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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 1939年の移民労働者条約(第66号)(移民労働者の募集、職業紹介及び労働条件に関する条約(第66号))

[場所] 
[年月日] 1939年6月28日
[出典] 国際労働機関
[備考] 日本は未批准、仮訳
[全文] 

 国際労働機関の総会は、国際労働事務局の理事会によりジュネーヴに招集されて、二千年五月三十日にその第八十八回会期として会合し、本会期の議事日程の第7議題である複数の国際労働条約の撤回に関する提案を検討し、二千年六月十五日に、千九百三十九年の移民労働者条約(第六十六号)の撤回を決定する。国際労働事務局長は、この本文書撤回の決定を、国際労働機関の加盟国及び国際連合事務総長に通知する。この決定の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。

 国際労働機関の総会は、

 国際労働事務局の理事会によつてジユネーヴに招集され、且つ千九百三十九年六月八日を以てその第二十五回会議を開催し、

 この会議の会議事項の第三項目である移民労働者の募集、職業紹介及び労働条件(均等待遇)に関する提案の採択を決議し、且つ

この提案は国際条約の形式によるべきものなることを決定したので、

 千九百三十九年の移民労働者条約として引用することができる次の条約を千九百三十九年六月二十八日に採択する。

第一条

 この条約を批准する国際労働機関の各加盟国は、次のことを約する。

 (a) 次のことの防止のための刑罰を規定し且つ実施すること。

  (i) 出移民及び入移民に関する詐欺的宣伝

  (ii) 国内の法令又は規則に反する出移民又は入移民に関する宣伝

 (b) 一地域における雇用であつて他の地域の労働者に申込まれたものに関する広告、ポスター、パンフレツト及びその他の形式の刊行物に対し監督を行うこと。

第二条

1 この条約を批准する各加盟国は、情報を提供し且つ出移民に援助を与える適当な施設を維持し又はこれが維持を確めることを約する。

2 右の施設は、次のものにより管理されなければならない。

 (a) 公の機関、又は

 (b) 一又は二以上の任意的団体であつて営利の目的を以て経営されず、公の機関により当該目的のために承認され及び右機関の監督に服するもの、又は

 (c) 一部は公の機関又一部この項(b)の条件を具備する一又は二以上の任意的団体

第三条

1 この条約を批准する各加盟国は、この条に従い次の行為を規律することを約する。

 (a) 募集、即ち

  (i) 一地域において他の地域における使用者のため労働者を雇入れること、又は

  (ii) 一地域において労働者に対し他の地域における雇用を提供することを約すること。並びに(i)及び(ii)の行為(出移民希望者の捜索及び選考並びに出移民の出発準備を含む。)に関連して措置を講ずること。

 (b) 誘導即ちこの項(a)の意味において募集された労働者の一地域への到着若しくは入域を確保し又は容易にするための行為

 (c) 職業紹介即ちこの項(b)の意味において誘導された労働者の労力を使用者に供給するための行為

2 この条の第一項に掲げられる行為に従事する権利は、次のものに制限されなければならない。

 (a) 右の行為が行われる地域の公共職業安定所又はその他の公の機関

 (b) 右の行為が行われる以外の地域の公の機関であつて関係政府間の協定により右の行為を行うことを許容されるもの

 (c) 国際文書の規定に従い設けられた機関

 (d) 将来の使用者又は使用者の労務に服しそのために行動する者

 (e) 有料であると否とを問わず営利の目的を以て経営されない私営職業紹介所

3 この条の第一項に掲げられる行為に従事する権利は、右の行為が行われる地域の法令若しくは規則により又は出移民国と入移民国との間の協定により定められる場合及び条件において、右地域の権限ある機関の事前の許可を条件としなければならない。

4 右の行為が行われる地域の権限ある機関は、前項に従い許可が発せられた機関及び個人の行動を監督しなければならない。

第四条

1 この条約を批准し且つ使用者又は使用者のために行動する者と移民労働者との間で移民の出発前締結された雇用契約に対する監督制度を維持する各加盟国は、右の監督に服する契約がこの条の規定に適合するよう要求することを約する。

2 契約は、移民が解する用語を以てこれを作成し又は右用語に翻訳しなければならない。

3 契約は、他の条項の外に、次の事項を明示しなければならない。

 (a)契約の期間、並びに契約を更新し得るときは右更新の方法、又は期間の定めのない契約に付ては契約破棄の手続及び破棄の予告期間

 (b)移民が出頭することを要する正確な期日及び場所

 (c)次の旅費を支弁する方法

  (i) 移民の往きの旅費

  (ii) 契約の締結された期間の満了において、又は移民の過失に基かない契約の破棄若しくは解消の結果として右期間の満了する前において、移民の帰りの旅行が行われるときには右帰りの旅費

  (iii) 移民の家族であつて入移民国に移民と同行し又は移民の後から赴くことを許容される者の旅費

 (d) 使用者が入移民国の法令若しくは規則又は出移民国との間の協定に従い報酬より為し得る控除

 (e) 住居が使用者により提供され又は手に入れられたときは居住状態

 (f) 特に移民によるその家族の遺棄を防止するため出身国における移民の家族の生活を確保する措置

第五条

 この条約を批准する各加盟国は、その地域に誘導された移民がその責任ではない理由のために、その募集された雇用又はこれに等しい雇用を獲得しないときは、右移民及び家族の帰還費(管理費、最終目的地までの輸送及び生活費並びに家事用品の運送費を含む。)は、移民に負担させないことを確保するための措置を講ずることを約する。

第六条

1 この条約を批准する各加盟国は、次の事項に関しその自国民に適用するものに劣らない待遇を外国人に与えることを約する。

 (a)当該事項が法令若しくは規則により定められ又は行政機関の監督の下にある限り、

  (i) 労働条件特に報酬、及び

  (ii) 労働組合の組合員となる権利

 (b) 労働者により支払われるべき雇用税、租税又は掛金、並びに

 (c) 雇用契約に関する法律上の手続

2 前項に定められる均等待遇は、次の国の間に存在するものと認められる相互主義に従いこれを与えることができる。

 (a) この条約により拘束されるすべての加盟国の間、及び

 (b) この条約により拘束される各加盟国と当該問題に関する相互協定を結んだ他の国との間

第七条

1 雇用のため募集された移民及びその家族に属する個人的財産及び工具は、入移民国への到着の際関税を免除されなければならない。

2 雇用のため募集された移民及びその家族に属する個人的財産及び工具は、右の者がその帰還の際出身国の国籍を保持するときは、出身国への帰還の際の関税を免除されなければならない。

第八条

この条約は、次の者に適用しない。

 (a) 一加盟国の地域内の移民又は一加盟国の一地域より同一加盟国の他の地域への移民

 (b) 労務の場所が一国の地域内に在り且つ居住の場所が他の国の地域内に在る国境労働者

 (c) 海員

 (d) 千九百三十六年の土民労働者募集条約第二条(b)に定められる土民労働者

第九条

 この条約の正式批准は、登録のため国際労働事務局長にこれを通告しなければならない。

第十条

1 この条約は、国際労働事務局長にその批准を登録した国際労働機関の加盟国のみを拘束する。

2 この条約は、事務局長が加盟国中の二国の批准を登録した日の十二箇月後に効力を生ずる。

3 爾後この条約は、他の何れの加盟国に付ても、その批准を登録した日の十二箇月後に効力を生ずる。

第十一条

1 この条約を批准した加盟国は、この条約の最初の効力発生の日より十年の期間満了後において、国際労働事務局長宛登録のためにする通告によりこれを廃棄することができる。右の廃棄は、該事務局に登録があつた日の後一年間はその効力を生じない。

2 この条約を批准した加盟国であつて前項に掲げる十年の期間満了後一年以内に本条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受くべく、又爾後各十年の期間満了毎に本条に定める条件により、この条約を廃棄することができる。

第十二条

1 国際労働事務局長は、国際労働機関の加盟国により事務局長に通告されたすべての批准及び廃棄の登録を国際労働機関のすべての加盟国に通告しなければならない。

2 事務局長は、これに通告された第二回目の批准の登録を国際労働機関の加盟国に通告するときに、この条約が効力を発生する日について国際労働機関の加盟国の注意を喚起しなければならない。

第十三条

 国際労働事務局の理事会は、この条約の効力発生より各十年の期間満了毎にこの条約の施行に関する報告を総会に提出すべく、且つ、その全部又は一部の改正に関する問題を総会の会議事項に掲ぐべきや否やを審議しなければならない。

第十四条

1 総会がこの条約の全部又は一部を改正する新条約を採択する場合には、新条約が別段の定をしない限り、

 (a) 一加盟国による新改正条約の批准は、新改正条約が効力を発生したとき、前記第十一条の規定に拘わらず、当然にこの条約の即時の廃棄を生ぜしめる。

 (b) 新改正条約の効力発生の日より、この条約は、加盟国により批准され得ないようになる。

2 この条約は、これを批准したるも改正条約を批准しない加盟国に対しては、いかなる場合においても、その現在の形式及び内容において引き続いて効力を有する。

第十五条

 この条約は、フランス語及びイギリス語の本文を以て共に正文とする。