データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 井口・ダレス・シーボルト会談,十二月十二日 井口次官、ダレス大使、シーボルト大使会談要録(井口貞夫外務事務次官、ジョン・フォスター・ダレス米国務長官顧問、ウィリアム・ジョセフ・シーボルド駐日政治顧問 会談)

[場所] 
[年月日] 1951年12月12日
[出典] 日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 調印・発行,外務省編纂,外務省発行,外務省,平成21年1月30日発行,347頁.
[備考] 昭和26年12月12日,極秘
[全文] 

井口・ダレス・シーボルト会談

十二月十二日 井口次官、ダレス大使、シーボルト大使会談要録

井口次官

 十二月十二日午前十一時半井口次官、シーボルト大使の求めにより司令部を往訪、同席のダレス大使から、全然非公式の話として総理にお伝え願いたいと前提して、要旨左のとおりの内話があつた。

 「対日平和条約の上院提案は、多分一月中旬になるはずであるが、これには、国民政府承認の問題が最も重要な関係をもつてくるものと思う。御承知のように、上院の批准は、三分の二の多数を必要とするから、多数共和党議員の賛同者を獲得しなければならないのであるが、かれらの中には、国府支持者が相当多い。今回同伴したスミス上院議員のごときは、むしろ穏健派に属する方であつて、熱烈な国府支持者は、日本が米国の国府援助政策に同調することを強く期待しておる次第である。自分としては、日本との早期和平をとなえ、長期にわたる占領継続を主張する軍その他の説得に成功し、その他英国等における日本の経済制限論、賠償問題、琉球、小笠原における主権問題、最後の捕虜条項挿入問題等について、できるだけ日本側の要請を入れ、内外の反対派を説得して桑港調印にまでもつて来たのであるが、国府承認については、総理の御考慮を願いたい。国民政府は、国連諸機関に入つており、從つて日本の国連参加に対してヴィトーをもつておる。少なくとも台湾、澎湖島において、現実にコントロールをもつておるa govermment であるというこの現実の事態を認めて、これと友好関係に入るため、バイラテラルなアグリーメントをすることを、日本側において考慮願えないものであろうか。これは、何も国民政府を、中国全体を支配する the Govermmentとして承認することを意味するものでなくて、 de facto basis においての a govermment として国民政府と友好関係に入ることになるわけである。この点については、イギリス側とも話し合つたこともあるし、チャーチルの組閣後は、中国問題に対するイギリス側の態度についても、多少変つてくるという風にも考えられ、昨日(十一日)デニング大使とも話をして見たが、シーリアス・オブジェクションはないと思う。国府の勢力の及ばない地域の問題は、今後の情勢に待つということになるわけで、もし中国本土に於て日本に友好的な政府ができれば、これと話し合いをするということも可能なわけだし、中共地域との貿易についても、国連の決議に反しない限り、もちろん続けて行けるわけである。

 もし右様の案に日本側の御賛同をえることができれば、条約批准問題の促進に非常に役立つと思うし、今後の日米間の色々の問題、たとえば行政協定、琉球問題、経済協力の問題等によい影響を与えるものと思う。」

 これに対して、井口次官から「早速総理にお話し申上げることにしたいが、自分の考えを申上げれば、原則的には、さして異論があるようにも思われない。結局フォーミュラの問題に落着くのではないかと考えられるが、ダレス大使においても案があれば、それもお伺いできたら、話を促進することに役立つと思う。」と述べた。