データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップ

[場所] 
[年月日] 2015年11月
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 「質の高いインフラパートナーシップ」のフォローアップに際し、以下の抜本的な制度拡充を実施する。

1.JICAの支援量迅速化・拡大

1-1.迅速化

●円借款の更なる迅速化

 円借款の魅力を高めるため、更なる迅速化を実施する。具体的には、外交上重要又は我が国の優れた技術やノウハウが活用可能な案件に対する早い段階での「プレ・プレッジ」実施の促進、F/Sを担当したコンサルタントとの随意契約による詳細設計の実施、「OECD通報の前倒し」の着実な実施に取り組み、政府関係手続期間を重要案件については最大約1年半まで短縮※し、その他の案件についても最大約2年まで短縮する。

※現在の手続き期間は約3年

●海外投融資の迅速化

 JICAにおいて審査可能と判断される案件について、民間企業等の申請から原則1か月以内(JICAによる三省説明から原則、2週間以内をめど)に審査を開始する。また、JBICに案件の照会があった場合の標準回答期間を2週間とする。

●特別予備費枠の導入

 事業の不確実性が高い場合、又は、政治経済情勢が不安定な国に対して円借款を供与する場合等に、E/Nでコミットする金額の中に「特別予備費枠」を増額計上する制度を導入する。

1-2.民間投資の奨励

●海外投融資の対象拡大

 海外投融資(融資)における「先導性」要件の解釈を見直し、過去に類似案件への融資実績があったとしても、既存の民間金融機関による非譲許的な融資で現状対応できない

場合に、融資できる旨明確化する。

●JICAと他機関の連携強化

 JICAの譲許的条件(金利、期間、債権順位等の面)での融資が既存の民間金融機関が行う資金の貸付け又は出資を質的に補完することでこれを可能にする場合、民間金融機関との協調融資を可能とする。

●「質の高いインフラ」展開のための実証・テストマーケティング事業の実施

 我が国が優位を持つシステム等を無償資金協力や有償勘定技術支援等を通じて供与し、その優秀性等を被援助国に知らしめ、その後の円借款事業等における受注や民間企業によるビジネス展開につなげる。

1-3.日本の支援の魅力向上

 JICAの財務健全性を確保することを前提として、以下の措置を講じることにより、円借款の魅力を更に向上させる。

●外貨返済型円借款の中進国以上の国への導入

 円借款の返済方法を柔軟化することでその魅力を高め、本邦企業の参画可能性のある円借款事業の形成を促進するため、中進国以上の国に対する外貨返済型円借款を導入する。

●ドル建て借款の創設

 JICAの有償資金協力としてドル建て借款を実施する。

●ハイスペック借款の創設

 ハイスペック借款を創設し、「質の高いインフラ」を推進すると特に認められる案件に対し、譲許性の高い借款を供与する(要件及び条件については今後検討)。

●事業・運営権対応型円借款の創設

 本邦企業が事業・運営権を獲得した、又は獲得を検討している事業に対し、EBF円借款・VGF円借款・PPPインフラ信用補完スタンド・バイ借款による支援を積極的に行うとともに、外交上重要又は我が国の優れた技術やノウハウが活用な案件について、関心表明を行うことが必要と判断され、当該国のマクロ経済状況や債務持続可能性等が確認される場合に、政府による関心表明(プレ・プレッジ)やJICAによるLOIの発出等を行う事業・運営権対応型円借款を創設する。

●サブ・ソブリン円借款における新たな対応

 開発途上国のサブ・ソブリン主体に対して円借款を直接供与するに当たり、相手国の経済の安定性や相手国政府の十分なコミットメントなど各種要件が満たされる場合には、政府保証の例外的な免除について、関係閣僚会議でケース・バイ・ケースで決定する。

●「質の高いインフラ」実現のための発注者への有償勘定技術支援の実施

 高度な施工精度が求められる有償資金協力案件(高速鉄道の下もの等)において品質を担保し、「質の高いインフラ」を実現するため、有償勘定技術支援により発注者への支援を実施する。

2.ADBとの連携

 質の高いインフラ案件への投融資のため、ADBと以下の三点の新たな連携パッケージを合意。

●PPP等民間インフラ案件支援

 JICAが出資して今年度末までにADBに信託基金を新設し、ADBと協調して質の高いPPP等民間インフラ案件に投融資。今後5年間でJICA信託基金は最大15億ドルを目標に投融資。

●公共インフラ整備促進

 質の高い公共インフラ整備を促進するため、JICAとADBが協働して長期支援計画を策定し、政府向け技術協力・融資を協調して行い、今後5年間で、JICA・ADB合わせて100億ドルを目標に融資。

●上記の取り組みによる質の高いインフラ投資を円滑に実施するため、日本政府・JICAとADBのハイレベル政策対話を定期開催。

3.JBIC等によるリスクマネーの供給拡大

 民間の資金・ノウハウを活用した海外のインフラ・プロジェクト等について、日本企業の海外展開をより一層後押しするため、JBIC法の改正等による以下の機能強化を検討。

●JBICによる更なるリスク・テイク

 JBICに、期待収益は充分だがリスクを伴う海外インフラ事業向けの投融資を行う「特別業務」を追加(「一般勘定」と区分して経理)。

 特別業務については、必要な財務基盤を確保の上、全体での「収支相償原則」は維持しつつ、個別案件ごとの「償還確実性」要件は免除し、JBICによる更なるリスク・テイクを可能に。

●JBICによる現地通貨建て融資の拡大

JBICの現地通貨調達方法として、現地金融機関からの長期借入を解禁することにより、途上国のインフラ事業で需要が大きい現地通貨建ての融資を拡大。

●JBICによる支援手法の多様化

JBICに海外インフラ事業への支援手法を追加(例:海外のインフラ事業に係る銀行向けツー・ステップ・ローン、債券(プロジェクト・ボンド)の取得、イスラム金融等)。

●NEXI(日本貿易保険)の機能強化

民間企業の負担を軽減するためドル建て貿易保険を創設するとともに、投資保険期間の上限を、現状15年から30年に長期化する等の機能強化を実施。

●昨年10月に設立したJOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)は、日本の新幹線技術を前提としたアメリカの民間事業者によるダラス・ヒューストン間の高速鉄道事業に対し出資を決定(国土交通省において11月21日(スピーチ直前)に認可予定)。

●海外の通信・放送・郵便事業への投資を行う、海外通信・放送・郵便事業支援機構(通称:JICT)を設立(本年11月末予定)。

4.「質の高いインフラ投資」国際的スタダード化・グローバルな展開

●ADBに加え、他のMDBs(国際開発金融機関)ともインフラ投資における連携を検討。

●日本の優れた技術を各国に共有・紹介。

「質の高いインフラ投資事例集」を作成。英訳版を各国に配布。今後も随時事例を更新。在京外交団向けのインフラ視察ツアーを開催。磯子火力発電所、丸の内都心街区開発な

どを見学。

●質の高いインフラ投資を各国と確認・共有。

本年5月以降、国連、G20、G7、APEC、ASEAN等関連の首脳・閣僚会合において質の高いインフラ投資の必要性を発信し、成果文書で確認。

国連(第三回開発資金国際会議)、G20等関連の会議の機会に質の高いインフラ投資関連のサイドイベント等も実施。

(了)