データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア通貨危機支援に関する新構想‐新宮澤構想‐

[場所] 
[年月日] 1998年10月3日
[出典] 財務省
[備考] 
[全文]

 通貨危機に見舞われたアジア諸国の経済困難の克服を支援し、国際金融資本市場の安定化を図るため、我が国として早急に支援策を講じていく必要がある。

 そのため、アジア諸国の実体経済回復のための中長期の資金支援として150億ドル、これらの諸国が経済改革を推進していく過程で短期の資金需要が生じた場合の備えとして150億ドル、合わせて全体で300億ドル規模の資金支援スキームを用意する。

I.アジア諸国に対する中長期の資金支援

 1.アジア諸国における資金需要

通貨危機に見舞われたアジア諸国では、実体経済回復のため、それぞれの国で次のような施策を講ずるために必要な中長期の資金需要がある。

(1) 民間企業債務等のリストラ策及び金融システム安定化・健全化対策

(2) 社会的弱者対策(ソーシャル・セーフティー・ネットの拡充、強化)

(3) 景気対策(雇用促進的な公共事業の推進等)

(4) 貸し渋り対策(貿易金融の円滑化支援、中小企業支援)

 2.支援の方法

アジア諸国における上記のような中長期の資金需要に応えるため、我が国として、以下に掲げるような方法でこれら諸国の資金調達を支援する。その際、東京市場の活用を図り、我が国の資金の還流に努める。

(1) 我が国からの直接的な公的資金協力による支援

[1] アジア諸国への輸銀融資の供与

[2] アジア諸国の発行するソブリン債の輸銀による取得

[3] アジア諸国への円借款の供与

(2) アジア諸国が国際金融資本市場から円滑に資金調達できるようにするための支援

[1] 保証機能の活用

 イ) 輸銀の保証機能を活用する。

・アジア諸国が民間金融機関から行う借入に対して輸銀が保証を行う。

・アジア諸国が発行するソブリン債を輸銀が保証する(所要の法改正が必要)

 ロ) アジア諸国が民間金融機関から行う借入に対して貿易保険を適用する。

 ハ) 世界銀行及びアジア開発銀行に対し、アジア諸国の借入及び債券発行による資金調達に対して積極的に保証を行うよう要請する。

 ニ) 将来的には、アジア諸国を中心とする新たな国際的な保証機構の設立が真剣に検討されることを期待する。

[2] 利子補給

 利子補給等を行うためのファンドとして、我が国の拠出により「アジア通貨危機支援資金(仮称)」を設立する。本資金を活用して、輸銀や民間金融機関等がアジア開発銀行と協調してアジア諸国に対して融資を行う場合に、当該融資に関して利子補給等を行う。本資金は、他のアジア諸国等にも開かれた枠組みとし、参加の意向があれば歓迎する。

(3) 国際開発金融機関との協調による資金支援

世界銀行及びアジア開発銀行と協調してアジア諸国に対する資金支援に努める。特に、民間企業債務等のリストラ及び金融システム安定化に向けての取組によりアジア諸国政府が抱える資金需要に対し、世界銀行及びアジア開発銀行が最大限の支援を行うよう要請し、その際、我が国としても協調して資金支援する。

(4) 技術支援

日本特別基金を積極的に活用し、アジア諸国が民間企業債務等のリストラ及び金融システム安定化のための総合的な対策を実施するため、これら諸国に対して必要な技術支援を行うよう世界銀行及びアジア開発銀行に要請する。また、このような総合的な対策を実施するため、我が国としても、個別国の実情に応じ、必要な技術支援を行う。

II.アジア諸国に対する短期の資金支援

 アジア諸国が経済改革を着実に推進していく過程で、貿易金融円滑化等の短期の資金需要が生じた場合に備えて、スワップ等を用いた総額150億ドルの短期資金を用意する。

 我が国としては、これらの施策の実現に向けて、国際開発金融機関及び関係諸国、特にアジア太平洋諸国及びG7各国と緊密に協調していくこととしたい。

{[1]はマル1、[2]はマル2、[3]はマル3、[4]はマル4}