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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するASEAN+3特別首脳会議共同声明

[場所] 
[年月日] 2020年4月14日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

我々,東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国,日本国,中華人民共和国,大韓民国の国家元首及び行政府の長は,2020年4月14日に,テレビを通じて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するASEAN+3(APT)特別首脳会議を開催した。首脳会議は,グエン・スアン・フック・ベトナム首相がASEAN議長として議長を務めた。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる我々の国民の福祉,生活及び安全に対する前例のない深刻な課題と我々の国々及び世界全体の社会経済的発展への悪影響を深く懸念している。

パンデミックによる生命の損失及び苦悩に深い哀悼とお見舞いの意を表明する。

世界保健機関(WHO)が2020年3月11日にパンデミックと宣言した新型コロナウイルス感染症の指数関数的な拡散と重大性を認める。

人々の生命を救うためにパンデミックと闘い,全身全霊で取り組んでいる全ての医療専門家,医療従事者,その他の最前線の人々への謝意と支援を強調する。

新型コロナウイルス感染症の予防及び制御における人々の参画の重要性を認識する。

国際金融機関(IFIs)が,加盟国の緊急のニーズに対応するべく,その手段を使用及び強化することにより支援を必要としている国々を支援するために取った措置を歓迎する。

ウイルスの拡散を抑え,新型コロナウイルス感染症の社会経済的影響に対処するために,果断に,革新的かつ集団的に対応するよう,国際連合事務総長が全ての国に呼びかけていることを支持する。

G20首脳が2020年3月26日に実施された臨時首脳会議の声明において表明した新型コロナウイルス感染症の共通の脅威に対して共同戦線を張るというコミットメントに留意する。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を制御及び抑えるための世界的なキャンペーンにおける世界保健機関(WHO)の重要な役割を強調し,国際保健規則(2005年)の下での保健対策の実施の重要性を認める。また,新型コロナウイルス感染症のような公衆衛生上の課題に対応するためのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の必要性を強調する。

東アジア地域の平和,安全保障及び繁栄のためのASEAN+3協力の重要な役割を認識する。2003年のSARSパンデミックとの闘いにおける我々の成功した連携を含む,公衆衛生上の課題に対処する上での保健協力とその既存のメカニズムの重要性を強調する。

新型コロナウイルス感染症の初期の流行時からの同感染症への共同対応におけるASEAN+3保健協力プラットフォーム及び日中韓による時宜を得た積極的な取組を称賛する。

2020年2月3日に開催されたASEAN+3保健高級実務者会合(ASEAN+3SOMHD)特別テレビ会議,2020年3月20日に開催された新型コロナウイルス感染症に関する日中韓外相テレビ会議及び2020年4月7日に開催された新型コロナウイルス感染症に係る協力強化に関するASEAN+3保健大臣会合特別テレビ会議の心強い成果に満足の意をもって留意する。オリンピック・パラリンピック競技大会を含む多くの主要行事を改めて開催するとの決断を認める。

「結束し対応するASEAN」の精神に基づき,新型コロナウイルス感染症の流行への集団的対応に関するASEANの最高レベルのコミットメントを示した2020年2月14日のASEAN議長声明及び新型コロナウイルス感染症に関するASEAN特別首脳宣言を歓迎する。新型コロナウイルス感染症がもたらす多面的な課題に対処するためのASEANのマルチセクター,マルチステークホルダー,地域全体のアプローチを支持する。

パンデミックが我々の社会及び経済に与える悪影響に対処しながら,パンデミックの拡散を制御し抑制するために,ASEAN+3諸国間の連帯を強化し,協力及び相互支援を強化するという我々の共通のコミットメントを再確認する。

この目的のため,我々はここに次のことを決意する。

1.パンデミック及びその他の感染症に関する地域における早期警戒システムを強化するとともに,現場の状況や各国による新型コロナウイルス感染症と闘うための措置に関する,定期的で,時宜を得た,透明性のあるリアルタイムな情報交換を強化する。経験とベストプラクティスを共有し,感染の予防,抑制,制御,感染者の臨床治療における相互の技術支援を拡大する。各国のリスクアセスメント,ASEAN地域における新型コロナウイルス感染症の国際的な拡大に係るリスクアセスメントに関する定期報告,並びに,それに続く政策及び戦略的事項に関するASEAN+3保健高級実務者会合(ASEAN+3SOMHD)及び技術的懸念に関するASEAN・緊急オペレーション・センター・ネットワーク(ASEAN・EOCネットワーク)のテレビ会議から導かれる,加盟国及び域内における感染症の重症度や更なる拡大に関連性があり適合する,新型コロナウイルス感染症の抑制に向けた相乗効果を活用するための制御・治療に向けた強力で集団的で調整のとれた対応を支持する。

2.有効性,安全性,アクセス可能性の目的を遵守することにより,医療従事者及びその他の最前線の人々の保護,並びに,十分な医薬品及び医療物資,特に診断器具,個人用防護具,医療機器の供給を含め,パンデミックに備え及び対応するための国家及び地域の能力を高める。

3.緊急時のニーズに迅速に対応することを可能とするASEAN+3による必須医療物資の備蓄の立ち上げを検討する。特にASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)が管理する倉庫を含む既存の地域緊急備蓄施設の利用を奨励するとともに,ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の利用を更に検討する。

4.国際保健規則(IHR)2005年版の実施を活用するとともに,特に公衆衛生上の緊急事態のためのASEAN緊急オペレーション・センター・ネットワーク(ASEAN・EOCネットワーク)やASEANバイオディアスポラ・バーチャル・センターを含む既存のメカニズムを通じて,公衆衛生上の脅威を予防及び検出し,それに対応する能力を高めるためのASEAN+3における保健協力部門及びASEANによる現在進行中の地域的な集団的な取組を支持する。

5.ASEAN+3実地疫学研修ネットワーク(FETN)等を通じた疫学研究における科学的協力を強化し,有効性・安全性・衡平性・アクセス可能性・入手可能性の目的を遵守しつつ,診断法,抗ウイルス薬及びワクチンの速やかな研究・開発・製造・供給に向けた民間部門を含めた調整を強化する。また,新型コロナウイルス感染症と闘うための科学に基づいた対応を促進するため,デジタル技術とイノベーションを積極的に共有及び活用する。

6.感染予防及び管理のための医療施設の強化支援,公衆衛生従事者の研修及び日中韓の教育及び研修機関並びに関連する科学分野における研修のためのASEAN諸国の学生に対する奨学金の提供を含む,公衆衛生分野の人材育成及び能力構築において,ASEAN及び日中韓の間での相互協力及び支援を奨励するとともに,各国の保健システムを強化する。

7.ASEANの域外パートナーからのあり得る追加的支援と既存のASEAN+1基金及びASEAN+3協力基金からの資金の再配分による,公衆衛生上の緊急事態のための新型コロナウイルス感染症ASEAN対応基金の設立を含め,パンデミックを抑え,我々の国民を守るために十分な資金の確保に努める。

8.ASEAN+3諸国の国民,特に互いの国において滞在,就労,就学する最も脆弱な人々に対する適切な支援及び援助を提供するための協力を強化し,新型コロナウイルス感染者の尊厳,健康,福祉,安全及び公正かつ効果的な治療に向けて取り組み,適切な形での人の移動を促進する。

9.関連する政府の政策,公衆衛生及び安全情報の時宜を得た更新を含め,様々な形態のメディアを通じた,誤報やフェイクニュースの明確化のための効果的な広報促進の取組,並びに,汚名を着せる行為及び差別を減らすための取組を強化する。

10.貿易及び投資のために市場の開放を維持するとのコミットメントを再確認するとともに,公衆衛生上の緊急対応に必要と考えられる措置が的を絞り,目的に照らし相応かつ透明性があり,一時的なものとなること,及び,こうした措置が貿易に対する不必要な障壁又は地域のサプライチェーンへの混乱を生じさず,世界貿易機関(WTO)のルールと整合的であることを確保しつつ,ASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)の活用等により食料安全保障を確保し,物流ネットワークの円滑で継続的なオペレーションを通して,食料,生活必需品,医薬品及び医療物資等の特に必要不可欠な物資のための地域のサプライチェーンの強靭性と持続可能性を強化する観点から,ASEAN+3諸国間の協力を強化する。

11.新型コロナウイルス感染症による社会経済的影響を最小限にするための我々の取組及びパンデミックとの闘いのための我々の取組に沿って,公衆衛生上の保護を確保しつつ,ビジネスのための渡航を含む人々の不可欠な移動を可能な限り円滑にすることにより,必要な域内の相互連結性を維持するよう奨励する。

12.パンデミック後の回復に向けた共同の取組を強化し,経済発展及び財政の強靭性を刺激し,成長,連結性及び観光を回復させ,市場の安定性を維持し,景気後退の潜在的なリスクを防止するための我々のコミットメントを再確認する。

13.先行的かつ協調的な方法で,経済的刺激策を含めた市場の信認を高め,地域経済の安定性及び強靱性を向上させるための適切で必要な措置を実施するとともに,新型コロナウイルス感染症の影響に苦しんでいる人々及び企業,特に零細・中小企業(MSMEs)及び脆弱なグループを支援する。企業,特に零細・中小企業が事業を維持できるように技術及びデジタル貿易を活用する。

14.2019年に発出された,東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に関する共同首脳声明のコミットメントを再確認しつつ,経済発展を支えるため,不可欠な医療物資及び重要な農産品を含む必要不可欠な物品及びサービスの製造及び供給を安定化させるための取組,物品及びサービスの必要な流通を維持するための取組,及び,サプライチェーンをより強靭で持続可能なものとし打撃による影響を受けにくくすることにより,地域内外でのサプライチェーンの連結性を維持する取組を強化する。

15.地域の金融安定性に対する潜在的なリスクに引き続き警戒し,より緊密な地域金融協力及び政策協調を強化する。地域の経済及び金融の動向を監視し,適時なリスク評価及び政策的助言を提供する観点から,ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)を支援する。グローバル金融セーフティーネットの信頼できるレイヤーとして,地域金融取極であるチェンマイ・イニシアティブ(CMIM)の即応性に対するコミットメントを再確認する。

16.新型コロナウイルス感染症の深刻な社会的及び経済的影響に対処し,人々の福祉を守り,成長を維持しつつ,パンデミックとのグローバルな闘いにおいて,官民連携(PPP)と全社会的アプローチの奨励と共に,WHO,関連機関及び国際社会と緊密に協力することにコミットする。

17.厳戒態勢下において団結を維持し,必要とされ得るあらゆる追加的措置をとる用意がある。

18.ASEAN+3外相に対し,この声明で強調されているコミットメント及び合意の実施を監視するため,ASEAN+3枠組み内の関連する分野別機関と緊密に協力し,主要な調整役としての役割を果たすよう指示する。

 2020年4月14日に採択