[文書名] 日本占領及び管理のための連合國最高司令官に對する降伏後における初期の基本的指令(日本占領及び管理のための連合国最高司令官に対する降伏後における初期の基本的指令)
日本占領及び管理のための連合國最高司令官に對する降伏後における初期の基本的指令
1945年11月1日
1 この指令の目的及び範圍
(い) この指令は、降伏後の初期の期間における日本の占領及び管理に當つて、貴官の有する權限及び貴官の指針となる政策を規定する。
(ろ) この指令にいう日本は、次のものを含むものと定められる。日本の主要な四島、すなわち北海道(エゾ)、本州、九州、四國及び對馬諸島を含む約1千の隣接小諸島。
(は) この指令は、第1部一般及び政治、第2部經濟及び民生物資、第3部財政金融にわかれる。
第1部 一般及び政治
2 軍事的權限の基礎及び範圍
日本に對する貴官の權力及び權限の基礎は、貴官を連合國最高司令官に任命する米國大統領の署名した指令及び日本國天皇の命令によつて實施された降伏文書である。これらの文書は、更に1945年7月26日のポツダム宣言、1945年8月10日の日本側通吿に對する1945年8月11日の國務長官の回答及び1945年8月14日の最終の日本側通吿に基礎を置いている。これらの文書に從つて、連合國最高司令官としての貴官の日本に對する權限は、降伏實施という目的のために最高のものである。敵国領土の軍事占領者としての通例の權力以外に、貴官は、貴官が降伏及びポツダム宣言の規定の實施に得策且つ適當と考えるいかなる措置をも執る權力を有する。しかしながら、貴官は、貴官が必要と認めるか又は反對の訓令を受けない限り、直接軍政を樹立することなく、貴官の使命達成と兩立する限り、日本國天皇又は日本政府を通じて貴官の權力を行使する。貴官の權力の行使に當つては、次の一般原則が貴官の指針となるであろう。
3 日本の軍事占領の基本的目的
(い) 日本に關する連合國の終局の目的は、日本が再び世界の平和及び安全に對する脅威とならないためのできるだけ大きい保證を與え、又日本が終局的には國際社會に責任あり且つ平和的な一員として參加することを日本に許すような諸條件を育成するにある。この目的の達成にとつて不可缺と考えられるある措置は、ポツダム宣言に述べられている。これらの措置は、特に、次の諸點を含んでいる。
カイロ宣言を履行すること及び日本の主權を主要四島及び連合國の決定する諸小島に制限すること。
あらゆる形態の軍國主義及び超國家主義を排除すること。
日本を非武装化し且つ非軍事化し、日本の戰爭遂行能力を引き續き抑制すること。
政治上、經濟上、社會上の諸制度における民主主義的傾向及び過程を强化すること。
日本における自由主義的政治傾向を奨勵し且つ支持すること。
米國は、日本政府が民主主義的自治の諸原則にできるだけ從うことを希望するが、日本國民の自由に表明された意思によつて支持されないいかなる政治形態をも日本に强いることは占領軍の責任ではない。
(ろ) 連合國最高司令官としての貴官の使命は、降伏が强力に實施されることを確實にし且つ連合國の目的の達成に適當な行動を執るにある。
(は) この指令は、戰後の世界における日本の待遇に關する長期政策を最終的に形成しようとするものではなく、又、貴官の日本占領期間中降伏及びポツダム宣言の實施に努力するに當つて貴官の執るべき措置を詳細に規定しようとするものではない。これらの政策及びその實現のため適當な措置は、大部分日本における事態の發展によつて決定されるであろう。それ故、貴官は、常に日本の經濟、產業、財政金融、社會及び政治の狀態に關する調査を繼續し、これを本國政府の利用に供することが必要である。これらの調査を進めるに當つては、この指令に述べられている初期の管理措置に變更を加え、又連合國の終局目的を促進する政策を逐次形成してゆくための基礎を築くようになされなければならない。必要に應じ、貴官に對して、補足指令が合同參謀本部を通じて發せられる。
4 日本に對する軍事的權限の確立
(い) 日本の降伏後直ちに貴官は、天皇、日本政府及び日本大本營に對して、日本の全軍隊及び日本の支配下にある全軍隊に戰闘行爲を停止して武器を引き渡すように命令を發し、且つ降伏文書及びポツダム宣言に述べられている政策の實施に必要な他の命令を發するように要求する。貴官は、天皇及び日本政府に對して、貴官の使命の目的實現のために發せられるすべての命令が日本におけるすべての者によつて迅速且つ完全に遵守されることを確實にするのに必要なすべての措置を執るように要求する。
(ろ) 貴官は、帝都東京及び貴官が日本政府に對する貴官の管理を容易ならしめるために必要と認める府縣の首都を占領する。貴官は、更に貴官の必要と認める戰略的な場所をも占領する。それ以外には、貴官は、日本のいかなる部分をも直接軍政施行が不可缺とならない限り占領してはならない。しかしながら、貴官は、貴官使命實現の必要に應じて、日本のいかなる地域においても臨時に貴官の軍隊を使用することができる。下記第4節(は)の規定には從わなければならないが、貴官は、日本當局又は必要があれば貴官の軍隊による法律及び秩序の回復及び維持を確實にするために迅速な行動をとる。
(は) 降伏實施に行動が必要な場合には、貴官は、當初から直接に行動する權利を有する。それ以外には、天皇又は他の日本當局が有効に行動することを欲しないか又は有効に行動しないときに直接行動を執る最高司令官としての貴官の權利を常に留保して、貴官は、貴官の最高權限を天皇と中央及び地方における日本政府機構とを通じて行使する。この政策は、日本における現在の政治形態を利用するにあつて、これを支持するものではない。政府の封建的及び權威主義的傾向を修正しようとする變更は、許容され且つ支持される。このような變更の實現のために日本國民又は政府がその反對者に對して實力を行使する場合には、機關は、最高司令官として貴官の軍隊の安全及び他の一切の占領目的達成を確實にするに必要な場合にのみ干涉すべきである。貴官は、情勢の必要に應じて、直接軍政の施行を含め、貴官の最高の權力及び權限を全面的に行使することができる。日本のいずれかの部分において直接軍政の實施が必要となつた場合には、貴官は、その後直ちに合同參謀本部に通報する。貴官は、合同參謀本部との事前の協議及び合同參謀本部を經て貴官になされる通達なしには天皇を排除したり又は天皇を排除しようとするいかなる措置をも執らない。
(に) 貴官は、(1)1914年世界大戰開始以後日本が委任統治その他の方法によつて奪取又は占領した太平洋諸島の全部、(2)滿洲、臺灣、澎湖諸島、(3)朝鮮、(4)樺太及び(5)今後の指令に指定されることのあるような他の地域の日本からの完全な政治上及び行政上の分離を實施するために適當な措置を日本において執る。
(ほ) 貴官は、適當な方法によつて日本國民の全階層に對し、彼らの敗戰の事實を明らかにする。彼らの苦痛と敗北は日本の不法且つ無責任な侵略によつてもたらされたものであること、又、日本人の生活及び制度から軍國主義が排除されてはじめて日本は國際社會への參加を許されることを、彼らに認識させなければならない。彼らが他國民の權利と日本の國際義務とを尊重する非軍國主義的、民主主義的日本を發達させるように期待されていることを彼らに知らせなければならない。貴官は、日本の軍事占領は連合國の利益のために實施されているものであり、日本の侵略力及び潜在的戰爭能力の破壞のためと日本人に災禍をもたらした軍國主義及び軍國主義的制度の排除のために必要であることを明らかにする。この目的をもつて、且つ軍隊の安全を確實にするために、貴官が望ましいと認めるときに、又貴官が望ましいと認める限度において、日本に交際禁止政策を適用することができる。しかしながら、貴官の將兵は、米國及び連合國竝びにそれらの代表者に對する信賴を深めるように日本人を扱わなければならない。
(へ) 貴官は、天皇に對し、ポツダム宣言に述べられている目的の達成を阻害するか、又は降伏文書若しくは合同參謀本部を通じて貴官に發せられることのある指令に觝触するすべての法律、命令、規則を廢止するように要求する。貴官は、得に政治的及び市民的自由の制限と、人種、國籍、信仰又は政見による差別とを設け且つ維持したすべての法律、命令、規則の廢止を確實にする。旣に廢止され、又は廢止されるべき法規の執行を特に擔當している機關又は機關の一部は、卽時廢止されなければならない。
(と) 貴官は、必要に應じ、占領軍に對する犯罪及び降伏實施と兩立するような他の事項について管轄權を有する軍事裁判所を設置する。しかしながら、貴官は、そうしないことを貴官が必要と認める場合を除き、日本の裁判所が貴官の軍隊の安全に直接且つ重大な關係を有しない事件については有効な裁判權をを行使することを確實にする。
(ち) 米國政府又は他の連合國政府の非軍事貴官代表者は、貴官の承認を得、且つその目的、期間及び範圍に關し合同參謀本部によつて貴官に通吿される決定に從うのでなければ、占領に參加し又は日本國內で獨立して任務を遂行してはならない。
5 政治的及び行政的改組
(い) 地方、地域及び中央の行政機關は、その機能及び責任が占領目的と一致しないものを除き、下記第5節(ろ)に述べられている受け容れがたい官吏又は信賴を置きがたいことが確められた官吏を排除した上で機能繼續を許される。このような機關及びその人員は、行政について責任を負わされ、貴官の政策及び指令の實施の任務を課せられる。しかしながら、あらゆる場合に、又あらゆる事情の下において、貴官は、日本當局が貴官の指令を滿足に實施しない場合には、又實施しない程度に應じて、貴官自身で直接行動を執る權限を與えられている。
(ろ) 下記第7節(は)に示されている場合を除き、好戰的國家主義及び侵略の積極的な推進者、日本の超國家主義的結社、暴力的結社又は愛國的祕密結社、その出先機關又は參加團體の有力な會員であつた者、下記第5節(と)に列擧されている他の團體の活動に勢力をもつていた者又は軍事占領目的に敵意を示した者は、いかなる事情の下においても公職又は公的企業若しくは重要な私的企業における責任ある又は有力ないかなる他の地位をも保持することを許されない。
(は) 貴官は、現在の政治形態が維持される限り、あらゆる場合において、內大臣、樞密顧問、內閣總理大臣及び閣僚の地位が貴官の使命の目的を促進するものと信賴することができる人物によつてのみ占められることを確實にする。貴官は、大東亞省の卽時廢止を要求するが、同省の機構及び人員のうち、上記第4節(に)に規定されている植民地分離の實施に必要なものは殘置することができる。貴官は、非武装化及び復員の過程において陸軍省、海軍省、軍需省を逐次解體廢止する。
(に) 國の政策の地方的實施に對し地方に責任をもたせることは、奬勵される。
(ほ) 日本における通常の刑事及び民事裁判所は、貴官の決定する規則、監督及び統制に從つて機能繼續を許される。上記第5節(ろ)の規定によつて受け容れがたい裁判官その他の裁判所所員は、できるだけ速やかに排除される。このような官吏は、受け容れうる有資格者と取り換える。機能繼續をゆるされるすべての裁判所に對し、貴官は、全面的審査權を保有する。貴官は、貴官の使命の目的と一致しないすべての判決を拒否する。貴官は、上記第4節(へ)によつて廢止されるべき種類の法律又は規則のみによつて拘留されている者を釋放させるため、できる限りの措置を執る。
(へ) 司法及び普通警察機關並びに貴官が適當な監督の下に殘置することを適當と考えるような他の警察機關から信賴しがたい分子、好ましくない分子、特に超國家主義的結社、暴力的結社及び愛國的祕密結社の會員を追放しなければならない。
(と) 日本全國を通じて、貴官は、大日本政治會、大政翼賛會、大政翼賛政治會、これらの參加團體及び出先機關又は後續團體並びに日本のすべての超國家主義的結社、暴力的結社及び愛國的祕密結社、これらの出先機關及び參加團體の解散を確實にする。
(ち) 貴官は、國務省が合同參謀本部を通じて要求する日本の外交官、領事館、その他海外出先機關員の召還を日本政府に指令する。貴官は、又降伏實施の目的のために日本の外交及び領事施設の文書及び財產を連合國政府の正當に任命した代表者による管理に移す手配をするように日本政府に指令する。
(り) 上記第5節(と)に述べられている團體のいずれかの所有又は支配しているすべての動產及び不動產は、公有財產とみなされるべきである。なんらかの財產(例えば、半官會社又は日本政府若しくは日本皇室が重大利害を有する民間會社の資產)の公的地位について疑問がある場合には、それは公有財產とみなされるべきである。皇室財產は、この指令に述べられている目的の遂行に必要ないかなる措置からも免除されてはならない。
6 非軍事化
(い) 貴官は、憲兵隊(但し、警察を含まない)、民間義勇隊及びすべての準軍事組織を含むすべての日本の武裝部隊の速やかな武裝解除を確實にする。このような部隊の隊員は、捕虜としてではなく、彼ら自身の將校の下に武裝解除された部隊として取り扱われ、貴官の發したか又は發することのある指令に從つて復員させられる。貴官は、日本へ送還される日本武裝部隊の隊員であつて捕虜となつたいずれの者に對しても不公平な待遇又は權能はく奪を防止する規定が設けられるように要求する。
(ろ) 貴官は、軍事參議院、元帥府、大本營、參謀本部、軍令部、陸軍、海軍及び民間義勇隊、憲兵隊を含むすべての軍事組織及び準軍事組織並びに日本における軍事的傳統の保存に役立つことのあるすべての在郷軍人會その他の軍國主義的團體の恒久的解體を規定する。但し、貴官は、降伏特に復員を實施するという限られた目的をもつて、上に列擧されたものを含む陸海軍機關を短期間利用することができる。陸海空におけるすべての軍事的及び準軍事的訓練は禁止される。
(は) すでに貴官に對して發せられた指令の規定に從い、貴官は、すべての武器、彈藥、艦艇及び非軍事的用途に當てられる航空機を含む軍用器材を押收又は破壞し、且つその生產を停止する。
(に) 貴官は、この指令の第2部及び第3部に述べられているように、日本の潜在的戰爭能力を破壞するために適當な措置を執る。
7 日本人公職者の逮捕及び抑留
(い) 次の者は、その處置について追つて訓令があるまで、戰爭犯罪容疑者としてできる限り速やかに逮捕し且つ抑留する。
(1) 軍事參議院、元帥府、大本營並びに參謀本部及び軍令部の構成員全部。
(2) 憲兵隊の將校全部及び陸海軍將校のうち好戰的國家主義及び侵略の重要な推進者であつた者全部。
(3) 超國家主義的結社、暴力的結社及び愛國的祕密結社樞要な會員全部。
(4) 貴官が戰爭犯罪人と信ずる理由を有する者又はこれまで貴官に送達されたか又は送達されることのある戰爭犯罪容疑者の表の中にその姓名又は人相書が含まれている者全部。
(ろ) 日本の侵略計畫の策定又は實行に當り積極的且つ支配的に政治上、經濟上、金融上その他重要な役割を演じた者全部並びに第日本政治會、大政翼賛會、大政翼賛政治會、これらの出先機關及び參加團體又は後繼團體の幹部全部は、追つて處置されるまで抑留される。貴官は、貴官の使命達成の必要に應じ他の非軍人をも抑留することができる。
(は) しかしながら、貴官は、上記第7節の(い)の(1)及び(2)に列擧されている種類の人物中、日本武裝部隊の復員を確實にするために貴官が絶對に必要とする人物を、嚴重な監督の下に短期間利用することができる。
(に) 貴官は、平和に對する罪及び人道に對する罪を犯した者を含む戰爭犯罪人に關する貴官の責任について、さらに訓令を受ける。
(ほ) 戰爭犯罪人として逮捕された非軍人又は軍人に對して、財產又は政治上、產業上その他の階級若しくは地位によつて、逮捕の方法又は拘留の狀態に關して差別を設け又は特別の考慮を與えてはならない。
(へ) 第二次世界大戰において連合國のいずれかの敵國であるか又はあつたことのある日本以外の國(ブルガリア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリー、ルーマニア、及びタイ)の國民はすべて調査登錄し、狀況の必要に應じ、抑留し又はその活動を制限することができる。このような國の外交官及び領事館は、保護抑留し、追つて處置するため留めておく。
(と) 第7節の規定によつて抑留又は逮捕された人物の所有又は支配している動產及び不動產は、その終局的處置について指令があるまで貴官の管理下におく。
8 捕虜、連合國人、中立國人、その他の者
(い) 貴官は、連合國の捕虜及び流民が保護され且つ送還されることを確實にする。
(ろ) 中立國の國民は、適當な軍事當局に登錄するように要求される。彼らは、貴官の設定することのある規則に從つて送還されることができる。しかしながら、連合國の一國に對する戰爭にいかなる方法によつてでも積極的に參加したすべての中立國人は、逮捕され、後に發せられる訓令に從つて處置される。中立國人はその本國又は日本以外に居住する者との通信又は事業關係についていかなる特權をも與えられない。中立國の外交官及び領事館の身體、文書及び財產は、十分に保護される。
(は) 連合國人であつて日本に居住しているか又は抑留されているすべての非軍人は、調査し、綿密にじん問し、貴官が適當と認める場合には抑留し又は居住を制限する。右の中上記第7節(ろ)の規定に該當するすべての者は、戰爭犯罪容疑者として逮捕し且つ抑留しなければならない。一又は二以上の連合國に對する戰爭にいかなる方法によつてでも積極的に參加した他のすべての連合國人は、逮捕し、追つて處置するため留めておく。その後、彼らは、貴官に與えられるべき指令に從つて處置される。一般に、連合國人の健康及び福祉を確實にするために實際的措置が執られる。
(に) 貴官は、中國人たる臺灣人及び朝鮮人を、軍事上の安全の許す限り解放国民として取り扱う。彼らは、この指令に使用されている「日本人」という語には含まれないが、彼らは、日本臣民であつたものであり、必要の場合には、貴官によつて敵國人として取り扱われることができる。彼らは、もし希望するならば、貴官の定める規則によつて送還されることができる。しかしながら、連合國人の送還に優先權が與えられる。
(ほ) 軍事情勢によつて必要とされる限度內において、貴官は、連合國及び連合國人の財產の保存及び保護に必要なすべての妥當な措置を執らなければならない。
9 政治活動
(い) 日本の軍國主義的及び超國家主義的イデオロギーと宣傳とのいかなる形式における弘布も、禁止され且つ完全に抑壓される。貴官は、日本政府に對し國家神道施設への財政的その他の援助を停止するように要求する。
(ろ) 貴官は、軍事的安全とこの指令に述べられている目的の達成のために必要な最低限度の統制及び檢閲を、郵便、無電、ラジオ、電話、電信、海底電信、映畫及び出版物を含む非軍事的通信に對し設ける。思想の自由は、利用しうるあらゆる弘報手段による民主主義の理想及び原理の弘布によつて育成される。
(は) 貴官は、現存するすべての政黨、政治團體、政治結社を即時統制の下に置く。そのうち軍事占領の要求及びその目的に一致した活動をしているものは、奬勵されるべきである。このような要求及び目的に一致しない活動をしているものは、廢止すべきである。占領軍の安全維持の必要には從わなければならないが、集會及び公開討論の權利を有する民主主義的政黨の結成及び活動は、奬勵される。代議的地方政府の自由な選擧は、できる限り早い時期に行われるべきであり、地域的及び全國的の自由な選擧は、貴官の勸吿を考慮した後合同參謀本部を通じて指令されるところに從つて行われるべきである。この項に述べられている計畫に關する貴官の行動は、占領の終局目的の一つ、すなわち日本國民の自由に表明された意思による平和的傾向を有し且つ責任ある政府の樹立に照して執らなければならない。
(に) 勞働、產業、農業における民主主義的團體の發達は、奬勵される。
(ほ) 信敎の自由は、日本政府によつて速やかに宣言されるべきである。貴官の軍事占領の安全及びその目的の達成が害われない限度において、又上記第9節(い)及び(は)に從うことを條件として、貴官は、意見、言論、出版及び集會の自由を確實にする。
10 敎育、美術及び文書
(い) 敎育機關は、できる限り速やかに再開される。好戰的國家主義及び侵略の積極的推進者であつたすべての敎師及び軍事占領の目的に積極的に反對し續けているすべての敎師は、受け容れうる有資格後繼者と取り換える。すべての學校における日本の軍事的及び準軍事的敎育及び敎練は、禁止される。貴官は、貴官に受け容れられる敎科がすべての學校で採用され、そのうちには上記第3節(い)に示されている觀念を含むことを確保する。
(ろ) 貴官は、すべての政府事業、準政府事業、重要な民間の金融、產業、製造及び商業會社並びに上記第5節(へ)に述べられている日本の團體の記錄を、貴官の參考及び使用の目的のために保存せらるべきである。
(は) 貴官は、できる限りすべての歴史的、文化的及び宗敎的物件を占領軍その他によつて略奪されないように保護させ且つ保存させる。
第2部
甲 經濟
目的及び一般的基本原則
11 占領期間中の日本の經濟問題に關する米國政府の政策は、次の諸目的の同時達成を企圖している。
(い) あらゆる種類の武器、軍需品又は軍用器材の生產を專門とする現存の施設を除去すること。
(ろ) 國際的平和に對して危險ないかなる軍備をもあらたにつくり又は維持する日本の經濟能力を破壞すること。
(は) 適當な連合國當局によつて決定されることのある賠償及び返還計畫を實行すること。
(に) 日本の平和的、民主的勢力の成長に貢獻するような種類の經濟的慣行及び制度の日本國內における發達を奬勵すること。
(ほ) 日本の經濟的組織の運用と經濟的操作とが、占領の一般的目的に合致することを確實にし、且つ平和的貿易國家の列への日本の終局的復歸を可能とするように監督指導すること。
この指令の經濟的部分をなす訓令は、前途に控えている占領の最初且つ當面の期間においてこれらの目的を促進することを企圖している。これらの訓令は、貴官の遭遇する事態及び日本國民の行動に照して、追加改訂されることもある。
12 日本における連合國最高司令官としての貴官の最高權限は、經濟的分野におけるすべての事項に及ぶ。この權限の行使に當つては、貴官の目的の達成の許す限度で、貴官は、天皇及び日本政府の機構を貴官の目的達成に利用する。貴官は、彼らに對し、貴官の命令を遂行し、且つ、貴官の目的遂行上貴官の必要と思うような變更を經濟事項憺當の政府部門の行政組織に加えるように要求する。
貴官は、次の場合には、直接に行動しなければならない。
(い) 任務の性質そのものから日本當局を通ずる行動では貴官の經濟的目的が有効に達成されない場合。
(ろ) 貴官の操作のいずれか特定の部面において日本政府を通ずる操作が滿足すべき方法でないことが明らかとなる場合。
直接に行動するに當つては、貴官は、貴官がその任務を日本政府當局に委せても滿足しうると考える時期まで、この指令に含まれている經濟的措置を實施するか又は、その實施を確實にするために、日本の官吏及び機關から獨立し且つこれに優越する行政機構を設置する。
13 貴官は、日本の經濟的復興又は日本經濟の强化についてなんらの責任をも負わない。貴官は、次のことを日本國民に明らかにする。
(い) 貴官が日本にいずれの特定の生活水準を維持し又は維持させるなんらの義務をも負わないこと。
(ろ) 生活水準は、日本がどれだけ徹底的にすべての軍國主義的野望をみずからすて、その人的及び天然資源の利用を全く且つ專ら平和的生活の目的に轉換し、適當な經濟的及び財政的統制を實施し、且つ占領軍及びその代表する諸政府と協力するかにかかつていること。
日本がその努力及び資源によつて第11節に特記されている目的に合致する日本における生活狀態を終局的に實現するのを妨げるのは、米國の政策ではない。
經濟的非武裝化
14 日本の經濟的非武裝化を實施するために、
(い) 貴官は、すべての武器、彈藥その他の軍用器材、海軍艦艇、非軍事的用途に向けられるものを含むあらゆる種類の航空機並びに前記のもののいずれかに合體させることを特に目的とする部分品、構成物及び資材の將來の生產、取得、發達、維持又は使用を卽時停止し、且つ防止する。
(ろ) 貴官は、上記の品目中いずれかの生產又は維持に使用されるか又は使用される目的を有する施設を保全するために貴官が必要と認める措置を執る。これらの施設は、終局的處理について追つて訓令あるまでは、緊急事態でなければ破壞されるべきでない。
(は) 貴官は、合同參謀本部を通ずる特別の承認を得なければ、(い)項に特記されている禁止計畫の實施又は(ろ)項に從つて受ける訓令の執行を延期しない。しかしながら、萬一貴官が(い)項に列擧されている品目のいずれかの生產が貴官の軍事作戰、占領軍又は臨時の軍事的調査の要求をみたすために必要であると認める場合には、貴官は、合同參謀本部に適當な勸吿をなし、合同參謀本部の決定があるまで、必要な最低限度まで生產の手配をなす權限を與えられる。
15 經濟的非武裝化、賠償、返還の計畫實施のために後に貴官に送付される訓令は、鐡、鋼、化學製品、非鐡金屬、アルミニウム、マグネシウム、人造ゴム、人造石油、工作機械、ラジオ、電氣器具、自動車りよう、商船、重機械及びこれらの重要部分のような、日本のある生產部門の縮減又は除去を含む。
しかしながら、これらの事項について最終的且つ特定の決定あるまで、貴官は、占領軍の重要及び人民の最少限度の平和的需要をみたすのに必要な最低限度まで、これらの產業における生產の繼續及び生產施設の修理を許す。
貴官は、生產の繼續又は生產施設の修理に關して與えられるいかなる許可も、日本經濟のいかなる部門に加えられることのある制限又は賠償若しくは返還として要求されることのある引渡について最終的決定を害するものでないことを日本じに對し明らかにする。
16 貴官は、又第14節及び第15節に述べられている種類を含む工場及び設備を必需消費財の生產に轉換することを許可することができる。貴官は、このような轉換の行われた場合そのいずれもが平和經濟への眞正な動きであり且つ軍事的目的のために生產能力を温存しようとする擬裝された試みでないことを確める。
貴官は、又いずれのこのような轉換許可も、賠償若しくは返還による工場若しくは設備の撤去、又は第11節による安全上の理由のためのくず鐡化に關する後の決定を害するものでないことを日本人に對し明らかにする。
17 貴官は、
(い) 第14節及び第15節に禁止されている種類の生產が隱蔽され又は擬裝された形で行われないことを確實にするために、直ちに檢査制度及び統制を確立する。
(ろ) 第14節に網らされている生產物をこれまで生產してきたか又は今後生產する目的を有するすべての重要な施設及び第15節に特記されているすべての產業におけるすべての重要な施設に關する明細目錄の報吿をできるだけ速やかに作成させる。これらの報吿は、工場及び施設の狀態、能力並びに手持原料、製品及び仕掛品の數量を明記しなければならない。貴官は、又日本商船隊の明細目錄を作成する。
經濟政策に關する今後の決定に必要な情報を供するために、貴官は、これらの報吿を合同參謀本部に送る。
(は) 貴官の占領終了後日本の再軍備を防止する統制を立案し、合同參謀本部に勸吿する。
18 貴官は、すべての實驗所、調査機關及び類似の技術機關が、貴官が占領目的のために必要と考えるものを除き、卽時閉鎖されることを確實にする。貴官は、必要と認める場合にはこれらのものの物的施設の維持及び安全並びに貴官の技術的又は防諜的調査に利益ある人員の保持をはかる。貴官は、直ちにこのような閉鎖團體において行われた研究及び調査の性質を調べ、明白に平和的目的を有する種類の研究及び調査の再開を、(1)許可される研究の特定の種類を定義し、(2)ひん繁な檢査を規定し、(3)研究の結果を貴官に卒直に知らせることを要求し、(4)規則に違反した場合には違反機關の恒久的閉鎖を含む嚴罰をを課する適當な規則の下にできるだけ速やかに許可する。
日本經濟制度の運用
19 日本當局は、自己の資源及び勞力によつて次のことの達成を可能とする實行計畫を作成し且つ有効に實施するように期待される。
(い) 甚しい經濟的困窮を避けること。
(ろ) 利用しうる物資の適正公平な分配を確保すること。
(は) 占領軍の必要のための貴官の要求をみたすこと。
(に) 連合國政府の合意するような賠償引渡のための要求をみたすこと。
これらの目的達成のために、日本當局は、農業及び漁業生產物、石炭、木炭、家屋修理材料、衣料その他の必需品の生產を最大とするように最善をつくさなければならない。日本當局がそうするのを怠つた場合には、貴官は、日本當局に貴官が必要と判斷する措置を執るように指令する。
20 貴官は、飢餓、廣範圍の疾病及び甚しい肉體的苦痛をひきおこすことなしに行われうる限度內で、占領軍の必要をみたすために物資及びサーヴィスを供給することを日本當局に要求する。
21 日本當局は、第19節に明記されている經濟的目的達成のために適當又は必要な經濟活動に對する統制を自己の責任において確立實施することを許されるべきである。これらの統制の政策と實施は双方とも、特にこれらの統制が第15節に矛盾する限りにおいて、貴官の承認及び監督を受けなければならない。この節は、貴官が第12節に規定されているところに從つて直接行動に出ることを妨げるものではない。
22 深刻なインフレーションは、占領の終局の目的の達成を大いに遲延させるであろう。それ故、貴官は、日本當局に對し、このようなインフレーションを回避するためにあらゆる實行可能な努力を拂うように指令する。しかしながら、インフレーションの防止又は抑制は、賠償、返還、非軍事化又は經濟的非武裝化の計畫の實施に當り生產施設の撤去、破壞又は縮少を制限する理由としてはならない。
日本經濟制度におけるある種の分子の排除
23 貴官は、好戰的國家主義及び侵略の積極的推進者であつたすべての者、この指令の第5節(と)(第1部、一般及び政治)に列擧されている團體に積極的に參加した者及び將來の日本の經濟的努力を專ら平和的目的の方向に向けないいかなる者をも、產業、金融、商業又は農業における重要な責任又は勢力ある地位に留め又は選任することを禁止する。(貴官にとつて満足すべき反證のない限り、貴官は、1927年以來產業、金融、商業又は農業において高度の責任を有する樞要な地位を占めたことのあるいかなる者も好戰的國家主義及び侵略の積極的推進者であつたものと推定する。)
24 貴官は、日本の戰爭努力又は經濟において重要な役割を演じたことのある日本の大產業及び金融會社並びに商業及び研究團體のすべての工場、設備、特許權、帳簿、記錄その他すべての重要財產を、この指令及び他の指令によつて決定されるような處置のために破壞から保護し且つ保全するように要求する。
日本經濟制度の民主化
25 次のものを奬勵し且つこれに好意を示すのが米國政府の意向である。
(い) 所得と生產及び商業手段の所有權とを廣く分配することを許す政策。
(ろ) 勞働、產業、農業における民主主義的基礎の上に組織された團體の發達。
從つて、貴官は、
(1) 日本側に對し、本国政府の軍事的及び經濟的目的に從つて日本財界を改組することに責任を持つ公的機關を設立するように要求する。貴官は、この機關に對し、日本の大規模な產業及び金融企業合同體又は他の私的事業支配の大集中を解體する計畫を貴官の承認をうるため提出するように要求する。
(2) 滿足すべき改組案が承認されるまでの間、本國政府の軍事的經濟的目的との合致を確實にするため前記(1)項に述べられている日本財界に對し監視を確立し且つ維持する。
(3) 統制團體を解散する。從來これらの團體によつて行われていた公的機能であつて必要なものがあれば、貴官の承認し且つ監督する公的機關に移管されるべきである。
(4) 改組されるべき產業へ商社が自由に加入することを制限する立法的又は行政的措置は、その目的又は効果が私的獨占を育成し且つ强化するものである場合には、すべて廢止する。
(5) 私的國際カルテル又は他の制限的な私的國際契約若しくは取極への日本の參加をすべて終止し、禁止する。
(6) 日本側に對し勞働に對する戰時の統制をできるだけ速やかに撤廢し、勞働保護立法を復活させるように要求する。
(7) 民主的な線に沿う被使用者の組織の結成に對するすべての法的障害の撤廢を要求する。但し、これは、いかなる擬裝の下における軍國主義的勢力の恒久化又は占領軍の目的及び作戰行動に敵意を抱くいかなる集團の存續をも防止するのに必要な保障措置を執ることを妨げるものではない。
(8) 罷業又は他の作業停止は、これらが占領軍の軍事行動を妨害するか又はその安全を直接危くすると貴官が認めた場合にのみ防止又は禁止する。
對外經濟取引
26 貴官は、商品及びサーヴィスについての日本の對外貿易全般に統制を確立する。このような統制は、初期の期間において次の諸政策を實施するように運營されなければならない。
(い) 輸出商品が國內の最低需要をみたすのに必要なことが明らかな場合には、輸出を承認してはならない。
(ろ) 工場及び設備の輸出は、それが賠償又は返還に必要とされるかどうかについて決定がなされるまでは、許可されてはならない。
(は) 賠償のため又は返還として積出を指令されたもの以外の輸出は、これらの輸出品の見返として必要な輸入品を供給することに同意するか又は輸出品の代價を外國爲替で支拂うことに同意する仕向國に對してのみ行うことができる。
(に) すべての輸出代金は、貴官が管理し、まず第一に、承認された輸入の支拂にあてなければならない。日本におけるいかなる者、會社又は團體も、貴官の特別の承認がなければ、いかなる種類の外國資產の取得をも許されてはならない。
(ほ) この指令中の他の個所に述べられている經濟政策に明らかに一致する輸入にのみ承認を與えるべきである。
(へ) 輸入又は輸出(賠償のために行われることのある輸出を含む)の必要は、いかなる日本の產業部門をも日本の潜在的戰爭能力に著しく寄與し又は戰略物資に對する他國の對日從屬度を高めるような程度まで復興又は發展させることを要求し又は許可する理由と考えられてはならない。
27 日本當局は、事前に貴官と協議の上貴官の明示的承認を得なければ、外國政府又は業者との間にいかなる種類の經濟協定をも結ぶべきではない。いかなるこのような協定の提案も、その審議のために合同參謀本部に提出されなければならない。
賠償及び返還
28 貴官は、合同參謀本部によつて貴官に通達される連合國の當該官憲の決定に從つて、現物賠償計畫及び識別しうる略奪財產の返還計畫を實施することを確實にする。賠償は、次の方法によつて實行される。
(い) 日本が保有すべき領域外にある日本資產を移轉すること。
(ろ) 平和的な日本經濟の運營又は占領軍に對する供給に必要でない商品、現存の工場、設備、施設を日本から移動すること。
日本の侵略の犠牲となつた連合國から貴官の受理する賠償又は返還のすべての要求は、貴官の勸吿を添えて合同參謀本部に報吿する。
乙 民生物資供給及び救濟
民生物資供給方針及び供給基準
29 (い) 貴官は、日本への輸入を嚴重に制限する目的をもつて、日本の重要資源の最大限の利用を達成するために實行しうるすべての經濟及び警察措置が執られることを確實にする。このような措置は、生產と物價の統制、配給、やみ市場の取締、財政金融統制その他日本において利用しうる資源、施設及び資力の完全な使用を目的とする措置を含む。
(ろ) 貴官は、現地資源の補充のためにのみ、且つ占領軍を危うくするか軍事行動を妨げるような廣範圍の疾病又は民生不安の防止に補充が必要な限度においてのみ、輸入物資の供給に責任を持つ。このような輸入は、食料、燃料、醫療及び衞生物資その他の必需品目の最低量に限定され、そのうちには、貴官がそれがなければ輸入しなければならないような物資の現地生產を可能ならしめる品目を含む。
(は) 上記29節(ろ)によつて輸入が必要な物資は、他のアジア及び太平洋地域から得られる餘剩物資からできるだけ入手する。このような餘剩物資が他の米軍司令官の管轄地域から供給しうる限度においては、貴官は、このような他の司令官と直接に取極を行うことができる。このような餘剩物資が米國以外の政府又はこのような政府の軍司令官の管轄下の地域において入手しうる限度においては、このような餘剩物資の入手に必要な交涉は、當該地域における現地米國外交代表により又はその承認を得て行われる。このような外交代表が利用し得ない場合には、貴官は、貴官の勸吿を添えて情勢を合同參謀本部に報吿する。
(に) 貴官が貴官の占領目的を達成するため、追加輸入をする責任を負うべきであると考えるときは、貴官は、合同參謀本部に貴官の勸吿を提出する。
分配の方法及び條件
30 貴官は劃一的配給基準による物資の公正な分配を確實にするためにすべての實行可能な措置を執るように要求する。
31 軍事的便宜に合致する最大限度まで、一般住民のための輸入物資は、實行可能であり且つ望ましい限りにおいて、貴官にとつて受け容れうるような日本の公的供給機關又は他の受託者に對し、且つ貴官の直接の監督又は統制の下に、引き渡されるべきである。このような引渡は、可能な場合には常に輸入港において行われるが、必要な場合には國內の適當な分配中心地で引渡を行うことができる。
32 滿足すべき公的供給機關が存在しないか又は作戰上若しくは他の理由によつて民生物資のこのような機關を通ずる分配が實行不可能である場合には、貴官は、直接卸賣業者又は他の承認に對し販賣することができる。貴官による一般住民に對する物資の直接的供給と分配をなるべく少くするために、貴官は、日本人が不必要に占領軍をこのような責任に卷き込まないことを確實にすべきである。貴官による直接販賣が必要となる場合には、その代金は、貴官が國內經濟に適合すると決定する價格をもつて、購入者によつて現地通貨で支拂われる。
33 供給機關又は他の受託者に引き渡される物資は、それら機關によつて分配經路を通じ、且つ貴官にとつて滿足すべき分配方針に從い、又貴官が國內經濟に適合するように決定する價格によつて販賣される。軍事上の必要が要求する場合には、民生物資は、貴官又は貴官の監督若しくは統制下にある供給機關による直接的救濟放出の對象とすることができる。
第3部
財政金融
34 財政金融の部門においては、貴官は、後に列擧されている政策及び計畫の有効な實施が許す限度まで日本政府を通じて行動するが、このような政策及び計畫を實施し又はそれらの有効な實施を確實にするに必要な限度において日本當局及びその機關に從屬しない行政機構を設置して、この指令の他の部分において述べられている原則を完全に適用する。貴官は、この指令の第40節、第41節、第45節、第46節及び第47節の規定を實施し又はそれらの有効な實施を確實にするために、このような獨立の行政機構を設置することを特に指令されている。
35 日本の金融機關及び財政制度は、日本の資源を基礎として機能するように期待される。貴官は、この指令に明記されている目的のために必要でない限り、日本の財政金融機構の維持、强化、又は運用を目的としたいかなる措置をも執らない。
36 貴官は、日本銀行又は他のいかなる銀行若しくは機關に對しても法貨である銀行券及び通貨を發行することを認可し又は要求することができる。このような認可がなければ、いかなる日本政府の又は民間の銀行又は機關も銀行券又は通貨の發行を許されない。
37 貴官は、日本當局に對し無償で且つ貴官の軍事占領の費用を含む貴官の軍隊のすべての經費をまかなうに十分な數量の法貨である圓紙幣又は圓クレディットを貴官に提供するように要求する。
38 (い) なんらかの理由によつて正規の法貨である圓紙幣の適當な量が入手できない場合には、貴官は、軍布吿に從つて發行される補助圓軍票(B型)を使用する。補助圓は、法貨と宣言され、他の法貨である圓通貨と差別なしに等價で交換される。
(ろ) 正規の圓通貨は、この地域において現在法貨である通貨を含む。
(は) 日本によつて占領された地域において流通させるために發行された日本の軍票は、法貨としないし、又通用力もなく、補助圓又は正規の圓通貨と交換することもできない。
39 貴官は、今後訓令を受理するまでは、一方において日本圓と、他方において米ドル及び他の通貨とのいかなる一般的交換率の使用又は發表をも布吿し、實施し又は許可しない。しかしながら、陸海軍人員に對する支拂及び陸海軍の會計の目的にのみ使用されるべき交換率。すなわち正規又は補助圓15は1ドルという比率は、すでに貴官に通達されている。
40 貴官は、好戰的國家主義及び侵略の積極的推進者であつたか、又はこの指令の第7節に列擧されている團體にに積極的に參加したすべての者をすべての公的及び私的の財政金融機關又は團體における重要な責任又は勢力ある地位から罷免し且つ排除する。反證のない限りこのような機關又は團體のいずれかにおける樞要な地位を占めたことがあるいかなる者も、好戰的國家主義及び侵略の積極的推進者であると一般に推定することができる。貴官は、又將來の財政金融活動を專ら平和的目的に向けない者を財政金融分野における重要な地位に留め又は選任することを阻止する。
41 貴官は、戰時生產の金融又は植民地若しくは日本の占領地域における財源の動員若しくは統制を最高の目的としていた銀行その他の金融機關を閉鎖し且つその再開を許さない。これらは、次のものを含む。
(い) 戰時金融金庫
(ろ) 全國金融統制會及びその會員である統制會
(は) 朝鮮銀行及び臺灣銀行の日本本土における營業所
(に) 日本本土外を活動舞臺としていた各種の銀行及び開發會社、例えば南洋興發會社、南方開發金庫並びに滿洲中央銀行、蒙彊銀行、中國聯合準備銀行及び中國中央儲備銀行の東京營業所等。貴官は、これらの銀行その他の機關のすべての帳簿及び記錄を保管する。
42 貴官は、貴官の軍事占領の目的達成に必要と考える財政金融措置を執る權限を與えられる。これは、得に次の措置を含むが、これに限るわけではない。
(い) 上記第41節に指示されているもの以外の銀行は、滿足すべき管理を行い、好ましくない人員を除き又ある種の勘定及び振替の封鎖、若しくは封鎖されるべき勘定の決定の計畫を實施するための措置を執るという目的のためか、又は他の軍事上の理由のために明らかに必要な場合にのみ閉鎖する。貴官は、上記第41節に述べられている以外のいずれの閉鎖された銀行をも前記目的の遂行と合致する限り速やかに再開しなければならない。
(ろ) 私的又は公的の證券又は不動產その他の財產の移轉その他の取引を禁止し又は制限する。
(は) 貴官の軍事占領の目的遂行に明らかに必要な限度においてのみ、一般的又は部分的支拂猶餘令を施行する。
(に) 株式取引所、保險會社及び類似の金融機關を貴官の適當と考える期間閉鎖する。
43 貴官は、次のものの支拂を禁止する。
(い) すべての軍人年金、その他の手當又は特典。
但し、受給者の勞働能力を制限する肉體的不具に對する補償は除くが、その率は、非軍事的な原因から生ずる同樣の肉體的不具に對するものの最低より高くてはならない。
(ろ) 次のものに授與されるすべての公的又は私的の年金その他の手當又は特典。
(1) 第日本政治會、大政翼賛會、大政翼賛政治會、それらの參加國體及び出先機關、又は後繼若しくは類似團體並びにすべての日本の超國家主義的結社、暴力的結社及び愛國的祕密結社、これらの出先機關及び參加團體の會員であるか又はこれらのために盡力した者。
(2) この指令の第5節又は第40節に從つて官職又は地位から罷免されたもの。
(3) この指令の第7節に從つて拘禁された者は、拘禁期間中又はその後有罪と決定した場合には永久に。
44 (い) 課稅又は他の財政金融の分野に關する法律、命令、規則又は慣行であつて國籍、人種、信條又は政見を理由にいずれかの者に對して有利又は不利な差別待遇を與えるものは、このような差別待遇を除去するのに必要な限度まで改正され、停止され又は廢止される。あらゆる種類の國家主義的、帝國主義的、軍國主義的又は反民主主義的結社のためのあらゆる種類の寄附金募集は、禁止される。
(ろ) 貴官は、日本の公的支出がこの指令の他の個所に述べられている目的と一致することを確實にする。
45 貴官は、下に列記されている種類に入るすべての金、銀、白金、通貨、證券、金融機關における勘定、クレディット、財產的價値ある書類その他すべての資產を押收し又は封鎖する。
(い) 次のもののいずれかによつて直接又は間接に、全部又は一部所有され又は支配されている財產。
(1) 日本の中央、都道府縣及び市町村政府又はこれらのもののいずれかの出先機關若しくは手先。このうちには、これらのもののいずれかの支配下にあるすべての公共事業、企業、公園又は獨占事業を含む。
(2) ドイツ、イタリー、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーの政府、國民又は住民。このうちには、かつてこれら諸國及び日本によつて占領されていた地域の政府、國民又は住民を含む。
(3) 日本皇室。
(4) 大日本政治會、大政翼賛會、大政翼賛政治會、これらの參加團體及び出先機關又は後繼若くは類似の團體並びに日本のすべての國家主義的結社、暴力的結社及び愛國的祕密結社、これらの出先機關、參加團體並びにこれらの役員、幹部、支持者。
(5) 國家神道。
(6) 貴官の禁止し又は解散したすべての團體、クラブ又は他の協會。
(7) 連合國及び中立國の政府を含む日本以外の國籍を有する不在所有者及び日本國外にある日本人。
(8) 本州、北海道、九州、四國及び日本に殘されるすべての小諸島を除き、1894年以後いずれかの時期に日本の支配下にあつた地域にあるいずれかの者又は會社。
(9) 第7節の規定により拘禁されるべき者及び表にのせるか又は他の方法によつて軍政府が明示する他のすべての者。
(ろ) 日本のすべての外國爲替(公有及び私有)及び日本の內外にあるあらゆる種類の對外資產。
(は) 法律に從うと法律の形式に從うと稱する手續によるとその他の方法によるとを問わず、强迫による譲渡、沒收、はく奪又は略奪の不法行爲の對象となつた財產。
(に) 所有者のいかんを問わず、重要な文化的又は物質的價値を有する美術品。
貴官は、押收又は封鎖されたいずれの資產も、貴官に與えられることのある許可又は他の訓令によつて許されている通りに處理されることを確實にするような措置を執る。特に上記(い)(1)によつて封鎖される財產の場合には、貴官は、このような財產を監視の下に置きながら、この指令に從つて貴官又は認可を得た者によるその使用を許すような許可制度を採用することに着手する。上記(は)によつて封鎖される財產の場合には、貴官は、この指令の目的に從い、且つ軍國主義的その他の好ましくない勢力の隱ぺいを防止するのに適當な保障の下において迅速な返還のための措置を執る。
貴官は、貴官が上記(ろ)に述べられているすべての資產の完全な披露を得るのに必要と考えるような報吿を日本政府に要求する。
46 貴官は、日本の內外にある、すべての日本の外國爲替(公有及び私有)及びすべての種類の對外資產を探し出し、貴官によつて貴官の管理下に設けられる特別の機關の所有又は管理に歸せしめる。
47 輸出入から生ずるものを含むすべての外國爲替取引は、日本が潜在的戰爭能力を發展させるのを防止し、且つこの指令に述べられている他の目的を達成する目的をもつて管理される。これらの目的を遂行するために、貴官は、
(い) 規則又は許可によつて認められるものを除き金、銀、白金、外國爲替のすべての賣買及びあらゆる種類の外國爲替取引を禁止する。
(ろ) 輸出代金であるいかなる外國爲替も、この指令の目的達成に直接必要な輸入の支拂にあてるし、又合同參謀本部を通ずる本國政府の特別の承認なくしては外國爲替資產を他のいかなる用途に當てることをも認可しない。
(は) 次のものを含むすべての外國爲替取引に關し有効な管理を實施する。
(1) 日本國內の者と日本國外の者との間の財產に關する取引。
(2) 日本國內の者が日本國外の者に對し有する負債、又は將來支拂うべき負債に關連する取引。
(3) いかなる外國爲替資產又は他の形式の財產の日本國への輸入又は日本からの輸出に關連する取引。
(に) 貴官は、日本のすべての在外及び對外資產に關し本國政府に完全な報吿を提出する。
48 いかなる外國の者、機關又は政府による日本又は日本人に對するいかなるクレディットの供與も、貴官の勸吿に基き合同參謀本部を通じて本國政府により認可されない限り許されない。
49 貴官が日本銀行若しくはいかなる他の銀行にも又はいかなる公的若しくは私的機關にもクレディットを供與することは豫期されていない。貴官の見解において、このような行動が不可缺となる場合には、貴官は貴官の適當と考える緊急行動を執ることができるが、そのような場合には、貴官はその事實を合同參謀本部を通じて本國政府に報吿する。
50 貴官は、貴官の軍事占領の財政的運營を示すのに必要であるような經理と記錄を行い、合同參謀本部に對しその要求することのある情報を提供する。このうちには、貴官の軍隊による通貨の使用、政府勘定によるすべての決濟、占領費及び貴官の軍隊の參加を伴う作戰又は活動から生ずる他の經費に關する情報を含む。