[文書名] 日本ASEAN友好協力50周年有識者会議報告書
0. 目的
1967年8月にASEANが設立されて6年後の1973年、日本とASEANとの対話が開始された。また1977年、当時の福田赳夫首相がマニラにおける政策演説において、後に「福田ドクトリン」と称される対東南アジア政策を発出し、その柱として日本とASEANとの「対等なパートナーシップ」や「心と心の対話」を謳った。
その後、日本とASEANとの協力関係は深化・拡大した。日ASEAN30周年にあたる2003年には東京宣言、2011年には「共に繁栄する日本とASEANの戦略的パートナーシップ強化のための共同宣言(バリ宣言)」、2013年には「日ASEAN友好協力に関するビジョンステートメント」、2020年には「AOIP協力についての第23回日アセアン首脳会議共同首脳声明」の発出等、日本はASEAN中心性への支持を常に表明し、ASEANとのパートナーシップの重要性を繰り返し確認しながら、ASEAN統合と共同体形成の試みを後押ししつつ、政治・安全保障、経済、社会、文化、科学技術など多岐にわたる分野における具体的な協力を拡大・深化させてきた。こうした日ASEANパートナーシップとそのもとでの両者の協力は、日本と東南アジア諸国のみならず、地域全体の安定と繁栄に寄与してきた。
しかしながら、今、日本やASEAN諸国の政治経済社会が大きく変化し、両者の関係も変容するとともに、地域秩序や国際秩序全体も大きな変動期にある。そうしたなかで、日本とASEAN諸国は、それぞれが、あるいは両者が協力して進めてきた従来のアプローチでは対応が難しい、様々な課題に直面している。
このような状況を受け、日本ASEAN友好協力50周年という節目の2023年において、次の10年(2030年代)、さらに50年後(2070年代)を見据え、「福田ドクトリン」から続くASEANと共に歩む精神を継承しつつ、平和、安全、繁栄、自由を享受し、活力に満ち、包摂的で、持続可能かつ公正な社会の実現を可能とする地域秩序形成に向けた、今後の新たな日ASEANパートナーシップの方向性を提示することが、本提言書の目的である。
I.現在の日本とASEAN諸国が直面する課題
1. 一つ目の課題として、日本とASEANが協力して包括的な秩序形成に取り組み、地域全体の安定と平和に資する協力を実現することの重要性と喫緊性が増大している。
①大国間の対立が世界およびアジアを舞台にして激化していることである。この地域に大きな影響を与えている米中間の戦略的競争は2010年代を通じて顕在化し、2020年代に入り一層激しさを増している。また、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を契機として、アジアにおいても力による一方的な現状変更が試みられる可能性への懸念を増大させている。こうした中で、日本とASEANは、ASEANアーキテクチャーも適宜活用し、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」と自由で開かれたインド太平洋(FOIP)とすりあわせつつ、この地域における恒久的な安定と平和に向けた、緊張緩和にむけた取り組みを進めていかねばならない
②また、自由で開かれたルールに基づく海洋秩序の維持・強化は、日ASEANにとっての地域全体の安定と平和に関わる、極めて優先順位の高い具体的な課題である。そのため日ASEAN間での多国間・2国間での効果的な取り組みが求められる。
③なお、2021年2月に国軍によるクーデターが発生したミャンマーに対し、ASEANが「5つのコンセンサス」に基づき、この深刻な問題に粘り強く対応しようとしているASEAN内の取り組みは評価すべきであるが、解決への道筋は立っていない。ミャンマー情勢の改善は今後の地域秩序のあり方に大きく影響すると考えられ、日本も、平和で安定した、民主的かつ人権が保障された公正な社会を基盤とする地域秩序の形成という観点から、この問題にアプローチしていく必要がある。
④ミャンマーに限らず、ASEANの一部ではいわゆる「民主主義の後退」が見られるとされる。しかしながら、各国内にも市民社会は育ちつつあり、政治経済社会エリートの世代交代も進みつつあることにも留意すべきである。すなわちASEANの各国の政治や社会も多元化している。また、2008年に発効したASEAN憲章に則り、ASEAN諸国の政治および社会の変化を踏まえつつ、長期的な視野に基づいて民主主義やガバナンスの質を向上させるような取り組みを進めることも、包括的な秩序形成による平和と繁栄の実現にとって必要である。
2. 二つ目の課題として、経済成長の追求のみならず、いかに持続可能性と公正性をバランスよく充足させられるかということが挙げられる。
①ASEANの経済発展は著しく、ASEANの社会のあり方を大きく変化させている。またこの地域は今や製造拠点としてのみならず、6.7億人の人口を抱える成長する消費市場としても有望である。新型コロナやその他の危機による経済的打撃を乗り越え、経済を再活性化し、安定した経済発展を継続させることは日本とASEAN諸国の共通の課題である。グローバル化とデジタル化の進展により、アジアの域内の相互依存がますます深化している現実を考えれば、経済成長・持続可能性・公正性の3つのバランスを追求するための新しい諸政策や試みに関しては、日ASEANの各ステークホルダーが共に模索していくことが不可欠になっている。
②日本とASEAN諸国の経済発展を支えてきたのは、自由で開かれた多角的貿易体制とその下でのグローバル化の進展であった。世界において保護主義が台頭する中で、今後も、世界貿易機関(WTO)といった多角的枠組みと共に、インド太平洋経済枠組み(IPEF)、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に加えて、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定といったプルリの枠組み、および日本と個別のASEAN諸国とで締結済みの二国間の経済連携協定(EPA)を活用し、自由で開かれた貿易体制を維持すると同時に、自由で公正な経済秩序の維持・強化に努めていく必要がある。とりわけ、サプライチェーンや脱炭素化、また公正な経済秩序に対する地域のルール形成の枠組みであるIPEFには、ASEANから7カ国が参加しており、日ASEANが主体的に地域のルール形成に参画できる機会として、積極的に取り組むことが期待される。
③ASEAN地域において自由で公正な経済秩序を実現するためには、ヒト・モノ・資本・サービス・データ等の自由な移動を可能にする社会資本整備が不可欠である。ASEAN共同体ビジョン2025やASEAN連結性マスタープラン(MPAC)2025、またこれらの後続のビジョンや行動計画の検討など、ASEAN主導の取り組みとすりあわせつつ、日本の技術、および官民の経験と知見を活かし、ASEAN地域全体の発展に資する連結性強化を進めていくことが課題である。中でも情報インフラなどの先端インフラ整備への協力はその目玉となろう。
④一方、貿易をはじめとする国境を越える経済活動について、公正やレジリエンスの担保が求められる状況にあることも認識すべきである。レジリエンスの担保の観点からは、貿易や投資を萎縮させることを避けつつ、サプライチェーン強靱化、データセキュリティや機微技術の流出防止のための輸出管理体制の強化をはじめとする経済安全保障に関わる取り組みも進めなければならない。公平性の重視の観点からは、グローバル化がもたらす負の影響に関しても、多角的な取り組みが必要となる。
⑤日本国内においてASEAN人材の労働環境を整備し、その活躍の場を広げることは日本とASEAN諸国の経済活性化、および両者の経済的な互恵関係を強化することに寄与する。またそれに関連し、様々な批判のある技能実習制度は、適正化に向けて抜本的な制度の見直しが喫緊である。これは、経済成長と公正性の両立という観点からも重要な課題である。
⑥格差是正はASEANにとっての最重要課題の一つである。そしてこれに関連しASEAN諸国の経済発展は「圧縮した発展」といえる形態であることに留意すべきである。社会面でも起こる圧縮した変化(急激な都市化、発展途上で始まる少子高齢化、格差、環境問題)によって、ASEAN諸国は先進国型の課題と途上国型の課題に同時に対応する必要に迫られているものの、相対的には財政基盤は脆弱である。よってこれらの国内・域内における内発的な課題についてのASEANとしての対応も資金・技術・人材の点で十分とはいえず、域内の統合と域外国との連携強化をいっそう必要とする。さらに、新型コロナの経済的打撃、社会的な打撃は各国の経済・社会に深刻な影響をもたらしている。経済は回復基調にはあるが社会における脆弱なセクターへの中長期的影響は残存している。社会全体が豊かさの恩恵を享受することを目指し、社会における脆弱なセクター、ないし貧困層の底上げを図るための取り組みも、日ASEAN共通の課題である。グローバル化の進む中、格差が固定化されないよう、また、国境を超える労働者を含む各国の社会的弱者が排除されないような社会正義を意識した多角的な取り組みが必要となる。
⑦上記と関連し、ASEAN諸国において、社会全体の帰趨を決する中間層、とりわけ中間層下位の人々や低所得者層が抱く将来への期待、すなわち「中間層の夢」を抱ける社会を構築する必要がある。ASEAN諸国は特にこれから人口ボーナス期の最後を迎え、低成長期・停滞期を迎える国が増える。長期的にみれば、これまでASEAN諸国の好景気とガバナンス能力の向上を支えていた、国民の成長への期待に応えることは困難となり、希望を失った層が、次第に政治不信を増幅させることは必至である。能力主義(スキル)より縁故主義(コネ)、成長への期待より転落への恐怖、または階層固定化に対する懸念が支配する社会となれば、社会的紐帯は脆弱なものとなり、民主主義的価値を堅持する政治的合理性は低下する。こうした事態を防ぐためには、出自や所属階層にかかわらず経済的機会が開かれ、社会的多様性が認められ、社会が目指す方向性や合意事項が一方的な力ではなく絶えず公正な対話によって決まる社会の実現が必要である。またこれは、すでに低成長・停滞期を迎えて久しい日本にとっても共通の課題であり、ASEAN諸国と日本が相互に知恵を出し合い、共に取り組むべき課題であると考える。
⑧日本もASEAN諸国もともに今後の経済の活性化、技術革新とその社会への実装、デジタルトランスフォーメーション(DX)、感染症対策、気候変動、脱炭素化およびエネルギー問題への対応、などの共通の課題を抱えており、日ASEANが協力して取り組む必要がある。特に気候変動を含む環境問題への対応はいっそう重要度を増しており、脱炭素化やエネルギー安全保障への考慮と連動させつつ、両者が一層協力を強化すべき分野である。また世界的に、21世紀は前世紀に比べると明らかに自然災害が増加している。ASEAN諸国の災害リスクも増加、災害被害も増大しもしている。これらのリスクの増大については日本も同様の状況であるが、日本はこれまで、災害対応や防止に関する様々な技術や知見の蓄積があり、それらを活用し、日ASEANでの共同で対応する取り組みを一層拡充すべきである。
3. 三つ目の課題として、新たな時代における日本とASEAN諸国の相互交流と相互理解の促進による多層的な人的ネットワークの構築がある。
①ASEAN諸国の経済成長、社会の成熟と多元化、市民社会の成長に伴い、新たな世代の政治的経済的エリートや市民社会のリーダーたちが登場しつつある。日ASEAN関係の変化をも踏まえ、日ASEANの新たな世代や社会各層を取り込んだ、多層的な人的ネットワーク構築に向けた取り組みが求められる。そのためには対等の立場、双方向、アイデンティティ尊重、多様性の中の調和と融合を基軸とする交流の取り組みを進めていくべきである。また、次世代のASEAN地域社会を先導するリーダーを日ASEANの協力により育成していく取り組みも求められる。
②日本社会におけるASEAN諸国に対する認識をアップデートし、真の相互理解を可能とする心理的基盤を形成する必要がある。前述したように、ASEAN諸国は多くの課題を抱えつつも経済発展を遂げ、かつての「停滞するアジア」でもなければ日本が一方的に支援・援助を行うような対象でもなく、様々な共通課題について「共創」していくパートナーである。今やASEANの方が日本より先進的なところがあり、そこは日本も学ぶべきであり、日本とASEANの官民の取り組み(ビジネスでも)においても重視すべき視点である。しかしながら、こうした新たなASEAN諸国、ないし東南アジアの実情についての日本社会の理解は十分であるとはいえず、また、教育現場やキャリア形成の場における東南アジアへの理解を深め、促進のための取り組みや仕組みも不十分である。よって、日本国内において、ASEAN認識の刷新および相互理解の促進のための人材育成・広報を強化していくことが必須である。
II.新たな日ASEAN協力パートナーシップの3つの柱
以上の課題に対応するため、新たな日ASEANパートナーシップの構築に向けた取り組みを強化することを提言する。それは以下の三つの柱から構成される。
1. 自由で開かれたルールに基づく公正な地域秩序の構築
東南アジア友好協力条約(TAC)やASEAN憲章で提示されたASEANの諸原則を尊重し、ASEAN中心性・一体性を尊重したASEANのアーキテクチャーの維持・強化および活用を図り、「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」と「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」とを連繋させることを通じ、予測可能性の向上や不確実性を縮減し得るルールに基づく公正な地域秩序へ向けた協力を強化する。海洋秩序の維持については、多国間枠組みでの取り組みと共に、各国の海上法執行能力の強化やそのための国内法制の整備等を通じ、国連海洋法条約をはじめとする国際的なルールを遵守した上での海洋安全保障の強化に共に取り組む。ASEANもAOIPにおいて海洋安全保障を含む海洋協力を重視しており、日本とASEANが手を携えて協力を進めることが可能で、かつその成果も見込まれる。
2. 経済発展、持続可能性、公正性のいずれもが充足した共生社会の実現
AOIPとFOIPを連繋させつつ、多岐にわたる分野における協力を相互に関連付けながら、発展と持続可能性と公正性がそれぞれ充足した社会の実現を目指す。市民、企業やNGO、市民団体など様々なステークホルダーの参加する日ASEANによる「共創」の取り組みを進め、日本とASEANの経済および社会を活性化し、「誰ひとり取り残さない」視点を持ち、「中間層の夢」を実現されると共に、階層にかかわらずあらゆる人がディーセントな労働・生活を送れるような、寛容で階層間の対話が成り立つ社会を目指す。また人間の安全保障の理念に基づく安全・安心な社会の実現を目指す。気候変動、環境、食糧、エネルギー、パンデミック、DX等グローバルな課題について共同で取り組む。日ASEANの共通課題としての少子高齢化について、相互に知恵を出し合って解決に向けた道筋を探る。国境を超える労働者を含む各国の社会的弱者の機会の平等と格差是正の可能性にも配慮した社会を実現する。
3. 新たな日ASEANパートナーシップの基盤となる相互理解と相互信頼の醸成
経済発展と社会の成熟と多元化、市民社会の成長といったASEAN諸国の変化、またそれに伴う日ASEAN関係の変容をも踏まえた、新たな世代や社会各層を取り込んだ、多層的な人的ネットワーク構築を目指す。そのために、既存の人的交流の枠組みの整理、活用しつつ、対等の立場、双方向、アイデンティティ尊重、多様性の中の調和と融合を基軸とする交流の取り組みを進め、次世代のASEAN地域社会を先導するリーダーを日ASEANの協力により育成していく。これらの取り組みと同時に、日本社会におけるASEAN諸国に対する認識の刷新を図る取り組みを進める。加えて、今後の経済活動や国民生活において広くデジタル技術が活用され、データを自由に流通していくことが求められる中では、サイバーセキュリティや個人情報保護など、信頼性の確保が不可欠である。日ASEANでのサイバーセキュリティの取り組みの更なる深化と合わせて、DFFT(自由で信頼あるデータ流通)の実現に向けた協力を推進する。
これら3つの柱は連動している。まず、新たな日ASEANパートナーシップの基礎となるのは、日本とASEAN諸国との間でこれまで培ってきた相互理解と相互信頼の一層の促進・深化であり、そのための多層的な相互交流や人的ネットワークの形成である。こうした相互理解と相互信頼は、経済発展、持続可能性、公正性のいずれもが充足した共生社会の実現にむけて、日本とASEANが手を携えて取り組む際には欠くことの出来ない要素である。そして、こうした共生社会が各国および国境を越えて発展することで、それらを基盤とした自由で開かれたルールに基づく公正な地域秩序の構築が可能となる。
III.新たな日ASEANパートナーシップ構築に向けた協力の具体的項目
1.自由で開かれたルールに基づく公正な地域秩序の構築
①現状の地域の安全保障状況に関する緊張の高まりを踏まえ、ASEANの中心性を尊重し、また東南アジア友好協力条約(TAC)やASEAN憲章において提示してきた諸原則や規範を通じ、ASEANがこれまで地域の安定に寄与してきた知見を活かしつつ、長期的に地域内の緊張緩和へむけた取り組みを共に推進
②各国の安全保障対話と協力のプラットフォームとしての東アジア首脳会議(EAS)、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、ASEAN+3をはじめとするASEANアーキテクチャーの強化、ASEAN事務局の機構・機能強化支援
③ASEAN各国個別の状況を踏まえつつ、ビエンチャン・ビジョン2.0で示された方向性を踏まえた上での、地域全体の平和と安定に資するための防衛協力を推進
・インドネシアとフィリピンとの間で行われている外務・防衛閣僚会合(「2+2」)の着実な実施及び実施国の拡大をはじめとする戦略対話の一層の促進
・防衛装備・技術協力の推進及び防衛装備品・技術移転協力協定締結国の拡大
・非伝統的課題を中心とする2国間・多国間能力構築支援の一層の促進
・自衛隊と各国軍との共同訓練・演習の実施
・防衛装備・技術協力、能力構築支援及び共同訓練・演習をはじめとする防衛協力・交流を通じ、相互運用性の向上や情報共有の促進に資すると同時に、ASEAN諸国の調達の透明性確保など、各国の治安部門のガバナンスの向上に寄与
④海洋秩序の安定および海洋安全保障のための協力
・AOIPの海洋協力に対する協力および支援、FOIPの法の支配、航行の自由、および平和と安全の確保にむけた協力の連携強化
・人材育成を含む、海上法執行能力強化のいっそうの協力推進、海上保安政策プログラム等によるASEAN諸国の沿岸警備に従事する人材の育成および能力向上支援の強化
・海洋の環境保全に関する協力の推進
・全てのステークホルダーの正当な権利や利益が考慮される形での南シナ海における行動規範(COC)の早期締結に向けた側面支援、一部のASEAN諸国間で進められつつある海洋安全保障協力など、海洋安全保障に関わるASEAN諸国および諸国間の取り組みへの協力支援
⑤法の支配の強化を目的とした法制度整備の支援
・新興の犯罪形態や権力濫用形態への共同対処のため、国際協力や技術支援の在り方を議論する日ASEAN司法協議を定期開催。
・競争法をめぐる日ASEANの政策連携
⑥民主主義の価値を共有し、民主主義の質を向上させるための協力推進
・デジタル・ガバナンスにおける、政策決定過程、およびデータ利活用にかかる透明性確保
・サイバー攻撃、ディスインフォーメーション等への耐久性強化にかかる日ASEANの共有メカニズムの構築
⑦東南アジア非核地帯条約を尊重し、核軍縮・不拡散についての協力を強化
⑧ミャンマーを孤立化・脆弱国家化させず、法の支配、公正な秩序と民主的な政体を回復するための協力、特に日ASEANの連携の下での粘り強い働きかけ、人道支援の継続・拡大、ミャンマーの多様なステークホルダーとの連携強化とそれらと軍事政権との対話へ向けての後押し
⑨国際社会の安全と平和に関する諸課題についての取り組みに関し、国連など国際場裏における連携の強化・立場の摺り合わせ
2. 経済発展、持続可能性、公正性のいずれもが充足した「共生社会」の実現
①自由で開放的かつ公正な経済秩序の維持強化
・WTOを中核とする多角的貿易体制を維持・強化しつつ、通商・知的財産・デジタルなどの幅広い分野におけるルールの形成、またどのステークホルダーにとっても公正な援助、投資を担保するための緩やかな地域のルール形成に向けて協力する。
(ア)これらのルールの透明性のある履行確保のためのプラットフォームとしてRCEP協定も活用する。
(イ)CPTPPを上記のルール作りに活用すべく、CPTPPを締結済みのASEAN諸国と協力を進める。
(ウ)IPEF交渉に積極的に関与し、脱炭素化、デジタル化、公正な取引に関する国際的なルール作りに共同で取り組む。
・経済安全保障分野における協力強化
(ア)ASEAN諸国の経済安全保障強化支援、政治的・経済的自律性向上(経済的威圧等の新たな課題への対応)、ASEAN諸国及び日本のサプライチェーン強靱化、重要鉱物資源等産出国との関係強化、クリーンな情報通信設備の普及およびデータ保護、機微情報管理、研究インテグリティと研究セキュリティ等。
(イ)上記の協力のための日米間の経済版「2+2」に類似する協議枠組みの創設
②経済の活性化と高度化による発展の実現
・ポストコロナの包括的な経済回復に向けた協力を促進する経済強靱化のための日ASEANアクションプランの内容を継承する、より長期的な視点からの新アクションプランの立ち上げ、実施を進める
・「中進国の罠」からの脱却に向けた新産業を共に作るための国境を越えたオープンイノベーションを推進する。
・日本とASEANの共創によるデジタル技術を活用した新産業分野を開拓する。
・ASEAN連結性強化に資する協力
(ア)ASEAN連結性マスタープラン2025および新マスタープランの策定を支援する。(イ)ASEAN地域全体の発展に資する連結性強化の基礎となる先端インフラ整備を支援する。
(ウ)公正なインフラ支援のための地域のルール作りを共同で進める。
(エ)デジタル技術を活用し、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)、サプライチェーンの質的向上と改善に向けた取り組みを推進する。
・ASEANおよび日本それぞれの成長の鍵としてのDXの推進とスタートアップ育成
・観光立国に向けた取り組みに関する協力
(ア)日ASEANともに双方向での旅行者の拡充(双方向の往来の再活性化)、日本、ASEAN双方の魅力創出と発信強化のための取り組み
(イ)日ASEAN双方における地方への誘客及び消費単価の向上支援、エコツーリズムの推進
(ウ)持続可能な観光地経営促進に向けた協力
i.データ活用(観光DX)による収益力向上、高付加価値化支援
ii.施設改修や観光サービス等による付加価値向上
(エ)日ASEAN双方の文化(食・歴史遺産・伝統芸能)理解促進
・日ASEANの中堅・中小企業間における事業促進・価値共創
(ア)海外事業を後押しする情報の拡充・周知強化
(イ)海外事業のための人材確保・育成支援
(ウ)海外事業加速に向けた環境整備
・大企業と中堅・中小企業、スタートアップとの協業支援
・日ASEANにおけるグローバル・オープンイノベーションの推進
・メコン開発協力の推進
(ア)日本・メコン地域諸国首脳会議の枠組みを活用し、メコン地域の持続可能な発展を、公正性の確保を考慮しつつ実現するための共同の取り組みを追求。特にメコン地域で深刻化する環境・食料安全保障の問題への対応に関し、参加各国の立場の相違を考慮しつつ共同で取り組む。
③社会的発展と公正のための協力
・ASEAN各国間、および各国内の格差是正
(ア)ASEAN統合イニシアティブ(IAI)への支援継続
(イ)デジタル・デバイド是正のため、サイバー空間へのアクセス、およびサイバー空間における公共性確保
(ウ)公衆衛生上の課題解決にむけた科学的リソースの共有
(エ)デジタル・ガバナンスにおける構造的差別を防止し、透明性を確保するため、日ASEANのAI運用にかかる共通基準の策定
(オ)若年層の社会保障プログラムの共同整備
(カ)デジタル時代の新たな「人権」について日ASEAN共同策定
(キ)社会課題(格差是正や少子高齢化など)に対応するための新しい社会政策や租税・社会保障制度の設計などの知見を共有し、新しい取り組み奨励
(ク)公助のみならず、NPOや地域社会による共助、企業などの民間セクターによる新しいイニシアティブの情報交換や相互交流の推進
・労働市場の日ASEANの相互開放と統合の深化、ASEAN内、および日ASEAN間の移動促進にむけた協力
(ア)日本とASEANにおけるビジネスと人権保護との両立へ向けた取り組み、特に越境労働者を含む労働者の人権保護、公正な労働環境実現の法制度改革
(イ)日本においてASEANの人々が日本で活躍できる環境整備、例えばASEAN高度(能力)人材への特別対応での職業転換を可能とする新たな就労ビザの発出など
(ウ)適正化に向けた技能実習制度の抜本的な再検討
(エ)留学生や技能実習生が現地に戻ったあとのキャリアパス、日本で得た経験を生かす出口戦略の検討
(オ)東南アジアを舞台として活躍する日本人人材の競争力向上支援
(カ)トランスナショナルな労働市場を形成することで、デジタル化に伴う雇用転換の過程の円滑化
・少子高齢化および高齢社会の到来への対応
(ア)課題先進国としての日本、および急速に少子高齢社会へと変貌しつつある一部のASEAN諸国との知見をすりあわせつつ、高齢化社会における安全と安心の実現や社会そのもの活性化に向けたソフト面、ハード面の制度作りに向けた道筋を共に探る
④持続可能でレジリエントな社会の実現
・気候変動への対応とエネルギー安全保障の両立(アジア・ゼロエミッション共同体構想の実現等)
(ア)アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ(AETI)の加速的展開(ロードマップ策定、ファイナンス支援、人材育成等)
(イ)国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)等気候変動への対応のための国際的枠組みにおける日ASEAN連携の強化
(ウ)日ASEAN気候変動アクションアジェンダ2.0に沿った協力の推進
(エ)クリーンエネルギー製造業や省エネルギー産業の発展のための日ASEAN協力
(オ)地政学的なリスクと経済社会におけるデジタル化に伴うエネルギー需要の高まりに対応しうる、安定したエネルギー供給メカニズムの実現のための、資金・技術・ガバナンス強化の取り組み
(カ)エネルギー・環境技術や関連するデジタル技術をはじめとする脱炭素化に貢献しうる技術開発やその社会実装に向けた協力推進
・循環社会の実現、スマートシティ構築
(ア)循環型経済(サーキュラーエコノミー)の構築、またモビリティ、ヘルスケア含めて快適かつ安全なデジタルライフを過ごせる街作りにむけて、日ASEANが知見や経験を共有しつつ共に取り組む
(イ)日本における廃棄物収集や廃棄物処理・リサイクルに関する制度、技術やノウハウを活用し、都市廃棄物や電気電子廃棄物(E-waste)等の課題に対応し、ASEAN循環経済フレームワークの実施や循環型社会の形成に向けて共に取り組む
・自然災害、人災含む災害への対応
(ア)ADMMプラスで実施されてきた人道支援・災害救援(HA/DR)の取り組みを踏まえ、ASEAN域内の災害への緊急対応の取り組みに対し、日本の知見を生かした支援を強化
i.ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)の支援、特に被害情報の把握と迅速な人道支援についての能力向上支援
ii.加盟各国のキャパシティビルディングにむけた支援、担当部局の研修の実施、ガイドライン作成支援など
(イ)対ASEAN支援者会合(仮称。ASEAN加盟国を含め、災害発生時に被災国への域内外からの支援提供が重複なく連携した形で行われるよう、平時から協議を行う仕組み)の創設
・防災・減災に関する協力
(ア)防災・減災に向けたASEANの取り組みに対する日本の知見を生かした支援。地震、津波、洪水、高潮に関する技術や設備の導入に関する協力等
(イ)都市空間における環境リスク査定にかかる日ASEANの共通の公的なモニタリングメカニズムの導入
・食料安全保障
(ア)世界農業機関(FAO)等、国際的取り組みを通じた強靱で持続可能な食料供給システムの構築へ向けた協力
(イ)現行のASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)、食料安全保障情報システム(AFSIS)の推進、日ASEANみどり協力プラン強化
・将来の公衆衛生危機の予防・備え・対応の強化に向けた保健協力
(ア)ASEAN感染症対策センター本格稼働・能力構築に向けた協力の推進
(イ)民間分野におけるヘルスケアや感染症対策の協力
・持続可能な開発目標(SDGs)達成のための包括的な環境協力
(ア)日ASEAN環境協力イニシアティブに基づく協力強化、特に海洋プラスチックゴミ問題への対応
(イ)持続可能な森林経営及び木材利用における協力
・持続可能でレジリエントな社会の実現へむけた、日ASEAN間の地方政府間の連携強化、および成功事例の共有、ガバナンス手法の共有
⑤技術革新にむけての共同研究
・気候変動とエネルギー安全保障、環境保全と循環型社会といった様々な目標を同時並行的に実現させるための技術開発を促進
・E-ASIA共同研究プログラム(e-ASIAJRP)、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)などを活用し、ASEANの研究者らの波及効果の高い研究開発を後押し
⑥協力推進のための既存の制度的な仕組みの活用、新たな検討グループの立ち上げ
・国際機関日本アセアンセンターの活動強化
・東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)の官民連携拠点としての機能の充実、また同組織を活用した共同研究や政策提言等の発信強化
・ASEAN各国の国内改革及び地域統合を目的とした経済協力開発機構(OECD)内の東南アジア地域プログラム(SEARP)の更なる活用及び2022年に結ばれたASEANとOECDとのMOUとの連携
・日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)、日ASEAN日本人商工会議所連合会(FJCCIA)、日本貿易振興機構(JETRO)、ASEAN・日本経済協議会日本委員会(AJBC)を適宜活用しつつ、より多層的なネットワークの構築
・在外日本人商工会議所の現地政府・経済界とのネットワーク強化、情報収集・分析機能の強化
・ASEANを中心とする周辺諸国との地域経済統合や地域協力を推進するため、ASEANと、日本及び日本以外のASEAN対話国の産業界も含む「インド太平洋ビジネス諮問委員会」の設立
・インド太平洋地域でのAOIPに関連した海洋協力、SDGs、連結性、その他経済・社会分野における協力の具体化に向けた政策研究を行うAOIPビジョングループの設置
3. 新たな日ASEANパートナーシップの基盤となる相互理解と相互信頼の醸成
①日ASEAN間の多層的な人材交流および知的交流・文化交流の促進
・官邸や外務省管轄の知的交流・人材交流・青年交流スキーム、および国際交流基金等を活用した双方向の交流の拡大
・大学・大学院レベルの留学を対象とする企業等民間が運営しているスカラシッププログラムの拡充の促進
・日ASEAN企業双方の社員を互いに派遣する企業間交流の促進、インターンシップ促進支援
・ジェンダー問題など社会的課題に関する日ASEAN間の市民社会の交流強化
・ASEAN諸国のジャーナリストの日本への短期及び長期滞在が可能なスキームの創設
・東南アジア諸国の市町村と、日本の地方自治体との交流の促進
②インド太平洋全体の知的交流強化のための日ASEANパートナーシップの強化
・ネットワーク形成のハブとして日本とASEAN諸国のシンクタンクおよび大学間ネットワークの拡大強化
(ア)日ASEAN統合基金(JAIF)の資金を活用した共同研究スキームの実施
(イ)現行の日本とASEAN諸国間の研究機関間のネットワークを活用しつつ、日本のシンクタンクとASEAN-ISISを構成するシンクタンク、またそれ上記以外のシンクタンクも含めた政策研究ネットワークのいっそうの強化
③日本とASEANの若手高度人材間のネットワーク形成と相互対話の機会の拡充
・ASEANや日本の政策コミュニティの間の相互交流。相互派遣の長期・中期・短期プログラムの推進・強化
・日本の学生や若手研究者をASEAN各国に派遣する長期・中期プログラムの推進・強化
・日本における東南アジア専門人材の育成ASEANの学生若手研究者を定期的に日本に招聘する長期・中期プログラムの推進・強化
・英語圏で育成された東南アジア人材のポスドク、若手プロフェッショナルの日本での積極的登用
・日本の研究者を欧米の大学のアジア研究拠点に積極的に送り込み、東南アジアの知的コミュニティとのネットワークを拡大強化
・グローバルな社会課題を解決するための先端研究開発分野における研究者交流と国際頭脳循環によるネットワーク形成
・イノベーション創出・ビジネス共創のためのASEANと日本の起業家等経済人の相互交流・ネットワーク作り
・日ASEANの若いビジネスリーダーによる事業開拓とネットワーク構築促進、リーダーズ研修の実施
・学歴、職業資格制度の日ASEAN間における共通プラットフォームの構築、運用基準の統合。
④日本におけるASEAN認識の刷新および相互理解の促進のための人材育成・広報事業
・日本の学生がASEAN各国の言語・歴史・文化を学び、修得し、将来の日ASEAN相互交流を担う人材を育成するプログラムの推進
・日本人の東南アジアにおける就業・起業活動支援、および、東南アジア人材とのマッチング機会の拡大。
・JENESYS日ASEAN学生会議の継続と拡充
・官民でASEANと日本の若年層の相互派遣の新たな長期・中期・短期プログラムの検討(日本語パートナーズの経験および現在のニーズを踏まえての新たな制度の検討を含む。)
・初等教育、中等教育の段階における日ASEAN間の短期訪問や草の根交流を推進、相互理解と友好関係の構築を促進
・日本企業の意識改革の促進(ASEANへの事業展開、本社から現地への権限委譲・現地マネジメント促進、外国人労働者の受け入れ促進等
・海外から多数の人々が集う2025年開催の大阪・関西万博をASEANとの関係強化の好機として活用する。
⑤デジタル社会における信頼の基盤となるサイバーセキュリティや制度的な信頼性の確保によるDFFTの実現
・日ASEAN間でのDFFTの早期実現
・ASEAN各国における知的財産や個人情報の保護に関する法制度整備の支援
・ASEANのデータセキュリティ人材の育成支援
・民間ベースで行われているサイバーセキュリティ向上の取り組みへの支援強化
IV.以上を実現するための取り組み
日本とASEANは、長年に亘り幅広い分野において実務的協力を着実に実施し、具体的な成果を挙げてきた。その積み重ねにより、日本とASEANは地域の発展のための真のパートナーであるとの認識が培われてきた。2013年の日ASEAN友好協力40周年の際には、日ASEAN特別首脳会議において「日ASEAN友好協力ビジョンステートメント」及び実施計画が採択され、具体的な取り組みを進めてきた。50周年においても、次の10年を見据えて、上記1.から3.までの各分野での取り組みを実施するため、日ASEAN統合基金、青年交流事業(対日理解促進交流プログラムJENESYS、東南アジア青年の船、及びその他の事業)、国際交流基金の文化交流事業(文化の「WA」)といった従来からの対ASEAN協力ツールや、その後継あるいは新たな仕組みを検討すべきである。
他方、ODAなど公的資金のみで日ASEAN関係の強化を図る時代ではなくなっている。変転する内外の状況を受け、両者はより対等かつ多層的なパートナーシップを築かなければならない。よってASEAN諸国の官民のリソースと日本の官民のリソースを活用し、推進しようとする協力スキームやプロジェクト毎に、それらの最適な組み合わせを模索しつつ、協力深化を図る必要がある。
(了)