[文書名]　支那ニ於ケル商標ノ相互保護ニ關スル亞米利加合衆國及和蘭國間ノ交換公文（支那に於ける商標の相互保護に関するアメリカ合衆国及オランダ国間の交換公文）

支那ニ於ケル商標ノ相互保護ニ關スル亞米利加合衆國及和蘭國間ノ交換公文

千九百五年十月二十三日

（一）支那國駐箚合衆國公使ヨリ同和蘭國公使宛ノ書翰

以書翰致啓󠄁上候陳者亞米利加合衆國政府ハ亞米利加合衆國及和蘭國ニ於テ正式ニ登錄ヲ受ケタル商標ヲ各兩國ノ人民カ支那國ニ於テ侵󠄁害󠄂セムコトニ對シ相互的ノ保護ヲ與フルニ付和蘭國政府ト協定ヲ遂󠄂ケムコトヲ欲シ亞米利加合衆國國務長官ハ本使ニ對シ合衆國ニ於テ正式ニ登錄ヲ受ケタル和蘭國ノ管轄ニ服スル者ノ商標ヲ如何ナル方法ヲ以テスルヲ問ハス侵󠄁害󠄂シタリトノ廉ヲ以テ吿訴セラレ且刑ノ宣吿ヲ受クヘキ合衆國ノ管轄ニ服スル一切ノ者ノ審問及處罰ニ付テハ支那國ニ於ケル合衆國領事裁判󠄁所󠄁ニ有效ナル規定ノ存スル旨通牒スヘシトノ訓令ヲ與へ候

合衆國民モ亦和蘭國ニ於テ正式ニ登錄ヲ受ケタル商標ノ侵󠄁害󠄂ノ保護ニ關シ支那國ニ於ケル和蘭國領事裁判󠄁所󠄁ニ於テ同一ノ法律上ノ保護ヲ享有スルヤ否ヤ御通報被下度候

本使ハ玆ニ重テ閣下ニ向ヒ敬意ヲ表シ候　敬具

千九百五年十月二十三日在北京合衆國公使館ニ於テ

　　　　　ダブルュー、ダブルュー、ロックヒル、

　　ファン、チッテルス閣下

（二）同和蘭國公使ヨリ同合衆國公使宛ノ書翰

以書翰啓󠄁上致候陳者千九百五年十月二十三日附貴翰第百七十三號ヲ以テ亞米利加合衆國政府ハ支那國ニ於ケル商標ノ相互保護ニ關シ和蘭國政府ト協定ヲ遂󠄂クルノ意嚮ナル旨御通吿相成候

閣下ニハ亦支那國ニ於ケル合衆國領事裁判󠄁所󠄁カ合衆國ノ管轄下ノ者ニ依ル商標ノ侵󠄁害󠄂ニ關スル一切ノ事件ニ付管轄權ヲ有スル旨及從テ亞米利加合衆國ニ於テ正式ニ登錄ヲ受ケタル商標ノ保護ヲ合衆國ノ管轄ニ服スル者ニ對シテ確保スルノ目的ヲ以テ支那國ニ於ケル和蘭國領事裁判󠄁所󠄁ノ管轄ニ服スル者カ合衆國領事裁判󠄁所󠄁ニ對シテ爲シタル訴訟ハ初審ノ際ハ右裁判󠄁所󠄁ニ於テ控訴ノ際ハ權限アル裁判󠄁所󠄁ニ於テ之ヲ審理スヘキ旨聲明スヘキ訓令ヲ接受セラレ候趣御附言相成候右通牒ニ對スル囘答トシテ王國政府ハ右協定ヲ欣然諒承シ且本使ニ對シ本公文ヲ以テ可然取計フヘキ樣訓令セル趣通󠄁吿スルノ光榮ヲ有シ候

尙海牙ニ於ケル外務大臣ハ和蘭國法律ハ所󠄁有者ノ國籍ノ如何ヲ問ハス正式ニ登錄ヲ受ケタル商標ハ侵󠄁害󠄂カ本國ニ於テ爲サレタル場合ノミナラス支那國ノ如キ治外法權ニ服スル國ニ於テ爲サレタル場合ニ於テモ之ヲ保護スルモノナル旨本使ヨリ聲明スヘキ樣訓令致候

依テ初審ハ支那國ニ於ケル和蘭國領事裁判󠄁所󠄁ニ於テ控訴ハ「アムスターダム」及「バタヴィア」ニ於ケル裁判󠄁所󠄁ニ於テ合衆國ノ管轄ニ服スル者ノ右ノ件ニ關シ前記裁判󠄁所󠄁ニ對シテ提起󠄁シタル訴訟ヲ受理スルモノニ候

前記協定ヲ實施スルノ目的ヲ以テ必要󠄁ナル訓令ヲ與フルノ信書ヲ支那國ニ於ケル和蘭國領事官憲ニ送附致候旨玆ニ附言致候且本使ハ閣下カ之カ爲執リタル措置ヲ御通󠄁吿相成候ハハ幸甚ニ候

本使ハ玆ニ重ネテ閣下ニ向ツテ敬意ヲ表シ候　敬具

千九百五年十月二十三日支那國北京ニ於テ

　　　　　アー、ジェー、チッテルス

　　ダブルュー、ダブルュー、ロックヒル閣下

（三）同合衆國公使ヨリ同和蘭國公使宛ノ書翰

以書翰致啓󠄁上候陳者貴我兩國國民ニ屬スル商標ノ支那國ニ於ケル右兩國民ニ依ル侵󠄁害󠄂ノ相互保護ニ付千九百五年十月二十三日閣下トノ間ニ交換スルノ光榮ヲ有シタル公文ニ關シ本使ハ共和國政府ニ右公文ノ謄󠄁本ヲ送付致候

右囘答トシテ國務長官ハ和蘭國ノ管轄下ノ者ノ財產タル商標ヲ支那國ニ於テ侵󠄁害󠄂シタルヘキ合衆國人民ノ支那國ニ於ケル合衆國領事裁判󠄁所󠄁ニ依ル「處罰」ノ語ヲ閣下宛本使公文中ニ使用シタルコトハ誤󠄁解ヲ招クノ虞アルモノトシテ本使ニ對シ注意ヲ促シ候

合衆國ニ於テハ商標ノ侵󠄁害󠄂、僞造󠄁等ヲ刑法上ノ罪ト爲スノ規定ナク且商標ノ所󠄁有者ノ蒙リタル損害󠄂ニ付テハ現行規定ハ民事訴訟ニ據ラシムルノ事實ニ鑑ミ合衆國政府ハ「處罰」ノ語ハ民事訴訟ニノミ關スルモノニシテ玆ニ附加シタル說明ナキ場合ニ於テ右ノ語ノ用法ヨリ推測シ得ラルルカ如キ刑事訴訟ニハ關セサルモノト之ヲ解釋スルノ意見ニ有之候

去十月二十三日附本使公文中ニハ何等右ト牴觸スルモノナシト解釋セラレムカ爲我國法ノ規定ニ付閣下ノ御注意ヲ促スモノニ候本使ハ玆ニ重ネテ閣下ニ向ツテ敬意ヲ表シ候　敬具

　千九百六年一月二十二日北京ニ於テ　

　　　　　ダブルュー、ダブルュー、ロックヒル

　　アー、ヨット、ファン、チッテルス閣下