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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 支那移民取締條約(支那移民取締条約)(1880年11月17日)

[場所] 
[年月日] 1880年11月17日
[出典] 英・米・佛・露ノ各國及支那國間ノ條約,外務省條約局編,1004-1006頁.
[備考] 
[全文] 

支那移民取締條約


   千八百八十年十一月十七日北京ニ於テ調󠄁印(英、支文)

   千八百八十一年七月九日北京ニ於テ批准交換

咸豐八年卽西曆千八百五十八年平和修好條約カ亞米利加合衆國及支那國間ニ締結セラレ同治七年卽西曆千八百六十八年兩國ノ爲若干ノ補足條項ヲ追󠄁加シ該補足條項ハ恒久ニ遵󠄁守セラルヘキモノナルカ故ニ合衆國政府ハ合衆國領土ニ到來スル支那勞働者移住ノ不斷ノ增加竝該移住ニ伴フ諸ノ困難ノ爲ニ今ヤ現存條約ニ對シ其ノ精神ヲ直接侵󠄁害セスシテ加ヘラルヘキ修正ヲ商議セムコトヲ欲スルカ故ニ

竝ニ亞米利加合衆國大統領ハ「ミシガン」州ノ「ジエームス、ビー、エンジエル」、「カリフオルニア」州ノ「ジオン、エフ、スウイフト」及南カロリナ」州ノ「ウイリアム、ヘンリー、トレスコツト」ヲ、支那國皇帝陛下ハ大學士寶李及大學士帥安笛ヲ全權委員ニ任命シ右全權委員ハ相互ニ其ノ全權委任狀ヲ審査シ且現存條約ニ加ヘラレ得ヘキ修正點ヲ討議シテ左ノ修正條項ヲ協定セリ

第一條 支那勞働者ノ來住ヲ禁止シ得サルモ取締リ制限シ若は中止シ得ル合衆國政府ノ權利

合衆國政府ノ意見ニ於テ支那勞働者ノ合衆國ヘノ到來若ハ合衆國內ノ居住カ該國ノ利益ヲ害シ若ハ害セムトシ又ハ該國領土內ノ何レカノ地方ノ秩序ヲ紊サムトスルモノナリト認󠄁ムル場合ハ其ノ場合ノ如何ヲ問ハス支那國政府ハ合衆國政府カ右ノ到來又ハ居住ヲ取締リ、制限シ若ハ中止シ得ルモ絕對的ニ禁止シ得サルコトニ同意ス制限若ハ中止ハ合理的ナルヘク且單ニ勞働者トシテ合衆國ニ行ク支那人ニノミ適󠄁用セラルヘク其ノ他ノ階級ノ者ハ右取締ヲ受ケサルモノトス支那勞働者ニ關スル立法ハ單ニ移民ノ取締、制限若ハ中止ヲ强行スルニ必要󠄁ナル性質ノモノタルヘク且移民ハ個人的虐󠄁待若ハ凌辱ヲ蒙ラサルモノトス

第二條 支那國臣民ノ合衆國到來及合衆國出發ノ自由

敎師、學生、商人トシテ行クト又ハ好奇心ノ爲ニ行クトヲ問ハス合衆國ヘ行ク支那國臣民ハ隨行者及僕婢ト共ニ及支那勞働者ニシテ目下合衆國ニ在住スルモノハ任意ニ往來スルコトヲ得ヘク且最惠國人民及臣民ニ許與セラルル一切ノ權利、特權、不可侵󠄁及免󠄁除ヲ許與セラルルモノトス

第三條 保護

支那勞働者又ハ其ノ他ノ階級ノ支那人ニシテ目下永續的ニ若ハ一時的ニ合衆國領土內ニ居住スル者カ右支那人以外ノ何人カノ爲ニ虐󠄁待ヲ蒙リタル場合ニハ合衆國政府ハ全力ヲ盡シテ其ノ保護ノ爲ニ措置ヲ講シ且最惠國人民若ハ臣民カ條約ニ依リテ與ヘラレ且其ノ享有スルト同一ノ權利、特權、不可侵󠄁及免󠄁除ヲ確保スヘシ

第四條 支那國政府ニ通󠄁吿スヘキ合衆國立法手段

締約國ハ前諸條ヲ協定シタルトコロ合衆國政府カ右諸條ニ準據スル立法手段ヲ採󠄁用スヘキ場合ハ其ノ場合ノ如何ヲ問ハス該立法手段ハ之ヲ支那國政府ニ通󠄁吿スヘシ施行セラレタル右立法手段カ支那國臣民ニ對シ苛酷ナルモノト認󠄁メラレタル場合ニハ華盛噸駐箚支那國公使ハ合衆國國務卿ニ該事項ヲ通󠄁吿シ合衆國國務卿ハ右支那國公使ト共ニ該事項ヲ審議シ且支那國外務部モ亦北京駐箚合衆國公使ニ該事項ヲ通󠄁吿シテ該事項ヲ右合衆國公使ト共ニ審議シ以テ相互的且無條件的利益ノ結果セムコトヲ期スヘシ

右證據トシテ各全權委員ハ北京ニ於テ英吉利文及支那文ノ本書ニ署名調󠄁印シ各本文三通󠄁ノ謄󠄁本及日附ハ同一ニシテ其ノ批准交換ハ本條約締結ノ日ヨリ一年內ニ北京ニ於テ之ヲ行フモノトス

   西曆千八百八十年十一月十七日(光緖六年十月十五日)

     北京ニ於テ作成ス

   寶李 印

   帥安笛 印

   ジェームス、ビー、エンヂェル 印

   ジォン、エフ、スウィフト 印

   ウイリアム、ヘンリー、トレスコット 印