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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第12回ASEAN外相会議共同コミュニケ(インドシナ情勢,東南アジア平和・自由・中立地帯構想及び難民問題に関する部分)

[場所] バリ
[年月日] 1979年6月30日
[出典] 外交青書24号,447−450頁.
[備考] 仮訳
[全文]

 インドシナ情勢

13 ASEAN外相は、東南アジア地域の最近の動向を検討した。ASEAN外相は、インドシナ情勢に域外の諸国も入り込んでおり、事態は一層深刻化していることに対し深い懸念の意を表明した。ASEAN外相は1979年1月12−13日バンコクで開催された前回の外相会議以降状況が一層悪化していることに留意した。ベトナム軍がタイ・カンボジア国境に沿つて駐留しているため、紛争がより広範な地域に拡大する危険は今までになく高まつている。無制限なインドシナの流民(displaced persons)/不法入国者(illegal immigrants)(難民)(refugees)の流入は地域の情勢をさらに悪化させた。

14 ASEAN外相は、カンボジアの独立、主権、領土保全に対する武力干渉を強く遺憾とした1979年1月12日のバンコクに於ける東南アジア地域の最近の政治情勢に関するASEAN特別外相会議の共同声明を再確認した。

   ASEAN外相は民族自決権を行使するにあたり、外部勢力からの干渉もしくは影響を受けることなく、自らの手で自分の将来を決定出来るというカンボジア国民の権利を支持する旨繰り返し、またカンボジア領土からの外国軍隊の即時全面撤退を要求した。ASEAN外相はこの地域の平和と安全を回復するためのASEANの建設的な努力が国際社会、とりわけ国連安保理メンバーの大多数により圧倒的な支持を受けていることを留意した。

15 ASEAN外相は、その国内問題に関し、ベトナム及びその他の外国軍隊の干渉を受けることなく国家として存続する権利をカンボジア国民が有することを支持する旨表明した。ASEAN外相はカンボジアの民族自決権及び干渉、転覆、強制なしに存続する権利を支持するよう国際社会に訴えた。

16 ASEAN外相はタイ・カンボジア国境での一触即発の状況に留意した。ASEAN外相はカンボジアでこれ以上戦闘が拡大し、またタイに対しどの外国軍隊にしろ侵入があれば、ASEAN加盟国の安全に直接影響を及ぼし、また地域全体の平和と安全を危くするであろうということで意見の一致をみた。この関連でASEAN諸国は、タイまたはその他のASEAN加盟国の政府及び国民がその独立、国家主権及び領土保全を維持するに当つては断固これを支持し、結束してあたる旨再び述べた。

17 ASEAN外相はベトナムが、タイ・カンボジア国境から軍隊を撤退し、タイ及び他のASEAN加盟国へ積極的態度を示すよう要求した。

18 ASEAN外相は、ASEAN各加盟国とASEAN地域が安定すれば、世界の平和と安全に貢献する、との信念を表明した。従つて、ASEAN加盟国はあらゆる分野において相互の協力関係強化を継続し、それによつて各国の強靱性をASEANの強靱性とともに高めることに同意した。

   ASEAN外相は更に、国際場裡において協力を続けるとともに、地域事情に係わる事項についてはあらゆる可能の手段をとり共通の立場を表明するよう努めることで意見の一致をみた。

  東南アジア平和・自由・中立地帯構想(ZOPFAN)

19 ASEAN外相は東南アジアに平和・自由・中立地帯を実現するため努力を続けるとのASEAN加盟国の決意を再確認した。ASEAN外相はこの地域の不安定要因となつているインドシナ地域の武力紛争と対立に鑑み、かかる事態の進展によりASEANがZOPFANの目的をより強力に追求することの意義と必要が今一層高まつたとの意見の一致をみた。

20 ASEAN外相は1979年6月の非同盟諸国調整ビューロー・コロンボ閣僚会議でZOPFAN提案が話し合われたことを満足の意をもつて留意し、東南アジア諸国がZOPFANにつき協議を続けることを希望する旨表明した。

21 ASEAN外相は国家の独立、主権及び領土保全の尊重並びに内政不干渉に基づいてのみ地域の永続的平和と安定が達成されるとの確信を繰り返した。ASEAN外相は従つてインドシナ諸国を含む全関係国にZOPFANの利点と意義を印象付け、本構想が承認と尊重を得られるよう加盟国が努力を続けることで意見の一致をみた。

  難民問題

22 ASEAN外相は、インドシナから不法入国者/流民(難民)の大量流入が危機的水準に達しASEAN諸国に深刻な政治上、社会経済上及び安全保障上の問題を引き起しており、地域に不安定化の影響を及ぼすであろうことに深い憂慮を表明した。

23 ASEAN外相は不法入国者のとどまることのない大量脱出はベトナムの責任であり、問題を根源で解決するのに同国が決定的役割をもつていることで意見の一致をみた。

   ASEAN外相はベトナムが大量脱出を止める効果的手段をなんら講じていない事実に深い憂慮の意を表明した。ASEAN外相は、更に、カンボジアにおける武力介入及び軍事行動により引き起こされる、カンボジア不法入国者のタイへの絶え間ない流入に対し深刻な憂慮の意を表明した。

24 ASEAN外相は不法入国者/流民(難民)に一時避難所を提供するASEAN諸国の重い負担は忍耐の限度に達した旨強調するとともに、新たな難民の受入を拒否することを決定した。ASEAN外相は不法入国者/流民(難民)が更に流入することを防ぐ確固かつ有効な方法をとる旨再度表明した。ASEAN外相はもし妥当な時間内に受け入れ国又は各インドシナ諸国により不法入国者/流民(難民)が受け入れられず、また追放しないですむ措置が存在しない場合には、既存のキャンプにいる難民を追放する旨通告した。

   これらの措置の有効性を確保するため、ASEAN外相はそれぞれの政府の努力を調整する旨合意した。

25 ASEAN外相は、国際的レベルで問題解決を探る努力をするに当つては、問題を根源で解決することに重点がおかれるべきであるということで意見の一致を見た。更にASEAN外相は難民流出に責任を有する国としてベトナムは問題の解決に決定的役割をもつているということで意見の一致を見た。ASEAN外相はベトナムが難民流出を止めるよう説得することを国際社会に訴えた。ベトナム又は他のインドシナ諸国から来る不法入国者/流民(難民)は、引き続き流出源国の責任であり、現在の国際法と国際慣行の下ではこれら流出源国に、難民を受け戻す責任がある。この責任は又現在ASEANのキャンプにいる難民にも適用される。ASEAN外相はこれら難民をベトナム及びその他流出源国へ送り返す権利をASEAN諸国が持つていることを強調した。これら流出源国はUNHCR(国連難民高等弁務官)の管理の下でこれらの人々を収容出来るような適当な中継センターを準備しておくべきである。ASEAN外相は不法入国者/流民(難民)の秩序ある出国に関する措置を実施することが既にASEAN諸国にいる不法入国者/流民(難民)に対する既存の再定住計画や約束に影響を及ぼすことになつてはならない旨強調した。

26 再定住計画に関しては、ASEAN外相は、再定住国やUNHCRの恒久的定住を提供する努力を評価する一方、問題がますます重大化していることに比べこれらの努力が十分でないことに失望を表明した。ASEAN外相は、再定住国が既に中継国にいるインドシナ流民/不法入国者(難民)の受け入れを増加し、又再定住計画を促進する努力を確実に行うと明確に約束して欲しいと慫慂した。ASEAN外相は、再定住計画に他の諸国も参加するよう訴えた。ASEAN外相は、これら計画を実施するに際しては、ASEAN諸国内の難民キャンプにいる者が優先されるべきであると強く感じている旨述べた。

27 ASEAN外相は、インドシナ難民問題が東南アジアの平和と安定にとつて脅威となつていることを認めその問題を除去するため緊急且つ有効な措置をとるようベトナム及び他のインドシナ諸国に呼びかけた主要先進国首脳会議のインドシナ難民に関する特別声明(1979年6月28日東京)を歓迎した。ASEAN外相はまたインドシナ難民の受け入れ及び財政的拠出を大幅に増加するとのこれら先進国の決定を歓迎した。ASEAN外相は既に第一中継国にいるインドシナ不法入国者/流民(難民)を受け入れるとの明確な約束を再定住国が与えるよう慫慂した。

28 ASEAN外相は再定住計画実施の第一段階としての難民収容センターの重要な役割を強調した。この関連で、ASEAN外相は、1979年2月21日バンコクで出された外相声明に盛られた原則及び条件に基づき、一時収容センターとして、ガラン島を提供するとのインドネシア政府の申し出及びタラ島を提供するとのフィリピン政府の申し出を歓迎した。ASEAN外相は、ASEAN、拠出国及びUNHCRが出席し1979年5月15、16日に行われたインドシナ難民一時収容センターの設立に関するジャカルタ会議を評価し、これに留意した。ASEAN外相は、両申し出を受け入れ、UNHCR及び関係当事者と密接に協力しつつそれらの島に一時収容センターの設立を遅滞なく進めていくとの右会議の決定を歓迎した。ASEAN外相はASEAN諸国外にも一時収容センターが設立されるよう希望する旨表明した。

29 ASEAN外相は国連事務総長主催でインドシナ難民に関する国際会議を召集するとの提案を支持した。ASEAN外相は根源での解決及び再定住を促進した残留を避けより効果的な定住計画を含め難民問題の全ての面を取り上げるならば右会議は問題の解決に寄与出来ると信じている。

30 ASEAN外相はインドシナからの不法入国者/流民(難民)問題を解決するためにこのコミュニケで打ち出された目的を達成するため、共同の、かつ調整された政策及び手段をASEAN諸国が緊急に実施することで意見の一致をみた。