データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 新千年期における躍動的で永続的な日本とASEANのパートナーシップのための東京宣言

[場所] 東京
[年月日] 2003年12月12日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

我々、日本国及び東南アジア諸国連合の加盟国首脳は、日・ASEAN特別首脳会議のために、2003年12月11日及び12日、日本の東京に参集し、我々の諸国が、これまで30年以上にわたり緊密な協力関係を醸成し、この地域の平和、安定、発展及び繁栄に貢献してきたことに、深い満足の意をもって留意し、

政治安全保障、経済、社会及び文化並びに開発協力の分野にわたり、日本とASEANの関係で得られた著しい進展に鼓舞し、

パートナーシップ、オーナーシップの共有、相互尊重及び相互利益など、我々の関係を導いてきた諸原則を再確認し、

特に、過去10年間の日本のASEANに対するODAは、日本がASEANを特別に重視してきたことを反映して、二国間ODA総額の約30%に相当し、日本のODAの最大部分を構成してきたなど、日本がこれまで30年間にわたりASEAN諸国の経済発展及び繁栄に重要な貢献を果たしてきたことに感謝し、

アジアの豊かな伝統と価値観は、千年期の機会を活用し、その課題に対処しようとする我々の決然たる努力を結集させる上で重要であることを認識し、

日本国民及び東南アジア諸国民の間に、相互の信頼と尊重に裏打ちされて育まれてきた「心と心のふれあい」は、未来の我々の関係の礎となる「共に歩み共に進む」パートナーシップヘ発展してきたことを確信し、

日本とASEANは、地域の平和、安定及び繁栄を確保するため、その戦略的パートナーシップの下で協力を深化させ、拡大させつづけることを決意し、

「1977年8月7日付けのクアラ・ルンプールにおける日本国総理大臣とASEAN首脳との会談共同声明」及び「1997年12月16日付けのクアラ・ルンプールにおける日本国総理大臣とASEAN加盟国首脳との会談共同声明」が、包括的な日本とASEANの協力のために基礎を築き、21世紀においてこのパートナーシップを更に進展させるべきであるとの決意を強固にさせたことを想起し、

障壁を最小化し、経済的連繋を深化させ、商取引費用を引き下げ、域内の貿易及び投資を増加させ、経済効率を改善し、日本とASEAN双方の企業のために更に多くの機会と更に大きな規模の経済を伴う一層大きな市場を創設し、資本と人材を惹きつける我々の魅力を高めるため、2002年11月5日にプノンペンで署名した「包括的経済連携に関する日本とASEAN諸国の首脳の共同宣言」及び2003年10月8日にバリにおいて署名した「包括的経済連携に関する日本国とASEANの間の枠組み」を考慮し、

ASEANビジョン2020の実現を促進し、躍動的でより深い日ASEAN協力を推進するため、2002年10月のハノイ行動計画に関する日本ASEAN協議会によるビジョン2020に向けた提言を伴う最終報告に留意し、

ASEAN安全保障共同体、ASEAN経済共同体及びASEAN社会・文化共同体から成る一層統合されたASEAN共同体の形成を導く、2003年10月7日にバリで署名された第二ASEAN協和宣言の実施に対し、全面的な支持を与えることに再度言及し、

東南アジアにおける相互の信頼、平和及び安定をより強化することとなる、東南アジアにおける友好協力条約への日本の加入の意図及びその他のASEAN対話国による加入を歓迎し、

全ての人々の幸福のため、対話国及び世界の他の諸国とのパートナーシップや連繋を進め、強め、深めるという点において、日本とASEANとの関係は、前向きで行動指向であることを再確認し、

ここに以下を採択する。

1.基本原則と価値観{前8文字下線あり}

・日本とASEANは、相互の関係、自然な経済的補完性、及び、人々の更なる接触と交流に向けての願望を含む社会的文化的親近性を、更に深化させ拡大する。

・日本とASEANは、緊密な協議と、国連憲章及び国際法に定められた諸原則の遵守を通じて、両者の協力を強化し、国家主権及び領土保全の尊重、武力の行使又は武力による威嚇の放棄、紛争の平和的解決並びに不干渉等の東南アジア友好協力条約の目的、原則及び精神を賞賛する。

・日本とASEANは、国々及び人々が、相互に、また、世界全体との関係において、公正で、民主的で、かつ調和された環境のうちに、平和裡に生存する東アジア地域の創設に貢献する。

・日本とASEANは、法の支配及び正義の尊重、開放性、国連憲章、世界人権宣言、ウィーン宣言及び行動計画に基づく全ての人々の人権及び基本的自由の擁護及び促進、文化及び文明に対する相互理解の促進並びに市場経済の相互利益の拡大を含む、共通のビジョン及び原則を醸成する。

・日本は、ASEAN共同体を実現する努力に際し、開発援助及び支援プログラムを通じて、ASEANの経済発展及び統合努力に高い優先度を与える。

・日本とASEANは、地域内及び異なる地域間の枠組み、特に、ASEAN+3プロセス、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アジア協力対話(ACD)、アジア太平洋経済協力(APEC)、アジア欧州会合(ASEM)、東アジア・ラテンアメリカ協力(FEALAC)及び東南アジア地域内の小地域協力計画の進展を、共同して推進する。

・日本とASEANは、平等、相互尊重及び相互利益に基づく両者の特別の関係を考慮して、地域の課題及び世界の課題に取り組む。

2.行動のための共通戦略{前10文字下線あり}

日本とASEANは、以下の分野において、共同行動のための共通戦略を、迅速にかつ実体的に実施するため、それらの全体の能力を活用する。

(1)包括的経済連携及び金融財政協力の強化

・相互主義、透明性及び相互利益の原則に留意しつつ、「包括的経済連携構想に関する日本とASEAN諸国の首脳の共同宣言」に基づき、経済面での連繋と統合を強化することにより、それら諸国の経済連携を増強する。

・二国間及び地域的な取り組みを実施する。即ち、いずれのASEAN加盟国も日本との間で二国間の経済連携を構築することが出来る。また、ASEAN新加盟諸国による完了には追加的に5年間延長することを含め、ASEAN諸国に対する特別かつ異なった待遇を許容するとともに、日本及びASEAN加盟国それぞれの経済発展の度合い及び機微な分野を考慮し、2012年までに包括的経済連携の枠組みに記された措置を実施することを通じて、包括的経済連携の実現を探る。

・市場の開放や拡大、貿易に対する技術的な障壁を含む非関税障壁の漸進的撤廃、産業界のために規模の経済を可能とすること、並びに基準認証及び相互承認取決めに関する協力の強化等を通じて、物品及びサービスの貿易に対し、更に大きな機会を提供する。

・貿易関連投資の手続き及び貿易投資促進円滑化の措置を向上させ、貿易投資政策及びビジネス対話を実施し、ビジネス環境を改善し、ビジネスマンや熟練労働者の移動を円滑化し、基準認証について協力し、その他経済面での連繋強化のための措置をとることを通じて、透明で自由な投資制度を創設する。

・資本市場の開発、資本勘定の自由化、通貨分野での協力など、金融財政協力を醸成し強化する。

・相互に利益をもたらす幅広い分野、特に、研究開発を含む科学技術分野、安全で効率的な交通網の確保を含む産業諸分野及び観光分野において協力を醸成する。

・相互に利益をもたらす情報通信技術協力計画の実現を通じ、アジアにおける情報通信網及びその流量の拡大及び深化において協力する。

・中小企業が物品及びサービスの貿易並びに投資のための市場アクセスを有効に利用し、ビジネス機会を拡大するため、ASEANに在る中小企業の能力強化のためのプログラムに関して共同で取り組む。

(2)経済発展と繁栄のための基礎の強化

・経済発展と繁栄の基礎の強化のために共に取り組む。日本は、ASEAN諸国からの実際の二一ズに応えて支援を積極的に提供することにより、ODA事業において引き続きASEAN諸国に優先度を与えていく。ASEAN諸国が直面する新たな課題に鑑み、日本の協力が目に見える結果をもたらす主要な問題に取り組むために、日本は特に人材開発及び関連分野での協力を強化する。

・協力を強化し、諸事業、特にASEAN統合イニシアティブ(IAI)の下での事業の実施によるASEANの統合という目標の実現を支援する。

・経済的及び社会的発展を促進し、ASEANの競争力を強化し、生活水準を向上させるため、メコン地域や東ASEAN成長地域(BIMP−EAGA)を含む、地域内及び小地域内の開発を増進することにより、ASEAN統合に対する支援努力を強化する。

・開発は地域統合の強化に貢献するものであり、また環境保全に十分配慮しつつ経済協力と貿易投資促進とを統合したアプローチにより持続的に経済成長をもたらすものであるとの共通の認識に基づき、新規ASEAN加盟国とその他のASEAN加盟国との間の格差を縮小するため、メコン地域の開発に対する支援と協力を充実させる。

・特に人材育成といった能力構築、ASEAN諸機関の育成及び強化、公衆衛生及び社会保障の向上並びに技能及び経営ノウハウの指導において、協力の拡大及び深化を継続する。

・インフラの整備を促進し、産業の基盤を強化し、専門知識及び技術を移転する。

・技術開発における経済連携及び協力を強化するため、研究開発のための共同の努力を促進し、先端にある研究を共有するための様式を開発し、知的交流を促進する。

・エネルギー安全保障、食糧安全保障及び食品安全について、協力を強化する。

(3)政治及び安全保障の協力及びパートナーシップの強化

・この地域の平和を強固にするため、政治及び安全保障の協力とパートナーシップをすべてのレベルにおいて強化するとともに、二国間で、またARFやその他の地域的及び国際的な枠組みを通じて、この地域における紛争の平和的解決のために共に努力する。

・ARF、ASEAN+3プロセス、国境を越える犯罪に関するASEAN+3大臣会合その他の地域的及び国際的枠組みを通じ、テロ対策、海賊対策その他の国境を越える犯罪への対処において協力を強化する。

・大量破壊兵器とその運搬手段並びにそれらの関連物資の軍縮・不拡散の分野において、協力を強化する。

(4)人的交流及び人材育成の円滑化及び促進

・相互の信頼、尊重及びお互いの伝統や価値観に対する理解を基に、若い世代や未来の指導者の間に一体感を醸成し、それを通じて、人的交流が盛んで、人的資源の一層の開発が可能となる、思いやりのある社会を構築する。

・研究機関、大学その他の教育機関の間のネットワーク造りを通じ、教育及び人材育成面でのパートナーシップ及び相互支援を強化することにより、また人的相互交流を高めるために青年交流を促進することにより、青年の志や協力的精神を支援する。

(5)文化及び広報における協力の拡大

・有形及び無形の文化遺産を鑑定し保存することに関し、また文化的な価値観及び規範並びに豊かな文化遺産を将来の世代に伝承することに関し協力し、東アジアに対する誇りを高揚する。

・公共広報機関、メディアその他の機関間での協力や、日本及びASEANに関する情報を効果的に普及させる上での情報通信技術の一層の活用により、日本及びASEAN並びに両者の立場に対する国際社会の認識と理解とを高める。

(6)東アジアコミュニティのための東アジア協力の深化

・持続可能な開発及び共通の繁栄という目的を達成するため、ASEAN+3プロセスは、東アジアにおける協力と地域経済統合のネットワークを促進する重要な径路であると認識する。

・普遍的なルールと原則を尊重しつつ、外向的で、豊富な創造性と活力に満ち、相互理解並びにアジアの伝統と価値を理解する共通の精神を有する東アジアコミュニティの構築を求める。

(7)地球規模の問題への対処における協力

・政治的、経済的及び社会的現実の間に強い相互関連性があることを考慮し、また政治、経済、社会及び文化に及ぶ幅広い側面を持つ総合安全保障という考え方を受け入れ、テロ対策、大量破壊兵器及びその運搬手段の軍縮・不拡散の強化、国連平和維持活動における協力の強化、ルールに基づく国際的な枠組みの促進、国際連合の強化、世界貿易機関(WTO)を通じた多角的貿易体制の強化、貧困の削減及び経済的格差の縮小、環境の保護、防災の促進、人の密入国及び人身取引への対処、感染症への対処、人間の安全保障の強化、及び南南協力の推進などの地球規模の問題に対処する上で、積極的に協力する。

3.この宣言の実施のための制度的及び資金的措置

・日本とASEANは、付属の行動計画に基づき、この宣言の目的を実現するために具体的な活動と基幹プロジェクトを実施する。

・日本とASEANは、この宣言と行動計画を効果的に調整し実施するため、既存の資金メカニズムを強化する。

・行動計画に略述された様々な戦略と措置を達成するために、日本とASEANは、効果的かつ革新的な資金動員を互いに模索することを含め、各々の能力と両立させつつ、必要な資源の提供にコミットする。

・この宣言と行動計画の実施に関する進展は、日本・ASEAN外相会議において見直され、毎年開催される日本・ASEAN首脳会議に報告される。

・行動計画は、この地域と世界における動的な進展を考慮に入れて、定期的に見直される。

2003年12月12日、日本の東京で、英語により二通の正本に署名した。