データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 蒙蔵條約(チベット・モンゴル相互承認条約,蒙古西蔵条約)

[場所] 庫倫(ウランバートル)
[年月日] 1913年1月11日
[出典] 日本外交文書 大正二年 第一冊,外務省編纂,外務省発行,外務省,昭和39年3月20日発行,588-590頁
[備考] 
[全文] 

蒙蔵條約(千九百十二年十二月二十九日(西暦千九百十三年一月十一日)庫倫ニ於テ締結)

蒙古及西藏ハ滿洲朝廷ノ覊絆ヲ脫シ支那ト分離シ玆ニ各自獨立ノ國家ヲ組織シタリ而シテ兩國カ古來同一宗敎ヲ信奉スルノ事實ニ鑑ミ歴史上ノ相互的友好ヲ重厚ナラシムルノ目ヲを以テ蒙古國民ノ君主ノ政府ヨリ受ケタル委任ニ基キ外務大臣心得尼克逹{ニクタとルビあり}、比里克特{ビリクトとルビあり}、大嗽嘛{ダーラマとルビあり}、喇布担{ラプタンとルビあり}及同次官統領兼マンライ、バアトウィル、ベイゼ、逹木黨蘇倫{ダムダンスルンとルビあり}ト西藏ノ君主逹賴嗽嘛ノ委任ニ基キ「グヂル、ツアンシブ、カンチェン」、「ヲブサン、アグワン」、「ドニル、アグワン、チョインジン」、西藏銀行理事「イシチャムツオ」、書記「ゲンドウン、ガルサン」トハ下記條文ノ通リ約定シタリ

   第一條

西藏ノ君主逹賴嗽嘛ハ蒙古獨立國ノ組織ト亥歳十一月九日同國君主トシテ黃敎ノ主哲布尊丹巴嗽嘛ヲ宣布シタルコトトニ贊同シ且ツ之ヲ承認ス

   第二條

蒙古国民ノ君主哲布尊丹巴嗽嘛ハ西藏獨立國ノ組織ト其君主トシテ逹賴嗽嘛ヲ宣布シタルコトトニ贊同シ且ツ之ヲ承認ス

   第三條

蒙古西藏ノ兩國ハ共同審議ニ依リ佛敎ノ隆盛ニ就キ盡力スヘシ

   第四條

兩國ハ自今永遠ニ外部及內部ノ黃危險ニ對シテ相互ニ助力ヲ爲スヘシ

   第五條

兩國ハ各自ノ領土ニ於テ敎務及國務ニ依リ公私來往スル其臣民ニ對シ相互ニ幇助ヲ與フヘシ

   第六條

兩國ハ從前ノ如ク其地方ノ生產物、商品及家畜等ヲ以テ貿易ヲ爲シ並ニ工業施設ヲ開始スヘシ

   第七條

自今貸借事項ハ官衙ニ於テ承知ノ上許可シタル場合ニノミ之ヲ爲スコトヲ得、右ノ許可ナキ場合ニ於テハ賃借事項ニ關スル要求ハ政府ニ於テ審理セサルモノトス

若シ賃借行爲カ本條約締結前ニ遂行セラレ而シテ之ニ關シ爭ヲ生シ當事者間ニ於テ折會ヲ付ケ能ハズ多大ノ損失ヲ被ムルモノアルトキハ其負債ハ官衙ニ於テ之ヲ取立ツルコトヲ得但シ如何ナル場合ニ在リテモ負債ハ賦役夫及旗人ニ關スルモノタルヲ得ス

   第八條

本条約ノ條項追加ノ必要アル場合ニハ蒙古政府及西藏政府ハ特ニ全權委員ヲ任命シ時ニ情況ニ準シ談判スルモノトス

   第九條

本条約ハ調印ノ日ヨリ效力ヲ有ス


  蒙古共載二年十二月四日

  西藏壬子歳同月同日

   蒙古政府ノ條約締結全權委員

    外務大臣心得 大嗽嘛嗽布但

    外務次官 逹木黨蘇倫

   西藏君主逹賴嗽嘛ノ條約締結全權委員

    グヂル、ツアンシブ、カンチェン

    ルブサン、アグワン、チョインザン

    西藏銀行理事 イシチャムツオ

    書記 ゲンドウン、ガルサン