データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 呼倫貝爾ノ地位ニ関スル露支取極(フルンボイルの地位に関するロシアと中国の取極)

[場所] 
[年月日] 1914年11月6日
[出典] 日本外交文書 大正四年 第一冊,外務省編纂,外務省発行,外務省,昭和41年3月20日発行,440-441頁.
[備考] 
[全文] 

呼倫貝爾ノ地位ニ関スル露支取極

   第一条

呼倫貝爾ハ支那共和国中央政府ニ直接ニ隷属スル特殊地方タルヘシ但シ必要ノ場合及通信ヲ促進スル為呼倫貝爾官憲ハ其ノ監督官庁タル黒龍江省ノ主務官憲ト照覆スルコトヲ得

   第二条

呼倫貝爾ノ「フトゥトゥン」ハ支那共和國大総統之ヲ任命シ道台ト同様ノ權力ヲ享有ス

呼倫貝爾ノ五人ノ「ウヘリダ」及地方官ニシテ其官等カ第三等ヲ降ラサルモノノミ此ノ職ニ任命セラルルコトヲ得

   第三条

「フトゥトゥン」庁内ニ左右二課ヲ設ク課長ノ一名ハ「フトゥトゥン」之ヲ選定シ他ノ一名ハ内務総長之ヲ選定ス課長ハ支那共和国中央政府ノ認可ヲ得テ其ノ職務ヲ執行スルコトヲ得呼倫貝爾ノ官吏ニシテ其ノ官等カ第四等ヲ降ラサルモノノミ課長ニ任命セラルルコトヲ得

「フトゥトゥン」ハ左右二課ノ権限ヲ定ム課長ハ「フトゥトゥン」ニ隷属シ予メ其ノ許可ヲ得タル場合ノ外中央官憲又ハ他省官憲ト直接ニ交渉スルノ権ヲ有セス

   第四条

平時ニ於テハ呼倫貝爾ノ凡ユル軍事上ノ必要ヲ充スニハ単ニ地方民兵ニ依ルヲ要シ「フトゥトゥン」ハ其ノ執リタル凡ユル軍事的措置ニ関シ理由ヲ附シテ中央政府ヘ報告スルノ義務ヲ負フ

呼倫貝爾内ニ擾乱発生シ地方官憲ニ於テ自ラ之ヲ鎮圧スルヲ得スト認ムル場合ニハ中央政府ハ其ノ軍隊ノ分遣隊ヲ同地ニ派遣スルヲ得ヘシ但シ其ノ旨予メ露國政府ニ通告スルヲ要ス秩序回復スルトキハ右分遣隊ハ呼倫貝爾領域ヨリ撤退セラルヘシ

   第五条

呼倫貝爾ニ於テ賦課セラレタル凡テノ税金及同地方ノ凡テノ収入ハ地方ノ必要ニ充当セラルヘシ但シ海関収入及塩税収入ハ中央政府ノ金庫ニ入ルヘキモノトス毎年末ニ於テ「フトゥトゥン」ハ「フトゥトゥン」庁ノ収入並支出ニ関シ中央政府ニ報告スルノ義務ヲ負フ

   第六条

呼倫貝爾人及農工商階級ニ属スル支那内地人ハ支那並呼倫貝爾内ニ於テ旅行及居住ノ自由ヲ有シ何等ノ区別ヲ設クルコトナク同様ノ待遇ヲ受クヘシ

然レトモ呼倫貝爾ノ土地ハ其ノ人民全体ノ共有ニ属スルヲ以テ支那人ハ地方官憲ニ於テ支那人ノ農業カ土民ノ牧畜上ノ利益ヲ害セスト認ムル地方ニ於テノミ有期賃貸借ニヨリ土地ヲ取得スルコトヲ得

   第七条

将来呼倫貝爾ニ於テ鉄道敷設ノ計画ヲ為シ之カ為外国資本ヲ要スル場合ニハ支那共和国政府ハ先之ヲ露国ニ求ムルヲ要ス

東清鉄道会社及呼倫貝爾ニ於ケル鉱山林業等ニ関スル譲与ヲ有スル露国人カ其ノ材料及其鉱業林業ノ生産物輸送ノ為敷設セムトスル鉄道支線ハ支那共和国政府ノ許可アル場合ノ外之ヲ敷設スルヲ得ス右許可ハ特別ノ理由アル場合ノ外右譲与ヲ有スルモノニ賦与セラルヘシ

尤モ本条ノ規定ハ次条ニ規定セラルルカ如ク支那中央政府ノ確認シタル露国臣民ノ有スル譲与ニ関スル契約中ニ其ノ敷設ヲ予定シタル鉄道支線ニ何等ノ関係ヲ有セサルコト勿論ナリ

   第八条

露国企業家ト呼倫貝爾官憲トノ間ニ締結セラレタル契約ニシテ露支両国代表者ヨリ成ル委員会ノ査閲ヲ経タルモノハ支那共和国政府ニ於テ之ヲ確認ス