[文書名] 日アセアン投資・ビジネス・アライアンス・サミット小泉総理スピーチ
ご列席の皆様、
1967のアセアン創設以来、日アセアンの友好協力関係は、東アジアに確かな安定と繁栄をもたらしてきました。日本とアセアン諸国との特別の絆を後世の歴史にとどめるため、明日から日アセアン特別首脳会議が開催されます。これは史上初めて、アセアンの全首脳がアセアンの域外で他の国と首脳会議を開催する、画期的な会議です。私は、アセアン各国の首脳と共に、21世紀の日アセアン関係の基礎となる新たなビジョンを示したいと考えております。
日本とアセアン諸国との経済的な相互依存関係は、既に進んでいます。例えば、日本の自動車メーカーは、アセアン各地に工場を作り、エンジンはタイから、カーエアコンはマレーシアから、ドアロックはインドネシアからと、たくさんの部品をアセアン各国から調達し、それに日本から調達した電子部品などを組み合わせ、最終的にインドネシアやタイで組み立てています。こうして生産された自動車は、アセアン域内に止まらず世界の市場に出荷されているのです。日本とアセアン各国がそれぞれ得意分野を担当し、1台の自動車を組み立てる姿は、この地域がひとつの地域になりつつある象徴と言えましょう。
昨年、日シンガポール経済連携協定が締結され、関税が撤廃された結果、貿易が拡大し、例えば、シンガポールのプラスチック製品の対日輸出は三割以上伸びました。また、日本のシンガポールへのビール輸出は既に二倍以上に伸び、シンガポールは日本の美味しいビールを世界で最も安く飲める国になったと聞いています。
タイ、フィリピン、マレーシアなどとの間で経済連携協定ができ、更に日本とアセアン全体との包括的経済連携協定が完成すれば、日本とアセアンが人口6億5千万人、GDP5兆ドルの一つの大きな経済圏となり、日アセアン地域は市場としても生産拠点としても魅力的なものになるでしょう。
我が国企業はアセアン各国で受け入れられ、現地の方々と協力しています。例えば、タイで我が国企業は製造業を中心に活躍し、20万人を超える雇用を創出し、タイ企業の競争力の強化に貢献しています。シンガポールの中心街、オーチャード通りのクリスマスデコレーションは、毎年日本企業が担当していると聞いています。
アセアンに進出している日本企業は、各国政府の投資促進策を評価する一方で、優秀な技術者や管理職の不足に悩んでいると聞いております。我が国は今後とも、技術協力や資金協力を通じた優秀な産業人材の育成や制度づくりによって、アセアン各国がよりよい投資先となるよう支援したいと考えております。アセアン諸国においても、よりよい投資環境づくりに努力していただきたいと思います。
我が国は、5年間で対日直接投資残高を倍増させることを目指しています。外国からの投資は脅威ではなく、新しい技術や革新的な経営手法をもたらし、雇用の場を増やすなど、経済を元気づける効果があります。
経済は生き物であり、大きな不安定や危機に向かうこともあります。しかし、重要なことは我々が危機を乗り越える知恵と勇気と協力精神を持っているかどうかです。97年の通貨・金融危機に際し、我が国企業がアセアン諸国にとどまり、現地企業と協力して危機を乗り越えようと企業活動を続けたことを、私は誇りに思います。
日本政府は、この地域が再び通貨・金融危機を招くことなく、産業の成長に必要な資金が企業にきちんと供給されるよう、日アセアン間の金融システムづくりに協力してまいりました。今回の特別首脳会議では地域の債券市場の育成や現地通貨建ての債券発行の促進といった、具体的な取組を発表するつもりです。
日本とアセアンは、東アジア地域内に、なお存在する格差の是正にも取り組まなければなりません。アジア全体をバランスよく発展させ、貧困をなくし、全ての国の人々が明日を信じて生活できるよう、互いに助け合ってまいりたいと思います。我が国はメコン地域開発、東アセアン成長地域開発などを通じ、引き続き格差是正を支援してまいります。
経済の発展には政治的安定が不可欠です。この地域が更に成長するためには、地域の平和を確保し、紛争を未然に防止し、民生の安定のための政治基盤をつくることが求められます。政治的な安定と社会インフラの保護は経済の発展に不可欠であり、我が国は、テロをはじめとする新たな脅威に対して、アセアンと協力して対処していくつもりであります。
私は、海賊がアジア地域で急増していることを憂慮しています。世界全体の海賊事件の六割が、東南アジアや南西アジアで発生しており、我が国をはじめとするこの地域の海上輸送の安全に脅威となっています。今回の特別首脳会議で、私は海賊事件が今後の東南アジア地域の経済取引を妨げることにならないよう、海上警備機関間の協力強化を提案いたします。
日アセアンの間では文化面での交流が進み、日本のあちこちでアセアンを見かけることができるようになりました。日本のどこでもタイ・レストランを見かけますし、町では新しいベトナム雑貨店がオープンしています。また、インドネシアのトラジャ・コーヒーは、スーパー・マーケットに並んでいます。今や日本国内で、アセアンは非常に身近な存在になっています。
日アセアン間には、強い絆が存在します。日本とアセアン諸国で、東アジアの安定と繁栄の中核となる決意を新たにしようではありませんか。私は、今後も日本とアセアン諸国がアジアに安定をもたらし、繁栄を広げていく原動力となるよう、「率直なパートナー」として、「共に歩み共に進む」の精神で協力を進めてまいります。
ご静聴ありがとうございました。