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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] パナマ運河に関する条約

[場所] ワシントン
[年月日] 1901年11月18日
[出典] 多数国間条約集(下巻),外務省条約局,昭和41年1月,1157-1161頁.
[備考] 
[全文] 

パナマ運河に関する条約


   署名   一九〇一年十一月十八日(ワシントン)

   効力発生 一九〇二年二月二十一日


 グレート・ブリテン、アイルランド連合王国及びグレート・ブリテン海外領土皇帝インド皇帝エドワード七世陛下並びにアメリカ合衆国は、適当と思われる道筋により大西洋と太平洋とを連絡する運河の開さくを容易にし、且つ、その目的のために、普通クレイトン・ブルワー条約と称せられる千八百五十年四月十九日の条約の第八条において樹立された中立の「一般原則」を害することなく、合衆国政府のひ護の下にこのような運河を開さくすることに対し、同条約より生ずることのある故障を除去することを希望し、これがためグレート・ブリテン、アイルランド連合王国及びグレート・ブリテン海外領土皇帝インド皇帝エドワード七世陛下は、合衆国駐在特命全権大使ロード・ポーンスフォートを、合衆国大統領は、合衆国国務長官ジョン・ヘイをそれぞれその全権委員に任命した。よつて、各全権委員は、互にその全権委任状を示し、これが良好妥当であることを認めた後、次の諸条を協定した。

   第一条

 両締約国は、この条約をもつて、前記の千八百五十年四月十九日の条約に代えることに同意する。

   第二条

 運河は、直接に合衆国政府自らの出資により、又は個人若しくは団体に金銭を給与し若しくは貸与することにより、又は公債若しくは株式の払込若しくは買収により、合衆国政府のひ護の下に開さくされなければならない。

 この条約の規定に従い、合衆国政府は、運河の開さくに関するすべての権利を享有し、同時に運河に関する規則の制定及びその管理を行う排他的権利を享有するものとする。

   第三条

 合衆国は、右運河の中立の基礎として、スエズ運河の自由航行に関する千八百八十八年十月二十八日署名のコンスタンティノープル条約中に実質的に示された次の規則を採用する。

一 運河は、これらの規則を遵守するすべての国の商船及び軍艦に対し、全く平等の条件の下に自由とされ且つ開放されなければならず、従つて、このような国又はその市民若しくは臣民のいずれに対しても、通過の条件又は料金その他につき、差別待遇が与えられてはならない。通過の条件及び料金は、正当且つ公平でなければならない。

二 運河は、絶対に封鎖されてはならず、運河内では交戦権が行使され又は敵対行為が行われてはならない。但し、合衆国は、不法及び騒じように対し運河を保護するために必要な軍事警察力を運河に沿つて維持する自由を有する。

三 交戦国の軍艦は、運河内で糧食又は需品を補給することができない。但し、厳に必要な範囲内で行うときは、この限りではない。このような軍艦は、現行規則に従い、なるべくすみやかに運河を通過しなければならず、荷役の必要に基く場合の外は、停止することができない。

 捕獲された船舶は、すべての関係において、交戦国の軍艦と同一の規則に従うものとする。

四 交戦国は、運河内で、軍艦、武器又は軍用材料を搭載し又は陸揚げすることができない。但し、運河の通過に不時の障害を生じた場合は、この限りではない。このような場合でも、通過は、なるべくすみやかに行われなければならない。

五 この条の規定は、運河の各端より三海里以内の隣接水域に適用されなければならない。交戦国の軍艦は、右の水域内に、一時に二十四時間以上滞留することができない。但し、海難の場合には、この限りではない。このような場合でも、なるべくすみやかに出発しなければならない。但し、一方の交戦国の軍艦は、他方の交戦国の軍艦の出発後二十四時間以内に出発することができない。

六 運河の開さく、維持及び運用に必要な装置、設備、建物及びすべての工事は、この条約の適用上、運河の一部をなすものとみなされなければならず、平時においても戦時においても、交戦国による攻撃部としてのその効用を損傷す又は侵害及び運河の一ることを目的とする行為を全く免かれなければならない。

   第四条

 前記の運河が通ずる一国又は数国の領土主権又はその国際関係の変更は、この条約に規定された中立の一般原則及び両締約国の義務に何ら影響するところがないものとする。

   第五条

 この条約は、グレート・ブリテン国皇帝陛下により及び合衆国上院の意見により且つその承認を得て及び合衆国大統領により批准されなければならず、批准書は、批准の日から六箇月以内になるべくすみやかにワシントン又はロンドンで交換されなければならない。

 右の証拠として、各全権委員は、この条約に署名調印した。


{傍点は省略}