議長に提出されるべきであり、ARF議長は、高級事務レベル会合において、他の参加国と協議し、当該申請国の新規参加に関し、コンセンサスが存在するか確認する。新規参加は閣僚会合において実際に決定される。

6.閣僚はインドとミャンマーがARFに新規参加国として加わることを歓迎するとともに、ARFの基本的目的の達成を助け、ARFにおいて既に行われた決定と声明に従いこれを十分尊重するとの決意の表明に留意した。

7.会合においては、アジア太平洋地域の平和と安全の問題に関連のある広い範囲の事項が協議された。この関連で、以下の事項に焦点が与えられた。

 − 1995年11月バンコクにおいて全ての東南アジア諸国の首脳による東南アジア非核地帯条約の署名は、地域の安全を強化し世界の平和と安定を維持するための東南アジア諸国の今一つの重要な貢献を示すものであった。これは、非核地帯の一層の発展を歓迎したNPT再検討会議と軌を一にするものである。

 − 核実験は引き続きアジア太平洋地域の懸念事項である。会合は、南太平洋における核実験の停止を歓迎し、アジア太平洋地域が近く核実験のない地域となるという理解を確認した。会合は、すべての軍縮会議参加国、特に核兵器国に対し、最も高い優先順位の作業として、国連総会第51会期の開始までにその署名が可能となるよう、すべての側面において核軍縮と核兵器の拡散防止に貢献する、普遍的かつ多国間で実効的に検証可能な包括的各実験禁止条約を締結するよう要請した。会合は、1996年7月29日に再び召集される軍縮会議で現在行われている交渉が、すべての関係国の支持を得る包括的各実験禁止条約{前10文字ママ}が繋がることの希望を表明した。

 − 対人地雷の地球的廃絶促進に関し、会合は、数カ国による対人地雷の製造、輸出、及び作戦使用の一時停止及び禁止の決定を歓迎した。会合は、紛争の後に地雷を探知並びに除去し、また犠牲者を支援するための努力に対する国際的な支援を強化することの必要性を認識した。

 − 南シナ海については、一般国際法、特に1982年の国連海洋法条約に従い、関係国が平和的手段による解決のために行っている努力を歓迎した。会合は、また、南シナ海における潜在的紛争の管理に関する一連のワークショップによる好ましい貢献についても留意した。

 − 朝鮮半島の平和と安全の重要性に留意しつつ、会合は平和的な体制を確立することの必要性を強調し、また、それまでは1953年の休戦協定が有効であるべきであることを強調した。会合は、韓国と北朝鮮の間の対話再開の重要性を強調した。会合は、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の重要性に留意し、ARF参加国がKEDOに対する一層の資金的及び政治的支援の実施を検討するよう慫慂した。

8.会合は、ブルネイの第2回閣僚会合以降行われたトラック1及びトラック2会合の活動について検討した。

9.会合は、トラック1会合の共同議長国により提出されたこれらの活動のサマリー・リポートを感謝の意をもって留意した。これらの会合は、東京において1月18日及び19日に、またジャカルタにおいて4月15日及び16日に開催された信頼醸成に関するインターセッショナル支援グループ(ISG)、クアラルンプールにおいて4月1日から3日に開催された平和維持活動に関するインターセッショナル会合(ISM)、及びホノルルにおいて3月4日から7日に開催された捜索・救難に関するインターセッショナル会合(ISM)である。

10.この関連で、閣僚は、トラック1活動のそれぞれのサマリー・リポートにある以下の提案を承認した。

A.信頼醸成に関するインターセッショナル支援会合

 i 安全保障認識に関する対話

  a 安全保障に関する対話は、インターセッショナルな会合も含めてARFプロセスにおいて継続されるべきである。

  b ARF参加国が実施する対話及びその他の活動に関する情報交換は、各国より自主的に提供されるペーパーに基づき継続されるべきである。そのようなペーパーは、参加国によって行われる防衛交流及び交換プログラムも対象として含み得る。

 ii 国防計画の公表

  a ARF参加国は、毎年自主的にARF・SOMへ国防政策ステートメントを提出するよう一層奨励される。国防白書又は同様なペーパーの定期的な公表も歓迎される。

  b そのようなステートメント及びペーパーに記載された情報につき意見交換を行うことは、将来のARFにおける対話の中で奨励されるべきである。

 iii ハイレベル防衛交流、国防大学及び訓練における交流の強化

  a ARF・SOMは、国防関係者にも開かれており、また、同関係者のインターセッショナル会合への参加は一層奨励される。

  b ARF参加国は、各国の防衛交流及びその他の交換プログラムに関するペーパーをARF・SOMに提出することが奨励される。そのようなペーパーは、各国が行っている安全保障対話及びその他の活動も対象として含みうる。

  c ARF参加国は、情報交換及び人的交流を含め国防大学校間の交流を行うこと、及びこの目的のために、国防大学又は同等の機関の最高責任者間の会合を開催することを奨励される。

 iv 国連軍備登録制度(UNRCA)

  a 地域の安全保障環境を向上させる観点から、ARFの枠組みにおいて国連軍備登録制度に関する議論が継続されるべきである。

  b ARF参加国は、不必要な事務的重複を避けつつ、国連への提出と同時に、同じデータをARF各国に自主的に回覧することを奨励されるべきである。

  c ARF参加国は、国連軍備登録制度へのより普遍的な参加を促進すべく、国連において協同することを奨励されるべきである。

 v その他の信頼醸成措置

  a ARFコンタクト・ポイントのリストを完成し維持すること。

  b 災害救助における国防当局の役割に関する情報交換を行うこと、また、この問題についてインターセッショナル会合の開催を検討すること。

  c 選択された演習について、オブザーバー参加及び通報を行うことの可能性を議論する観点から、ARF参加国の間で、現在行われている演習へのオブザーバー参加及び演習の通報に関し、自主的に情報交換を行うこと。

  d NPT、CWC及びBWCをはじめとする国際的に認められた国際的軍備管理・軍縮条約、並びにCTBTの成功裡の妥結を積極的に支持すること。

 vi 信頼醸成に関するインターセッショナル支援グループは、第3回ARF閣僚会合において承認される信頼醸成措置の実施をレビューし、特にこのサマリー(別添D:省略)において特定された提案に重点をおいて将来推進されるべき措置を更に議論するために、その活動を1年間継続すべきである。

B.捜索救難の調整及び協力に関するインターセッショナル会合

  以下の分野において更なる協力を推進するためSARの専門家及びARFプロセスの担当者の会合が開催されるべきである。

  a SAR要員の能力向上のために、地域において訓練施設及び専門知識を一層共同すること

  b 訓練コースの目録を作成すること等により、訓練施設間の一層の協力と情報の流通を促進すること

  c SARマニュアル、訓練及び手続きの標準化を進めること

  d 以下のような実戦的な訓練及び演習を増大させること

   − 職務中訓練と経験のために、SAR要員を他国の救援調整センター(RCC)に配属すること

   − SARに携わるパイロット及び医務官等のSAR調整官以外の要員を訓練すること

   − 図上演習及び野外訓練を実施すること

   − RCC間インターネット網を確立する可能性を模索すること

C.PKOに関するインターセッショナル会合

 i 国連PKOの現状

  a ARF参加国は、国連PKOに関する見解と経験を交換するために、既に行われている対話の一環として、ARFの文脈とともに国連PKO特別委員会において、より緊密に協同する。

  b ARF参加国は、国連要員安全条約の締約国となることを奨励される。

  c ARF参加国は、PKO分担金の迅速、完全かつ無条件の支払いに向け努力する。

 ii 平和支援活動のための訓練

  a ARF参加国は、以下の措置等を通じることにより、PKOの経験及び専門知識の共有を増進する。

   − 特定のPKO訓練コースの開催

   − カリキュラム及び訓練に関する情報の共有

   − PKOの教官リストの作成

   − 国内訓練プログラムの他国への開放

   − 可能な際のPKO訓練面の財政援助

   − 国内訓練センター間の協力の促進

  b ARF参加国は、自国の国連PKOへの貢献のための訓練プログラム策定のベースとして、国連訓練マニュアル及び資料を利用する。

  c ARF参加国は、軍事及び民政要員の貸与、並びに他の二国間取極により、国連PKO能力を支援することを奨励される。

 iii 国連待機部隊制度

  a ARF参加国は、それぞれの能力に応じ、非常事態に対して効果的かつ迅速に対応する国連の能力を向上させるため、国連PKO局と緊密に作業する。

  b ARF参加国は、国連PKOの計画と展開を促進するために、可能であれば、国連待機部隊制度に参加することを検討する。

11.信頼醸成に関するインターセッショナル支援グループの提言に従って、閣僚は、インターセッショナル支援グループの活動を1年間延長すること及び災害救助に関するインターセッショナル会合を開催することに合意した。同様に、捜索・救難の調整及び協力に関するインターセッショナル会合は、更に1回会合を行うための活動を継続する。同会合は、SARの専門家とARFプロセスに詳しい政府関係者の参加を得て、1997年の前半にシンガポールにて開催される予定であり、引き続きシンガポールと米国により共催される。

12.閣僚は、また、カナダとマレイシアの共催によるPKOに関するインターセッショナル会合が、クアラルンプールにおける「教官のための訓練」に関する域内ワークショップ及び地雷除去の訓練コース等、当該インターセッショナル会合で採択された個々の提言を実施するために、更に1年間引き続き活動を継続することに合意した。ニュー・ジーランドより、地雷除去の研修コースを主催する旨申し出があった。

13.閣僚は、1997年3月初旬に北京にて信頼醸成に関する会合を共催するとの中国及びフィリピンよりの申し出、及び災害救助に関するインターセッショナル会合を共催するとのタイ及びニュー・ジーランドよりの申し出を歓迎した。

14.閣僚は、ARF第2回閣僚会合の決定に従い、いくつかの国が国防政策の声明及び国防政策ペーパーを提出したことを感謝の意をもって留意した。

15.閣僚は、1996年4月23日及び24日にモスクワにて開催されたアジア太平洋における安全保障と安定のための原則に関するトラック2セミナーの議長による報告に留意した。会合は、特に、本件セミナーがアジア太平洋における安全保障と安定に関する参加国それぞれの価値と熱望についての一層の理解を促進する上で、有益であったと認識し、この問題に関する対話は継続されるべきことに合意した。

16.閣僚は、インドネシア国際戦略研究所(CSIS)、ドイツ国際安全保障研究所(SWP)、及び豪国立大学平和研究センターの共催で96年12月6日及び7日にジャカルタで開催予定の不拡散に関するトラック2セミナー、並びに、フランス国際問題研究所及びインドネシア国連戦略研究所の共催で96年11月7日及び8日にパリで開催予定の予防外交に関するトラック2セミナーを開催するというEUの提案に留意した。

17.ARF参加国がARF活動のための人的資源を準備することを支援するとの観点から、閣僚は、原則として、トラック1活動が年の前半に、またトラック2活動が年の後半に行われることに合意した。

18.閣僚は、また、次のARF会合において、地域諸国の安全保障にとって脅威となりうる、麻薬取引及び資金洗浄等その他関連の国境を越える経済犯罪に関する問題を検討することに合意した。

19.会合で協議された事項の中には、意見の相違があったにも拘わらず、会合の雰囲気は一貫して良好であったことが留意された。参加者は、それぞれの見解を率直に表明したが、これは会議場において緊張や意見の衝突を生じさせることはなかった。寧ろ、調和のとれた環境の形成に向けた傾向が存在した。この良好な雰囲気は、全般的な傾向が依然として好ましいものであることを示した。

20.参加者は、極めて快適に互いの親交を深めた。ARFは依然として若いプロセスである。その成功は決して予め決定されていたわけではなかった。従って、第3回ARFにおいて参加者の間でより快適なの関係が構築されつつあることは、ARFが望ましい速度で前進していることを示すものである。将来の会合は、参加者間のこのような友好的かつ率直な協議を積み重ねていくことを目指すべきであろう、これが近い将来、重要な問題につき合意が達成されることにつながろう。