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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] テロ及び国境を越える犯罪と闘う協力のための日ASEAN共同宣言

[場所] ミャンマー・ネーピードー
[年月日] 2014年11月12日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

我々,東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国及び日本国の首脳は,

 テロ及び国境を越える犯罪は,ASEAN,日本及びアジア・太平洋地域全体の平和安定及び経済的繁栄に深刻な脅威をもたらし,また,ASEANの共同体構築の努力に影 響を及ぼし得る障害となることを認識し,

 進化し,拡大するテロ及び国境を越える犯罪の脅威と国連により認識されているように 強まる両者の連関性を認識し,

 テロ及び国境を越える犯罪の大多数の犠牲者が,特にそうした脅威に対して脆弱であり, それ故に特別な保護を必要とする女性や児童であることを強調し,

 日本の「積極的平和主義」の政策,及び2020年東京オリンピック・パラリンピック を含む主要行事の間に安全を確保するためテロ及び国境を越える犯罪と闘う日本の努力に 対するASEAN諸国の支援を確認し,

 日ASEAN国境を越える犯罪に関する閣僚会合(AMMTC+日本),日ASEAN国 境を越える犯罪に関する高級実務者会合(SOMTC+日本),アセアナポール(ASEA NAPOL),日ASEANサイバー犯罪対話,及び日ASEANテロ対策対話を含め,テ ロ及び国境を越える犯罪との闘いにおいてASEAN加盟国と日本との間で確立してきた 現行の活発な協力チャンネルを更に強化することを決意し,

 テロ及び国境を越える犯罪と効果的に闘うとの観点から,ASEAN加盟国と日本との 間で情報交換を促進する重要性を再確認し,

 地域や域外の安全保障の構図の大きな変化に適応・対応するため,「日ASEANテロ対 策対話」を「日ASEANテロ及び国境を越える犯罪対策対話」に発展・改編することを 決定し,

 地域において,とりわけ後述の優先分野について,政府開発援助(ODA),日ASEA N統合基金(JAIF)2.0,及び国連薬物犯罪事務所(UNODC)といった国際機 関を通じた案件を活用すること等により,テロ及び国境を越える犯罪との闘いにおける 我々の協力を強化することを希望し,

 本宣言を効果的に実施するため,テロリズム及び国境を越える犯罪との闘いにおける日 ASEAN協力の詳細を提示する作業計画を策定することに努め,

 次のとおり宣言する。

 1.テロ

1.1 ASEAN加盟国によるテロとの闘いにおける進展を歓迎し,賞賛する一方,我々は, 国際テロリズムの脅威が拡大・多様化するのに伴い,テロの脅威がASEAN地域におい て依然として高い水準にあることを認める。

1.2 我々は,貧困,社会経済上の格差と軋轢を含め,テロに至る根本的な原因と条件に継 続的に対処することの重要性を強調する。我々は,これらの原因が,暴力を正当化するも のとして認められるものではないことを再確認する。

1.3 2004年の「国際テロリズムとの闘いにおける協力に関する日ASEAN共同宣言」を想起し,また,テロリズムの広がりに対処するための調整が取れ一貫したアプローチの必要性を認識しつつ,我々は,特に以下の点を通じて,テロを防止・阻止し,それと闘う上で,二国間,地域及び国際的レベルでの協力を強化するとの約束を新たにする。

(ⅰ)テロへと至る暴力的過激化主義及び急進主義に対処する。

(ⅱ)テロ資金対策を含むテロ対策において,国境管理・入国審査,移動の安全,法執行及び能力構築を強化する。

(ⅲ)共同訓練・講習,テロ対策のための先進機器の装備,情報交換等の措置を通じて,地域の法執行機関の能力構築を促進する。

(ⅳ)多国籍企業を含む民間セクターの脆弱性を低減し,また,地域に在留する全ての市民をテロから守る。

 2.違法薬物取引

2.1 我々は,違法薬物取引との闘いにおける長年の努力にもかかわらず,ヘロイン,メタンフェタミン及び新精神活性物質(NPS)の拡散を含め,ASEAN加盟国及び日本が依然として多くの課題に直面していることを認識する。

2.2 我々は,違法薬物取引が他の国際組織犯罪と不可避的に関係していることを認めつつ,違法薬物の取引の防止と需要の削減のための協力を更に強化し,また,現行の「ASEAN国境を越える犯罪に関する閣僚会合(AMMTC)」のメカニズムを通じたASEAN諸国のイニシアチブ,及び以下の点等を通じて薬物ゼロのASEANを目指す努力を支援する。

(ⅰ)国境管理等の分野における法執行機関の能力を構築する。

(ⅱ)特に家庭,学校及び地域コミュニティーにおける薬物乱用防止の啓発を強化する。

(ⅲ)共同訓練,情報交換,UNODCプログラム,及び関連地域会合を通じた協力を強化する。

 3.人身取引

3.1 ASEAN加盟国及び日本において,数多くの人身取引被害者が認知されてきている。 我々は,人身取引が,とりわけ女性や児童に対する深刻な人権侵害であることを再確認し,また,我々の地域からこの辛苦を撲滅するための協力を強化する緊要性を強調する。

3.2 我々は,ASEAN地域における人身取引に緊急に対処する必要性を反映した,人身取引に関するASEAN憲章(ACTIP)及び人身取引対策地域行動計画(RPA)の策定に向けた前進を歓迎する。

3.3 人身取引は,経済,社会及び政治の各側面において,地域の発展を阻害する広く有害 な効果を有し,かつ,人権侵害と人間の尊厳への侮辱であるとの認識の下,我々は,以下 を通じて,人身取引を撲滅するための協力を,防止,法執行,被害者保護,連携等の全て の面において強化する。

(ⅰ)人身取引防止のための啓発を強化する。

(ⅱ)被害者の早期発見と人身取引加害者の訴追増加を目的とする,警察官・出入国管理

職員・海上保安官・検察官を対象とした訓練,情報交換,能力構築プログラム等を通 じ,法執行能力を強化する。

(ⅲ)保護シェルター機能や精神的又は医療的ケアの強化,被害者の本国帰還の促進 等を通じ,被害者の保護と支援を拡充する。

(ⅳ)人身取引問題を助長する地域において根底にある社会・経済要因に対処するため, 連携を発展させる。

 4.資金洗浄

組織犯罪が違法活動やテロに使われる莫大な利益を生んでいることを理解し,また,これら不正利益が正規のビジネスや金融事業に浸透していることを認識しつつ,我々は,以下の点等を通じて,資金洗浄を防止・抑制する。

(ⅰ)資金洗浄の捜査,情報収集,捜査についての地域の能力を強化する。

(ⅱ)情報交換・普及を更に強化するため,国家機関や組織のネットワークづくりを奨励する。

 5.海賊行為

近年ASEAN地域では,海賊及び海上武装強盗行為の事案数が増加しており,地域的及び国際的な海上安全保障に対する増大する脅威となっている。地域における商船の自由かつ安全な航行は,地域,日本及び世界の他の地域の経済的利益にとって重要であることを認識し,我々は,以下の点等を通じて,海賊及び海上武装強盗行為と闘うための更なる協力を強化する。

(ⅰ)沿岸警備隊を含む関係機関の能力構築を強化する。

(ⅱ)海賊及び海上武装強盗行為とより効果的に闘うために交流とコミュニケーションを 促進する。

(ⅲ)海賊と闘い,海賊行為から被害者を救出するため,可能な範囲において,海上での 緊急事態において相互に支援する。

(ⅳ)アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)を含む地域協力を強化する。

 6.武器密輸

6.1 多くのASEAN加盟国は,貿易・輸送ルートの中心にあるとの地理的位置,及びその長い国境線と広範囲の海岸・島嶼地域のために,武器密輸に対し脆弱である。

6.2 武器密輸は,包括的な対処が求められる国際犯罪を著しく激化させていることを認識し,また,武器密輸とテロとの関係を強調しつつ,我々は,以下の点等を通じて,武器密輸と闘うための協力を強化する。

(ⅰ)訓練及び制度上の能力構築を通じて,国境での法執行能力を強化する。

(ⅱ)地域の武器密輸に関する関連条約の普遍化を促進する。

(ⅲ)小型武器非合法取引の防止,除去及び撲滅のための行動計画の実施を促進する。 (ⅳ)地域の武器密輸に関する情報交換を強化する。

 7.国際経済犯罪

7.1 クレジットカード詐欺,通貨偽造,違法な株取引といった国際経済犯罪は,世界中で 以前にも増して顕著となっており,ASEAN地域と日本の経済及び社会の安定に対する 深刻な脅威となっている。

7.2 技術的進歩の速度やビジネスのための新たな手段の出現により,国際経済犯罪との闘 いという課題は以前にも増まして困難になっていることを認識し,我々は,以下の点等を通じて,国際経済犯罪に対処する。

(ⅰ)国際経済犯罪との闘いについて,関連機関でベスト・プラクティスを交換する。 (ⅱ)法執行協力を促進する。

 8.サイバー犯罪

8.1 情報通信技術(ICT)は,地域の持続的開発のための主要な推進力であることを認識しつつ,我々は,地域全体のICT使用に関する信頼と安全を高めることにつき,共通の利益を有する。ICTへの依存が増すにつれ,ICTの脅威に対する我々の脆弱性もまた増大してきた。サイバー空間を利用することの匿名性,即時性,及び費用効果を悪用し, 数多くの犯罪がオンライン上で行われるようになっている。サイバー犯罪が急速に広まる脅威であることを認識しつつ,我々は,以下の点を通じて,その対処に共に取り組むことをコミットする。

(ⅰ) サイバー犯罪の傾向と同犯罪対策のための教訓につき,ASEANと日本との間の

情報共有を促進する。

(ⅱ) 国際刑事警察機構(ICPO,インターポール),G8 24/7ネットワーク,及びアセアナポール(ASEANAPOL)・電子データベース・システム(e-ADS)といった既存の国際協力ルートの利用等を通じて,ASEAN加盟国及び日本に関わるサイバー犯罪の調査と訴追において国際協力を強化する。

(ⅲ)サイバー犯罪の効果的な防止と対策のため,能力構築を促進する。

8.2 我々は,2014年5月28日に開催された第1回「日・ASEANサイバー犯罪対話」を歓迎し,継続的な対話の枠組みの必要性を再確認する。サイバー犯罪に対する更なる共同の協力を追求する中で,我々は,地域の具体的な能力構築案件を実施するために, 国際刑事警察機構の“Global Complex for Innovation”(IGCI),欧州評議会,国連薬物犯罪事務所(UNODC)といった国際機関も広く関与させることを模索する。