データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉の首脳による共同声明 RCEP:経済統合及び包摂的発展への道筋

[場所] フィリピン・マニラ
[年月日] 2017年11月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

1.我々,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)参加国である,ASEAN加盟国及びASEANのFTAパートナー諸国(オーストラリア,中国,インド,日本,韓国及びニュージーランド)の国家元首及び行政府の長は,2017年11月14日,フィリピン共和国のマニラに集まった。

2.我々は,昨今の世界経済の減速,保護主義の台頭及び反グローバリゼーションの風潮においても,我々の経済は強靱さを維持しており,世界のその他の地域と比べて順調な成長を続けていることに留意した。我々は,貿易の開放性と地域経済統合がもたらす有益な貢献が,不安定な世界マクロ経済環境から我々の地域を守り,強靱な経済の維持に繋がることを認識した。

3.我々は,参加する16か国で世界人口の約半分,世界生産高の31.6%,世界貿易総額の28.5%,さらに,2016年における世界の5分の1の海外直接投資の流入を占めるRCEPの巨大な潜在力が,雇用創出の支援,持続可能な成長の推進,包摂的発展の助長,そしてイノベーションを促進し,最終的には我々の国民の生活水準の改善につながることを再認識した。

4.我々は,RCEPが,成長と衡平な経済発展の主要な推進力として,その潜在力を発揮し,我々の経済を更に統合させる道筋となることを確保する決意を再確認した。我々は,市場アクセス,ルール及び協力の三本柱における成果を出すことによって,「RCEP交渉の基本指針及び目的」における精神と目的を実現し,また,正当な公共政策目的に対処するという参加国の権利を維持する合意規定を含む協定の妥結にコミットすることを再認識した。RCEP協定の現時点の概要は,この共同声明に付属されている。

5.これらの成果を達成するために,RCEPは既存のASEAN+1のFTAを統合し,相互に二国間FTAが存在しないASEANのFTAパートナー諸国間に新たな経済的な結びつきを構築する必要がある。同時に,RCEPには,参加国の異なる発展段階を考慮し,適用可能な場合には,既存のASEAN+1のFTAに整合的な形で,特別かつ異なる待遇の規定に加え,ASEAN加盟国の後発開発途上国に対する追加的な柔軟性に関する規定を含めた,適切な形の柔軟性を含むべきである。

6.この交渉は引き続き複雑で困難な作業であるが,我々は,現代的な,包括的な,質の高い,かつ,互恵的な経済連携協定を達成するというコミットメントを再確認するとともに,この地域における開かれた,有効な貿易投資環境を支え,一括受諾の方式で交渉している。

7.我々は,現在行われている,ビジネス界,非政府組織及び他のステークホルダーの代表者による継続的な関与を歓迎し,RCEPが包摂的なものであり続けることを確実にするためのこのような関与の重要性を強調した。

8.我々は,この一年間,閣僚の交渉への一層の関与が,一定の打開に繋がったことに留意した。我々はここで,閣僚と交渉官が,RCEP交渉の妥結に向けて2018年に一層努力することを指示するとともに,彼らがこの成果を達成するために必要な支援を確保することを決意する。


RCEP協定の概要(2017年11月時点)

 現在行われている交渉を予断せず,2017年11月現在のRCEP協定の概要と特質を以下に示す。

(a)物品貿易:物品貿易章は,物品関連のコミットメントの実施を規定する主要な要素を含む。テキストに基づく議論は,包括的な自由貿易圏を確立するために,RCEP参加国間の既存の自由化の水準を基礎として,実質上の全ての物品貿易について高いレベルの貿易自由化を達成するために,関税を合理的な期間に段階的に撤廃し,非関税障壁に対処することを目的とした,市場アクセス交渉によって補完される。

(b)原産地規則(ROO):ROO章は,どの産品が,そして,どのようにこれらの産品が,関税上の特恵待遇を受けることができるかを決定するためのガイドラインを定める。RCEPにとって,ROOは,実質的変更の原則を確保しつつ,事業者にとって使いやすく,特に中小企業が本協定を理解し,活用することを容易とする点に焦点を当てた,技術的に実行可能で,貿易の円滑化に資し,かつ,ビジネスフレンドリーなルールとなるように検討される。

(c)税関手続・貿易円滑化(CPTF):CPTF章は,関税法令の適用に当たって,予見可能性,一貫性及び透明性を確保すること,また,税関手続の効率的運営及び迅速な通関手続を促進することによって,世界及び地域のサプライ・チェーンの成長に資する環境を創出する。手続きの簡素化や国際的なベストプラクティスや基準との整合性確保だけでなく,WTO貿易円滑化協定との一貫性を維持することも,CPTF章の目的である。

(d)衛生植物検疫措置(SPS):SPS章は,科学的原則に基づいた食品安全,人及び動植物の健康保護に関する要件のための基本枠組みを定める。この章は,SPS措置が健康を保護するために必要な限度においてのみ適用され,可能な限り最も貿易制限的なものでなく,また,同様の条件が存在する参加国の間において不当な差別をするものではないことを確保することを目指すものである。この章は,WTO・SPS協定の実施を強化する。

(e)任意規格・強制規格・適合性評価手続(STRACAP):STRACAP章は,WTO貿易の技術的障害(TBT)に関する協定の実施を強化し,その原則を補強する。

(f)貿易救済:貿易救済章は,WTO協定の下での原則を維持しつつ,RCEPの貿易自由化と調整を行うという目的を支える,参加国のための貿易救済関連規定の整備を目指す。

(g)サービス貿易:サービス貿易章は,分野や提供態様をあらかじめ除外せず,WTO・サービス貿易に関する一般協定(GATS)とASEAN+1のFTAにおけるサービスの約束を基礎として形成される。

(h)金融サービス:サービス貿易章における金融サービス附属書は,金融システムが不安定な状態にある場合のリスクを防ぐための十分な政策と規制に係る余地を提供しつつ,金融の規制に関する強化されたルールを支えるとともに,更なる透明性を促進する。

(i)電気通信サービス:サービス貿易章における電気電信サービス附属書は,電気通信サービスの貿易に影響を及ぼすルールの枠組みを提供する。本付属書は,合理的で,差別

的でない電気通信環境を確保しつつ,参加国が規制を設ける権利を確認する。

(j)人の移動(MNP):独立章のMNP章は,参加国で交渉されたように,貿易及び投資を促進する目的で,ある参加国から別の参加国への自然人の一時的な入国及び滞在に関する約束を含む。この章は,各参加国の約束表にあげられた自然人のカテゴリーに係る,透明性及び入国様式にかかる特定の義務も定める。人の移動に関する約束とサービス貿易に関する約束の構造と関係については,議論が進行中である。

(k)投資:投資章は,この地域において,保護,自由化,促進,円滑化という投資の4本柱をカバーした,有効な投資環境を創設する。

(l)競争:競争章は,反競争的行為を禁止する法令の採用や維持及び参加国間での競争法令策定やその実施に関する地域内協力を通じて,市場における競争を促進し,経済効率や消費者の福祉を向上させる。これらの目的の追求は,参加国間の貿易及び投資の円滑化を含むRCEP協定の利益の確保に寄与する。

(m)知的財産(IP):IP章は,異なる経済発展段階や能力及び国内法制度の違いを考慮しつつ,効果的で適切な,知的財産権の創造,利用,保護及び行使を通じて,経済統合の深化と協力を促進する。この章は,イノベーションと創造性を促進し,知的財産権保有者の権利と使用者と公共の正当な利益との間の適切なバランスを維持し,正当な公共政策目的のために規制する政府の権利及び情報,知識,コンテンツ,文化,芸術の普及を円滑にすることの重要性を考慮する。

(n)電子商取引(E-commerce):E-commerce章は,参加国間での電子商取引を推進し,世界的に電子商取引のより幅広い利用を促進するとともに,電子商取引のエコシステムの発展に係る,参加国間の協力を強化する。E-commerce章は,特に中小企業にとって,電子商取引を円滑化する機会を利益あるものとし,また,創出する現代的な協定としてRCEPを位置付けるのに役立つ。

(o)中小企業(SMEs):SMEs章は,参加国が,RCEP協定を通じて創出された,例えば,地域またはグローバルなサプライ・チェーンへの統合といった機会に中小企業が参加し,利益を享受する機会を得る能力を向上する経済協力のプログラムや活動を実施するためのプラットフォームを提供する。

(p)経済技術協力(ECOTECH):ECOTECH章は,RCEP協定の実効的な実施と活用に焦点を当てた,相互の利益や関心の分野における既存の経済連携を補完することを目的とする。能力構築及び技術支援を含む経済技術協力活動は,ワークプログラムの中で特定される。

(q)政府調達(GP):GP章は,GPに関する法令及び手続の透明性を促進する条項及び参加国間の協力を発展させる条項に焦点を当てる。

(r)紛争解決(DS):DS章は,RCEP協定の下で生じる紛争の効果的な,効率的な,透明性のある協議及び解決のプロセスを規定する。