[文書名] 基本方針(鳩山内閣総理大臣)
一 本日ここに、民主党と社会民主党、国民新党との連立の下、新たな内閣が発足いたしました。
私は、先の総選挙は、民主党及び友党のみの勝利ではなく、国民の政治へのやりきれないような不信感、従来型の政治・行政の機能不全への失望とそれに対する強い怒りが、高い投票率になって現れ、政権交代に結びついたものだと考えてきました。
その意味で、総選挙の勝利者は、国民一人ひとりであるはずです。そして、この国民の強い期待に対して、全身全霊を傾けてお応えするのが、この内閣の使命であると確信しております。
二 今目の日を、日本が明治以来続けてきた政治と行政のシステムを転換する、歴史的な第一歩にしなれば、この内閣の意味はありません。
そのために、この鳩山内閣は、「本当の国民主権の実現」、「内容のともなった地域主権」を政策の二つの大きな柱として、新たな国づくりに向けて、動き出したいと思います。
わが国は、今日から、利権政治と、それを支えてきた官僚依存の政治システムからの脱却を目指します。国民主導により、国民一人ひとりが豊かさを実感できる政策を行う本当の意味での「国民主権」の国家へと転換していきます。
また、明治以来の中央集権体質から脱却し、地域の住民一人ひとりが自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任も負う「地域主権」へと、この国のあり方を、大きく転換していきます。
三 新たな国づくりに向けて、まず、国政の運営を、官僚主導・官僚依存から、政治主導・国民主導へと刷新しなければなりません。
ただし、私たちが目指す政治は、「官僚たたき」の政治ではありません。
誰かを悪者にして、政治家が自らの人気をとるような風潮を戒め、政治家自らが襟を正し、国民の声に謙虚に耳を傾け、率先垂範して汗をかいていきたいと思います。
「政治主導」は、単に政治家が官僚の上に立つ政治体制ではありません。政治家自らが、今一度、憲法に定められた「国民主権」の意味をかみしめながら、国政の大きな舵取りをしていこうということです。
配下の官僚諸君にも、意識の変革を促しつつ、共に改革に取り組み、国家を支える中枢としての誇りを取り戻していただきたいと思います。
四 この内閣では、国民の審判を受けた政治家が、各府省の運営に名実ともに責任を持つ新たな体制を取ります。
各府省に大臣、副大臣、大臣政務官を中心にした「政務三役会議」を設置し、常に国民の視点で政策の立案や調整を行います。与党の事前審査慣行を廃止して、従来の政府・与党の二元的意思決定を一元化し、族議員の誕生を防ぎます。与党議員の意見・提案などは副大臣・大臣政務官等が聴取の上、大臣に報告し、あくまで政府としての意思決定は、政党ではなく内閣において行います。
この制度改革は、利権やしがらみよりも国民一人ひとりの生活と権利を尊重する新しい政治のあり方の第一歩となります。
五 これまでの事務次官等会議などは廃止し、政府の決定について、事務次官など官僚のみによる事前調整にゆだねることはいたしません。
重要政策については、私自身と官房長官が、その都度判断をして、関係閣僚及びそのスタッフによる閣僚委員会を開き、実質的な議論と調整を進めます。
各種の政府の政策会議については形式的議論に流れがちであり、また会議間の重複も多かったことから、この際、抜本的な見直し、整理統合を行います。
これらの改革により、官僚の政策決定を政治家が追認するような政治風土を抜本的に改めます。
六 縦割り行政と呼ばれる各府省の垣根を壊し、省益や局益ではなく、国益・国民の利益、さらには地球規模での視点に立って国政を運営するため、新たに総理直属機関として内閣官房に国家戦略室を設置し、官邸主導で、税財政の骨格や経済運営の基本方針などを決定します。
この点については、私の指示と責任の下、副総理・国家戦略担当大臣に強いリーダーシップを発揮していただき、各種の調整を行っていただきますので、閣僚各位の協力をお願いいたします。
七 同じく、私の、主宰で行政刷新会議を開き、政府のすべての予算や事業を見直し、税金の無駄使いを徹底的に排除するとともに、地方にできることは地方にゆだね、真の地域主権国家を築くための改革を推進します。
国家公務員の天下りや渡りのあっせんについても、これを全面的に禁止し、国家公務員制度の抜本的な改革を進めます。これらの点については、行政刷新担当大臣の主導のもとで、地域主権の推進については、総務大臣の主導で調整を進めますので、この点も重ねて、閣僚各位の協力をお願いいたします。
八 戦前、日本は、軍事によって、国際社会に大きな力を持とうとしました。戦後は経済によって国を立て直し、国民は自信を回復しましたが、バブル経済以降の長い停滞の末に今また国民は自信を失いつつあります。さらに、その反動から、排他的、自己中心的な国家主義的傾向も一部に見られます。
これからは、経済に加えて、環境、平和、文化、科学技術などによって国際社会に貢献し、国際社会から信頼される国をつくり、日本国民が日本人であることに再び大いなる誇りを抱ける国家、社会をつくっていかなければなりません。二十一世紀に、アメリカと中国という二つの大国の間で、しかし、日本国民と日本文化が、国際社会に果たせる役割は決して小さくないはずです。
本内閣においては、日本に暮らすすべての人々が、誇りをもって生活を送れる、新しい国家のかたちを提言してまいります。
九 冷戦の終結から約二十年が経過し、新興諸国が急速な経済成長を遂げる一方、資源制約や地球温暖化など、世界規模の新たな課題が山積しています。行き過ぎた市場中心主義と、それに起因する経済危機は、日本はもちろん、世界の経済を今も激しく揺さぶり続けています。
また日本は恐らく人類史上初めて、「人口減少と超高齢化」が併存する社会に突入しようとしています。
まさに、時代が激動の変革期を迎えている現在、旧来型の資源配分や行政手法を転換しなければ、国民の生活、そして、目本の将来までも危うくしかねません。
私は、新しい政治のリーダーシップの下、日本がその荒波を乗り越え、発展し続けるために、当面、次の四つの考え方を基軸として、強い決意を持って、山積する内外の難局を克服してまいります。
十 第一は、何よりも人の命を大切にし、国民の生活を守る政治です。喫緊の課題としての新型インフルエンザ対策への取組はもちろん、国民の最大の関心事の一つである、年金記録問題については、国民の方々の年金への信頼を一日も早く取り戻せるよう、特に今後二年間の集中的・抜本的な取組が必要です。
公平かつ透明な新たな年金制度の構築、さらには、医療や介護に携わる人材不足の解消など、年金・医療・介護を安心で信頼できるものとします。子育てや教育に係る政策を抜本的に拡充し、未来への投資を社会全体で支えます。国家が、社会的弱者、少数者を決して切り捨てない、見捨てない政治を実行します。
十一 第二に、地域のことは地域に住む住民が決める「地域主権」への転換です。国の権限や財源を精査し、地方への大胆な移譲を進めるなど、国と地方の関係を抜本的に転換します。それはまた、地域に住む住民の皆さんに、自らの暮らす町や村の未来に、自ら責任を持っていただくという住民主体の新しい発想を求めていく第一歩でもあります。
もちろん「地域主権」が、地方自治体の首を絞めるような結果になっては本末転倒です。活気に満ちた地域社会をつくるため、高速道路やガソリン税など、生活に直接かかる負担を軽減し、活力ある農山漁村を再生するなど、国が担うべき役割は、国が率先して実行します。郵政事業のあり方も、地域主権の観点から抜本的に見直します。
十二 第三は、経済合理性のみを評価軸とした経済から、人間のための経済への転換です。
活力があるとともに、国民一人ひとりの安全と安心、生きがいを実感できる社会、国民一人ひとりに「居場所」と「出番」のある社会の構築を目指します。
経済の活性化のための規制改革を引き続き継続することは当然ですが、規制緩和それ自体が目的ではありません。雇用のセーフティネットの強化や食・住まい・交通・学校など身近な生活面での安全確保に努めます。
「働く」ことを労働対価の獲得という側面だけで捉えず、子育てや介護、教育や福祉、医療の一部を、社会全体で補い合い、支え合う、新しい社会モデルの構築を目指します。支援することが、支援される側だけでなく支援する側にとっても喜びであり、生きがいであると実感できるような住民参画型社会を築き上げてまいります。
また、経済指標の数字のみに踊らされることなく、家計の実質的な可処分所得を増やすことで、個人消費を拡大するとともに、医療・介護・環境・観光・文化・スポーツなど新たな分野で産業と雇用を生み出し、内需主導型の経済成長を実現します。
十三 第四に、自立した外交により、世界の平和創造と課題解決に取り組む、尊厳ある国家を目指します。極端な二国間主義や、単純な国連至上主義ではなく、長期的な構想力と行動力を持った、主体的な外交を展開します。
緊密かつ対等な日米同盟を再構築するため、協力関係を強化し、両国間の懸案についても率直に話し合います。ここでいう対等とは、なにより、日米両国の同盟関係が世界の平和と安全に果たせる役割と、具体的な行動指針を、日本の側からも積極的に提言していけるような関係です。
同時に、日本が位置するアジア太平洋地域の国々からも、真の信頼を得られるような外交関係を形成します。北朝鮮の核開発やミサイル問題、拉致問題についても、東アジアの平和と安定の問題として多角的に捉え、硬軟、考え得るあらゆる方策を使って、政府が全力を挙げて解決の糸口を探りたいと思います。
さらに、地球温暖化、核兵器廃絶、南北間格差の解消など、世界の平和と繁栄の実現に積極的に取り組みます。
十四 今後、日本が目指すべきは、すべてを政府に依存する政府万能主義でも、格差を生み弱者を切り捨てながら、すべてを民間に委ねる市場原理主義でもありません。
国民生活を第一とする「国民主権」。
住民による行政を実現する「地域主権」。
そして、自立を目指す個人が、他者を尊重しながら互いに支え合う、「自立と共生」。
これら三つの理念を実現することにより、国、地方自治体、国民が、それぞれの役割を生き生きと果たしながら社会全体を構成していく。その姿こそ、目指すべき日本のあり方です。
十五 新たな国づくりは、決して誰かに与えられるものではありません。
国が予算を増やせば、すべての問題を解決できるというものでもありません。
国民一人ひとりが、「自立と共生」の理念を育み、発展させてこそ、社会の「絆」を再生し、人と人との信頼関係を取り戻すことができます。
私は、国、地方自治体、そして国民が一体となり、すべての人々が互いの存在をかけがえのない者と感じあえる、そんな「居場所と出番」を見いだすことのできる「友愛の社会」を実現すべく、その先頭に立って、全力で取り組んでまいります。
本日が、鳩山内閣として、国民のさらなる勝利に向けたたたかいの、名実ともに初日になります。列席の閣僚各位の粉骨砕身のご尽力を、そして国民の皆様のご理解とご協力を、心からお願い申し上げます。
一緒に、新しい国のかたちを、創っていこうではありませんか。