[文書名]　佛國安南國間ニ締結シタル安南國ニ對スル佛國保護權設定ニ關スル條約（フランス国安南国間に締結したる安南国に対するフランス国保護権設定に関する条約）

　　　　　千八百八十四年五月六日順化府ニ於テ調󠄁印（佛文）

　　　　　千八百八十六年二十三日順化府ニ於テ批准交換

佛蘭西共和國政府及安南國王陛下ノ政府ハ近時生シタル紛争ノ再發ヲ永久ニ防止スルコトヲ希望シ又其ノ友好關係及善隣關係ノ緊密ナラムコトヲ希望シ之カ爲ニ條約ヲ締結スルコトニ決定シ各々其全權委員ヲ任命セリ

佛蘭西共和國大統領

　　佛蘭西共和國北京駐在特命全權公使「オフィシエ、ドゥ、ラ、レジオン、ドゥ、ヌール」、「グランクロア、ドウ、レトアール、ボレール」佩有者ジユール、パトノートル

安南國王陛下

　　安南王國首席攝政內務大臣ヌグエン・ヴアン・トン

　　大藏大臣ファン・ターン・デュア

　　外務大臣臨時土木大臣トンタ・フアン

右委員ハ各全權委任狀ヲ示シ其ノ良好妥當ナルヲ認メタル後左ノ如ク協定セリ

第一條　安南國ハ佛蘭西國ノ保護ヲ受クルコトヲ承認受諾ス佛蘭西國ハ總テノ對外關係ニ於テ安南國ヲ代表ス外國ニ在留スル安南國人ハ之ヲ佛蘭西國保護ノ下ニ置ク

第二條　佛蘭西國軍隊ハ「チュアン・アン」ヲ永久的ニ占領ス順化河流域ノ要塞及軍事施設ハ總テ之ヲ破壞ス

第三條　安南國官吏ハ交趾支那國境ヨリ「ナン・バン」國境ニ至ル迄ノ諸州ニ於テ從前ノ如ク施政ヲ行フ但シ關稅、土木及一般ニ單一ナル指揮ヲ必要トスル事務又ハ歐州人タル技師及官吏ノ使用ニ付テハ此ノ限ニ在ラス

第四條　安南國政府ハ前揭ノ地域內ニ於テ「キノーン」港ノ外「トゥーランヌ」及「ズアンデー」ノ港津ヲ總テノ國民通󠄁商ニ對シテ開放スヘキコトヲ宣言スヘシ其他ノ港津ハ後日豫メ協定ヲナシタル上開放スヘシ佛蘭西國政府ハ是等ノ開港場ニ順化府在勤ノ都督ニ屬スル官吏ヲ置クヘシ

第五條　統監ハ佛蘭西國政府ヲ代表シテ安南國ノ對外關係ヲ統轄シ保護權ノ正規ノ行使ヲ確保スヘシ但シ第三條ニ規定セル地方ノ地方的施政ニ干渉スルコトナカルヘシ

統監ハ順化府ノ城塞ニ駐箚シ護衞兵ヲ附セラルルモノトス

統監ハ安南國王陛下ニ對シ非公式ニシテ個人的ナル謁見ヲ爲スノ權利ヲ有スヘシ

第六條　佛蘭西國政府ハ東京ニ於テ其ノ必要アル場合ニハ各首都ニ都督又ハ副都督ヲ置ク都督又ハ副都督ハ統監ノ統轄ニ服ス

都督又ハ副都督ハ城塞ニ居住シ又淸國官吏ノ爲特ニ存置セラレタル城廓內ニモ居住スヘシ且必要ナルトキハ之ニ佛蘭西國守衞兵又ハ安南國守衞兵ヲ附ス

第七條　都督ハ各州內部細目ノ施政ニ關與スルコトヲ避クヘシ一切ノ階級ノ安南國官吏ハ都督ノ指揮ノ下ニ從前ノ如ク統治施政ヲ行フ然レトモ安南國國官吏ノ罷免ハ佛蘭西國官憲ノ請求ニ依リテ之ヲ爲スヘシ

第八條　總テノ佛蘭西國官吏及吏員ハ都督ヲ經由スルニ非サレハ安南國官憲ト交渉スルコトヲ得ス

第九條　西貢ヨリ河內ニ至ルマテ電信線ヲ設置シ佛蘭西國官憲之ヲ經營スヘシ

租稅ノ一部ヲ安南國政府ノ收納󠄁トシ之ニ對シテ安南國政府ハ電信局ニ必要ナル土地ヲ讓與スヘシ

第十條　安南國及東京ニ於テハ總テノ外國人ハ佛蘭西國ノ裁判管轄ニ所屬ス

安南國人及外國人間ノ訴訟事件ハ其ノ性質ノ如何ヲ問ハス佛蘭西國官憲ノ裁判管轄ニ所屬ス外國人相互間ノ訴訟事件ニ付亦同シ

第十一條　本來安南國ト稱セラルル地方ニアリテハ關防ニ於テ順化府宮廷ノ爲ニ佛蘭西國官吏ノ指揮ヲ待ツコトナク舊租稅ヲ徵收ス

東京ニアリテハ都督ニ於テ關防ノ協力ニ依リ前項ノ稅務ヲ管掌ス都督ハ其ノ徵收及使用ヲ監督シ佛蘭西國及安南國委員ヲ以テ組織スル委員會ハ施政及公共制度ノ各部ニ充當セラルヘキ金額ヲ決定シ剰餘金ハ之ヲ順化府ノ國庫ニ繰入ルヘシ

第十二條　安南國全土ニ於テ新ニ設置セラルル稅關ハ全部佛蘭西國行政官憲ニ委任セラルヘシ海稅關及國境稅關ハ其ノ必要アル地點ニ於テノミ之ヲ設置スヘシ

稅關事項ニ付從來軍事官憲ノ執行シタル處分ニ關シテハ如何ナル要求モ之ヲ許容セサルヘシ

交趾支那ニ於ケル間接稅ニ關スル法律規則、關稅制度及關稅率竝衞生制度ハ之ヲ安南國及東京ノ各州ニ適用スヘシ

第十三條　佛蘭西國國民及佛蘭西國保護民ハ東京ノ全領域及安南國開港場ニ於テ自由ニ交通󠄁往來シ商業ヲ經營シ動產不動產ヲ取得處分スルコトヲ得安南國王陛下ハ宣敎師及耶蘇敎徒ノ利益ニ關スル千八百七十四年三月十五日ノ條約ニ規定セラレタル保證ヲ明白ニ確認ス

第十四條　安南國內ヲ旅行セムトスルモノハ順化府駐在ノ都督又ハ交趾支那總督ヲ經由スル外許可證ヲ獲得スルコト得サルヘシ

上記官憲ハ旅行者ニ對シ旅劵ヲ發給スヘシ該旅劵ハ安南國政府ノ檢證ヲ得ルカ爲ニ提示スルコトヲ要ス

第十五條　佛蘭西國ハ爾後安南國王陛下ヲ外部ノ攻撃及內部ノ反亂ニ對シテ防禦シ其ノ諸州ノ保全ヲ擔保スルコトヲ約定ス

之カ爲佛蘭西國官憲ハ安南國及東京ニ於テ保護權ノ實施ヲ確保スルカ爲必要ナリト認ムル地點ニ軍事的占領ヲ爲スコトヲ得

第十六條　安南國王陛下ハ本條約ヨリ生スル制限ヲ除キ從前ト異ルコトナク國家內部ノ施政ヲ行フヘシ

第十七條　現在安南國カ佛蘭西國ニ對シテ負擔セル債務ハ後日ニ規定スヘキ支拂方法ヲ以テ之ヲ辨濟スヘシ安南國王陛下ハ佛蘭西國政府ノ許可ナクシテ外國ニ對シ借款契約ヲ爲スコトヲ得ス

第十八條　開港場及開港場ニ於ケル佛蘭西國居留地ノ限界、安南國及東京ノ海岸ニ於ケル燈臺ノ設置、鑛山ノ經營及組織、貨幣制度、關稅、官業、電信稅及本條約第十一條ニ規定セラレサル他ノ收入ニ付テ安南國政府ニ歸屬スヘキ金額ニ關シテハ後日會議ヲ開キテ之ヲ決定スヘシ

本條約ハ佛蘭西共和國政府及安南國王陛下ノ承認ヲ經ルコトヲ要シ批准書ハ成ル可ク速ニ之ヲ交換スヘシ

第十九條　本條約ハ千八百七十四年三月十五日、同年八月三十一日及同年十一月二十三日ノ各條約ニ代ハルヘキモノトス

　本條約ニ付争場合ニハ佛文ニ依ル

　右證據トシテ各全權ハ本條約ニ署名調󠄁印ス

　千八百八十四年六月六日順化府ニ於テ本書正副二通󠄁ヲ作成ス

　　　　　バトノートル（署名）

　　　　　ヌグエン・ヴアン・トン（署名）

　　　　　ファン・タン・デュア（署名）

　　　　　ノン・ター・ファン（署名）