[文書名] スエズ運河の自由航行に関する条約
スエズ運河の自由航行に関する条約
署名 一八八八年十月二十九日(コンスタンティノーブル{原文ママ})
効力発生 一八八八年十二月二十二日
オーストリア皇帝陛下(以下締約国元首名省略)は、
一の条約の締結によりスエズ海水運河の自由な使用をすべての時において且つすべての国に対し確保するための確定的制度を樹立し、もつてエジプト国王殿下の特許を裁可したトルコ帝国皇帝陛下の千八百六十六年二月二十二日付の命令に基く右の運河の航行に関する制度を完成しようと希望し、その全権委員を次のように任命した。
(全権委員氏名省略)
よつて各全権委員は、互にその全権委任状を示し、これが良好妥当であることを認めた後、次の諸条を協定した。
第一条
スエズ海水運河は、国旗の区別なくすべての商船及び軍艦に対し、平時においても戦時においても、常に自由であり、且つ、開放される。
よつて締約国は、平時においても戦時においても、運河の自由な使用をいかなる方法をもつても阻害しないことを約束する。
運河は、絶対に封鎖権の行使に服せしめられることはない。
第二条
締約国は、淡水運河が海水運河に欠くことができないものであることを認め、淡水運河に関するエジプト国王殿下の万国スエズ運河会社に対する約束を了承する。右の約束は、千八百六十三年三月十八日付の条約中に規定され、序文及四箇条からなる。
締約国は、その機能がいかなる妨害計画の対象ともされてはならない右の運河及びその支線の安全を、いかなる方法をもつても侵害しないことを約束する。
第三条
締約国はまた、海水運河及び淡水運河の材料、設備、建物及び工事を尊重することを約束する。
第四条
海水運河は、この条約の第一条の規定により戦時においても自由航路として交戦国の軍艦に対して依然として開放されるので、締約国は、たとえトルコ帝国が交戦国の一となる場合でも、運河及びその出入港並びに出入港から三海里の範囲内で、いかなる交戦権もいかなる敵対行為も又運河の自由航行の妨害を目的とするいかなる行為も行わないことを約束する。
交戦国の軍艦は、運河及びその出入港内で、糧食又は需品を補給することができない。但し、厳に必要な範囲内で行うときはこの限りではない。このような軍艦は、現行規則に従い最もすみやかに運河を通過しなければならず、荷役の必要に基く場合の外は、停止することができない。
前記の軍艦のポートサイド及びスエズてい泊所内での滞留は、二十四時間をこえることができない。但し、海難の場合にはこの限りではない。この場合でもなるべくすみやかに出発しなければならない。一の出入港からの交戦国の船舶の出発とその敵国に属する船舶の出発との間には、常に二十四時間の間隔を保たなければならない。
第五条
戦時においては、交戦国は、運河及びその出入港内で軍隊、武器又は軍用材料を陸揚げ又は搭載することができない。但し、運河内で不時の障害を生じた場合には、一千名をこえない部隊に分かれて軍隊をこれに伴う軍用材料とともに搭載し又は陸揚げすることができる。
第六条
捕獲された船舶は、すべての関係において交戦国の軍艦と同一の制度に従うものとする。
第七条
各国は、運河の水流(タムサ湖及びビッター湖を含む。)内にいかなる軍艦も止めおくことができない。
但し、ポートサイド及びスエズの出入港内には、各国二隻をこえない数の軍艦を止めおくことができる。
右の権利は、交戦国によつて行使されることができない。
第八条
この条約の署名国のエジプトにある代表者は、この条約の執行を監視する任務を有する。運河の安全又は自由な通航が脅威を受けるすべての場合には、右の代表者は、その中の三名の招集により首席代表者の司会の下に会合して、必要な検証手続を行わなければならない。右の代表者は、その知ることができた危険をエジプト国政府に通知し、同政府をして運河の保護及び自由な使用を確保するのに適当な措置を執らせなければならない。
右の代表者は、条約の適当な執行を確かめるために、いかなる事情があつても、一年に一回会議を開かなければならない。右の会議は、トルコ帝国政府がそのために任命した特別委員によつて司会される。エジプト国代表者もまた右の会議に参加し、トルコ帝国委員の欠席した場合には、これを司会することができる。
右の代表者は、特に運河の各岸におけるすべての工事又は会合であつてその目的又は結果が航行の自由及び完全な安全を阻害するものの差止め又は解散を要求しなければならない。
第九条
エジプト国政府は、トルコ帝国皇帝陛下の命令に基くその権能の範囲内で、且つこの条約により規定された条件により、この条約の執行を尊重させるために必要な措置を執らなければならない。
エジプト国政府は、その執るべき充分な方法を有しないときは、トルコ帝国政府に訴えなければならず、トルコ帝国政府は、この訴に応ずるために必要な措置を執り、且つ、千八百八十五年三月十七日のロンドン宣言の他の署名国にこれを通知し、必要に応じこの問題についてそれらの諸国と協議しなければならない。
第四条、第五条、第七条及び第八条の規定は、この条によつて執らるべき措置を妨げるものではない。
第一〇条
同様に第四条、第五条、第七条及び第八条の規定は、トルコ帝国皇帝陛下及びエジプト国王殿下が、トルコ帝国皇帝陛下の名において且つトルコ帝国皇帝陛下の命令の範囲内で、各自の兵力により、エジプト国の防衛及び公の秩序の維持を確保するために、必要に応じて執るべき措置を妨げるものではない。
トルコ帝国皇帝陛下又はエジプト国王殿下がこの条により規定された除外例を用いることを必要と認めた場合には、トルコ帝国政府は、これをロンドン宣言の署名国に通知しなければならない。
同様に前記四条の規定は、いかなる場合にも、トルコ帝国政府がその紅海の東岸にある他の領地の防衛を自己の兵力により確保するために執ることを必要と信ずる措置を妨げるものではない。
第一一条
この条約の第九条及び第十条により規定された場合に執られるべき措置は、運河の自由な使用を妨げることができない。
同一の場合において、第八条の規定に反する永久的要さいの建設は、禁止される。
第一二条
締約国は、この条約の基礎の一をなす主義である運河の自由な使用に関する平等主義の適用により、いずれの締約国も、運河に関し将来締結されることがある国際協定において、領土上又は商業上の利益若しくは特権を求めないことを約束する。もとより、領有国としてのトルコ帝国の権利は、留保する。
第一三条
この条約の条項により明定された義務の外は、トルコ帝国皇帝陛下の主権及びトルコ帝国皇帝陛下の命令に基くエジプト国王殿下の権利及び特権は、何らの影響をも受けることはない。
第一四条
締約国は、この条約に基く約束が万国スエズ運河会社特許条例の存続期間によつて制限されないことを約束する。
第一五条
この条約の規定は、エジプトにおいて施行中の衛生上の措置を妨げるものではない。
第一六条
締約国は、この条約をこれに署名しなかつた諸国に通知して、その加入を勧誘することを約束する。
第一七条
この条約は、批准しなければならず、批准書は、一箇月以内に又はなるべくすみやかにコンスタンティノープルにおいて交換しなければならない。
右の証拠として、各全権委員は、ここに署名調印する。
締約国一覧表(昭三九、九、一調)
国名 批准書寄託の日
オーストリア 一八八八、一二、二二
フランス 一八八八、一二、二二
ドイツ 一八八八、一二、二二
イタリア 一八八八、一二、二二
オランダ 一八八八、一二、二二
スペイン 一八八八、一二、二二
トルコ 一八八八、一二、二二
ソヴィエト連邦 一八八八、一二、二二
連合王国 一八八八、一二、二二