データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第24回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議共同ステートメント

[場所] バーチャル形式
[年月日] 2021年5月3日
[出典] 財務省
[備考] 仮訳
[全文] 

I. 序

1. 第24回ASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁会議は、ブルネイのアブドゥル・ラーマン財務・経済副大臣、ロキア・バダール通貨金融庁長官、韓国のホン・ナムギ経済副首相兼企画財政部長官、及びイ・ジュヨル韓国銀行総裁の共同議長の下、2021年5月3日に開催された。本会議は、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによる例外的な状況に鑑み、バーチャル形式で開催された。本会議には、アジア開発銀行(ADB)総裁、ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)所長、ASEAN事務総長、国際通貨基金(IMF)副専務理事も参加した。

2. 我々は、世界・地域経済の現下の動向や見通し、及びリスクや課題への政策対応について意見を交換した。我々は、地域経済が新型コロナウイルスを克服し、パンデミック後の時代への準備を行う上での支えとして、ASEAN+3の地域協力がより重要になっていることを認識した。こうした点を踏まえ、我々は、チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)、AMRO、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)、及びASEAN+3財務プロセスの戦略的方向性などにより、地域金融協力を更に強化すべく、引き続き協働していくことに合意した。

II. 最近の地域経済・金融情勢

3. パンデミックによる影響は域内でも異なるが、ASEAN+3地域は新型コロナウイルスのパンデミックの発生以降、強靭性を発揮してきた。我々の地域は、世界人口の30%を抱えるが、これまで世界全体の1億5千万人程度の新型コロナウイルス感染者のうち、我々の地域は3%未満を占めるにすぎない。これは、過去1年間、全面的及び的を絞った封じ込め措置を、ともに厳格ながら慎重に適用した結果である。同時に、家計、企業及び金融セクターを支援する多岐に亘る政策により、2020年の地域の成長率は0.2%の緩やかな落ち込みとなり、うち5か国はプラス成長であった。回復は各国間・各国内でばらつきがあるとともに、新型コロナウイルスの新たな変異株の拡大やワクチン接種のペースの違いなどにより、大きな下方リスクにさらされているが、我々は、回復がモメンタムを得て、ワクチンの普及により各国の経済活動の開始が段階的に可能となるにつれ、地域経済は2021年に回復すると予想する。

4. 我々は、経済・健康危機を克服していく上で集中的・包括的な支援政策が引き続き不可欠であることを認識している。我々は、ワクチンの普及が地域経済の回復を加速させるのに主要な役割を果たすことに期待する。同時に、我々は、下方リスクへの警戒を続け、包摂的・持続的な回復を確保し、金融の安定を維持するため、すべての利用可能な政策手段を用いる。我々は、クリフ(崖)効果のリスクを緩和しつつ、段階的かつ慎重に拡張的な政策措置を正常化していく。

5. パンデミック及びその後のグローバル・バリューチェーンの混乱を受け、我々は、域内の結びつき及びリージョナル・バリューチェーンを更に強化し、より多様で強靭な地域経済を促進することを決意した。このため、我々は、開かれた、ルールに基づく多角的な貿易・投資システムに強くコミットし続ける。我々はまた、地域の貿易・投資に大きな弾みを与える地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の署名を歓迎するとともに、地域の経済統合に更に貢献するべく、その早期発効を期待する。

III. 地域金融協力の強化

【チェンマイ・イニシアティブ(CMIM)】

6. 我々は、域内における最近の経済・金融の動向やリスクを認識し、効果的で信頼できる自助メカニズムであり、かつグローバル金融セーフティーネットの重要な構成要素をなすCMIMを更に強化するとのコミットメントを再確認する。この観点から、我々は、1IMFデリンク割合を30%から40%へ引き上げ、2要請国・供与国双方の自発性及び需要に応じたCMIMにおける現地通貨による支援を制度化する、CMIM契約書の改訂が2021年3月31日に発効したことを歓迎する。我々は、代理に対して、LIBORを代替する新たなCMIM参照金利の2021年末までの導入やCMIM金利マージンの見直しを含む、残存する事項についてフォローアップするよう指示する。

7. CMIMにおける現地通貨の活用及びそのフォローアップとしてのCMIM運用ガイドラインの改訂に関しては、議論の進捗がみられた。我々は、CMIMによる流動性支援における現地通貨の活用は要請国・供与国双方の自発性及び需要に応じたものとなるべきことを再確認する。今後に向けて、我々は、代理に対して、第三国通貨の活用についてはアンカー条項を記載しつつ、メンバーが自国通貨を供与する場合についての運用ガイドラインの準備を2021年中に遅滞なく進めるよう指示する。また、我々は、2021年の運用ガイドラインの改訂の完了を踏まえた上で、2022年末までに第三国通貨の活用に関する細則をまとめることを目標とする。

8. 新型コロナウイルスのパンデミック及びその経済への影響は、必要不可欠な地域金融セーフティーネットとしてのCMIMの重要性を明らかにした。この観点から、我々は、CMIMの将来の方向性に関する議論を促進する有益な道標として、短期・中期的課題の参照リストを歓迎する。短期的課題として、我々は、CMIMの意思決定機関であるELDMBの最終決定に際して、CMIM危機対応機能のIMFデリンク部分へアクセスするための適格性基準を評価するために、AMROが経済レビュー及び政策対話(ERPD)マトリックス・フレームワークを包括的に使用することを歓迎する。今後に向けて、我々は、代理に対して、ASEAN+3地域金融セーフティーネットを更に強化するべく、長期的課題やパンデミック後の時代にメンバーが直面する構造的脆弱性に対処する新たなイニシアティブを含む、CMIMの将来の方向性についての議論を継続するよう指示する。我々はまた、AMROに対して、メンバーの議論に技術的支援及びインプットを提供することを要請する。

9. 我々は、CMIMの流動性支援のための実際の送金における手続面のギャップへの対処に役立った第11回テストランが成功裡に完了したことを歓迎する。今後に向けて、我々は、提案されている第12回テストランも、AMROの支援を得て、CMIM危機予防機能のIMFデリンク部分の意思決定におけるメンバーの準備を向上させることを確信する。

【ASEAN+3マクロ経済リサーチ・オフィス(AMRO)】

10. 本年のAMROの設立10周年を祝福しつつ、我々は、AMROの設立以降の著しい進展を認識する。我々は、このような困難な時期においても、AMROが新型コロナウイルスのパンデミックに対応するための時宜を得た分析や有益な政策の助言、及び、CMIMの即応性の促進を通じて、域内のマクロ経済・金融の安定を確保するため、ASEAN+3メンバーへの力強いサポートを行ったことを認識する。

11. 我々は、新型コロナウイルスという新たな現実により良く適応するため、代理によって承認されたAMROの更新版「中期実施計画(MTIP):2021-2025」を歓迎する。我々は、更新版MTIPがAMROの組織能力を強化し、また、全ASEAN+3メンバーにとっての有能かつ信頼のおける「家庭医」としてのAMROの役割を強化すると確信する。我々はまた、成果に基づく機関への道を開くべく、効率的なオペレーションを確保し、メンバーへの説明責任を向上する、AMROの統合評価サイクルの実施及び業績評価枠組みの改善に留意する。

12. 我々は、マクロ経済サーベイランス能力を更に向上させ、より関連性の高いサーベイランス報告書や分析ツールを提供するためのAMROの継続的な努力を称賛する。我々は、AMROのサーベイランスの取組を更に深化、拡大させる、AMROの国別サーベイランス協議のためのガイダンスノートの改訂を歓迎する。我々はまた、域内の関心及び見方が国際的な政策議論により反映されるよう、各国特有の要素を考慮した資本フロー管理政策やマクロプルーデンス政策に関する独自の政策枠組みをAMROが構築することを期待する。我々は、CMIMの最大限の即応性を確保するための、AMROによるASEAN+3メンバーへの支援の努力を認識するとともに、AMROがメンバーの能力構築をよりよく支援すべく、技術支援(TA)の範囲を更に拡大することを慫慂する。我々はまた、様々なASEAN+3の将来のイニシアティブにおける議論を支援するための知的・技術的インプットを提供することや、パンデミック後の時代にメンバーが直面する構造的課題への助言を行うことを含め、ASEAN+3財務プロセス強化に向けたメンバーの努力を支援する上で、AMROがより大きな役割を果たすことを期待する。

13. 我々は、AMROの発展を進める上での強いリーダーシップに関して、土井俊範所長率いるAMROのシニアマネジメントチームに感謝する。我々は、ASEAN+3メンバーの信頼のおけるアドバイザーとして行動し、独立した、信用のある、専門的な国際機関として任務を遂行するAMROへの、継続的な支援を再確認する。

【アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)】

14. 我々は、「ABMI中期ロードマップ2019-2022」の下、インフラファイナンスへの支援の深化、グリーンボンドやASEAN+3債券共通発行フレームワーク(AMBIF)に基づく債券の促進、債券市場における規制の標準化や調和化の促進、クロスボーダー取引を促す債券市場のインフラの改善、域内のイニシアティブ間の協働強化を通じ、ABMIが継続的に進展していることを認識する。

15. 我々は、パンデミックにおける困難な状況にもかかわらず、現地通貨建て債券の発行を促進するために信用保証・投資ファシリティ(CGIF)が努力を継続していることを称賛する。我々は、パンデミック後に急増するサステナブルファイナンス需要を満たすため、域内のグリーン、ソーシャル、及びサステナビリティの各ボンドを育成する努力を支援する。我々は、アジアンボンドオンライン(ABO)の継続的な改良や、ASEAN+3債券市場フォーラム(ABMF)の下での市場統合に向けた着実な進捗及び「ダブルミスマッチ問題」の現状と今後の方策に関する新たな調査の立ち上げを歓迎する。我々は、クロスボーダー決済インフラ・フォーラム(CSIF)の下で構築された、香港金融管理局と日本銀行によるクロスボーダー・デリバリー・バーサス・ペイメント(DVP)リンクの立ち上げを歓迎する。我々は、ASEAN+3地域における担保の活用を更に促進する、アジアプライム担保フォーラム(APCF)の進展を評価する。我々は、技術支援調整チーム(TACT)による受益国への継続的な能力強化の支援に期待する。

【災害リスク金融・保険におけるASEAN+3金融協力】

16. 我々は、ASEAN事務局と世界銀行の協力の下、ASEAN諸国の災害リスクに対する財務強靭性を向上させる東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)の取組への支援を継続する。我々は、SEADRIFの最初の成果物としての自然災害保険、及び、公共財産保護プログラムの進展を歓迎する。我々はまた、他のASEAN+3諸国がSEADRIFに参加することを歓迎するとともに、ASEAN+3域外のドナーパートナーが本取組を支援することを慫慂する。

【ASEAN+3財務プロセスの戦略的方向性】

17. 我々は、「ASEAN+3財務プロセスの戦略的方向性」の下で行われている議論に留意するとともに、「インフラファイナンス(WG1)」、「マクロ・構造インストルメント(WG2)」、「自然災害リスクに対する財務強靭性の強化(WG3)」、「技術進化のための政策協調の向上(WG4)」から構成される4つのワーキング・グループ(WGs)の設立を歓迎する。我々は、これらの潜在的な協力分野を更に探求するためのWGsの生産的な活動及び具体的な成果を期待する。

18. 我々は、ERPDセッションにおけるテーマ別の議論の進展が、特に構造転換等の新たに浮上する課題について、域内メンバーが将来を見据えてブレインストーミングを行う機会を提供したことを認識する。我々は、ASEAN+3財務プロセスのオンライン・リポジトリの立ち上げへのAMROの支援を称賛するとともに、将来における正式な立ち上げ及び円滑な運用を期待する。我々は、代理に対し、将来に向けて、ASEAN+3財務プロセスの実効性や効率性を向上させる取組を継続するよう慫慂する。

IV. 結語

19. 我々は、2021年のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁プロセスの共同議長として優れた準備を行った、ブルネイ及び韓国の政府に謝意を表明する。我々は、2022年にスリランカ・コロンボで会することに合意する。カンボジア及び中国が2022年のASEAN+3財務大臣・中央銀行総裁プロセスの共同議長となる。